説明

無機有機複合熱可塑性材料、その製造方法及び光学素子

【課題】 無機微粒子を光学材料等の各種樹脂材料中に容易に分散し、光学素子に対する影響の少ない無機有機複合熱可塑性材料の製造方法及び光学素子を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂に無機微粒子を含有した無機有機複合熱可塑性材料の製造方法が、該無機微粒子と少なくとも一つ以上の樹脂添加剤を、水、溶媒又は両者を混合した溶媒に分散して分散組成物を製造する工程1と、該分散組成物から、水、溶媒又は両者を混合した溶媒を除去する工程2と、該分散組成物に工程1で用いた樹脂添加剤とは異なる熱可塑性樹脂材料を混合する工程3を含む製造方法であって、かつ、工程1の後に、工程2、工程3の順、又は工程3、工程2の順、或いは工程2と工程3を同時、のいずれかの工程順で行うことを特徴とする無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路などとして好適に用いられ、屈折率の温度変化率が小さい無機有機複合熱可塑性材料、その製造方法およびそれを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より樹脂素材にたいして無機微粒子等のフィラーを混合することで、剛性、耐熱性等の物性改良が行われてきた。これは、高濃度のフィラーを分散したマスターバッチを使用することでも達成可能である。
【0003】
しかしながら、光学用の透明プラスチック材料に対しては、いまだ十分な検討がなされていない。これはフィラーの粒径が十分に小さいか、フィラーの屈折率を樹脂の屈折率にあわせなければ、樹脂の透明性が維持できないためである。
【0004】
無機微粒子を樹脂中に分散させることで、温度及び湿度に対する屈折率の安定性を向上させる記載(特願2003−171631号明細書 (段落番号0002〜0005))がある。これは無機微粒子を使用しない方法としては、樹脂材料のマトリクスを強化するために架橋剤等の添加物を混合する方法等が考えられるが、dn/dTを改良するのに充分な添加物は見付かっていない。これは例えばdn/dT<0であるホスト材料中にdn/dT>0である物質を混合することでdn/dTの絶対値を小さくする方法で、無機材料の中には、分子内配位の温度依存変化の結果dn/dT>0となるものがあることが知られているため、dn/dT<0である有機重合体からなるホスト材料中に、dn/dT>0である無機微粒子を混合することによりdn/dTの絶対値を小さくすることが可能という知見である。
【0005】
基本的に透明プラスチック材料に混合する無機微粒子は散乱の観点から、100nm以下でなくてはならない。好ましくは30nm以下更に好ましくは1〜10nmである。
【0006】
樹脂中に無機微粒子を分散することでdn/dTを目標値に合わせるとの考え方に基づく発明が記載されて(例えば、特許文献1〜7参照。)いる。ここで、無機微粒子の樹脂中への分散方法においては、二通りの方法が記載されている。ひとつは、混練機での分散。もうひとつは、共溶媒法である。
【0007】
混練機による分散では、無機微粒子に表面処理を行うことで凝集を抑制し、表面を親水性及び疎水性にすることで前記有機ホスト材料に混合している。しかしながらこの手段は、コストがかかることや、光学系に与える影響が大きいなどの理由より好ましくない。つまり、粒径が10nm程度の微粒子は表面積が大きく、十分な分散効果を与えるだけの表面処理剤は多量になるということである。また、その多量な表面処理剤が、伝達率、煙霧率、屈折率、温度における耐力強度、衝撃強度、耐ひっかき性、ガラス転移温度等光学物性に与える影響も無視できないということである。
【0008】
また、分散剤の使用も同様で、コア−シェルグラフト共重合体を使用することで無機微粒子分散を達成する記載(例えば、特許文献8参照。)がある。
【0009】
もうひとつの無機微粒子分散方法、いわゆる共溶剤法は有機ホスト材料と無機微粒子を相溶化する溶媒中で分散した後、溶媒除去する方法である。しかしながら、有機ホスト材料の溶媒への溶解性が低い、もしくは有機ホスト材料と無機微粒子の親和性が低い場合は溶媒除去する工程において有機ホスト材料と無機微粒子が分離する可能性がある。また、溶媒使用、溶媒除去工程によるコスト上昇ならびに環境負荷増大も問題となる。
【特許文献1】特開2002−207101号公報
【特許文献2】特開2002−241592号公報 (段落番号0002〜0011)
【特許文献3】特開2002−241560号公報
【特許文献4】特開2002−241569号公報
【特許文献5】特開2002−241612号公報
【特許文献6】特開2002−303701号公報
【特許文献7】特開2003−240901号公報
【特許文献8】特開平6−73192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、無機微粒子を光学材料等の各種樹脂材料中に容易に分散させることができ、光学素子に対する影響の少ない無機有機複合熱可塑性材料の製造方法及びそれを用いた光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
(請求項1)
熱可塑性樹脂に無機微粒子を含有した無機有機複合熱可塑性材料の製造方法が、該無機微粒子と少なくとも一つ以上の樹脂添加剤を、水、溶媒又は両者を混合した溶媒に分散して分散組成物を製造する工程1と、該分散組成物から、水、溶媒又は両者を混合した溶媒を除去する工程2と、該分散組成物に工程1で用いた樹脂添加剤とは異なる熱可塑性樹脂材料を混合する工程3を含む無機有機複合熱可塑性材料の製造方法であって、かつ、工程1の後に、工程2、工程3の順、又は工程3、工程2の順、或いは工程2と工程3を同時、のいずれかの工程順で行うことを特徴とする無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
(請求項2)
前記工程順が工程1、工程2、工程3の順番であることを特徴とする請求項1に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
(請求項3)
