説明

炭素繊維強化プラスチック構造体及び燃料タンク

【課題】燃料タンクを構成する炭素繊維強化プラスチック構造体に、燃料との摩擦によって生じた静電気を周囲へ拡散させるという2次的な機能を付加する手段を提供する。
【解決手段】本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体としてのスパー2は、炭素繊維プリプレグ6の表面6aに、炭素繊維の厚み方向への導通を制限し、炭素繊維の面方向への導通を確保する導通層8を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチックからなる炭素繊維強化プラスチック構造体、及びこれにより形成された燃料タンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機の燃料タンクは、航空機を構成する他の構造体と同様に、アルミ合金のような金属材料によって構成されるのが一般的であった。このように燃料タンクを構成する金属製の構造体は、燃料を収容する容器としての機能の他に、燃料との摩擦によって生じた静電気を周囲へ拡散させるという2次的な機能を有していた。
【0003】
しかし近年、航空機の軽量化や高強度化等の観点から、航空機の主要な構造体をいわゆる複合材、例えば炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」と略す)で構成することが進められている(例えば、特許文献1を参照)。この炭素繊維強化プラスチック構造体(以下、「CFRP構造体」と略す)は、炭素繊維に熱硬化性樹脂を染み込ませたシートを複数枚積層してなる炭素繊維プリプレグを加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させることによって各シートを一体化したものである。そして、このようなCFRP構造体は、炭素繊維プリプレグの加熱時に炭素繊維から染み出した熱硬化性樹脂によって、その表面にいわゆるレジン層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−193296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に航空機では翼内の空間を燃料タンクとして利用する構造が採用されているため、CFRP構造体を採用した航空機ではCFRP構造体で囲まれたスペースが燃料タンクとして利用される。
【0006】
しかし、燃料タンクを構成する従来のCFRP構造体は、炭素繊維自体は導電性を有するものの、その表面が導電性のないレジン層によって覆われているため、構造体全体としては導電性を有さない。従って、従来のCFRP構造体では、従来のアルミニウム合金を前提とする翼内燃料タンクが必然的に備えている導電性がないため、燃料との摩擦によって生じた静電気を周囲へ拡散させるという2次的な機能を持たせることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、燃料タンクを構成するCFRP構造体に、燃料との摩擦によって生じた静電気を周囲へ拡散させるという2次的な機能を付加する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体は、炭素繊維プリプレグの表面に、炭素繊維の厚み方向への導通を制限し、炭素繊維の面方向への導通を確保する導通層を設けたことを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、導通層によって炭素繊維の面方向への導通は確保されるものの、炭素繊維の厚み方向への導通が制限されるため、導通層と炭素繊維プリプレグとは電気的に接続されない。従って、導通層と炭素繊維プリプレグとがいわゆる金属電池を構成することによって導通層に腐食が生じるのを防止することができる。
【0010】
また、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体は、前記導通層は、金属層と、この金属層と炭素繊維との間を絶縁する絶縁層と、からなることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、金属層によって炭素繊維の面方向への導通は確保されるものの、絶縁層によって炭素繊維の厚み方向への導通が制限されるため、金属層と炭素繊維プリプレグとは電気的に接続されない。従って、金属層と炭素繊維プリプレグとが金属電池を構成することによって金属層に腐食が生じるのを防止することができる。
【0012】
