説明

炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法

【課題】人工腎臓用透析液製剤を構成する「B剤」としての炭酸水素ナトリウム含有水性製剤について、かかる炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法を提供すること。
【解決手段】プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填し、当該ヘッドスペース内の空気を一定量排気、特に20〜40%排気して密封したことを特徴とする炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法であり、また、充填する炭酸水素ナトリウム含有水性製剤の炭酸水素ナトリウムの含有量が5〜9w/v%である容器の変形防止方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法に関する。より詳細には、高濃度の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填したプラスチック容器に観察される容器の変形を防止する方法、並びに当該炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、慢性腎不全患者においては人工腎臓透析治療が行われている。すなわち、慢性腎不全患者が受ける人工腎臓透析治療における血液浄化療法として血液透析(HD)があり、透析型人工腎臓に人体から送入する血液と電解質及び糖を含有する水溶液を添加希釈した灌流液を流入させ、半透膜を隔てて血液と灌流液の濃度差を推進力とした拡散現象により血液側より透析側へ溶質を移動させ、透析排液を排出口より排出せしめると共に該血液中に含有する尿素、クレアチニン等の尿毒症物質を除去し、流出口より清浄な血液のみを体内に返還しているものである。
【0003】
この血液透析用灌流液を調製する人工腎臓透析用製剤として、従来から、各種電解質成分、pH調整剤及び/又はブドウ糖を含有するいわゆる「A剤」と、アルカリ化剤としての高濃度の重炭酸イオンを含有する炭酸水素ナトリウム水溶液からなるいわゆる「B剤」とがセットになっており、実際の使用に当たっては、「B剤」を水にて希釈し、所定の重炭酸イオン濃度として調製し、その希釈液に対して「A剤」を加え、灌流液として150〜300Lが使用されている。
【0004】
透析用製剤構成する「A剤」及び「B剤」として、それぞれの成分を個別に充填したものを人工腎臓透析用製剤としてセットで提供する理由は、電解質成分である例えばカルシウムイオン或いはマグネシウムイオンがアルカリ化剤の重炭酸イオンと反応して、不溶性化合物である炭酸金属塩を生成するためであり、用時、希釈・混合後、人工腎臓用透析液として調製される。
【0005】
ところでアルカリ剤としての「B剤」に含有される炭酸水素ナトリウムは、具体的には11.5L中に670〜940gの炭酸水素ナトリウムを溶解した高濃度(約7〜9w/v%)の炭酸水素ナトリウム水溶液であり、通常では考えられない高濃度の製剤である。この高濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液を充填する容器としては、滅菌処理を必要とすることから、従来ではガラス容器が使用されていた。その理由は、炭酸水素ナトリウム含有水溶液の包装体を滅菌する際には、溶液中に溶融していた炭酸ガスが加熱による温度上昇に伴って水溶液中から放出されて、包装容器のヘッドスペースに溜まり、該包装容器の内圧を増大させるので、該包装体用容器としてプラスチック容器を使用すると、該包装体の増大した内圧によってプラスチック容器が変形してしまうためであった。
【0006】
このプラスチック容器の変形は、滅菌工程においてみられることばかりでなく、製剤を調製後の貯蔵工程においても認められるものである。
しかしながら、ガラス製容器は破損し易いこと、また、重いといった欠点があり、さらに、容器としてガラス容器を使用すると、炭酸水素ナトリウムによってガラスが腐食され、溶液中にフレークが生じ、炭酸水素ナトリウムの効能が劣化するといった欠点がある。
そのため、現在ではプラスチック容器に高濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液を充填する方法が採用されており、プラスチック容器の変形に対する防止対策も種々とられている(例えば、特許文献1)が、これまでに効果的な方策がないのが現状である。
【特許文献1】特公平3−3209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、人工腎臓用透析液製剤を構成する「B剤」としての炭酸水素ナトリウム含有水性製剤について、かかる炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法を提供すること、並びに当該炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した包装体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、本発明者は種々検討を行い、プラスチック容器内に炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を、ヘッドスペースを設けて充填した場合に、充填後の水溶液中からヘッドスペース内に放出される炭酸ガスにより膨張するヘッドスペースの容量と、ヘッドスペース中での炭酸ガス濃度を、水溶液中に溶解している炭酸ガス濃度と平衡状態に維持するよう工夫すれば、プラスチック容器の変形が防止しうることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
而して、上記の課題を解決するための本発明は、その基本的態様として、プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填し、当該ヘッドスペース内の空気を一定量排気して密封したことを特徴とする炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法である。
