説明

炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液

【課題】水溶性高分子化合物架橋用として用いた場合、従来よりも高い架橋性能を示す炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を提供する。
【解決手段】炭酸種およびキレート化剤を含有し、炭酸種とジルコニウムとのモル比が3〜9で、キレート化剤とジルコニウムのモル比が0.01〜1であることを特徴とする。キレート化剤がエタノールアミン類、酒石酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸およびグリコール酸ならびにこれらの塩から選ばれる1種または2種以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールやポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物架橋用のジルコニウム水溶液として、炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液が市販されており、製紙、金属表面処理、接着剤および光学フィルムなどの分野で広く利用されている。
近年、環境への安全性が重視される趨勢にあって、有機系の架橋剤やホウ酸よりも毒性の低い炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液のニーズは増加しているが、架橋性能で劣るため、性能向上が求められている。
【0003】
上記市販の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液は、特許文献1に開示されるように、炭酸とジルコニウムの比が2.05以下となるように炭酸水素アンモニウムおよびアンモニアの混合水溶液に塩基性炭酸ジルコニウムを添加し、加熱して合成したものである。
この方法によって製造された炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液は、水溶液中に溶存するジルコニウム(IV)イオンが、巨大なジルコニウム(IV)イオンの重合体である塩基性炭酸ジルコニウムの解重合反応に由来するため、ジルコニウム(IV)イオンの重合度が高く、かつ、重合度にバラツキがある点で、架橋剤としての機能が妨げられていると考えられる。
【0004】
また、特許文献2には、炭酸ジルコニウムとアルカリ金属塩による水溶液を調製する際に、重炭酸塩のジルコニウムに対するモル比が少なくとも4の条件とすることによるポリビニルアルコール等の不溶化に優れた水性組成物の製造方法が開示されている。
この水性組成物は重合度と重合度のバラツキの点で改善されているが、この水性組成物と水溶性高分子化合物を架橋反応させた場合、架橋反応生成物に残留したアルカリ金属がこの組成物の溶出を促進することになるため、必ずしも架橋剤として最適とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 米国特許第4,061,720号 公報
【特許文献2】 特表2010−522685号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点を鑑みて成されたものであって、その目的は、水溶性高分子化合物架橋用として用いた場合、従来よりも高い架橋性能を示す炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液中に溶存するジルコニウム(IV)イオンの重合度が炭酸種とジルコニウムのモル比によって変化することを見出し、該モル比を特定の範囲に調整することで、その重合度を制御し、さらにキレート化剤と共存させることによって高い架橋性能が得られることを発見し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
(1)炭酸種およびキレート化剤を含有し、炭酸種とジルコニウムとのモル比が3〜9で、キレート化剤とジルコニウムのモル比が0.01〜1であることを特徴とする炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液。
(2)キレート化剤がエタノールアミン類、酒石酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸およびグリコール酸ならびにこれらの塩から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする前記(1)記載の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液。
(3)水溶性高分子化合物架橋用として用いられることを特徴とする前記(1)または前記(2)記載の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液。
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液は、水溶性高分子化合物架橋用として用いた場合、高い架橋性能を発揮するため、斯界において好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】 炭酸種とジルコニウムのモル比が液(A):1.6、液(B):6、液(C):8の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液におけるZr−K吸収端拡張X線吸収微細構造スペクトルのフーリエ変換によって導出されたジルコニウム(IV)イオン周辺の動径分布関数を示す。
