説明

炭化硼素質焼結体およびその製法ならびに防護部材

【課題】靱性を向上できる炭化硼素質焼結体およびその製法ならびに防護部材を提供する。
【解決手段】炭化硼素を主成分とし、炭化珪素およびグラファイトを含む炭化硼素質焼結体であって、前記炭化硼素からなる主結晶粒子1の粒界に、針状の炭化珪素5が存在するとともに、任意の断面における針状の炭化珪素5が500〜5000個/mm存在するため、針状の炭化珪素5のアンカー効果により炭化硼素からなる主結晶粒子1同士を連結し、靱性を向上でき、仮に、クラックが発生したとしても、針状の炭化珪素5でクラックの進展を抑制することができ、これにより、防護部材の破損を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化硼素質焼結体およびその製法ならびに防護部材に関し、特に、銃弾や砲弾等の飛翔体の貫通を防止して人体、車両、船舶、航空機を保護するための防護具に用いられる防護部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭化硼素質焼結体は、軽量で、高い機械的特性を有する材料として知られている。この高い機械的特性を活用し、炭化硼素質焼結体は、例えば、銃弾や砲弾に対する防護部材として使用されている。最近の国際情勢より、防護部材の需要は増加の一途を辿っており、その防護部材も軽量化の要求とともに、高硬度が要求される。
【0003】
このように、高硬度を有する炭化硼素質焼結体として、例えば、炭化硼素粉末と、炭化珪素粉末とを含有する成形体をホットプレスして焼成し、相対密度がほぼ100%の炭化硼素質焼結体が得られている。しかしながら、ホットプレスでは、複雑形状の防護部材を製造するのが製法上困難であり、また、焼結体を所望の形状に研削加工するのに製造コストが高いという問題があった。そこで、近年では、より安価で製造しやすい常圧焼成により、炭化硼素質焼結体を作製することが行われている。
【0004】
常圧焼成により炭化硼素質焼結体を作製する方法として、従来、炭化硼素、金属硼素、炭化珪素、金属シリコン、炭素源からなる混合物を任意の形状に成形し、不活性雰囲気にて1900〜2250℃の温度で常圧焼成し、相対密度96%以上に緻密化した炭化硼素質焼結体が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2000−154062号公報
【特許文献2】特開2001−122665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記常圧焼成して作製される炭化硼素質焼結体は安価で製造しやすいものの、靱性が未だ低いものであった。これにより、炭化硼素質焼結体におけるクラックが進展しやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、靱性を向上できる炭化硼素質焼結体およびその製法ならびに防護部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭化硼素質焼結体は、炭化硼素を主成分とし、炭化珪素およびグラファイトを含む炭化硼素質焼結体であって、前記炭化硼素からなる主結晶粒子の粒界に、針状の前記炭化珪素が存在するとともに、該針状の炭化珪素が任意の断面において500〜5000/mm存在することを特徴とする。
【0008】
このような炭化硼素質焼結体では、靱性が炭化硼素よりも高い炭化珪素が、炭化硼素からなる主結晶粒子の粒界に、針状として、500〜5000個/mm存在するため、針状の炭化珪素のアンカー効果により炭化硼素からなる主結晶粒子同士を連結し、靱性を向上でき、仮に、クラックが発生したとしても、針状の炭化珪素でクラックの進展を抑制することができる。針状の炭化珪素は、長さ10μm以上、アスペクト比3以上であることが望ましい。
【0009】
また、本発明の炭化硼素質焼結体は、前記炭化硼素の平均粒径が3〜15μmであることを特徴とする。このような炭化硼素質焼結体では、微粒の炭化硼素による粒界が多数存在し、この多数の粒界に針状の炭化珪素が存在することにより、靱性をさらに向上できる。
