説明

炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンク

【課題】靭性および強度等の機械特性に優れる炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンクを提供する。
【解決手段】炭素繊維と、樹脂とを混合後、成形し、炭素化処理してなる焼成体にシリコンを溶融含浸して得られる炭素繊維複合材であって、X線回折法による、前記炭素繊維の炭素002面の面間隔d002が、3.46〜3.51である炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材に関する。さらに詳しくは、ブレーキ用部材、半導体用構造部材、航空宇宙用の高温用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンク、ガスタービン用部材、核融合炉材、炉内部材、ヒーター部材等の多くの用途に適する炭素繊維複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭化ケイ素等のセラミックスは、軽量、耐熱性、耐摩耗性、耐食性、耐酸化性などに優れることから、例えば高温耐食部材用、ヒーター材用、耐摩耗部材用、さらには研磨剤などの用途に幅広く用いられている。しかし、セラミックスは破壊靭性が低いため、構造部材としての実用化までには至っていない。最近では、このようなセラミックスの靭性を向上させるため、炭素繊維等の強化材で複合化した炭素繊維複合材の研究が盛んに行われている。
【0003】
一般に炭素繊維複合材の靭性および強度は、複合材破断時の炭素繊維部のプルアウトで議論され、破壊する際に炭素繊維がプルアウトして、そのプルアウトした繊維長が長いほど、靭性と強度が向上することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
炭素繊維複合材を得る方法としては、例えば、繊維を樹脂でコーティングして炭素化後、樹脂と混合し、成形、炭素化処理を行い、その後シリコンの溶融含浸により、シリコンと炭素を反応させて炭素繊維と炭化ケイ素マトリックスからなる炭素繊維複合材を得るシリコン溶融含浸法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。シリコン溶融含浸法の場合、成形体中へのシリコンの溶浸により、炭素繊維とシリコンとが化学反応し、炭素繊維の靭性、強度等の機械特性が損なわれる可能性があるため、溶融シリコンと炭素繊維の反応を防ぐ目的で、炭素繊維は樹脂等によりコーティングされる。また、この樹脂コーティングにより、複合化後は炭素繊維と炭化ケイ素マトリックスの界面には樹脂由来炭素が形成され、炭素繊維と樹脂由来炭素の界面の滑りによって、炭素繊維はプルアウトしやすくなり高い靭性および強度が得られる。
図1(A)は、マトリックス12と炭素繊維14とが隣り合わせて交互に配列された炭素繊維複合材を模式的に示すとともに、炭素繊維複合材が外部応力を受けたときの炭素繊維とマトリックスの様相、つまりマトリックス12にクラック16が発生してから、繊維が切断されるまでの推移を示している。また、図1(B)は、セラミックス単体(マトリックス材)及び炭素繊維複合材それぞれの応力−ひずみ曲線を示す。図1に示すように、炭素繊維複合材は、炭素繊維がない場合と比較して、高い靱性および強度が得られることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−55430号公報
【特許文献2】特開平10−251065号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】化学便覧 応用化学編第6版 社団法人日本化学会編 丸善株式会社P622−628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、炭素繊維と炭化ケイ素の複合化は1400℃以上の高温で行うため、焼成熱や反応熱によって、炭素繊維が劣化して機械(力学特性)特性が著しく損なわれる。
従って実際には樹脂コーティングした炭素繊維を用いてもそれだけではプルアウトを生じにくく、靭性や強度が得られにくいため、特にブレーキ等の高信頼性部品に使用する際には更なる強靭化した材料が求められる。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、靭性および強度等の機械特性に優れる炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、炭素繊維の弾性率が、炭素繊維原糸の結晶性に起因することから、X線回折法による、炭素繊維原糸の結晶性を示す炭素002面の面間隔d002を特定の範囲内とすることで、得られる炭素繊維複合体が、強度及び靱性に優れたものとなることを見出し、上記課題を解決し、本発明に至った。
本発明は、次の事項に関する。
【0010】
(1)炭素繊維と、樹脂とを混合後、成形し、炭素化処理してなる焼成体にシリコンを溶融含浸して得られる炭素繊維複合材であって、
X線回折法による、前記炭素繊維の炭素002面の面間隔d002が、3.46〜3.51であることを特徴とする炭素繊維複合材。
