説明

炭酸亜鉛の製造方法

【課題】 連続槽方式とバッチ処理方式など設備形態の如何を問わず適用でき、かつ安価、操業容易、確実である炭酸アンモニウム溶解・金属Znイオン交換法による製品のFe含有量低減を可能とした炭酸亜鉛の製造方法を提供する。
【解決手段】イオン交換および濾過後のZn含有溶液をオンサイトで行えるFe迅速分析法を用いて定期的に分析し、その結果のFe含有量が管理限界値を上回れば、晶析工程前の仕掛りのZn含有溶液について再度金属Znの添加によるイオン交換反応および濾過をやり直す工程管理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Zn含有原料、とくに製鉄所においてZnを除去するための還元炉等から発生するZn含有ダストやその他のZn含有発生物から、顔料、医療品等に供せられる酸化亜鉛の原料や、電気亜鉛メッキ用Zn素材として使用される塩基性炭酸亜鉛、通称、炭酸亜鉛の製造方法に関する。
【0002】
より詳しくは、(NHCO(炭酸アンモニウム)およびNHOH(水酸化アンモニウム)を含む炭酸アンモニウム溶液の溶媒にZn含有発生物を溶解し、その溶液中の不純物を金属Znの添加および濾過により低減した後に、当該溶液より炭酸亜鉛を晶析させる炭酸亜鉛の製造法に関する。
【0003】
なお、本発明において、炭酸アンモニウム溶液とは(NHCOおよびNHOHを含む溶液のことをいう。
【背景技術】
【0004】
炭酸亜鉛製造法について
従来から、Zn含有原料から炭酸亜鉛を製造する方法として、炭酸アンモニウム溶液にZn含有原料を溶解させ、その溶液中のアンモニアを加熱ないし減圧により蒸発させて炭酸亜鉛を晶析させる、いわゆる炭酸アンモニウム溶解法が知られている。
【0005】
この炭酸アンモニウム溶解法によって、製鉄所で発生するZn含有ダストから炭酸亜鉛を製造する場合、製鉄所のZn含有ダストはアルカリ、ハロゲン、およびFeなどの重金属類などの不純物を多く含むことから、高純度の炭酸亜鉛を製造するためには、これら不純物の除去が重要である。
【0006】
イオン交換法について
この重金属不純物の除去方法として、例えば特許文献1には、炭酸アンモニウム溶液にZn含有ダストを溶解させ、その溶液に金属Znを添加してイオン交換を行い、不純物としてZnより貴であるFe、Pb等の重金属類を沈殿させ残渣として除去する方法が開示されている。
【0007】
Znより貴な不純物のうち、FeはZnとの酸化還元電位の差が少なく、結果としてPb等の、より貴な不純物元素に比して除去の反応速度が遅い。結果としてのFe精製は難しく、製品炭酸亜鉛のFe値を低下させることが高純度の炭酸亜鉛製造の難しさの一つとなっている。
【0008】
Fe値低減の従来技術について
製品炭酸亜鉛のFe値低減の方法として、特許文献2には、イオン交換および濾過後に部分晶析を行ない、初晶を10%程度除去した後に本晶析を行い製品炭酸亜鉛結晶中のFeを低減する方法が示されている。
【0009】
また、特許文献3には、精製した溶液を、無機物を含まない短繊維をプリコートした濾過機で濾過し、その後メンブレンフィルターで濾過する亜鉛溶液の精密濾過方法が開示されている。
【0010】
さらに特許文献4には、イオン交換に供するZn溶解液そのもののFe濃度を下げる方法が提案されている。すなわち、複数の溶解槽を直列に配置し、少なくとも最終段溶解槽の次に沈降分離槽を設け、第1の溶解槽から最終の溶解槽へ溶液を移行するようにするとともに、最終の溶解槽へZn含有物を供給し、沈殿分離槽および第1溶解槽を除く溶解槽の未溶解Zn含有スラリーを前の溶解槽へ返送するZn含有物の向流溶解法である。
【0011】
また、特許文献5には、Fe値を低減させるイオン交換の装置が提案されている。すなわち、沈降性スラリーのための沈降部および上澄みの亜鉛溶液のための清澄部をもったイオン置換槽が複数槽、直列的に配置され、第1イオン交換槽に亜鉛溶液の供給口が設けられ、最終イオン置換槽に金属亜鉛の供給口が設けられ、さらに第1から最終のイオン置換槽にかけて亜鉛溶液の清澄液が順次移行する清澄液供給路が配設され、最終から第1のイオン置換槽へかけて、前記沈降性スラリーの返送路が、順次前段のイオン置換槽へ返送するよう配設されている精製装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平02−035693号公報
