説明

無アルカリガラスおよびその製造方法

【課題】LCD用基板ガラスなどに適している、泡欠点および原料未溶解物欠点が少ない、無アルカリガラスの提供と、泡欠点および原料未溶解物欠点を容易に低減できる無アルカリガラスの製造方法の提供。
【解決手段】アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを母組成とするガラスであって、粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下であり、前記母組成の総量100%に対して質量百分率表示で硫黄をSO換算で0.001〜0.1%含有する無アルカリガラス、および、該母組成のガラス原料に硫酸塩をSO換算で0.01〜5%になるように調製し、溶解するガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡、原料未溶解物などの欠点がない、フラットパネルディスプレイ用基板ガラスとして好適な無アルカリガラス、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ用基板ガラスは、アルカリ金属酸化物を含有するアルカリガラスと、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない無アルカリガラスに大別される。アルカリガラス基板は、プラズマ・ディスプレイ(PDP)、無機エレクトロ・ルミネッセンス・ディスプレイ、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)などに使用され、無アルカリガラス基板は、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロ・ルミネッセンス・ディスプレイ(OLED)などに使用される。
【0003】
そのうちのLCD用ガラス基板などは、表面に金属ないし金属酸化物の薄膜などが成膜されるため、以下に示す特性が要求される。
(1)実質的にアルカリ金属イオンを含まない無アルカリガラスであること(ガラス基板中のアルカリ金属酸化物が、アルカリ金属イオンとして薄膜中に拡散し、膜特性を劣化させることがあるので、その劣化防止のため)。
(2)高い歪点を有していること(薄膜トランジスタ(TFT)の形成工程で、ガラス基板が高温にさらされることによるガラス基板の変形、収縮を最小限に抑えるため)。
(3)TFT形成に用いる各種薬品に対して充分な化学的耐久性を有すること。特にSiOやSiNのエッチングに使用するバッファードフッ酸(フッ酸+フッ化アンモニウム;BHF)、ITO(スズがドープされたインジウム酸化物)のエッチングに用いる塩酸を含有する薬液、金属電極のエッチングに用いる各種の酸(硝酸、硫酸等)、またはアルカリ性のレジスト剥離液に対して耐久性があること。
(4)ガラス基板の内部および表面に、ディスプレイ表示に影響を及ぼす欠点(泡、脈理、インクルージョン、未溶解物、ピット、キズ等)をもたないこと。
【0004】
近年、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の面積が大きくなるにつれ、仮に同じ欠点密度を有するガラス基板であっても、1枚のガラス基板あたりの欠点数が多くなるため、歩留を大きく落とす問題が顕在化してきた。特に泡および原料未溶解物が主な欠点として挙げられる。
【0005】
従来より、泡を低減するための清澄剤としてAs、Sbなどを無アルカリガラス原料に添加して、無アルカリガラスの泡を低減させる方法が採られてきた。しかし、AsおよびSb、特にAsは溶融ガラスから気泡を取り除くという点で、きわめて優れた清澄剤であるが、環境への負荷が大きいため、その使用の抑制が求められている。
【0006】
一方、清澄剤としての硫酸塩は、アリカリガラスに対しては、Asに比べて環境への負荷が著しく少なく優れているが、無アルカリガラスに対しては、泡の低減の効果は期待するほどではなかった。そのため、硫酸塩と塩化物を併用する方法(特許文献1)や硫酸塩とスズ酸化物を併用する方法(特許文献2)が提案されている。しかし、いずれも、清澄効果が完全ではなく、また、未溶解物がガラス内に残留する問題も残った。
従来、無アルカリガラスの粘性を低減させ、ディスプレイ用ガラス基板などに要求される特性(歪点、耐酸性)を確保し、泡や未溶解物を減少させることは難しかった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−25132号公報
【特許文献2】特開2004−299947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、泡および原料未溶解物の欠点が少なく、ディスプレイ用ガラス基板として好適な無アルカリガラスおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明者が鋭意研究し、以下の知見を得、本発明を完成するに至った。すなわち、アルカリ金属酸化物を実質的に含まない、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを母組成とする所定の原料に、硫酸塩、または、さらに他の成分を含有させたガラス原料を溶解する際の、温度上昇に伴う添加物の変化、変質に注目した。
