説明

無停電工具

【課題】 計器に接続された電源側ケーブルと負荷側ケーブルとを短絡させて無停電で計器を交換するために使用されるバイパス装置において、ケーブルクランプ部の電気的な接触をより確実に確保することができる無停電工具を提供する。
【解決手段】 電源側ケーブルや負荷側ケーブルに使用されている絶縁被覆ケーブルをバイパスケーブルと電気的に接続するケーブルクランプをクランプ本体2とクランプネジ4で構成した。クランプネジ4の先端に環状刃部5を形成し、これにより絶縁被覆ケーブル6の絶縁被覆11を押し切ると同時に導電体12とバイパスケーブル1を電気的に接続している。クランプネジ4には、環状刃部孔13と貫通孔14を形成し、クランプの際に発生する絶縁被覆ケーブルの絶縁被覆屑をこれらの孔を通してクランプネジ4のネジ頭部8から順次排出することにより、良好な電気的接続および機械的保持力を実現している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷を停電させることなく電力量計等を取り替える際に使用する無停電工具に関し、特に、電源側ケーブル、負荷側ケーブルに接続されるクランプネジを備えた無停電工具に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭や工場などで使用されている電力量計の交換方法として、電源側ケーブルと負荷側ケーブルの間にバイパス装置を挿入することにより、電力量計の電源側と負荷側を電気的に接続した状態で電力量計を新しいものと交換する方法が、無停電で電力量計を交換できることから広く採用されている。
【0003】
前記バイパス装置のケーブルクランプとしては、例えば特許文献1〜3が開示するような手法が用いられている。特許文献1が開示するケーブルクランプ構造は、電源側ケーブルあるいは負荷側ケーブルに係合するフック部を有するクランプ本体と、フック部に対面させてクランプ本体に螺合した導電性材料からなるクランプネジであって、先端部に先鋭部を形成したクランプネジを備えている。この先鋭部が電力量計に接続された絶縁被覆ケーブルに食い込んで、ケーブルとバイパス装置を電気的に接続するものである。
【0004】
特許文献2が開示するケーブルクランプ構造は、電源側ケーブルあるいは負荷側ケーブルに係合するフック部を有するクランプ本体と、フック部に対面させてクランプ本体に螺合した導電性材料からなる金属製シャフトであって、フック部内側と金属製シャフトの先端部に導電性材料からなる平刃を備えている。これらの平刃が電力量計に接続された絶縁被覆ケーブルに食い込んで、ケーブルとバイパス装置を電気的に接続するものである。
【0005】
特許文献3が開示するケーブルクランプ構造は、電源側ケーブルおよび負荷側ケーブルを挿通可能な溝部を有するクランプ本体と、溝部に対面させてクランプ本体に螺合した導電性材料からなるクランプネジであって、先端部に環状刃部を形成したクランプネジを備えている。この環状刃部が電力量計に接続された絶縁被覆ケーブルに食い込んで、ケーブルとバイパス装置を電気的に接続するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−184482号公報
【特許文献2】特開平7−284209号公報
【特許文献3】特開平10−73618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、電力量計の交換作業中にケーブルクランプ部で接触不良が発生すると停電事故にいたってしまう問題がある。特許文献1のように、先端部に先鋭部を形成したクランプネジを使用すると、芯線が撚線で形成される絶縁被覆ケーブルの撚線の隙間にクランプネジを食い込ますことはできるが、交換作業中の振動や電線ケーブルの芯線の撚り戻しにより、先端部と芯線の間で接触不良が発生することがある。
【0008】
また、家庭用など電流容量の小さい電力量計では、芯線に単線を使用した絶縁被覆ケーブルが使用されている場合があることから、特許文献1におけるクランプネジの先端が絶縁被覆ケーブルの芯線に食い込まずに接触不良となることがある。
【0009】