前記樹脂添加剤がヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工熱安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
(請求項4)
前記樹脂添加剤を前記熱可塑性樹脂材料に対して0.1〜20質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいづれか1項に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
(請求項5)
前記無機微粒子の1次粒径が1〜30nmであることを特徴とする請求項1〜4のいづれか1項に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
(請求項6)
請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする無機有機複合熱可塑性材料。
(請求項7)
請求項6に記載の無機有機複合熱可塑性材料を用いて製造されたことを特徴とする光学素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、無機微粒子を光学材料等の各種樹脂材料中に容易に分散させることができ、光学素子に対する影響の少ない無機有機複合熱可塑性材料の製造方法及びそれを用いた光学素子を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を更に詳しく説明する。本発明者は比較的粒子と親和性の高く、有機ホスト材料に容易に相溶する光劣化防止剤及び酸化防止剤と無機微粒子を先に混合することで、最終的に有機ホスト材料と無機微粒子の混合を行うことで上記問題解決した。従来有機ホスト材料に用いられている前記光劣化防止剤及び酸化防止剤は光学系に与える影響も少なく、比較的容易に入手が可能である。また、光劣化防止剤及び酸化防止剤と無機微粒子の有機無機複合体はペレット化することでマスターバッチとして用いることが可能である。更に、共溶媒法を用いて混合することが出来ない系においても、前記有機無機複合体を用いることによって容易に有機ホスト材料と無機微粒子を混合することが出来る。
【0014】
すなわち、本発明の製造方法によれば、低コストで光学素子に対する影響の少ないマスターバッチを提供できる。
【0015】
(熱可塑性樹脂)
本発明の熱可塑性樹脂のホスト材料が、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかである。
【0016】
本発明において用いる熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が80℃以上400℃以下であることが好ましく、100℃以上300℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃未満であると、十分な耐熱性が得られない恐れがあり、またガラス転移温度が400℃を超えると、成形加工する際に高温が必要となり、プロセス的に不利となるばかりでなく、材料が変色する等の問題が生じる恐れがある。
【0017】
本発明において用いる熱可塑性樹脂は、光線透過率が70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。光線透過率が70%未満であると、得られる熱可塑性材料組成物の光線透過率が70%未満となる恐れがある。なお本発明における光線透過率とは、樹脂を加熱成形して厚さ3.2mmの基板を作製し、ASTM D1003に従って得られる値である。
【0018】
本発明において用いる熱可塑性樹脂は、密度が0.9g/cm3以上2.0g/cm3以下が好ましく、0.9g/cm3以上1.5g/cm3以下がより好ましい。密度が2.0g/cm3を超えると、得られる熱可塑性材料組成物の密度が2.0g/cm3を超える恐れがある。
【0019】
本発明において用いる熱可塑性樹脂として、溶融成形が可能な熱可塑性樹脂を用いることにより、本発明の熱可塑性材料組成物として、溶融成形が可能な熱可塑性材料組成物を得ることができる。
【0020】
本発明における熱可塑性樹脂とは、ある温度範囲で加熱により軟化し、その軟化した状態で成形や押し出し等により製品加工ができることを示す。具体的には、例えば、加熱状態でプレスすることにより、0.1〜5000μm程度の厚さを有するフィルムを成形できる性能を有する。また、本発明における溶融成形が可能な熱可塑性樹脂とは、熱的に安定な温度域で溶融成形が可能な溶融粘度を有しており、押し出しや射出等により成形加工ができることを示す。具体的には、例えば、空気中において加熱により樹脂の5質量%が減少する温度、すなわち5%質量減少温度に比べ、1〜100パスカル・秒程度の溶融粘度を有する温度が30℃以上、好ましくは50℃以上低いことをいう。溶融成形性を有することにより、押し出し成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、積層成形等が可能となり、ディスク、ファイバー等の様々な成形体を得ることができる。
【0021】
本発明において用いる熱可塑性樹脂は、上述のガラス転移温度、光線透過率、密度、及び樹脂加工性(熱可塑性及び/または溶融成形性)をも満たす樹脂である。例えば、アクリル樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリカーボネート樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリエステル樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリエーテル樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリアミド樹脂、または環状脂肪族鎖を有するポリイミド樹脂等が挙げられる。より具体的には、例えば、表1記載の樹脂番号(1)〜(14)で示される構造骨格を有する樹脂を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
【表1】

【0023】
