説明

炭酸化スラグおよびスラグの炭酸化処理方法

【課題】大量に発生するスラグの炭酸化に係り、生産性高く、膨張、および水中でのpHを低位安定化する炭酸化処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】スラグを炭酸を含む水中に浸し、超音波を印加することにより、スラグ粒子11の表面、または表面及び内部に炭酸カルシウム相12を生成せしめる。短時間でスラグの安定化処理が可能となり、水と接しても中性の範囲を維持できる。スラグは主に、製鉄工程で発生するスラグであり、高炉徐冷滓、高炉水砕スラグ等の製銑系スラグを始め、溶銑段階での様々な処理により生じるスラグ(溶銑脱硫滓、溶銑脱りん滓、溶銑脱りん脱硫滓)、転炉での脱炭吹錬時に生成するスラグ、二次精練で発生するスラグなどに適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に製鋼工程で副生するスラグの高効率な炭酸化処理、および安定化した炭酸化スラグに関するものであり、鉄鋼精練プロセスで副生するスラグの有効なリサイクルを促進し、その特徴を生かした利用を図るための技術に関わる。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスにおいて発生するスラグは、天然砕石代替として利用できれば、それだけで、新たな天然砕石採掘が減少でき、山林破壊を減らすことができる。更に、スラグには、鉄分、マグネシア、珪酸といった、生物環境にとって有効なミネラルを含み、例えば海洋環境修復のミネラル源として、あるいは特に脱りんスラグのように、燐酸を含む場合には、肥料としての利用価値が高いことが分かっている。
【0003】
即ち、鉄鋼スラグが珪酸肥料や、海洋環境修復材として有効な理由は、SiO2がCaOとの複合酸化物を形成していて、珪酸分の溶出が容易であること、鉄分の多くが、天然に多く存在する3価ではなく、生物の活動や育成に有効な2価の形態で存在するためである。しかし、一方で、不可避的に含まれる未反応のCaO分(以下、フリーライムと称す)に起因し、海水を白濁させる、アルカリ水を生成する、などの課題がある。本発明は、その効率的解決方法を提供するとともに、白濁やアルカリ生成の問題が無いスラグ資源を提供することにある。
【0004】
鋼中のりんや硫黄などの不純物は、鋼材特性を劣化させるため、その低減が求められる。そのため、鉄鋼精練工程では、スラグと溶鉄間反応により、溶鉄中に溶解しているりんや硫黄をスラグ側に除去する操作が行われる。りんや硫黄を固定する能力は、スラグの塩基度CaO/SiO2を高めることによって高まるため、石灰石や、石灰石を焼成して製造した生石灰を添加することによってスラグをつくり、脱りんや脱硫処理を行う。
【0005】
しかし、CaOは2800℃程度の高い融点を持つので、中々溶融せず、また、SiO2等の他の成分と反応して例えば珪酸カルシウム(2CaO・SiO2等)として安定化することなく、スラグ中に未反応のCaO分(以下、フリーライムと略す)として残留することがある。フリーライムを多量に含むスラグを再利用する場合、大気中の水蒸気や水と反応してCaO+H2O→Ca(OH)2に変る反応が起きるが、この反応では体積が2倍に膨張する。そのため、土木用材料としてリサイクルする場合には、膨張や風化が問題となる。また、Ca(OH)2は水中で強アルカリを示すため、海や湖沼を白濁させる、という問題を招く。
【0006】
現在では、膨張やアルカリ抑制のため、数ヶ月間、スラグを野積み状態として雨水や大気中のH2Oによって、エージングを行う。更に、この反応を促進するために、例えば非特許文献1に示されているような、蒸気エージング処理が行われる。これは、スラグを一定厚みの層状に積み、下から蒸気を通じてCaO+H2O→Ca(OH)2の水和反応を強制的に行わせようとするものであるが、反応速度が遅く、生産性が低い。これら、エージングにおける反応は、雨、大気中の水蒸気、あるいは蒸気によってCaO+H2O→Ca(OH)2の反応によってフリーライムを水酸化カルシウムに変えようとするものである。しかし、Ca(OH)2は水中で強アルカリを示すため、海や湖沼を白濁させる、という問題を招くことに変りは無い。
【0007】
一方、比較的新しい提案として、炭酸化処理により、フリーライムを、本来天然に存在した時の形態であるCaCO3に戻す、という試みが成されている。
