説明

炭素繊維製造用アクリル繊維

【課題】 アクリル繊維から炭素繊維を製造する際に、耐炎化工程で耐炎化繊維相互の膠着を防止し、走行中耐炎化繊維の集束性が良好で、更に炭素化工程での焼成炉内汚染物質の発生を防止できる炭素繊維製造用アクリル繊維を提供する。
【解決手段】 繊維径が5〜20μmのアクリル繊維の質量に対して、水分が20〜60質量%付着されてなり、且つ、アクリル繊維に対して、カルシウム成分(A)が5〜50質量ppm、ナトリウム成分(B)が0〜50質量ppm、マグネシウム成分(C)が0〜50質量ppm、(A)+(B)+(C)が5〜100質量ppm、アミノシリコーンが0.02〜2.0質量%の範囲で付着されてなる炭素繊維製造用アクリル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維製造用アクリロニトリル繊維(アクリル繊維)に関する。更に詳述すれば、本発明は、耐炎化工程では耐炎化繊維相互の融着(膠着)を防止しつつ繊維を集束させ、炭素化工程では焼成炉内汚染物質の発生の少ない炭素繊維製造用アクリル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維製造用にアクリル繊維を使用し、耐炎化処理及び炭素化処理を経て高性能炭素繊維が得られることは広く知られており、工業的に実施されている。
【0003】
特に近年は、炭素繊維の用途はスポーツ・レジャー用品用途から航空宇宙分野、特に航空機の一次構造材にまで用途展開している。さらに、炭素繊維の高い比強度、比弾性の特性を生かして製品の軽量化を図ることにより省エネルギー化を図り、これにより排出CO2 の削減に寄与すべく各産業界が注目し、研究している。これに伴い、高性能、低コスト、更に取扱性に優れる高品質な性能の炭素繊維が要求されている。このような、高性能炭素繊維の製造において、原料繊維であるアクリル繊維の特性は目的物である炭素繊維の性能に直接影響する。従って、高性能・低コストで且つ取扱性の改善がなされた炭素繊維用アクリル繊維の開発が望まれている。
【0004】
一般にアクリル繊維から炭素繊維を製造する場合、通常200〜300℃の酸化性ガス雰囲気中で、いわゆる耐炎化処理を行い、次いで、350℃以上の不活性ガス雰囲気中で炭素化処理又は黒鉛化処理を行う。この場合200〜300℃における耐炎化処理時に、ストランド(数百本乃至数万本の単繊維からなる繊維束)を構成する単繊維相互の膠着が発生し易く、この発生を防止することが製造上重要である。
【0005】
このため、各種のシリコン系油剤(処理剤)を付与する方法(例えば、特許文献1、2参照)が提案されており、特に、アミノシリコーン系油剤を付与する方法は周知である。しかしながらアミノシリコーン系油剤を用いる場合、耐炎化時の膠着発生の防止には効果があるが、耐炎化工程後の炭素化工程において、焼成炉内に、処理剤の分解による酸化珪素や窒化珪素等の汚染物質が生成し、堆積する。このため、焼成炉内の清掃を頻繁に行う必要があり、生産性を著しく低下させている。
【0006】
上記問題を解決するため、従来、潤滑剤としてシリコーンを含有しない処理剤の使用が提案されている。例えば、潤滑剤として、
(1) ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステルと、アミド化合物のアルキレンオキサイド付加物との混合物を含有するもの(例えば、特許文献3参照)、
(2) 二塩基酸とオキシアルキレン単位を有するポリオールの縮合物と脂肪族アルカノールアミドとを反応させて得られる末端にアミド基を有する化合物と、アミド化合物のアルキレンオキサイド付加物との混合物を含有するもの(例えば、特許文献4参照)
がある。ところが、これらの処理剤は、炭素化工程において焼成炉内汚染物質を発生しないが、炭素化工程前の耐炎化工程において、耐炎化繊維相互の融着を充分に阻止できないという欠点がある。
【特許文献1】特公昭52−24136号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭61−167024号公報 (第3頁左上欄第9行〜右上欄第6行)
