説明

炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材及びその製造方法、並びに電界シールド材

【課題】炭素繊維と熱可塑性樹脂とが均一に複合化されると共に、内部に炭素繊維の良好なネットワーク構造が形成されることにより、優れた電界シールド性を得ることができる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を容易かつ効率的に製造する。
【解決手段】炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との複合不織布を加熱加圧してなる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。複合不織布を構成する炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との合計重量に占める炭素繊維の割合は20〜80重量%。該複合不織布を、当該複合不織布の厚さTに対して、得られる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の厚さTが1/3〜1/50となるように加熱加圧して炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材及びその製造方法と、この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材よりなる電界シールド材に関する。詳しくは、炭素繊維と熱可塑性樹脂とが均一に複合化されると共に、内部に炭素繊維の良好なネットワーク構造が形成されることにより、優れた電界シールド性を得ることができる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材及びその製造方法と、この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を用いた電界シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界シールド材等の電磁波シールド材としては、銅メッシュ等の金属メッシュを用いたものが提供されているが、金属メッシュでは、高比重であるために重量が重くなる;発錆の問題がある
;耐酸性、耐アルカリ性に劣る;といった問題がある。
【0003】
これに対して、特許文献1,2には、炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材料よりなる電磁波シールド材が記載されている。
【0004】
しかし、従来の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材は、炭素繊維の集合体に熱可塑性樹脂を含浸させたものであり、炭素繊維の集合体に対する熱可塑性樹脂の含浸性と炭素繊維密度の制御が難しく、所望の電磁波シールド性と機械的強度、その他の物性を十分に満たす材料設計が困難であるという問題があった。
即ち、例えば、炭素繊維の集合体のマットに熱可塑性樹脂を含浸させる場合、炭素繊維の集合マットの炭素繊維密度が高いと、熱可塑性樹脂の含浸性が悪く、マット表層部のみにしか熱可塑性樹脂が含浸されず、このようなものを加圧成形しても均一な複合材料を得ることが困難である。
一方、炭素繊維の集合体の炭素繊維密度が低いと、炭素繊維の絡み合いによるネットワーク構造を形成し得ず、良好な電磁波シールド性を得ることができない。
【0005】
また、炭素繊維の集合体を製造し、その後、この炭素繊維の集合体に熱可塑性樹脂を含浸させて更に加圧成形するなど、製造工程数が多く、生産性の面でも問題がある。
【0006】
なお、不織布の製造方法として、エアレイド法は良く知られた技術であり、特許文献3には、エアレイド法不織布の製造装置の改良についての発明が記載されている。また、特許文献4には、三層構造の複合材料のスキン層は又はコア層をエアレイド法により形成したサンドイッチ複合材料に関する発明が記載されている。この特許文献4に記載されるサンドイッチ複合材料の用途については、「多くの構造用途、例えば輸送ロードフロア、シートバックの形成、及び消費者産業や建築産業の他の用途」「オフィス用仕切り板及び家の音吸収パネルとして、例えば基部の仕上げシステムなど」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−84649号公報
【特許文献2】特開2005−239939号公報
【特許文献3】特開2004−11027号公報
【特許文献4】特開2008−525662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の金属メッシュ又は炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材よりなる電磁波シールド材は、それぞれ、前述のような問題があり、その改善が望まれる。
【0009】
また、電界シールド材にあっては、その用途に応じて、特定の周波数領域において、特異的に優れた電界シールド性を有することが必要とされる場合もあり、金属メッシュなどの従来の電磁波シールド材とは異なる特定の周波数領域に優れた電界シールド性を示す電界シールド材の開発が要望される。
【0010】
なお、エアレイド法による不織布の製造技術を開示する特許文献3では、用いる繊維として、炭素繊維や有機繊維の記載があり、これらの2種以上を用いる旨の記載もあるが、電界シールド材のための炭素繊維配合量についての何らの検討もなされておらず、また、得られた不織布を加熱加圧するとの記載は全くない。
【0011】