【0010】
(1)原料に添加した硫酸塩はガラスに溶解し、1200〜1400℃で分解して清澄ガス(SO)を発生し、ガラス中の泡とともに浮上し、脱泡を行う。ここで、泡浮上とは溶融ガラス内部の泡がガラス中を移動し溶融ガラスの表面へ浮上することを言う。従来の無アルカリガラスは、SOのガラスへの溶解度が低く、SOによる清澄効果は少なかったが、本発明のガラスは、歪点および耐酸性の低下を抑えつつ、粘度が10dPa・sとなる温度を1600℃以下とすることで、原料が溶解しやすいガラスとなり、SOの溶解度が向上され、清澄効果が向上される。
(2)さらに、原料に塩化物が含まれていると、該塩化物は1400〜1500℃で分解して清澄ガス(HClまたはCl)を発生し、ガラス中の泡とともに浮上し、清澄効果が向上される。
(3)さらに、原料にスズ化合物が含まれていると、該スズ化合物は1450〜1600℃でSnOに還元され、清澄ガス(O)を発生し、ガラス中の泡とともに浮上し、清澄効果が向上される。
(4)さらに、原料にフッ化物が含まれていると、原料の溶解性がさらに向上し、清澄効果がさらに向上される。
(5)また、従来の無アルカリガラスは、1200〜1600℃における粘度が、泡浮上に対して高く、清澄効果が低かったが、本発明のガラスは、泡浮上に対応させた粘度とすることで、泡の浮上が促進され、清澄効果が増大される。
(6)また、本発明のガラスは、1200〜1600℃における清澄ガスの攪拌作用により、原料の溶解が促進され、未溶解原料を核として発生する泡も抑制され、また、未溶解物として残留する欠点も抑制される。
【0011】
したがって、本発明は、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを母組成とするガラスであって、粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下であり、前記母組成の総量100%に対して質量百分率表示で硫黄をSO換算で0.001〜0.1%含有する無アルカリガラス、である。
【0012】
本発明の無アルカリガラスは、前記母組成が質量百分率表示で、SiOが49〜69.5%、Alが1.5〜19.5%、Bが5〜10.5%、MgOが0〜12.5%、CaOが0〜16.5%、SrOが0〜24%、BaOが0〜13.5%で、(CaO+SrO)が8〜24%、かつ(MgO+CaO+SrO+BaO)が16〜28.5%であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の無アルカリガラスは、前記母組成の総量100%に対し、さらに、質量百分率表示でClを0.001〜1%含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の無アルカリガラスは、前記母組成の総量100%に対し、さらに、質量百分率表示でSnOを0.01〜1%含有することが好ましい。
【0015】
また、本発明の無アルカリガラスは、前記母組成の総量100%に対し、さらに、質量百分率表示でFを0.001〜1%含有することが好ましい。
【0016】
また、本発明の無アルカリガラスは、前記母組成が質量百分率表示で、SiOが49.5〜63.5%、Alが5〜18.5%、Bが7〜9.5%、MgOが0.5〜10%、CaOが0〜15.5%、SrOが0.1〜23.5%、およびBaOが0〜12%で、(CaO+SrO)が9.5〜23.5%、かつ(MgO+CaO+SrO+BaO)が16.5〜28%であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、原料を調製し、溶解して無アルカリガラスを製造する方法であって、粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下となるように、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを母組成とする原料を調製し、前記母組成の総量100%に対して硫酸塩を質量百分率表示でSO換算で0.01〜5%の割合で前記原料に含まれるように調製する方法、である。
【0018】
本発明の無アルカリガラスの製造方法は、前記母組成が質量百分率表示で、SiOが49〜69.5%、Alが1.5〜19.5%、Bが5〜10.5%、MgOが0〜12.5%、CaOが0〜16.5%、SrOが0〜24%、およびBaOが0〜13.5%で、(CaO+SrO)が8〜24%、かつ(MgO+CaO+SrO+BaO)が16〜28.5%であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の無アルカリガラスの製造方法は、前記母組成の総量100%に対し、さらに、塩化物を質量百分率表示でCl換算で0.01〜5%の割合で前記原料に含まれるように調製することが好ましい。
