説明

無機止血剤と他の止血剤との組み合わせ物

商業的に入手可能な幾つかの止血用包帯は、過剰な失血が起こる前に止血が行われるように、創傷をしっかりシールすることによって機能する。創傷をシールするが、実際には凝固メカニズムを速めない止血用包帯には、キトサンとキチンをベースとする包帯がある。化学修飾セルロースをベースとする止血用ガーゼも商業的に入手可能である。これらの包帯やガーゼは、種々の無機物質(例えば、ゼオライト粉末、シリカ粉末、及び/又は珪藻土粉末)と組み合わせて使用すると相乗効果を示す。無機物質が接触凝固メカニズムを活性化する一方で、バイオポリマー成分が創傷に結合して、過剰な失血を防ぐ、ということが見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固剤/医療器具、および動物とヒトの出血を抑える方法に関する。さらに詳細には、本発明は、出血(大量出血を含む)を抑えるために、キトサン及び/又は他の親水性ポリマーを含む生体適合物質(ここでは「組み合わせ物質(COMBINATION MATERIAL)」と呼ぶ)と多くの異なった無機物質とを組み合わせることの有効性に関する。本発明の組み合わせ物質はポリアクリル酸を含有してよく、このとき他のポリマーを含有してもしなくてもよい。本発明の血液凝固剤/医療器具は、凝固プロセスを速めて創傷部位に癒着させ、創傷をシールし、創傷部位での血塊の形成を速め、創傷部位における血塊の形成を強化し、そして創傷部位からの血液の流れを防止することによって、創傷から血液の流れを実質的に止めるように機能する。
【背景技術】
【0002】
血液は、液相中に分散した状態の赤血球、白血球、小体、および血小板を含む液体組織である。この液相は血漿であり、酸、脂質、可溶化電解質、およびタンパク質を含む。タンパク質は液相中に懸濁しており、種々の方法(例えば、濾過法、遠心分離法、電気泳動法、および免疫化学的方法)のいずれかによって液相から分離することができる。液相中に懸濁している特定のタンパク質の1つがフィブリノゲンである。出血が起こると、フィブリノゲンが水およびトロンビン(酵素)と反応してフィブリンが形成される。フィブリンは、水に対して不溶性であって、重合して血塊を形成する。
【0003】
さまざまな状況において、動物(ヒトを含む)は負傷することがある。こうした負傷には、しばしば出血がつきものである。場合によっては、創傷と出血が軽微であって、出血を止める上で、それほどの外的手当てを施さなくても通常の血液凝固作用が働く。不幸にも、他の状況では、相当の出血が起こることがある。これらの状況では通常、特殊化された器具や物質だけでなく、適切な手当てを施すよう訓練された人材が必要とされる。このような手当てが速やかになされなければ、過剰な失血が起こることがある。出血がひどい場合、器具と訓練された人材の速やかな利用が可能であっても、時として血液の流れをタイムリーに止めるのにはまだ不十分である。さらに、非常に遠隔な地域において、あるいは十分な医療扶助がすぐには得られないような戦場などの状況においては重傷を負うことがある。このような場合、それほど重くはない創傷であっても、負傷した人や動物が医療を十分に長く受けることができるように、出血を止めることが重要である。さらに、負傷した人が通常の活動を再開できるように、より軽微な創傷であってもその凝固を速めることが望ましい。
【0004】
上記の問題点に対処すべく、通常の手当てを施すことができないか、あるいは当該手当てがそれほど有効とは言えない状況において過剰な出血を抑えるための物質が開発されている。これらの物質は、ある程度は奏功することが示されているが、外傷性創傷に対しては十分に有効であるとは言えず、コストのかかる傾向がある。これらの物質はさらに、全ての状況において効果がない場合があり、創傷に施すのが困難であるだけでなく、創傷から取り除くのも困難である場合がある。さらに、あるいはこれとは別に、一部の物質(特に、有機物由来の物質)は、望ましくない副作用を引き起こすことがある。
【0005】
血液中での血塊の形成を促進するための組成物が開発されている。このような組成物は、ゼオライトと結合剤を含有する組成物を含む。活性化ゼオライトの使用が、Hurseyらによる米国特許第4,822,349号明細書によって開示された。血液の凝固においてこれらの活性化ゼオライトを使用すると、発熱が起こるということがわかり、こうした発熱は、焼灼効果をもたらすだけでなく、血液の凝固を増大させる上でも重要である、とHurseyらは述べている。米国特許出願公開第2005/0074505A1号明細書には、かなり高いレベルにまでカルシウムイオンと交換されているゼオライトの使用が開示されている。現在、粘土結合カルシウム交換ゼオライトAが、出血に対する止血剤として、Z−Medicaから活性化形で市販されている。ある場合には、このカルシウム交換ゼオライトAは、使用時に望ましくない発熱作用を示すことが報告されている。
【0006】