【図2】 炭酸ジルコニウムアンモニウム結晶(NHZr(OH)(CO・2HO中のジルコニウム(IV)イオンの周辺構造の模式図を示す。
【図3】 モノマーモデルにおいて炭酸種の配位数を変化させた理論EXAFSスペクトルおよび液(B)のEXAFSスペクトルのフーリエ変換によって導出した動径分布関数を示す。
【図4】 ダイマーモデルにおいて炭酸種の配位数を変化させた理論EXAFSスペクトルおよび液(B)のEXAFSスペクトルのフーリエ変換によって導出した動径分布関数を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液について詳細に説明する。
炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液は、ジルコニウムに対するモル比が0.02以下のハフニウムを含有していてもよい。本発明の用途では上記の含有量においてハフニウムの悪影響は認められない。
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液は、炭酸種とジルコニウムのモル比(炭酸種/ジルコニウム)が3〜9、好ましくは4〜8の炭酸種を含有する。炭酸種は、炭酸(HCO)、炭酸水素イオン(HCO)および炭酸イオン(CO2−)のいずれでもよい。
上記モル比の範囲で炭酸種はジルコニウム(IV)イオンに配位し、例えば炭酸種がCO2−の場合は、モノマー[Zr(CO(2n−4)−{9≧n≧4}またはダイマー[Zr(OH)(CO6−等を形成すると考えられる。
【0011】
炭酸種を配位子としたジルコニウム(IV)イオンと水溶性高分子化合物、例えば一般的なポリビニルアルコール(−CHCH(OH)−)との架橋反応は、ジルコニウム(IV)イオンに配位した炭酸種とポリビニルアルコールの水酸基の配位子置換反応によると考えられる。
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液が高い架橋反応活性を示す理由は、上記モノマーおよびダイマーでは、反応に関与できるジルコニウム(IV)イオンが多く、また、炭酸種の配位数が多いことによって水溶性高分子化合物との架橋反応サイトが多く存在することになるためと考えられる。
【0012】
炭酸種とジルコニウムのモル比が3未満では、ジルコニウム(IV)イオンは2重の水酸基を介して他のジルコニウム(IV)イオンと重合し、架橋反応サイトが減少するため好ましくない。このモル比が小さくなるほど重合は促進され、架橋反応サイトは減少していくと考えられる。
また、炭酸種とジルコニウムのモル比が9を越える場合は、ジルコニウム(IV)イオンに配位する炭酸種が飽和し、配位しない炭酸種が多くなり、それが架橋反応を妨害するため好ましくない。
【0013】
次に、炭酸種とジルコニウムのモル比とジルコニウム(IV)イオンの構造の関係について説明する。
大型放射光施設SPring−8のビームラインBL14B2で測定した[Zr]=0.1mol/lであり、炭酸種とジルコニウムのモル比が1.6、6および8の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液、それぞれ液(A)、(B)および(C)のZr−K吸収端(18.0keV)の拡張X線吸収微細構造(Extended X−ray Absorption Fine Structure、以下、EXAFSという)スペクトルを測定した。
そのスペクトルのフーリエ変換によって導出した液(A)、(B)および(C)のジルコニウム(IV)イオン周辺の動径分布関数を図1に示す。
これより、液(B)と液(C)の動径分布関数はピーク強度、位置、形状が一致していることから、両者のジルコニウム(IV)イオンが同じ構造を持っていることがわかる。
【0014】
この動径分布関数の3.2Åのピークが2重の水酸基を介して重合したジルコニウム(IV)イオン(Zr−Zr配位)に帰属される成分であり、また、すぐ隣にある3.5Åの成分はジルコニウムに配位した炭酸種による成分である。動径分布関数の動径距離=2.7〜3.9Åの範囲で逆フーリエ変換を行い、上記2成分に関わるEXAFSスペクトルを抽出し、理論EXAFSスペクトルとのフィッティングを行った。
個々の配位成分の理論EXAFSスペクトルは、下記数式1で表される。
【0015】
【数1】

数式1におけるF(k)およびφ(k)はそれぞれの配位成分固有の後方散乱強度および位相シフトであり、これらは光電子波散乱の理論計算ソフトウェアFEFF6(S.I.Zabinsky,et al.,J Phys,Rev.B,52,2995(1995))を用いてそれぞれの配位成分ごとに計算した。
この理論計算ではZr−Zr配位およびジルコニウム(IV)イオンへの炭酸種の配位の構造モデルとして炭酸ジルコニウムアンモニウム(NHZr(OH)(CO・2HOの結晶構造(A.Clearfield,Inorganica Chimica Acta,4:1,March,166(1970))を参照した。
【0016】
図2に上記炭酸ジルコニウムアンモニウム(NHZr(OH)(CO・2HO結晶のジルコニウム(IV)イオン周辺構造の模式図を示す。
水溶液中のジルコニウム(IV)イオンの重合度、構造および炭酸種の配位数によらず、個々の配位構造について見れば、Zr−Zr配位に関しては2重の水酸基を介した配位であること、炭酸種の配位については炭酸種が2つの酸素によって二座配位している構造は上記結晶と同様のものであるため、理論計算のためにこのモデル採用した前提は妥当なものである。
具体的には、Zr−Zr配位成分として図2におけるZr1−Zr2(距離3.498Å)、ジルコニウム(IV)イオンに配位した炭酸種の成分としてZr1−O5−C1−Zr1およびZr1−C2−O9−C2−Zr1(距離はともに3.898Å)の経路の光電子散乱による3つの理論EXAFSスペクトルを計算した。