【0011】
(2)前記炭素繊維がフェノール系レゾール樹脂でコーティングされてなる前記(1)に記載の炭素繊維複合材。
【0012】
(3)前記炭素繊維をコーティングする樹脂中に炭素粉末が分散されてなる前記(2)に記載の炭素繊維複合材。
【0013】
(4)前記炭素繊維の繊維長が1〜20mmである前記(1)から(3)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0014】
(5)前記炭素繊維の繊維束(トウ)が1000〜40000本/束である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0015】
(6)前記樹脂がフェノール系ノボラック樹脂である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0016】
(7)前記炭素繊維と樹脂との混合に際し、更に黒鉛及び有機繊維を含有する前記(1)〜(6)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0017】
(8)前記有機繊維がフィブリル化アクリル繊維である前記(7)に記載の炭素繊維複合材。
【0018】
(9)前記炭素繊維と樹脂との混合に際し、さらに炭化ケイ素粉末を混合する前記(1)〜(8)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0019】
(10)炭素繊維複合材のマトリックス部が炭化ケイ素を主成分とする前記(1)〜(9)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0020】
(11)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材。
【0021】
(12)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の炭素繊維複合材を用いた半導体用構造部材。
【0022】
(13)(1)〜(10)のいずれかに記載の炭素繊維複合材を用いた耐熱性パネル。
【0023】
(14)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の炭素繊維複合材を用いたヒートシンク。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来材と比較して靭性および強度に優れる炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】セラミックスと繊維強化セラミックスの破壊挙動のモデル図である。
【図2】炭素繊維の引張弾性率と(002)面のd値の関係をグラフで示した図である。
【図3】実施例1の曲げ試験後の破断面の組織写真である。
【図4】比較例1の曲げ試験後の破断面の組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の炭素繊維複合材について詳述する。
本発明の炭素繊維複合材は、炭素繊維と、樹脂とを混合後、成形し、炭素化処理してなる焼成体にシリコンを溶融含浸して得られる炭素繊維複合材であって、
X線回折法による、前記炭素繊維の炭素002面の面間隔d002が、3.46〜3.51であることを特徴としている。
ここで、本発明における炭素繊維の炭素002面の面間隔d002の測定は、広角X線回折装置を用い、学振法に基づき実施した。
以下、本発明の炭素繊維複合材の各構成要素について説明する。
【0027】
[炭素繊維]
本発明に係る炭素繊維は、炭化ケイ素セラミックス(炭素繊維複合材)の高靭化を目的として使用される。炭素繊維はその前駆体の違いにより、ポリアクリロニトリル系(以下、「PAN系」と記載することがある)及びピッチ系が挙げられる。PAN系とピッチ系は、その前駆体の違いに起因して、引張強度と弾性率のバランスが異なるという特徴がある。PAN系は、高強度の繊維が得られやすく、強度に特化した炭素繊維となることが多い。通常、PAN系の炭素繊維は、標準弾性率タイプ(HT型)、中弾性率タイプ(IM型)、高弾性率タイプ(HM型)に大別され、これらの弾性率の違いは、炭素繊維を製造する際の焼成温度の違いが主要因として挙げられる。ピッチ系の炭素繊維は、強度はPAN系に劣るものの弾性率を制御し易いという特徴があり、PAN系では製造が困難な低弾性および超高弾性な範囲の炭素繊維がある。本発明においては、高強度で高靭性な複合材を製作する目的で、PAN系の炭素繊維を用いることが好ましい。
【0028】
本発明に係る炭素繊維は、X線回折法による、炭素繊維原糸の炭素002面の面間隔d002が、3.46〜3.51であることを特徴とする。炭素繊維の弾性率は、炭素繊維原糸の結晶性に起因するところ、炭素繊維原糸の結晶性を示す炭素002面の面間隔d002が上記範囲内となることで、得られる炭素繊維複合体が、強度及び靱性に優れたものとなる。下限未満では、炭素繊維複合体の靱性が低下しやすくなり、上限を超えると、炭素繊維複合体の強度が低下しやすくなる。当該面間隔d002は3.47〜3.50が好ましい。