【0010】
より詳細には、本発明は炭酸水素ナトリウムの含有量が5〜9w/v%である高濃度の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器について上記の変形防止方法である。
【0011】
更に具体的には、かかる変形防止方法として、プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填し、当該ヘッドスペース内の空気を、20〜40%排気することにより行う、上記の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法である。
【0012】
本発明は、また別の態様として、プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填し、ヘッドスペース内の空気を一定量排気して密封したことを特徴とする、ヘッドスペース内の炭酸ガス濃度及び炭酸水素ナトリウム含有水性製剤中の炭酸ガス濃度を平衡状態にさせる方法であり、更には、かくして充填された炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した包装体である。
【0013】
より詳細には、ヘッドスペース内の空気を、20〜40%排気することを特徴とする上記のヘッドスペース内の炭酸ガス濃度及び炭酸水素ナトリウム含有水性製剤中の炭酸ガス濃度を平衡状態にさせる方法であり、また。充填された炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した包装体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明方法により、簡便な方法で高濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液を充填したプラスチック容器の変形を防止することができる。
特に本発明が提供する炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法は、単に、プラスチック容器に炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した後、ヘッドスペース(空間部)の空気を強制的に排気し、密封するといった簡便な手段で行うことができ、生産性の向上を確保しうるものである。
【0015】
本発明の簡便な方法により、炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形を防止し得ることから、具体的には以下の利点を有することとなる。
(1)透析用製剤を構成する「A剤」及び「B剤」をセットとして段ボール箱に封入して人工腎臓透析用製剤として提供されるが、「B剤」の容器の変形が防止されることから段ボール箱内における「A剤」との結束状態が保たれ、その結果、段ボールが変形することなく、荷崩れが生ずることがない。
(2)また、段ボール箱の変形も防止されることから、製品の積みにくさも回避され、特に製品の搬送時に使用するパレット段積み強度が低下する問題点を回避することができ、作業性が一段と向上する利点を有する。
(3)段ボール箱内にセットで封入されている「A剤」及び「B剤」をスムースに取り出すことができる。従来は、「B剤」の容器の膨張により段ボール箱からの取り出しにかなりの力を必要としたが、変形がないことから極めてスムースに取り出しすることができる利点を有する。
(4)また更に、容器膨張によるキャップからの液漏れを回避することができ、不良品の発生を防止することができる。
(5)また、容器のすわりが悪くなる点を回避し、製品として外形の変形を防止することができる利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、上記したように、その基本は、プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填し、当該ヘッドスペース内の空気を一定量排気して密封したことを特徴とする炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法である。
【0017】
本発明にいう炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填するプラスチック容器としては、従来から透析用製剤構成する「B剤」を充填するのに使用されているプラスチック容器が挙げられ、例えば、ポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)製、ポリ塩化ビニル(PVC)製、環状ポリオレフィン(COC)製のものや、これらを適当な比率で配合或いはラミネートしたものが例示できる。
なお、このプラスチック容器にあってはガスバリヤー性であることが好ましい。
【0018】
本発明でプラスチック容器に充填する炭酸水素ナトリウム含有水性製剤は、人工腎臓用透析液製剤における、いわゆる「B剤」としての製剤である。
上記したように、人工腎臓用透析液製剤は、各種電解質成分、pH調整剤及び/又はブドウ糖を含有するいわゆる「A剤」と、アルカリ化剤としての高濃度の重炭酸イオンを含有する炭酸水素ナトリウム水溶液からなるいわゆる「B剤」とから構成されており、本発明ではこの「B剤」についての容器変形防止手段を提供するものである。
【0019】
一般的に人工腎臓用透析製剤にあって、調製された灌流液として、各成分の配合量は、適切な濃度に希釈、混合した場合に、透析液として、下記の濃度であることが好ましい。
【0020】
ナトリウムイオン 120〜150mEq/L、
カリウムイオン 0〜5mEq/L、
カルシウムイオン 0〜5mEq/L、
マグネシウムイオン 0〜2mEq/L、
塩素イオン 55〜135mEq/L、
重炭酸イオン 20〜45mEq/L、
クエン酸イオン 0.02〜5mEq/L、
ブドウ糖 0〜3.0g/L
【0021】
したがって、より具体的な処方例としては、例えば、以下の処方例を挙げることができる。
【0022】
【表1】