【特許文献3】特開平9−78340号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平9−78341号公報 (特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は上記問題を解消するため検討を重ねた結果、アクリル繊維に対して付着せしめる、水分量、カルシウム成分量、ナトリウム成分量、マグネシウム成分量、アミノシリコーン量を適正化することによって、耐炎化工程での膠着防止と集束性の向上、並びに炭素化炉内における汚染物質の発生を阻止し、炭素化炉の閉塞を遅延しうることを見出し本発明に至った。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来の処理剤での問題、即ちアクリル繊維から炭素繊維を製造する際、耐炎化工程で耐炎化繊維相互が融着する問題と、走行中耐炎化繊維の集束性が不良となる問題の両者を解消でき、更に炭素化工程で焼成炉内汚染物質が発生する問題を同時に且つ充分に解消できる炭素繊維製造用アクリル繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載のものである。
【0010】
〔1〕 繊維径が5〜20μmのアクリル繊維を複数本束ねたアクリル繊維ストランドに、前記アクリル繊維ストランドの質量に対して、下記成分(1)〜(5)[但し、成分(A)+(B)+(C)の合計は5〜100質量ppmである]、
(1) 水を20〜60質量%、
(2) カルシウム成分(A)をカルシウム元素として5〜50質量ppm、
(3) ナトリウム成分(B)をナトリウム元素として0〜50質量ppm、
(4) マグネシウム成分(C)をマグネシウム元素として0〜50質量ppm、
(5) アミノシリコーンを0.02〜2.0質量%、
付着させてなる炭素繊維製造用アクリル繊維。
【0011】
〔2〕 アクリル繊維ストランドが、アクリル繊維を1000〜50000本束ねてなる〔1〕に記載の炭素繊維製造用アクリル繊維。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維は、繊維径が5〜20μmのアクリル繊維の質量に対して、水分が20〜60質量%付着されているので、耐炎化工程までの繊維の集束性を高めることができる。その結果、耐炎化工程前及び耐炎化工程通過時に発生する繊維の切断や繊維のローラーへの巻付き等が減少し、走行安定性が向上し、生産性の向上によるコストダウンにつながる。
【0013】
且つ、アクリル繊維に対して、カルシウム成分(A)が5〜50質量ppm及び/又はナトリウム成分(B)が50質量ppm以下及び/又はマグネシウム成分(C)が50質量ppm以下であり、(A)+(B)+(C)が5〜100質量ppmの範囲で付着されてなるので、十分な繊維の集束性を高め、膠着を防止する。
【0014】
上記水分、カルシウム成分等が付着されてなるアクリル繊維は、更にアミノシリコーンを、アクリル繊維の質量に対して0.02〜2.0質量%付着せしめており、水分、カルシウム成分等を付着せずにアミノシリコーンのみを付着した場合に問題となる炭素化工程での焼成炉内汚染物質の発生も低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の特徴は、アクリル繊維を複数本束ねたアクリル繊維ストランドに、前記アクリル繊維ストランドに対して、水分、カルシウム成分、ナトリウム成分、マグネシウム成分、アミノシリコーンを上記所定範囲で付着させるところにある。本発明において、アクリル繊維とは、アクリロニトリルのホモポリマー又はコモノマーを少量共重合させたコポリマーを紡糸して製造した繊維である。コモノマーとしては、通常知られているアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びこれらの塩類などを0.1〜9.0質量%共重合したコポリマーが好ましい。
【0017】
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維は、水分、カルシウム成分、ナトリウム成分、マグネシウム成分を付着させることにより、耐炎化工程に至るまでは、水分が集束剤として働き、炭素繊維製造用アクリル繊維がローラー等との接触による損傷を低減する。耐炎化炉においては、水分はすぐに蒸発してなくなるが、残ったカルシウム、ナトリウム及び/又はマグネシウム成分が繊維表面に点在して、適度な繊維の集束性と膠着防止効果を発現する。