そして、数式1におけるN;配位数、r:配位距離、σ:Debye−Waller因子およびk:光電子の波数をパラメータとして逆フーリエ変換によって導出した実スペクトルに対して、これら3つの理論EXAFSスペクトルを同時にフィッティングし、Zr−Zr配位数を決定した。
EXAFSスペクトルのフーリエ変換による動径分布関数の導出、逆フーリエ変換および理論計算スペクトルと実スペクトルのフィッティングには解析ソフトウェアREX2000(RIGAKU製)を使用した。
【0017】
この定量的解析の結果、Zr−Zr配位数は液(A)で4、液(B)および液(C)では0であった。
Zr−Zr配位数が4であることの意味は、ひとつのジルコニウム(IV)イオンが2重の水酸基を介して4つのジルコニウム(IV)イオンと配位しているということである。この場合、少なくともジルコニウム(IV)イオンはモノマー(理論Zr−Zr配位数:0)およびダイマー(理論Zr−Zr配位数:1)ではありえず、従って液(A)の重合度は少なくとも3以上であると結論できる。
一方、Zr−Zr配位数が0であった液(B)および(C)はモノマー構造であると推定される。
【0018】
次に、FEFF6で計算したモノマーモデルとダイマーモデルによる理論計算スペクトルならびに液(A)、(B)および(C)の実スペクトルの視覚的な比較を行った。
モノマーモデルにおいて炭酸種の配位数を変化させたときの理論計算EXAFSスペクトルおよび液(B)のEXAFSスペクトルのフーリエ変換によって導出した動径分布関数を図3に示す。
また、ダイマーモデルについても同様に図4に示す。ダイマーモデルでは図2のようにジルコニウム(IV)イオンが2重の水酸基を介して配位した構造を想定しているため、Zr−Zr配位数を1、水酸基の配位数を2とした。
図3より、液(B)の動径分布関数はモノマーの炭酸種の配位数6のモデルと最もよく一致していることがわかる。
一方、ダイマーモデルと比較では、特に3.2Å付近のZr−Zr配位成分での乖離が大きく、液(B)がZr−Zr配位を持たないことが裏付けられた。
この、視覚的な検証からも液(B)および(C)がモノマー構造であることが確認された。
【0019】
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液はキレート化剤を含有する。キレート化剤とジルコニウムのモル比(キレート化剤/ジルコニウム)は、0.01〜1である。好ましい範囲はキレート化剤により異なるので、後述する。
炭酸種を配位子としたジルコニウム(IV)イオンと水溶性高分子化合物との架橋反応が起こる状況では、ジルコニウム(IV)イオン同士の重合反応も競合的に発生すると考えられる。理由は明らかではないが、キレート化剤はあらかじめジルコニウム(IV)イオンに配位しているか、または、炭酸種との置換によってジルコニウム(IV)イオンに配位することによって、このジルコニウム(IV)イオン同士の重合反応のみを抑制するように作用すると考えられる。
キレート化剤とジルコニウムのモル比が0.01未満では上記の効果が十分に得られず、1を超えると水溶性高分子化合物との架橋反応が妨害されるため好ましくない。
本発明に有効なキレート化剤としては、エタノールアミン類、酒石酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸、グリコール酸ならびにこれらの塩等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。エタノールアミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミンが例示される。
これらの中で、トリエタノールアミン、酒石酸、グルコン酸ならびにこれらの塩が高い架橋性能が得られる点で好ましく、グルコン酸ならびにその塩が特に好ましい。
キレート化剤として、グルコン酸ならびにその塩を用いた場合には、キレート化剤とジルコニウムのモル比は、好ましくは0.1〜0.9である。
キレート化剤として、グルコン酸ならびにその塩以外のものを用いた場合には、キレート化剤とジルコニウムのモル比は、好ましくは0.05〜0.2である。
【0020】
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の濃度は[Zr]=0.1mol/l以上が好ましい。この濃度未満の場合は、ジルコニウム(IV)イオンに配位した炭酸種が脱離してしまい、モノマーまたはダイマーの構造を維持できない可能性がある。
なお、上限は特に限定されるものではないが、[Zr]= 2mol/l程度である。
また、本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液のpHは特に限定されないが、炭酸種の揮発を抑制するためpH7以上が望ましい。このpHの上限は特に限定されないが、通常、10〜11程度である。
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液は、pHを7以上に制御するために塩基も含有する。塩基は、架橋反応の過程で揮発しやすく架橋反応を促進できるため、および、架橋反応後のジルコニウムと水溶性高分子化合物との反応生成物中に残留し難く、反応生成物の水への溶出を抑制できるため、アンモニアが望ましい。また、沸点の低いアミン類を使用してもよい。
【0021】
ジルコニウム水溶液の製造方法
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液は、最終的にジルコニウムに対する炭酸種のモル比が3〜9になればよいので、製造に用いるジルコニウム、炭酸種の原料種および使用量は特に限定されない。