現在市販されている止血用包帯(例えば、コラーゲン創傷包帯やフィブリン−トロンビン創傷包帯)は、外科手術用途での使用に限定されており、高血流量での溶解に対して十分な抵抗性をもたない。現在市販されている止血用包帯はさらに、激しい血流を止めるという実用目的にかなうだけの十分な止血特性をもたない。現在入手可能なこれらの外科向け止血用包帯はさらに、取り扱いに注意が必要であり、折り曲げたり、圧力を加えて荷積みしたりすると、破損しやすい。これらの外科向け止血用包帯はさらに、出血性出血(hemorrhagic bleeding)において溶解しやすい。包帯のこうした溶解と崩壊が起こると、最悪の状況となる。なぜなら、創傷に対する密着性が失われ、出血が弱まらないで続くことがあるからである。Campbellらによって公開された最近の特許出願〔米国特許出願公開第2005/0137512号(該特許出願の全開示内容を参照により本明細書に援用するものとする)〕には、創傷をシールして出血を実質的に止めるように機能する親水性ポリマー(例えばキトサン)を含む創傷包帯が開示されている。この創傷包帯は、本発明との関連で試験すると、創傷をシールするように機能するが、血液の凝固を強化することができないということがわかった。
【0007】
血塊の形成は複雑なプロセスである。凝固を理解する際には、幾つかの原理が役に立つ。凝固タンパク質は通常、不活性の前駆体として普通に循環している。凝固には一連の活性化反応が関与しており、これらの活性化反応が順に次のレベルの反応の触媒として作用し、従ってしばしば“凝固カスケード”と呼ばれる。反応プロセス中、これらのタンパク質とフィブリン塊自体は、かなり不安定であって水溶性である。凝固のまさに最終局面まで、この不安定な状態が続く。さらに、凝固タンパク質が存在しなければ(あるいは限定された量においては)〔あるいは抗凝固剤(すなわちヘパリン)の存在下では〕、凝固は、遅れるか又は長引くことになる。しかしながら最終的には、フィブリン(血塊のもと)が形成されるであろう。これは、フィブリノゲン(凝固タンパク質の1種)の開裂を伴って起こる。最後に、因子XIII(安定化因子)が、トロンビンによって活性化されて架橋フィブリンを生成する。架橋フィブリンは、その形成時においてかなり難溶性であって且つ安定である。本発明において開示しているように、特定の状況では、このプロセスを促進させるのが極めて望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,822,349号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0074505号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0137512号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の概要
本発明は、出血(特に、生命を脅かす激しい出血)を抑えるための応急/一次介入の創傷処置に関する。生命にかかわる激しい出血(だけでなくそれほど激しくはない出血)を抑えるのに適した低コストの創傷包帯が求められている。特に戦場(全死亡のほぼ50%が、激しい出血を直ちに抑えることができないことに関係している)においてこのタイプの包帯が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、創傷部位に密着し、創傷をシールし、創傷部位における血塊の形成を大幅に促進し、創傷部位での血塊形成を強化し、創傷部位からの血液流出を防止し、そして血液が創傷部位から流出するのを実質的に妨げることによって、創傷からの生命を脅かす出血の流れを実質的に止めることができる。親水性ポリマー(例えばキトサン)と無機粉末(例えば、ゼオライト、珪藻土、又はシリカ粉末)とを組み合わせると、改良された止血用器具が得られる、ということが見出された。他の有効な無機粉末も使用することができる。親水性ポリマーとしては、アルギン酸塩、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリシン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラゲーナン、第四アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、澱粉、変性セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロナン、又はこれらの組み合わせ物などがある。澱粉は、アミラーゼ、アミロペクチン、およびアミロペクチンとアミラーゼとの組み合わせ物のいずれであってよい。親水性ポリマーはキトサンであるのが好ましい。キトサンは、少なくとも100kDaの重量平均分子量を有するのが好ましい。キトサンは、少なくとも150kDaの重量平均分子量を有するのがさらに好ましい。キトサンは、少なくとも300kDaの重量平均分子量を有するのが最も好ましい。
【0011】