ここで、前記d002の数値はX線回折法で得られる数値である。
【0029】
また、本発明において使用する炭素繊維は、予め樹脂でコーティングすることが好ましい。コーティングする樹脂(以下、「コーティング用樹脂」と呼ぶ。)としては、フェノール系レゾール樹脂、フェノール系ノボラック樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、ピッチ等が挙げられる。中でも、熱分解後の炭素収率の高さから、フェノール系レゾール樹脂でコーティングすることが好ましい。また、コーティング用樹脂の熱分解における体積収縮による炭素繊維損傷が低い観点からは、イミド樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
また、上記炭素繊維をコーティングする際は、前記コーティング用樹脂中にカーボンブラック等の炭素粉末を均一に分散させてもよい。
上記コーティング用樹脂を用いたコーティング方法としては特に制限はないが、例えば、炭素繊維中へ樹脂を含浸させ、その後、コーティング用樹脂を熱分解し炭素化する方法が挙げられる。
工業的に、製造時間短縮、設備の簡易性、材料費のコストの観点からはコーティング用樹脂を用いることが好ましいが、上記コーティング用樹脂以外に、例えば、炭素、窒化ホウ素をCVD(化学気相成長法)、PVD(物理気相成長法)等の方法によりコーティングしてもよい。
【0031】
炭素繊維の繊維長は、炭素繊維複合材の高強度化、高靱性化、材料強度の均一性の観点から、1〜20mmであることが好ましく、3〜12mmであることがより好ましい。
【0032】
また、炭素繊維の繊維束(トウ)は、炭素繊維複合材の高強度化、炭素繊維の取扱性、コーティング用樹脂の含浸性の観点から、1000〜40000本/束が好ましく、3000〜12000本/束がより好ましい。
【0033】
炭素繊維は、樹脂との混合物中、20〜70重量%使用することが好ましく、35〜55重量%使用することがより好ましい。
【0034】
[樹脂]
本発明に係る樹脂としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、ピッチ又は有機金属ポリマーなどが好ましいものとして挙げられる。これらのうち、フェノール樹脂として、フェノール系ノボラック樹脂が熱分解後の炭素収率が高い点、価格が安価である点において好ましい。
またこれらの樹脂類は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせたものを用いてもよい。中でも、熱分解後の炭素収率が高いこと、さらに材料費が安価である点でフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0035】
[有機繊維]
本発明に用いられる有機繊維は、本発明の炭素繊維複合材の製造過程において、マトリックス中により均一に気孔を生成させるとともに、マトリックス中をより均一に炭化ケイ素化するために使用される。当該有機繊維としては、アクリル繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、天然繊維等が好ましいものとして挙げられる。中でも、分解温度が低く、単位温度当りの分解ガス発生量が少ないアクリル繊維がより好ましい。
【0036】
また、フィブリル化した有機繊維は、樹脂及びその他充填材の粒子分散性を向上させ、マトリックス中の材料偏析低減及び成形性向上等の効果が得られる点でより好ましい。
以上より、有機繊維としては、フィブリル化したアクリル繊維が好ましい。
【0037】
有機繊維の繊維径は、後述する製造工程において、シリコンが含浸しやすいという点で10〜60μmが好ましく、15〜40μmがより好ましい。
また、有機繊維の残炭率は、シリコンが気孔内に含浸しやすく本発明の効果を好適に発揮させる点で60重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。
【0038】
後述する(ii)の工程を経て生成したマトリックス中の有機繊維の含有率は、本発明の効果を好適に発揮させる点で1〜15重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。
【0039】
[充填材]
本発明の炭素繊維複合材は、さらに充填材を含有することが好ましい。本発明に用いられる充填材は、炭素源や骨材又は酸化防止剤、熱伝導率向上、高密度化等の目的で使用される。具体的には、炭素源として用いられる充填剤としては、炭素粉末や黒鉛粉末、カーボンブラック等が挙げられる。
また、骨材又は酸化防止剤、熱伝導率向上、高密度化を目的とした充填材としては炭化ケイ素(SiC)粉末、Si粉末、ポリカルボシラン等の有機ケイ素ポリマーなどが好ましいものとして挙げられる。これらの充填剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせたものを用いてもよい。
【0040】
本発明において、黒鉛及び有機繊維を含有することで、マトリックスが緻密で均一な炭化ケイ素を生成しやすく、高強度化、高熱伝導化、高酸化耐性化となり好ましい。
【0041】
