説明

焙煎豆微粉末の製造方法および焙煎豆微粉末を用いた飲食物

【課題】コーヒー豆を焙煎した焙煎豆を微粉砕処理して得られる微粉末の熱変性による風味の劣化を防止または抑制し、さらに、その舌触りを良好とし得る焙煎豆微粉末の製造方法および焙煎豆微粉末を用いた飲食物を提供する。
【解決手段】原料となる焙煎豆を、気流式粉砕機2を用いた同体摩擦によって微粉砕する。そして、この気流式粉砕機2を用いた同体摩擦による微粉砕は、焙煎豆を、その50パーセント粒子径が30μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように微粉砕する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー豆を焙煎した焙煎豆を微粉砕して焙煎豆微粉末を製造する方法および焙煎豆微粉末を用いた飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー豆を焙煎した焙煎豆を微粉砕して焙煎豆微粉末を製造する方法としては、例えば特許文献1ないし2に記載の技術が知られている。
特許文献1に記載の技術では、焙煎豆を液体窒素で冷却し、−105℃の凍結状態で衝撃式粉砕機にて50パーセント粒子径(平均粒子径、D50ともいう)を20μm以下に乾式で微粉砕する方法が提案されている。
【0003】
また、特許文献2に記載の技術では、焙煎豆を回転軸とケーシングとの間隙に挟み込みつつ加圧し、これにより搾油して脂質の25%以上を除去し、その後に、衝撃式粉砕機で乾式微粉砕することで50パーセント粒子径が約15μmの焙煎豆微粉末を得る方法が提案されている。
【特許文献1】特開2005−318812号公報
【特許文献2】特開2004−321003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば特許文献1に記載の技術では、焙煎豆を凍結状態で衝撃式粉砕機にて粉砕する凍結粉砕なので、冷却機器を備えるための設備コストを要し、また、多量の液体窒素を消費するためにランニングコストが高いといった問題がある。
また、このような凍結粉砕では、結露が発生することによって粉砕機の内壁に微粉末が付着する場合がある。コーヒー豆は脂質を含有しており、焙煎により脂質は表面に浮き出すが脂質の浮出す量が多い焙煎豆を粉砕する場合は、粉砕機への微粉末の付着が避けられず、これを乾式で微粉砕するとその粉が固まって機械に固着してしまう。特に、深煎りした焙煎豆は脂質が表面に浮き出す傾向が強いため、乾式で微粉末を得ることは困難であった。
【0005】
また、例えば特許文献2に記載の技術では、搾油の際の加圧処理によってコーヒー豆に熱変性が生じるため、その風味が悪化してしまう。さらに、コーヒーアロマの多くはコーヒー豆の脂質に含まれているので、搾油して除去することによってコーヒー本来の香りや風味が減少することになる。
さらに、上述した特許文献に記載の2つの方法では、乾式での微粉砕手段として、共に衝撃式粉砕機を用いているが、このような衝撃式粉砕機で処理した微粉砕は熱変性が激しく生じ、また、その粒形は全体的に棘とげしい短形状を呈するものとなる。そのため、衝撃式粉砕機で処理した焙煎豆の微粉末を用いた食品や飲料等の飲食物は、その角張った粒形によって食感が悪いものとなり、舌にざらつきが多く、風味も悪いといった問題がある。
【0006】
なお、コーヒー豆や食品等の粉砕に広く用いられているロール式ミルを用いた場合には、上述した衝撃式粉砕機と比べて微粉砕処理における微粉末の熱変性や粒形の問題に多少の改善が見られるものの、やはり上述したような微粉末の熱変性や粒形にともなう食感等の問題点は同様の傾向を有しており、未だ検討の余地がある。また、このようなロール式ミルでは液体への分散性は悪化するという問題がある。このように従来の焙煎豆微粉末は、風味や食感に難があるために飲料用には適さず、食品に関してもパンや焼菓子等の焼成加工を施す食品に添加するというように用途が限られていた。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、例えば焙煎豆を予め凍結させる等の特別な前処理を施さない場合でも、焙煎豆を微粉砕して得られる微粉末の熱変性による風味の劣化を防止または抑制し、さらに、その微粉末を用いた食品や飲料等の飲食物の舌触りを良好とし得る焙煎豆微粉末の製造方法および焙煎豆微粉末を用いた飲食物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のうち第一の発明は、コーヒー豆を焙煎した焙煎豆の微粉末を製造する方法であって、前記焙煎豆を、気流式粉砕機を用いた同体摩擦によって、その50パーセント粒子径が30μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように微粉砕することを特徴としている。
