説明

炭成型体の製造方法

【課題】粉落ちが少なく、吸着能力にも優れる小型の炭成型体の製造方法を提供する。
【解決手段】炭とバインダーとを少なくとも含んでなる、炭成型体を製造する方法であって、バインダーの濃度が1.25〜6質量%である、バインダーと水との混合物を準備し、前記混合物に、炭を、前記炭と前記バインダーとが質量比において1:0.5〜1:2の範囲となるように加えて混練して、成型用組成物を調製し、前記成型用組成物を、型に流し混んで100〜400℃の温度且つ70〜500kg/cmの条件にて加熱・加圧を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉落ち等がなく且つ吸着性に優れた、小型の炭成型体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭等の炭は、微細な孔からなる多孔質構造を有しているため表面積が非常に大きく、液体や気体との接触面積が大きいため、物理的吸着剤として優れた材料であることが知られている。とりわけ、炭から製造される活性炭は、有機材料の再利用にも繋がるため環境負荷の少ない材料として注目されており、炭を原料とした活性炭は、脱臭剤や、水道や生活廃水の浄水処理、さらには調湿剤として、各種産業界で広く使用されている。
【0003】
上記のような用途に使用される炭は、通常、粉末や顆粒の状態で使用されることが多く、使用環境によっては取扱性が問題とされる場合がある。このため、粉末状の炭とバインダー樹脂とを混合して固形化して所定形状に成形することが種々提案されている。例えば、活性炭の粉末と熱可塑性樹脂と結着剤とを水を加えて混練し、所定形状としたものを焼成して形成することが提案されている(特開平8−141589号公報)。しかしながら、熱可塑性樹脂等を混合した活性炭成型物では、活性炭の微細な孔が成型時に熱可塑性樹脂で塞がれてしまい、活性炭の吸着能力が低下する場合があった。また、石油由来である熱可塑性樹脂の種類によっては、アトピー性皮膚炎等の障害を引き起こす場合もあった。
【0004】
また、特開2006−142274号公報には、タルク等の無機バインダーを使用した、粉落ちの少ない活性炭成型物が提案されている。この成型物は、熱可塑性樹脂等のバインダーを使用しないため、活性炭の微細孔を塞ぐことがなく、またこの成形物自体の粉落ちもないものではあるが、ストランド状の形態であるため、タブレット形状等の小型成型物に加工する際に、やはり粉落ちが発生するといった問題がある。
【0005】
また、熱可塑性樹脂等を用いずに、天然由来のバインダーを用いて活性炭成型物を製造することも提案されている。例えば、特開2001−170952号公報には、粉状の木炭とグルコマンナン粉とを水を加えて混練し、所定の型に流し込んで、ホットプレス機で加圧成型してボード状の成型物を製造することが提案されている。しかしながら、ボード状の成型物をホットプレスにより加圧して固化させるには、長時間の加圧時間を要するという欠点があった。また、ボード状のものを、所望の形状、例えばペレット状の小型のものに加工する際の粉落ちの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−141589号公報
【特許文献2】特開2006−142274号公報
【特許文献3】特開2001−170952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、今般、炭とバインダーと水とを混練し、加熱加圧して炭成型体を成形する際に、バインダーの濃度およびバインダーと炭との配合割合と、加熱温度および圧力との間に、最適な成形条件があることを見出し、バインダー濃度および炭とバインダーとの配合割合が特定の範囲において、特定の温度及び圧力でホットプレスすることにより、粉落ちが少なく、吸着能力にも優れる小型の炭成型体が得られる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、粉落ちが少なく、吸着能力にも優れる小型の炭成型体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による炭成型体の製造方法は、炭とバインダーとを少なくとも含んでなる、炭成型体を製造する方法であって、
バインダーの濃度が1.25〜6質量%である、バインダーと水との混合物を準備し、
前記混合物に、炭を、前記炭と前記バインダーとが質量比において1:0.5〜1:2の範囲となるように加えて混練して、成型用組成物を調製し、
前記成型用組成物を、型に流し混んで100〜400℃の温度且つ70〜500kg/cmの条件にて加熱・加圧を行う、
ことを含んでなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の態様においては、前記バインダー濃度が、1.25〜2質量%であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の態様においては、前記炭と前記バインダーとの混合割合が、1:1〜1:2であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の態様においては、前記加圧条件が、140〜285kg/cmであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の態様においては、前記バインダーが、グルコマンナン、リグニン、アルギン酸、アラビアゴム、デキストリン、カードラン、パラミロン、キシラン、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム、およびβ−グルカンからなる群から選択される天然資源由来の有機物、ポリウレタンおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される化石燃料由来の有機物、または、ベントナイト、セピオライト、タルク、およびパリゴルスカイトからなる群から選択される天然資源由来の無機物、からなることが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様においては、直径が0.5〜10cm、厚みが0.1〜30mmのタブレット状に成型を行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様においては、前記成型を行った後、ヒバ油、ローズマリー油、桐油、ペパーミント抽出油、カラシ油、わさび抽出物、ニンニク抽出物、薄荷、ヒノキ精油、および木酢液からなる群より選択される少なくとも1種の機能性剤を、成型体に含浸させることが好ましい。