一方、特許文献4では、炭素繊維等の強化繊維と有機繊維との複合不織布をエアレイド法で製造することが記載され、得られた複合不織布を他の層と積層したサンドイッチ複合材料を種々の形状に圧縮成形又は熱成形することができるとの記載もあるが、電界シールド性を実現するための炭素繊維のネットワーク構造を形成する観点からの加圧の程度についての何らの検討もなされていない。
【0012】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、炭素繊維と熱可塑性樹脂とが均一に複合化されると共に、内部に炭素繊維の良好なネットワーク構造が形成されることにより、優れた電界シールド性を得ることができる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材であって、容易かつ効率的に製造することができる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材及びその製造方法と、この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を用いた電界シールド材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、まず、所定の炭素繊維含有割合の炭素繊維/熱可塑性樹脂繊維複合不織布を製造し、これを所定の圧縮度に加熱加圧することにより、炭素繊維が均一に分散した状態で良好なネットワーク構造を形成することにより、良好な電界シールド性を示す炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材が得られること、この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材は、複合不織布を製造した後、加熱加圧するのみで、容易かつ効率的に製造することができること、を見出した。
【0014】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0015】
[1] 炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との複合不織布を加熱加圧してなる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材であって、該複合不織布を構成する炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との合計重量に占める炭素繊維の割合が20〜80重量%であり、該複合不織布を、当該複合不織布の厚さTに対して、得られる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の厚さTが1/3〜1/50となるように加熱加圧してなることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【0016】
[2] [1]において、該炭素繊維の引張弾性率が200GPa以上であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【0017】
[3] [1]又は[2]において、前記複合不織布がエアレイド法により製造された複合不織布であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【0018】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、該熱可塑性樹脂繊維が、芯部が鞘部の構成材料よりも高融点の構成材料で形成された芯鞘構造を有する繊維であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【0019】
[5] [4]において、前記複合不織布が、前記熱可塑性樹脂繊維の芯部の構成材料の融点よりも低く、鞘部の構成材料の融点よりも高い温度で加熱加圧されることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【0020】
[6] [1]ないし[5]のいずれかに記載の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を含むことを特徴とする電界シールド材。
【0021】
[7] 炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との合計重量に占める炭素繊維の割合が20〜80重量%である、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との複合不織布を製造し、得られた複合不織布を、当該複合不織布の厚さTに対して、得られる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の厚さTが1/3〜1/50となるように加熱加圧することを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【0022】
[8] [7]において、該炭素繊維の引張弾性率が200GPa以上であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【0023】
[9] [7]又は[8]において、エアレイド法により前記複合不織布を製造することを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【0024】
[10] [7]ないし[9]のいずれかにおいて、該熱可塑性樹脂繊維が、芯部が鞘部の構成材料よりも高融点の構成材料で形成された芯鞘構造を有する繊維であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【0025】