【0020】
また、本発明の無アルカリガラスの製造方法は、前記母組成の総量100%に対し、さらに、スズ化合物を質量百分率表示でSnO換算で0.01〜1%の割合で前記原料に含まれるように調製することが好ましい。
【0021】
また、本発明の無アルカリガラスの製造方法は、前記母組成の総量100%に対し、さらに、フッ化物を質量百分率表示でF換算で0.01〜5%の割合で前記原料に含まれるように調製することが好ましい。
【0022】
また、本発明の無アルカリガラスの製造方法は、前記母組成が質量百分率表示で、SiOが49.5〜63.5%、Alが5〜18.5%、Bが7〜9.5%、MgOが0.5〜10%、CaOが0〜15.5%、SrOが0.1〜23.5%、およびBaOが0〜12%で、(CaO+SrO)が9.5〜23.5%、かつ(MgO+CaO+SrO+BaO)が16.5〜28%であることが好ましい。
【0023】
また、本発明は、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない無アルカリガラスの製造方法であって、
(1)粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下となるように、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを母組成とする原料を調製するとともに、前記母組成の総量100%に対する質量百分率表示で、硫酸塩をSO換算で0.01〜5%、塩化物をCl換算で0.01〜5%、およびスズ化合物をSnO換算で0.01〜1%の割合で前記原料に含まれるように調製する工程、
(2)調製されたガラス原料を昇温し、溶解し、1200〜1400℃においてSOを発泡させる工程、
(3)さらに1400〜1500℃においてHClおよび/またはClを発泡させる工程、
(4)さらに1450〜1600℃においてOを発泡させる工程
を有する無アルカリガラスの製造方法、である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の無アルカリガラスは、歪点低下や耐酸性の低下が極力抑えられ、しかも含まれる泡欠点および原料未溶解物欠点が少ないため、LCD用基板ガラスなどに適している。
本発明の無アルカリガラスの製造方法は、泡欠点および原料未溶解物欠点が少ない無アルカリガラスを比較的容易に製造することができる。
また、本発明の無アルカリガラスの製造方法は、ガラス製造時の溶解温度を従来法ほど上げる必要がないため、省エネルギー化やガラス製造設備の長寿命化となり好都合である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、質量百分率表示なる語を省略し、単に数量のみを表示することがある。
本発明の無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを母組成とするガラスであって、粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下であり、前記母組成の総量100%に対して硫黄をSO換算で0.001〜0.1%含有する無アルカリガラスである。
粘度が10dPa・sとなる温度は、好ましくは1580℃以下である。該温度が1600℃を超えると、清澄を効果的に行うことができず、また、泡が浮上しにくくなり、またガラス原料を攪拌する作用が充分に得られず、泡欠点および原料未溶解物欠点が残りやすくなる。
【0026】
また、本発明の無アルカリガラスは、歪点が600℃以上、好ましくは610℃以上、より好ましくは620℃以上であり、また熱収縮率が小さい。
加えて、本発明の無アルカリガラスは、耐酸性が高く、ITOのエッチングに用いられる塩酸含有薬液に対する耐久性に優れる。耐酸性は、後述する測定方法による塩酸減少量で評価するが、該減少量が1mg/cm以下、好ましくは0.5mg/cm以下、より好ましくは0.3mg/cm以下である。
【0027】
このような特性を有するガラスの母組成は、下記酸化物換算の質量百分率で、好ましくは、SiOが49〜69.5%、Alが1.5〜19.5%、Bが5〜10.5%、MgOが0〜12.5%、CaOが0〜16.5%、SrOが0〜24%、BaOが0〜13.5%で、(CaO+SrO)が8〜24%、かつ(MgO+CaO+SrO+BaO)が16〜28.5%である。AsおよびSbは実質的に含有されないことから、環境面から好ましく、また、ガラスをリサイクルして再利用するときにも好都合である。AsおよびSbの不純物としてのガラス中の含有量は前記母組成の総量に対し0.1%未満である。
【0028】
[硫酸塩]
ガラスに溶解した硫酸塩は、1200〜1400℃の比較的低温で分解し、多量のSOガスを発生し、泡を大きく成長させる作用をする。