【特許文献2】特公平01−038048号公報
【特許文献3】特公昭63−046135号公報
【特許文献4】特公平01−038050号公報
【特許文献5】特公平01−039968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
製品としての炭酸亜鉛のFe値を低減する方法を開示した特許文献2の方法においては、部分晶析で生じた初晶を10%程度取り除き溶解工程へ戻すので、部分晶析以前の工程は、炭酸亜鉛製品の結晶の製造量に見合う各工程能力に対して、110%の設備能力を有する必要があり、その分設備費が高くなる。また、エネルギーコストなどの操業費も、部分晶析以前の工程では常に10%分上乗せする必要があるという欠点を持つ。
【0014】
また、特許文献3の方法は、本来の濾過機に加え精密濾過機を設置しなければならず、設備費が増加する欠点がある。また一般的に、ケーキ濾過法に比し、メンブレンを利用した精密膜濾過は膜の細孔が閉塞しやすく操業が難しくなる欠点がある。
【0015】
さらに、イオン交換に供するZn溶解液そのもののFe濃度を下げる方法を提案した特許文献4および5の方法は、何れも連続した多段の処理槽を設置することが前提であり、設備費が高額となる欠点がある。また、その実施例としては、Fe、Pb等の重金属不純物が1%程度の比較的不純物含有量が少ない原料を使用した例のみが示されており、還元炉二次ダストのように重金属不純物の合計量が数十パーセントもあるような純度の低い原料を使用する際には、バッフルプレート・ドラフトチューブなどによる沈降・清澄分離が機能しない恐れがある。また、本質的には、この方法はバッチ方式の処理設備には適用できないという問題もある。
【0016】
また、製品検査としては、製品の炭酸亜鉛中のFeの含有量を適宜分析し、その結果によって製品の合格・不合格を判断することが広く行われている。しかしながら、これは製品の直接的な品質検査であるに過ぎず、あくまで製造結果を判断するためのものであり、製造工程に遡って、Fe量を安定して低減することとは直接的な関係はない。
【0017】
以上のように、金属Znによるイオン交換法による製品としての炭酸亜鉛中の重金属の低減、とくに、Fe量の低減を安価で、操業容易で、かつ、確実に行う方法は、未だ提案されていない。
【0018】
本発明の課題は、金属Znによるイオン交換法による製品としての高純度の炭酸亜鉛を製造するに際して、炭酸亜鉛中の重金属の低減、とくに、Fe量の低減を安価で、容易、かつ、確実に可能にし、連続槽方式またはバッチ処理方式などの設備形態を問わず適用できる操業管理または設備管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、(NHCOおよびNHOHを含む炭酸アンモニウム溶液に、製鉄において発生するZn含有ダスト、または、その他のZn含有発生物を溶解し、金属Znの添加によるイオン交換反応と濾過による固体分離により、溶液中の不純物を低減した後に、溶液より炭酸亜鉛を晶析させる炭酸亜鉛の製造方法において、前記固体分離した溶液あるいは晶析した炭酸亜鉛中のFe含有量をオンサイトでFe迅速分析法を用いて定期的に分析し、その結果のFe含有量実績値をFe管理限界値と対比して操業管理または設備管理を行うことを基本構成とする。
【0020】
具体的には、本発明の炭酸亜鉛の製造方法における操業管理は、前記イオン交換した溶液を濾過したのちのZn含有溶液を、オンサイトにおいてFe迅速分析法を用いて定期的に分析し、その結果のFe含有量の管理限界値(Cmg/l)を1.5mg/lとし、前記分析値が、前記管理限界値を上回る場合、前記炭酸亜鉛の晶析工程前の仕掛りのZn含有溶液に、再度金属Znを添加してイオン交換を行った後に再度濾過するものである。
【0021】
従来から、炭酸亜鉛の製造においては、特許文献2、特許文献3に記載されているように、製造された炭酸亜鉛中の不純物金属の濃度は、一桁のppmのレベルが目標とされてきた。発明者の研究の結果では、製出された炭酸亜鉛中のFe量を一桁のppmレベルとするためには、前記イオン交換した溶液を濾過したのちのZn含有溶液中のFe含有量を1.5mg/lとすることが必要であることから、本発明においては、Fe含有量の管理限界値を、mg/l単位で、1.5としたものである。
