説明

無機含有有機繊維の製造方法及びこの繊維を含む不織布

【課題】 有機成分に無機成分を混合することによって機械的強度の向上した、無機含有有機繊維の製造方法、及びこの繊維を含む不織布を提供すること。
【解決手段】 本発明の無機含有有機繊維の製造方法は、(1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとを混合して、紡糸液を調製する工程、(3)前記紡糸液を紡糸して無機系ゲルと有機ポリマーとの無機含有有機繊維を形成する工程、を含む。無機系曳糸性ゾル溶液の重量平均分子量は10000以上であるのが好ましく、無機系曳糸性ゾル溶液が、有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機含有有機繊維の製造方法及びこの繊維を含む不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れる不織布であることができるため、繊維径の小さい繊維から構成されているのが好ましい。このような繊維径の小さい繊維の製造方法として、紡糸液をノズルから吐出するとともに、吐出した紡糸液に電界を作用させて紡糸液を延伸し、繊維径の小さい繊維を紡糸する、いわゆる静電紡糸法が知られている。このような静電紡糸法においては、紡糸液として有機ポリマーを含むものを使用すれば有機ポリマーからなる繊維を製造することができる。
【0003】
このような繊維径の小さい有機繊維は繊維径が小さいが故に機械的強度が低く、この有機繊維からなる不織布は取り扱い性の悪いものであった。そこで、本発明者らは有機繊維に無機成分を含ませることにより機械的強度を高めるとともに、無機成分を含んでいることによる機能付加を狙った。
【0004】
このような機械的強度を高めることを狙ったものではないが、機能付加を目的として、例えば、「エレクトロスピニング法により得られる、異相構造を有するナノ繊維であり、前記異相構造が、繊維の中心軸に沿って延在する第一の相と、前記第一の相の延在方向に対する垂直断面において、前記第一の相の外側に配置された第一の相を被覆する第二の相と、を含み、前記第一の相が、無機材料を含む第一材料により構成された領域であるとともに、前記第二の相が前記第一材料と異なる第二材料により構成されたナノ繊維。」が提案されている(特許文献1)。このようなナノ繊維は口金に二種類の異なる流体を供給し、口金とターゲットとの間に直流電圧を印加し、エレクトロスピニングすることにより得ることができることが開示されている。そこで、本発明者らは繊維強度を高めるのに好適であると考えられる無機材料の量をナノ繊維全体の10%以下として、この製造方法を追試したが、二層の異相構造からなるナノ繊維を得ることができず、不織布の機械的強度を高めることができなかった。
【0005】
また、機械的強度を高めることも、機能付加を狙ったものではないが、「有機高分子やセラミックス前駆化合物などの繊維形成性の溶質を溶解させた溶液を電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を電極に向けて曳糸し、形成される繊維状物質を捕集基板上に累積することによって繊維構造体を得る方法」が提案されている(特許文献2)。この特許文献2においては、実際に実施例において、「チタンテトラノルマルブトキシドに酢酸を添加した溶液にイオン交換水を添加してゲルを生成した後、ポリエチレングリコールを混合し、紡糸溶液を調製し、この紡糸溶液を用いて紡糸した」ことを開示している。この実施例によれば、有機成分と無機成分とを含む繊維を製造できるが、ゲルを生成した後に有機成分と混合していることから、繊維中において無機粒子の状態で存在するため、有機繊維の機械的強度を高めることができず、結果として不織布の機械的強度を高めることのできないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−197859号公報(請求項1、2、5、7、段落番号0055)
【特許文献2】特開2007−092238号公報(段落番号0008〜0010、0018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、有機成分に無機成分を混合することによって機械的強度の向上した、無機含有有機繊維の製造方法、及びこの繊維を含む不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明は、「(1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとを混合して、紡糸液を調製する工程、(3)前記紡糸液を紡糸して無機系ゲルと有機ポリマーとの無機含有有機繊維を形成する工程、を含む無機含有有機繊維の製造方法。」である。
【0009】
本発明の請求項2にかかる発明は、「無機系曳糸性ゾル溶液の重量平均分子量が10000以上であることを特徴とする、請求項1記載の無機含有有機繊維の製造方法。」である。
【0010】
本発明の請求項3にかかる発明は、「無機系曳糸性ゾル溶液が、有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の無機含有有機繊維の製造方法。」である。