医療器具はさらに、活性成分を含んでよい。活性成分としては、カルシウム、トロンビン、因子VIIa、因子XIII、トロンボキサンA2、プロスタグランジン−2a、上皮細胞成長因子、血小板由来成長因子、フォンウィルブランド因子、腫瘍壊死因子(TNF)、TNF−α、トランスフォーミング成長因子(TGF)、TGF−α、TGF−β、インスリン様成長因子、線維芽細胞成長因子、ケラチノサイト成長因子、神経成長因子、ペニシリン、アンピシリン、メチシリン、アモキシシリン(amoxycillin)、クラバモックス、クラブラン酸、アモキシシリン(amoxicillin)、アズトレオナム、イミペネム、ストレプトマイシン、カナマイシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、バンコマイシン、クリンダマイシン、エイスロマイシン、ポリミキシン、バシトラシン、アンフォテリシン、ナイスタチン、リファンピシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、クロラムフェニコール、およびこれらの組み合わせ物などがあるが、これらに限定されない。
【0012】
他の実施態様においては、親水性ポリマースポンジと、前記ポリマースポンジの内部及び/又は表面に存在する湿潤性ポリマーマトリックスとを含む、出血抑制用の圧縮コンポジットスポンジが、ゼオライト粉末、珪藻土粉末、又はシリカ粉末等の無機粉末を含む状態で提供される。親水性ポリマーとしては、アルギン酸塩、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリシン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラゲーナン、第四アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、澱粉、変性セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロナン、又はこれらの組み合わせ物などがある。澱粉は、アミラーゼ、アミロペクチン、およびアミロペクチンとアミラーゼとの組み合わせ物のいずれであってもよい。
【0013】
湿潤性ポリマーとしては、不織マット、織ったマット、成形ポリマーメッシュ、および低密度スポンジなどがある。湿潤性ポリマーとしては、キチン、アルギン酸塩、中和キトサン、再アセチル化キトサン、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β−ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサノン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリフォスファゼン、ポリエチレン、ポリプロピレン、メタロセンポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルポリマー、ポリエステル、ポリアミド、およびこれらの組み合わせ物などがあるが、これらに限定されない。親水性ポリマーはキトサンであるのが好ましい。
【0014】
多くの無機物質が血液の凝固を促進するということがわかった。特に、APTT臨床試験における血小板低含量血漿の凝固、またはACT臨床試験における全血の凝固を活性化するのに使用できる固体はさらに、インビボにて凝固促進剤として作用する、ということが見出された。さらに、他の種々の物質も血液の凝固を促進することができる、ということが見出された。インビボ凝固させるために使用できる代表的な物質としては、珪藻土、ガラス粉末、ガラス繊維、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、カオリンクレー、モンモリロナイトクレー、カルシウム交換パームチットなどがある。これらの物質は、水性スラリー、乾燥粉末、または脱水形態で使用することができる。これらの物質はさらに、適切な有機バインダーもしくは無機バインダーと結合させることができ、及び/又はシート形態もしくは包帯形態にて含有させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、出血(特に、生命を脅かす激しい出血)を抑えるための応急/一次介入の創傷処置に関する。生命を脅かす激しい出血、及び、それほど激しくはない出血を抑えるのに適した低コストの創傷包帯が求められている。特に戦場(全死亡のほぼ50%が、激しい出血を直ちに抑えることができないことに関係している)においてこのタイプの包帯が求められている。本発明は、創傷部位に密着し、創傷をシールし、創傷部位における血塊の形成を大幅に促進し、創傷部位での血塊形成を強化し、創傷部位からの血液流出を防止し、そして血液が創傷部位から流出するのを実質的に妨げることによって、創傷からの生命を脅かす出血の流れを実質的に止めることができる。親水性ポリマー(例えばキトサン)と無機粉末(例えば、ゼオライト、珪藻土、又はシリカ粉末)とを組み合わせると、改良された止血用器具が得られる、ということがわかった。他の有効な無機粉末も使用することができる。