説明

無人搬送車装置

【課題】本線軌道の渋滞を防止することにより、搬送車の平均速度を向上させ、同一搬送車台数で搬送能力を増加させるようにした無人搬送車装置を提供すること。
【解決手段】並行する本線軌道1、2と、本線軌道1、2を短絡して連結する短絡軌道3とを備えた無人搬送車装置において、短絡軌道3を、本線軌道1、2に分岐合流する横行軌道31、32と、本線軌道1、2と並行し、複数の搬送車Aを滞留させる直進軌道33とにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場で材料や製品を運搬する無人搬送車装置に関し、特に、本線軌道の渋滞を防止することにより、搬送車の平均速度を向上させ、同一搬送車台数で搬送能力を増加させるようにした無人搬送車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環状の軌道を走行し搬送物を運搬する無人搬送車の搬送能力は、直線部分と曲線部分、横行部分、斜行部分などの区間ごとに制限速度が決められている。
このような搬送車の搬送能力は、搬送車の平均速度と搬送車の台数と移動距離の逆数の積にほぼ比例する。
【0003】
一方、搬送車の平均速度を低下させる要因の一つには搬送車の渋滞がある。
渋滞の原因は、平均速度が速い区間に平均速度の遅い区間が接続している個所があったり、移載や充電のために搬送車がステーションを占有していたりするために、後続の搬送車が渋滞を起こす。
【0004】
このような渋滞を回避するための従来の方法を説明する。
図5(a)に示すように、無人搬送車の本線軌道1、2があり、搬送車Aが走行するレイアウトにおいて、移載を行うステーション6で移載中の搬送車がある場合、当該ステーション6を迂回する迂回軌道7を設けるとともに、本線軌道2と迂回軌道7の合流する部分に合流点制御部4aを設け、分岐する部分に合流点制御部4bを設けるようにする。
そして、移載を行うステーション6に既に停車している搬送車がある場合、あるいは合流点制御部4bとステーション6の間の本線軌道2上にステーション6で積み卸しの作業を行う予定の搬送車が存在する場合には、迂回軌道7を通り、移載する搬送車を追い越して、ステーション6の上流側で渋滞を起こさないようにする。
このような軌道の設置は従来から行われている。
【0005】
また、並行する本線軌道1と本線軌道2の間に、これらの本線軌道1、2を短絡して連結する短絡軌道8を設けることも公知である。
図5(a)の方法では、本線軌道1と本線軌道2の間の間隔は、2つの本線軌道1、2を走行する搬送車が干渉しない距離であればよく、その間隔は問わない。本線軌道1は迂回軌道を設ける必要条件でもない。
一方、図5(b)の構成の場合、本線軌道1と本線軌道2の間隔は2車線分の幅しかない場合には他の選択肢はない。
3車線以上の間隔があり、短絡軌道8を通過する搬送車の数が多い場合、合流点制御部4aに入れない搬送車が短絡軌道8の上で停車し、複数台の搬送車が短絡軌道8の上で停車することを考慮すると、本線軌道1の側に合流点制御部4bを設け、合流点制御部4bに進入する台数を1台に制限する必要があり、本線軌道2の側での渋滞が本線軌道1の側に伝播し渋滞するため、搬送車の平均速度を低下させる欠点があった。
【特許文献1】特開平10−171534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の無人搬送車装置が有する問題点に鑑み、本線軌道の渋滞を防止することにより、搬送車の平均速度を向上させ、同一搬送車台数で搬送能力を増加させるようにした無人搬送車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の無人搬送車装置は、並行する本線軌道と、該本線軌道を短絡して連結する短絡軌道とを備えた無人搬送車装置において、前記短絡軌道が、本線軌道に分岐合流する横行軌道と、本線軌道と並行し、複数の搬送車を滞留させる直進軌道とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の無人搬送車装置によれば、並行する本線軌道と、該本線軌道を短絡して連結する短絡軌道とを備えた無人搬送車装置において、前記短絡軌道が、本線軌道に分岐合流する横行軌道と、本線軌道と並行し、複数の搬送車を滞留させる直進軌道とを備えることから、短絡軌道の直進軌道で複数の搬送車を滞留させることにより、短絡軌道を介しての本線軌道の渋滞を防止し、これにより、無人搬送車の平均走行距離と平均速度を向上させ、単位時間あたりに搬送できる回数を増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の無人搬送車装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1に、本発明の無人搬送車装置の一実施例を示す。