第一の発明によれば、気流式粉砕機を用いて焙煎豆を同体摩擦によって粉砕するので、例えば焙煎豆を予め凍結させる等の特別な前処理を施さない場合でも、乾式での微粉砕処理を可能とし、粉砕処理の際にコーヒー豆に熱変性が殆んど生じず、さらに、例えば深煎のコーヒー豆のように脂質の多い焙煎豆であっても食用や飲用に適した粒子径且つ粒形が角のない丸みを帯びた形状に微粉砕することが可能であり、また、液体への分散性も良好で口溶けも良好な焙煎豆の微粉末を製造することができる。
【0009】
特に、前記気流式粉砕機を用いた同体摩擦による微粉砕は、前記焙煎豆を、その50パーセント粒子径が30μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように微粉砕するので、これにより製造される焙煎豆微粉末は、食用や飲用に適した50パーセント粒子径30μm以下、かつ粒形が角のない丸みを帯びた形状の微粉末とすることができ、液体への分散性も良好で口溶けも良好である。
【0010】
ここで、第一の発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法において、前記焙煎豆を、その50パーセント粒子径が20μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように微粉砕すれば、この焙煎豆微粉末を用いた食品や飲料の食感や舌触りを一層良くし、また、液体への分散性をより良好とし、さらに口溶けをより良好とする上で好ましい。なお、微粉砕後の50パーセント粒子径は、気流式粉砕機の設定によって適宜選択可能であるが、微粉砕後の粒子径の設定値を大きくすれば、その分、粉砕時間が短縮されるので、製造効率を高める上で好適である。また、粉砕時間が短縮されることにより、酸化雰囲気中での粉砕であれば、その短縮の程度に応じて酸化が抑制され、また、香りの飛散も抑制される。これに対し、微粉砕後の粒子径の設定値を小さく設定すれば、その分、粉砕時間が長くなるものの、上述のように、食感や舌触りを一層良くし、また、液体への分散性をより良好とし、さらに口溶けをより良好とする上では好適である。したがって、必要な条件を鑑みて適宜の微粉砕後の粒子径の設定値を選択することが望ましい。
【0011】
また、第一の発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法において、前記焙煎豆を、95パーセント粒子径が50μm以下になるように微粉砕することは好ましい。つまり、95パーセント粒子径が50μm以下であると、この焙煎豆微粉末を用いた食品や飲料の食感や舌触りをより向上させる上で好適である。
また、第一の発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法において、前記気流式粉砕機は、ケーシングと、そのケーシング内に所定距離互いに離隔して設けた第一回転翼および第二回転翼とを有し、前記ケーシング内の第一回転翼の上流側に導入領域、第一回転翼と第二回転翼との間に粉砕領域、および第二回転翼の下流側に分級領域を形成してなり、さらに、第一回転翼と第二回転翼の回転で旋回気流を発生させて原料の粉砕および分級を行う気流式粉砕機であることは好ましい。上記気流式粉砕機がこのような構成であれば、例えば同じ気流式粉砕機に分類されるジェットミルと比較して、これにより製造される焙煎豆微粉末の、熱変性の発生を一段と少なくし、一層丸みを帯びた粒形とする上で好適である。
【0012】
また、第一の発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法において、前記気流式粉砕機は、前記分級領域の下流にろ過手段およびろ過手段の排気口を設けており、当該ろ過手段の排気口と前記原料の投入部とは、還流可能な閉回路で相互に接続されていることは好ましい。このような構成であれば、その閉回路内で気流を循環させて、いわば密閉系で粉砕を行うことができるので、微粉砕時に循環気流をコーヒー香気で飽和することができる。これにより、コーヒー香気成分の飛散を抑えることが可能となり、これにより製造される焙煎豆微粉末の風味をより向上させることができる。また、密閉系での粉砕は異物の混入を防止する上でも好適であり、衛生的にも一層高品質な焙煎豆微粉末を提供することができる。
【0013】
また、第一の発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法において、前記閉回路内に不活性ガスを循環させていることは好ましい。このような構成であれば、微粉砕時に焙煎豆が酸素と接触して酸化することを抑えることができる。そのため、これにより製造される焙煎豆微粉末のコーヒー本来の自然で香ばしい風味を保持する上でより好適である。