また、環状脂肪族鎖の一部を芳香環に置き換えた共重合体を用いることもでき、硫黄を結合鎖などに一部含んだチオカーボネートやチオエステル、チオエーテル等も好適に用いることができる。なお、芳香環や硫黄はアッベ数の低減を伴うことがあるので、本発明で提示している熱可塑性樹脂の光学特性を外れない範囲で選択することが重要である。
【0024】
本発明において用いる熱可塑性樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法を用いることもできる。また樹脂に含まれる不純物の種類及び量についても、特に制限されるものではないが、用途によっては不純物が本発明の効果を損なう恐れがあるので、総不純物量は1質量%以下、特にナトリウムや塩素などのイオン性不純物は0.5質量%以下であることが望ましい。
【0025】
本発明において用いる熱可塑性樹脂の分子量は、特に限定されるものではなく、用途や加工方法に応じ、任意の分子量とすることができるが、成形加工性を勘案すると、樹脂を0.5g/100ミリリットルの濃度で溶解可能な溶剤に溶解した後の35℃で測定した対数粘度の値が、0.1〜3.0デシリットル/gであることが好ましい。
【0026】
また、着色の抑制や溶融成形における流動性の改善などを目的として、メタノールやエタノールなどのモノアルコール類、フェノールやターシャリーブチルフェノールといった芳香族モノヒドロキシ化合物などの末端封止用化合物を併用してもよい。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂は、構成単位の繰り返しに特に制限はなく、交互構造、ランダム構造、ブロック構造等のいずれの場合でも良い。また、通常用いられる分子形状は線状であるが、分岐している形状を用いても良い。また、グラフト状でも良い。
【0028】
本発明で無機微粒子を分散する有機重合体としては、単量体として、(A)未置換または置換ノルボルネン(以下、「A成分」ということがある)単独か、あるいはノルボルネン類と(B)ジシクロペンタジエン類すなわち、ジシクロペンタジエンとそのアルキル置換体、および/またはジヒドロジシクロペンタジエン類すなわち、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエンおよびそのアルキル置換体(以下「B成分」ということがある)とを用いた開環重合体を好ましく使用できる。該開環重合体は、環状オレフィンの公知の開環重合法により製造することができる。そして、これら開環重合体の水素添加物は、通常の水素添加反応方法を利用して製造することができる。
【0029】
以下、該開環重合体の各構成要素について詳述する。
【0030】
(単量体)
本発明で用いるA成分は、未置換または置換ノルボルネンである。置換ノルボルネンとしては、5−メチル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネンなどのアルキル置換ノルボルネン、またはエチリデンノルボルネンなどのアルキリデン置換ノルボルネンがある。
【0031】
本発明で用いるB成分は、ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン、4,7−メタノ−2,3,3a,4,7,7a−ヘキサヒドロインデン、これらのメチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキル置換体である。
【0032】
これらの各単量体成分は、それぞれ単独で用いてもよく、また適宜混合して用いることもできる。
【0033】
本発明においては、上記A成分100〜10モル%、好ましくは90〜20モル%、および上記B成分0〜90モル%、好ましくは10〜80モル%の割合で使用される。
B成分の使用比率が上昇するにつれて機械的強度が上昇するが、あまり多過ぎると機械的強度の向上が不充分となり、しかも可撓性が低下する傾向が見られる。
【0034】
本発明においては、上記A成分およびB成分の他に、本発明の効果を実質的に妨げない範囲内において開環重合可能な他のシクロオレフィン類を使用することができる。使用可能なシクロオレフィンの具体例として、例えばシクロペンテン、シクロオクテン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエンなどのごとき反応性の二重結合を1個有する化合物が例示される。
【0035】
また、多環ノルボルネン系モノマーの中には反応性の二重結合を2個以上有する化合物も存在するが、そのような化合物の場合は重合体のゲル化を惹起しやすいので、できるだけ除去することが好ましい。
【0036】
さらに、重合に際しては、A成分およびB成分の他にブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、ブテン−2、ペンテン−2、1,4−ヘキサジエンなどの鎖状のモノオレフィン、鎖状の非共役ジオレフィン類を分子量調節のために10モル%程度までの範囲で添加してもよい。
【0037】
(重合触媒)
これらの単量体の開環重合体は、通常のノルボルネン類の重合法により製造されるが、重合触媒としては、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などのごとき白金族金属化合物(例えば、特公昭46−14910号)または、チタン、バナジウム、モリブデン、タングステンなどの遷移金属化合物と周期律表第I〜IV族の有機金属化合物の系などが挙げられ、この触媒系に第三級アミンなどの第三成分を組み合わせてもよい(例えば、特公昭41−20111号、特公昭57−17883号、特公昭57−61044号、特開昭54−86600号、特開昭58−127728号公報など)。
【0038】
重合触媒は、これらの単量体の開環重合が可能な金属化合物であれば特に制限されないが、好ましくは、四ハロゲン化チタンなどの遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物などの有機金属を含む触媒系あるいは、これに脂肪族または芳香族第三級アミンなどの第三成分を組み合わせた触媒系である。
【0039】
(無機微粒子)