【0016】
また、本発明の態様においては、前記炭が、廃棄された衣服および産業廃棄物から作られたものであることが好ましい。
【0017】
本発明の別の態様においては、上記の方法により得られる炭成型体も提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明による炭成型体の製造方法においては、バインダーの濃度が1.25〜6質量%である、バインダーと水との混合物に、炭と前記バインダーとが質量比において1:0.5〜1:2の範囲となるように炭を加えて混練し、100〜400℃の温度且つ70〜500kg/cmの条件にて加熱・加圧を行うことにより、例えばタブレット形状等の小型のものであっても粉落ちの少ない炭形成体を得ることができる。また、上記のようにして得られた炭形成体は、吸着能に優れ、また、機能性剤を含浸させたものは、長時間の放出能力を有する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による炭成型体の製造方法は、まず、バインダーの濃度が1.25〜6質量%である、バインダーと水との混合物を準備し、続いて、前記混合物に、炭を、前記炭と前記バインダーとが質量比において1:0.5〜1:2の範囲となるように加えて混練して、成型用組成物を調製し、次いで、前記成型用組成物を、型に流し混んで100〜400℃の温度且つ70〜500kg/cmの条件にて加熱・加圧を行うことにより成型体を得るものである。
【0020】
バインダーと水との混合物を調製する際、バインダー濃度が1.25質量%未満であると、得られる成型物が脆くなり機械的強度が不十分であるとともに、成型物が割れやすく、粉落ちの原因となる。一方、バインダー濃度が6質量%を超えると、次に行う炭との混練が困難になるとともに、混練物がゴム状になるため成形性が悪化し、小型の成形体を得ることが困難となる。バインダー濃度は1.25〜2質量%であるあることがより好ましい。
【0021】
バインダーと水との混合物に炭を加えて混練する際、炭とバインダーとの混合割合は、質量比において1:0.5〜1:2の範囲とする。炭1に対してバインダーの配合量が1未満であると、炭どうしが固まらず成形体とならない。一方、炭1に対してバインダーの配合量が2を超えると、型に流し込む成型用組成物(混練物)の水分量が多すぎて所望の形に成形できない。炭とバインダーとの混合割合は質量比において1:1〜1:2の範囲であることが好ましい。
【0022】
次に、炭とバインダーと水との混練物を型に流し込んで、加熱・加圧を行い成型物とする。この際、加熱は100〜400℃の温度で行う。加熱温度が100℃未満であると、水の沸点よりも加熱温度が低いために成型時の加熱時間が大幅に長くなり、製造コストの上昇を招く。一方、加熱温度が400℃を超えると、バインダーが熱変性したり、炭との結着能力が低下する。
【0023】
成型時の加圧は70〜500kg/cmで行う。圧力が70kg/cmよりも小さいと成型体とならず、一方、500kg/cmよりも高いと炭成型体の吸着能力が低下するとともに、機能性剤等を含浸させる場合の担持能力が低下する。加圧圧力は140〜285kg/cmが好ましく、この範囲であれば、より粉落ちが少なく吸着能力に優れる形成物を得ることができる。
【0024】
上記した加熱・加圧は、一般に使用されている成型機、例えばホットプレス機等を用いて行うことができる。ホットプレス時間は、概ね15秒〜5分である。
【0025】
本発明の製造方法に使用される炭としては、特に限定されるものではなく、活性炭、木炭、竹炭だけでなく、衣服や産業廃棄物から作られる炭であってもよい。また、炭の形状も特に制限されるものではないが、粒子径が190nm〜2mm程度の顆粒状の形状であることが好ましい。なお、本明細書中、粒子径とは、光学顕微鏡での観察やレーザ回折式粒度分布測定装置による粒径測定により、個々の炭の長さ(直径)を測定した値を意味する。
【0026】
炭と混合するバインダーとしては、炭どうしを結着でき、かつ、成形後に、炭の吸着能力を低下させないもの、すなわち、炭の表面の微細孔を塞がないようなものを使用する。例えば、グルコマンナン、リグニン、アルギン酸、アラビアゴム、デキストリン、カードラン、パラミロン、キシラン、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム、β−グルカン等の天然資源由来の有機物、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等の化石燃料由来の有機物、または、ベントナイト、セピオライト、タルク、パリゴルスカイト等の天然資源由来の無機物などが挙げられる。これらの中でもグルコマンナンが好ましい。グルコマンナンは、水と混合されると膨潤し、その混合物に炭を加えることにより、炭が均一に混合物中に分散する。その分散体を加熱・加圧成形することにより、水分が蒸発し、網目状のグルコマンナンが形成されるとともに、そのグルコマンナン中にも炭が均一に分散した成形体となる。そのため、炭の吸着能力を低下させることがない。さらに、グルコマンナンと炭とは、炭中のカルシウム等のアルカリ元素が、グルコマンナンと反応して固化するため、粉落ちの少ない成型物が得られる。
【0027】