[11] [10]において、前記複合不織布を、前記熱可塑性樹脂繊維の芯部の構成材料の融点よりも低く、鞘部の構成材料の融点よりも高い温度で加熱加圧することを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明に従って、所定の割合で炭素繊維を含む炭素繊維/熱可塑性樹脂繊維複合不織布を製造し、これを所定の圧縮度に加熱加圧して得られる本発明の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材は、炭素繊維が均一に分散した状態で良好なネットワーク構造が形成されることにより、良好な電界シールド性を示す。この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材は、複合不織布を製造した後、加熱加圧するのみで容易かつ効率的に製造することができ、また、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維とが均一に分散した複合不織布の加熱加圧によれば、炭素繊維及び熱可塑性樹脂繊維間に熱可塑性樹脂が十分に充填された炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材とすることができ、従来の含浸法による炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材のように含浸不良の問題や電界シールド性やその他の物性不良の問題もない。
【0027】
なお、本発明の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材は、炭素繊維と熱可塑性樹脂とで構成されるため、比較的軽量で、耐酸性、耐アルカリ性に優れ、従来の金属メッシュのような発錆の問題もない。
【0028】
この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材は、その優れた電界シールド性により、電界シールド材として有用であり、その炭素繊維含有量や用いる炭素繊維の特性等によっても異なるが、通常0.2〜10MHzの周波数領域において、良好な電界シールド性を示す。
【0029】
本発明の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材よりなる本発明の電界シールド材は、その優れた電界シールド性を利用して、バッテリーの筐体構成材料、その他各種電気・電子機器の筐体構成材料等として、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1における複合不織布と、複合材1、複合材2、及び複合材4の電界シールド性の評価結果を示すグラフである。
【図2】実施例2における複合不織布と、複合材1、複合材2、及び複合材4の電界シールド性の評価結果を示すグラフである。
【図3】実施例3における複合不織布と、複合材1、複合材2、及び複合材4の電界シールド性の評価結果を示すグラフである。
【図4】市販の銅メッシュの電界シールド性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0032】
本発明の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材は、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との複合不織布を加熱加圧してなるものである。
【0033】
{炭素繊維}
本発明に係る複合不織布を構成する炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維を用いることが好ましい。即ち、炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できるが、市販のPAN系炭素繊維の引張弾性率は一般的なグレードでは230〜400GPa程度にとどまる。これに対して、ピッチ系炭素繊維は一般にPAN系炭素繊維に比べて高弾性率を達成しやすい。ピッチ系炭素繊維は、原料ピッチを溶融紡糸してピッチ繊維を得、次いで不融化、炭化或いは更に黒鉛化することによって得られる。
【0034】
炭素質原料としては、配向しやすい分子種が形成されており、光学的には異方性の炭素繊維を与えるようなものであれば特に制限はない。例えば、石炭系のコールタール、コールタールピッチ、石炭液化物、石油系の重質油、タール、ピッチ、または、ナフタレンやアントラセンの触媒反応による重合反応生成物等が挙げられる。これらの炭素質原料には、フリーカーボン、未溶解石炭、灰分、窒素分、硫黄分、触媒等の不純物が含まれているが、これらの不純物は、濾過、遠心分離、あるいは溶剤を使用する静置沈降分離等の周知の方法であらかじめ除去しておくことが望ましい。
【0035】
また、前記炭素質原料を、例えば、加熱処理した後、特定溶剤で可溶分を抽出するといった方法、あるいは、水素供与性溶剤、水素ガスの存在下に水添処理するといった方法で予備処理を行っておいても良い。
【0036】
本発明で用いる炭素繊維の繊維径は5〜20μm、特に7〜13μmであることが好ましい。炭素繊維の繊維径が細過ぎると、取り扱い性に劣り、また、一般に極細の炭素繊維は高コストであるため、製品コストを押し上げる原因となる。炭素繊維の繊維径が太過ぎると、繊維強度が低下し、折れ易くなるため、好ましくない。
【0037】
また、炭素繊維の繊維長さとしては、1〜50mm、特に3〜15mm程度であることが好ましい。炭素繊維の長さが短か過ぎると炭素繊維同士の絡み合いによる良好なネットワーク構造を形成し得ず、炭素繊維の長さが長過ぎると、不織布の作製が困難になる恐れがある。
【0038】