【0023】
上記の例は、具体的な例であって、例えば、この「B剤」1容量に対して水を26容量加えて希釈して、希釈液34容量に対して「A剤」を1容量加え、通常、灌流液として150〜300Lが使用されることとなっている。
【0024】
なお、上記した具体的処方は、あくまで好ましく使用されている処方であり、調製された灌流液として、各成分の配合量は、適切な濃度に希釈、混合した場合に、透析液として、上記した濃度であればよい。
【0025】
本発明にあっては、上記した透析用製剤を構成する「B剤」についてのプラスチック容器の変形防止であるが、このB剤は、その製剤としては、具体的には炭酸水素ナトリウムの濃度が約5〜9w/v%、好ましくは7〜8w/v%(約1,000mEq/L)と、通常では考えられない高濃度の水性製剤である。
このような高濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液は、濃度に比例して、炭酸ガス分圧、すなわち、溶液に接する空間スペース(ヘッドスペース)中の炭酸ガス濃度が高くなってくる。
【0026】
すなわち、炭酸水素ナトリウム水溶液を密閉系の容器に空間部を設けて充填すると、炭酸水素ナトリウム水溶液は、弱酸性〜中性域(pH4〜8)の溶液中では重炭酸イオンと炭酸(溶解状態の炭酸ガス)の平衡状態にあり、炭酸ガスが液外に放出され、放出された炭酸ガスにより容器が膨張変形する。
【0027】
具体的には、薬液中の炭酸水素ナトリウムは、解離を起こして二酸化炭素を発生し、その一部が空間部に移行する。すなわち、密閉系では次の平衡関係が成り立っている。
【0028】
【化1】

【0029】
すなわち、放出された炭酸ガス分圧、すなわち空間部中の炭酸ガス濃度が、薬液中の炭酸の間で上記の平衡状態に達した場合には、炭酸ガスの放出は行われず、それ以上の容器の変形は生じなくなる。
【0030】
本発明者の検討によれば、上記のような高濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液の場合には、炭酸ガス濃度(炭酸ガス分圧)は約40%程度になることが判明した。
したがって、この炭酸ガス分圧に相当する分を、プラスチック容器のヘッドスペースから排気してやれば、ヘッドスペースに放出された炭酸ガスにより容器の膨張は認められるものの、その膨張は平衡状態に達した炭酸ガス分圧により排気した量に止まるものであって、それ以上の容器の膨張(変形)が生じないこととなる。
【0031】
これらの点を、実施例に代え、本発明者が検討した試験結果に基づいて、以下に記載していく。
検討例1高濃度の炭酸水素ナトリウム水性製剤を充填後、プラスチック容器のヘッドスペースを排気して密封した場合の容器膨張の検討
(1)ヘッドスペースの排気効果の確認
検討に供した高濃度炭酸水素ナトリウム含有水性製剤として、上記表1に記載する透析製剤1の「B」剤を用いた。すなわち、11.5L中に炭酸水素ナトリウムを672g含有する水性製剤である。
この水性製剤(11.5L)をプラスチック容器(PE製)に充填し、ヘッドスペース(約1.0L)に空気を吹き込み、炭酸ガスを含まない状態に置換し、密封する(施栓する)際に、ヘッドスペースの空気量を半分(0.5L)排気して施栓したもの(排気品)と、そのまま排気せずに施栓したもの(通常品)を調製した。
それぞれの調製品(排気品及び通常品)を通常の室温下に放置し、2日後に容器の胴幅の膨れ、容器内圧及び炭酸ガス濃度を測定した。
なお、水性製剤11.5Lをプラスチック容器に充填した場合のヘッドスペース(容器内の空気量)は、約1.0Lであり、ヘッドスペースに放出される炭酸ガス濃度は、少なくとも50%弱で平衡状態に達するものと仮定し、ヘッドスペースからの排気量を半量(0.5L)とし、排気方法は、容器胴部の両側を手で押さえてへこませて排気した。
その結果を、下記表2にまとめて示した。
【0032】
【表2】

