説明

炭素活量測定用プローブ

【課題】混合副電極を有する炭素活量測定用プローブにおいて、製作が容易で測定精度も良く、さらには空気中で保存しても品質劣化のない耐久性に優れた実用性のある炭素活量測定用プローブを提供せんとする。
【解決手段】炭酸マグネシウム(MgCO3)、又は炭酸マグネシウム及び酸化マグネシウム(MgO)の混合物からなる副電極23を、酸素イオン導電性を有する固体電解質管13の外表面に設けることにより、対極(作用極25)と対になる標準電極用素子(センサ素子3)を構成し、溶融金属中の炭素、酸素、および前記副電極を構成している炭酸マグネシウム又は混合物の間に局部平衡を成立させ、局部平衡層内の酸素活量を測定することによって溶融金属中の炭素の活量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属精錬工程における溶融金属中の炭素濃度、特に鉄鋼精錬工程における溶鉄中の炭素活量を迅速にかつ精密に測定するための炭素活量測定用プローブに係り、特に、使用前の長期保存によっても品質劣化のない耐久性に優れた実用性のある炭素活量測定用プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
金属精錬工程において、溶融金属中に含まれる炭素の含有量を測定する手法としては、溶融試料を汲み上げて冷却凝固させ固体試料を作り機器分析に供する方法や、溶融試料を汲み上げて固体となるまでの間を利用して熱電対による熱分析を行い、炭素濃度を決めるCD法があるが、機器分析は試料採取から分析結果を得るまでに多大の時間を要するという欠点があり、またCD法は、炭素以外の元素が共存するとその影響を受けること、炭素濃度が少ない場合には精度が悪くなることなどの欠点を有する。また、試料を汲み上げて凝固を待つので時間がかかることなども欠点である。
【0003】
これらの欠点を克服する方法として、従来から酸素センサを直接利用して炭素濃度を推定する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。この方法は溶鉄を凝固させないので溶鉄中の炭素濃度を迅速に測定できるが、精錬装置の個性の影響を受けるために装置1台ずつ異なったキャリブレーションが必要である。上記の欠点を克服するために、混合副電極を有する溶鉄中の炭素活量測定用プローブが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1は、金属の炭化物と酸化物を混合して混合副電極を構成しているが、炭化物は一般に硬いものであり、混合副電極を作成するために適正な粒度のものを得ることは困難であるためプローブの作成に困難がつきまとうことと、作成の困難さに起因する精度の若干の悪さがあるという欠点がある。
【0004】
この炭化物を用いた混合副電極を有するプローブの欠点を解決するべく、副電極構成物質に金属炭酸化物と該炭酸化物を構成する金属と同じ金属からなる金属酸化物との混合物を使用することが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、当該特許文献2で挙げられている金属炭酸化物や金属酸化物、とくに炭酸ナトリウムおよび酸化ナトリウムは、空気中で保存すると潮解あるいは風解を生ずる性質を持ち、これが作成されたプローブの長期保存を困難とする原因となっていて、実用上使用しにくいという欠点となっている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5393403号公報
【特許文献2】特開2005−43297号公報
【非特許文献1】製鋼第19委員会製鋼センサ小委員会編集,「製鋼用センサの新しい展開」,日本学術振興会,1989年,p.4・88−p.4・93
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、混合副電極を有する炭素活量測定用プローブにおいて、製作が容易で測定精度も良く、さらには空気中で保存しても品質劣化のない耐久性に優れた実用性のある炭素活量測定用プローブを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、溶融金属中の炭素活量を測定する炭素活量測定用プローブにおいて、炭酸マグネシウム、又は炭酸マグネシウム及び酸化マグネシウムの混合物からなる副電極を、酸素イオン導電性を有する固体電解質の外表面に設けることにより、対極と対になる標準電極用素子を構成し、溶融金属中の炭素、酸素、および前記副電極を構成している炭酸マグネシウム又は混合物の間に局部平衡を成立させ、局部平衡層内の酸素活量を測定することによって溶融金属中の炭素の活量を測定することを特徴とする炭素活量測定用プローブを構成した。
