説明

無機微粒子分散ペースト組成物

【課題】プラズマディスプレイパネルなどの平板状蛍光体表示板に塗布する無機微粒子分散ペースト組成物において、塗工時のタレやムラが少なく、低温焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供する。
【解決手段】バインダー(A)、有機溶剤(B)および無機微粒子(C)からなる無機微粒子分散ペースト組成物(D)において、バインダー(A)のアイソタクティシティが80%以上であるポリプロピレングリコールであることを特徴とする無機微粒子分散ペースト組成物(D)を使用する。特に、回転粘度計で、回転数60rpmで測定したときの25℃の粘度η60rpmと、回転数6rpmで測定したときの粘度η6rpmとの比η6rpm/η60rpmが2.0以上である無機微粒子分散ペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工時のタレやムラが少なく、低温焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物に関する。さらに詳しくは、無機蛍光体の無機微粒子を分散させたペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルは、平板状蛍光体表示板として注目されている。プラズマディスプレイパネルは、前面ガラス基板と背面ガラス基板との間に備えられた放電空間内で電極間にプラズマ放電させ、放電空間内に封入されているガスから発生した紫外線を放電空間内の蛍光体に当てることにより発光を得るものである。
【0003】
ディスプレイにおいて従来の前面ガラス基板と背面ガラス基板との間に備えられた放電空間内の蛍光体層の作製方法は次の通りである。
まず、テルピネオール等の有機溶剤に、バインダー樹脂としてエチルセルロースを溶解させて得られる有機バインダーに、蛍光体を分散させてペースト組成物を得る。次にそのペースト組成物をスクリーン印刷装置を用いてガラス基板表面に塗工する。有機溶剤を乾燥させた後、エチルセルロースを熱分解させることによりガラス基板表面で焼結することにより蛍光体を得るという方法が一般的である。
【0004】
スクリーン印刷を行う際には、塗工時のタレやムラを少なくするために、ペースト組成物がチクソトロピーを有することが好ましい。
チクソトロピーとは、剪断力を加えると粘度が低下し、次に放置することにより、粘度が元に戻ろうとする性質をいう。
例えば、回転粘度計で粘度を評価した場合、高回転(歪速度が高い変位)では粘性が低くなり、低回転(歪速度が低い変位)では粘性が高くなる性質である。ペースト組成物においては、塗工の際には粘度が充分に低く塗工が容易で、一方、塗工後に静置して乾燥させる際には粘度が充分に高く自然流延してしまわないという性質が求められる。
【0005】
バインダーとしてエチルセルロースを用いると、高いチクソトロピー性が得られるが、熱分解性が悪いため、500℃程度まで加熱する必要がある。このような高温で加熱すると、蛍光体の初期輝度が劣化してしまうという問題がある(例えば特許文献1)。
【0006】
これに対し、有機バインダーとしてポリオキシエーテル材料とアクリル樹脂との組み合わせる技術がある(例えば、特許文献2、3)。このような有機バインダーは低温で分解するため、蛍光体の初期輝度の劣化の問題が生じない。しかし、チクソトロピー性が従来のエチルセルロースに比べて低いため、塗工時のムラや、タレといったことが問題となっている。
【0007】
また、有機バインダーとしてポリオキシプロピレングリコールを使用すると、低温で焼成可能なため、蛍光体の初期輝度の劣化の問題が生じない(例えば特許文献4)。
しかし、チクソトロピー性が従来のエチルセルロースに比べて低いため、塗工時のムラや、タレといったことが問題となっている。
【特許文献1】特開2003−051260
【特許文献2】特開2005−179178
【特許文献3】特開2002−311583
【特許文献4】特開2007−106802
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、塗工時のタレやムラが少なく、低温焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、これらの課題を鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、バインダー(A)、有機溶剤(B)および無機微粒子(C)からなる無機微粒子分散ペースト組成物(D)において、該バインダー(A)のアイソタクティシティが80%以上であるポリプロピレングリコールであることを特徴とする無機微粒子分散ペースト組成物(D)である。
【発明の効果】
【0010】
アイソタクティシティが80%以上であるポリオキシプロピレングリコール(A1)をバインダー(A)として用いる本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は塗工時のタレやムラが少なく、拭き取り性に優れる。また低温焼成が可能であり、蛍光体の初期輝度が低下しない。その結果蛍光体の長寿命化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明でバインダー(A)として用いるアイソタクティシティーが80%以上であるポリプロピレングリコール(A1)は、(1)キラル体の(R)−プロピレンオキサイドまたは(S)−プロピレンオキサイドをそれぞれ単独で開環重合させる方法や、(2)特殊なキラルの触媒の存在下でラセミ体のアルキレンオキサイドを開環重合させる方法で得られるが、その製法に特に限定されない。
【0012】
このポリオキシプロピレングリコール(A1)のアイソタクティシティーは、得られるチクソトロピーの観点から、80%以上が好ましく、さらに好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは、95%以上である。
【0013】
