説明

焙焼小麦粉およびその製造方法

【課題】風味、食感などが一層向上した食品を得ることができる焙焼小麦粉、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】含有澱粉が実質的にα化されておらず、グルテン・バイタリティーが、未処理小麦粉のグルテン・バイタリティーを100としたときに、70〜90であり、白度が、未処理小麦粉の白度を100としたときに、90〜100であることを特徴とする焙焼小麦粉。該焙焼小麦粉は、乾燥により小麦粉の水分を5質量%未満にした後、この小麦粉を品温100〜140℃で10〜90分間焙焼処理することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙焼小麦粉およびその製造方法に関し、詳しくは、含有澱粉が実質的にα化されておらず、特定のグルテン・バイタリティーおよび白度を有し、風味および食感が向上した食品を得ることができる焙焼小麦粉、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、小麦粉を用いた食品の風味、食感、色などを改良するために、小麦粉を焙焼処理することが行なわれている。例えば、特許文献1には、水分含量を5%以上に保持しながら90〜110℃で小麦粉を焙焼処理する方法が記載されている。特許文献2には、110〜160℃で50〜150分間小麦粉を焙焼処理する方法が記載されている。特許文献1及び2に記載の方法においては、原料小麦粉として、水分含量が十数%の通常の小麦粉がそのまま用いられており、また、特許文献1には、水分含量が5%未満になると小麦粉の蛋白変性が不十分になることが記載されている。特許文献1及び2に記載の方法により得られた焙焼小麦粉では、風味、食感、色などの改良効果がある程度認められるものの、さらなる向上が求められている。
【0003】
また、小麦粉を揚げ物用のバッター液又は打ち粉に用いる場合には、風味および食感に加えて、衣と揚げ物種との結着性も良好であることが求められる。特許文献1に記載の方法により得られた焙焼小麦粉では、結着性は弱く、特許文献2に記載の方法により得られた焙焼小麦粉では、結着性を向上させることができるものの、この方法により結着性向上効果を得るには高い焙焼温度と長い焙焼時間を要し、それに伴ってコゲ臭が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−45838号公報
【特許文献2】特開2002−345421公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、風味、食感などが一層向上した食品を得ることができる焙焼小麦粉、特に揚げ物用小麦粉として、衣の風味および食感を向上させ、さらに衣と揚げ物種との結着性も向上させることができる焙焼小麦粉、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、焙焼小麦粉を用いた揚げ物について特に検討した結果、その風味および食感、さらに結着性を向上させるには、焙焼前の小麦粉の水分の調整が重要であり、とりわけ結着性に対してその影響が大きいことを知見した。さらなる検討の結果、本発明者らは、水分調整をした後に、特定のグルテン・バイタリティーおよび白度となるように焙焼して得られた焙焼小麦粉が、上記目的を達成し得ることを知見した。
【0007】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、含有澱粉が実質的にα化されておらず、グルテン・バイタリティーが、未処理小麦粉のグルテン・バイタリティーを100としたときに、70〜90であり、白度が、未処理小麦粉の白度を100としたときに、90〜100であることを特徴とする焙焼小麦粉を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、上記焙焼小麦粉の製造方法として、乾燥により小麦粉の水分を5質量%未満にした後、この小麦粉を品温100〜140℃で10〜90分間焙焼処理することを特徴とする焙焼小麦粉の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、風味および食感が一層向上した焙焼小麦粉を提供することができる。特に、揚げ物に用いた場合には、衣の風味および食感を向上させ、さらに衣と揚げ物種との結着性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、澱粉のα化度を測定するBAP法(β−アミラーゼ・プルラナーゼ法)のフローである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
先ず、本発明の焙焼小麦粉について説明する。
本発明の焙焼小麦粉においては、含有澱粉が実質的にα化されていない。具体的には、含有澱粉のα化度は7%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。本発明の焙焼小麦粉においては、含有澱粉が実質的にα化されていると、衣にベタ付きが生じ、サクミが失われてしまう。なお、含有澱粉のα化度は低いほど好ましいが、低い場合でも通常3%程度である。
【0012】
上記α化度は、BAP法により測定された値とする。BAP法は、図1に示したフローに従って行うことができる。図1におけるA、B、A’、B’およびaは、それぞれ以下の通りであり、α化度は下記式より算出される。
A:試料の還元糖量(ソモギーネルソン法により測定)
B:試料の全糖量(フェノール硫酸法により測定)
A’:完全糊化試料の還元糖量(ソモギーネルソン法により測定)
B’:完全糊化試料の全糖量(フェノール硫酸法により測定)
a:ブランクの還元糖量(ソモギーネルソン法により測定)