本発明において用いる無機微粒子の1次粒径は、1〜30nmであるが、好ましくは1nm以上10nm以下である。1nm未満だと粒子の分散が困難であるため所望の性能が得られない恐れがあり、また1次粒径が30nmを超えると、得られる熱可塑性材料組成物が濁るなどして透明性が低下し、光線透過率が70%未満となる恐れがある。ここでいう平均粒子直径は粒子と同体積の球に換算した時の直径を言う。
【0040】
本発明において用いる無機微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、好適には球状の微粒子が用いられる。また、粒子径の分布に関しても特に制限されるものではないが、本発明の効果をより効率よく発現させるためには、広範な分布を有するものよりも、比較的狭い分布を持つものが好適に用いられる。
【0041】
本発明において用いる無機微粒子のdn/dTは正の方向であることが好ましく、無機微粒子のdn/dT値が−5×10-5以上が好ましい。
【0042】
本発明において用いる無機微粒子としては、例えば、酸化物微粒子、硫化物微粒子、セレン化物微粒子、テルル化物微粒子、燐化物、複酸化物微粒子、オキソ酸塩微粒子、複塩微粒子、錯塩微粒子等が挙げられる。より具体的には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム等、これら酸化物との組み合わせで形成されるリン酸塩、硫酸塩等、硫化亜鉛、硫化カドミウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
また、本発明に係る無機微粒子として用いることのできる半導体結晶組成物は、特に制限はないが、光学素子として使用する波長領域において吸収、発光、蛍光等が生じないものが望ましい。具体的な組成例としては、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表第14族元素の単体、リン(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、セレン、テルル等の周期表第16族元素の単体、炭化ケイ素(SiC)等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、酸化錫(IV)(SnO2)、硫化錫(II,IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(Ga2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII−VI族化合物半導体)、硫化砒素(III)(As23)、セレン化砒素(III)(As2Se3)、テルル化砒素(III)(As2Te3)、硫化アンチモン(III)(Sb23)、セレン化アンチモン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi23)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)、テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化銅(I)(Cu2O)、セレン化銅(I)(Cu2Se)等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化ニッケル(II)(NiO)等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、四酸化三鉄(Fe34)、硫化鉄(II)(FeS)等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化マンガン(II)(MnO)等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化モリブデン(IV)(MoS2)、酸化タングステン(IV)(WO2)等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(IV)(VO2)、酸化タンタル(V)(Ta25)等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化チタン(TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等)等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr24)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr2Se4)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr24)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCr2Se4)等のカルコゲンスピネル類、バリウムチタネート(BaTiO3)等が挙げられる。なお、G.Schmidら;Adv.Mater.,4巻,494頁(1991)に報告されている(BN)75(BF21515や、D.Fenskeら;Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,29巻,1452頁(1990)に報告されているCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0044】
(樹脂添加剤)
本発明に使用される樹脂添加剤は様々な種類の添加剤を単独で又は組合せて使用してもよい。本発明で用いられる添加剤には、白化剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、着色剤、耐衝撃性改良剤、増量剤、帯電防止剤、離型剤、発泡剤、加工助剤などの物質がある。組成物に配合し得る各種添加剤は一般に用いられており、当業者に公知である。かかる添加剤の具体例は、R.Gachter及びH.Muller,Plastics Additives Handbook,4th edition,1993に記載されている。
【0045】
またその範囲は発明に記載の効果を損なわない範囲で適宜使用可能である。