【0022】
また、本発明の炭酸亜鉛の製造方法における設備管理の第一は、前記イオン交換した溶液を濾過したのちのZn含有溶液を、オンサイトにおいてFe迅速分析法を用いて定期的に分析し、その結果のFe含有量の管理限界値(Cmg/l)を1.5mg/lとし、前記分析値が、前記管理限界値を上回る場合、異常値として炭酸亜鉛の製造設備の操業を停止し、前記イオン交換工程から炭酸亜鉛を晶析処理する工程までの間の設備の溶液が接する部分を溶解に用いる溶媒を使用して共洗いを行うものである。
【0023】
ここにおいて、共洗いとは、溶解に用いる前記炭酸アンモニウム溶液の新溶液によって洗浄することを意味する。具体的には、イオン交換工程から炭酸亜鉛を晶析処理する工程まで間の設備の溶液が接する部分を希硫酸で、次に純水で洗い、その後、溶解に用いる前記炭酸アンモニウム溶液によって共洗い洗浄する。
【0024】
さらに、本発明の炭酸亜鉛の製造方法における第二の設備管理の手段は、製品である炭酸亜鉛をオンサイトにおいてFe迅速分析法によって、定期的に分析し、その結果のFe含有量の管理限界値を0.001質量%とし、Fe含有量がこれを上回れば、操業を停止し、イオン交換工程から炭酸亜鉛を晶析処理する工程までの間の設備の溶液が接する部分を、少なくとも洗浄の最終仕上げには、溶解に用いるのと同じ組成の溶媒を用いて共洗いを行う必要がある。
【0025】
そして、前記管理手段においては、さらに、共洗いを行った溶媒を回収して、その溶媒をオンサイトで行えるFe迅速分析法を用いて分析し、Feが用いた分析法で検出されないことを確認したのち、操業を再開する。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、Feの精製を安価かつ容易かつ確実に行うことができ、Fe含有量の高い不良炭酸亜鉛製品の発生が防止でき、品質向上および製造コスト低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】炭酸アンモニウム溶解法による炭酸亜鉛製造の基本プロセスを示す図である。
【図2】本発明においてFeの迅速分析の適用による操業管理の手順を示す図である。
【図3】本発明においてFeの迅速分析の適用による設備管理の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
炭酸アンモニウム溶解法による炭酸亜鉛製造の基本プロセスについて
図1に示す基本プロセスの第一工程は洗浄工程である。この洗浄工程においては、使用するZn含有発生物を、温水などを用いて洗浄して水溶性であるNa、K、Cl等のアルカリ・ハロゲン類の不純物を溶解除去する。使用するZn含有発生物が水溶性のアルカリ・ハロゲン類の不純物を実質的に含有していなければ省略できる。洗浄工程終了後、付着洗浄水に含有される不純物を減少させるために濾過によって、固液分離を行う。
【0029】
第二工程は溶解工程である。この工程は、Zn含有発生物中のZn成分を炭酸アンモニウム溶液で溶解する工程である。洗浄工程で洗浄されたZn含有発生物中のZnは、次式(1)に示すように炭酸アンミン錯体として溶解する。溶解工程終了後、残渣を分離するため濾過による固液分離を行い、濾液を次工程に供する。この際、Zn以外のFeやPbなどの金属不純物の大半は未溶解のままである。
【0030】
ZnO+2NHOH+(NHCO→[Zn(NH]CO+3HO …(1)
【0031】
この溶解工程で使用する炭酸アンモニウム溶液の組成は特定されないが、通常、(NHCO濃度が10〜20質量%、NHOH濃度が10〜20質量%の範囲のものが使用される。
【0032】
第三工程は精製工程である。Zn含有発生物中のFeやPbのような不純物金属成分の一部は、Znと同様に、炭酸アンミン錯体として溶解する。Znよりも標準電極電位が高い、すなわちより貴である不純物金属成分Mは、金属Znを添加することにより(2)式のイオン置換反応によって置換析出させることができる。
【0033】
2+ + Zn → M↓ + Zn2+
(III) …(2)
【0034】
その後、この精製工程で発生した残渣を濾過することにより除去し、清澄濾液を次の第四の工程に供する。
【0035】