【0013】
【数1】

【0014】
本発明の焙焼小麦粉において、グルテン・バイタリティーは、未処理小麦粉(原料小麦粉)のグルテン・バイタリティーを100としたときに、70〜90である。70未満であると衣の風味が強くなりすぎると同時に衣が硬くなりすぎてしまい、90超であると衣と揚げ物種の結着性が弱くなってしまう。
【0015】
本発明において、グルテン・バイタリティーは、以下の測定方法により測定されたものである。
〔グルテン・バイタリティーの測定方法〕
(1)小麦粉の可溶性粗蛋白含量の測定
(a)100ml容のビーカーに試料(小麦粉)を2g精秤して入れる。
(b)上記のビーカーに0.05規定酢酸40mlを加えて、室温で60分間攪拌して懸濁液を精製する。
(c)上記(b)で得た懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(d)上記で用いたビーカーを0.05規定酢酸40mlで洗って洗液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(e)上記(c)および(d)で回収した濾液を一緒にして100mlにメスアップする。
(f)ティーケーター社(スウェーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに上記(e)で得られた液体の25mlを入れ、分解促進剤(日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」)1錠および濃硫酸15mlを加える。
(g)上記したケルテックオートシステムのケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015型)を用いて、ダイヤル4で1時間分解処理を行い、さらにダイヤル9または10で1時間分解処理を行った後、同ケルテックオートシステムのケルテック蒸留滴定システム(KELTEC AUTO 1030型)を用いて、蒸留および滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記式により、試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白含量を求める。
【0016】
可溶性粗蛋白含量(%)=0.14×(T−B)×F×N×(100/S)×(1/25)
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0017】
(2)小麦粉の全粗蛋白含量の測定
(a)上記(1)で用いたのと同じティーケーター社のケルテックオートシステムのケルダールチューブに試料(小麦粉)を0.5g精秤して入れ、これに上記(1)の(f)で用いたのと同じ分解促進剤1錠および濃硫酸15mlを加える。
(b)上記(1)で用いたのと同じケルテックオートシステムのケルテック分解炉を用いて、ダイヤル9または10で1時間分解処理を行った後、連続的に同じケルテックオートシステムのケルテック蒸留滴定システムを用いて、蒸留および滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記式により、試料(小麦粉)の全粗蛋白含量を求める。
【0018】
全粗蛋白含量(%)=(0.14×T×F×N)/S
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0019】
(3)グルテン・バイタリティーの算出
上記(1)で求めた試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白含量および上記(2)で求めた試料(小麦粉)の全粗蛋白含量から、下記式により、試料(小麦粉)のグルテン・バイタリティーを求める。
グルテン・バイタリティー(%)=(可溶性粗蛋白含量/全粗蛋白含量)×100
【0020】
以上の測定方法により、未処理小麦粉(原料小麦粉)および焙焼小麦粉のグルテン・バイタリティーをそれぞれ求め、それらの値から下記式により算出した未処理小麦粉に対する焙焼小麦粉のグルテン・バイタリティー(相対値)が、本発明においては70〜90である。
未処理小麦粉に対する焙焼小麦粉のグルテン・バイタリティー=(焙焼小麦粉のグルテン・バイタリティー/未処理小麦粉のグルテン・バイタリティー)×100
【0021】
本発明の焙焼小麦粉において、白度は、未処理小麦粉(原料小麦粉)の白度を100としたときに、90〜100であり、92〜100であることが好ましく、95〜100であることがさらに好ましい。つまり、本発明の焙焼小麦粉の白度は、未処理小麦粉の白度と大きくは変わらない。このことは、焙焼の処理程度が弱いことを意味する。白度が、未処理小麦粉の白度を100としたときに90未満であると、衣にコゲ臭が生じ、不快なものとなってしまう。
【0022】
また、本発明の焙焼小麦粉は、水分が2〜5質量%であることが好ましい。
【0023】
本発明の焙焼小麦粉に用いる原料小麦粉は、特に制限はなく、薄力粉、中力粉、強力粉のいずれでもよく、焙焼小麦粉の用途に応じて適宜選択することができる。
【0024】
本発明の焙焼小麦粉は、トンカツ、カキフライ、エビフライなどの揚げ物、惣菜パン、ケーキなどの用途に用いることができ、特に揚げ物用として好適である。
【0025】
本発明の焙焼小麦粉を揚げ物用として用いる場合には、常法に従い、バッター液または打ち粉として用いることができ、その際には、本発明の焙焼小麦粉を含有する揚げ物用ミックス粉としてから用いてもよい。
【0026】
次に、本発明の焙焼小麦粉の製造方法について説明する。本発明の焙焼小麦粉の製造方法は、前述の本発明の焙焼小麦粉の好ましい製造方法である。本発明の焙焼小麦粉の製造方法によれば、本発明の焙焼小麦粉を確実に得ることができる。