本発明では重合体に可塑剤又は酸化防止剤が含まれているのが好ましい。これらの重合体に対して含有される樹脂添加剤は最終的に熱可塑性樹である重合体、製造過程、成形過程等により適宜選択されるが、特に熱可塑性樹脂に対する質量%で0.1〜10質量%が好ましい。以下に各樹脂添加剤の中で主なものの具体例を挙げるが、これらに限定はされない。
【0046】
(可塑剤)
可塑剤としては、特に限定はないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を挙げることができる。
【0047】
リン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジフェニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等、トリメリット酸系可塑剤では、例えば、トリブチルトリメリテート、トリフェニルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等、ピロメリット酸エステル系可塑剤では、例えば、テトラブチルピロメリテート、テトラフェニルピロメリテート、テトラエチルピロメリテート等、グリコレート系可塑剤では、例えば、トリアセチン、トリブチリン、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等、クエン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリ−n−(2−エチルヘキシル)シトレート等を挙げることができる。
【0048】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成形時の酸化劣化等によるレンズの着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明に係る重合体100質量部に対して好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0049】
フェノール系酸化防止剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレートなどの特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリトリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)などのアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール系化合物;などが挙げられる。
【0050】
リン系酸化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス−(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが特に好ましい。
【0051】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0052】
(耐光安定剤)
耐光安定剤としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤などが挙げられるが、本発明においては、レンズの透明性、耐着色性等の観点から、ヒンダードアミン系耐光安定剤を用いるのが好ましい。ヒンダードアミン系耐光安定剤(以下、HALSと記す。)の中でも、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いたGPCにより測定したポリスチレン換算のMnが1,000〜10,000であるものが好ましく、2,000〜5,000であるものがより好ましく、2,800〜3,800であるものが特に好ましい。Mnが小さすぎると、該HALSをブロック共重合体に加熱溶融混練して配合する際に、揮発のため所定量を配合できなかったり、射出成形等の加熱溶融成形時に発泡やシルバーストリークが生じるなど加工安定性が低下する。また、ランプを点灯させた状態でレンズを長時間使用する場合に、レンズから揮発性成分がガスとなって発生する。逆にMnが大き過ぎると、ブロック共重合体への分散性が低下して、レンズの透明性が低下し、耐光性改良の効果が低減する。したがって、本発明においては、HALSのMnを上記範囲とすることにより加工安定性、低ガス発生性、透明性に優れたレンズが得られる。
【0053】
このようなHALSの具体例としては、N,N′,N″,N′″−テトラキス−〔4,6−ビス−{ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ}−トリアジン−2−イル〕−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、1,6−ヘキサンジアミン−N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、ポリ〔(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕などの、ピペリジン環がトリアジン骨格を介して複数結合した高分子量HALS;コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールと3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物などの、ピペリジン環がエステル結合を介して結合した高分子量HALS等が挙げられる。
【0054】
これらの中でも、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物などのMnが2,000〜5,000のものが好ましい。
【0055】
本発明の樹脂材料に対する上記配合量は、重合体100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.02〜15質量部、特に好ましくは0.05〜10質量部である。添加量が少なすぎると耐光性の改良効果が十分に得られず、屋外で長時間使用する場合等に着色が生じる。一方、HALSの配合量が多すぎると、その一部がガスとなって発生したり、樹脂への分散性が低下して、レンズの透明性が低下する。
【0056】
また、本発明の樹脂材料に、更に最も低いガラス転移温度が30℃以下である化合物を配合することにより、透明性、耐熱性、機械的強度などの諸特性を低下させることなく、長時間の高温高湿度環境下での白濁を防止できる。