硫酸塩は、本発明のガラス原料成分である種々の酸化物のカチオンの少なくとも1種の硫酸塩であること、すなわち、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素の硫酸塩であることが好ましく、アルカリ土類金属の硫酸塩であることがより好ましく、中でも、CaSO・2HO、SrSO、およびBaSOが、泡を大きくする作用が著しく、特に好ましい。
原料中の硫酸塩は前記母組成の総量100%に対してSO換算で、0.01%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.3%以上含まれるように調製される。該作用効果の飽和や、攪拌などの最終仕上げの際の再沸泡を回避することから、含有量は5%以下であればよく、好ましくは1.0%以下である。無アルカリガラス中の硫黄残存量は、前記母組成の総量100%に対してSO換算で0.001〜0.1%、好ましくは0.002〜0.05%である。
【0029】
[塩化物]
塩化物は、ガラス融液中で、1400〜1500℃で分解し、多量のHClおよび/またはClガスを発生し、泡を大きく成長させる作用をする。原料中の塩化物は前記母組成の総量100%に対してCl換算で0.01%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.8%以上含まれるように調製される。該作用効果の飽和や、ガラス中に残ったClがフラットパネルディスプレイの製造工程で脱離する恐れがあるため、5%以下であればよく、好ましくは2.0%以下である。無アルカリガラス中の塩化物の残存量は、前記母組成の総量100%に対してCl換算で0.001〜1%、好ましくは0.1〜1%、さらに好ましくは0.2〜0.5%である。
塩化物は、本発明のガラス原料成分である種々の酸化物のカチオンの少なくとも1種の塩化物であること、すなわち、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素の塩化物であることが好ましく、アルカリ土類金属の塩化物であることがより好ましく、中でも、SrCl・6HO、およびBaCl・2HOが、泡を大きくする作用が著しく、かつ潮解性が小さいため、特に好ましい。
【0030】
塩化物は、硫酸塩または水と共存すると、清澄効果を飛躍的に増大させる。このため、塩化物は硫酸塩および水とともにガラス原料に含まれることが好ましい。水はガラス原料に直接含まれるようにするほかに、例えば、結晶水を含む硫酸塩または塩化物として含まれるようにする、あるいは、ガラス原料の酸化物の少なくとも1種のカチオンを含む水酸化物を含まれるようにすることもできる。また、ガラス原料の溶解時に、雰囲気から水蒸気として含まれるようにすることもできる。さらに、都市ガス、重油などの燃料を酸素燃焼方式で燃焼すると燃焼雰囲気中の水蒸気濃度が高くなり、より好ましい。
【0031】
[スズ化合物]
スズ化合物は、ガラス融液中でOガスを発生する。ガラス融液中では、1450℃以上の温度でSnOからSnOに還元され、Oガスを発生し、泡を大きく成長させる作用をするが、泡をより効果的に大きくするために、好ましくは1500℃以上で溶解する。
原料中のスズ化合物は、前記母組成の総量100%に対してSnO換算で、0.01%以上含まれるように調製される。ガラスの着色や、失透が発生する恐れがあるため、1%以下であればよく、好ましくは0.5%以下である。無アルカリガラス中のスズ化合物の残存量は、前記母組成の総量100%に対してSnO換算で0.01〜1%、好ましくは0.01〜0.5%である。
【0032】
Snの価数の割合(Sn−レドックス)を、例えば、周知の酸化還元滴定により湿式分析法より求めた場合、無アルカリガラス中のSn2+/(Sn4++Sn2+)で示す比の値が0.1以上のとき、SnOはOを発生するので、該値になるように調整することが好ましい。該比の値が0.2以上のときがより好ましく、0.25以上のときが特に好ましい。該比の値が0.1未満であると、スズ化合物による泡の発生が充分でなくなる。該比の値を0.1以上とするためには、1450〜1600℃、好ましくは1500〜1600℃の溶融ガラスとする。
【0033】
スズ化合物は、Snの酸化物、硫酸塩、塩化物、フッ化物などであるが、SnOが泡を著しく大きくすることから特に好ましい。SnOの粒径が大きすぎるとSnOの粒子がガラス原料に溶解しきれずに、残る恐れがあるので、SnOの平均粒径(D50)は200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下とする。また、SnOの粒径が小さすぎると、かえって、ガラス融液中で凝集して、溶け残りになることがあるので、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上とする。
【0034】