【0010】
さらに、本発明の炭化硼素質焼結体の製法は、炭化硼素粉末、グラファイト粉末、金属シリコン粉末を含有する混合粉末を用いて成形体を作製し、該成形体を常圧焼成する炭化硼素質焼結体の製法であって、前記金属シリコン粉末の平均粒径が1μm以下であり、前記金属シリコン粉末の添加量が、前記炭化硼素粉末100質量部に対して3質量部以上であり、さらに、前記焼成温度が2210〜2250℃であることを特徴とする。
【0011】
このような炭化硼素質焼結体の製法では、焼成温度が2210〜2250℃と低いため、微粒の炭化硼素となり、その粒界が多数形成されるとともに、平均粒径が1μm以下と微粉の金属シリコン粉末を用い、その添加量も多いため、炭化硼素の粒界に多数の針状の炭化珪素が存在する組織を容易に作製できる。
【0012】
本発明の防護部材は、上記炭化硼素質焼結体からなることを特徴とする。このような防護部材では、炭化硼素質焼結体の靱性が大きいため、破損を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭化硼素質焼結体では、針状の炭化珪素のアンカー効果により炭化硼素からなる主結晶粒子同士を連結し、靱性を向上でき、仮に、クラックが発生したとしても、針状の炭化珪素でクラックの進展を抑制することができ、これにより、防護部材の破損を抑制することができる。
【0014】
また、本発明の炭化硼素質焼結体の製法では、炭化硼素の粒界に多数の針状の炭化珪素が存在する組織を容易に作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る炭化硼素質焼結体について説明する。本発明に係る炭化硼素質焼結体は、炭化硼素を主成分とし、炭化珪素およびグラファイトを含む炭化硼素質焼結体であって、図1に示すように、炭化硼素からなる主結晶粒子1の粒界に、針状の炭化珪素5が存在している。尚、図1は、1000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0016】
炭化硼素質焼結体に炭化珪素が存在するかは、CuKα線を用いたX線回折法で同定でき、含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法を用いたSi成分の定量により測定することができる。
【0017】
ここで、主結晶粒子1の粒界とは主結晶粒子1の3重点をいい、3つ以上の主結晶粒子1で囲まれた空間をいう。
【0018】
また、主結晶粒子1の粒界には炭化珪素が存在している。粒界に炭化珪素が存在するか否かは、例えば、本発明の炭化硼素質焼結体断面の表面または研磨面を、X線マイクロアナライザーによるSiとカーボンの元素マッピングおよび二次電子像の観察により確認できる。
【0019】
そして、本発明の炭化硼素質焼結体では、炭化硼素からなる主結晶粒子1の粒界に、針状の炭化珪素5が存在している。この針状の炭化珪素5は、ランダムな方向に延びており、その長さが3μm以上、アスペクト比が3〜20とされている。靱性を向上するという点からは、長さが10μm以上であることが望ましく、アスペクト比が5〜15であることが望ましい。
【0020】
針状の炭化珪素5は、靱性を向上するという点から、焼結体のある断面において、500〜5000個/mm存在している。特には、靱性を向上するという点から、焼結体のある断面において、1000〜3000個/mm存在していることが望ましい。
【0021】
炭化硼素からなる主結晶粒子の粒界には、針状の炭化珪素5ではない、定まった形のない炭化珪素10も存在している。
【0022】
本発明の炭化硼素質焼結体では、高い靱性を確保するという点から、炭化珪素が焼結体全量中4.5質量%以上存在している。尚、本発明では、金属Siは存在していない。この点で、多孔質の炭化硼素成形体に溶融Siを含浸させて焼結させた(反応焼結させた)炭化硼素質焼結体とは全く相違する。
【0023】