【0033】
(2)胴幅、容器内圧及び炭酸ガス濃度の経時的変化の検討
上記1と同様の「B剤」を用い、プラスチック容器に充填した後、ヘッドスペースの排気を行わない通常品と、ヘッドスペースから正確に500mLの空気を抜いて施栓した排気品を調製した。なお、ヘッドスペースからの排気は注射筒を用いて正確に500mLの排気を行った。
充填直後から2日後までの容器の胴幅、容器内圧及び炭酸ガス濃度の推移を、経時的に測定した。
その結果を、下記表3にまとめて示した。
【0034】
【表3】

【0035】
(3)炭酸水素ナトリウム含有溶液の濃度に対するヘッドスペース内炭酸ガス濃度の検討
炭酸水素ナトリウム含有溶液の炭酸水素ナトリウム濃度と、充填時におけるヘッドスペース内の炭酸ガス濃度の関係を検討した。
炭酸水素ナトリウム濃度が異なる2種類の炭酸水素ナトリウム含有溶液(炭酸水素ナトリウム濃度として、29g/500mL及び41g/500mLの2種類)をプラスチック容器に充填し、それぞれ温度の異なる条件下(5、25、30及び40℃温度下)に保存し、3日間保存後(気液平衡時)のヘッドスペース内の炭酸ガス濃度を測定した。
検討は、それぞれの炭酸水素ナトリウム含有溶液を500mLプラスチック容器に充填後、キャップを溶着後、注射筒にて容器内の空気を全て抜き、改めて空気100mLを正確に注入し、各条件下に保存した。
なお、炭酸水素ナトリウム濃度としての41g/500mL炭酸水素ナトリウム含有溶液は、ほぼ飽和濃度に近い濃度であり、29g/500mL500mL炭酸水素ナトリウム含有溶液ともに、実際の「B剤」の濃度に類するものである。
その結果を、下記表4に示した。
【0036】
【表4】

【0037】
以上の検討結果から、以下の点が判明した。
(1)高濃度の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した直後のヘッドスペースの炭酸ガス濃度は僅かであるが、その後ヘッドスペースの炭酸ガス濃度は徐々に上昇し、半日程度でほぼ平衡状態に達する。
(2)平衡状態に達した時のヘッドスペースの炭酸ガス濃度は、保存温度条件下により異なるが、通常の流通条件下を考慮した場合、約40%弱となり、放出された炭酸ガスによりヘッドスペースは1.5倍の容量に増大する。
(3)ヘッドスペースの空気を半分程度排気することで、容器の膨張(変形)が防止できる。
【0038】
以上の検討から、高濃度の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤である「B剤」をプラスチック容器に充填する場合には、ヘッドスペースの空気を少なくとも半分程度排気して密封すれば、ヘッドスペース内の炭酸ガス濃度及び炭酸水素ナトリウム含有水性製剤中の炭酸ガス濃度が平衡状態になった段階で、プラスチック容器の膨張(変形)は回避できることが判明した。
そこで、以上の結果を踏まえ、ヘッドスペースからの適正排気量について、検討を行った。
【0039】
検討例2ヘッドスペースからの適正排気量についての検討
(1)予備検討
プラスチック容器に水11.5Lを充填し、施栓した。その時のヘッドスペースは1Lであった。このヘッドスペースから注射筒を用いて容器内空気を抜いた場合(陰圧)と、注入した場合(陽圧)の胴幅と容器内圧について測定した。
その結果を、下記表に示した。
【0040】
【表5】

【0041】
高濃度の炭酸ガス含有水性製剤を充填したときのプラスチック容器の変形は、溶液からヘッドスペース(空間部)に放出される炭酸ガスによる内圧の上昇に起因するものであるが、上記の検討からみれば、ヘッドスペースから注射筒を用いて容器内空気を抜いた場合には、内圧は常圧から陰圧に変化していることから、仮に溶液中から平衡状態に達するまでの炭酸ガスの放出があり、内圧が上昇したとしても、陰圧と相殺され、平衡状態にあっては、ヘッドスペースをほぼ常圧の状態とすることが可能となり、それによりプラスチック容器の変形が防止されることとなる。
【0042】
(2)適正排気量の検討
表1の透析液1の「B剤」、すなわち、11.5L中に炭酸水素ナトリウム940g含有する高濃度の炭酸水素ナトリウム水性製剤を充填したプラスチック容器の容器内圧を常圧(±数mmHg)に設定する場合の容器ヘッドスペースからの排気量を推定した。
[推定条件]
容器のヘッドスペース:1000mL
充填時の炭酸ガス濃度(常温):5%
気液平衡状態におけるヘッドスペース内の炭酸ガス濃度(常温):40%程度
【0043】
その結果を、下記表6にまとめた。
【0044】
【表6】