第四工程は晶析工程である。Znの炭酸アンミン錯体を含む精製後の清澄濾液へ、蒸気を吹き込み、アンモニアを分離し、揮発させて、炭酸亜鉛の結晶を晶析させる。その後、晶析させた炭酸亜鉛の結晶を洗浄後、濾過し、乾燥して炭酸亜鉛の製品を得る。
【0036】
精製工程におけるFe精製上の問題
炭酸亜鉛製品は、その用途面から、Fe、Pb、Cdなどの不純物金属の濃度はppm一桁レベルであることが要求される。
【0037】
前記(2)式に従った精製用の金属亜鉛を用いたイオン交換による不純物の精製の反応速度のうち、他の不純物金属に比してFeの反応速度は遅い。本願発明者の測定によれば、Feに関する(2)式の反応速度定数は、PbあるいはCdのそれに比し一桁以上も小さいと見られた。これによっても、他の不純物元素の低減に比し、Feを精製することはより難しいことが分かる。
【0038】
また、Feは、周辺設備装置で発生した錆の飛散や、水分中の金気などの形での外部からの汚染によっても生じ易い。まして、Feを多量に含有する製鉄プロセスの発生品を炭酸亜鉛製造の原料として使用する限り、製造プラント内での原料ハンドリングなどの際の飛散などによる汚染の可能性も大きい。
【0039】
このように、高純度の炭酸亜鉛製品を炭酸アンモニウム溶解法により製造する際に、最も留意すべきものの一つがFeの精製である。
【0040】
一方、精製用金属亜鉛のイオン交換による不純物精製反応は、一度しか行えないものではない。Fe等の分析により異常値が発見されれば、イオン交換反応およびその後の濾過による固液分離が完了した精製濾液に、再度、精製用の金属亜鉛を添加することによってイオン交換と濾過を行うこともできる。これを再精製と称する。
【0041】
Fe含有の少ない炭酸亜鉛を製造するための操業管理について
Fe迅速分析の適用による操業管理の手順を示す図2において、Fe含有量の少ない炭酸亜鉛を製造するためには、イオン交換および濾過の終了した精製濾液中のFe含有量を、Fe迅速分析法を用いて測定し、その測定値がCmg/lと表記されている管理限界の値以下であれば、濾液はそのまま次工程の晶析に供する。
逆にその測定値が管理限界を上回った場合には、図2の二点鎖線に示すように、濾液をイオン交換工程に戻し、再精製を行う。
【0042】
Fe分析を行なう工程について
何らかの理由でイオン交換と濾過工程で異常が発生し、Fe精製結果が管理限界値を上回った場合には、より早く検出し、救済の処置を行う必要がある。そのためには、イオン交換し、濾過後の精製濾液のFe分析を行うのがよい。
【0043】
また、省エネとコスト削減の点からも、Fe量の測定値が管理限界を上回った場合には、多大な熱エネルギーを使用する晶析工程に掛ける前に再精製工程に戻すことが好ましい。
【0044】
Fe含有量の少ない炭酸亜鉛を製造するための操業方法について
バッチ処理槽方式でイオン交換と濾過が終了した精製濾液のバッチ(ロット)ごとに、全てのバッチを対象にFe迅速分析法を用いて分析を行なうことが、本発明の基本的な操業方法である。しかしながら、必ずしも全バッチをFe迅速分析法の対象とする必要はないし、また、本発明の操業方法としてバッチ方法に特定する必要もない。
【0045】
図2において、一点鎖線は、全ロットをFe迅速分析法の対象としない操業方法の例を示す。
【0046】
この方法は、図2の実線によって示すように、バッチ処理された精製濾過液のうち、一部ロットの溶液のみをFe迅速分析法の対象とする。そして、一点鎖線によって示されているように、その他のバッチ(ロット)はその分析を省略する。抜き取りで行なったFe迅速分析の結果、Feの分析値が管理限界値Cmg/l以下であれば、工程間貯槽にある分析未実施のバッチ(ロット)も含めて、全てのバッチ(ロット)の精製濾液を予定通り晶析工程へ提供する。
【0047】
もし、抜き取りで行ったFe迅速分析結果が管理限界値Cmg/lを上回っている場合には、その分析対象バッチのみならず、晶析工程以前の仕掛りの精製濾液、例えば、図2の工程間貯槽内の精製濾液も全て二点鎖線によって示す再度のイオン交換(再精製)を行う。この図2に示すFe迅速分析を行なう抜き取りの頻度は、分析所要時間や、貯槽や配管内の滞留時間を考慮して決めればよい。
【0048】
また、本発明は、複数の槽類や濾過設備類などを繋いで連続通流精製を行なう連続処理槽方式についても適用できる。
【0049】