成型物の形状としては特に制限されるものではないが、本発明においては、比較的小型の成型物、例えば、0.5〜10cm、厚みが0.1〜30mm、より好ましくは、直径が3〜5cm、厚みが5〜20mmのタブレット状に成形を行うことが好ましい。本発明の製造方法によれば、このような小型の形状であっても粉落ちが少ないため、取扱性に優れる炭成型体とすることができる。
【0028】
上記のようにして得られる炭成形体には、さらに、ヒバ油、薄荷油、ヒノキ精油、木酢液、ユーカリ抽出物、アニス油、スペアミントオイル、ペニーロイヤルオイル、ケイヒオイル、イヌハッカ油、ヒソップオイル、ヤマウルシオイル、丁字抽出物、ゼラニウムオイル、ローズマリー油、桐油、ペパーミント抽出油、カラシ油、わさび抽出物、ニンニク抽出物、ベチバーオイル、スギ精油、シトロネラールオイル、 セロリオイル、ウイキョウオイル、オレンジ油、もみ酢、木タール、ケイヒ油,ヒソップオイル、セイロンケイヒ油、タイムレッド油、ヤマウルシオイル、ニームオイル、ヨモギエキス、月桃油、ラベンダーオイル等から選択される少なくとも1種の機能性剤を含浸させてもよい。これら機能性剤のなかでも、ヒバ油、薄荷油、ヒノキ精油、木酢液、ユーカリ抽出物、アニス油、スペアミントオイル、ペニーロイヤルオイル、ケイヒオイル、イヌハッカ油、ヒソップオイル、ヤマウルシオイル、丁字抽出物、ゼラニウムオイル等が好ましい。このような機能性剤を含浸させることにより、炭成型体は、吸着および/または調湿性能だけでなく、機能性剤を徐放させることができる。例えば、機能性剤としてヒバ油(ヒノキチオール)を成型物に含浸させておくことで、防虫、防カビ機能を有する炭成型体とすることができる。
【0029】
本発明の製造方法により得られた炭成型体の機能性剤の含浸量は、概ね0.4〜0.7g/cmである。
【実施例】
【0030】
下記の表1〜3の組成に従って、バインダーであるグルコマンナンと水との混合物に炭を添加し、混練したものを型に流し込み、200℃の温度で下記表1に示す圧力条件にて30秒ホットプレス加工を行うことにより、直径3.0cm×厚さ1.5cmのタブレット状の炭成型体を得た。
【0031】
得られた炭成型体を3リットルのバック内に入れてアンモニアを充填させて密封し、アンモニアの吸着率を測定した。吸着率は、ガス検知管(GASTEC)を用いて2時間後のアンモニア濃度を測定し、初期濃度(約200ppm)に対する吸着率として計算した。
【0032】
また、得られた炭成型体に、精油を滴下してその担持率を測定した。担持率(%)は、精油を満たしたトレイに炭成型体を1時間浸積し、その後、炭成型体を網の上に1時間静置した後の重量を測定し、操作前の成型体との重量の差(即ち、担持された精油の質量)を算出し、含浸前の炭成形体の質量に対する担持された精油の質量の割合(%)としたものである。吸着率および担持率の測定結果は下記の表1〜3に示される通りであった。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭とバインダーとを少なくとも含んでなる、炭成型体を製造する方法であって、
バインダーの濃度が1.25〜6質量%である、バインダーと水との混合物を準備し、
前記混合物に、炭を、前記炭と前記バインダーとが質量比において1:0.5〜1:2の範囲となるように加えて混練して、成型用組成物を調製し、
前記成型用組成物を、型に流し混んで100〜400℃の温度且つ70〜500kg/cmの条件にて加熱・加圧を行う、
ことを含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記バインダー濃度が、1.25〜2質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭と前記バインダーとの混合割合が、1:1〜1:2である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記加圧条件が、140〜285kg/cmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記バインダーが、グルコマンナン、リグニン、アルギン酸、アラビアゴム、デキストリン、カードラン、パラミロン、キシラン、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム、およびβ−グルカンからなる群から選択される天然資源由来の有機物、ポリウレタンおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される化石燃料由来の有機物、または、ベントナイト、セピオライト、タルク、およびパリゴルスカイトからなる群から選択される天然資源由来の無機物、からなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
直径が0.5〜10cm、厚みが0.1〜30mmのタブレット状に成形を行う、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記成形を行った後、ヒバ油、薄荷油、ヒノキ精油、木酢液、ユーカリ抽出物、アニス油、スペアミントオイル、ペニーロイヤルオイル、ケイヒオイル、イヌハッカ油、ヒソップオイル、ヤマウルシオイル、丁字抽出物、およびゼラニウムオイルからなる群より選択される少なくとも1種の機能性剤を、成型体に含浸させる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記炭が、廃棄された衣服および産業廃棄物から作られたものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法により製造された、炭成型体。

【公開番号】特開2012−120986(P2012−120986A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274374(P2010−274374)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(593111060)株式会社金星 (15)
【Fターム(参考)】