この無人搬送車装置は、並行する本線軌道1、2と、該本線軌道1、2を短絡して連結する短絡軌道3とを備えている。
そして、この無人搬送車装置は、前記短絡軌道3を、本線軌道1、2に分岐合流する横行軌道31、32と、本線軌道1、2と並行し、複数の搬送車Aを滞留させる直進軌道33とにより構成している。
【0011】
図1(a)は、短絡軌道3を1方向通行で運用する例を示す。
本線軌道1と対向する本線軌道2との間に、第3の直進可能な軌道を設けることのできる3車線軌道の場合、本線軌道1と本線軌道2を連結する短絡軌道3を、横行軌道31、直進軌道33、横行軌道32の3分割した軌道として設けるとともに、横行軌道32と本線軌道2の合流部には合流点制御部4を設ける。
【0012】
短絡軌道3の直線部分の軌道長は、この軌道上で複数台の搬送車Aが滞留できる長さとし、通常は2台ないし3台の搬送車Aが滞留可能とする。
短絡軌道3を通る搬送車Aが合流点制御部4に進入するのを待つ間に、さらに別の搬送車Aが短絡軌道3に進入してきても、合流点制御部4の進入を待つ短絡軌道3側の平均搬送車台数よりも、短絡軌道3の直進軌道33の上で滞留可能な台数が多くなるように直進軌道33の長さを設定すれば本線軌道1の側に渋滞は伝播しなくなる。
【0013】
また、直進軌道33の長さが滞留の平均台数よりも短い場合でも、本線軌道1に発生する渋滞の回数を低減することが可能になる。
搬送車の軌道レイアウトは搬送設備側だけで決まるものではなく、他の生産設備の場所との関連で決まり、可能な範囲で直進軌道33の長さを設定する。
通常は、搬送能力のシミュレーション等により、渋滞発生頻度に応じた長さを直進軌道33に設定する。
【0014】
外側を周回する本線軌道1、2には、搬送指示の割りついていない搬送車Aを周回させ、荷を積んで走行している搬送車Aが短絡軌道3を走行することで、搬送時間の短縮と搬送車Aの走行する距離の低減に寄与する。
搬送の平均距離が低減されることによる搬送時間の短縮については、従来の方法と同等であるが、直進軌道33を設けることで短絡軌道3を通過するための渋滞が回避され、搬送車Aの平均速度が向上し、搬送能力が向上する。
【0015】
なお、周回走行中に搬送指示が割りついた搬送車Aが、移載するステーションに移動するまでの時間が長い場合には、この搬送指示が割りついた搬送車Aも短絡軌道3を通過させることも可能である。
ただ、搬送指示を割り付ける際に、搬送指示を発行する制御装置(図示省略)は、積み作業を行うステーションに最も近い搬送車Aに搬送指示を指令するため、搬送車台数が極端に少ない場合には効果があるが、通常は必要とする搬送能力を処理し、作業量の変動も吸収できるように搬送車台数に余裕を持たせるのが一般的であり、この場合には、搬送指示が割りついた搬送車が短絡軌道3を通過する効果は殆ど得られない。
【0016】
一方、図1(a)では、横行軌道31と横行軌道32は本線軌道1、2とそれぞれ直交し、横行軌道31に乗り移る際には一旦停車してから走行から横行、横行から走行に移行する。
この場合には停車する時間が必要になる。
そこで、図1(b)に示すように、曲線部分を有する横行軌道31及び横行軌道32で直線部分の直進軌道33と接続し、本線軌道1あるいは本線軌道2の上で停車せずに乗り移る例を示す。
なお、横行軌道32の終端部と本線軌道2の接続部は合流点制御のため、止まる頻度が高く、曲線で接続する必要性は乏しい。
また、曲線部分は一定の曲率の円弧よりも、曲率半径が徐々に変化するクロソイド曲線(緩和曲線)の方が搬送車の姿勢制御や搬送物にかかる衝撃の面から優れている。
図1(b)の構成は、曲線部分がある以外は、本発明の趣旨である搬送能力の向上に関しては停車に要する時間の短縮で数秒程度の短縮効果はあるが、図1(a)の実施例と大差はない。
また、図1(a)(b)では、従来の図5(b)の合流点制御部4は省略しているが、本線軌道上まで渋滞が伝播する場合には適宜追加することもできる。
【0017】
一方、図1(a)(b)では短絡軌道3を一方向の走行方向で説明したが、図1(c)に示すように軌道をレイアウトすれば、双方向の運用が可能になる。
短絡軌道3は、横行のための2本の横行軌道31、32と、それに挟まれた1本の直進軌道33とで構成する。