アイソタクティシティーは、NMRで測定して算出することができる。具体的な算出方法は、例えば、「Journal of the American Chemical Society,No.33(第127巻),2005年,”A Highly Active,Isopecific Cobalt Catalyst for Propylene Oxide”,Kathryn L.Hiroharu Ajiro、Claire T.Cohen,Emil B.Lobkovsky,and Geoffrey W.Coates著」に記載されている。
【0014】
本発明におけるポリオキシプロピレングリコール(A1)の水酸基価換算平均分子量は、通常3,000〜100,000、好ましくは5,000〜70,000、より好ましくは8,000〜50,000である。数平均分子量が3,000未満であると、充分なチクソトロピーが得られないことがあり、100,000を超えると、沸点が高くなりすぎ、低温焼成ができなくなったり、糸曳きが悪くなったりすることがある。
【0015】
本発明のバインダー(A)の添加量はチクソトロピーの観点から、1〜80重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましい。
【0016】
後述する粘度、チクソトロピー性を満足する範囲内でかつ悪影響を及ぼさない範囲で、ポリオキシプロピレングリコール(A1)以外のバインダーを併用しても差しつかえない。
【0017】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)は、拭き取り性及び糸曳性を高める目的で有機溶剤(B)を含有する。
上記有機溶剤(B)の種類は特に限定されず、例えば、ターピネオール、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール、2−フェノキシエタノール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。
【0018】
本発明における有機溶剤(B)の含有量としては特に限定されないが、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)中の含有量は通常5〜30重量%である。含有量が低過ぎると、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)の拭き取り性を充分に高めることができない。30重量部を超える含有量が高過ぎると、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)のチクソトロピーが低下し、スクリーン印刷性が低下することがある。
【0019】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)で含有される無機微粒子(C)としては特に限定されず、例えば、銅、銀、ニッケル、パラジウム、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、CaO・Al2O3・SiO2系無機ガラス、MgO・Al2O3・SiO2系無機ガラス、LiO2・Al2O3・SiO2系無機ガラスの低融点ガラス、BaMgAl10O17:Eu、Zn2SiO4:Mn、(Y、Gd)BO3:Eu等の蛍光体、種々のカーボンブラック、金属錯体等が挙げられる。
【0020】
熱劣化することが知られている蛍光体等の無機微粒子としては、低温でも分解できるバインダーと組み合わせることで熱劣化を抑えたプロセスで焼結体を得ることが可能である。なかでも、蛍光体を用いることにより、PDP、FED(Field Emission Display)、SED(Surface Conduction Electron Emission Display)等の各種ディスプレイ装置の蛍光面形成に好適に用いることができる。
【0021】
上記無機微粒子(C)の含有量としては特に限定されないが、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)に対して、通常10〜50重量%である。50重量%を超えると、均一に分散させることが困難となることがあり、分散後も不安定である。また、10%未満であると、十分な色純度が得られないという問題が生じる。
【0022】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)の製造方法としては特に限定されず、従来公知の攪拌方法、具体的には例えば、3本ロール等で混練を行えばよい。
【0023】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)で、沸点が300℃未満の溶剤(B)、及び300℃未満で熱分解するポリオキシプロピレングリコール(A1)を用いた場合は低温焼成が可能となる。
ここで、焼成温度とは、窒素置換等をしない通常の空気雰囲気下で、バインダー初期重量の99.5%が失われる温度を意味し、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)の焼成温度は、通常250〜350℃、好ましくは250〜320℃である。焼成温度が低温であると、蛍光体が劣化しにくく、初期輝度低下の問題が生じないため有益である。
【0024】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)は、ブルックフィールドBS型回転粘度計で、回転数60rpmで測定したときの25℃の粘度η60rpmが、通常2〜10Pa・s、好ましくは3〜8Pa・s、さらに好ましくは4〜7Pa・sである。2Pa・s未満では塗工時タレを生じる問題があり、10Pa・sを超えるとムラが生じる。
【0025】
この粘度は、JIS K7117−1:1999「プラスチック−液状、乳濁状又は分散状の樹脂−ブルックフィールド形回転粘度計による見かけ粘度の測定法」で「付属書1(参考):SB形粘度計による粘度の測定方法」として記載されている測定機器と方法で測定する。このSB形粘度計は、改訂前のJIS K7117−1:1987で規定していたもので、現在も通常よく使われる粘度計である。
通常はSB3号スピンドルを用いて60rpmで測定する。3号スピンドルでは上限をオーバーするか下限を切る場合は適切なローターに変更して測定する。もし、使用する粘度計では60rpmの回転数が設定されていない場合は、これに最も近い回転数で代用する。
【0026】