【0011】
本発明の請求項4にかかる発明は、「無機系曳糸性ゾル溶液の固形分量が有機ポリマー質量に対して10%以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の無機含有有機繊維の製造方法。」である。
【0012】
本発明の請求項5にかかる発明は、「電界の作用により、又はガスの剪断作用により紡糸することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の無機含有有機繊維の製造方法。」である。
【0013】
本発明の請求項6にかかる発明は、「請求項1〜請求項5のいずれかに記載の製造方法により製造された無機含有有機繊維を含む不織布。」である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1にかかる発明は、有機ポリマーに対して曳糸性の無機系ゾル溶液を混合することにより、無機含有有機繊維中、当該繊維の長さ方向に沿って延びる無機成分が多数分散した状態となるように紡糸できるため、有機ポリマーのみからなる繊維よりも機械的強度の向上した無機含有有機繊維を製造できる。
【0015】
本発明の請求項2にかかる発明は、無機系曳糸性ゾル溶液の分子量が大きいため、繊維中、繊維の長さ方向に沿ってより長く伸びる無機成分が多数分散した状態となるように紡糸できるため、有機ポリマーのみからなる繊維よりも機械的強度の向上した無機含有有機繊維を製造しやすい。
【0016】
本発明の請求項3にかかる発明は、無機系曳糸性ゾル溶液が有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものであり、有機置換基を有する無機成分は有機ポリマーとの親和性が良いため、機械的強度の向上した無機含有有機繊維を製造しやすい。
【0017】
本発明の請求項4にかかる発明は、有機ポリマーに対する無機系曳糸性ゾル溶液の混合割合が少ないため、有機ポリマーの特性を損なうことなく、機械的強度の向上した無機含有有機繊維を製造しやすい。また、有機ポリマー単独からなる繊維の繊維径とほぼ同一の繊維径の無機含有有機繊維を製造できる。
【0018】
本発明の請求項5にかかる発明は、電界の作用により、又はガスの剪断作用により紡糸した、繊維径の小さい無機含有有機繊維であっても、有機ポリマーのみからなる繊維よりも機械的強度の向上した無機含有有機繊維を製造しやすい。
【0019】
本発明の請求項6にかかる発明は、前記製造方法により製造された無機含有有機繊維を含むため、有機ポリマーのみからなる繊維からなる不織布よりも機械的強度の向上した不織布である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電界の作用による紡糸装置の模式的断面図
【図2】ガスの剪断作用による紡糸装置の模式的断面図
【図3】比較例3で使用した複合ノズルCの断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明においては、まず、(1)無機系曳糸性ゾル溶液(以下、単に「ゾル溶液」と表記することがある)を調製する工程を実施する。本発明においては、無機含有有機繊維中、当該繊維の長さ方向に沿って延びる無機成分が多数分散した状態となり、繊維の機械的強度が向上するように、無機系曳糸性ゾル溶液を調製する。無機系ゾル溶液が「曳糸性」であると、紡糸後の繊維中において、繊維の長さ方向に沿って延びる無機成分が多数分散した状態になる、という相関関係を見出し、本発明を完成させたものである。
【0022】
本明細書において「無機系」とは、無機成分が50質量%以上を占めていることを意味する。前記ゾル溶液の無機成分含有量は、60質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましい。なお、この無機成分の質量比率(Mr)は、無機系ゾル質量(Mz)に対する、そのゾルのみを紡糸して得られるゲル繊維の質量(Mg)の比をいう。つまり、次の式から算出される値をいう。
Mr=(Mg/Mz)×100
【0023】
本明細書において「曳糸性」の判定は、以下に示す条件で静電紡糸を行い、以下の判断基準により判定する。
(判定法)
アースした金属板に対し、水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から曳糸性を判断する溶液(固形分濃度:20〜50wt%)を吐出する(吐出量:0.5〜1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1〜3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加)し、ノズルの先端に溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上、連続して紡糸し、金属坂上に繊維を集積させる。
【0024】
