説明

焙煎紅麹およびその製造法

【課題】血中コレステロールの上昇を予防するのに有効な食品素材を、日常の食生活に簡単に継続して提供する。特に、単体のまま豆状、或いは粉状でそのまま摂食でき、調理にも使うことができるように、風味と食感を向上させると同時に、安定タイプのL型モナコリンKの比率を増加させることにより、機能性成分であるモナコリンKの保存性を高めた。
【解決手段】大豆を原料とし、モナスカス属に属する糸状菌を植菌して製造した大豆紅麹を焙煎して得たもの。更に、ラクトン型モナコリンKの比率が50%以上で、食感の柔らかさの指標となる硬度(JIS K 6301規格によるHC)が47以下の焙煎大豆紅麹であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定的なラクトン型モナコリンKの比率が向上し、且つ粒の状態のままでも食味と食感が優れる焙煎紅麹、およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅麹は穀類にモナスカス属の菌株を繁殖させた麹で、中国、台湾などでは紅酒、老酒、紅乳腐などの醸造原料として利用されており、また古来より生薬として「消食活血」「健脾燥胃」などの効果が知られている。(李時珍「本草綱目」(1590年))。
また、血圧降下作用、コレステロール改善作用等、様々な機能を有することが知られ、味噌、醤油、食酢等の醸造食品をはじめ、パン、麺類等、色々な食品に使われている。更に、サプリメントとして、或いは、エキスを抽出して添加したドリンク剤としても利用されている。
【0003】
紅麹のコレステロール改善作用については、モナスカス属の菌株によって生産されるモナコリンK(ロバスタチンとも呼ばれる)が、体内のコレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoAレダクターゼを阻害することにより血中コレステロールを低下させることが明らかにされている(非特許文献1、2、特許文献1)。モナコリンKには互いに変換可能なラクトン型と酸型があり(非特許文献3)、米紅麹の場合は、化学構造上安定的なラクトン型が70〜80%の割合で存在している。
【0004】
一方、原料を米から大豆に変えて得た大豆紅麹は、食味が改善され従来の米紅麹独特の味臭を持たずおいしく摂取することができることが本出願人の特出願2004-259118(特許文献2)に開示されているが、モナコリンKの組成は、安定的なラクトン型の比率が25〜35%と、米紅麹に比べ少なくなっている。
また、米紅麹に比べ紅麹独特の味臭がないというものの、粉砕せずに単体豆粒を未調理のまま摂取するには固さ等の点で問題が残る。
【0005】
穀類の食感風味や食味の向上を図るために焙煎加工が有効であることは、例えば発芽穀物を焙煎することにより食感風味が優れ栄養成分に富んだ食品が提供できること(特許文献3)、大豆(特許文献4)やハトムギ等の穀類(特許文献5)に焙煎工程を加え食味や食感を向上させた新食品ができること、殻のついた穀類や豆類を焙煎することにより芳香性、美味で栄養成分に優れた健康食品を提供できること(特許文献6)等が報告されている。
また、焙煎と発酵を組み合わせた食品の製造に関しては、焙煎した食品、穀類やその粉末を、乳酸菌、麹菌、納豆菌、酵母菌で発酵させることにより、ヘルシーで消化性や食味に優れた飲食品が提供できること(特許文献7、8)や麹菌で発酵させた大豆発酵塊を焙煎、粉砕して栄養成分に富んだ、消化吸収効率に優れ、香味や旨みも加味された食品の製造法(特許文献9)が開示されている。
【0006】
しかし大豆紅麹を含む紅麹の焙煎についての報告はなく、また焙煎の効果として食感食味や風味の向上以外の、モナコリンKその他成分に対する効果について報告されたものはない。
【0007】
【非特許文献1】発酵工学 第64巻 第6号 1986年発行
【非特許文献2】日本臨床栄養学会誌 第22巻 第3号 2000年発行
【非特許文献3】化学と教育 第47巻 第12号 1999年発行
【特許文献1】特開昭58−43783公報
【特許文献2】特出願2004−259118未公開
【特許文献3】特開2005−245410公報
【特許文献4】特開平6−165652公報
【特許文献5】特開2005−40104公報
【特許文献6】特開2001−204422公報
【特許文献7】特開平8−131069公報
【特許文献8】特開平8−140613公報
【特許文献9】特開2000−93132公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、穀類、特に大豆を原料とし、粒の状態のままでも食感、食味、風味に優れ、コレステロール改善の関与成分に関して、化学的に安定タイプのラクトン型モナコリンKの比率を増し、よって、保存性の向上した焙煎大豆紅麹、及びその製造法及びこの焙煎大豆紅麹を含有する食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、米、麦、粟、稗、豆類等の穀類を製麹原料とした中で、特に、大豆を原料として製造された紅麹を焙煎加工した焙煎大豆紅麹であり、ラクトン型モナコリンKの比率が50%以上で、食感の柔らかさの指標となる硬度(JIS K 6301規格によるHC)が47以下であることを特徴とする焙煎大豆紅麹である。
また、大豆を原料とし、モナスカス属に属する糸状菌を植菌して製造した大豆紅麹を、以下の条件で焙煎加工し、ラクトン型モナコリンKの比率が50%以上で、食感の柔らかさの指標となる硬度(JIS K 6301規格によるHC)が47以下の焙煎大豆紅麹を得ることを特徴とする加工方法を提供するものでもある。
1.焙煎する紅麹の水分率を5 〜45%とする。
2.遠赤外線および/またはバーナー直火により焙煎処理する。
3.遠赤外線のバーナー温度を250℃〜350℃、ドラム回転速度を10〜30rpmとする。