本発明の炭化硼素質焼結体では少量の気孔を含有しており、相対密度98%以上であることが望ましい。焼結体の密度は、JIS R 2205に準拠してアルキメデス法により求めることができる。相対密度は、焼結体の密度を理論密度で割ることにより求めることができる。炭化硼素焼結体の理論密度は製造条件により少々異なるが、約2.52〜2.56g/cmである。
【0024】
また、炭化硼素からなる主結晶粒子1の平均粒径は3〜15μmとされている。これにより、小径粒子が多くなるため強度を大きくすることができるとともに、このような微粒な炭化硼素粒子の多数の粒界に針状の炭化珪素が多数存在することになるため、靱性をも向上できる。特に、強度を向上するという観点から、主結晶粒子1の平均粒径は5〜12μmであることが望ましく、相対密度は98〜99.5%であることが望ましい。主結晶粒子1の平均粒径については、インターセプト法により求めることができる。
【0025】
このような炭化硼素質焼結体は、銃弾や砲弾等の飛翔体の貫通を防止するので、人体、車両、船舶、航空機を保護するための防護具として好適に用いることができる。防護具以外にセラミック工具ダイス、切削工具、精密工具パーツ、摺動部材、ノズル、半導体製造装置や一般産機、熱伝変換材料、中性子吸収材などについても適用することができる。本発明では、ホットプレスを用いない常圧焼成を用いることができるため、形状が複雑な部材についても容易に作製することができる。
【0026】
本発明の炭化硼素質焼結体の組織について詳細に説明する。本発明の炭化硼素質焼結体では、グラファイトおよび炭化珪素を含んでおり、気孔を有している。気孔を有する点で、気孔を有しない、相対密度がほぼ100%のホットプレスで作製した炭化硼素質焼結体とは異なる。
【0027】
主成分である炭化硼素は、軽量でありながら、高い硬度を有するものである。添加されるグラファイトおよび後述するように成形体中に含有するSiは、炭化硼素質焼結体の焼成工程において焼結助剤として作用し、焼成中にそれぞれが溶解して液相を生成する。またさらに固相焼結の機構により炭化硼素の緻密化を促進する。
【0028】
また、炭化珪素は、主結晶粒子1の粒界に析出する。その結果、高い靱性を有する炭化硼素質焼結体を得ることができる。
【0029】
ここで、炭化硼素が主成分であることは、蛍光X線分析法による定量分析にて確認することができ、焼結体中に占める炭化硼素の含有量が50質量%以上であることによって確認することができる。炭化硼素の含有量は、特には90質量%以上であることが望ましい。
【0030】
添加されるグラファイトは、その含有量が炭化硼素粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0031】
炭化硼素は化学式ではBCと表されるが、一般的に硼素原子と炭素原子のモル比B/Cが化学式の4.0より大きくなる性質がある。つまり、炭素が硼素に対して不足している状態となるため、常圧焼成を行っても緻密化が促進し難い。そこで、グラファイトを上記含有量とすることで、モル比B/Cを4.0に近づけることが可能となり、常圧焼成においても緻密化が促進される。
【0032】
なお、炭化硼素質焼結体中の炭化珪素の含有量は、ICP発光分析法を用いて測定することができる。
【0033】
次に本発明の炭化硼素質焼結体の製法について説明する。
【0034】
本発明の炭化硼素質焼結体の製法として、炭化硼素粉末にグラファイト粉末、金属シリコン(Si)粉末を添加、調合して原料を得る調合工程、前記原料を含む成形材料を成形して成形体を得る成形工程、前記成形体を真空中あるいは不活性雰囲気中で焼成する焼成工程とを具備するもので、各工程について以下、詳細に説明する。
【0035】
第1に、炭化硼素にグラファイト、金属シリコンを添加、調合して原料を得る調合工程について説明する。
【0036】
