説明

炭素膜の製造方法

【課題】量産性に優れかつ安価に量産することが可能な炭素膜の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素を含有している炭素含有化合物と、触媒金属または触媒金属を含む金属化合物と、を溶媒中に混入してなる塗料を基材の表面に塗布する塗布工程と、上記基材表面に塗布された塗料を焼成して基材表面に炭素膜を成長させる焼成工程とを、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に炭素膜を成膜する炭素膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特開2006−182640では基板表面に形成した触媒上に、炭素含有ガスを導入する熱CVD法により基板表面に炭素膜であるカーボンナノチューブを形成する炭素膜成膜法が開示されている。また、特開2006−185636では炭化水素ガスを原料ガスとしたプラズマCVD法により基板表面に炭素膜であるカーボンナノチューブを成膜する炭素膜成膜法が開示されている。しかしながら、従来の炭素膜成膜法では高価な成膜設備が必要でありまた1工程に費やす時間が長くかつ成膜工程が多いため炭素膜の量産性が低く、量産費用が高いという課題がある。
【特許文献1】特開2006−182640
【特許文献2】特開2006−185636
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、成膜設備が安価で成膜工程も少なくて済む、量産性に優れかつ安価に量産することが可能な炭素膜の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明による炭素膜の製造方法は、炭素を含有している炭素含有化合物と、触媒金属または触媒金属を含有する金属化合物とを溶媒中に混入してなる塗料を基材の表面に塗布する塗布工程と、上記基材表面に塗布した塗料を焼成することにより基材表面に炭素膜を成長させる焼成工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0005】
好ましくは上記焼成工程が、酸素非存在か酸素の存在が少ない常圧下で焼成する工程である。
【0006】
好ましくは上記金属化合物はフタロシアニン鉄である。
【0007】
本発明では、塗料工程で基材表面に上記塗料を塗布し、次いで、焼成工程で基材を含む塗料を焼成することにより、基材表面に触媒金属の触媒作用により針状の炭素膜を成長させることができる。
【0008】
本発明によると、その製造方法の実施に用いる設備としては、基材表面に塗料を塗布する塗布設備と、塗料を焼成する焼成設備とだけで済む。この場合、塗布設備は、例えば塗料容器に基材を浸漬するだけでの安価な設備で済み、また、焼成設備は、例えばその設備内部に不活性ガスを導入し、ヒータで塗料を焼成するだけの安価な設備で済む。したがって、全体の製造設備は極めて安価に済む。また、成膜操作は、基材に塗料を塗布する工程と、例えば大気圧下の焼成炉内部に不活性ガス等を導入してヒータで塗料を焼成する工程とを実施するだけであり、量産しやすい。また、基材そのものをニクロム線等からなる抵抗加熱ヒータで構成すればこのヒータに塗料を塗布し次いで通電によりニクロム線を高温に発熱させ、ニクロム線表面の塗料を焼成するだけでニクロム線表面に簡単に炭素膜を成長させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造設備が安価で成膜工程も少なくて済む、量産性に優れかつ安価に量産することが可能な炭素膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態に係る炭素膜の製造方法を説明すると、同製造方法は、図1で示すように、塗布工程と、焼成工程とから構成されている。塗布工程は、炭素を含有している炭素含有化合物と、触媒金属または触媒金属を含有する微粒子状の金属化合物と、を溶媒中に混入してなる塗料を基材の表面に塗布する工程である。焼成工程は、塗料が塗布された基材を酸素非存在または酸素の存在が少ない常圧の雰囲気下に置いて塗料を焼成することにより当該基材表面に上記触媒金属の触媒作用で炭素膜を成長させる工程である。上記工程において、塗布工程と焼成工程との間に、塗料を乾燥させる乾燥工程を加えることが好ましい。
【0011】
炭素含有化合物は、炭素を含有する化合物であればよいが、固体炭素系高分子材料が好ましい。この固体炭素系高分子材料には、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルホキシド、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等がある。
【0012】
上記触媒金属には鉄、コバルト、ニッケル等があり、これら触媒金属を含む金属化合物も用いることができ、また、この金属化合物にはフタロシアニン鉄が好ましい。フタロシアニン鉄は常温で化学的に安定しているため取り扱いやすく加熱することにより触媒作用を持つ鉄が遊離してくるという点で特に好ましい。
【0013】
溶媒は、高分子材料に対して高い溶解性を持つ溶媒が好ましく、例えば有機溶媒を用いることができる。この有機溶媒には、極性アミド系溶媒があり、例えばN−メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、 ジメチルホルムアミド等がある。特にN−メチルピロリドンは溶解性が高いので、付加機能を持たせるために、様々な添加剤を入れても均一な塗料液を形成しやすいから好ましい。
【0014】
基材は特に限定されないが、耐熱性を有する材料を用いることが好ましい。実施の形態ではニクロム線を用いている。これはニクロム線を抵抗加熱ヒータとして用いることができるからである。
【0015】
塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、浸漬、スプレー等がある。浸漬には塗料溶液中に基材を、いわゆる、どぶ漬けすることができる。
【0016】
酸素は存在しないか、または酸素分圧が低く酸素が少ない雰囲気が好ましく、例えば焼成炉中に基材を配置し、この焼成炉中にアルゴンガス等の不活性ガスを導入することにより、酸素を排出して酸素を存在させないか酸素の存在を少なくすることができる。
【0017】
常圧は大気圧を含むものであり、上記焼成炉内部を真空引きして酸素を排出する必要がない。常圧にすることにより、炭素膜の製造操作を容易化することができる。また、炭素膜を量産コストを低くして量産するうえでも好ましい。