また、炭素繊維は、その繊維長さ方向の引張弾性率が200GPa以上、特に400GPa以上、例えば500〜900GPaであることが好ましい。
このように、引張弾性率の高い炭素繊維を用いることにより、炭素繊維の絡み合いによるネットワーク構造が形成され易くなり、電界シールド性に優れた炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を得ることができる。
【0039】
なお、炭素繊維は黒鉛化処理することにより、引張弾性率が向上することが知られており、従って、本発明で用いる炭素繊維は黒鉛化炭素繊維であってもよい。
【0040】
炭素繊維の繊維径は、炭素繊維の顕微鏡観察またはレーザー計測器により20〜30個の繊維径を測定し、その測定値の平均値で求められる。炭素繊維の繊維長さについても同様に求めることができるが、一般的には、炭素短繊維のカット長が繊維長さに相当する。また、炭素繊維の繊維長さ方向の引張弾性率は、炭素繊維とエポキシ樹脂の一方向材を作製し、その繊維軸方向の引張弾性率および熱伝導率を測定した値を、複合則に則って、炭素繊維の体積含有率で割り返して、繊維単体の物性としたものである。さらに具体的には、引張弾性率については、JIS K7073に準拠し、万能試験機で測定された値からの計算値である。
後掲の実施例においても同様である。
【0041】
{熱可塑性樹脂繊維}
本発明の複合不織布を構成する熱可塑性樹脂繊維としては、特に制限はないが、芯部が鞘部の構成材料よりも高融点の構成材料で形成された芯鞘構造を有する繊維(以下「芯鞘繊維」と称す場合がある。)を用いることが好ましい。
【0042】
即ち、このような芯鞘繊維であれば、複合不織布の製造工程及びその後の加熱加圧工程において、芯部の構成材料(以下「芯樹脂」と称す場合がある。)の融点よりも低く、かつ、鞘部の構成材料(以下「鞘樹脂」と称す場合がある。)の融点よりも高い温度で加熱することにより、芯樹脂は溶融させることなく、鞘樹脂のみを溶融させて、溶融した鞘樹脂で炭素繊維及び熱可塑性樹脂繊維の繊維同士を接着した上で、芯部を繊維状に残した状態で良好な複合不織布を形成することが可能となる。
【0043】
このような芯鞘繊維の芯樹脂の融点は120℃以上、特に150℃以上で、鞘樹脂の融点は80℃以上、特に100℃以上で、芯樹脂と鞘樹脂の融点差は10℃以上、特に20〜40℃であることが好ましい。なお、熱可塑性樹脂の融点の上限は通常400℃程度である。
【0044】
芯樹脂の融点が上記下限よりも低いと、加熱により芯樹脂まで溶融して繊維形状を維持し得なくなる。芯樹脂の融点として、上記上限よりも高いものは現実的ではない。また、鞘樹脂の融点が上記下限よりも低いと、得られる複合不織布の耐熱性を損なうこととなり、上記上限よりも高いと、鞘樹脂を溶融させるための加熱温度が高くなり過ぎ、好ましくない。また、芯樹脂と鞘樹脂との融点差が小さ過ぎると、芯樹脂を溶融させることなく、鞘樹脂のみを溶融させるための加熱条件の設定が難しく、また、この融点差を過度に大きくすることは、芯鞘繊維の紡糸、耐熱性の維持の面で芯鞘繊維の設計上困難である。
【0045】
また、芯鞘繊維を構成する芯樹脂と鞘樹脂との割合は、芯樹脂が30〜90重量%、特に40〜80重量%で、鞘樹脂が10〜70重量%、特に20〜60重量%であることが好ましい。この範囲よりも芯樹脂が多く、鞘樹脂が少ないと、バインダー成分が少ないことにより、良好な複合不織布及び炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を製造し得ない。逆にこの範囲よりも芯樹脂が少なく、鞘樹脂が多いと、得られる複合不織布及び炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の耐熱性が劣るものとなる。
【0046】
芯鞘繊維を構成する熱可塑性樹脂としては特に制限はないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン酢酸ビニル/塩化ビニル、低級アルキルアクリレートポリマー、ポリアクリロニトリル、部分加水分解ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンアクリレート、ナイロン、レーヨン、ポリカーボネート等が挙げられ、これらのうち、特にポリエステル、ポリプロピレン、ポリスルフィド、ポリオレフィン、ポリエチレン等を用いた組合せを使用することが好ましく、これらの樹脂の中から、前述の好適な融点の組み合わせとなるように、芯樹脂と鞘樹脂とを選択する。芯樹脂と鞘樹脂の具体的な組み合せとして、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、変性ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリエチレン、コポリエステルポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチルテレフタレート/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、線状低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6/ナイロン6,6、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。なお、同一の樹脂であっても、分子量によって融点が異なるため、組み合わせと分子量の設計により、いずれの樹脂も、芯樹脂にも鞘樹脂にもなり得る。
【0047】
芯鞘繊維等の熱可塑性樹脂繊維の平均繊維径は1〜300μm、特に5〜50μmであることが好ましい。熱可塑性樹脂繊維の繊維径が小さ過ぎると熱可塑性樹脂繊維によるバインダー作用を十分に得ることができず、大き過ぎると単位重量当たりの本数が少なくなり、炭素繊維との均一な混合が困難になる。