Fe、TiO、CeO、MnO、Nbなどの金属酸化物やこれら金属塩、好ましくは硝酸塩(好ましくはMg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属の硝酸塩)は、SnOと同様にガラス融液の温度上昇に伴い、Oを発生する作用を有するため、これらの金属酸化物や金属塩の少なくとも1種を、SnOと同様に原料として含まれるように調製してもよい。それらの含有量は、上記酸化物換算で合量で、ガラス原料100%に対し0.01%以上である。しかし、1%を超えると、ガラスの着色が強くなり、無アルカリガラスをフラットパネルディスプレイ用基板ガラスと用いる場合には好ましくない。好ましい含有量は0.5%以下である。金属酸化物を含有させた場合には、ガラス中の該金属酸化物の残存量の合量は、前記母組成の総量100%に対して金属酸化物換算で0.01〜1%である。
【0035】
[フッ化物]
フッ化物は、ガラス融液の粘性および表面張力を低下させ、ガラス原料の溶解性を向上させる作用を有する。フッ化物は、本発明のガラス原料成分である種々の酸化物のカチオンの少なくと1種のフッ化物であること、すなわち、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれた少なくとも1種の元素のフッ化物であることが好ましく、アルカリ土類金属のフッ化物であることがより好ましく、中でも、CaFがガラス原料の溶解性を大きくする作用が著しく、より好ましい。
原料のフッ化物は前記母組成の総量100%に対してF換算で、0.01%以上、好ましくは0.05%以上含まれるように調製される。無アルカリガラスの歪点の低下の恐れがあることや、ガラス中に残ったFがTFTの形成工程で脱離する恐れがあるため、F換算で5%以下であればよく、好ましくは2.0%以下である。無アルカリガラス中のフッ化物の残存量は、前記母組成の総量100%に対してF換算で、0.001〜1%、好ましくは0.01〜1%、さらに好ましくは0.01〜0.5%、より好ましくは0.01〜0.2%である。
【0036】
本発明のガラス母組成原料に、硫酸塩、塩化物およびスズ化合物を共存させると、原料の溶解工程の初期の段階から、より高温の清澄過程にかけての広い温度域で高い清澄が行われ、泡が少なく、また、原料未溶解物が少ない無アルカリガラスが製造することができるので、三者を共存させることが特に好ましい。さらにフッ化物が含まれるようにすると、さらに泡が少なく、また、原料未溶解物の少ないガラスを製造することができるので、より好ましい。
【0037】
[SiO
本発明の無アルカリガラスの原料のSiOはネットワークフォーマーであり、必須成分である。SiOは歪点を高め、耐酸性を高め、ガラスの密度を小さくする効果が大きい。その含有量は、ガラスの粘性が高くなりすぎることを考慮して、69.5%以下、好ましくは63.5%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは58%以下である。また、逆に、耐酸性の劣化、密度の増大、歪点の低下、線膨張係数の増大、ヤング率の低下の原因となり得るので、その含有量は49%以上、好ましくは49.5%以上である。
【0038】
[Al
本発明の無アルカリガラスにおいて、Alは歪点を上げ、ガラスの分相性を抑制し、ヤング率を高めるための成分である。その含有量は1.5%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは11%以上である。ただし、ガラスの高粘性化や失透特性、耐酸性ならびに耐BHF性の劣化を回避するために、その含有量は19.5%以下、好ましくは18.5%以下、より好ましくは17.5%以下である。
【0039】
[B
本発明の無アルカリガラスにおいて、Bはガラスの溶解反応性をよくし、密度を低下させ、耐BHF性を向上させ、失透特性を向上させ、線膨張係数を小さくする必須成分である。その含有量は5%以上、好ましくは7%以上、より好ましくは7.5%以上、さらに好ましくは8%以上である。ただし、歪点の低下、ヤング率の低下、耐酸性の低下を回避するために、その含有量は10.5%以下、好ましくは9.5%以下、より好ましくは9%以下である。
【0040】
[MgO]
本発明の無アルカリガラスにおいて、MgOはガラスの粘性を下げる成分であり、0〜12.5%含有する。アルカリ土類金属酸化物の中でも、密度を低下させ、線膨張係数を大きくせず、かつ歪点を過大に低下させることがなく、溶解性をも向上させることから、含有させることが好ましい。その含有量は0.5%以上、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。ただし、ガラスの分相の回避するため、および失透特性、耐酸性ならびに耐BHF性の劣化を回避するために、その含有量は12.5%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは7.5%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0041】
[CaO]