Fe分析としてオンサイトでかつ迅速に行なうことの必要性について
Znが大量に共存する炭酸アンモニウム溶液において、0.1〜0.2mg/l程度の分析精度でFe濃度を短時間に得られる分析方法であれば、何れの分析方法も適用できる。
【0050】
分析のための所要時間が著しく掛かると、その時間を考慮して精製濾液を貯留する貯槽の容量を大きくする必要があり、設備費が増加し採算性に影響する。このため、比較的短時間に分析値が得られることが必要である。
【0051】
この迅速分析の所要時間には、明確な制約はないが、工程間貯槽などの容量や一バッチの処理時間などを考えると、分析開始から数分ないし、一時間程度であることが現実的である。またオンサイトとの意味は、製造設備からの分析装置への分析用サンプルの輸送時間が迅速分析自体の所要時間に比し短く、その輸送時間が特段問題とならない場所を意味する。具体的には、炭酸亜鉛製造プラントの機側、同一建屋内や近接建屋内にて分析装置があり、サンプル輸送がごく短時間に行える場所であれば良い。オンサイト分析が必要である理由は、前述のように短時間での分析結果判明が必要であるためであり、それを実現するための条件である。
【0052】
Fe分析に好適な分析手段について
ICP分析など各種の機器分析手段は、迅速分析の要件を満たし、また、オンサイトへも設置できる。しかしこれらの機器は概して高価であり、また、設置上の制約も多く生産ラインに設置する場合には専用の清浄な分析機器室が必要となるなど、設備費を通じて採算性に悪影響を及ぶす可能性が高い。このため、多少精度は落ちても簡単な機器で分析を行なう簡易な分析法が本発明に好適である。その一例としては比色法あるいは卓上の簡易的な吸光光度計を用いた吸光光度法などがあげられる。
【0053】
Fe含有量の少ない炭酸亜鉛を製造するための設備管理の第一の手段について
Fe含有量の少ない炭酸亜鉛を製造するための設備管理の第一の手段は、イオン交換と濾過の終了した精製濾液中のFe含有量を、Fe迅速分析法を用いて測定することである。
【0054】
この測定値が、管理限界Cmg/l以下であれば引続き操業を継続し、逆に、管理限界Cmg/lを上回れば直ちに操業を停止し、イオン交換工程以降の溶液を処理する設備の溶液が接する部分を、少なくとも溶解に用いる溶媒にて共洗いをする。
【0055】
Fe含有量が高い精製液、精製濾液が接した配管、槽や濾過装置などの機器内面には、Feの高い精製液、精製濾液が残留している可能性が否定できない。前述のように異常精製液自体を返送、再精製すればその異常精製液自体は救済できるが、操業をそのまま継続すると、その後の生産ロットに関して、装置内や配管内に残留しているFeの高い精製液、精製濾液により二次汚染が起きる可能性も有る。これを防ぐことが、Fe含有の少ない炭酸亜鉛を製造するための設備管理の要点である。
【0056】
設備の溶液が接する部分に残留しているFeの高い精製液、精製濾液を洗い流す手段は特に制限されない。浄水・純水・酸その他の薬剤洗浄などや、溶解に用いる溶媒など、効果がある方法なら全て採用できる。
【0057】
ただし、少なくとも洗浄の最終仕上げには、溶解に用いるのと同じ組成の溶媒を用いる必要がある。その最終洗浄用の共洗い用の溶媒は、まだ亜鉛等を溶解していない未使用の溶媒を用いる。溶解・精製時にこの組成の溶媒にFeが溶解するから、最終段階でまだ何らかのFeの残留分が有っても共洗い溶媒にて洗うことにより確実に残留Fe分を溶解洗浄できる。かつ酸、その他の洗浄薬剤などからの製品汚染を防止できる。
【0058】
設備管理の方法に用いるFe分析方法について
通常であれば前述の操業管理に用いるFe分析の結果をそのまま用いて設備管理を行うが、設備管理のみを目的に分析を行なうことも可能である。その際は、操業管理に用いるFe分析方法と同様に、短時間にFeを分析できる分析方法ならその方法は問わない。短時間に結果が得られないと、異常状態の可能性のある設備を是正することが遅れて異常製品が生じる可能性が高くなる。
【0059】
Fe含有の少ない炭酸亜鉛を製造するための第二の設備管理の手段について
前述のFe含有量の少ない炭酸亜鉛を製造するための設備管理の第一の方法における操業時に異常の認識を行う分析対象を、イオン交換と濾過の終了した精製濾液でなく、製品炭酸亜鉛とすることが第二の設備管理の手段である。
【0060】