【0008】
ここで、前記混合物中の酸化マグネシウムの構成質量比(酸化マグネシウムの質量/(炭酸マグネシウムの質量+酸化マグネシウムの質量))は、0.9以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
以上にしてなる本願発明によれば、副電極を炭酸マグネシウム、又は炭酸マグネシウム及び酸化マグネシウムの混合物で構成したので、容易かつ安価に副電極を作製でき、測定精度にも優れているとともに、作製してから使用までの間、空気中で長期間保存しても、副電極の潮解や風解が起こることなく、品質劣化のない耐久性に優れた実用性のある炭素活量測定用プローブが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0011】
図1及び2は、本発明に係る炭素濃度測定用プローブの代表的実施形態を示し、図中符号1はプローブ、2は炭素センサ、3はセンサ素子をそれぞれ示している。
【0012】
本発明の炭素濃度測定用プローブ1は、図1に示すように、炭酸マグネシウム(MgCO3)と酸化マグネシウム(MgO)の混合物からなる副電極23を、酸素イオン導電性を有する固体電解質管13の外表面に設けることにより、対極(作用極25)と対になる標準電極用素子(センサ素子3)を構成し、溶融金属中の炭素、酸素、および前記副電極を構成している混合物の間に局部平衡を成立させ、局部平衡層内の酸素活量を測定することによって溶融金属中の炭素の活量を測定することを特徴とする。なお、以下の実施形態の説明においては、上記混合物により副電極23を構成した例について説明するが、副電極23を炭酸マグネシウム(MgCO3)のみから構成することもできる。炭酸マグネシウムは分解温度が600℃(岩波 理化学辞典 第4版 p761参照)で、本件の炭素濃度測定用プローブ1を使用する際の溶融金属温度は通常1200〜1700℃であることから、副電極23を炭酸マグネシウムのみから構成しても、測定時に分解してマグネシウム酸化物を生じ、上記混合物で構成したものと同じこととなる。プローブ1は公知の通り、後述するセンサ素子3などが紙管などに取付けられて構成されるものであるが、ここではプローブ1の基本構成を説明するので、紙管の図示を省略している。
【0013】
より詳しくは、センサ素子3は、一端(図において上側)が開口し、他端(下側)が閉鎖された中空の石英管からなるキャップ或いはカバー5を備えている。この石英キャップ5は、その軸方向所定の位置でその側壁に対向した状態で形成されている2個の円形の開口7、9と、下側閉端部に形成された1個の円形の開口11とを備えている。固体電解質管13は、公知の酸素センサを構成する例えばジルコニアなど酸素イオン導電性を備えた一端閉鎖型の管であり、該固体電解質管13の中には、標準電極15となる金属及びその金属の酸化物とからなる混合物が所定量充填され、標準電極15に標準極用リード線17の一端が挿入・接続されている。
【0014】
固体電解質管13は石英キャップ5の中に同心状に配置され、それぞれ高温用接着剤21によりハウジング19に固定されている。固体電解質管13の下端は石英キャップ5の開口7、9の下側縁部より下まで伸びており、標準電極15を構成する混合物は、その上面が開口7、9の上側縁部より上の位置となるだけの量が充填されている。高温用接着剤21の下面は開口7、9の下側縁部には達していない。石英キャップ5の中には、開口7、9の下側縁部の位置まで副電極23を構成する炭酸マグネシウムおよび酸化マグネシウムの混合物よりなる副電極物質が充填され、固体電解質管13の下側部分がその中に埋まっている状態となっており、石英キャップ5内の混合副電極23の上側には空所24が画成されている。
【0015】
作用極25は、作用極用リード線27に接続され、この作用極25、作用極用リード線、固体電解質管13、標準電極15、及び標準極用リード線17により従来からの酸素センサ12が構成されており、さらに石英キャップ5及び混合副電極23を備えることにより、センサ素子3と作用極25とからなる炭素センサ2が構成されている。そして、図2に示すようにこの炭素センサ2と熱電対31とを組合わせて炭素濃度測定用プローブ1が構成される。この炭素濃度測定用プローブ1を溶融金属中に投入し、酸素センサの起電力と熱電対の起電力を知ることにより、溶鋼中の炭素活量を知ることができるのである。