【0057】
《光学用樹脂レンズの作製方法》
次いで、本発明の光学素子の一つである光学用樹脂レンズの作製方法について説明する。
【0058】
本発明に係る光学用樹脂レンズは、まず、樹脂組成物(樹脂単独の場合もあれば、樹脂と添加剤との混合物の場合もある)を調製し、次いで、得られた樹脂組成物を成形する工程を含む。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂材料の成形物は、前記樹脂組成物からなる成形材料を成形して得られる。成形方法としては、格別制限されるものはないが、低複屈折性、機械強度、寸法精度等の特性に優れた成形物を得る為には溶融成形が好ましい。溶融成形法としては、例えば、市販のプレス成形、市販の押し出し成形、市販の射出成形等が挙げられるが、射出成形が成形性、生産性の観点から好ましい。
【0060】
成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば、射出成形における樹脂組成物(樹脂単独の場合または樹脂と添加物との混合物の両方がある)の温度は、成形時に適度な流動性を樹脂に付与して成形品のヒケやひずみを防止し、樹脂の熱分解によるシルバーストリークの発生を防止し、更に、成形物の黄変を効果的に防止する観点から150℃〜400℃の範囲が好ましく、更に好ましくは200℃〜350℃の範囲であり、特に好ましくは200℃〜330℃の範囲である。
【0061】
本発明に係る成形物は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態で使用することができ、また、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性、低吸水性に優れるため、本発明の光学素子の一つである光学用樹脂レンズとして用いられるが、その他の光学部品としても好適である。
【0062】
《光学用樹脂レンズ》
本発明に係る光学用樹脂レンズは、上記の作製方法により得られるが、光学部品への具体的な適用例としては、以下のようである。
【0063】
例えば、光学レンズや光学プリズムとしては、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズなどのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などの光ディスクのピックアップレンズ;レーザビームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザ走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズなどが挙げられる。
【0064】
光ディスク用途としては、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などが挙げられる。その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板などが挙げられる。
【0065】
これらの中でも、低複屈折性が要求されるピックアップレンズやレーザ走査系レンズとして好適であり、ピックアップレンズに最も好適に用いられる。
【0066】
《無機微粒子の製造方法、表面修飾》
本発明において用いる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。この際、微粒子の安定化のために有機酸や有機アミンなどを併用する方法も用いられる。より具体的には、例えば、二酸化チタン微粒子の場合、ジャーナル・オブ・ケミカルエンジニアリング・オブ・ジャパン第1巻1号21−28頁(1998年)や、硫化亜鉛の場合は、ジャーナル・オブ・フィジカルケミストリー第100巻468−471頁(1996年)に記載された公知の方法を用いることができる。例えば、これらの方法に従えば、平均粒子直径5nmの酸化チタンはチタニウムテトライソプロポキサイドや四塩化チタンを原料として、適当な溶媒中で加水分解させる際に適当な表面修飾剤を添加することにより容易に製造することができる。また平均粒子直径40nmの硫化亜鉛はジメチル亜鉛や塩化亜鉛を原料とし、硫化水素あるいは硫化ナトリウムなどで硫化する際に、表面修飾剤を添加することにより製造することができる。
【0067】
以上のようなクラスターからのボトムアッププロセスによる無機ナノ粒子の作製以外にも無機微粒子を粉砕することでナノ粒子を作製するトップダウンプロセスも提案されている。具体的に使用する粉砕機としてはウルトラアペックスミル(コトブキ技研社製);カウンタージェットミル、ミクロンジェット、イノマイザ(ホソカワミクロン社製);IDS型ミル、PJMジェット粉砕機(日本ニューマチック工業社製);クロスジェットミル(栗本鉄工所社製);ウルマックス(日曹エンジニアリング社製);SKジェット・オー・ミル(セイシン企業社製);クリプトロン(川崎重工業社製);ターボミル(ターボ工業社製);スーパーローター(日清エンジニアリング社製)等があげられる。
【0068】
《樹脂添加剤と無機微粒子の混合》
本発明における樹脂添加剤と無機微粒子の混合はそれぞれ独立して製造し、その後に混合する方法や、予め作製した樹脂添加剤が存在する条件で無機微粒子を作製する方法、予め作製した無機微粒子が存在する条件で樹脂添加剤を作製する方法、樹脂添加剤と無機微粒子を同時に作製する方法など、いずれの方法をも使用できる。例えば、樹脂添加剤が溶解溶液中に、無機粒子を混合し、必要に応じて無機微粒子の粉砕等を行った後、溶媒を減圧乾燥等で除去する方法である。溶媒除去の方法は減圧によるものが望ましいが、特に限定はされない。それ以外では、例えば溶液状態変化による溶解度変化による析出方法等が挙げられる。
【0069】
(混合の程度)
上記記載の樹脂添加剤と分散剤の混合の程度は特に限定されないが、市販の混合機を使用することで本発明の効果が効率よく発現できる。具体的な混合機としてはヘンシェルミキサー(三井鉱山社製);スーパーミキサー(カワタ社製);リボコーン(大川原製作所社製);タービュライザー、サイクロミックス(ホソカワミクロン社製);スパイラルピンミキサー(太平洋機工社製);レーディゲミキサー(マツボー社製)等が上げられる。