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を製造するためのジルコニウム源としては、炭酸ジルコニウムアンモニウムの結晶(NHZr(OH)(CO・2HO、塩基性炭酸ジルコニウムZr(OH)(4−2n)(CO・mHO(n=0.4、m=7、第一稀元素化学工業株式会社製)、オキシ塩化ジルコニウムおよびオキシ硝酸ジルコニウム等が挙げられる。これらのジルコニウム源はジルコニウムに対するモル比が0.02以下のハフニウムを含有していてもよい。本発明の用途では上記の含有量においてハフニウムの悪影響は認められない。
炭酸種源としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび炭酸ガス等が挙げられる。
キレート化剤としては、エタノールアミン類、酒石酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸およびグリコール酸ならびにこれらの塩等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
これらの中で、トリエタノールアミン、酒石酸、グルコン酸ならびにこれらの塩が高い架橋性能が得られる点で好ましく、グルコン酸ならびにその塩が特に好ましい。
塩基源としてはアンモニア水、アンモニアガスおよびアミン類が挙げられる。
【0022】
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の具体的な製造方法としては、水に炭酸ジルコニウムアンモニウムの結晶(NHZr(OH)(CO・2HO、必要に応じてジルコニウムに対するモル比が6以下(0も含む)の炭酸水素アンモニウムおよびジルコニウムに対するモル比が0.01〜1のキレート化剤を添加し混合することで製造できる。
また、塩基性炭酸ジルコニウムZr(OH)(4−2n)(CO・mHO(n=0.4、m=7、第一稀元素化学工業製)、必要に応じてジルコニウムに対するモル比が2.6〜8.6の炭酸水素アンモニウムおよびジルコニウムに対するモル比が0.01〜1のキレート化剤を添加し、加熱することでも製造できる。
また、所定量のオキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム等の酸性塩、炭酸水素アンモニウムおよびキレート化剤を混合することで製造してもよい。
【0023】
架橋性能の評価
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液は、ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール、エポキシ変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリウレタン、アルキッド樹脂、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、水溶性でんぷん等の多糖類、カゼイン、ゼラチン等のたんぱく類、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体、スチレン/アクリル酸/アクリルアミド共重合体、カルボキシ変性スチレン/ブタジエン共重合体等の水溶性高分子化合物の架橋剤として高い効果を発揮する。
架橋反応はこれらの水溶性高分子化合物の親水性官能基である水酸基、カルボキシル基およびカルボニル基等の酸素が持つ非共有電子対がジルコニウムに配位することによると考えられるが、架橋反応の結果、上記親水基の親水性が低下するため、水溶性高分子化合物の水への溶解度は低下する。
本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液は、水溶性高分子化合物の固型分100重量部対して、ZrO換算で0.1〜30重量部、好ましくは、1〜20重量部添加することで、最も水溶性高分子化合物を不溶化させる、即ち、効率よく架橋することができる。
【0024】
以下に、本発明の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の架橋性能の評価方法を示す。
ゴーセファイマーZ−200(アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、日本合成化学工業株式会社製)を純水に溶解し10wt%水溶液とした。ゴーセファイマーZ−200の10wt%水溶液12.8gにジルコニウム換算で0.001mol(0.1mol/l×10ml)の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を添加した混合液より、1.0gを取り、30mmの丸型平底シャーレの底部に均一に引き伸ばした。
このシャーレを室温で1週間静置後、70℃で30分加熱処理を行い、本発明のジルコニウム水溶液で架橋したゴーセファイマーZ−200フィルムを得た。このフィルムをシャーレごと80℃の水浴に1時間浸漬し、水浴に浸漬する前後での重量差から、浸漬後のフィルムの残存率を求めた。この評価方法においてフィルムの残存率が高いものほど架橋性能が高いといえる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
なお、大型放射光施設SPring−8のビームラインBL14B2のEXAFS測定で用いた[Zr]=0.1mol/lであり、炭酸種とジルコニウムのモル比が1.6、6および8の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液、それぞれ液(A)、(B)および(C)の作製方法は、以下の通りである。
<液(A)(炭酸種/Zr モル比=1.6)>