以下、本発明の炭素繊維複合材の製造方法の一例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0042】
本発明の炭素複合材の製造方法の一例としては、下記工程を含むことが好ましい。
(i)所望により樹脂コーティングをした炭素繊維と、樹脂と、必要に応じて充填材、有機繊維とを混合する工程
(ii)上記(i)の工程で得られた混合物を所定の形状に成形する工程
(iii)上記(ii)の工程で得られた成形体を炭素化(焼成)する工程
(iv)上記(iii)の工程で得られた焼成体にシリコンを溶融含浸する工程
このような製造方法によれば、シリコン溶融含浸でマトリックス部をより均一に反応させることができ、強度特性に優れる炭素繊維複合材を得ることができる傾向がある。以下、(i)〜(iv)の工程のそれぞれについて詳述する。
【0043】
(i):所望により樹脂コーティングをした炭素繊維と、樹脂と、必要に応じて充填材、有機繊維とを混合する工程
本発明に用いられる樹脂は、(ii)の工程の所定の形状へ成形する際のバインダーとしての役割と(iv)の工程で溶融シリコンと反応し炭化ケイ素マトリックスを生成するための炭素源としての役割を担っている。
炭素繊維、樹脂、充填材、及び有機繊維についての詳細は既述の通りであるため、ここでは省略する。
【0044】
炭素繊維、樹脂、充填材、及び有機繊維などを混合する方法としては、これらが均一に混合できる方法であれば特に制限はないが、製造時間短縮及び設備費が安価な点で乾式混合法がより好ましく、例えば、レディーゲミキサー、アイリッヒミキサー等を用いて混合することが好ましい。
【0045】
(i)の工程で混合して得られる混合物の各成分の混合比率(体積%)は、樹脂を20〜40体積%、充填剤を3〜40体積%、有機繊維を1.5〜6体積%、炭素繊維を25〜60体積%、コーティング用樹脂5〜25体積%とすることが好ましい。
【0046】
また、炭素繊維複合材において、炭化ケイ素系マトリックスと炭素繊維との含有割合については、特に制限はなく、該複合材の用途に応じて適宜選ばれるが、通常、炭素繊維が15〜65体積%の範囲内で選ばれる。
本発明においては、炭素繊維として炭素繊維織布を用いることも可能である。炭素繊維織布を用いる場合は、炭素繊維織布に樹脂および充填剤を配合したスラリーを塗布した後、炭素繊維織布を積層して、乾燥させ、積層体とし、以後(ii)〜(iv)と同等の工程で炭素繊維複合材を作製する。
【0047】
(ii):上記(i)の工程で得られた混合物を所定の形状に成形する工程
成形方法としては、(i)で得られた混合物が偏在なく成形できる方法であれば特に制限はないが、例えば、あらかじめ予熱した金型中に混合物を投入し、加熱加圧成形を行う方法が挙げられる。また、前記「所定の形状」としては、特に制限はなく、本発明を適用する用途に応じ、それぞれの用途に適した形状に任意に加工することができる。
成形温度は、使用する樹脂によって適宜選ばれるが、例えばフェノール樹脂の場合、100〜250℃で行うことが好ましく、120〜230℃で行うことがより好ましく、130〜200℃で行うことがさらに好ましい。
また、成形圧力は、1〜70MPaで行うことが好ましく、10〜60MPaで行うことがより好ましく、25〜40MPaで行うことがさらに好ましい。
【0048】
(iii):上記(ii)の工程で得られた成形体を炭素化する工程
炭素化方法は、不活性雰囲気下で高温熱処理により行う。焼成温度としては、500〜2000℃で行うことが好ましく、600〜1800℃で行うことがより好ましく、900〜1500℃で行うことがさらに好ましい。不活性雰囲気の種類としては、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気等が挙げられる。中でも、高温安定性の点でアルゴン雰囲気がより好ましい。
【0049】
(iv):(iii)の工程で得られた焼成体にシリコンを溶融含浸する工程
含浸温度としては、シリコンの融点以上であればよく特に制限はない。雰囲気の種類としては、均一にシリコンが含浸すれば特に制限はなく、例えば、真空又はアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気が挙げられる。含浸に使用するシリコンの純度としては、99%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.9%以上がさらに好ましい。
【0050】
以上のようにして得られた炭素繊維複合材のマトリックス部が炭化ケイ素を主成分とすることが好ましい。ここで、「主成分」とはマトリックス中において50%を超えることをいう。
【0051】
本発明の炭素繊維複合材は、その優れた靭性および強度等の機械特性から、自動車、自転車のディスクロータ等のブレーキ用部材、半導体用構造部材、航空宇宙用の高温用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンク、ガスタービン用部材、核融合炉材、炉内部材、ヒーター部材等の多くの用途に利用可能である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は何らこれに制限されるものではない。