【0070】
混合の程度が不十分の場合には、特に屈折率やアッベ数、光線透過率などの光学特性に影響を及ぼすことが懸念され、また熱可塑性や溶融成形性などの樹脂加工性にも悪影響する恐れがある。混合の程度は、その作製方法に影響されることが考えられ、用いる熱可塑性樹脂及び無機微粒子の特性を十分に勘案して、方法を選択することが重要である。熱可塑性樹脂と無機微粒子の両者がより均一に混合するために、熱可塑性樹脂と無機微粒子を直接結合させる方法等も、本発明において好適に用いることができる。
【0071】
本発明の熱可塑性材料組成物は、高屈折性、低分散性(高いアッベ数)、耐熱性、光線透過性、軽量性、成形加工性を併せ持ち、さらには屈折率を任意に調節できる、光学特性に優れた熱可塑性材料組成物であり、光学用部品に好適に使用できる。
【0072】
本発明の熱可塑性材料組成物を含んで構成される光学部品に特に制限はなく、例えば、部品の一部あるいは全部に使用することができ、高屈折性と低分散性が必要とされる部品、高い透明性を必要とされる部品、あるいは透明性と高屈折性を必要とされる部品等が挙げられる。また、任意に屈折率を調節できるため、例えば光ファイバーや光導波路、一部のレンズのように、異なる屈折率を併用したり、屈折率に分布を必要とする光学用部品にも好適に用いることができる。より具体的には、例えば、レンズ(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、CDピックアップ用レンズ、自動車用ランプレンズ、OHP用レンズ等)、光ファイバー、光導波路、光フィルター、光学用接着剤、光ディスク基盤、ディスプレー基盤、コーティング材、プリズム等が挙げられる。
【0073】
(無機微粒子及び樹脂添加剤マスターバッチと熱可塑性樹脂の混合)
基本的には、混練装置による混合が望ましい。具体的な混練機としては、KRCニーダー(栗本鉄工所社製);ポリラボシステム(HAAKE社製);ナノコンミキサー(東洋精機製作所社製);ナウターミキサーブス・コ・ニーダー(Buss社製);TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製);ニーデックス(三井鉱山社製);MS式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製);バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)が挙げられる。
【0074】
(樹脂添加剤を分散する溶媒)
用いられる有機溶媒は特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素類(例えばシクロヘキサン、n−ヘキサン、n−テトラデカン、スクワラン)、芳香族炭化水素類(例えばベンゼン、トルエン、キシレン)、アルコール類(例えばエタノール、イソプロピルアルコール)、エーテル類(例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)、アルデヒド類(例えばジメチルホルムアルデヒド)、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、エステル類(例えば酢酸エチル)、ハロゲン化炭化水素類(例えばクロロホルム、ジクロロメタン)等を挙げることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
実施例1
〔成形体1の作製〕
日本アエロジル社製の気相法SiO2 R976(平均粒径約7nm)14gをキシレン150g中に添加した。その後チバ・スペシャリティケミカル社製ヒンダードフェノール系樹脂添加剤IRGANOX1010を4g添加し、分散液1を作製した。
【0077】
その後、上記分散液1を40℃、1333Paで減圧蒸留を行い固形物1を得た。
【0078】
次にHAAKE社製混練装置を用いて設定温度200℃、30rpmで5分間混練を行なった。混練は、下記の素材を一括でミキサーに添加し行なった。
樹脂:ZEONEX480R(日本ゼオン社製) 38g
無機粒子:上記固形物1(樹脂中での含有率31質量%) 17.28g
得られた混練物を直径10mmの円盤状で、厚さ3mmの形に射出成形した。得られた樹脂組成成形体を成形体1とした。
【0079】
実施例2
〔成形体2の作製〕
日本アエロジル社製の気相法SiO2 R976(平均粒径約7nm)14gをキシレン150g中に添加した。その後チバ・スペシャリティケミカル社製ヒンダードフェノール系樹脂添加剤IRGANOX1010を4g添加し、分散液2を作製した。
【0080】
次に二軸押し出し機(東洋精機製作所製)を用いて混練を行った。混練は、下記の素材を一括でミキサーに添加し行なった。混練の際、機械全体を200℃、1333Paの減圧環境にして、溶媒類を除去した。
樹脂:ZEONEX480R(日本ゼオン社製) 38g
無機粒子:上記分散液2 66g
得られた混練物を直径10mmの円盤状で、厚さ3mmの形に射出成形した。得られた樹脂組成成形体を成形体2とした。
【0081】
実施例3
〔成形体3の作製〕
日本アエロジル社製の気相法SiO2 A50(平均粒径約30nm)14gをキシレン150g中に添加した。その後チバ・スペシャリティケミカル社製リン系酸化防止剤IRGAFOS168を4g添加し、分散液3を作製した。
【0082】
その後、上記分散液1を40℃、1333Paで減圧蒸留を行い固形物3を得た。
【0083】
次にHAAKE社製混練装置を用いて設定温度200℃、30rpmで5分間混練を行なった。
【0084】
混練は、下記の素材を一括でミキサーに添加し行なった。
樹脂:ZEONEX480R(日本ゼオン社製) 38g
無機粒子:上記固形物3(樹脂中での含有率31質量%) 17.28g
得られた混練物を直径10mmの円盤状で、厚さ3mmの形に射出成形した。得られた樹脂組成成形体を成形体3とした。
【0085】
実施例4
〔成形体4の作製〕
日本アエロジル社製の気相法SiO2 A50(平均粒径約30nm)14gをメチルエチルケトン150g中に添加した。このとき1mol%の硝酸水溶液でpHを調整しながら操作を行った。その後旭工業株式会社製ヒンダードアミン系光安定剤アデカスタブLA−68を4g添加し、分散液4を作製した。