そして、本発明のうち第二の発明は、飲食物であって、第一の発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法で製造された焙煎豆微粉末を用いていることを特徴としている。
【0014】
第二の発明によれば、焙煎豆微粉末が第一の発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法で製造されているので、食感や舌触りの良い飲食物を提供することができる。さらに、第一の発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法で微粉砕した焙煎豆微粉末は食感が良いだけでなく、コーヒー風味を付与するために食品や飲料等の飲食物に添加するとその分散性が良く、また、口溶けも良好である。したがって、コーヒー豆を丸ごと飲食することが可能であり、コーヒー抽出液を粉末化したいわゆるインスタントコーヒーと比べ食物繊維等の有効成分を豊富に含む健康に良いコーヒー飲食物が得られる。そして、これらの特徴により、コーヒーの用途を一段と拡大させ得る品質である。
【発明の効果】
【0015】
上述のように、本発明によれば、例えば焙煎豆を予め凍結させる等の特別な前処理を施さない場合でも、焙煎豆を微粉砕して得られる微粉末の熱変性による風味の劣化を防止または抑制し、さらに、その微粉末を用いた食品や飲料等の飲食物の舌触りを良好とし得る焙煎豆微粉末の製造方法および焙煎豆微粉末を用いた飲食物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1は本発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法に使用する微粉末製造装置の一実施形態を示す説明図、図2はその微粉末製造装置が備える気流式粉砕機本体を示す説明図である。
図1に示すように、この微粉末製造装置1は、気流式粉砕機2を備えており、この気流式粉砕機2はケーシング3を有して構成されている。このケーシング3内には、ケーシング内に原料、つまり被粉砕材料である焙煎豆を導入する導入領域Rと、その導入された焙煎豆を粉砕する粉砕領域Cと、粉砕された焙煎豆微粉末(以下、単に「微粉末」ともいう)を分級する分級領域Sとがそれぞれ画成されている。ここで、本実施形態は、ケーシング3内の気体として不活性ガスとしての窒素ガスを用いており、この窒素ガスで焙煎豆を気流搬送しながら、その焙煎豆の粉砕および分級をして微粉末を製造する例である。
【0017】
詳しくは、図2に拡大図示するように、ケーシング3は、投入側ケーシング4、センターケーシング5および排出側ケーシング6によって構成されている。投入側ケーシング4は、その内壁面が、下流側から上流側に向けて径が漸減するテーパー壁37を有して形成されている。また、センターケーシング5は、中央に位置して円筒形をなし、さらに、排出側ケーシング6は、その内壁面が、径が上流側から下流側に向けて漸減するテーパー壁38を有して形成されている。
【0018】
このケーシング3内には、投入側ケーシング4を貫通するシャフト10の前端(図2において左端)に、複数の回転翼として、第一回転翼28と第二回転翼29とを所定距離互いに離隔して有している。そして、投入側ケーシング4のテーパー壁37の内側かつ第一回転翼28よりも下流側の空間が導入領域Rとして画成されている。また、センターケーシング5の内側かつ第一回転翼28及び第二回転翼29の間の空間が粉砕領域Cとして画成されている。さらに、第二回転翼29と排出側ケーシング6との間の空間及びその下流側のテーパー壁38に沿った空間が分級領域Sとして画成されている。そして、上記第一回転翼28および第二回転翼29には、ボス30、31の周囲に複数の羽根32、33が放射状に設けられている。
【0019】
ここで、第二回転翼29の羽根33の先端部には傾斜面34が形成され、この傾斜面34が排出側ケーシング6のテーパー壁38に対向している。そして、この気流式粉砕機2による焙煎豆を微粉砕後の焙煎豆微粉末の粒径は、この第二回転翼29の羽根33の先端部の傾斜面34とテーパー壁38との対向距離を調整することによって所望の粒径に設定可能になっている。本実施形態では、焙煎豆を、その50パーセント粒子径が30μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように、この対向距離を設定している。また、その95パーセント粒子径が50μm以下になるようにこの対向距離を設定している。
【0020】