【0018】
アクリル繊維の質量に対して付着させる水分は、20〜60質量%、好ましくは23〜55質量%の範囲である。水分が20質量%未満の場合、十分な集束効果が得られず、耐炎化工程に至るまでの、ローラー等との接触による損傷を十分に防ぐことができない。水分が60質量%を超えるときは、十分な集束性は得られるが、炭素繊維の強度が低下する。
【0019】
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維は、カルシウム成分(A)が5〜50質量ppm、及び/又は、ナトリウム成分(B)が50質量ppm以下、及び/又は、マグネシウム成分(C)が50質量ppm以下の範囲で、アクリル繊維に対して付着されてなる。
【0020】
カルシウム成分(A)の付着量が5質量ppm未満の場合は、繊維表面に点在する量が少なすぎるため、十分な集束効性と膠着防止効果が得られない。他方、カルシウム成分(A)、ナトリウム成分(B)又はマグネシウム成分(C)の付着量が50質量ppmを超える場合は、十分な集束性は得られるが、炭素繊維の強度が低下する。
【0021】
付着させる成分は、カルシウム成分(A)、ナトリウム成分(B)、マグネシウム成分(C)の内、1成分だけでも、2成分の組合せでも、3成分全てでも良い。また、本発明においては、(A)+(B)+(C)が5〜100質量ppm、好ましくは10〜60質量ppmの範囲である。(A)+(B)+(C)が5質量ppm未満の場合は、繊維表面に点在する各成分量が少なすぎるため、十分な集束効性と膠着防止効果が得られない。逆に100質量ppmを超えると、十分な集束性は得られるが、炭素繊維の強度が低下する。
【0022】
なお、通常の紡糸方法により製造したアクリル繊維中のカルシウム成分は1〜4質量ppm、ナトリウム成分は1〜2質量ppm、マグネシウム成分は1〜2質量ppmが一般的である。
【0023】
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維は、アミノシリコーンを付着させてなる。その付着量は、アクリル繊維の質量に対し0.02〜2.0質量%であり、好ましくは0.15〜1.0質量%である。このアミノシリコーンとしては、炭素繊維製造用アクリル繊維の集束剤(処理剤)として広く知られているものが好ましい。特に、下記構造式(一般式1)に示されるものが、耐炎化の際の膠着防止効果が高い。
【0024】
【化1】

【0025】
m及びnは、それぞれ1〜100000の数、m+nは10以上の数、R1及びR2はそれぞれ同一又は異なる炭素数1〜10のアルキレン基又はアリーレン基である。
【0026】
アミノシリコーンの繊維に対する付着量が0.02質量部より少ない場合は、耐炎化工程での膠着防止や集束作用が不足する。一方、2.0質量部を超える付着量であると炭素化炉の閉塞が早くなり、炭素化炉内の清掃を頻繁に行う必要があり、生産性が低下する。
【0027】
本発明のアクリル繊維にアミノシリコーンを付着させる際、アミノシリコーンの25℃における粘度は500〜5000cSt(センチストークス)が好ましい。特に1000〜3000センチストークスであることが好ましい。粘度が500センチストークス未満の場合、耐熱性が低く、耐炎化炉で飛散するため、単糸間の融着を防止できないことがある。一方、粘度が5000センチストークスを超える場合、水中での分散が難しいので、後述するエマルジョン形態の処理剤の製造が難しくなり、或は溶解性の優れた溶媒を見つけることが難しくなり、その結果アクリル繊維単糸の表面に処理剤を均一に付与することが困難となる。
【0028】
また、アミノシリコーン成分は、撥水性であるため、アクリル繊維をスチーム延伸する場合、繊維の水分率が不均一になり、延伸処理が不均一になるなどの不都合が起き易い。このため、吸湿剤を加えてもよい。吸湿剤としては、ジアルキルスルフォサクシネート、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテルやアルキルアミンオキサイド等が挙げられる。吸湿剤の配合比は、前記アミノシリコーンの質量を基準として10〜60質量%が好ましく、更に好ましくは30〜50質量%である。