【0048】
また、芯鞘繊維等の熱可塑性樹脂繊維の繊維長さは、1〜50mm、特に3〜15mmであることが好ましい。繊維長さが短か過ぎても、長過ぎても、良好な不織布を形成し得ない。
【0049】
この熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂は、本発明の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の適用箇所に応じて適宜選択することが好ましく、例えば、バッテリーケースへの貼着用途にあっては、通常バッテリーケースはガラス繊維強化ポリプロピレンよりなるため、ポリプロピレン系の熱可塑性樹脂繊維を用いることが好ましい。
【0050】
なお、熱可塑性樹脂繊維は1種を単独で用いてもよく、異なる材質、異なるデニールや繊維長さのものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、前述の芯鞘繊維の代りに、融点の異なる2種以上の熱可塑性樹脂繊維を組み合わせて用い、低融点の熱可塑性樹脂繊維を加熱溶融させてバインダー成分とし、高融点の熱可塑性樹脂繊維を繊維形状のまま残すようにすることもできる。
また、芯鞘繊維の形態ではなく、バインダー成分となる樹脂が部分的に表面に存在する複合繊維であっても良い。
【0051】
{炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の配合比}
本発明において、複合不織布を構成する炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との合計重量に対する炭素繊維の割合は20〜80重量%、特に30〜70重量%で、熱可塑性樹脂繊維の割合が80〜20重量%、特に70〜30重量%であることが好ましい。
【0052】
この範囲よりも炭素繊維が少なく熱可塑性樹脂繊維が多いと、得られる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材内に炭素繊維の良好なネットワーク構造を形成し得ず、所望の電界シールド性を得ることができない。逆に、上記範囲よりも炭素繊維が多く、熱可塑性樹脂繊維が少ないと、得られる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の保形性、機械的強度等が不足する。
【0053】
なお、本発明に係る複合不織布は、通常、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維とで構成されるが、本発明の目的を損なわない範囲で、炭素繊維及び熱可塑性樹脂繊維以外の繊維、例えば金属繊維やセラミック繊維等の繊維を含んでいてもよい。
【0054】
{複合不織布の製造方法}
本発明に係る炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との複合不織布を製造する方法には特に制限はなく、エアレイド法、ウェットレイ法、カレンダー法、ニードリング法等、従来公知の不織布の製造技術をいずれも採用し得るが、特にエアレイド法を好適に採用することができる。
【0055】
エアレイド法により、本発明に係る複合不織布を製造する際の短繊維塊の開繊手段としては、回転するローター(本州製紙法)、回転する攪拌羽車(クロイヤー法)、相反回転する筒状スクリーンとニードルローター(ダンウェブ法)、回転する鋸歯状のピッカーローター(J&J、キンバリークラーク法、スコットペーパー法)などが知られており、本発明においては、いずれを用いてもかまわない。
【0056】
このような開繊手段に、炭素繊維集合体と熱可塑性樹脂繊維集合体をそれぞれを搬送空気流によって搬送し、開繊混合された繊維を篩又はスクリーンを通して繊維が均一分散したウェブとなるよう降り積もらせる。このウェブ製造装置としては、例えば、前後、左右、上下、水平円状等のいずれかに振動し短繊維を篩の目から分散落下させる箱形篩タイプの装置が使用できる。また、ネット状の金属多孔板が円筒状に成形され、且つその側面に繊維の投入口を有し、繊維をその篩の目から分散・落下させるネット状円筒型タイプの装置も使用できる。
【0057】
エアレイド法によって得られたウェブは熱可塑性樹脂繊維同士の交点の溶融熱処理によって不織布に加工される。この熱処理は、例えば、スルーエアー型熱処理機、エンボスロール型熱処理機、フラットロール型熱処理機等を用いて、熱可塑性樹脂繊維としての芯鞘繊維の低融点熱可塑性樹脂(鞘樹脂)の融点以上、高融点熱可塑性樹脂(芯樹脂)の融点未満の温度に加熱して芯鞘繊維の交点を融着する。特にエアレイド法により得られたウェブはスルーエアー型熱処理機を用いることで嵩高な不織布が得られるため好適である。
【0058】
このようにして得られた複合不織布は、必要に応じて、上記熱処理温度と同程度の温度の1対の熱ローラ間に通して、厚み調整を行ってもよい。
【0059】
なお、複合不織布の製造に供する炭素繊維及び熱可塑性樹脂繊維は、必要に応じて、カップリング剤等による表面処理を施してもよい。
【0060】
{複合不織布の目付・厚さ}
上述のようにして得られる本発明に係る複合不織布の目付は50〜4000g/m、特に100〜1000g/mで、厚さは0.5〜50mm、特に1〜10mmであることが好ましい。
【0061】
複合不織布の目付が上記上限を超えるとバインダー成分を熱融着させる際の生産性が低下し、上記下限未満では複合不織布の強度が不足する。また、複合材の厚さを確保するための積層枚数が多くなり、作業性が損なわれる。