そして、シャフト10はフレーム11にベアリングを介して回転自在に支持され、図1に示すモータ12により回転可能であり、これら第一回転翼28および第二回転翼29は、シャフト10とともに回転し、ケーシング3内に旋回する気流を発生するようになっている。
さらに、上記投入側ケーシング4には、その上部に、コーヒー豆を焙煎した焙煎豆の投入部としての原料投入通路15がシャフト10に対して垂直に形成されている。この原料投入通路15は、その下端出口がテーパー壁37に開口している。また、原料投入通路15の上端入口は、原料投入通路15側に向けて縮径する漏斗状の連結管路16を介してスクリューフィーダ17に接続されており、導入領域Rに原料投入通路15から焙煎豆を投入可能になっている。さらに、この原料投入通路15の上部には、スクリューフィーダ17の接続部に併設して連結管路16の上部に吸気口20が設けられている。
【0021】
一方、分級領域Sの下流となる前端部には、図2に示すように、排出側ケーシング6のテーパー壁38前端の開口部分に排出口40が設けられている。そして、この排出口40には、回収管44の後端部が接続されており、回収管44の後端は、図1に示すように、バグフィルタ49を内蔵する回収ホッパ48に接続されている。さらに、この回収ホッパ48の上部には吸引ファン51が設置されている。回収ホッパ48は、ロータリー弁および回収弁等からなる弁機構54を介して不図示の回収タンクに接続可能であり、バグフィルタ49で分離された微粉末は回収タンクに回収されるようになっている。
【0022】
ここで、回収ホッパ48上部の吸引ファン51の排気口61には、ケーシング3内に導入された気体を環流可能な管路となる環流管路59の一端側が接続されている。そして、この環流管路59の他端側が、上記の吸気口20に連通して接続されている。
また、還流管路59にはこれに連通する吸気口20の上部の位置に、ガス導入口66が開設されており、このガス導入口66には供給管路90を介して気化器64が接続され、さらに、その気化器64には供給管路93を介して窒素ガスを液化した状態で保持する液化タンク63が接続されている。これら供給管路90、93には、ガス導入口66側から順に、電磁弁65、開閉弁74、流量調整弁73および開閉弁75が設けられている。このように、本実施形態では、ろ過手段である回収ホッパ48の排気口61とケーシング3の吸気口20に連通する原料投入通路15とを循環経路59によって還流可能に接続した閉回路が形成されており、これにより密閉系が構成されている。
【0023】
次に、上記微粉末製造装置1を用いた焙煎豆微粉末の製造方法について説明する。
この微粉末製造装置1では、コーヒー豆を焙煎した焙煎豆が、スクリューフィーダ17から原料投入通路15を介して気流式粉砕機2のケーシング3内の導入領域Rに投入される。そして、この気流式粉砕機2では、その焙煎豆を、同体摩擦によって微粉砕するものである。
【0024】
詳しくは、この微粉末製造装置1を運転すると、投入側吸気口20から導入された窒素ガスが投入側ケーシング4のテーパー壁37に沿って旋回し、導入領域Rで旋回気流となる。そして、原料投入通路15から投入された焙煎豆は、旋回気流と一緒に旋回し、遠心力によって半径方向外側に向かって流れる。さらに、吸引ファン51がケーシング3内の空気を排出口40側へ吸引し、導入領域Rと粉砕領域Cとの間に差圧が生じる。この差圧によって、投入側吸気口20から導入領域Rに窒素ガスが連続して流れ込む。そして、導入領域Rと粉砕領域Cとの間の差圧と第一回転翼28が旋回気流に付与する下流側(前方)への推力によって、導入領域Rで旋回する焙煎豆は、第一回転翼28の羽根32の間を通って粉砕領域Cに入る。
【0025】
そして、粉砕領域Cでは、焙煎豆は粒子径の大きなもの程大きな遠心力が作用して周速の速い半径方向外周側に集まり、主として粒子同士の摩砕により、また、粒子同士の衝突による破砕も生じて粉砕される。このとき、第二回転翼29は粉砕領域C内の焙煎豆が分級領域へ移動することをブロックする。このブロック作用は、第二回転翼29の表面に形成される気流のカーテンによって発生する。
【0026】
また、粉砕領域Cで粉砕された焙煎豆のなかで、粒子径が小さく質量の小さい粒子ほど圧力の低い第二回転翼29の回転中心近傍に集まり、微粉末として吸引ファン51によって吸引され、排出口40から回収管44に排出される。粒子径が大きく質量の大きな粒子は、吸引ファン51によって吸引されるケーシング3内の窒素ガスに随伴せず、排出側ケーシング6のテーパー壁38に沿った分級領域Sの外周部に生じる上流側(後方)への戻り気流によって粉砕領域Cに戻り、粉砕される。
【0027】