この集積した繊維の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、繊維の平均繊維径(50点の算術平均値)が5μm以下、アスペクト比が100以上の繊維を製造できる条件が存在する場合、その溶液は「曳糸性あり」と判断する。これに対して、前記条件(すなわち、濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、オイル状で一定した繊維形態でない場合、平均繊維径が5μmを超える場合、あるいは、アスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、前記繊維を製造できる条件が存在しない場合、その溶液は「曳糸性なし」と判断する。
【0025】
このようなゾル溶液は、本発明の製造方法で最終的に得られる無機含有有機繊維の無機成分を構成する元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、約100℃以下の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えば、アルコール)又は水である。
【0026】
この化合物を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0027】
曳糸性ゾル溶液を調製可能な金属化合物としては、例えば、前記元素の金属有機化合物、あるいは、金属無機化合物を挙げることができる。前記金属有機化合物としては、例えば、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、酢酸塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。金属アルコキシドの場合、金属元素として、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、亜鉛等を挙げることができ、これらのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等を使用することができる。例えば、金属元素がケイ素の場合、原料にアルコキシドを使用し、酸触媒を用いて加水分解縮重合反応を進行させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。
【0028】
なお、有機置換基(例えば、メチル基、プロピル基、フェニル基等)を有する金属アルコキシドを無機系曳糸性ゾル溶液の原料として含む、特には、金属骨格と2個以上の加水分解基及び1〜2個の有機置換基からなる金属アルコキシドを無機系曳糸性ゾル溶液の原料として含んでいると、有機ポリマーとの親和性が良い無機成分とすることができ、機械的強度の向上した無機含有有機繊維を製造しやすいため好適である。前記金属アルコキシドとして、メチルトリエトキシシラン(MTES)、プロピルトリエトキシシラン(PTES)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)などを例示できる。
【0029】
曳糸性ゾル溶液を調製可能な金属化合物が金属アルコキシドからなる場合、前述のような有機置換基を有する金属アルコキシドのみを原料とすることができるし、有機置換基をもたない金属アルコキシドのみを原料とすることができるし、或いは有機置換基を有する金属アルコキシドと有機置換基をもたない金属アルコキシドとを混合して原料とすることもできる。なお、混合する場合、その混合比率は特に限定するものではない。
【0030】
他方、金属無機化合物としては、例えば、塩化物、硝酸塩等を挙げることができる。例えば、酸化スズの場合、塩化スズを原料に使用し、アルコール溶媒に溶解させて加熱により加水分解縮重合反応を進行させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。金属元素がチタンやジルコニアの場合、原料にアルコキシドを用いると、水との反応性が高いため、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルエステル等の配位子を使用し、アルコール溶媒、酸触媒を適宜選択することにより加水分解縮重合反応を進行させて、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。
【0031】
これらの曳糸性ゾル溶液は、2種類以上の曳糸性ゾル溶液を混合して使用することができるし、2種類以上の金属化合物から曳糸性ゾル溶液を調製することもできる。
【0032】
曳糸性ゾル溶液の重量平均分子量は、曳糸性に優れているように10000以上であるのが好ましい。このような分子量であると、繊維の長さ方向に沿って延びる無機成分が多数分散した状態となり、機械的強度が向上した無機含有有機繊維を製造しやすいためである。より好ましい重量平均分子量は15000以上であり、更に好ましくは20000以上である。
【0033】