【0029】
水、カルシウム成分、ナトリウム成分、マグネシウム成分、アミノシリコーンを付着せしめるアクリル繊維ストランドは、アクリル繊維を1000〜50000本束ねてなるものが好ましい。
【0030】
処理剤をアクリル繊維に付与する際は、湿式紡糸したゲル状のアクリル繊維又は紡糸原液を一旦気体中に吐出後凝固浴中に導入して浴中延伸したゲル状のアクリル繊維に処理剤を付与せしめる。この後、乾燥、延伸処理し、炭素繊維前駆体繊維を得る。通常の処理剤付与方法は、処理剤のエマルジョンに該ゲル状繊維を浸漬せしめる方法等を例示できる。
【0031】
本発明のアクリル系繊維を用いて炭素繊維を製造する方法は、通常採用されている方法が採用できる。即ち、空気中200〜300℃で耐炎化した後、不活性ガス中300〜2000℃で炭素化し、必要により表面処理を施した後、サイジング剤を付与し、該炭素繊維を得る。得られた炭素繊維は、良好な物性及び良好な取扱性を示し、本発明の目的を満足しうる製造が可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。炭素繊維製造用アクリル繊維、耐炎化繊維、及び炭素繊維を、以下の実施例及び比較例の条件により作製した。尚、炭素繊維製造用アクリル繊維、耐炎化繊維及び炭素繊維の諸物性値、並びに、実施例中の付着処理剤量、耐炎化糸の集束性、炭素化工程でのSi化合物発生量を、次の方法により測定した。
【0033】
(1) アミノシリコーン付着量
エタノールとベンゼンの混合液により炭素繊維製造用アクリロニトリル繊維より処理剤を抽出した後、混合液を留去し、得られた固形分を秤量した。
【0034】
(2) カルシウム、ナトリウム、マグネシウムの付着量
乾燥した炭素繊維製造用アクリロニトリル繊維を、超音波振動をかけながら、蒸留水で抽出し、抽出した成分をIPC質量分析法(JIS K0102)法で定量化した。
【0035】
(3) 耐炎化糸の集束性
空気中250℃で炭素繊維製造用アクリロニトリル繊維ストランド(単繊維12,000本)を耐炎化せしめた後、該ストランドを10cmに切断し、手でストランドを開繊させてその時の触感にて判断した。集束性の評価は下記評価
×:集束性が全く無く、簡単に開繊する状態
△:若干の集束性がある状態 (×と○の中間の状態)
〇:繊維が集束し、力を加えないと開繊しない状態
で判断した。
【0036】
(4) 炭素繊維の強度
JIS R−7601に準じてエポキシ樹脂含浸ストランドの強度を測定し、測定回数4回の平均値で示した。
【0037】
(5) 膠着数
各種フィラメントストランド、即ち耐炎化繊維ストランド又は炭素繊維ストランドを3mmの長さに切断し、アセトン10mlの入った100mlビーカーに投入し、超音波振動を10秒間以上付与し、光学顕微鏡にて20倍の倍率で観察することにより、融着箇所をカウントし膠着数とした。
【0038】
(6) 炭素化炉内のSi化合物発生量
炭素化炉内で生成したSi化合物を収集し、アクリル繊維1トン当たりに発生するSi化合物量を計算し、これを発生量とした。
【0039】
[実施例1、3及び比較例2]
アクリロニトリル97質量%、アクリル酸メチル3質量%を共重合させて、平均分子量78000のポリアクリロニトリルを得た。このポリアクリロニトリルを60質量%の塩化亜鉛系水溶液に溶解して、ポリアクリロニトリル濃度8質量%の紡糸原液を調製した。この紡糸原液を孔数12000個のノズルを使用して、10℃、25質量%の塩化亜鉛系水溶液中に吐出して凝固糸を得た。該凝固糸を15〜95℃の温水中で洗浄しながら、合計3.2倍の多段延伸を行い、水分率170質量%の水膨潤アクリル系繊維ストランドを得た。
【0040】
脂肪族リン酸エステル4g/L濃度の水溶液とアミノシリコーン(25℃での粘度:1000cSt、アミノ当量2000)2g/Lの乳化物を混合した処理浴を調製した。この処理剤浴に、前述の水膨潤アクリル系繊維ストランドを浸漬して、ディップ−ニップ式で塗布した。
【0041】