ここで、この気流式粉砕機2による焙煎豆を微粉砕後の焙煎豆微粉末の粒径は、上述のように、第二回転翼29の羽根33の先端部の傾斜面34とテーパー壁38との対向距離を、微粉砕後の焙煎豆微粉末を、その50パーセント粒子径が30μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように設定しているので、この気流式粉砕機2を用いた同体摩擦による微粉砕は、焙煎豆を、その50パーセント粒子径が30μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように微粉砕する。また、その95パーセント粒子径が50μm以下になるように微粉砕する。
【0028】
そして、この気流式粉砕機2で粉砕された焙煎豆の微粉末は、吸引ファン51によって空気とともに排出口40から回収管44に排出され、窒素ガスと一緒にバグフィルタ49へ吸引され、バグフィルタ49で微粉末と窒素ガスとが分離されて、分離された微粉末は回収ホッパ48から回収タンクに回収することができる。
次に、上記焙煎豆微粉末の製造方法およびこれにより製造された焙煎豆微粉末を用いた飲食物の作用・効果について説明する。
【0029】
特に、この気流式粉砕機2は、ケーシング3と、そのケーシング3内に所定距離互いに離隔して設けた第一回転翼28および第二回転翼29とを有し、ケーシング3内の第一回転翼28の上流側に導入領域R、第一回転翼28と第二回転翼29との間に粉砕領域C、および第二回転翼29の下流側に分級領域Sを形成してなり、さらに、第一回転翼28と第二回転翼29の回転で旋回気流を発生させて原料である焙煎豆の粉砕および分級を行う気流式粉砕機であるので、例えば同じ気流式粉砕機に分類されるジェットミルと比較して、これにより製造される焙煎豆微粉末の、熱変性の発生を一段と少なくし、一層丸みを帯びた粒形とする上で好適である。
【0030】
また、上述の焙煎豆微粉末の製造方法によれば、気流式粉砕機2を用いた同体摩擦による微粉砕は、焙煎豆を、その50パーセント粒子径が30μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように微粉砕しているので、これにより製造される焙煎豆微粉末は、食用や飲用に適した50パーセント粒子径30μm以下、かつ粒形が角のない丸みを帯びた形状の微粉末とすることができ、液体への分散性も良好で口溶けも良好である。また、この焙煎豆微粉末の製造方法によれば、95パーセント粒子径が50μm以下になるように微粉砕しているので、これにより製造される焙煎豆微粉末を用いた食品や飲料の食感や舌触りがより向上する。
【0031】
なお、本実施形態では、生産効率や歩留まり等を考慮して、その50パーセント粒子径を30μm以下の設定とした例で説明したが、これに限定されず、例えばその50パーセント粒子径が20μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように微粉砕することも可能であり、このような設定とすれば、食用や飲用により適した粒子径且つ粒形が角のない丸みを帯びた形状に微粉砕することが可能であり、また、液体への分散性もより良好で口溶けもより良好な焙煎豆の微粉末を製造することができる。
【0032】
また、上述した焙煎豆微粉末の製造方法によれば、この微粉末製造装置1は、その気流式粉砕機2に対し、その分級領域Sの下流に回収ホッパ48を備え、この回収ホッパ48には排気口61を設けており、この排気口61と気流式粉砕機2の原料投入通路15とは、環流管路59によって還流可能な閉回路で相互に接続されているので、その閉回路内で気流を循環させる、密閉系で粉砕を行うことができる。そのため、微粉砕時に循環気流をコーヒー香気で飽和することができる。これにより、コーヒー香気成分の飛散を抑えることが可能となり、これにより製造される焙煎豆微粉末の風味をより向上させることができる。また、密閉系での粉砕は異物の混入を防止する上でも好適であり、衛生的にも一層高品質な焙煎豆微粉末を提供することができる。
【0033】
また、上述した焙煎豆微粉末の製造方法によれば、その閉回路内に不活性ガスとして窒素ガスを循環させているので、微粉砕時に焙煎豆が酸素と接触して酸化することを抑えることができる。そのため、これにより製造される焙煎豆微粉末のコーヒー本来の自然で香ばしい風味を保持する上でより好適である。
以上説明したように、この焙煎豆微粉末の製造方法によれば、例えば焙煎豆を予め凍結させる等の特別な前処理を施さない場合でも、焙煎豆を微粉砕して得られる微粉末の熱変性による風味の劣化を防止または抑制し、さらに、その微粉末を用いた食品や飲料等の飲食物の舌触りを良好とし得る。つまり、コーヒー本来の風味を好適に保持し得る焙煎豆微粉末を製造することができる。
【0034】