【0008】
例えば特許文献1には、転炉スラグのコンクリート骨材としての利用をはかるため、乾燥飽和から湿潤に至るまでの間の表面状態にあるものを-10℃〜220℃の範囲で、20〜100%の湿度の条件下で炭酸ガスを10%以上含む空気を主としたガスと接触させる技術が開示されている。しかし、単にCO2雰囲気にスラグを晒すだけのこの方法では、反応に相当な長時間を要することが分かり、工業的レベルでの生産性は期待できない。また、本発明のように超音波を用いる方法に比べると、スラグ表面の小さな気孔や凹凸内部へのガス拡散が制限されるため、これらを適切に覆うことが出来ず、アルカリの溶出を抑制する効果が不十分である。
【0009】
一方、特許文献2に、機械的攪拌を付与しつつ、炭酸化処理を行う方法を開示した。しかし、この方法を工業規模で実施しようとすると、大型攪拌装置が必要となり、設備費が高くなり、また、運転に必要な電力等のユーティリティーコストが高くなる、という課題があることが判明した。
【0010】
炭酸化処理を短時間で行う方法として、特許文献3には、加圧化に、製鋼スラグを水蒸気、およびCO2ガスと反応させる、という技術が開示されている。しかし、この方法では、大きな加圧容器が必要となり、設備費、メンテナンス費用が膨大になる。さらにランニングコストも高価である、という課題があり、一部に適用されているに過ぎない。
フリーライムを炭酸化して元々天然に存在した石灰石の状態に戻すことは、自然の摂理に適っているが、従来の技術では、処理の生産性が低い、あるいは処理設備費、コストが高い、等の課題がある。
【0011】
一方、超音波がもつ反応促進作用がフォノケミストリー等の言葉で注目されているが、特許文献4には、スラグの迅速エージング処理方法として、スラグを、水中をベルトコンベアーにて搬送しつつ、超音波を印加することにより、従来より大幅にエージング時間が短縮できる技術が開示されている。しかし、本法ではフリーCaOが迅速にCa(OH)2に変化させることが出来て、その後の膨張を抑制できたとしても、Ca(OH)2は水に触れると、やはり強アルカリ性の水となり、効率的な中和方法を開示するものではない。また、その処理過程で強アルカリ水が大量に生じ、その中和に多大なコストと設備が必要となる。
【特許文献1】特開昭50−41772号公報
【特許文献2】特開2007−22817号公報
【特許文献3】特開平6−158124号公報
【特許文献4】特開平5−17182号公報
【非特許文献1】横山正章、井上敏勝、本田康之、橋本透、杉正法:住友金属、Vol.45, No.4 (1993) p. 32「蒸気エージング処理した転炉スラグ路盤材の開発」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、大量に発生するスラグ(例えば製鋼スラグ)の炭酸化に係り、生産性高く、膨張、および水中でのpHを低位安定化する炭酸化処理方法を提供することを課題とする。また、その副次的作用としてCO2を固定化して、排出CO2を削減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明の炭酸化スラグおよびスラグの炭酸化処理方法は、
(1) スラグ粒子の表面または表面及び内部に、炭酸カルシウム層を生成せしめたことを特徴とする炭酸化スラグ。
(2) スラグを炭酸を含む水中に浸し、超音波を印加することにより、その粒子表面、または表面及び内部に炭酸カルシウム相を生成せしめることを特徴とするスラグの炭酸化処理方法。
(3) スラグを水中に浸した状態で、炭酸ガスを含むガスを吹き込みつつ、超音波を印加することにより、その粒子表面、または表面及び内部に炭酸カルシウム相を生成せしめることを特徴とする(2)のスラグの炭酸化処理方法。
(4) スラグが、鉄鋼製造プロセスにおける精練工程で生成したものであることを特徴とする、(2)または(3)いずれかのスラグの炭酸化処理方法。
(5) スラグが、鉄鋼製造プロセスにおける溶銑の脱りん処理により生成したものであることを特徴とする(2)から(4)のいずれかのスラグの炭酸化処理方法。
(6) スラグが、鉄鋼製造プロセスにおける溶銑の脱硫処理により生成したものであることを特徴とする(2)から(5)いずれかのスラグの炭酸化処理方法。
