説明

炭酸ガス吸収材、及び炭酸ガス反応装置

【課題】 本発明は、室温から400℃、特に室温において、十分な炭酸ガス吸収能を示す炭酸ガス吸収材及び炭酸ガス反応装置を得ることにある。
【解決手段】 本発明の炭酸ガス吸収材は、リチウムシリケート(LiSiO、LiSiO)を主成分とし、LiOH又はLiOH(HO){(HO)は結晶水を示す}を含有している炭酸ガス吸収材、及び、リチウムシリケートを主成分とし、LiOHを含有している炭酸ガス吸収材を有する反応容器を備え、反応容器に導入された炭酸ガスを吸収する炭酸ガス反応装置にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス吸収材、及び炭酸ガス吸収装置に関し、室温から400℃、特に室温における炭酸ガスの吸収に適した炭酸ガス吸収材、及び炭酸ガス吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境を保全するために炭酸ガスの排出量を規制する動きが活発になっている。炭酸ガスは、例えば、炭化水素を主成分とする燃料の燃焼、化石燃料を原料として利用するエネルギープラント、化学プラント、自動車などから発生する排出ガスに含まれており、これを大気中に放出せず、効率よく分離除去することが求められている。また、燃焼効率を上げるために、燃料や原料の供給部で炭酸ガスを吸収分離したり、生命維持や雰囲気の制御のために密閉空間や計測器中の炭酸ガスを吸収材で分離したりすることが求められている。
【0003】
従来、このような炭酸ガスを吸収する炭酸ガス吸収材として、リチウムシリケートが知られている。しかし、従来のリチウムシリケートの使用方法では、炭酸ガスを吸収する温度領域は、450℃〜700℃であった。
【0004】
また、特許文献1には、炭酸ガス吸収材としてCaO(カルシア)、反応温度550℃〜650℃が記載されている。
【0005】
また、室温用の炭酸ガス吸収材としては、ソーダライムが存在している。ソーダライムは、水酸化カルシウムが主成分であり、水酸化カルシウムが炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムとなることで炭酸ガスを吸収している。しかし、ソーダライムは、水分の存在が必須であるため、乾燥すると、その吸収性能が著しく低下することが知られている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平8−24571号公報
【特許文献2】特開平7−185319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リチウムシリケートを用いた炭酸ガス吸収材における従来の上記問題点を解決するためになされたもので、400℃以下においても、効率良く炭酸ガスを吸収する炭酸ガス吸収能を示す炭酸ガス吸収材を提供することを目的としている。
【0008】
また、本発明は、乾燥雰囲気においても吸収性能の低下が少ない炭酸ガス吸収材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リチウムシリケート(LiSiO、LiSiO)を主成分とし、LiOH又はLiOH(HO){(HO)は結晶水を示す}を含有していることを特徴とする炭酸ガス吸収材である。
【0010】
また、本発明は、リチウムシリケートを主成分とし、LiOHを含有している炭酸ガス吸収材を有する反応容器と、反応容器にガスを供給するガス導入管と、反応容器からガスを排出するガス排出管とを備え、反応容器に導入された炭酸ガスを炭酸ガス吸収材で吸収することを特徴とする炭酸ガス反応装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭酸ガス吸収材を使用すると、室温〜400℃までの広い温度範囲で炭酸ガスを吸収することができる。また乾燥雰囲気においても、吸収性能の低下が少なく炭酸ガスを吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[実施の形態]
炭酸ガス吸収材は、リチウムシリケートを主成分とし、LiOHを含有しており、LiOH単体やLiOH・(H0){(HO)は結晶水を示す}を含有している。炭酸ガス吸収材は、炭酸ガスを吸収することできる。例えば、この炭酸ガス吸収材を反応容器に収納し、炭酸ガスの混入した混合ガスを反応容器に通過させると、炭酸ガスを吸収し、炭酸ガスを分離することができる。また、炭酸ガスを吸収した吸収材は、再生処理を施すことで、繰り返し使用することができる。また、炭酸ガス吸収材を収容した反応容器の前後に炭酸ガス濃度計やバルブを設置することで、炭酸ガス濃度を調整する装置を得ることができる。
【0013】
リチウムシリケート(LiSiO)が炭酸ガスを吸収する化学反応式は、以下の式(1)で表される。
【0014】
LiSiO+CO → LiSiO+LiCO ・・・(1)
【0015】
式(1)は、可逆反応であり、高温下では反応式(2)に示すような逆の反応が起り、炭酸ガスは放出される。
【0016】