そして、これにより製造された焙煎豆微粉末を用いた飲食物によれば、その風味が自然で良いことは勿論のこと、例えばこの微粉末を所定の形状にすることにより、食品や飲料に分散しやすく、食感を損なうことがない。さらに、食感が良いだけでなく、コーヒー風味を付与するために食品や飲料等の飲食物に添加するとその分散性が良く、また、口溶けも良好である。そして、これらの特徴により、コーヒーの用途を一段と拡大させ得る品質である。
【実施例】
【0035】
次に、上述した本発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法およびこれにより製造された焙煎豆微粉末を用いた飲食物について、実施例と比較例に基づいてより詳しく説明する。
1.微粉砕方式(気流式粉砕機とロール式粉砕機)の比較
[実施例1]
焙煎豆として、焙煎した深煎りコーヒー豆(コロンビアEX)を、日本グラニュレーター(株)製の粉砕機GRN−6042を使用し、ダイヤル1/1にて予備粉砕した。この予備粉砕物を古河産機システムズ(株)製の気流式粉砕機、ドリームミル(登録商標)DM−150S型にて粉砕処理し焙煎豆微粉末を得た。つまり、上述した本発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法によって焙煎した深煎りコーヒー豆を微粉砕し、これにより製造された焙煎豆微粉末を得た。なお、このDM−150Sは上記実施形態での図1の構成のうち、吸気口20、還流管路59、供給管路90、気化器64、供給管路93、液化タンンク63等の還流手段を備えていないタイプの粉砕機であり、この構成は前述の密閉系に対し大気開放系という。
【0036】
[比較例1]
予備粉砕までは上記実施例1と同様の処理を行って得た予備粉砕物を、井上製作所製ロール式ミルにて粉砕処理し、焙煎豆微粉末を得た。
実施例1と比較例1で得た焙煎豆微粉末の50パーセント粒子径(D50)、95パーセント粒子径(D95)および風味、食感の比較結果を表1に示す。また、当該微粉末の電子顕微鏡による外観観察写真(2000倍)を図3に示す。なお、同図(a)は、実施例1での焙煎豆微粉末の顕微鏡写真であり、同図(b)は、比較例1での焙煎豆微粉末の顕微鏡写真である。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から解るように、実施例1と比較例1とを粒子径で比較すると、実施例1はD50が12μmと小さく、D95が32μmとなっている。それに対し、比較例1はD50が15μmこそ実施例1に対してやや大きい値であるが、D95は62μmと実施例1に対して2倍近い値であり全体的に粒度が大きくかつ粒度分布がばらついていることがわかる。
【0039】
また、官能評価においても実施例1は、風味良好な上、口溶けも良好でざらつきが殆ど感じられなかったのに対し、比較例1は、風味は比較的良好なものの、舌にざらつきを感じ口溶けが悪かった。
また、図3の微粉末の顕微鏡写真を見て解るように、実施例1は粒形が角のない丸みを帯びているのに対し、比較例1は全体的に角張った形状を呈している。このことから、本発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法は、その同体摩擦方式ならではの粒形、つまり、角のない丸みを帯びている形状が、分散性、口溶けの良さ、ざらつきの少なさに影響を及ぼしていることがわかる。
【0040】
2.大気開放系と密閉系の比較
[実施例2]
予備粉砕までは上記実施例1と同様の処理を行って得た予備粉砕物を古河産機システムズ(株)製の気流式粉砕機、ドリームミル(登録商標)DM−280S型にて粉砕処理し焙煎豆微粉末を得た。なお、このDM−280S型は、上記実施形態での図1に示す構成を備えたタイプの粉砕機であるが、本実施例では連結管路16と排気口61は大気開放し、すなわち、大気開放系にて粉砕を行った。
【0041】
[実施例3]
予備粉砕までは上記実施例1と同様の処理を行って得た予備粉砕物を古河産機システムズ(株)製の気流式粉砕機、ドリームミル(登録商標)DM−280S型にて粉砕処理し、焙煎豆微粉末を得た。なお、このDM−280S型は、上記実施形態での図1に示す構成を備えたタイプの粉砕機であり、実施例2の大気開放系に対して密閉系と位置づけることができる。ただし、本実施例では循環経路内に通常の空気を循環させている。
【0042】
実施例2と実施例3で得た焙煎豆微粉末の風味比較結果を表4に、GC−MSによる香気成分比較結果を図4に示す。図4は全コーヒー香気成分中のロースト香に関与する成分の割合を示している。なお、GC−MS分析は、(株)島津製作所製GC−MS−QP2010を使用し、ヘッドスペース法により焙煎豆微粉末の香気成分を分析した。
【0043】
【表2】

【0044】