また、本発明に係る燃料タンクは、前記炭素繊維強化プラスチック構造体を内面として形成されたことを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、燃料と導通層との摩擦によって発生した静電気は、導通層を炭素繊維の面方向へ導通することによって周囲へ拡散される。一方、この静電気は導通層を炭素繊維の厚み方向へは導通しないため、導通層と炭素繊維プリプレグとは電気的に接続されない。従って、導通層と炭素繊維プリプレグとが金属電池を構成することによって導電層に腐食が生じるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体によれば、燃料タンクを構成するCFRP構造体に、燃料との摩擦によって生じた静電気を周囲へ拡散させるという2次的な機能を付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る主翼の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料タンクを構成するスパーの一部を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の実施形態に係るCFRP構造体の構成について説明する。本実施形態では、CFRP構造体の一例として、航空機の主翼に設けられる燃料タンクの構成部材について説明する。
【0017】
図1は、主翼1の概略構成を示す分解斜視図である。主翼1は、その長手方向に沿って両側部を形成する一対のスパー2と、その上面及び下面を形成する一対のパネル3と、その内部に設けられる複数のリブ4と、を備えるものである。
【0018】
そして、このように構成される主翼1の内部には、燃料タンク5が形成されている。この燃料タンク5は、機体の構造物自体によって燃料を格納するための容器が形成されるいわゆるインテグラル・タンクであって、一対のスパー2と一対のパネル3と一対のリブ4とによって形成される容器の内部に不図示の燃料が充填される。
【0019】
一対のスパー2は、図1に示すように、主翼1の両側部のうち航空機前方側の側部を形成するフロントスパー21と、航空機後方側の側部を形成するリアスパー22と、を具備している。このように構成される一対のスパー2は、それぞれの開口部を互いに向かい合わせるようにして、所定間隔でそれぞれ配置される。尚、これらフロントスパー21及びリアスパー22は、共に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が成形されてなる部材である。
【0020】
一対のパネル3は、図1に示すように、主翼1の上面を形成する上面パネル31と、下面を構成する下面パネル32と、具備している。そして、上面パネル31は、湾曲した断面形状を有する板状の上面スキン31aと、この上面スキン31aの一方の面に設けられてその曲げ剛性を高める複数本のストリンガー31bとを有している。尚、これら上面スキン31a及びストリンガー31bは、共に炭素繊維強化プラスチックが成形されてなる部材である。同様に、下面パネル32は、下面スキン32aと複数本のストリンガー32bとを有しており、これらも共に炭素繊維強化プラスチックが成形されてなる部材である。
【0021】
複数のリブ4は、主翼1を構造的に補強するためのものである。このリブ4は、図1に示すように主翼1の長手方向に所定間隔で設けられ、各リブ4の一端はフロントスパー21に他端はリアスパー22にそれぞれ接続されている。これにより、フロントスパー21とリアスパー22は一定間隔で保持されている。尚、これらリブ4は、全て金属製の部材である。
【0022】
ここで、図2は、本実施形態に係る燃料タンク5を構成するスパー2の一部を示す概略断面図である。尚、図2に向かって上側が燃料タンク5の内部を、下側が燃料タンク5の外部をそれぞれ示している。
【0023】
スパー2は、図2に示すように、層状の炭素繊維プリプレグ6と、この炭素繊維プリプレグ6の表面6aに形成されたレジン層7と、このレジン層7の内部に埋め込んで設けられた導通層8と、を有している。
【0024】
炭素繊維プリプレグ6は、基準電位点としての役割を果たすものである。この炭素繊維プリプレグ6は、図2に示すように、熱硬化性樹脂(不図示)を炭素繊維に染み込ませてなるシート61を複数枚積層し、加熱して熱硬化性樹脂を硬化させることによって各シート61を一体化したものである。ここで、炭素繊維からなるこの炭素繊維プリプレグ6は導電性を有している。
【0025】
レジン層7は、熱硬化性樹脂の硬化時に炭素繊維から染み出した熱硬化性樹脂が炭素繊維プリプレグ6の表面6aに積層したものである。レジン層7は、図2に示すように、炭素繊維プリプレグ6の表面6aを覆うようにして薄く形成されている。ここで、熱硬化性樹脂からなるこのレジン層7は、導電性を有さない絶縁体である。
【0026】
導通層8は、一定の方向にのみ電気の導通を確保するためのものである。この導通層8は、図2に示すように、レジン層7の内部において燃料タンク5の内部側に位置する金属層81と、同じくレジン層7の内部において燃料タンク5の外部側に位置する絶縁層82と、を有している。
【0027】