【0027】
本発明の製造方法においては、先ず、乾燥により小麦粉(原料小麦粉)の水分を5質量%未満にする(乾燥工程)。原料小麦粉としては、通常の小麦粉を使用することができ、前述の通り薄力粉、中力粉、強力粉などが挙げられる。通常の小麦粉は、11〜15質量%程度の水分を含有している。本発明の製造方法においては、この水分を5質量%未満、好ましくは4質量%未満、さらに好ましくは3質量%未満まで乾燥させる。また、コゲ臭防止の観点から、小麦粉の水分は2質量%以上残存させることが好ましい。
【0028】
乾燥方法としては、原料小麦粉の含有澱粉をα化させることがなく且つ原料小麦粉のグルテン・バイタリティーおよび白度を大きく変化させない方法が好ましく、具体的には気流式乾燥が好ましい。気流式乾燥の条件は、100〜200℃にて1〜20秒間とすることが好ましい。乾燥方法としては、そのほかに、バンド乾燥機を用いる方法なども挙げられる。
【0029】
なお、焙焼によっても小麦粉の水分を減少させることはできるが、焙焼により原料小麦粉の水分を5質量%未満とするには長時間を要し、その間に含有澱粉のα化が進み、またグルテン・バイタリティーおよび白度も変化してしまい、さらにはコゲ臭も生じてくる。そのため、最終的に、目的とする特性を有する焙焼小麦粉を得ることができない。これらのことから、本発明においては、乾燥方法として焙焼を採用することはできない。
【0030】
本発明の製造方法においては、次に、水分5質量%未満となった小麦粉を、品温100〜140℃、好ましくは110〜130℃で、10〜90分間、好ましくは20〜60分間焙焼処理する(焙焼工程)。この焙焼工程により、目的とする焙焼小麦粉が得られる。焙焼は、水分5質量%未満となった小麦粉を、従来の焙焼小麦粉と同様に、連続式運行釜などの焙焼釜で加熱する方法;鉄製トレーに入れ、バンドオーブンなどのオーブン中で加熱する方法;パドルドライヤーなどの加熱装置付きミキサーで加熱する方法などにより行うことができる。
【0031】
得られた焙焼小麦粉は、その後空冷などの方法により冷却する。粒状になった場合には通常の小麦粉と同程度の粒度まで粉砕することが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例などを挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〜3および比較例1〜5〕
原料小麦粉としての日清製粉(株)製薄力小麦粉「バイオレット」(水分13.5質量%)を、表1に示すそれぞれの乾燥後水分まで気流式乾燥機で乾燥した(乾燥温度および乾燥時間は表1に記載の通り)。続いて、乾燥したそれぞれの小麦粉を、表1に示す焙焼時間および焙焼品温となるように火力を調節した連続式運行釜で焙焼し、焙焼小麦粉を得た。
なお、比較例1においては、乾燥を行わず、上記薄力小麦粉「バイオレット」をそのまま連続式運行釜での焙焼に供した。
【0034】
得られた焙焼小麦粉の焙焼後水分およびα化度を測定した。α化度の測定は前述のBAP法により行った。
また、得られた焙焼小麦粉および原料小麦粉それぞれのグルテン・バイタリティーおよび白度を測定した。グルテン・バイタリティーの測定は前述の測定方法に従って行い、白度は、日本電色工業社製の色差計(ND-300A)で測定した。これらの測定結果から、原料小麦粉のグルテン・バイタリティーおよび白度をそれぞれ100としたときの、原料小麦粉に対する焙焼小麦粉のグルテン・バイタリティーおよび白度を算出した。
以上の結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
〔評価例1〕
実施例1〜3および比較例1〜5で得られた焙焼小麦粉を用いて下記配合によりバッター液をそれぞれ調製した。このバッター液にトンカツ用豚肉を浸し、パン粉をまぶし、170℃で6分間油ちょうして、トンカツをそれぞれ得た。
得られたトンカツについて、下記表3に示す評価基準に従って、衣の風味、衣と揚げ物種との結着性、および食感を、10名のパネラーで評価した。それらの評価結果の平均点を表2に示す。
【0037】
(バッター液の配合)
焙焼小麦粉 70質量部
コーンスターチ 27質量部
カラギーナン 2質量部
グルタミン酸ナトリウム 0.5質量部
食塩 0.5質量部
水 400質量部
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
〔評価例2〕
実施例1〜3および比較例1〜5で得られた焙焼小麦粉をエビフライの打ち粉に使用した。即ち、殻を取ったエビに、焙焼小麦粉をまぶした後、卵液に浸してからパン粉をまぶし、170℃で3分間油ちょうして、エビフライをそれぞれ得た。
得られたエビフライについて、前記表3に示す評価基準に従って、衣の風味、衣と揚げ物種との結着性、および食感を、10名のパネラーで評価した。それらの評価結果の平均点を表4に示す。
【0041】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有澱粉が実質的にα化されておらず、
グルテン・バイタリティーが、未処理小麦粉のグルテン・バイタリティーを100としたときに、70〜90であり、
白度が、未処理小麦粉の白度を100としたときに、90〜100である
ことを特徴とする焙焼小麦粉。
【請求項2】
揚げ物用である請求項1に記載の焙焼小麦粉。
【請求項3】
乾燥により小麦粉の水分を5質量%未満にした後、この小麦粉を品温100〜140℃で10〜90分間焙焼処理することを特徴とする焙焼小麦粉の製造方法。
【請求項4】
小麦粉の乾燥を気流式乾燥により行う請求項3に記載の焙焼小麦粉の製造方法。

【図1】
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