さらに、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(D)を回転数6rpmで測定したときの粘度η6rpmと、前記の回転数60rpmで測定したときの粘度の比η60rpmとの比率η6rpm /η60rpmは、通常2.0以上、好ましくは2.1以上、さらに好ましくは2.2以上である。 2.0未満ではスクリーン印刷性が悪化する。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0028】
<製造例:高アイソタクティックなポリプロピレングリコールの合成>
(S)−プロピレンオキサイド120部とKOH30部を1Lのオートクレーブに入れ、室温で48時間攪拌して重合させた。得られた重合物を70℃に昇温して溶融し、KOHを水洗するため、トルエンを100部、水100部を加えて分液を3回繰り返した。そのトルエン相を、0.1mol/Lの塩酸で中和し、水100部を加えてさらに分液を3回行い、そのトルエン相からトルエンを留去することで白色固体のポリオキシプロピレングリコール(a1−1)を得た。
得られたポリプロピレングリコール(a1−1)は、水酸基価2.80mgKOH/g、融点57℃、アイソタクティシティ99%、数平均分子量Mn10,000であった。
【0029】
(実施例1)
製造例1で得られたアイソタクティックなポリプロピレングリコール(A−1)(数平均分子量15,000)を40重量部、有機溶剤としてテルピネオール20重量部配合し、高速攪拌装置にて均一になるまで混練し、バインダー樹脂組成物を作製した。
次に、無機微粒子として、蛍光体であるZn2SiO4:Mn(日亜化学工業社製、緑色蛍光体)を40重量部添加し、高速攪拌機にて混練後、3本ロールミルにてなめらかになるまで混練することにより、無機微粒子分散ペースト組成物(D−1)を作製した。
なお、ポリスチレン換算数平均分子量は、GPCにより測定し、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用いた。以下の実施例及び比較例も同様である。
【0030】
(比較例1)
アイソタクティックなポリプロピレングリコール(A−1)の代わりに通常のポリプロピレングリコール(A’−1)(数平均分子量15,000)を用いる以外は実施例1と同様にして、無機微粒子分散ペースト組成物(D’−1)を作製した。
【0031】
(比較例2)
アイソタクティックなポリプロピレングリコール(A−1)の代わりにメチルメタクリレート樹脂(A’−2)(数平均分子量10万)を用いる以外は実施例1と同様にして、無機微粒子分散ペースト組成物(D’−2)を作製した。
【0032】
(比較例3)
アイソタクティックなポリプロピレングリコール(A−1)の代わりにエチルセルロース(A’−3)(数平均分子量70,000)を用いる以外は実施例1と同様にして、無機微粒子分散ペースト組成物(D’−3)を作製した。
【0033】
<評価>
実施例1及び比較例1〜3で得られた無機微粒子分散ペースト組成物について以下の評価を行った。その結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
<粘度比率>
スクリーン印刷性の代替指標として、SB型回転粘度計を使って、6rpmと60rpmでのそれぞれの粘度の比で評価した。
得られた無機微粒子分散ペースト組成物を、予め25℃に温調しておき、BS形回転粘度計(東機産業社製、型番TV−10)と3号スピンドルを使用して回転数6rpmで測定した粘度η6rpmと60rpmで測定した粘度η60rpmを測定した。さらに得られた粘度から粘度比率η6rpm/η60rpmを求めた。
粘度比η6rpm/η60rpmが2.0以上であるものをスクリーン印刷性に優れるものと判断した。
【0036】
<焼成温度>
無機微粒子分散ペースト組成物の蛍光体を加える前のバインダーを熱重量/示差分析装置(SIIナノテクノロジー社製 EXSTAR6000)を用いて、空気雰囲気下にて昇温温度10℃/分で600℃まで加熱し、加熱減量が0.5%以下になる温度を焼成温度とした。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、チキソトロピー性に優れるため、蛍光体無機微粒子に適用することにより、PDP、FED、SED等の各種ディスプレイ装置で、スクリーン印刷性の経時変化が少なく、かつ、低温焼成が可能な蛍光面を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー(A)、有機溶剤(B)および無機微粒子(C)からなる無機微粒子分散ペースト組成物(D)であって、該バインダー(A)のアイソタクティシティが80%以上であるポリオキシプロピレングリコール(A1)であることを特徴とする無機微粒子分散ペースト組成物(D)。
【請求項2】
SB形回転粘度計で、回転数が60rpmで測定したときの25℃の粘度η60rpmが2〜10Pa・sであり、かつ回転数が6rpmで測定したときの粘度η6rpmとの比η6rpm/η60rpmが2.0以上である請求項1記載の無機微粒子分散ペースト組成物(D)。
【請求項3】
該ポリオキシプロピレングリコール(A1)の数平均分子量が3,000〜100,000のポリプロピレングリコールである請求項1または2記載の無機微粒子分散ペースト組成物(D)。
【請求項4】
該有機溶剤(B)の沸点が200〜300℃である請求項1〜3いずれか記載の無機微粒子分散ペースト組成物(D)。
【請求項5】
空気雰囲気下でバインダー初期重量の99.5%が失われる焼成温度が250〜320℃である請求項1〜4いずれか記載の無機微粒子分散ペースト組成物(D)。
【請求項6】
該無機微粒子(C)が、無機蛍光体であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の無機微粒子分散ペースト組成物(D)。

【公開番号】特開2009−191091(P2009−191091A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30063(P2008−30063)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】