この「重量平均分子量」はゲル浸透クロマトグラフィーにより得ることができる。加水分解縮重合反応途上の無機系ゾル溶液は、化学的に活性な未反応のOR基あるいはOH基を有しており、これら官能基は構造解析測定に付随する操作中に更に重合する可能性があるため、トリメチルシリル化(以下、TMS化)によってOR基、OH基をトリメチルシリル基で保護し、無機系ゾルを安定化させた後にゲル浸透クロマトグラフィーにより測定できる(参考:窯業協会誌 92 [5] 1984,神谷ら)。つまり、TMS化は、トリメチルクロロシラン(以下、TMCS)などのシリル化剤の加水分解によって生成するSi(CHOHと、加水分解縮重合反応途上の無機系ゾル溶液との反応によって、OR基あるいはOH基をトリメチルシリル基で保護する。この安定化された無機系ゾル溶液は、元の重合体の形態を80から90%維持されることが知られている(参考:C.W.Lentz,Long.Chem.,3,574−79(1968))。このようなTMS化はTMCSに限定されず、例えば、トリメチルシリルイミダゾール、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、N−メチルーNートリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、N−トリメチルシリルジメチルアミン、N,N−ジエチルアミノトリメチルシランなどによっても実施できる。
【0034】
より具体的には、シリカゾルの重量平均分子量は、例えば、TMCS:60ml、水:50ml、イソプロパノール:50mlを25℃で2時間攪拌した混合液中に、加水分解縮重合途上のシリカゾルを加え、25℃で2日間攪拌して反応させ、2層に分離した混合液を得る。次いで、この混合液の上層部を回収し、水:プロパノール=1:1(体積比)の混合液で2回洗浄した後、110℃に設定した熱風乾燥機で、110℃における重量変化がなくなるまで熱処理し、未反応のTMCSを蒸発させて、シリカゾルを安定化させることができる。そして、この安定化したシリカゾルをゲル浸透クロマトグラフィーによって測定することができる。測定はGPC測定装置(HLC−8220GPC、東ソー(株)製)、検出器としてRI検出器(東ソー(株)製)、カラムとしてShodex GPC KF−806L×3(昭和電工(株)製)を用いて実施できる。
【0035】
次に、(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとを混合して、紡糸液を調製する工程を実施する。これらの混合順序は、紡糸可能な紡糸液が得られる限り、特に限定されるものではなく、任意の順序で、あるいは、2成分又は3成分を同時に混合することができる。
【0036】
前記溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)を挙げることができる。使用する有機ポリマーとゾル溶液(特にポリマー)に応じて適宜決定することができ、曳糸性ゾル溶液と有機ポリマーが溶液中で相分離やゲル化を起こすことなく、どちらも均一に溶解可能である溶媒を選択する。
【0037】
前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとしては、紡糸可能な樹脂である限り、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、又はポリスルホンを挙げることができ、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリスチレン、又はポリビニルピロリドンが好ましい。
【0038】
有機ポリマーの分子量は、紡糸可能な範囲である限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリロニトリルの場合、重量平均分子量(Mw)は5万〜200万であることが好ましく、40万〜70万であることがより好ましい。また、ポリビニルアルコールの場合、重量平均分子量(Mw)は4万〜20万であることが好ましい。
【0039】
有機ポリマー質量に対する曳糸性ゾル溶液の混合量は、曳糸性ゾル溶液の固形分量で、10%以下であるのが好ましく、5%以下であるのがより好ましく、1%以下であるのが更に好ましい。10%を超えると、無機含有有機繊維の機械的強度が向上しにくくなる傾向があるためである。なお、無機成分による無機含有有機繊維の機械的強度を向上させるためには、0.01%以上含んでいるのが好ましく、0.1%以上含んでいるのがより好ましい。なお、有機ポリマー質量に対する曳糸性ゾル溶液の固形分量の比率(Mr)は、曳糸性ゾル溶液の固形分質量(Ms)の、紡糸液中における有機ポリマーの固形分質量(Mp)に対する比をいう。つまり、次の式から算出される値をいう。
Mr=(Ms/Mp)×100
【0040】
紡糸液における有機ポリマー濃度は、曳糸性に優れているように、1〜30wt%であることが好ましく、5〜20wt%であることがより好ましい。例えば、重量平均分子量が50万のポリアクリロニトリルの場合、最適濃度は10wt%である。
【0041】
本発明の紡糸液の粘度は0.1Pa・s以上であることが好ましい。本発明の「粘度」は、粘度測定装置を用い、温度25℃で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。また、紡糸液を調製するときに、ゾル溶液は曳糸性を有する必要はない。例えば、曳糸性ありと判定されたゾル溶液を希釈し、その希釈状態では曳糸性のないゾル溶液であっても使用することができる。