塩基性炭酸ジルコニウムZr(OH)(4−2n)(CO・mHO(n=0.4、m=7、第一稀元素化学工業株式会社製)100gに炭酸水素アンモニウム32.2g、25%アンモニア水19.0gおよび純水30mlを混合し、50℃で12時間加熱し、炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。該水溶液5.3g(ジルコニウム換算で0.01mol)を取り分け、純水で希釈し100mlとして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
<液(B)(炭酸種/Zr モル比=6)>
純水60mlに炭酸ジルコニウムアンモニウム結晶{(NHZr(OH)(CO・2HO、以下、同様。}(純度90%、ZrO換算濃度29.53%)を4.17g、炭酸水素アンモニウム2.37gを添加、混合し、さらに100mlとなるように純水を加え、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
<液(C)(炭酸種/Zr モル比=8)>
純水60mlに炭酸ジルコニウムアンモニウム結晶(純度90%、ZrO換算濃度29.53%)を4.17g、炭酸水素アンモニウム3.95gを添加、混合し、さらに100mlとなるように純水を加え、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
【実施例1】
【0026】
純水60mlに炭酸ジルコニウムアンモニウム結晶(純度90%、ZrO換算濃度29.53%)4.17gおよびトリエタノールアミン0.075gを添加、混合し、さらに100mlとなるように純水を加え、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の炭酸種とジルコニウムとのモル比は3で、トリエタノールアミンとジルコニウムのモル比は0.05であった。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は78%であった。
【実施例2】
【0027】
トリエタノールアミンとジルコニウムのモル比を0.1とした以外は、実施例1と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は81%であった。
【実施例3】
【0028】
トリエタノールアミンとジルコニウムのモル比を0.2とした以外は、実施例1と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は79%であった。
【実施例4】
【0029】
純水60mlに炭酸ジルコニウムアンモニウム結晶(純度90%、ZrO換算濃度29.53%)4.17g、炭酸水素アンモニウム2.37gおよびトリエタノールアミン0.075g添加、混合し、さらに100mlとなるように純水を加え、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の炭酸種とジルコニウムとのモル比は6で、トリエタノールアミンとジルコニウムのモル比は0.05であった。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は80%であった。
【実施例5】
【0030】
トリエタノールアミンとジルコニウムのモル比を0.1とした以外は、実施例4と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は82%であった。
【実施例6】
【0031】
トリエタノールアミンとジルコニウムのモル比を0.2とした以外は、実施例4と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は81%であった。
【実施例7】
【0032】
トリエタノールアミンの代わりに酒石酸アンモニウム0.092gを用いた以外は、実施例1と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の炭酸種とジルコニウムとのモル比は3で、酒石酸アンモニウムとジルコニウムのモル比は0.05であった。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は78%であった。
【実施例8】
【0033】
酒石酸アンモニウムとジルコニウムのモル比を0.1とした以外は、実施例7と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は78%であった。
【実施例9】
【0034】
酒石酸アンモニウムとジルコニウムのモル比を0.2とした以外は、実施例7と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は77%であった。
【実施例10】
【0035】
トリエタノールアミンの代わりに酒石酸アンモニウム0.092gを用いた以外は、実施例4と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の炭酸種とジルコニウムとのモル比は6で、酒石酸アンモニウムとジルコニウムのモル比は0.05であった。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は76%であった。
【実施例11】
【0036】
酒石酸アンモニウムとジルコニウムのモル比を0.1とした以外は、実施例10と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は75%であった。
【実施例12】
【0037】