【0016】
すなわち、炭素プローブが溶鉄に浸漬されると、石英キャップ5の開口7、9から空所24内に溶鉄が入り込む。この空所24に入り込んだ溶鉄中の炭素と溶鉄中の酸素および副電極23との間に局部平衡が形成される。副電極を構成している炭酸マグネシウム(MgCO3)、酸化マグネシウム(MgO)、溶鉄中の炭素(C)、および溶鉄中の酸素(O)の間の局部平衡反応は(1)式で表され、その平衡定数K1は(2)式で表される。
MgCO3=MgO++2 ・・・(1)
1=(aMgO×aC×aO2)/aMgO3 ・・・(2)
【0017】
ここで、は溶鉄中の炭素を、は溶鉄中の酸素をそれぞれ意味し、aMgO、aC、aO、aMgO3はそれぞれMgO、、MgCO3の活量を示す。酸化物および炭酸化物に純物質を使用しているときには、それぞれの活量は1である。この場合に(2)式は、
C×aO=1/K1 ・・・(3)
となる。K1は温度が決まれば定数であるので、温度が一定の場合には炭素の活量と酸素の活量は1対1対応にある。したがって酸素の活量を知ることができれば、炭素の活量を知ることができる。
【0018】
溶鉄中の酸素と酸素センサで測定される酸素の間には次の平衡関係がある。
=O2 ・・・(4)
ここでは溶鉄中の酸素、O2は酸素センサで測定できる酸素である。(4)式の反応の平衡定数K4は(5)式で表される。
4=Po2/aO2 ・・・(5)
ここでPo2は酸素分圧である。
【0019】
溶鉄中の(作用極の)酸素分圧Po2(W)、基準極の酸素分圧Po2(R)、温度Tと酸素センサの起電力EMFとの間には、式(6)の関係がある。
EMF=RTln(Po2(W)/Po2(R)) ・・・(6)
(6)式において、Rは気体定数(R=8.3144J/(mol・K)、Fはファラデー定数(F=96500J/(V・mol)であり、Tはケルビン温度を、EMFはボルト単位を用いて測定する。よって、酸素センサでEMFを知り、熱電対で温度を知ることができれば、(6)式からPo2(W)を知ることができ、このPo2(W)を(5)式に代入すればaOを知ることができ、このaOを(3)式に代入すれば炭素の活量aCを知ることができる。換言すれば、炭素プローブのEMFと温度から炭素の活量aCを知ることができる。
【0020】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明に係る炭素活量測定用プローブの実施例について、炭素濃度の測定精度、および副電極物質の潮解あるいは風解の原因となる吸湿性について試験した結果を説明する。
【0022】
実施例の炭素活量測定用プローブは、以下の構成を有している。すなわち、溶鉄中に炭素プローブ1を投入して炭素濃度を測定する状態を示す縦断面を図2に示した。前述の如くセンサ素子3と対極25とで炭素センサ2が構成され、これと熱電対31とが図示しない紙管などに取付けられて炭素プローブ1が構成される。標準極用リード線17と対極用リード線27は電位差計35に接続され、熱電対31はリード線32を介して温度測定器33に接続される。
【0023】
石英キャップ5は以下のように製作した(図1参照)。即ち外径11mm、内径9mm、長さ35mmの一端を溶封した。そして溶封した下端部中央に直径2mmの開口11を開けた。さらに下端部から上方25mmの位置で側壁に直径5mmの開口7、9を径方向で向合うようにして設けた。
【0024】
標準電極15を内部に収受した固体電解質管13と石英キャップ5とをセラミック製のハウジング19に高温用接着剤21でそれぞれ固定した後、副電極23を構成する試薬のMgCO3と試薬のMgOを混合した粉末を石英キャップ5内へ、側壁部の開口7、9の下端縁部の高さまで充填した。石英キャップ5内で副電極23の上方に高さ5mmの空所24が画成された。この空所24内では固体電解質は剥き出しになっている。側壁の開口7、9から溶鉄が石英キャップ5内へ流入し、副電極23と混合し、前述の局部平衡が形成される。石英キャップ5内へ副電極23を一杯に充填するのではなく、副電極23の上方に空所24を画成しておくこと、またキャップ5の下端部に開口11を形成しておくことにより、溶鉄が流入しやすく、また流入した溶鉄が副電極23と接触し易くなり、局部平衡が形成されるまでの時間が早くなるという利点がある。すなわち短時間での測定が可能となる。