【0042】
次いで、(3)前記紡糸液を紡糸して無機系ゲルと有機ポリマーとの無機含有有機繊維を形成する工程を実施して、無機含有有機繊維を製造する。この紡糸は、例えば、電界の作用により、又はガスの剪断作用により実施することができる。これらの方法によれば、繊維径の小さい繊維を紡糸することができるため、本発明において威力を発揮する。つまり、繊維径が小さくても無機成分によって機械的強度が向上した無機含有有機繊維を紡糸できる。
【0043】
この電界の作用により紡糸する方法はいわゆる静電紡糸法であり、従来から公知の方法に基づいて実施することができる。例えば、特開2003−73964号公報、特開2004−238749号公報、特開2005−194675号公報等に開示されている静電紡糸装置によって実施することができる。以下、特開2005−194675号公報に開示の製造装置を示す図1をもとに、簡単に説明する。
【0044】
図1の製造装置は、紡糸液をノズル2へ供給できる紡糸液供給装置1、紡糸液供給装置1から供給された紡糸液を吐出できるノズル2、ノズル2から吐出され、電界によって延伸された繊維を捕集するアースされた捕集体3、ノズル2とアースされた捕集体3との間に電界を形成するために、ノズル2に電圧を印加できる電圧印加装置4、ノズル2と捕集体3とを収納した紡糸容器6、紡糸容器6へ所定相対湿度の気体を供給できる気体供給装置7、及び紡糸容器6内の気体を排気できる排気装置8を備えている。このような製造装置の場合、紡糸液は紡糸液供給装置1によってノズル2へ供給される。この供給された紡糸液はノズル2から吐出されるとともに、アースされた捕集体3と電圧印加装置4によって印加されたノズル2との間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体3へ向かって飛翔する(いわゆる静電紡糸法)。そして、この飛翔した繊維は直接、捕集体3上に集積し、繊維ウエブを形成する。
【0045】
なお、連続的に繊維を集積させる場合には、捕集体を移動させ、この捕集体の移動方向と直交する方向に、長円状に回転移動(捕集体の移動方向と長円の長軸が直交)するノズル群から紡糸液を吐出し、繊維化した繊維を捕集体上に集積させると良い。
【0046】
もう一方のガスの作用による紡糸方法について、装置の模式的断面図である図2をもとに、簡単に説明する。
【0047】
図2の製造装置は、紡糸液を溶液吐出ノズル21へ供給できる紡糸液供給装置10、紡糸液供給装置10から供給された紡糸液を吐出できる溶液吐出ノズル21、気体を気体吐出ノズル22へ供給できる紡糸用気体供給装置40、紡糸用気体供給装置40から供給された気体を吐出できる、前記溶液吐出ノズル21よりも上流側に吐出部を有する気体吐出ノズル22、溶液吐出ノズル21から吐出され、気体の作用によって延伸された繊維を捕集する捕集体30、溶液吐出ノズル21、気体吐出ノズル22及び捕集体30を収納した紡糸容器60、紡糸容器60へ所定相対湿度の気体を供給できる容器用気体供給装置70、及び紡糸容器60内の気体を排気できる排気装置80を備えている。このような製造装置の場合、紡糸液は紡糸液供給装置10によって溶液吐出ノズル21へ供給されると同時に、紡糸用気体供給装置40によって気体が気体吐出ノズル22へ供給される。そのため、溶液吐出ノズル21から吐出された紡糸液は気体吐出ノズル22から吐出された気体の剪断作用によって延伸され、繊維化しながら捕集体30へ向かって飛翔する。そして、この飛翔した繊維は直接、捕集体30上に集積し、繊維ウエブを形成する。
【0048】
以上のような方法により、無機含有有機繊維を製造することができるが、単に紡糸しただけでは、紡糸液を構成する溶媒が残留する場合があるため、紡糸後に熱処理を行い、残留溶媒を除去するのが好ましい。残留溶媒の除去は、例えば、オーブン、赤外線、熱風、誘導加熱等により実施できる。
【0049】
このような方法により製造される無機含有有機繊維は、繊維の長さ方向に沿って延びる無機成分が多数分散した状態にあるため、有機ポリマーのみからなる繊維よりも機械的強度の向上した無機含有有機繊維である。また、前記状態で分散していることによって、柔軟性にも優れている。更に、無機成分が機能性を有する場合には、その機能を発揮することができる。
【0050】
本発明の不織布は上述のような製造方法により製造された無機含有有機繊維を含んでいる。そのため、従来の有機ポリマーのみからなる繊維を含む不織布よりも機械的強度の優れるものである。特に、不織布が無機含有有機繊維のみからなる場合(特に、電界の作用により、又はガスの剪断作用により紡糸した場合)に、機械的強度の向上が顕著である。
【0051】
このような不織布は、例えば、紡糸した繊維を直接集積することによって製造することができる。紡糸した繊維に対して、又は紡糸した後に、前述の方法により製造した繊維以外の繊維、機能性粉体等を供給すれば、前述の方法により製造した繊維以外の材料を含む不織布を製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0053】