金属層81は、銅やアルミニウム等の金属からなるメッシュ状のシートであって、導電性を有している。この金属層81は、図2に示すように、所定幅の隙間を介して炭素繊維プリプレグ6の表面6aを覆うようにして設けられている。また、図2に詳細は示さないが、この金属層81は基準電位点に対して電気的に接続されている。尚、金属層81を構成する素材はアルミニウムに限定されず、導電性を有する任意の素材を用いることができる。また、金属層81は本実施形態のメッシュ状に限られず、箔状や線状に形成してもよい。
【0028】
絶縁層82は、ガラス繊維等からなるシート状の部材であって、導電性を有さない絶縁体である。この絶縁層82は、図2に示すように、所定幅の隙間を介して金属層81のタンク外部側に位置するように設けられている。これにより、この絶縁層82を挟んでタンク内部側に位置する金属層81とタンク外部側に位置する炭素繊維プリプレグ6とが電気的に隔絶された状態となっている。尚、本実施形態では絶縁層82を金属層81から所定距離だけ離して設けたが、これに限られず絶縁層82を金属層81に密着させて設けてもよい。また、絶縁層82を構成する素材はガラス繊維に限定されず、絶縁性を有する任意の素材を用いることができる。
【0029】
このように構成される導通層8によれば、スパー2の内部では金属層81の存在によって炭素繊維プリプレグ6の面方向には電気の導通が確保されるが、絶縁層82の存在によって炭素繊維プリプレグ6の厚み方向には電気の導通が制限される。
【0030】
次に、本実施形態に係るスパー2によって構成される燃料タンク5の作用効果について説明する。燃料タンク5の内部では、充填された燃料とスパー2の内側面との摩擦によって静電気が発生する。しかしこの静電気は、CFRP構造体の表面に形成された肉薄のレジン層7を通ってその内部に埋め込まれた金属層81へ流れ、金属層81に沿って炭素繊維プリプレグ6の面方向すなわちその表面6aに沿った方向に導通することにより、周囲に拡散される。これにより、燃料との摩擦によってレジン層が帯電し、この静電気を原因とする火花によって燃料が引火することを未然に防止することができる。
【0031】
一方、炭素繊維プリプレグ6の厚み方向への導通が絶縁層82によって制限されるため、金属層81を面方向に導通する静電気は、金属層81から炭素繊維プリプレグ6へは流れない。従って、金属層81と炭素繊維プリプレグ6とが電気的に接続され、金属層81と炭素繊維プリプレグ6とがこれらの間の電位差によりいわゆる金属電池を構成することによって金属層81が腐食するのを未然に防止することができる。
【0032】
尚、以上説明した本実施形態では、CFRP構造体の一例として燃料タンク5を形成するスパー2について説明したが、CFRP構造体は燃料タンク5を構成するその他の部材、例えば図1に示す上面パネル31を構成する上面スキン31a及びストリンガー31bや、下面パネル32を構成する下面スキン32a及びストリンガー32b等であってもよい。
【0033】
また、本実施形態では、燃料タンク5がインテグラル・タンクである場合を例に説明したが、これに限られず、一対のスパー2と一対のパネル3と一対のリブ4とによって包囲される空間の内部にCFRP構造体からなる燃料タンク5を収容してもよい。
【0034】
更に、本実施形態では、航空機の燃料タンク5として主翼1に設けられる燃料タンク5を例に説明したが、主翼1以外の位置に設けられる燃料タンク5であってもよい。
【0035】
また、本実施形態では、航空機の燃料タンク5を例に説明したが、これに限られず他の輸送手段、例えば不図示の自動車やバイクや船の燃料タンクに適用することも可能である。
【0036】
また、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 主翼
2 スパー
21 フロントスパー
22 リアスパー
3 パネル
31 上面パネル
31a 上面スキン
31b ストリンガー
32 下面パネル
32a 下面スキン
32b ストリンガー
4 リブ
5 燃料タンク
6 炭素繊維プリプレグ
61 シート
6a 表面
7 レジン層
8 導通層
81 金属層
82 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維プリプレグの表面に、炭素繊維の厚み方向への導通を制限し、炭素繊維の面方向への導通を確保する導通層を設けたことを特徴とする炭素繊維強化プラスチック構造体。
【請求項2】
前記導通層は、金属層と、この金属層と炭素繊維との間を絶縁する絶縁層と、からなることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭素繊維強化プラスチック構造体を内面として形成されたことを特徴とする燃料タンク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187808(P2012−187808A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53128(P2011−53128)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】