さらに、工場用など電流容量の大きい電力量計では、絶縁被覆ケーブルの芯線が撚線であっても撚線の1本1本の径が太いことから、単線を使用した場合と同様にクランプネジの先端が絶縁被覆ケーブルの芯線に食い込まずに接触不良となることがある。
【0010】
特許文献2のように、クランプ部に平刃を使用する方法では、絶縁被覆ケーブルに刃を食い込ませる時にケーブルを切断する方向に力が作用するために、ケーブル芯線に傷をつけずに平刃との接触を確保することが難しい。接触不良を恐れて締め付け力を増すと芯線が切断される危険性がある。
【0011】
また、特許文献2における平刃では、平刃と金属製シャフトを個別の部材で形成し、金属製シャフトが回転しても平刃が回転しないような機構が必要であるため、構造が複雑になり耐久性も短くなる。
【0012】
特許文献3のように、クランプネジの先端を環状刃部とした構造では、使用する絶縁被覆ケーブルの芯線が撚線であっても単芯であっても環状刃部が芯線に食い込み、良好な接触を有するが、環状刃部により絶縁被覆が円形に切断されるために、切断された絶縁被覆屑が環状刃部内側の穴部分に詰ってしまうことがある。
【0013】
環状刃部内側の穴部分に詰った絶縁被覆屑を残置すると、次回の接続作業時に残置された絶縁被覆屑が環状刃部の絶縁被覆への食い込みを疎外してクランプネジの環状刃部が絶縁被覆ケーブルに食い込まないため、接触不良を起こす可能性がある。そこで、この絶縁被覆屑を毎作業毎に環状刃部から除去する作業が必要になる。
【0014】
本発明は、バイパス装置のクランプ部の電気的な接触をより確実に確保することができるバイパス装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題に鑑み、本発明が提供する無停電工具は、計器に接続された電源側ケーブルと負荷側ケーブルとを短絡させて無停電で計器を交換するために使用される無停電工具であって、前記各ケーブルの絶縁被覆を押し切って各ケーブル内の芯線に接続されるクランプネジを備えた無停電工具において、前記クランプネジの先端に形成された環状の刃部の内側にネジ部を貫通した孔を形成したものである。
【0016】
この構成によれば、環状刃部により絶縁被覆を貫通した際に発生する絶縁被覆屑は、環状刃部の内側に形成した孔によりクランプネジ後方より排出される。
【0017】
また、クランプネジ内部の孔径を環状刃部の内径よりも大きくすることにより、絶縁被覆屑をより円滑に排出することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明によれば、クランプネジの環状刃部の内側にネジの軸方向に貫通孔を形成したことにより、クランプネジを締め付けた際に生成する絶縁被覆ケーブルの絶縁被覆屑を貫通孔を通して、ネジ後方より排出できることから、絶縁被覆屑が環状刃部の内側の穴に詰ることにより発生する電気的接続不良や機械的保持力不足を解消することができる。さらには、確実な無停電工事が実現できる。
【0019】
クランプネジ内部の孔径を環状刃部の内径よりも大きくすることにより、絶縁被覆屑はより円滑に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】 本発明に係わる無停電工具の実施形態における斜視図
【図2】 ケーブルクランプの構造図
【図3】 クランプネジの断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係わる一実施形態について図面を参照して述べる。
【実施例】
【0022】
図1は、実施形態に使用される無停電工具を示している。無停電工具は、電力量計の電源側ケーブルと負荷側ケーブルを接続するためのバイパスケーブル1とケーブルクランプ2で構成され、図2、はケーブルクランプ2の詳細を示している。ケーブルクランプ2は、ケーブルクランプ2本体とクランプネジ4で構成されており、図3にクランプネジ4の断面図を示している。
【0023】
ケーブルクランプ2は、電力量計の電源側ケーブルと負荷側ケーブルに取り付けられるので、なるべく小型で外装が電気的に絶縁されている必要があり、電源側ケーブルや負荷側ケーブルに使用されている絶縁被覆ケーブル6の導電体12とバイパスケーブル1の電気的接続を確保すると同時に絶縁被覆ケーブル6を機械的に保持する機能を有している。