(実施例1)
(1)無機系曳糸性ゾル溶液の調製;
テトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水及び塩酸を、1:5:2:0.0025のモル比で混合して、曳糸性シリカゾル溶液を調製した。より具体的には、テトラエトキシシラン1モルに対して、2.5モル量のエタノールを混合し、攪拌させながら、その中に、水2モル量、塩酸0.0025モル量及び2.5モル量のエタノールからなる混合液をゆっくりと滴下し、出発原料とした。この出発原料は冷却水を循環させながら、設定温度100℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた後、酸化ケイ素の固形分濃度が44%となるまで濃縮し、ゾル溶液とした。そして、濃縮後のゾル溶液を温度60℃で数時間保持し、増粘させ、曳糸性シリカゾル溶液(重量平均分子量:12000)を得た。この曳糸性シリカゾル溶液の粘度は0.32Pa・sであった。
【0054】
(2)紡糸液の調製;
ポリアクリロニトリル(Mn=24万、Mw=48万)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、10wt%濃度の溶解液とした後、ポリアクリロニトリル質量に対する酸化ケイ素の固形分量が1mass%となるように、前記(1)で調製した曳糸性シリカゾル溶液を添加し、紡糸液とした。この紡糸液の粘度は0.9Pa・sであった。
【0055】
(3)無機含有有機繊維不織布の製造;
紡糸装置としては、図1に示す装置を使用した。前記(2)で調製した紡糸液を、内径が0.4mmのステンレス製ノズルに、ポンプにより1g/時間で供給し、ノズルから紡糸液を紡糸空間(温度26℃、相対湿度23%)へ吐出するとともに、ノズルに電圧(13.5kV)を印加し、捕集体であるステンレス製無孔ロール(ノズルとの距離:10cm)をアースして、紡糸液に電界を作用させることによって細径化し、シリカ含有アクリル繊維を形成し、回転する無孔ロール上に集積させ、繊維ウエブを形成した。その後、温度150℃に設定した熱風乾燥機に供給し、30分間熱処理を実施して、不織布を形成した。なお、シリカ含有アクリル繊維の平均繊維径は320nmであり、目付は5g/mであった。
【0056】
(実施例2)
シリカ原料として、テトラエトキシシラン(TEOS):3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を9:1のモル比で混合したものを使用し、前記シリカ原料、エタノール、水及び塩酸を、1:5:2:0.0025のモル比で混合して、曳糸性シリカゾル溶液(重量平均分子量:15000、粘度:1.6Pa・s)を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ含有アクリル繊維(平均繊維径:320nm)からなる不織布(目付:5g/m)を形成した。なお、紡糸液の粘度は0.9Pa・sであった。
【0057】
(実施例3)
濃縮後のゾル溶液を温度60℃で5時間保持し、高分子量化(重量平均分子量:14000)し、粘度0.56Pa・sの曳糸性シリカゾル溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ含有アクリル繊維(平均繊維径:320nm)からなる不織布(目付:5g/m)を形成した。なお、紡糸液の粘度は0.9Pa・sであった。
【0058】
(実施例4)
濃縮後のゾル溶液を温度60℃で5時間保持し、高分子量化(重量平均分子量:21000)し、粘度2.2Pa・sの曳糸性シリカゾル溶液を使用したこと以外は、実施例2と同様にして、シリカ含有アクリル繊維(平均繊維径:320nm)からなる不織布(目付:5g/m)を形成した。なお、紡糸液の粘度は0.9Pa・sであった。
【0059】
(実施例5)
テトラエトキシシラン(TEOS)、ブタノール、エタノール、水及び塩酸を、1:0.25:2:2:0.01のモル比で混合して、曳糸性シリカゾル溶液を調製した。より具体的には、テトラエトキシシラン、ブタノールの混合溶液を室温下、30分間攪拌し、テトラエトキシシランのエトキシ基の一部をブトキシ基で置換した。その後、前記混合溶液に、エタノール、水及び塩酸の混合溶液を滴下し、出発原料とした。この出発原料は冷却水を循環させながら、設定温度100℃、攪拌条件300rpmで7日間反応させた後、酸化ケイ素の固形分濃度が44%となるまで濃縮し、ゾル溶液とした。そして、濃縮後のゾル溶液を温度60℃で数時間保持し、増粘させ、曳糸性シリカゾル溶液(重量平均分子量:20000)を得た。この曳糸性シリカゾル溶液の粘度は2.05Pa・sであった。
【0060】
この曳糸性シリカゾル溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に、紡糸液(粘度:0.9Pa・s)を調製し、紡糸して、シリカ含有アクリル繊維(平均繊維径:320nm)からなる不織布(目付:5g/m)を形成した。
【0061】
(実施例6)
(1)無機系曳糸性ゾル溶液の調製;