本発明の無アルカリガラスにおいて、CaOはガラスの粘性を下げる成分であり、0〜16.5%含有する。CaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、MgOに次いで、密度を大きくせず、線膨張係数を高くせず、かつ歪点を過大に低下させることがなく、溶解性をも向上させ、耐酸性およびアルカリ性のレジスト剥離液に対する耐久性に必ずしも悪影響を与えることがないので、含有させてもよい成分である。失透特性の劣化、線膨張係数の増大、密度の増大、耐酸性、およびアルカリ性のレジスト剥離液に対する耐久性の低下を回避するために、その含有量は16.5%以下、好ましくは15.5%以下、より好ましくは14.5%以下である。
【0042】
[SrO]
本発明の無アルカリガラスにおいて、SrOはガラスの粘性を下げる成分であり、0〜24%含有する。失透特性および耐酸性の改善のために含有させることが好ましい成分である。なお、SrOは、CaOと同様に、密度を大きくせず、線膨張係数を大きくせず、かつ歪点を過大に低下させることがなく、溶解性をも向上させ、耐酸性およびアルカリ性のレジスト剥離液に対する耐久性に必ずしも悪影響を与えることがない。その含有量は0.1%以上、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは4%以上である。特に、無アルカリガラスがBaOを含有する場合には、後述するBaOに由来する問題点を改善するために、SrOを2%以上含有させることが好ましい。ただし、失透特性の劣化、線膨張係数の増大、密度の増大、耐酸性およびアルカリ性のレジスト剥離液に対する耐久性の低下を回避するために、その含有量は24%以下、好ましくは23.5%以下、より好ましくは22%以下、さらに好ましくは21%以下である。
【0043】
本発明の無アルカリガラスにおいて、SiOの含有量が69.5%以下であることから、CaOおよびSrOの含有量の和(CaO+SrO)は、失透特性、耐酸性およびアルカリ性のレジスト剥離液に対する耐久性を向上させるために、8%以上、好ましくは9.5%以上、より好ましくは11%以上、さらに好ましくは12.5%以上である。同様の理由から、(CaO+SrO)は24%以下、好ましくは22%以下、より好ましくは21%以下、さらに好ましくは20%以下である。
また、(CaO+SrO)が前記範囲であると、ガラスのヤング率および電気抵抗も向上する。
【0044】
[BaO]
本発明の無アルカリガラスにおいて、BaOはガラスの粘性を下げる成分であり、0〜13.5%含有する。ガラスの分相、失透特性の向上、および耐酸性の向上に有効な成分である。しかし、歪点を低下させ、ガラスの密度を増大させ、ヤング率および溶解性を低下させ、耐BHF性を劣化させるため、目的、用途に合わせて、含有の有無、含有量を決めるのがよい。一般的には、液晶用ガラス基板にする場合には、不可避的含有量で止めることが好ましい。なお、BaOを積極的に含有させる場合の含有量は13.5%以下、密度や線膨張係数の低減のために、好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下である。
【0045】
前述したように、本発明の無アルカリガラスの好ましい組成においては、(CaO+SrO)が8〜24%のため、(MgO+CaO+SrO+BaO)も必然的に大きくなる。また、(MgO+CaO+SrO+BaO)が小さいとガラスの粘性が高くなり、溶解性が悪化する。よって、本発明の無アルカリガラスにおいて、(MgO+CaO+SrO+BaO)は16%以上、好ましくは16.5%以上、より好ましくは17%以上、さらに好ましくは17.5%以上である。逆に、密度の増大、線膨張係数の増大を回避するために、(MgO+CaO+SrO+BaO)は28.5%以下、好ましくは28%以下、より好ましくは27%以下、さらに好ましくは26%以下である。
【0046】
また、ガラスが特定の組成、具体的には、下記(1)〜(3)のうち、少なくとも一つを満たす組成の場合、失透特性に劣るため好ましくない。
(1)アルカリ土類金属酸化物(RO)の含有量の総和(MgO+CaO+SrO+BaO)が28.5%超と多い場合、
(2)CaOおよびSrOの含有量の総和(CaO+SrO)が24%超と多い場合、および
(3)融液の粘度が10dPa・sとなる温度が1500℃未満となる組成の場合。
【0047】
[無アルカリガラスの製造]
本発明の無アルカリガラスは、原料を調製し、溶解してガラスを製造する方法であって、粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下となるように、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを所定のガラス母組成となるようにそれぞれの原料を調製する。また、前記母組成の総量100%に対して硫酸塩をSO換算で0.01〜5%の割合で前記原料に含まれるように調製する。