表2から解るように、実施例2は、風味良好であるが苦味、香り(香ばしさ)が若干弱い印象であった。それに対し、実施例3は、苦味、香り(香ばしさ)ともに実施例2より増加しており、実施例3の優位性が確認できた。
そして、図4に示すように、実施例3では実施例2に比べ、香ばしいロースト香に関与するピラジン類、ピロール類、ピリジン類の3成分が著しく増加しているのが解る。この成分特徴が表2に示す風味特徴に起因しているものと思われる。
【0045】
3.密閉系内の雰囲気(空気と不活性ガス)の比較
[実施例4]
予備粉砕までは上記実施例1と同様の処理を行って得た予備粉砕物を古河産機システムズ(株)製の気流式粉砕機、ドリームミル(登録商標)DM−280S型にて粉砕処理し焙煎豆微粉末を得た。なお、このDM−280S型は上記実施形態での図1の構成を備えたタイプの粉砕機であり、実施例2の大気開放系に対して密閉系と位置づけることができる。そして、本実施例では上記実施形態同様に、循環経路内を窒素ガスで置換している。
【0046】
実施例4と実施例3で得た焙煎豆微粉末の風味比較結果を表3に、GC−MSによる香気成分量の比較結果を図5に示す。なお、GC−MS分析は、(株)島津製作所製GC−MS−QP2010を使用し、ヘッドスペース法により焙煎豆微粉末の香気成分を分析した。
【0047】
【表3】

【0048】
表3から解るように、実施例3では、風味は良好ではあるが若干の劣化臭があった。それに対し、実施例4は、劣化しておらず風味良好かつバランスの良い香気バランスで風味が強く、より高品質であった。実施例4は実施例3に比べ、コーヒーの香気成分量が多く、これは表3の風味特徴と同傾向の数値を示していた。
【0049】
4.微粉砕方式(気流式粉砕機とロール式粉砕機)の異なる微粉末の飲料における比較
[実施例5]
上記実施例1で得た焙煎豆微粉末を、以下のコーヒー飲料に対して1%(W/V)の配合率となるように10g添加した。
【0050】
コーヒー飲料:まず、コーヒー50gを95℃の熱湯でドリップ抽出し、500gの抽出液を得た。次いで、得られた抽出液500gと牛乳100g、グラニュー糖55g、重曹1g、乳化剤0.6gをそれぞれ調合し、純水にて1Lまで調整した。
この焙煎豆微粉末入りコーヒー飲料をホモゲナイザー処理後に85℃で缶にホットパック、124℃で20分間レトルト殺菌し、缶コーヒーを製造した。
【0051】
[比較例2]
上記比較例1で得た焙煎豆微粉末を、以下のコーヒー飲料に対して1%(W/V)の配合率となるように10g添加した。
【0052】
コーヒー飲料:まず、コーヒー50gを95℃の熱湯でドリップ抽出し、500gの抽出液を得た。次いで、得られた抽出液500gと牛乳100g、グラニュー糖55g、重曹1g、乳化剤0.6gをそれぞれ調合し、純水にて1Lまで調整した。
この焙煎豆微粉末入りコーヒー飲料を、実施例5と同じ条件で、缶コーヒーを製造した。
【0053】
実施例5と比較例2で得た焙煎豆微粉末入りコーヒー飲料(缶コーヒー)の風味と舌触り、さらに焙煎豆微粉末の分散性・沈殿量を比較したものを表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
表4から解るように、比較例2は熱劣化したような風味があり、舌にざらつきを感じ口溶けが悪かったが、それに対し、実施例5は、コーヒー本来の自然で香ばしい風味が付与されており、口溶けも良好でざらつきが殆ど感じられなかった。
また、目視による分散性、沈殿量の比較においては、比較例2が分散性悪く沈殿量が多いのに対して、実施例5は分散性が良く、沈殿量も少なく、より実用的であった。
【0056】
5.微粉砕方式(気流式粉砕機とロール式粉砕機)の異なる微粉末の食品における比較
[実施例6]
実施例1で得た焙煎豆微粉末を、バニラアイスクリームに対して2%の配合率となるように添加し、良く冷えた容器で十分に混合した。
[比較例3]
比較例1で得た焙煎豆微粉末を、バニラアイスクリームに対して2%の配合率となるように添加し、良く冷えた容器で十分に混合した。
【0057】
実施例6と比較例3で得た焙煎豆微粉末入りアイスクリームの風味と舌触りの比較結果を表5に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
表5から解るように、比較例3は熱劣化したような風味があり、舌にざらつきを感じ口溶けが悪かったが、それに対し、実施例6は、コーヒー本来の自然で香ばしい風味、且つ、アイスクリームと相性の良いしっかりとした苦味を有しており、口溶けも良好でざらつきが殆ど感じられなかった。実施例6は比較例3に対して、品質上優れており、より実用的であった。
【0060】