(7) スラグが、鉄鋼製造プロセスにおける溶鋼の二次精練工程で生成したものであることを特徴とする(2)から(6)いずれかのスラグの炭酸化処理方法。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、今まで、1千トン処理するのに1週間を要していたスラグの蒸気エージング処理に比べ、はるかに短い一日乃至数日程度の短時間の炭酸化処理でスラグの安定化が可能になる。しかも、蒸気エージングでは、CaOが単に、Ca(OH)2に変るのみであり、水と接触すればアルカリとなってしまい、海水と接触すると白濁を生じることに変りは無いが、本発明によると、スラグが適切に炭酸カルシウムに変化するため、水中でのpHは中性の範囲となる。
【0015】
また、従来の炭酸化処理に比べ、大型の機械攪拌や加圧装置は必要なく、単に、水槽と超音波印加設備を設置するだけで良い。また、大型の攪拌装置や高圧装置に比べ、ランニングコストが安価である。また、処理効率が高いので、工場の燃焼排ガス等を使えば、CO2の排出削減にも寄与できる。更に、本発明で得られる炭酸化スラグは、生成する炭酸カルシウム皮膜が、比較的緻密で、スラグ粒子表面に存在する気孔(開気孔)や凹凸を埋める形で形成されるので、アルカリ溶出の抑制効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、主として製鋼スラグ中に存在するフリーなライムを迅速、経済的に中和し、資源化・活用を促進することを目的とする。候補となるスラグは主に、製鉄工程で発生するスラグであり、高炉徐冷滓、高炉水砕スラグ等の製銑系スラグを始め、溶銑段階での様々な処理により生じるスラグ(溶銑脱硫滓、溶銑脱りん滓、溶銑脱りん脱硫滓)、転炉での脱炭吹錬時に生成するスラグ、二次精練で発生するスラグ、あるいは、スクラップを原料として粗鋼を生産する電気炉スラグ等が対象として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
図1は、本願発明を実施するのに好適な設備例の概念図である。水2を入れた水槽7に処理対象のスラグ1を浸漬し、炭酸ガス8を、底吹きノズル9より吹き込む。水2には超音波ホーン4を介して、超音波発振機3より超音波を印加する。更に、例えばインペラー10による機械的攪拌、あるいは、スラリーポンプによる流動付与など、攪拌を行うのが望ましい。
【0018】
このように、基本的には、水槽2とその中にスラグ1を投入、排出を行うための装置と、水浴に超音波を印加する装置と炭酸ガスの供給系から成る。炭酸源としては、予め水に吸収させた炭酸水を用いても良いし、図1のように、処理中の水槽7の底に配管を設け、炭酸ガスを吹き込むようにしても良い。水槽全体に炭酸ガスが行き渡るように、複数の吹き込み口を設けることが望ましい。超音波は、図1のように、上方から超音波ホーン4を水に浸漬して導入しても良いし、側壁、あるいは、底板を介して導入しても良い。また大型の洗浄装置を利用したものでも良い。
【0019】
また、図1は所謂バッチ処理の装置例を示したが、水、およびスラグを連続的に供給・排出する連続処理プロセスとしても良い。
【0020】
処理温度は、常温で良い。あまり温度が高いと、CO2の溶解度が低下して、CO2の水への溶解律速になるので、50℃以下にするのが望ましい。下限温度は、氷が生成しない範囲であれば良い。
【0021】
炭酸ガス源としては、工場から排出される各種炉の燃焼排ガスが利用できる。CO2を濃縮する必要は必ずしもなく、CO2以外のガス成分は、浴の攪拌に寄与するので、却って都合が良い場合もある。しかし、余り過大なガス流量になると、液面が安定せず、遥動が激しくなり、超音波をホーンタイプの装置で導入するには、長いホーンを使う必要が生じるなど、困難が生じる場合がある。この場合には、予め、炭酸ガスを水に溶解させる工程を設け、その水を使用する、あるいは、地下水のように既に炭酸分を多く含んだ水を使うこともできる。
【0022】
図2は、開気孔、および閉気孔を含むスラグを処理した本発明の炭酸化スラグの一例を示す断面模式図であるが、開気孔13、閉気孔14を含むスラグ粒子11の表面に、比較的緻密な炭酸カルシウム層12が形成されている。なお炭酸カルシウム層12の一部はスラグ粒子11の内部に形成されていてもよい。
【0023】