次いで70〜150℃のサクションドラム乾燥機を用いて水分率が1質量%以下になるまで乾燥緻密化した。その後、80℃の熱水浴を通過させた後、0.07MPaの飽和水蒸気中4.5倍の再延伸を行い、ケンス内に振込み、1dtex(0.9デニール)、12000本のアクリル繊維ストランドを得た。このアクリル繊維ストランド中のカルシウムは2質量ppm、ナトリウムは1質量ppm、マグネシウムは1質量ppmであった。
【0042】
次に、蒸留水に、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム(関東化学株式会社製)を溶解させ処理水を作製し、アクリル繊維を、この処理水中にディップ−ニップ式で通過させて炭素繊維製造用アクリル繊維を得た。カルシウムとナトリウムとマグネシウム付着量の分析結果、及び、水分量を表1に示す。また、得られたアクリル繊維のアミノシリコーン付着量は、すべてアクリル繊維100質量部に対して0.15質量部であった。
【0043】
その後、このアクリル繊維を、常法により240〜270℃の範囲内の温度勾配を有する熱風循環式耐炎化炉で40分間連続的に耐炎化処理した。次いで、窒素気流中300〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で5分間処理して、炭素繊維とした。得られた結果を表1及び表2に示す。
【0044】
[実施例2]
脂肪族リン酸エステル4g/L濃度の水溶液とアミノシリコーン(25℃での粘度:1000cSt、アミノ当量2000)4g/Lの乳化物を混合した処理浴を調製した。この処理剤浴に、前述の実施例1、3及び比較例2で作製した水膨潤アクリル系繊維ストランドを浸漬して、ディップ−ニップ式で塗布した。
【0045】
次いで70〜150℃のサクションドラム乾燥機を用いて水分率が1質量%以下になるまで乾燥緻密化した。その後、80℃の熱水浴を通過させた後、0.07MPaの飽和水蒸気中4.5倍の再延伸を行い、ケンス内に振込み、1dtex(0.9デニール)、12000本のアクリル繊維ストランドを得た。このアクリル繊維ストランド中のカルシウムは2質量ppm、ナトリウムは1質量ppm、マグネシウムは1質量ppmであった。
【0046】
次に、蒸留水に、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム(関東化学株式会社製)を溶解させ処理水を作製し、アクリル繊維を、この処理水中にディップ−ニップ式で通過させて炭素繊維製造用アクリル繊維を得た。カルシウムとナトリウムとマグネシウム付着量の分析結果、及び、水分量を表1に示す。また、得られたアクリル繊維のアミノシリコーン付着量は、すべてアクリル繊維100質量部に対して1.15質量部であった。
【0047】
その後、このアクリル繊維を、常法により240〜270℃の範囲内の温度勾配を有する熱風循環式耐炎化炉で40分間連続的に耐炎化処理した。次いで、窒素気流中300〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で5分間処理して、炭素繊維とした。得られた結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
脂肪族リン酸エステル4g/L濃度の水溶液とアミノシリコーン(25℃での粘度:1000cSt、アミノ当量2000)1g/Lの乳化物を混合した処理浴を調製した。この処理剤浴に、前述の実施例1、3及び比較例2で作製した水膨潤アクリル系繊維ストランドを浸漬して、ディップ−ニップ式で塗布した。
【0049】
次いで70〜150℃のサクションドラム乾燥機を用いて水分率が1質量%以下になるまで乾燥緻密化した。その後、80℃の熱水浴を通過させた後、0.07MPaの飽和水蒸気中4.5倍の再延伸を行い、ケンス内に振込み、1dtex(0.9デニール)、12000本のアクリル繊維ストランドを得た。このアクリル繊維ストランド中のカルシウムは2質量ppm、ナトリウムは1質量ppm、マグネシウムは1質量ppmであり、アクリル繊維のアミノシリコーン付着量は、アクリル繊維100質量部に対して0.08質量部であった。
【0050】
その後、このアクリル繊維を、常法により240〜270℃の範囲内の温度勾配を有する熱風循環式耐炎化炉で40分間連続的に耐炎化処理した。次いで、窒素気流中300〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で5分間処理して、炭素繊維とした。得られた結果を表2に示す。