トリエタノールアミンの代わりにグルコン酸0.10gを用いた以外は、実施例1と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の炭酸種とジルコニウムとのモル比は3で、グルコン酸とジルコニウムのモル比は0.05であった。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は74%であった。
【実施例13】
【0038】
グルコン酸とジルコニウムのモル比を0.1、0.2、0.4および0.6とした以外は、実施例12と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は、それぞれ、79%、85%および84%であった。
【実施例14】
【0039】
トリエタノールアミンの代わりにグルコン酸0.10gを用いた以外は、実施例4と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の炭酸種とジルコニウムとのモル比は6で、グルコン酸とジルコニウムのモル比は0.05であった。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は76%であった。
【実施例15】
【0040】
グルコン酸とジルコニウムのモル比を0.3、0.4、0.6、0.8および1.0とした以外は、実施例12と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は、それぞれ、83%、84%、91%、90%および78%であった。
【0041】
(比較例1)
塩基性炭酸ジルコニウムZr(OH)(4−2n)(CO・mHO(n=0.4、m=7、第一稀元素化学工業株式会社製)100gに炭酸水素アンモニウム32.2g、25%アンモニア水19.0g、トリエタノールアミン2.5gおよび純水30mlを混合し、50℃で12時間加熱し炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。該水溶液5.4g(ジルコニウム換算で0.01mol)を取り分け、純水で希釈し100mlとして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の炭酸種とジルコニウムとのモル比は1.6で、トリエタノールアミンとジルコニウムのモル比は0.05であった。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は68%であった。
【0042】
(比較例2)
トリエタノールアミンとジルコニウムのモル比を0.1とした以外は、比較例1と同様にして、0.1mol/l炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は71%であった。
【0043】
(比較例3)
トリエタノールアミンの代わりに酒石酸アンモニウム0.092gを用いた以外は、比較例1と同様にして、0.1mol/l炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の炭酸種とジルコニウムとのモル比は1.6で、酒石酸アンモニウムとジルコニウムのモル比は0.05であった。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は70%であった。
【0044】
(比較例4)
酒石酸アンモニウムとジルコニウムのモル比を0.1とした以外は、比較例3と同様にして、0.1mol/l炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は68%であった。
【0045】
(比較例5)
トリエタノールアミンの代わりにグルコン酸0.10gを用いた以外は、比較例1と同様にして、0.1mol/l炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液の炭酸種とジルコニウムとのモル比は1.6で、グルコン酸とジルコニウムのモル比は0.05であった。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は69%であった。
【0046】
(比較例6)
グルコン酸とジルコニウムのモル比を0.1、0.2、0.4および0.6とした以外は、比較例5と同様にして、0.1mol/lの炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を得た。
該ジルコニウム水溶液の架橋性能を評価したところ、ゴーセファイマーZ−200の残存率は、それぞれ、68%、64%、54%および45%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸種およびキレート化剤を含有し、炭酸種とジルコニウムとのモル比が3〜9で、キレート化剤とジルコニウムのモル比が0.01〜1であることを特徴とする炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液。
【請求項2】
キレート化剤がエタノールアミン類、酒石酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸およびグリコール酸ならびにこれらの塩から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液。
【請求項3】
水溶性高分子化合物架橋用として用いられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−75813(P2013−75813A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−101809(P2012−101809)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】