調製された原料を1450〜1600℃、好ましくは1500〜1600℃で溶解して得られた溶解物をフロート法などにより、所定の板厚のガラス板に成形する。その後、冷却、切断され、基板用ガラス板とされる。なお、フロート法は、溶融スズ上でガラスを成形する方法であり、広く用いられている成形法である。本発明の無アルカリガラスは、他の公知の方法を用いて成形してもよい。他の成形方法としては、周知のプレス法、ダウンドロー法、フュージョン法等が例示される。ただし、薄板、大型の基板用ガラス板(例えば、板厚0.5〜1.5mm、寸法1700×1400mm以上)を安定して生産するためには、フロート法が適している。
【0048】
具体的には、好ましくは、(1)粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下となるように、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOが所定の母組成となるように原料を調製するとともに、前記母組成の総量100%に対し、硫酸塩をSO換算で0.01〜5%、塩化物をCl換算で0.01〜5%、およびスズ化合物をSnO換算で0.01〜1%の割合で前記原料に含まれるように調製する工程、
(2)調製されたガラス原料を昇温し、溶解し、1200〜1400℃においてSOを発泡させる工程、
(3)さらに1400〜1500℃においてHClおよび/またはClを発泡させる工程、
(4)さらに1450〜1600℃においてOを発泡させる工程
を経て製造される。
【実施例】
【0049】
表1は工業用ガラス原料として調製された成分について、また、表2は得られたガラスについて、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOの母組成の総量100%に対する各成分の含有割合を質量百分率表示したものである。
例1〜5は本発明の実施例、例6〜8は比較例を示す。
表1の所定量の原料を電気炉に入れ、1600℃で1時間溶解する中で、1200〜1400℃においてSOにより、1400〜1500℃においてClにより、1450〜1600℃においてSnOにより脱泡し、清澄した。ガラス融液をカーボン板状に流し出し、徐冷して、表2のガラスを得た。原料に添加された硫酸塩、塩化物、スズ化合物およびフッ化物のガラス中の残存量は、SOが0.01%、Clが0.3%、SnOが0.2%およびFが0.01%であった。
【0050】
得られたガラスの特性を下記の方法で測定し、結果を表2に示した。
ガラス中の泡数は、顕微鏡を用いて、目視で観察した。ガラス1cm中の泡数が10個以下の場合を「A」、10個超、30個以下の場合を「B」、および30個超の場合を「C」で表示した。
ガラスの粘度が10dPa・sとなる温度は、円筒回転法で測定した高温粘性から、下記のFulcherの式を用いて計算した。
log η=A/(T−T)−B
(式中、η: ガラスの粘性(dPa・s)、T :ガラスの温度(℃)、
A、T、B: 定数)
ガラスの歪点(実測値)は、JIS R3103に規定されている繊維引き伸ばし法に従い測定した。歪点(計算値)は、歪点に対する寄与度a(i=1〜7、各ガラス成分7種を回帰計算により求め、Σa+b(Xは各ガラス成分のモル分率、bは定数)から計算により求めた。
ガラス中の塩酸による質量減少量は、試料ガラスを90℃に保持された1/10規定の塩酸水溶液に20時間浸漬した後、ガラスの単位表面積あたりの質量減少量から求めた。表1では、塩酸質量減少量が0.3mg/cm以下であれば「a」、0.3mg/cm超、上0.6mg/cm以下であれば「b」、0.6mg/cm超であれば「c」と表示した。
【0051】
例1〜5は、粘度が10dPa・sのときの温度が1600℃以下であり、しかもSOおよび他の添加物を含有しているため、泡数が少ない(「A」)。また、粘度が10dPa・sのときの温度が1600℃以下であっても、歪点が600℃以上であり、塩酸による質量減少量もない(「a」または「b」)。
一方、例6のガラスは、粘度が10dPa・sのときの温度が1600℃以下であるが、SOを含有していないため、泡数が実施例より多い。
また、例7〜8は、粘度が10dPa・sのときの温度が1600℃より高く、SOおよび他の添加物を含有しているが、清澄効果が乏しく、泡数が多い(「C」)。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを母組成とするガラスであって、粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下であり、前記母組成の総量100%に対して質量百分率表示で硫黄をSO換算で0.001〜0.1%含有する無アルカリガラス。
【請求項2】
前記母組成が質量百分率表示で、
SiOが49〜69.5%、
Al が1.5〜19.5%、
が5〜10.5%、
MgOが0〜12.5%、
CaOが0〜16.5%、
SrOが0〜24%、
BaOが0〜13.5%で、