【0045】
以上の具体的結果から、ヘッドスペース1000mLに対して、排気量は300〜400mL(30〜40%の排気)が適切であると判明した。
なお、表1の透析液2の「B剤」、すなわち、11.5L中に炭酸水素ナトリウム940g含有する高濃度の炭酸水素ナトリウム水性製剤にあっては、気液平衡時の炭酸ガス量を考慮すると、ヘッドスペースからの排気量はさらに多めの方が良いものといえる。
【0046】
以上の検討から、プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填し、当該ヘッドスペース内の空気を排気して密封すること、特にヘッドスペース内の空気を20〜40%排気することにより炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止が達成することができることが判明した。
【0047】
なお、本発明におけるプラスチック容器に充填する炭酸水素ナトリウム含有水性製剤は、高濃度の炭酸水素ナトリウムを含有するものであり、炭酸ガスの放出の程度は温度の影響を大きく受け、高温であればあるほど炭酸ガスの放出が多くなり、容器の変形が生じ易くなる。したがって上記におけるヘッドスペース内の空気の排気は、通常の作業条件下である常温(20℃±15℃)、好ましくは25℃前後においてヘッドスペース内の空気を20〜40%排気することにより炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止が達成することができるものである。
【0048】
その点を考慮し、本発明にあっては、プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した場合、当該ヘッドスペース内の空気を半分量程度排気して密封してやれば、炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形を防止できるものといえる。
【0049】
本発明の方法により、実際の透析用製剤(AK−ソリタ・DL)の「B剤」について、プラスチック容器に充填する際にヘッドスペースの空気を35%排気して密封し、滅菌処理したものについて保存安定性を検討したが、常温下における1ヶ月に亘る保存であっても、容器の変形は認められなかった。
したがって、本発明はまた別の態様として、かかる高濃度の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した包装体を提供するものでもある。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上記載のように、本発明方法により、高濃度の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填したプラスチック容器に観察される変形を防止することができる。
したがって、実際の透析用製剤の「B剤」の容器の変形が防止されることから容器からの液漏れもなく、段ボール箱内における「A剤」との結束状態が保たれ、その結果、段ボールが変形することなく、荷崩れが生ずることがない。
また、段ボール箱からの製剤の取り出しが極めてスムースに行うことができ、その医療上の貢献度は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填し、当該ヘッドスペース内の空気を一定量排気して密封したことを特徴とする炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法。
【請求項2】
炭酸水素ナトリウムの含有量が5〜9w/v%であることを特徴とする請求項1に記載の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法。
【請求項3】
ヘッドスペース内の空気を、20〜40%排気することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した容器の変形防止方法。
【請求項4】
プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填し、ヘッドスペース内の空気を一定量排気して密封したことを特徴とする、ヘッドスペース内の炭酸ガス濃度及び炭酸水素ナトリウム含有水性製剤中の炭酸ガス濃度を平衡状態にさせる方法。
【請求項5】
ヘッドスペース内の空気を、20〜40%排気することを特徴とする請求項4に記載のヘッドスペース内の炭酸ガス濃度及び炭酸水素ナトリウム含有水性製剤中の炭酸ガス濃度を平衡状態にさせる方法。
【請求項6】
プラスチック容器内にヘッドスペースを設けて炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填し、当該ヘッドスペース内の空気を一定量排気して密封したことを特徴とする炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した包装体。
【請求項7】
ヘッドスペース内の空気を、20〜40%排気することを特徴とする請求項6に記載の炭酸水素ナトリウム含有水性製剤を充填した包装体。

【公開番号】特開2009−254659(P2009−254659A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108716(P2008−108716)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】