また、複合不織布の厚さが上記上限を超えるとバインダー成分を熱融着させる際の生産性が低下し、また、複合不織布をロールに捲き取る際に不都合である。複合不織布の厚さが上記下限未満では、目付が小さいときと同様の問題がある。
【0062】
{炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造}
本発明においては、上述のような複合不織布を、加熱加圧して本発明の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を得る。
【0063】
この加熱加圧には、通常の熱プレス機等を用いて行うことができる。
【0064】
複合不織布の加熱加圧は、複合不織布を、当該複合不織布の厚さTに対して、得られる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の厚さTが1/3〜1/50、特に1/5〜1/30となるように行うことが好ましい(以下、この加熱加圧による圧縮の程度を「圧縮率」と称す。)。この加熱加圧の圧縮率が少な過ぎると、炭素繊維の良好なネットワーク構造を形成し得ず、このため、電界シールド性に優れた炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材とすることができない。圧縮率を過度に大きくすることは困難である。
【0065】
なお、この加熱加圧時の加熱温度は、複合不織布に含まれる熱可塑性樹脂繊維の低融点熱可塑性樹脂(芯鞘繊維の鞘樹脂)の融点以上であって、高融点熱可塑性樹脂(芯鞘繊維の芯樹脂)の融点未満であることが好ましく、これにより、低融点樹脂のみを溶融させてバインダー成分とし、高融点樹脂を繊維状に残した状態で炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を得ることができる。
【0066】
なお、この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造に際しては、複合不織布を2枚以上例えば2〜30枚積層して加熱加圧してもよく、このようにすることにより、同一厚さに設定された複合不織布を用いて、様々な厚さの炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を得ることができる。この際、炭素繊維含有量の異なる複合不織布を積層することも可能である。
また、部分的に複合不織布を積層して、部分的に炭素繊維密度の異なる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を製造したり、部分的に厚さの異なる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を製造することもできる。
【0067】
更に、必要に応じて、複合不織布以外の材料、例えば金属や熱可塑性樹脂のフィルム又はシートを複合不織布に積層して炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材とすることもできる。
【0068】
{炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の厚さ、電界シールド性}
本発明の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の厚さには特に制限はないが、過度に薄いと目的とする電界シールド性を得ることができない場合があり、また、機械的強度が不足するために取り扱い性に劣るものとなる。逆に、過度に厚いと、この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を適用する部材の厚さ増加が大きく、好ましくない。
従って、本発明の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の厚さはその用途によっても異なるが、通常0.05〜30mm、特に0.1〜10mm程度であることが好ましい。
【0069】
なお、この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の炭素繊維含有量は、炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造に用いた複合不織布における炭素繊維含有量となり、目付は用いた複合不織布の目付と圧縮率から求められた値となるが、通常0.1〜20kg/m程度である。
【0070】
このような本発明の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材は、その炭素繊維含有量や用いる炭素繊維の特性等によっても異なるが、周波数0.2〜10MHzの範囲に特異的な電界シールド性を示し、電動機、変圧器等の電界シールド材として各種用途に有用である。
【0071】
この電界シールド材の使用形態としては特に制限はないが、例えば、各種構造材に電界シールドシートとして貼り合わせて用いる使用形態が挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0073】
なお、以下の実施例で用いた炭素繊維及び芯鞘繊維の仕様は次の通りである。
【0074】
炭素繊維:三菱樹脂(株)製「ダイアリードK6371T」(引張弾性率:640GPa、
繊維径:11μm、繊維長:6mm)
芯鞘繊維:芯部がポリプロピレン樹脂(融点:160℃)であり、鞘部がマレイン酸変性
ポリエチレン樹脂(融点:130℃)で、芯部:鞘部=50:50(重量比)
の芯鞘繊維(平均繊維径:20μm、繊維長:5mm)
【0075】
また、エアレイド法による複合不織布の製造には、池上製作所製エアレイド不織布加工機「マットフォーマー」を用いた。
【0076】
実施例1〜3