4.バーナー直火によるバーナー温度を200℃〜350℃、焙煎時間を30分以下とする。
さらに、これを含む、あるいは、これの加工物、抽出物等を含有して成る飲食物も本発明に含まれるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、コレステロール低減作用の有効成分であるモナコリンKを化学的に安定的なラクトン型モナコリンKが50%以上となる割合で含み、食した時の食感、食味、風味も向上した焙煎大豆紅麹を得ることができる。また特に、焙煎大豆紅麹は、単体豆粒のままでもおいしく摂食することができるため、そのままでもサプリメントとなり得る他、粉末形態では飲料も含め幅広い食品分野に展開でき、コレステロール改善作用を有する食材としてその機能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の原料である大豆は、原産地、品種は特に限定されない。即ち、白大豆、黄大豆、黒大豆、緑大豆等各種のものを用いることができ、これらを適宜混合しても良い。また粒形態としては必ずしも丸大豆である必要はなく、半粒や挽き割り形態など適宜割砕して用いても良いが、粒状態で利用するためには丸大豆が好ましい。
培養に用いる紅麹菌は、モナスカス(Monascus)属に属する糸状菌であればいずれの菌であってもよいが、食品用としてモナスカス・パープレウス(Monascus purpureus)、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)やそれらの変種、変異株が挙げられる。これらの紅麹菌は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
本発明における製麹条件としては、水分率を35〜55%に調整し、温度20〜35℃、製麹日数7〜30日で行えばよい。
【0012】
焙煎加工条件としては、以下の要件を必要とする。
1.焙煎する紅麹の水分率を5 〜45%とすれば良いが、8〜13%程度を目安とする。
2.遠赤外焙煎またはバーナー直火の通常焙煎、あるいは両者を組み合わせて焙煎する。
遠赤外焙煎機は、内面にセラミックを貼った回転円筒ドラムを外側から加熱し、セラミックにより遠赤外を発生させ、焙煎を行う。最初に遠赤外焙煎を1〜3回行った後、通常の焙煎を1回行うことが特に好ましい。
3.遠赤外のバーナー温度は250℃〜350℃、ドラム回転速度は10〜30rpmとする。
4.バーナー直火の通常焙煎のバーナー温度は200℃〜350℃、焙煎時間は30分以下とする。
焙煎時間は、仕上がり温度を設定することにより調節する。仕上がり温度は、 150℃程度に設定するのが好ましい。
以上の処理は、表面から芯に至るまで均一に火を通す所謂「焙り煎る」という操作であり、直火焙煎、熱風焙煎等の方法が例示できる。これにより、水分を除き、成分を化学変化させて香り、風味を引き出すことができる。用いる装置、条件等にもよるが、一般的に処理条件が弱いと目的とする成分、風味、食感を得ることができず、逆に条件が強すぎると焦げの問題がある。
なお、前記した製麹を含めた各条件は、大豆以外の穀類、例えば、米、麦等通常の製麹原料の場合においても適用可能である。
【0013】
本発明によって得られた焙煎紅麹は、そのまま、或いは、粉末状、顆粒状、水溶液、ペースト状等、任意に加工し、これを適宜利用して、例えば、飲料、菓子類、パン、シリアル、アイスクリーム、お茶、ふりかけ等、いろいろな食品原料として、またサプリメントに好適に用いることができる。
以下、本発明について例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
丸大豆を90分間水に浸漬し、45分間水切りした後、オートクレーブで125℃、20分間蒸気滅菌し蒸大豆を得た。これに、Monascus pilosus NBRC4520を植菌し、最初の6日間は30〜35℃、6日目以後は25〜27℃で、計26日間培養して本発明の原料となる大豆紅麹を得た。なお、培養期間中の水分率は35〜45%の範囲に調整した。
こうして得た大豆紅麹を110℃、30分間熱処理し、紅麹菌と酵素を失活後、通風60℃で水分率を約10%まで乾燥した後、以下の4通りの焙煎処理を行い、本発明の焙煎大豆紅麹を得た。
(焙煎1)小型焙煎機(横山製作所製の品温自動排出式排気乾燥火入機)で、0.5キログラムの大豆紅麹を、バーナー温度200℃で10分間焙煎した。
(焙煎2)小型焙煎機(横山製作所製の品温自動排出式排気乾燥火入機)で、30キログラムの大豆紅麹を、バーナー温度350℃、仕上がり温度140℃で焙煎した。
(焙煎3)遠赤外焙煎機(セラミック焙煎機;CFR−12L4(有)宗野鉄工所製)で、30キログラムの大豆紅麹をバーナー温度330℃、ドラム回転速度20rpmで2回回転(4分間に相当)させ、焙煎した。
(焙煎4)(焙煎3)処理を行った後(焙煎2)処理を行った。
このようにして得られた4種類の焙煎大豆紅麹、および焙煎処理前の大豆紅麹について、モナコリンK含量の定量、硬度の測定、および風味と食感を比較するための官能検査を行った結果は表1に示す通りである。
なお、モナコリンKの定量は、粉砕した焙煎大豆紅麹粉末に60%エタノールを加えて撹拌抽出し、高速液体クロマトグラフで分析したものである。
また硬度は、(株)アカシ製コンパクトタイプ硬度計(HH305)を用いて測定
した硬度(JIS K 6301規格によるHC)を示す。
官能検査は、健常成人6名に粒のまま摂食させ、風味、食感の評価を行った。
以上の結果から、大豆紅麹は焙煎加工することにより、安定タイプのL型モナコリンKの含量を高めることができ、また遠赤外焙煎と通常焙煎を組み合わせることにより、風味、食感がより向上した焙煎大豆紅麹が得られた。
特に、焙煎4によるものは、官能評価、硬度においてバランスの取れた評価を得た。
【0015】
【表1】