例えば、平均粒径(D50)が0.5〜2μmである炭化硼素粉末を準備する。この炭化硼素粉末は、BとCのモル比(B/C比)が化学量論比4の粉末すなわちBCの組成からなる粒子で構成される粉末の他に、次のような粉末を用いることができる。すなわち、炭化硼素(BC)は、BとCに対して広い固溶領域を有しているため、市販の炭化硼素粉末にはBとCのモル比(B/C比)が化学量論比4の粉末だけでなく、B/C比が3.5以上4未満、またはB/C比が4よりも大きく10以下の範囲の粉末、例えばB13等の混入した粉末や、フリーカーボン、硼酸(B(OH))、無水硼酸(B)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)などが混入した粉末も存在しており、このような炭化硼素粉末であってもよい。炭化硼素粉末は、平均粒径0.5〜2μmの微細な粉末であることが望ましい。
【0037】
この炭化硼素粉末に対して、グラファイト粉末、金属シリコン粉末を添加する。グラファイト粉末は炭化硼素粉末100質量部に対し、1〜10質量部を添加すればよい。
【0038】
炭化硼素質焼結体に含まれるグラファイトは(002)面からの半値幅が狭く結晶性の高いグラファイトを用いるのが好ましく、このようなグラファイト粉末として、例えば高配向熱分解グラファイト(HOPG)粉末を用いればよい。
【0039】
金属シリコン粉末としては、平均粒径1μm以下の粉末を用いる。特には、金属シリコン粉末と、金属シリコン粉末が炭化珪素となるために必要な炭素、フリーカーボン、グラファイト粉末等のC源との反応性を高める理由と、固体である金属シリコン粉末が溶解する際にできる空隙サイズを極力小さくするとの理由から0.3〜0.8μmの金属シリコン粉末を用いることが望ましい。金属シリコン粉末としては、炭化硼素粉末100質量部に対し、3質量部以上、特には、針状の炭化珪素を増加させ、靱性を高めるという点から、5質量部以上、さらには6〜7質量部添加することが望ましい。添加された金属シリコン粉末は、炭化硼素の炭素、フリーカーボン、グラファイト粉末の少なくともいずれかのCと反応することで炭化珪素ができる。
【0040】
また、靱性向上のためには、元素周期律表第4族、5族、6族より選ばれる金属元素の硼化物や、元素周期律表第3属から選ばれる金属元素の酸化物のうち少なくともいずれか1種を添加してもよい。好ましくは硼化ジルコニウム(ZrB)、硼化チタン(TiB)、硼化クロム(CrB)の硼化物や酸化イットリウム(Y)の酸化物である。軽量化という観点からは、元素周期律表第3〜6族については添加しないことが望ましい。
【0041】
さらに、焼結助剤として、グラファイト粉末や上記酸化物以外に焼結を促進させるために、炭化珪素粉末を添加してもよい。ただし、炭化珪素粉末の添加は、焼結助剤として作用するだけであって、本発明における金属シリコン粉末の添加と同様な作用がない。すなわち、金属シリコン粉末を添加することなく、炭化珪素粉末を添加した場合には、本発明に記載したような、炭化硼素からなる主結晶粒子の粒界における針状の炭化珪素の存在は認められない。
【0042】
そして、準備した炭化硼素粉末、グラファイト粉末、金属シリコン粉末、さらにその他の焼結助剤を回転ミル、振動ミル、ビーズミル等のミルに投入し、水、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)のうち少なくともいずれか1種とともに湿式混合し、スラリーを作製する。粉砕用メディアは、表面にイミド樹脂を被覆したメディア、窒化硼素質、炭化珪素質、窒化珪素質、ジルコニア質、アルミナ質等の各種焼結体からなるメディアを使用することができるが、不純物として混入の影響の少ない材質である窒化硼素質焼結体からなるメディア、または表面にイミド樹脂を被覆したメディアが好ましい。また、得られるスラリーの粘度を下げる目的で粉砕前に分散剤を添加してもよい。
【0043】