テトラエトキシシラン(TEOS)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ブタノール、水及び塩酸を、0.5:0.5:10:2:0.0025のモル比で混合して、曳糸性シリカ・ジルコニウム混合ゾル溶液を調製した。より具体的には、テトラエトキシシラン0.5モルとジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)0.5モルの混合溶液に対して、5モル量のブタノールを混合し、攪拌させながら、その中に、水2モル量、塩酸0.0025モル量及び5モル量のブタノールからなる混合液をゆっくりと滴下し、出発原料とした。この出発原料は冷却水を循環させながら、設定温度100℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた後、酸化ケイ素と酸化ジルコニウムの固形分濃度の合計が50%となるまで濃縮し、ゾル溶液とした。そして、濃縮後のゾル溶液を温度60℃で数時間保持し、増粘させ、曳糸性シリカ・ジルコニウムゾル溶液(粘度:2.5Pa・s)を得た。
【0062】
(2)紡糸液の調製;
ポリアクリロニトリル(Mn=24万、Mw=48万)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、10wt%濃度の溶解液とした後、ポリアクリロニトリル質量に対する酸化ケイ素と酸化ジルコニウムの固形分濃度の合計が0.5mass%となるように、前記(1)で調製した曳糸性シリカ・ジルコニウムゾル溶液を添加し、紡糸液とした。この紡糸液の粘度は0.9Pa・sであった。
【0063】
(3)無機含有有機繊維不織布の製造;
紡糸装置としては、図1に示す装置を使用した。前記(2)で調製した紡糸液を、内径が0.4mmのステンレス製ノズルに、ポンプにより1g/時間で供給し、ノズルから紡糸液を紡糸空間(温度26℃、相対湿度23%)へ吐出するとともに、ノズルに電圧(13.5kV)を印加し、捕集体であるステンレス製無孔ロール(ノズルとの距離:10cm)をアースして、紡糸液に電界を作用させることによって細径化し、シリカ・ジルコニウム含有アクリル繊維を形成し、回転する無孔ロール上に集積させ、繊維ウエブを形成した。その後、温度150℃に設定した熱風乾燥機に供給し、30分間熱処理を実施して、不織布を形成した。なお、シリカ・ジルコニウム含有アクリル繊維の平均繊維径は320nmであり、目付は5g/mであった。
【0064】
(比較例1)
ポリアクリロニトリル(Mn=24万、Mw=48万)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、10wt%濃度の紡糸液(粘度:0.9Pa・s)を調製した。
【0065】
この紡糸液を用いたこと以外は実施例1と同様に紡糸して、アクリル繊維(平均繊維径:320nm)からなる不織布(目付:5g/m)を形成した。
【0066】
(比較例2)
テトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水及びアンモニアを、1:5:2:0.0025のモル比で混合して、非曳糸性シリカゾル溶液を調製した。より具体的には、テトラエトキシシラン1モルに対して、2.5モル量のエタノールを混合し、攪拌させながら、その中に、水2モル量、アンモニア0.0025モル量及び2.5モル量のエタノールからなる混合液をゆっくりと滴下し、出発原料とした。この出発原料は冷却水を循環させながら、設定温度100℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた後、酸化ケイ素の固形分濃度が44%となるまで濃縮し、非曳糸性シリカゾル溶液(重量平均分子量:3800)を得た。この非曳糸性シリカゾル溶液の粘度は0.013Pa・sであった。
【0067】
この非曳糸性シリカゾル溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に、紡糸液(粘度:0.9Pa・s)を調製し、紡糸して、シリカ含有アクリル繊維(平均繊維径:320nm)からなる不織布(目付:5g/m)を形成した。
【0068】
(比較例3、4)
実施例3と同様に調製した曳糸性シリカゾル溶液と、比較例1と同様に調製したポリアクリロニトリル紡糸液を用意した。
【0069】
他方、図3に示すような複合ノズルを用意した。つまり、外径0.55mm、吐出部の断面積0.23mmの円形断面を有するノズルAと、外径0.4mm、吐出部の断面積0.12mmの円形断面を有するノズルBとを用意し、ノズルAの中心軸とノズルBの中心軸とが一致するように、ノズルAの吐出部にノズルBを挿入し、複合ノズルCを作製した。
【0070】