この設備管理方法は、イオン交換と濾過工程終了の時点ではFe含有値に異常がなく、それ以降の工程で外部からのFe分を含む汚染物が侵入したことが原因で発生する設備汚染を検出するための方法である。外部からの汚染の例は、濾過装置の濾過体交換時の汚染、晶析用の蒸気の汚染などがある。
【0061】
異常を認識するための管理限界は、製品結晶の0.001質量%が妥当である。その理由は、製品炭酸亜鉛のFe品位はppm一桁レベルが要求されており、かつそのための製造プロセスが出来ている中で、正常な操業管理、設備管理状態が行われている限り0.001質量%以上となることは有りえないためである。
【0062】
前記第一とこの第二の設備管理の方法は、分析対象の形態が液体と固体であること、それに伴っての管理値が、前者の値が、Cmg/lが1.5mg/lであり、後者の結晶の場合が0.001質量%である点を除けば、異常時の処置方法そのものは、この第二の設備管理の方法と前述の第一の設備管理の方法とはとくに差はない。
【0063】
第二の設備管理のためのFe分析について
第二の設備管理においては分析対象が製品炭酸亜鉛結晶である。この場合においても、結晶を炭酸アンモニウム溶媒によって適切な濃度に溶解すれば、比色法など分析手法も前述の操業管理および第一の設備管理の方法に用いるオンサイトの迅速分析の方法が適用できる。勿論、結晶を溶解しないで、直接オンサイトの迅速分析する方法も適用できる。
【0064】
なお、製品炭酸亜鉛のFe分析は設備管理の目的のみに限定して行うことに限られない。即ち迅速との条件を満たす限り、製品炭酸亜鉛の品質管理・検定・品質保証の目的で行った分析のFe値を流用することも可能である。
【0065】
設備の洗浄結果の確認について
前述のイオン交換および濾過後のZn含有溶液ないし結晶炭酸亜鉛のFe含有値を迅速分析で確認し、その含有値が管理限界値から上回った異常が確認できれば、操業を停止してイオン交換工程から炭酸亜鉛を晶析処理する工程までの間の設備の溶液が接する部分を、溶解に用いる溶媒にて共洗いを行う。そして、共洗いを行った溶媒を回収してFeを分析して、Feが実質的に含まれていないことを確認した後に操業を再開する。これによって、Fe値の異常再発を確実に防止するものである。
【0066】
異常とは、図3のように精製濾液のFe含有量がCmg/l、具体的には前述のように1.5mg/lを上回る場合、製品炭酸亜鉛結晶のFe含有量が0.001質量%を上回る場合をいう。
【0067】
この設備管理の手法を適用することより、Fe汚染の恐れのある設備の溶液が接する部分に残留しているFe値の高い精製液、精製濾液を洗い流すことができる。この際、残留物がなくなり洗浄が完了したことを直接確認することが重要である。すなわち、洗浄を行った後で、何らかのFeの残留物が有れば最後の共洗い溶媒に溶解してくるし、逆に共洗い溶媒に溶け出すFeがないことは以降の操業時に溶解して製品を汚濁する原因が取り除かれたといえる。
【0068】
この設備管理によって、原料の溶解に用いる溶媒を使用して共洗いをした溶液の分析値から、Feが管理限界内の値が検出されたか否かで洗浄完了を判断し、Fe値が、図3においては、Dmg/lと表示された共洗い溶液管理限界未満にあるとき、操業再開を決定する。
【0069】
前述の実質的に含まれないとは、用いる分析法で検出されないことであり、具体的にはその分析方法での検出下限値(図3ではDmg/lと表示、具体的な値は用いる分析方法により定まる) 未満になることである。
【0070】
もし共洗い溶液管理限界値以上のFe値が検出された場合には、さらに、何らかの洗浄を追加した後か、そのまま直ちに、溶解に用いる溶媒にて再度共洗いを行って、その液を回収して再度Fe分析を行ない、その結果により操業再開可否を決定する。
【実施例】
【0071】
実施例1
本発明の操業管理による炭酸亜鉛の製造方法の例として、図1に示す各工程の処理をバッチ式で行った工程管理分析方法による実施例を示す。
【0072】
溶解液は炭酸アンモニウム120g/l、アンモニア120g/l溶液を用い、イオン交換後の濾過は、1μの濾過エレメントを用いたケーキ濾過方式であった。
【0073】
工程管理のFe分析としては、比較的簡単で迅速かつ安価に行なえるチオシアン酸塩による吸光光度法を用いた。Feを完全酸化後に、チオシアン酸カリウムを加えて発色させ、470nmの波長を中心とする卓上型の分光光度計で、値既知のサンプルと比色測定を行った。