以上、本発明を実施例と比較例に基づいて説明したように、本発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法によれば、例えば焙煎豆を予め凍結させる等の特別な前処理を施さない場合でも、焙煎豆を微粉砕して得られる微粉末の熱変性による風味の劣化を防止または抑制し、さらに、その微粉末を用いた食品や飲料等の飲食物の舌触りを良好とし得ることが確認された。
【0061】
なお、本発明を実施例と比較例に基づいて説明したが、本発明がこれに限定されるわけではなく、例えば、気流式粉砕機はジェットミルを用いることも可能であるし、また、例えば、上記閉回路内を置換する気体は炭酸ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを用いることも可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る焙煎豆微粉末の製造方法に使用する微粉末製造装置の一実施形態を説明図である。
【図2】図1に示す微粉末製造装置が備える気流式粉砕機の説明図である。
【図3】焙煎豆微粉末の顕微鏡写真であり、同図(a)は、実施例1での焙煎豆微粉末の顕微鏡写真であり、同図(b)は、比較例1での焙煎豆微粉末の顕微鏡写真である。
【図4】大気開放系(実施例2)および密閉系(実施例3)について全コーヒー香気成分中のロースト香に関与する成分の割合を比較して示す図である。なお、同図(a)〜(c)は、ピラジン類、ピロール類、ピリジン類の3成分の割合をそれぞれ比較して示している。
【図5】密閉系内の雰囲気を、空気(実施例3)および不活性ガス(実施例4)にした場合について香気成分を比較して示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 微粉末製造装置
2 気流式粉砕機
3 ケーシング
4 投入側ケーシング
5 センターケーシング
6 排出側ケーシング
7 空気導入用ケーシング
10 シャフト
11 フレーム
12 モータ
15 原料投入通路
16 連結管路
17 スクリューフィーダ
20 吸気口
28 第一回転翼
29 第二回転翼
30、31 ボス
32、33 羽根
34 傾斜面
37、38 テーパー壁
40 排出口
44 回収管
48 回収ホッパ
49 バグフィルタ
51 吸引ファン
59 環流管路
61 排気口
R 導入領域
C 粉砕領域
S 分級領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆を焙煎した焙煎豆の微粉末を製造する方法であって、
前記焙煎豆を、気流式粉砕機を用いた同体摩擦によって、その50パーセント粒子径が30μm以下、且つその粒形が角のない丸みを帯びた形状になるように微粉砕することを特徴とする焙煎豆微粉末の製造方法。
【請求項2】
前記焙煎豆を、95パーセント粒子径が50μm以下になるように微粉砕することを特徴とする請求項1に記載の焙煎豆微粉末の製造方法。
【請求項3】
前記気流式粉砕機は、ケーシングと、そのケーシング内に所定距離互いに離隔して設けた第一回転翼および第二回転翼とを有し、前記ケーシング内の第一回転翼の上流側に導入領域、第一回転翼と第二回転翼との間に粉砕領域、および第二回転翼の下流側に分級領域を形成してなり、さらに、第一回転翼と第二回転翼の回転で旋回気流を発生させて原料の粉砕および分級を行う気流式粉砕機であることを特徴とする請求項1または2に記載の焙煎豆微粉末の製造方法。
【請求項4】
前記気流式粉砕機は、前記分級領域の下流にろ過手段およびろ過手段の排気口を設けており、当該ろ過手段の排気口と前記原料の投入部とは、還流可能な閉回路で相互に接続されていることを特徴とする請求項3に記載の焙煎豆微粉末の製造方法。
【請求項5】
前記閉回路内に不活性ガスを循環させていることを特徴とする請求項4に記載の焙煎豆微粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の焙煎豆微粉末の製造方法で製造された焙煎豆微粉末を用いていることを特徴とする飲食物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−72901(P2008−72901A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252295(P2006−252295)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(591079498)株式会社ユニカフェ (7)
【出願人】(504139765)Corso Idea株式会社 (14)
【出願人】(505328085)古河産機システムズ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】