【0051】
[比較例3]
脂肪族リン酸エステル4g/L濃度の水溶液とアミノシリコーン(25℃での粘度:1000cSt、アミノ当量2000)8g/Lの乳化物を混合した処理浴を調製した。この処理剤浴に、前述の実施例1、3及び比較例2で作製した水膨潤アクリル系繊維ストランドを浸漬して、ディップ−ニップ式で塗布した。
【0052】
次いで70〜150℃のサクションドラム乾燥機を用いて水分率が1質量%以下になるまで乾燥緻密化した。その後、80℃の熱水浴を通過させた後、0.07MPaの飽和水蒸気中4.5倍の再延伸を行い、ケンス内に振込み、1dtex(0.9デニール)、12000本のアクリル繊維ストランドを得た。このアクリル繊維ストランド中のカルシウムは2質量ppm、ナトリウムは1質量ppm、マグネシウムは1質量ppmであり、アクリル繊維のアミノシリコーン付着量は、アクリル繊維100質量部に対して0.60質量部であった。
【0053】
その後、このアクリル繊維を、常法により240〜270℃の範囲内の温度勾配を有する熱風循環式耐炎化炉で40分間連続的に耐炎化処理した。次いで、窒素気流中300〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で5分間処理して、炭素繊維とした。得られた結果を表2に示す。
【0054】
[比較例4]
脂肪族リン酸エステル8g/L濃度の処理浴に、前述の実施例1、3及び比較例2で作製した水膨潤アクリル系繊維ストランドを浸漬して、ディップ−ニップ式で塗布した。
【0055】
次いで70〜150℃のサクションドラム乾燥機を用いて水分率が1質量%以下になるまで乾燥緻密化した。その後、80℃の熱水浴を通過させた後、0.07MPaの飽和水蒸気中4.5倍の再延伸を行い、ケンス内に振込み、1dtex(0.9デニール)、12000本のアクリル繊維ストランドを得た。このアクリル繊維ストランド中のカルシウムは2質量ppm、ナトリウムは1質量ppm、マグネシウムは1質量ppmであった。
【0056】
次に、蒸留水に、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム(関東化学株式会社製)を溶解させ処理水を作製し、アクリル繊維を、この処理水中にディップ−ニップ式で通過させて炭素繊維製造用アクリル繊維を得た。カルシウムとナトリウムとマグネシウム付着量の分析結果、及び、水分量を表2に示す。また、得られたアクリル繊維のアミノシリコーン付着量は、すべてアクリル繊維100質量部に対して0質量部であった。
【0057】
その後、このアクリル繊維を、常法により240〜270℃の範囲内の温度勾配を有する熱風循環式耐炎化炉で40分間連続的に耐炎化処理した。次いで、窒素気流中300〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で5分間処理して、炭素繊維とした。得られた結果を表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が5〜20μmのアクリル繊維を複数本束ねたアクリル繊維ストランドに、前記アクリル繊維ストランドの質量に対して、下記成分(1)〜(5)[但し、成分(A)+(B)+(C)の合計は5〜100質量ppmである]、
(1) 水を20〜60質量%、
(2) カルシウム成分(A)をカルシウム元素として5〜50質量ppm、
(3) ナトリウム成分(B)をナトリウム元素として0〜50質量ppm、
(4) マグネシウム成分(C)をマグネシウム元素として0〜50質量ppm、
(5) アミノシリコーンを0.02〜2.0質量%、
付着させてなる炭素繊維製造用アクリル繊維。
【請求項2】
アクリル繊維ストランドが、アクリル繊維を1000〜50000本束ねてなる請求項1に記載の炭素繊維製造用アクリル繊維。

【公開番号】特開2008−297674(P2008−297674A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146946(P2007−146946)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】