【0053】
各実施例・比較例において、下記表1及び表2の配合比率(体積%)に従って炭素繊維以外の原材料を配合し、レディーゲミキサー((株)マツボー製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、その後、その混合粉とフェノール樹脂でコーティングした繊維長6mmの炭素繊維をVブレンダーで混合し、配合組成物を得た。この配合組成物を成形温度155℃、成形圧力30MPaの条件で15分間、成形プレス(三起精工(株)製)を用いて100mm角、厚み6.5mmの形状に加熱加圧成形し、その後、この成形体を高温雰囲気炉((株)モトヤマ製)を用いて窒素雰囲気下で900℃、1時間焼成した。
この得られた焼成体を真空加熱炉((有)リサーチアシスト)を用いて真空中1450℃で30分間のシリコンの溶融含浸を行い、炭素繊維複合材を得た。
なお、表1、表2において、d=3.449などの「d」は、炭素002面の面間隔d002を意味する。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
得られた複合材の曲げ強度は、セラミックスJIS R1601の曲げ強さ試験方法によって測定した。具体的には、オリエンテック社製テンシロンUTA−300kN用い、試験速度0.5mm/min、支点間距離30mm、試験温度23℃、試験片形状:厚み3±0.1mm、幅:4±0.1mm、長さ:37±0.1mmで行った。
【0057】
得られた複合材の靭性は、曲げ強さ試験で得られる応力-変位曲線の積分値(破壊エネルギー)で評価した。
得られた複合材の開気孔率および密度はセラミックスJIS R 1634 焼結体密度・開気孔率の測定方法 によって測定した。
得られた複合材は走査型電子顕微鏡(キーエンス社製、商品名:リアルサーフェスビュー顕微鏡KEYENCE VE−7800)の反射電子像で観察した。
【0058】
表2の比較例に記載した炭素繊維複合材は、図4のように、破断面からは炭素繊維のプルアウトはほとんど観察されない。一方、表1の実施例に記載した特定のd値(d002)を有する炭素繊維を使用した炭素繊維複合材からは、図3のように炭素繊維のプルアウトが顕著に観察され、靭性を比較しても最高で約3倍も向上している。従って、特定のd値を有する炭素繊維を使用することで複合材を著しく高靭化できることが分かる
【符号の説明】
【0059】
1 炭化ケイ素相
2 炭素繊維相
3 プルアウトした炭素繊維
12 マトリックス
14 炭素繊維
16 クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と、樹脂とを混合後、成形し,炭素化処理してなる焼成体にシリコンを溶融含浸して得られる炭素繊維複合材であって、
X線回折法による、前記炭素繊維の炭素002面の面間隔d002が、3.46〜3.51であることを特徴とする炭素繊維複合材。
【請求項2】
前記炭素繊維がフェノール系レゾール樹脂でコーティングされてなる請求項1に記載の炭素繊維複合材。
【請求項3】
前記炭素繊維をコーティングする樹脂中に炭素粉末が分散されてなる請求項2に記載の炭素繊維複合材。
【請求項4】
前記炭素繊維の繊維長が1〜20mmである請求項1から3のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項5】
前記炭素繊維の繊維束(トウ)が1000〜40000本/束である請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項6】
前記樹脂がフェノール系ノボラック樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項7】
前記炭素繊維と樹脂との混合の際に、更に黒鉛及び有機繊維を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項8】
前記有機繊維がフィブリル化アクリル繊維である請求項7に記載の炭素繊維複合材。
【請求項9】
前記炭素繊維と樹脂との混合に際し、さらに炭化ケイ素粉末を混合する請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項10】
炭素繊維複合材のマトリックス部が炭化ケイ素を主成分とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材を用いた半導体用構造部材。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材を用いた耐熱性パネル。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材を用いたヒートシンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−190169(P2011−190169A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33314(P2011−33314)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】