【0016】
一方、焙煎処理していない大豆紅麹と焙煎大豆紅麹のモナコリンK保存性を調べるため、保存試験(加速試験)を行った。焙煎処理していない大豆紅麹と実施例1で得られた焙煎1をそれぞれ10gチャック付きポリ袋に充填し、6ヶ月間加温処理した。加温条件は、40℃および50℃の2種類で試験を行った。モナコリンK保存性の評価は、大豆紅麹(焙煎処理実施、未実施)の加温処理前後のモナコリンK含量を定量し、加温処理前に対する加温処理後のモナコリンK含量残存率を算出して比較した。その結果、表2に示すように、焙煎1は、40℃、50℃いずれの加温温度においても、焙煎処理していない大豆紅麹よりモナコリンK残存率が高く、すなわちモナコリンKが安定であることが確認され、このことは、大豆紅麹は焙煎加工することにより、安定タイプのL型モナコリンKの含量を高め、モナコリンKの保存性を高めることができたことを示すものである。
【0017】
【表2】

【0018】
更に、焙煎処理していない大豆紅麹と焙煎大豆紅麹の飲料に与える影響を調べるため、官能試験を行った。焙煎処理していない大豆紅麹と実施例1で得られた焙煎4を粉砕し、それぞれ市販の豆乳100mlに3g添加、懸濁し、健常成人6名による官能試験を行った。その結果、焙煎4を添加した豆乳は、香ばしい香りがあり、豆乳独特の青臭さがマスクされた、非常に好ましい香りと味が得られた。一方、焙煎処理していない大豆紅麹を添加した豆乳は、違和感なく飲めるものの、焙煎大豆紅麹を添加したもと比べると、風味の改善は感じられなかった。この結果は、遠赤外焙煎と通常焙煎を組み合わせた焙煎大豆紅麹の粉末形態を用いることにより、食味、風味の向上した飲料が得られることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の焙煎大豆紅麹は、味、香り等において、味覚に影響を与えることがなく、単体のまま豆状でも粉状でもそのまま摂食できるだけでなく、調理に使ったり、いろいろな食品にも応用したり添加できる。また特にコレステロール低減作用をもつモナコリンKを含むことから、その効果が期待され、食事中に個人のコレステロール値に応じて、手軽に料理に添加し、同時にイソフラボン(アグリコン型)も摂取できる等、機能性飲食物の素材として極めて広汎に、且つ好適に用いることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モナスカス属に属する糸状菌を、穀類に植菌することによって製造された紅麹を焙煎加工した焙煎紅麹。
【請求項2】
穀類が大豆であり、焙煎後におけるラクトン型モナコリンKの比率が50%以上である請求項1記載の焙煎紅麹。
【請求項3】
穀類が大豆であり、食感の柔らかさの指標となる硬度(JIS K 6301規格によるHC)が47以下であることを特徴とする請求項1または、請求項2記載の焙煎紅麹。
【請求項4】
請求項1〜3記載の焙煎紅麹を含有して成る飲食物。
【請求項5】
大豆を製麹原料とし、モナスカス属に属する糸状菌を植菌して製造した大豆紅麹を以下の条件で処理することを特徴とする焙煎紅麹の製造法。
1.焙煎する紅麹の水分率を5 〜45%とする。
2.遠赤外線および/またはバーナー直火により焙煎処理する。
3.遠赤外線のバーナー温度を250℃〜350℃、ドラム回転速度を10〜30rpmとする。
4.バーナー直火によるバーナー温度を200℃〜350℃、焙煎時間を30分以下とする。

【公開番号】特開2007−267696(P2007−267696A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98930(P2006−98930)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】