短絡軌道3の中に搬送車が存在しない場合、短絡軌道3を通過する搬送車は、短絡軌道3の使用を宣言してから進入する。
既に同一方向の搬送車Aが短絡軌道3上にある場合にも、走行方向が一致する場合には進入可能とする。
短絡軌道3から最後に出る搬送車Aは、短絡軌道3の使用権を開放し、短絡軌道3から脱出する。
【0018】
短絡軌道3を排他使用する方法では、セマフォ管理等の手法により容易に実現可能である。
また、搬送車による使用権を先に宣言した「早い者勝ち」的な使い方以外に、搬送量の分布により搬送指示を与える制御装置あるいはオペレータが方向を設定することも可能である。
なお、セマフォ(Semaphore)は、コンピュータにおいて、古典的でかつ現在も利用される同期機構の一種であり、エドガー・ダイクストラが考案した。
一般には、並列処理の実行環境において、排他区間を確保し、資源に同時アクセスできる上限を規定したいときに用いる。
語源のSemaphoreの大元は手旗信号で、それから派生した鉄道の腕木信号に由来する。日本語でのセマフォは本用途(コンピュータ、プログラミング関連)に限られる。
【0019】
図2に、中央の直進軌道に充電ステーションを設ける方法について説明する。
3車線の車線幅を有し、移載中にバッテリーの充電が行える充電設備を具備し、外側の車線が1方向に搬送車Aを周回させる軌道レイアウトにおいて、迂回又は短絡軌道の直進軌道33に受電ステーション5を設ける。
そして、搬送指示を受け取ってから荷の積みあるいは卸のステーションまでの走行距離及び走行時間と、前回の充電からの走行距離及び経過時間とから充電の予想時間を算出し、充電の予想時間が移載時間よりも長い場合には中央車線の直進軌道33で充電を行う、
これにより、周回のための本線軌道1、2の渋滞を緩和して平均速度を向上させ、単位時間あたりに搬送できる回数を増加させるようにする。
【0020】
バッテリーで走行する無人搬送車Aは、バッテリーの充電に有限の時間を消費する。
搬送車Aの消費する電力は、走行中の電力消費、渋滞で停車している間の電力消費、移載のための電力消費の和になる。走行中の電力は走行速度や加速、減速の状態によっても異なる。
しかしながら、搬送車Aの走行で消費する電力は、搬送車Aの平均走行速度と搬送距離の積にほぼ比例する。
平均走行速度は単位時間あたり、例えば1時間に搬送車が走行した距離を時間で除した値で容易に計測可能な値である。
平均速度は個々の搬送車の差は殆どなく、1台の搬送車で計測した値を代表値として使用することができる。
【0021】
全ての移載可能なステーション(図示省略)に充電設備を設置した場合、移載中に急速充電を行い、目的とするステーションまで走行する。
搬送指示が割り当てられていない周回している搬送車は、前回の充電からの走行距離と平均速度の積と渋滞による停車時間と単位停車時間の消費電力の積とから、規定のバッテリー放電量を超えた場合には周回を中断し、最寄のステーションに停車して充電を行う。
【0022】
全ての移載可能なステーションに充電設備が具備された環境において、効率的とされるのは、積み卸し作業の時間と急速充電の時間を一致させ、充電終了と移載とを同時に終えて搬送車を発車させる充電時間の設定となる。
例えば、移載時間が30秒であれば急速充電の30秒で終える。
また、バッテリーの寿命の観点からは、充電サイクルの間の放電量はバッテリーの容量の5〜10%が適当とされているのは公知である。
【0023】
しかしながら、このような環境下でも、搬送物を搭載して搬送を始めた搬送車は、目的のステーションに到着するまでの平均走行距離が充電サイクルの許容放電量に相当する距離以下であれば問題は生じないが、搬送距離が長く許容距離を越える場合、搬送中に停車して充電を行ったのでは充電のため渋滞を発生させ、搬送車の平均速度を低下させ搬送能力が低下する。
そこで、図2に示すように、中央車線の直進軌道33に受電ステーション5設け、外側の本線軌道2と接続する横行軌道31、32を設ける。本線軌道1、2との合流部には合流点制御部4a、4bを設けるのは従来の図5(a)と同様である。
図5(a)では移載ステーションが外側の本線軌道2にあるのに対して、図2では中央車線の直進軌道33の端部に受電ステーション5を設ける。
【0024】
充電ステーションの運用を、図4のフローチャートに示す。
搬送車は周回中あるいは移載ステーションで移載後に次の搬送の指示を受信する。移載ステーションで次の搬送指示がない場合には周回指示を受信する。
空車で周回走行中に搬送指示を受信した場合、荷の積み作業を行うステーションまでの距離と所要時間を計算する。これに前回の充電からの走行距離、走行時間を加算し、充電の予想時間Tcを計算する。