【0025】
このプローブを構成する主要な部材を以下に示す。
酸素センサ12を構成する固体電解質管5:8mol%のMgOで安定化されたZrO2の一端閉鎖管
酸素センサの標準極15:CrとCr23の混合粉末
対極(作用極25):直径3mmのMo棒
標準極と対極のリード線:直径0.29mmのMo線
副電極23:粉末試薬MgCO3と粉末試薬MgOを質量比1:xに混合した粉末であり、xの値は0から9の間で試みた。
熱電対31:Type−Rh
【0026】
(炭素濃度の測定精度)
炭素プローブを溶鉄中に投入し、プローブのEMFが安定した直後にサンプラーで溶鉄を採取し、これを化学分析して炭素濃度を求めた。1550℃の溶鉄中の炭素濃度の対数と炭素プローブで測定されたEMFの関係を図3に示した。図3を得たときの諸条件は、以下の通りである。
副電極構成物質の質量混合比:MgCO3:MgO=1:1
温度:1550℃
炭素濃度:0.001から1%の間
溶鉄を収容するるつぼ:多孔質アルミナ製
雰囲気:100%N2
図3より、分析値で得た炭素濃度の対数とEMFの関係は良い直線関係にあり、実用上問題ない十分な測定精度を備えていることが分かる。
【0027】
(副電極物質の吸湿性比較試験)
比較物質は、Na22,Na2CO3,MgO,MgCO3の各試薬である。Na22とNa2CO3は、従来のプローブにおいて組み合わせて一組の副電極物質を構成するものであり、MgOとMgCO3は、本発明のプローブにおいて組み合わせて一組の副電極物質を構成するものである。これら各試薬の粉末試料約1gを時計皿に平らになるように載せ、温度26℃、湿度70%の大気中に放置し、15分毎に質量を測定した。
【0028】
結果を図4に示す。横軸は分単位で表示した試験時間であり、縦軸は試料1gが吸湿したグラム単位の質量である。グラフにはNa22,Na2CO3,MgCO3の結果しか示していないが、MgOは試験時間120分では質量変化を生じなかったので、グラフへの記入を省略した。120分の結果を用いて特に吸湿の多いNa22を他の試料と比較すると、Na2CO3に対しては約50倍、MgCO3に対しては約92倍の吸湿力があることが分かる。またMgOに対しては数値的表示ができないほど大きいといえる。また、Na2CO3は、MgCO3に対して約1.8倍の吸湿力があることが分かる。この結果からも、吸湿性の小さいMgCO3やMgOよりなる本発明プローブの副電極は潮解あるいは風解が生じにくく、空気中で保存しても品質劣化が殆どないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の炭素プローブの構成を示す断面図。
【図2】炭素プローブを使用して炭素活量を測定する状態を示す断面図。
【図3】炭素プローブの起電力と溶鉄中炭素濃度との関係を示すグラフ。
【図4】吸湿性比較試験の結果を示すグラム。
【符号の説明】
【0030】
1 炭素活量測定用プローブ
2 炭素センサ
3 センサ素子
5 カバー
7、9、11 開口
12 酸素センサ
13 固体電解質
15 標準電極
17 リード線
19 ハウジング
23 混合副電極
24 空所
25 対極
27 リード線
31 熱電対
32 リード線
33 温度測定器
35 電位差計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属中の炭素活量を測定する炭素活量測定用プローブにおいて、
炭酸マグネシウム、又は炭酸マグネシウム及び酸化マグネシウムの混合物からなる副電極を、酸素イオン導電性を有する固体電解質の外表面に設けることにより、対極と対になる標準電極用素子を構成し、溶融金属中の炭素、酸素、および前記副電極を構成している炭酸マグネシウム又は混合物の間に局部平衡を成立させ、局部平衡層内の酸素活量を測定することによって溶融金属中の炭素の活量を測定することを特徴とする炭素活量測定用プローブ。
【請求項2】
前記混合物中の酸化マグネシウムの構成質量比を、0.9以下とした請求項1記載の炭素活量測定用プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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