LiSiO+LiCO → LiSiO+CO ・・・・(2)
【0017】
このような可逆反応を繰り返すことにより、リチウムシリケートを主材とする炭酸ガス吸収材は繰り返し使用することが可能である。しかし、炭酸ガスを吸収する領域は、450℃〜700℃であった。
【0018】
そこで、リチウムシリケートに水を反応させることで、リチウムシリケートの一部をLiOHに変化させて、リチウムシリケート中に含有させることができる。その化学反応式は、以下の式(3)で表される。
【0019】
LiSiO+H0 → LiSiO+2LiOH ・・・・・(3)
【0020】
リチウムシリケート中に存在するLiOHは、室温〜700℃で炭酸ガスを吸収する。その反応式は、以下の式(4)で表される。
【0021】
LiSiO+2LiOH+CO → LiSiO+LiCO+HO ・・・・・(4)
【0022】
炭酸ガスと反応して生成した炭酸リチウムは、熱処理をすることで、式(2)によりリチウムシリケートになる。また、未反応のLiOHは、次の式(5)によりリチウムシリケートになる。
【0023】
LiSiO+2LiOH→ LiSiO+H0 ・・・・・(5)
【0024】
リチウムシリケートは、水分と反応させることで、式(3)の反応がおこる。そのため、リチウムシリケートにLiOHが含有された、炭酸ガス吸収材に再生される。
【0025】
LiOHは、炭酸ガスとの反応性が非常に高いために、乾燥した室温でも、式(4)の反応がおこり、炭酸ガスを吸収することができる。
【0026】
よって、この炭酸ガス吸収材は、室温〜400℃の温度領域で、炭酸ガスを吸収することができる。また、乾燥した室温でも、炭酸ガスを吸収することができる。更に、炭酸ガスと反応した炭酸ガス吸収材は、再生処理を施すことで、繰り返し使用できる。
【0027】
リチウムシリケートの製造は、炭酸リチウムと酸化ケイ素に純水を加えて粉砕混合する。そのスラリーを乾燥後、混合粉を得る。次に、アルミナ乳鉢に純水、混合粉、バインダを入れて混練する。この混練物を成形、焼成し、リチウムシリケートを作製する。
【0028】
次に、作製したリチウムシリケートを窒素雰囲気などの不活性雰囲気で水分とリチウムシリケートを反応させる。以上のようにして、LiOHを含有した炭酸ガス吸収材を得る。
【0029】
炭酸ガス吸収装置は、図1に示すように、炭酸ガス吸収材2を収納する反応容器1と、反応容器1へ炭酸ガスを含む混合ガスを導入するガス導入管5と、反応容器1から混合ガスを排出するガス排出管6と、反応容器の前後に炭酸ガスの濃度を測定する炭酸ガス濃度計3と、反応容器1に導入されるガスの流量を測定する流量計4と、ガスの流量を調整するバルブ7を備えている。炭酸ガス吸収装置は、必要に応じて炭酸ガス吸収材2を加熱する加熱装置8などを備えている。加熱装置8では、反応容器を加熱する例が示されているが、炭酸ガス吸収材2を加熱できるものであれば、どのような装置でもよい。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
リチウムシリケートの製造は、以下のように行われる。ポリポットに原料となる炭酸リチウムと酸化ケイ素をモル比で2:1になるように入れ、粉砕用アルミナボール、純水を加えてポットミルで20時間(h)、粉砕混合した。そのスラリーを乾燥後、ナイロンメッシュを通し、平均粒径2μm以下の混合粉を得た。次に、アルミナ乳鉢に純水、混合粉、バインダ(多糖類)を入れて混練した。バインダの添加量は、混合粉に対して2wt%となるように添加した。この混練物を成形して約2mmの球状にした。この成形体を、窒素フロー雰囲気で、650℃で8h保持して焼成し、約2mmの球状品のリチウムシリケートを作製した。
【0031】
次に、LiOHを含有した炭酸ガス吸収材を次のように製造する。作製したリチウムシリケートを窒素雰囲気中のデシケータ中に静置し、そこに水中をパブリングさせた窒素ガスを導入して、リチウムシリケートの一部を水と反応させた。その後、窒素雰囲気中、105℃で2h保持して過剰な水分を除去して、LiOHを含有した炭酸ガス吸収材を得た。
【0032】
炭酸ガスの吸収性能の測定は、作製した炭酸ガス吸収材を反応容器に収納して行った。ガスの導入時間は、2時間とし、炭酸ガス吸収率は、次式で求めた。
【0033】
炭酸ガス吸収率(%)=吸収材が吸収した炭酸ガス量(g)/吸収材量(g)×100 ・・・・・(6)
【0034】
室温(25℃)で測定を行った装置は、図1に示すように、反応容器の前後に炭酸ガス濃度計を設置し、そこへ、炭酸ガス濃度3000ppmに調整した標準ガスを1L(リットル)/minで導入し、反応容器の前後の炭酸ガス濃度を測定し、炭酸ガス吸収材の吸収率を評価した。反応容器の容積は、7cmである。
【0035】
200℃で測定を行った装置は、図1の加熱装置を使用し、反応容器に炭酸ガス吸収材を収納して、そこへ、炭酸ガス濃度20重量%の標準ガスを500ml/min導入して、炭酸ガスを吸収させて、吸収材の重量変化により炭酸ガス吸収率を評価した。
【0036】
(比較例1)