次いで、得られたスラリーを乾燥して乾燥粉体を作製する。この乾燥の前に、スラリーを目開きが#200よりも小さいメッシュに通して粗大な不純物やゴミを除去し、さらに磁力を用いた除鉄機で除鉄するなどの方法で、鉄およびその化合物を除去することが好ましい。また、スラリーにパラフィンワックスやポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、アクリル系樹脂などの有機バインダーをスラリー中の粉末100質量部に対して1〜10質量部添加、混合することが、後述する成形の際に、成形体のクラックや割れ等の発生を抑制できるので好ましい。スラリーの乾燥方法としては、スラリーを容器に入れて加熱、乾燥させてもよいし、スプレードライヤーで乾燥させても良く、または他の方法で乾燥させても何ら問題ない。
【0044】
第2に、得られた原料粉末を含む成形材料を成形して成形体を得る成形工程として、得られた乾燥粉体を周知の成形方法、例えば成形型を用いた粉末加圧成形法、静水圧を利用した等方加圧成形法を用いて、相対密度45%以上70%以下の所望の形状とする。
【0045】
なお、成形体が有機バインダーを含む場合には、500℃以上900℃以下の温度で、窒素ガス雰囲気下にて有機バインダーを脱脂する。
【0046】
第3に、前記得られた成形体を焼成する焼成工程として、得られた成形体を焼成炉を用いて焼成する。黒鉛性の抵抗発熱体により加熱する焼成炉を用い、この焼成炉中に成形体を収容する。好ましくは、成形体全体を囲うことのできる黒鉛製の焼成用容器中に載置する。これは、焼成炉内の雰囲気中等から成形体に付着する可能性のある異物(例えば黒鉛製発熱体や炭素製断熱材から飛散する炭素片や、焼成炉中に組み込まれている他の無機材質製の断熱材の小片等)の付着を防止するためであり、さらには成形体からの揮発成分の飛散を防止するためである。焼成用容器の材質は黒鉛質のものが望ましく、炭化珪素質焼結体またはこれらの複合物からなり、さらには成形体全体を焼成用容器で囲うことが好ましい。
【0047】
次いで、焼成用容器内に載置した成形体を焼成炉内に配置し、アルゴンガス中またはHeガス中のいずれか、もしくは真空中で2210〜2250℃のピーク温度で、1〜3時間の保持時間で焼成することが望ましい。なお、2000℃以上で保持する場合には炭化硼素、添加物成分の分解が生じるので、アルゴンガスまたはHeガス中で保持することが望ましい。本発明では、焼成温度が低いため、炭化硼素と反応せず、炭化珪素が針状に成長し、炭化珪素を針状とすることができる。
【0048】
即ち、本願発明では、1μm以下の微細な金属シリコン粉末を多く添加し、低い焼成温度で短時間焼成することにより、焼結体が微粒の炭化硼素粒子で構成され、小さい多数の粒界が存在し、その粒界の一部に針状の炭化珪素が存在することになる。これにより、複数の炭化硼素粒子を連結するように針状の炭化珪素が存在し、しかも炭化珪素が炭化硼素よりも靱性が高いことも起因し、炭化硼素質焼結体の靱性を向上することができる。
【0049】
主に金属シリコン粉末の粒径、添加量を制御することにより、針状の炭化珪素の一定面積における存在量を制御でき、主に焼成温度、保持時間を制御することにより、針状の炭化珪素の長さ、アスペクト比、炭化硼素からなる主結晶粒子の粒径、粒界の大きさ、数を制御できる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0051】
炭化硼素粉末としてFeを0.2質量%含有するD50=0.65μm、D90=1.40μmの粉末(D90/D50=2.2)100質量部と、平均粒径0.05μmのグラファイト粉末、表1の平均粒径を有する金属シリコン粉末を表1に示す量だけ秤量し、窒化硼素質焼結体からなる粉砕用メディアと共に回転ミルに投入してアセトン中で12時間混合し、スラリーを作製した。得られたスラリーを目開き#200のナイロン製メッシュに通して粗大なゴミ等を除去後、120℃で乾燥後、目開き#40のナイロン製メッシュで整粒して、原料粉末を作製した。
【0052】
得られた原料粉末を金型を用いた粉末加圧成形法を用いて、相対密度58%になるように成形し、直径6mm、高さ15mmの円柱状成形体を作製し、成形体に含まれる有機成分を600℃で窒素ガスをフローしながら脱脂した。
【0053】