炭素繊維と芯鞘繊維とを下記表1の割合で混合して、エアレイド法により複合不織布を製造した。この複合不織布の芯鞘繊維交点の熱融着処理には、スルーエアー型熱処理機を用い、150℃の熱風を当てて行った。
【0077】
得られた複合不織布はいずれも、幅300mmで厚さは表1に示す通りである。
【0078】
【表1】

【0079】
得られた複合不織布を表2に示す枚数積層し、熱プレス機で220℃、40MPaで、表2の厚さとなるように加熱加圧して、それぞれ炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を得た。
以下、複合不織布を1枚用いたものを「複合材1」、2枚用いたものを「複合材2」、4枚用いたものを「複合材4」と称す。
【0080】
【表2】

【0081】
加熱加圧する前の複合不織布、複合材1、複合材2、複合材4について、それぞれ、以下の方法で電界シールド性を評価し、結果を図1〜3に示した。
また、市販の銅メッシュ(線径0.18mm、60メッシュ)についても同様に電界シールド性を評価し、結果を図4に示した。
【0082】
<電界シールド性の評価方法>
アジレント社製「ネットワークアナライザ 4396B」によりKEC(関西電子工業振興センター)法で評価した。
【0083】
図1〜4より、次のことが明らかである。
加熱加圧前の複合不織布では、特に炭素繊維の含有量が少ない場合(実施例1)、電界シールド性は得られないが、加熱加圧を行うことにより、炭素繊維のネットワーク構造が形成され、良好な電界シールド性が得られる。複合不織布の炭素繊維含有量を多くすると(実施例2,3)、加熱加圧前でもある程度の電界シールド性を得ることができるが、加熱加圧を行うことにより、電界シールド性はより一層向上する。
この炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の電界シールド性は、銅メッシュとは異なり、若干高周波領域にシフトしており、その特有の電界シールド性が認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との複合不織布を加熱加圧してなる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材であって、
該複合不織布を構成する炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との合計重量に占める炭素繊維の割合が20〜80重量%であり、
該複合不織布を、当該複合不織布の厚さTに対して、得られる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の厚さTが1/3〜1/50となるように加熱加圧してなることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【請求項2】
請求項1において、該炭素繊維の引張弾性率が200GPa以上であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記複合不織布がエアレイド法により製造された複合不織布であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該熱可塑性樹脂繊維が、芯部が鞘部の構成材料よりも高融点の構成材料で形成された芯鞘構造を有する繊維であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【請求項5】
請求項4において、前記複合不織布が、前記熱可塑性樹脂繊維の芯部の構成材料の融点よりも低く、鞘部の構成材料の融点よりも高い温度で加熱加圧されることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材を含むことを特徴とする電界シールド材。
【請求項7】
炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との合計重量に占める炭素繊維の割合が20〜80重量%である、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との複合不織布を製造し、得られた複合不織布を、当該複合不織布の厚さTに対して、得られる炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の厚さTが1/3〜1/50となるように加熱加圧することを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、該炭素繊維の引張弾性率が200GPa以上であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8において、エアレイド法により前記複合不織布を製造することを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、該熱可塑性樹脂繊維が、芯部が鞘部の構成材料よりも高融点の構成材料で形成された芯鞘構造を有する繊維であることを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、前記複合不織布を、前記熱可塑性樹脂繊維の芯部の構成材料の融点よりも低く、鞘部の構成材料の融点よりも高い温度で加熱加圧することを特徴とする炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144473(P2011−144473A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5849(P2010−5849)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】