スラグ粒子11の表面に生成させる炭酸カルシウム層12は、それ自体強固な膜であり、50μm程度の厚みがあれば、内部に含まれるCaOの溶出を抑制できるが、一方、炭酸カルシウム層は、ハンドリング時や、施工時に粒同士の摩擦による破壊の可能性があり、その必要厚みは、付与される剪断力や、圧縮力によって変るので、処理時間やCO2量等の条件を制御することで、必要な厚みに制御するのが望ましいが、概ね、100μm〜1mm程度の厚みまで形成することが望ましい。
【実施例】
【0024】
5m3の円筒形水槽を用い、2m3の水に各種スラグ2トン(嵩比重1.7)を入れ、処理した。インペラーで攪拌を行いながら、底に設けたノズルから炭酸ガスを18%含有する工場の排ガスを導入した。次に、1200Wの超音波ホーンを10箇所、浸漬し、28kHzの超音波を印加した。実施例1〜4の処理後の各スラグ表面には炭酸カルシウム層が生成した。処理後のスラグを海水中に浸漬したが、白濁は全く生じなかった。一方、実施例1〜4の処理前のスラグの一部を海水に浸漬すると激しく白濁した。
【0025】
表1の比較例に、炭酸ガスを含有しないガスを吹き込み、超音波を印加しない場合と前記同様に超音波を印加した場合(比較例1,2)と、炭酸ガスを20%含有する工場の排ガスを導入したが超音波を印加しなかった場合(比較例3)の結果を示す。この場合、フリーライム濃度の低下はあまり見られず、また、処理後のスラグを海水に浸漬すると白濁が生じた。比較例1,2の処理後スラグには、炭酸カルシウム層が形成されていなかった。比較例3の処理後スラグは、炭酸カルシウム層ではなく、多孔質の炭酸カルシウムが表面に部分的に付着しているのみであった。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を実施するのに好適な装置例の断面図である。
【図2】本発明による炭酸化スラグの一実施態様を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0028】
1 スラグ
2 水
3 超音波発振器
4 超音波ホーン
5 超音波電源
6 ケーブル
7 水槽
8 炭酸含有ガス
9 吹き込みノズル
10 インペラー
11 スラグ粒子
12 炭酸カルシウム層
13 開気孔
14 閉気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ粒子の表面または表面及び内部に、炭酸カルシウム層を生成せしめたことを特徴とする炭酸化スラグ。
【請求項2】
スラグを炭酸を含む水中に浸し、超音波を印加することにより、その粒子表面、または表面及び内部に炭酸カルシウム相を生成せしめることを特徴とするスラグの炭酸化処理方法。
【請求項3】
スラグを水中に浸した状態で、炭酸ガスを含むガスを吹き込みつつ、超音波を印加することにより、その粒子表面、または表面及び内部に炭酸カルシウム相を生成せしめることを特徴とする請求項2記載のスラグの炭酸化処理方法。
【請求項4】
スラグが、鉄鋼製造プロセスにおける精練工程で生成したものであることを特徴とする、請求項2または3いずれかに記載のスラグの炭酸化処理方法。
【請求項5】
スラグが、鉄鋼製造プロセスにおける溶銑の脱りん処理により生成したものであることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載のスラグの炭酸化処理方法。
【請求項6】
スラグが、鉄鋼製造プロセスにおける溶銑の脱硫処理により生成したものであることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のスラグの炭酸化処理方法。
【請求項7】
スラグが、鉄鋼製造プロセスにおける溶鋼の二次精練工程で生成したものであることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載のスラグの炭酸化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−57257(P2009−57257A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227258(P2007−227258)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】