(CaO+SrO)が8〜24%、かつ
(MgO+CaO+SrO+BaO)が16〜28.5%
である請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項3】
前記母組成の総量100%に対し、さらに、質量百分率表示でClを0.001〜1%含有する請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項4】
前記母組成の総量100%に対し、さらに、質量百分率表示でSnOを0.01〜1%の含有する請求項3に記載の無アルカリガラス。
【請求項5】
前記母組成の総量100%に対し、さらに、質量百分率表示でFを0.001〜1%含有する請求項4に記載の無アルカリガラス。
【請求項6】
前記母組成が質量百分率表示で、
SiOが49.5〜63.5%、
Al が5〜18.5%、
が7〜9.5%、
MgOが0.5〜10%、
CaOが0〜15.5%、
SrOが0.1〜23.5%、および
BaOが0〜12%で、
(CaO+SrO)が9.5〜23.5%、かつ
(MgO+CaO+SrO+BaO)が16.5〜28%
である請求項2〜5のいずれかに記載の無アルカリガラス。
【請求項7】
原料を調製し、溶解してガラスを製造する方法であって、粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下となるように、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを母組成とする原料を調製し、前記母組成の総量100%に対して硫酸塩を質量百分率表示でSO換算で0.01〜5%の割合で前記原料に含まれるように調製する無アルカリガラスの製造方法。
【請求項8】
前記母組成が質量百分率表示で、
SiOが49〜69.5%、
Al が1.5〜19.5%、
が5〜10.5%、
MgOが0〜12.5%、
CaOが0〜16.5%、
SrOが0〜24%、および
BaOが0〜13.5%で、
(CaO+SrO)が8〜24%、かつ
(MgO+CaO+SrO+BaO)が16〜28.5%
である請求項7に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項9】
前記母組成の総量100%に対し、さらに、塩化物を質量百分率表示でCl換算で0.01〜5%の割合で前記原料に含まれるように調製する請求項7または8に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項10】
前記母組成の総量100%に対し、さらに、スズ化合物を質量百分率表示でSnO換算で0.01〜1%の割合で前記原料に含まれるように調製する請求項9に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項11】
前記母組成の総量100%に対し、さらに、フッ化物を質量百分率表示でF換算で0.01〜5%の割合で前記原料に含まれるように調製する請求項10に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項12】
前記母組成が質量百分率表示で、
SiOが49.5〜63.5%、
Alが5〜18.5%、
が7〜9.5%、
MgOが0.5〜10%、
CaOが0〜15.5%、
SrOが0.1〜23.5%、および
BaOが0〜12%で、
(CaO+SrO)が9.5〜23.5%、かつ
(MgO+CaO+SrO+BaO)が16.5〜28%
である請求項8〜10のいずれかに記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項13】
アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないガラスの製造方法であって、
(1)粘度が10dPa・sとなる温度が1600℃以下となるように、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOを母組成とする原料を調製するとともに、前記母組成の総量100%に対する質量百分率表示で硫酸塩をSO換算で0.01〜5%、塩化物をCl換算で0.01〜5%、およびスズ化合物をSnO換算で0.01〜1%の割合で前記原料に含まれるように調製する工程、
(2)調製されたガラス原料を昇温し、溶解し、1200〜1400℃においてSOを発泡させる工程、
(3)さらに1400〜1500℃においてHClおよび/またはClを発泡させる工程、
(4)さらに1450〜1600℃においてOを発泡させる工程
を有する無アルカリガラスの製造方法。

【公開番号】特開2006−306690(P2006−306690A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134579(P2005−134579)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】