【0018】
図2以降を参照して具体的に実施の形態の炭素膜の製造方法を説明する。図2は上記塗布工程を示す。塗料容器1には塗料3が充填されている。この塗料3は上記例示したものにおいて、炭素含有化合物として高分子材料であるポリアミドイミド、溶媒としてN−メチルピロリドン、触媒金属を含む金属化合物としてフタロシアニン鉄が混合された塗料である。この塗料容器1中に基材の一例としてニクロム線5が折曲げた状態で浸漬される。この浸漬後にニクロム線5を塗料溶液1中から引き上げる。図3には塗料溶液1中から引き上げたニクロム線5の一部の断面が示されている。ニクロム線5の表面には上記浸漬により塗料3が付着している。この場合、溶媒であるN−メチルピロリドンは樹脂であるポリアミドイミドとの混合率を調整することにより最適な粘度にすることができるために、塗料3はニクロム線5の表面全体にほぼ均等な厚みで付着することができる。実施の形態の製造方法はこの塗布工程を有することによりウェットプロセスにより炭素膜を製造する方法と称することができる。この点で従来のプラズマCVDや熱CVD等のドライプロセスと区別することができることも実施の形態の特徴となっている。
【0019】
次いで、図4で示すようにこのニクロム線5を焼成炉7の内部に配置する。この配置の後、ニクロム線5の両端に交流電源9を接続し、かつ、焼成炉7内部に不活性ガスであるアルゴンガスを導入して焼成炉7内部に酸素が存在しない状態とする。この場合、焼成炉7内部の圧力は大気圧である。なお、ニクロム線5には交流電源9ではなく直流電源を印加して通電してもよい。
【0020】
次いで、交流電源9を駆動してニクロム線5に10−14A程度で数分から数10分程度通電すると、ニクロム線5は抵抗加熱ヒータとして高温状態となり、塗料3が焼成される。そうすると、図5でニクロム線5の一部拡大断面を示すように、塗料3中のポリアミドイミドが熱分解されるとともに、フタロシアニン鉄13の熱分解により遊離する微粒子状の鉄の触媒作用によりニクロム線5の表面に炭素膜15が成長する。この炭素膜15は針状である。図6には、上記工程を経て製造した炭素膜15のSEM写真を示す。このSEM写真には炭素膜15は厚さが数百nm、幅が10μm、長さが数mmである。このSEM写真で示す炭素膜15は、上記通電時間、通電電流の調整により、厚さ、幅、長さを種々に調整することができる。
【0021】
この炭素膜15はアスペクト比が大きく、鋭い先端を持つため、冷陰極電子源の電子放出材料とすることができる。
【0022】
以上説明したように実施の形態の製造方法においては、炭素含有化合物であるポリアミドイミドと、触媒金属を含む金属化合物であるフタロシアニン鉄とを溶媒であるN−メチルピロリドン中に混入してなる塗料3をニクロム線5の表面に塗布し、次いで塗料が塗布されたニクロム線5をアルゴンガスが導入された大気圧下の焼成炉7内に置いて交流電源9または直流電源で通電して発熱させることにより、ニクロム線5表面の塗料3を焼成し炭素膜15を成長させるものである。そのため、その製造方法の実施に用いる設備としては、図2の塗料容器1と、焼成炉7とだけで済む安価な設備となっている。また、上記工程は、炭素膜の量産に向いている。
【0023】
上記においては、基材にニクロム線5を用いたが、これに限定されず、例えば、任意の形状の基材とし、その基材表面にインクジェットプリンタ方式で塗料を着け、これを加熱することにより、その基材表面に炭素膜を製造することができる。すなわち、実施の形態の塗料をインクジェットプリンタのインクとして用いることができる。こうすることによりインクジェットプリンタで陰極表面に任意のパターンに印刷し、この印刷パターンに対して熱を加えてそのパターンに対応した陰極表面に炭素膜を成長させることができる。その結果、この炭素膜に対向して蛍光体と陽極とを対向配置することにより、種々のパターンで発光させることができると、考えられる。
【0024】
上記においては、基材として板状で面積が大きいものとし、その基材表面に塗料を塗布したものを焼成炉で焼成しても炭素膜を製造することができる。
【0025】
上記においては、炭素膜の製造ラインにおいて、基材表面に塗料をスプレーや浸漬等により塗布するラインと、塗料を塗布した基材を焼成炉に通して塗料を焼成するラインとを配備して、量産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る炭素膜の製造方法の製造工程を示す図である。
【図2】図2は上記製造工程の中の塗布工程の実施状態を示す図である。
【図3】図3は上記塗布工程でニクロム線表面に塗料が塗布された状態を示す断面図である。
【図4】図4は上記製造工程の中の焼成工程の実施状態を示す図である。
【図5】図5は上記焼成工程でニクロム線表面に炭素膜が成長した状態を示す断面図である。
【図6】図6は上記製造方法で製造した炭素膜のSEM写真である。
【符号の説明】
【0027】
1 塗料容器
3 塗料
5 ニクロム線(基材)
7 焼成炉
9 交流電源
11 アルゴンガス
13 触媒金属
15 炭素膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含有している炭素含有化合物と、触媒金属または触媒金属を含有する金属化合物と、を溶媒中に混入してなる塗料を基材の表面に塗布する塗布工程と、上記基材表面に塗布した塗料を焼成することにより基材表面に炭素膜を成長させる焼成工程とを、を含むことを特徴とする炭素膜の製造方法。
【請求項2】
上記焼成工程が、酸素非存在または酸素の存在が少ない常圧下で塗料を焼成する工程である、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素膜の製造方法。
【請求項3】
上記金属化合物がフタロシアニン鉄である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の炭素膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−24560(P2008−24560A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200535(P2006−200535)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(504224371)ダイヤライトジャパン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】