【0074】
本実施例においては、イオン交換反応およびその後の濾過により得られた精製濾液に、前記のチオシアン酸カリウムによる工程管理分析を行なった。その結果、Fe値が1.5mg/lを上回ったA3ロットはイオン交換をやり直してFe値を低減した後に後工程へ送り製品化した。
【0075】
一方、比較例1,2は、上記実施例と同じ溶解液を使用し、イオン交換後の濾過も上記実施例と同じ1μの濾過エレメントを用いた。
【0076】
比較例1は、工程管理分析を行なったが、分析結果に関わらずそのまま全ロットとも製品化した例を示し、比較例2は濾過後にFe分析を行なわず全ロットともそのまま製品化した例を示す。
【0077】
何れの場合も、製品炭酸亜鉛は、品質管理のための製品検定分析として、高精度のICP分析を行なった。
【0078】
これらの結果を表1に示す。同表に示すとおり、1.5mg/l以下は予定通り製造継続、1.6mg/lのロットを再精製した本実施例の場合のAは、3ロットとも製品炭酸亜鉛のFe分析値は0.001%をクリアーしたが、1.6mg/lのロットを再精製しなかった比較例1のBと、精製後濾液の分析を行なわなかった比較例2のCは共に、1ロットの製品炭酸亜鉛Fe分析値が管理限界値を外れた。
【0079】
以上の結果から、図2においてCmg/lと表示した管理限界値は、1.5mg/lが好適であると判断された。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例2
実施例2として、本発明の設備管理を適用した炭酸亜鉛の製造方法の例を示す。
【0082】
イオン交換反応およびその後の濾過により得られた精製濾液のFe分析で、Feの管理限界値を超える異常があった場合に、イオン交換工程以降の溶液を処理する設備の溶液が接する部分の洗浄を行った本発明の実施例と、この洗浄を行わなかった比較例とを比べた。
【0083】
洗浄は、イオン交換工程から炭酸亜鉛を晶析処理する工程までの間の設備の溶液が接する部分を希硫酸で、次に純水で洗い、その後、溶解に用いる溶媒で共洗いを行った。
【0084】
結果を表2に示す。同表において、ロット番号x、x’、x+1,x+2は、本発明の実施例の各ロットを示す。この実施例では、ロットxにて精製後の濾液Fe値が2.2mg/lと管理限界値1.5mg/lを上回ったので操業を中断して、精製液が接する設備内面を、溶媒共洗いを含む洗浄を行った。然る後にロットxの再精製から操業を再開した。再精製後のロットx’を含め、次ロットx+1、次々ロットx+2何れも製品炭酸亜鉛のFe値は0.001%以下となり合格した。
【0085】
ロット番号yから始まる比較例では、異常後の設備洗浄を行わなかったので、イオン交換反応が異常であったロットの次のロットまで僅かだが汚染影響が残った。具体的には、ロットyにて精製後の濾液Fe値が2.0mg/lと管理限界値1.5mg/lを上回ったので再精製を行った。再精製後のロットy’は、精製濾液のFe値が1.3mg/lと管理限界値1.5mg/l以下と成っているにも係わらず、製品炭酸亜鉛のFe含有量が0.0011%と管理値を上回った。これは槽や配管内を洗浄しなかったので、高Feの汚染物質が残留していることの影響を受けたためと理解された。
【0086】
【表2】

【0087】
実施例3
次に精製濾液でFe値に異常がなくても、以降の工程で外部からのFe混入と推定される製品炭酸亜鉛のFe値異常の場合の本発明の適用の例を示す。本実施例は設備管理の第二の例である。その結果を表3に示す。
【0088】
本実施例での設備管理のための分析は、サンプリングした製品結晶を操業に用いる溶媒に溶解し、前述の吸光光度法でFe値の測定を行った。なお溶媒の組成は前述の実施例1で用いたものと同一である。
【0089】
この実施例では、ロット番号pにて製品炭酸亜鉛のFe値の管理限界値以上の異常が発見された直後に操業を止めて、イオン交換工程から炭酸亜鉛を晶析処理する工程までの間の設備の溶液が接する部分を希硫酸、純水洗浄の後、溶解に用いる溶媒と同組成の溶媒新液にて共洗いをした。
【0090】
また、分析値が明らかになった時点で、イオン交換後の濾過完了後、晶析工程までの間にあった仕掛中のロット(p+1)とその次のロット(p+2)は、再精製を行った。