【0086】
その後、上記分散液4を40℃、1333Paで減圧蒸留を行い固形物4を得た。
次にHAAKE社製混練装置を用いて設定温度200℃、30rpmで5分間混練を行なった。
【0087】
混練は、下記の素材を一括でミキサーに添加し行なった。
樹脂:ZEONEX480R(日本ゼオン社製) 38g
無機粒子:上記固形物4(樹脂中での含有率31質量%) 17.28g
得られた混練物を直径10mmの円盤状で、厚さ3mmの形に射出成形した。得られた樹脂組成成形体を成形体4とした。
【0088】
実施例5
〔成形体5の作製〕
日本アエロジル社製の気相法SiO2 A50(平均粒径約30nm)14gをメチルエチルケトン150g中に添加した。このとき1mol%の硝酸水溶液でpHを調整しながら操作を行った。その後チバ・スペシャリティケミカル社製ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤TINUVIN326 FLを4g添加し、分散液5を作製した。
【0089】
その後、上記分散液5を40℃、1333Paで減圧蒸留を行い固形物5を得た。
【0090】
次にHAAKE社製混練装置を用いて設定温度200℃、30rpmで5分間混練を行なった。
【0091】
混練は、下記の素材を一括でミキサーに添加し行なった。
樹脂:ZEONEX480R(日本ゼオン社製) 38g
無機粒子:上記固形物5(樹脂中での含有率31質量%) 17.28g
得られた混練物を直径10mmの円盤状で、厚さ3mmの形に射出成形した。得られた樹脂組成成形体を成形体5とした。
【0092】
比較例1
〔成形体6の作製〕
HAAKE社製混練装置を用いて設定温度200℃、30rpmで5分間混練を行なった。混練は、下記の素材を一括でミキサーに添加し行なった。
樹脂:ZEONEX480R(日本ゼオン社製) 41g
無機粒子:日本アエロジル社製の気相法SiO2 R976(平均粒径約7nm)
(樹脂中での含有率31質量%) 18g
得られた混練物を直径10mmの円盤状で、厚さ3mmの形に射出成形した。得られた樹脂組成成形体を成形体6とした。
【0093】
比較例2
〔成形体7の作製〕
日本アエロジル社製の気相法SiO2 R976を東ソーシリカ社製のSiO2(平均粒径約200nm)に変えた以外は比較例1と同様して成形体7を作製した。
【0094】
(評価)
得られた成形体1〜7について、それぞれ以下の測定を行い、結果を表2に示す。
【0095】
(光線透過率の測定)
上記成形体の光線透過率を(株)島津製作所製、分光光度計UV−3150を用いて測定した。それぞれの成形体の厚さ方向(3mm厚)に対する波長587.5nmにおける透過率を測定した。
【0096】
(線膨張係数の測定)
(株)リガク製CN8098F1を用いて、熱機械的分析法(TMA)により上記成形体の線膨張係数を測定した。なお測定前に90℃1時間アニール処理を行った後、70℃の線膨張係数を計測した。
【0097】
(dn/dTの測定)
上記作製した成形体を切断し、厚さ0.5mmの試験用プレートをそれぞれ作製した。その後、アッベ屈折計(アタゴ社製DR−M2)を用い波長588nmで測定温度を10℃から30℃変化させて屈折率を測定し、屈折率の温度変化率dn/dTを求めた。
【0098】
なお、表中の微粒子屈折率は微粒子と同じ組成のバルク状態でのd線波長における屈折率であり、文献値である。
【0099】
【表2】

【0100】
表2に記載の結果より明らかな様に、本発明の樹脂組成物成形体は線膨張係数およびdn/dTが小さく、かつ光線透過率が高いことから、光学素子に使用する樹脂組成物として極めて有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に無機微粒子を含有した無機有機複合熱可塑性材料の製造方法が、該無機微粒子と少なくとも一つ以上の樹脂添加剤を、水、溶媒又は両者を混合した溶媒に分散して分散組成物を製造する工程1と、該分散組成物から、水、溶媒又は両者を混合した溶媒を除去する工程2と、該分散組成物に工程1で用いた樹脂添加剤とは異なる熱可塑性樹脂材料を混合する工程3を含む無機有機複合熱可塑性材料の製造方法であって、かつ、工程1の後に、工程2、工程3の順、又は工程3、工程2の順、或いは工程2と工程3を同時、のいずれかの工程順で行うことを特徴とする無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
【請求項2】
前記工程順が工程1、工程2、工程3の順番であることを特徴とする請求項1に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂添加剤がヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工熱安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂添加剤を前記熱可塑性樹脂材料に対して0.1〜20質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいづれか1項に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
【請求項5】
前記無機微粒子の1次粒径が1〜30nmであることを特徴とする請求項1〜4のいづれか1項に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機有機複合熱可塑性材料の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする無機有機複合熱可塑性材料。
【請求項7】
請求項6に記載の無機有機複合熱可塑性材料を用いて製造されたことを特徴とする光学素子。

【公開番号】特開2006−160779(P2006−160779A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349533(P2004−349533)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】