次に、黒鉛製の抵抗発熱体により加熱する焼成炉を用い、容積6リットルの黒鉛製の焼成用容器内に脱脂後の成形体を載置し、1400℃からピーク温度までの昇温速度を10℃/分として昇温し、2000℃未満まで真空雰囲気、2200℃以上を110kPaのアルゴンガス雰囲気とし、表1のピーク温度で表1に示す時間保持して焼成した後、自然冷却し、外径5mm、高さ12.5mmの円柱形状の試料をそれぞれ作製した。
【0054】
得られた試料からサンプルを切り出して、断面をX線マイクロアナライザーによるSiとカーボンの元素マッピングおよび二次電子像の観察により観察した結果、炭化硼素からなる主結晶粒子の粒界に炭化珪素が存在していた。
【0055】
また、SEM写真(500倍)について0.144mmの範囲で観察し、アスペクト比2以上の針状の炭化珪素の数を算出し、その数を1mm当たりに換算し、表2に記載した。また、アスペクト比2以上の針状の炭化珪素の長さと、アスペクト比を求め、平均値を表2に記載した。さらに、インターセプト法により炭化硼素の平均粒径を求め、表2に記載した。
【0056】
さらに、X線回折法、ICP発光分析法によるサンプル中の炭化珪素の同定および定量、アルキメデス法による気孔率の測定、相対密度の算出、ならびにJIS R 1610に定められたビッカース硬さにより荷重9.807Nで測定を行い、JIS R 1607に従って靱性(K1c)を求め、表2に記載した。
【0057】
さらに、添加するグラファイト量、金属シリコンの平均粒径、添加量、ピーク温度、保持時間を制御することにより、焼結体中の針状の炭化珪素含有量、長さ、アスペクト比、炭化硼素の平均粒径を変化させ、上記と同様に評価し、表1、2に記載した。
【0058】
さらに、比較例の試料として、ピーク温度を2290℃とし、上記と同様にして炭化硼素質焼結体を作製し、上記と同様に評価し、表1、2の試料No.18に比較例として記載した。
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1、2から、本発明の炭化硼素質焼結体では、針状の炭化珪素が500〜5000個/mm存在する場合には、ビッカース硬度が29GPa以上と大きく、靱性が2.9MPa・m1/2以上で、相対密度が98%以上であることがわかる。
【0061】
一方、金属シリコン粉末の平均粒径が1.5μmの試料No.15では、針状の炭化珪素の割合が少なく、靱性が低いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の炭化硼素質焼結体のSEM写真である。
【符号の説明】
【0063】
1:主結晶粒子
5:針状の炭化珪素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化硼素を主成分とし、炭化珪素およびグラファイトを含む炭化硼素質焼結体であって、前記炭化硼素からなる主結晶粒子の粒界に、針状の前記炭化珪素が存在するとともに、該針状の炭化珪素が任意の断面において500〜5000個/mm存在することを特徴とする炭化硼素質焼結体。
【請求項2】
前記炭化硼素の平均粒径が3〜15μmであることを特徴とする請求項1記載の炭化硼素質焼結体。
【請求項3】
炭化硼素粉末、グラファイト粉末、金属シリコン粉末を含有する混合粉末を用いて成形体を作製し、該成形体を常圧焼成する炭化硼素質焼結体の製法であって、前記金属シリコン粉末の平均粒径が1μm以下であり、前記金属シリコン粉末の添加量が、前記炭化硼素粉末100質量部に対して3質量部以上であり、焼成温度が2210〜2250℃であることを特徴とする炭化硼素質焼結体の製法。
【請求項4】
請求項1または2記載の炭化硼素質焼結体からなることを特徴とする防護部材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−297135(P2008−297135A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141790(P2007−141790)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】