【0091】
この処置により、異常が発見されたロット(ロット番号p)以外の、ロット(ロット番号p+1以降)は、全て合格となった。表3の数値のうち()付きの数値は再精製後の値であることを示す。
【0092】
一方、比較例である別のタイミングで発生した製品炭酸亜鉛のFe値が管理限界値を超える異常のケース(ロットq)では洗浄処理を行わなかった。その結果、管理限界を超えたFe汚染がq+1以降のロットに継続して、それらのロットが不合格となった。
【0093】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(NHCOおよびNHOHを含む炭酸アンモニウム溶液に、製鉄において発生するZn含有ダスト、または、その他のZn含有発生物を溶解し、金属Znの添加によるイオン交換反応と濾過による固体分離により、溶液中の不純物を低減した後に、溶液より炭酸亜鉛を晶析させる炭酸亜鉛の製造方法において、
前記固体分離した溶液あるいは晶析した炭酸亜鉛中のFe含有量をオンサイトでFe迅速分析法を用いて定期的に分析し、その結果のFe含有量実績値をFe管理限界値と対比して操業管理または設備管理を行う炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項2】
前記操業管理が、前記イオン交換した溶液を濾過したのちのZn含有溶液を、オンサイトにおいてFe迅速分析法を用いて定期的に分析し、その結果のFe含有量が管理限界値を上回る異常値である場合、前記炭酸亜鉛の晶析工程前の仕掛りのZn含有溶液に、再度金属Znを添加し、イオン交換反応および濾過をやり直すことによって炭酸亜鉛のFe含有量を低減する請求項1に記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項3】
前記操業管理におけるFe含有量の管理限界値が1.5mg/lであり、その異常値は前記管理限界値を超える場合である請求項2に記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項4】
前記設備管理が、前記イオン交換した溶液を濾過したのちのZn含有溶液を、オンサイトにおいてFe迅速分析法を用いて定期的に分析し、その結果のFe含有量が管理限界値を上回る場合、炭酸亜鉛の製造設備の操業を停止し、イオン交換工程から炭酸亜鉛を晶析処理する工程までの間の設備の溶液が接する部分を、溶解に用いる溶媒を使用して共洗いを行い炭酸亜鉛の純度を高める請求項1に記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項5】
前記設備管理が、Fe含有量の管理限界値が1.5mg/lであり、その異常値は前記管理限界値を超える場合である請求項4に記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項6】
前記設備管理が、製品である晶析した炭酸亜鉛をオンサイトにおいてFe迅速分析法によって、定期的に分析し、その結果のFe含有量の管理限界値を0.001質量%とし、Fe含有量がこれを上回れば、操業を停止し、イオン交換工程から炭酸亜鉛を晶析処理する工程までの間の設備の溶液が接する部分を、溶解に用いる溶媒によって共洗いを行う請求項1に記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項7】
前記設備管理において、共洗いを行った溶媒を回収して、その溶媒をオンサイトで行えるFe迅速分析法を用いて分析し、Feが実質的に含まれていないことを確認したのち、操業を再開する請求項4から6の何れかに記載の炭酸亜鉛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−51772(P2012−51772A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196840(P2010−196840)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000253226)濱田重工株式会社 (17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】