この値が積み作業に要する時間よりも長い場合、現在位置から移載ステーションまでの間に中央車線の受電ステーション5があるかをチェックし、受電ステーション5が存在し、かつ空スペースがあれば、受電ステーション5に向かい充電を行う。
【0025】
受電ステーション5が存在しない場合には、直接積み作業のステーション(図示省略)に移動する。
積み作業のステーションに移動している間に、走行距離が充電サイクルの許容距離を越えても充電は行わない。
もしも途中で充電した場合、加減速に要する時間、充電のためのインターロック時間などの時間が余計に発生し、渋滞が発生しやすくなる。
【0026】
一方、停車中に搬送指示を受信した場合にも同様の処理を行い、充電可能であれば充電を行う。
本実施例では、積荷を積んで実車走行中に2箇所以上の受電ステーション5を通過する場合を想定していないが、これは最悪でも1回の充電で全ての搬送がまかなえるように受電ステーション5を設置することが搬送能力低下の防止に寄与するためで、充電個所が十分でない場合は想定しない。
【0027】
図3に、動作のタイムチャートを示す。
中央車線での充電がない場合を上部に示し、中央車線での充電がある場合を下部に示す。走行のチャートで斜線の網掛け部分は実車走行、白ぬき部分は空車走行を示す。
(ア)の部分は、空車走行中に指示を受信したが、充電可能なステーションがなかったため移載中の充電時間がのびる場合を示す。空車中に移動を中断する場合には、移載時間と同じ時間だけ走行が中断される。
一方、搬送指示受信後に移載ステーションまで走行して充電時間がのびる場合、時間が延長され、次の発車が遅れる時間が移載時間以内と加減速時間の和の時間以内であればこの方が総停車時間は短くなる。
効果は、搬送能力シミュレーションあるいは簡易な計算により推定可能で、効果がある位置に受電ステーション5を配置する。
【0028】
(イ)の部分は、中央車線の受電ステーション5で充電している場合を示す。(イ)の充電は本線で停車しないため渋滞の原因にならない。
(ウ)は、(イ)で充電したために移載時間以内に充電が終了し、充電終了で次の搬送の走行が始まっている例を示す。
【0029】
以上、本発明の無人搬送車装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
例えば、進行方向が同一で並行して走行する本線軌道の間にも短絡軌道を設けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の無人搬送車装置は、短絡軌道を介して本線軌道の渋滞を防止することにより、搬送車の平均速度を向上させ、同一搬送車台数で搬送能力を増加させるという特性を有していることから、工場で材料や製品を運搬する無人搬送車装置の用途に広く好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の無人搬送車装置の実施例を示し、(a)は第1実施例を示す平面図、(b)は第2実施例を示す平面図、(c)は第3実施例を示す平面図である。
【図2】直進軌道に充電ステーションを設けた例を示し、(a)は迂回軌道の直進軌道に充電ステーション設けた平面図、(b)は短絡軌道の直進軌道に充電ステーション設けた平面図である。
【図3】直進軌道に充電ステーションを設けた場合の搬送車のタイムチャートを示す図である。
【図4】同搬送車の動作を示すフロー図である。
【図5】従来の無人搬送車装置を示し、(a)は迂回軌道を設けた例を示す平面図、(b)は短絡軌道を設けた例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 本線軌道
2 本線軌道
3 短絡軌道
31 横行軌道
32 横行軌道
33 直進軌道
4 合流点制御部
5 受電ステーション
6 移載ステーション
7 迂回軌道
8 短絡軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並行する本線軌道と、該本線軌道を短絡して連結する短絡軌道とを備えた無人搬送車装置において、前記短絡軌道が、本線軌道に分岐合流する横行軌道と、本線軌道と並行し、複数の搬送車を滞留させる直進軌道とを備えたことを特徴とする無人搬送車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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