次いで、この複合ノズルCを実施例1と同様の紡糸装置のノズルとして使用し、ノズルAに対してポリアクリロニトリル紡糸液を供給するとともに、ノズルBに対して曳糸性シリカゾル溶液を供給し、シリカ−アクリル芯鞘型複合繊維を紡糸し、集積させた。なお、紡糸液は、ポリアクリロニトリルと酸化ケイ素の固形分比率が100:1となるように供給した。その後、温度150℃に設定した熱風乾燥機に供給し、30分間熱処理を実施して、不織布(比較例3)を形成した。この不織布の繊維断面写真(SEM)を数箇所について撮影し、観察したところ、ポリアクリロニトリルと酸化ケイ素とが分離している部分や、ポリアクリロニトリルのみ、又は酸化ケイ素のみから構成される部分が確認され、繊維の長さ方向に均一な構造を有していなかった。
【0071】
そのため、ポリアクリロニトリルと酸化ケイ素の固形分比率が100:10となるように供給して、不織布(比較例4)を形成してみたが、繊維構造に変化はなかった。
【0072】
(引張り強さの測定)
実施例1〜6及び比較例1〜3の不織布の引張り強さを、インストロン型引張試験機(テンシロン、TM−111−100、オリエンテック社製)を用いてそれぞれ測定した。つまり、各不織布からたて50mm、よこ15mmに切断した長方形状試料を採取し、この試料を前記引張試験機の20mm離れて位置するチャック間に固定し、50mm/分の定速で引張り、試料が破断に至るまでの最大張力(引張強さ)を測定した。その後、この引張強さを不織布の目付で割り、単位目付あたりの引張り強さを算出した。これらの結果は表1に示す通りであった。なお、この測定においては、不織布の引張り強さを測定しているが、実際の測定の場合、引張った際に不織布構成繊維が引張り方向に配向し、破断するのは繊維間接着点ではなく、繊維自身であるため、実際には繊維の引張り強さに近い値である。
【0073】
【表1】

【0074】
表中、「PAN」はポリアクリロニトリル固形分比率、「TEOS」はテトラエトキシシラン、「GPTMS」は3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、「ZDBB」はジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、「添加量」はゾルの添加比率、引張り強さの括弧内の数字は比較例1の引張り強さに対する百分率を、それぞれ意味する。
【0075】
表1の実施例と比較例の比較から、曳糸性ゾル溶液を有機ポリマーと混合し、紡糸することにより、有機繊維の機械的強度が向上すること、実施例1と実施例2の比較、及び実施例3と実施例4の比較から、有機置換基を有する金属アルコキシドを添加した曳糸性ゾル溶液を使用することにより、更に無機含有有機繊維の機械的強度が向上すること、実施例1、実施例3及び実施例5の比較、及び実施例2と実施例4の比較から、高分子量化した曳糸性ゾル溶液を使用することにより、更に無機含有有機繊維の機械的強度が向上すること、がわかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、機械的強度の改良された無機含有有機繊維を製造することができる。このような無機含有有機繊維は、例えば、電子材料、液体もしくは気体フィルター、触媒担体、ガスセンサー、医療用基材などの用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 紡糸液供給装置
2 ノズル
3 捕集体
4 電圧印加装置
5 紡糸空間
6 紡糸容器
7 気体供給装置
8 排気装置
10 紡糸液供給装置
21 溶液吐出ノズル
22 気体吐出ノズル
30 捕集体
40 紡糸用気体供給装置
50 紡糸空間
60 紡糸容器
70 容器用気体供給装置
80 排気装置
A、B ノズル
C 複合ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとを混合して、紡糸液を調製する工程、
(3)前記紡糸液を紡糸して無機系ゲルと有機ポリマーとの無機含有有機繊維を形成する工程、
を含む無機含有有機繊維の製造方法。
【請求項2】
無機系曳糸性ゾル溶液の重量平均分子量が10000以上であることを特徴とする、請求項1記載の無機含有有機繊維の製造方法。
【請求項3】
無機系曳糸性ゾル溶液が、有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の無機含有有機繊維の製造方法。
【請求項4】
無機系曳糸性ゾル溶液の固形分量が有機ポリマー質量に対して10%以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の無機含有有機繊維の製造方法。
【請求項5】
電界の作用により、又はガスの剪断作用により紡糸することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の無機含有有機繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の製造方法により製造された無機含有有機繊維を含む不織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−270246(P2009−270246A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91644(P2009−91644)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】