【0024】
絶縁被覆ケーブル6は、ケーブルクランプ2のフック部3の凹部に導入され、クランプネジ4により固定される。この時、クランプネジ4は、ケーブルクランプ2の端部に形成されたネジ挿通孔7を介してドライバーなどの工具を使用してネジ頭部8が回転され、雌ネジ部9を介して、先端の環状刃部5が回転しながら下降し、絶縁被覆ケーブル6の絶縁被覆11に食い込む。さらにクランプネジ4を回転させると、環状刃部5は絶縁被覆11を突き破り導電体12に到達する。これにより、クランプネジ4と絶縁被覆ケーブル6が電気的に接続される。
【0025】
さらには、クランプネジ4とケーブルクランプ2は、雌ネジ部9により電気的に接続され、ケーブルクランプ2はバイパスケーブル1と固定ネジ10により電気的に接続されていることから、結果的に絶縁被覆ケーブル6とバイパスケーブル1が電気的に接続される。
【0026】
電力量計の電源側ケーブルおよび負荷側ケーブルのすべてにケーブルクランプ2を取付けてバイパスケーブル1で接続し電力量計を交換する。その後、ケーブルクランプ2とバイパスケーブル1を取り外し、作業を終了する。この間、クランプネジ4の環状刃部は、絶縁被覆ケーブル6の絶縁被覆11と導電体12に食い込んでいるので、電力量計取替え作業中に発生する振動や機械的な揺動に対してもクランプネジ4は緩むことがなく、電気的接続を良好に保つことができる。
【0027】
電力量計の交換後にクランプネジ4を緩めて、絶縁被覆ケーブル6からケーブルクランプ2を取り外した時点では、クランプネジ4の先端部に形成された環状刃部5の環状刃部孔13には、絶縁被覆11が円形に切断された絶縁被覆屑が残置される。
【0028】
次回の電力量計の交換工事において、絶縁被覆ケーブル6の絶縁被覆11にクランプネジ4の環状刃部5が食い込む際に、前回の工事で環状刃部孔13内に残置された絶縁被覆屑は、新たに発生する絶縁被覆屑により環状刃部孔13の内部を押し上げられる。しかし、この時に環状刃部孔13は、環状孔14と連結しているので、残置されていた絶縁被覆屑は、大きな摩擦抵抗を生じることなく環状刃部孔13から貫通孔14に順次移動し、最終的にはネジ頭部8より排出される。これにより、環状刃部5と導電体12の良好な導通が達成される。
【0029】
図3にクランプネジ4の詳細構造を示している。環状刃部孔13の内径よりも貫通孔14の内径を大きくしている。これにより、絶縁被覆屑は工事毎に発生する新たな絶縁被覆屑により押されるが、環状刃部孔13を通過した時点で、貫通孔14を通してネジ頭部8より順次排出される。これにより絶縁被覆屑による摩擦抵抗は大きく低減される。
【0030】
本実施例では、無停電工具としてケーブルクランプ2を例としたが、クランプがブロック形状に一体となった無停電工具にも適用できる。また、クランプネジ4の材料として実施例ではクロム銅を使用したが、適当な電気伝導性と機械的強度を有する材料であればこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
2 ケーブルクランプ
4 クランプネジ
5 環状刃部
6 絶縁被覆ケーブル
13 貫通刃部孔
14 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計器に接続された電源側ケーブルと負荷側ケーブルとを短絡させて無停電で計器を交換するために使用される無停電工具であって、前記ケーブルの絶縁被覆を押し切ってケーブル内の芯線に接続されるクランプネジを備えた無停電工具において、前記クランプネジの先端に形成された環状の刃部の内側に形成された孔がネジを軸方向に貫通していることを特徴とする無停電工具。
【請求項2】
前記無停電工具の環状の刃部の内側に形成された孔の内径よりもネジの貫通部分の孔の内径が大きいことを特徴とする請求項1に記載の無停電工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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