実施例1と同様にリチウムシリケートを作製したが、水分と反応させずに、LiOH或いは、LiOH・H0を含有させなかった。この吸収材を実施例1と同様に、炭酸ガスの吸収率を室温(25℃)、200℃で測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
(測定結果1)
表1により、室温における炭酸ガス吸収率は、実施例1では8.7%であったが、比較例1では0.1%であり、LiOHを含有する炭酸ガス吸収材は、室温でも炭酸ガスを吸収することができることを示している。200℃における炭酸ガス吸収率は、実施例1では4.3%であったが、比較例1では0%であり、LiOHを含有する炭酸ガス吸収材は、200℃の雰囲気でも炭酸ガスを吸収することができることを示している。600℃における炭酸ガス吸収率は、実施例1では22.5%であったが、比較例1では23.3%である。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同様にリチウムシリケートを作製した。今回の形状は、平均粒径240μm〜420μmの顆粒状でおこなった。作製したリチウムシリケートを窒素雰囲気中のデシケータ中に静置し、そこに水中をバブリングさせた窒素ガスを導入して、リチウムシリケートの一部を反応させた。その後、窒素フロー雰囲気中、105℃で2h保持して過剰な水分を除去して、LiOHを含有した炭酸ガス吸収材を得た。また、室温で窒素フロー雰囲気のデシケータに24時間静置して、乾燥状態にさらした試料を作製した。炭酸ガスの吸収率の測定は、実施例1と同様に行った。
そのとき、標準ガスに水分を6300ppm(冬の乾操時期の水分量を想定)添加した。ガスの導入時間は2時間とした。炭酸ガス吸収率は、実施例1で使用した式と同一の式で求めた。
【0040】
(比較例2)
ソーダライムを平均粒径240μm〜420μmの顆粒状にしたものを用いて、実施例2と同様に炭酸ガス吸収率を測定した。また、室温で窒素フロー雰囲気のデシケータに24時間静置して、乾燥状態にさらした試料を作製した。これらのサンプルを実施例2と同様の方法で炭酸ガスの吸収率を測定した。
【0041】
【表2】

【0042】
(測定結果2)
表2により、乾燥前の炭酸ガスの吸収率は、実施例2では9.1%であったが、比較例2では6.7%であり、乾燥後の炭酸ガスの吸収率は、実施例2では9.1%であったが、比較例2では3.1%であった。これによりソーダライムは乾燥雰囲気下で炭酸ガス吸収率が著しく低下することを示している。このように、LiOHを含有する炭酸ガス吸収材は、乾燥雰囲気においても良好に炭酸ガスを吸収することができることを示している。それに対して、比較例2では、乾燥後の炭酸ガスの吸収率が悪いことを示している。
【0043】
実施例では、リチウムシリケートの形状を球状や顆粒状のものを使用しているが、リチウムシリケートの形状が円盤状、円柱状、角状、角柱状などさまざまな形状を選択することができる。また、水分を反応させる方法も、室温で加湿したガスを流しているが、高温で加湿ガスと反応させたり、オートクレーブを使用して反応させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の炭酸ガス反応装置を示す概略図
【符号の説明】
【0045】
1・・・反応容器
2・・・炭酸ガス吸収材
3・・・炭酸ガス濃度計
4・・・流量計
5・・・ガス導入管
6・・・ガス排出管
7・・・バルブ
8・・・加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムシリケート(LiSiO、LiSiO)を主成分とし、LiOH又はLiOH(HO){(HO)は結晶水を示す}を含有していることを特徴とする炭酸ガス吸収材。
【請求項2】
炭酸ガス吸収材におけるリチウム化合物のモル比がLiSiO:LiSiO:LiOH=1−x:x:2x(0<x≦1)であることを特徴とする、請求項1記載の炭酸ガス吸収材。
【請求項3】
リチウムシリケートを主成分とし、LiOHを含有している炭酸ガス吸収材を有する反応容器と、
反応容器にガスを供給するガス導入管と、
反応容器からガスを排出するガス排出管とを備え、
反応容器に導入された炭酸ガスを炭酸ガス吸収材で吸収することを特徴とする炭酸ガス反応装置。
【請求項4】
炭酸ガス吸収材を加熱する加熱装置と炭酸ガス吸収材を加湿する加湿装置を備えている、請求項3記載の炭酸ガス反応装置。
【請求項5】
ガス導入管とガス排出管に各々、管内の炭酸ガスを計測する炭酸ガス濃度計、及び炭酸ガス供給源を備えている、請求項3又は請求項4記載の炭酸ガス反応装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−102561(P2006−102561A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288370(P2004−288370)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】