親水性ポリマーとしては、アルギン酸塩、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリシン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラゲーナン、第四アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、澱粉、変性セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロナン、又はこれらの組み合わせ物などがある。澱粉は、アミラーゼ、アミロペクチン、およびアミロペクチンとアミラーゼとの組み合わせ物のいずれであってもよい。親水性ポリマーはキトサンであるのが好ましい。キトサンは、少なくとも100kDaの重量平均分子量を有するのが好ましい。キトサンは、少なくとも150kDaの重量平均分子量を有するのがさらに好ましい。キトサンは、少なくとも300kDaの重量平均分子量を有するのが最も好ましい。
【0016】
医療器具はさらに、活性成分を含んでよい。活性成分としては、カルシウム、トロンビン、因子VIIa、因子XIII、トロンボキサンA2、プロスタグランジン−2a、上皮細胞成長因子、血小板由来成長因子、フォンウィルブランド因子、腫瘍壊死因子(TNF)、TNF−α、トランスフォーミング成長因子(TGF)、TGF−α、TGF−β、インスリン様成長因子、線維芽細胞成長因子、ケラチノサイト成長因子、神経成長因子、ペニシリン、アンピシリン、メチシリン、アモキシシリン(amoxycillin)、クラバモックス、クラブラン酸、アモキシシリン(amoxicillin)、アズトレオナム、イミペネム、ストレプトマイシン、カナマイシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、バンコマイシン、クリンダマイシン、エイスロマイシン、ポリミキシン、バシトラシン、アンフォテリシン、ナイスタチン、リファンピシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、クロラムフェニコール、およびこれらの組み合わせ物などがあるが、これらに限定されない。
【0017】
他の実施態様においては、親水性ポリマースポンジと、前記ポリマースポンジの内部及び/又は表面に存在する湿潤性ポリマーマトリックスとを含む、出血抑制用の圧縮コンポジットスポンジが、ゼオライト粉末、珪藻土粉末、又はシリカ粉末等の無機粉末を含む状態で提供される。親水性ポリマーとしては、アルギン酸塩、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリシン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラゲーナン、第四アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、澱粉、変性セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロナン、又はこれらの組み合わせ物などがある。澱粉は、アミラーゼ、アミロペクチン、およびアミロペクチンとアミラーゼとの組み合わせ物のいずれであってもよい。
【0018】
湿潤性ポリマーとしては、不織マット、織ったマット、成形ポリマーメッシュ、および低密度スポンジなどがある。湿潤性ポリマーとしては、キチン、アルギン酸塩、中和キトサン、再アセチル化キトサン、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β−ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサノン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリフォスファゼン、ポリエチレン、ポリプロピレン、メタロセンポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルポリマー、ポリエステル、ポリアミド、およびこれらの組み合わせ物などがあるが、これらに限定されない。親水性ポリマーはキトサンであるのが好ましい。
【0019】
多くの無機物質が血液の凝固を促進するということがわかっている。インビボ凝固させるために使用できる代表的な物質としては、ゼオライト、珪藻土、ガラス粉末、ガラス繊維、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、カオリンクレー、モンモリロナイトクレー、カルシウム交換パームチットなどがある。これらの物質は、水性スラリー、乾燥粉末、または脱水形態で使用することができる。これらの物質はさらに、適切な有機バインダーもしくは無機バインダーと結びつけることができ、及び/又はシート形態もしくは包帯形態にて含有させることができる。
【0020】
珪藻土は、天然に存在する軟質チョーク様堆積岩であり、容易に粉砕して白色〜オフホワイト色の微粉末にすることができる。この粉末は、研磨剤の手触りをもち(軽石粉末に類似)、気孔率が高いので極めて軽い。珪藻土は主としてシリカで構成され、珪藻(殻の硬い藻類の一種)の化石からなる。
【0021】
生体活性ガラスは一群の表面反応性ガラスセラミックであり、最初の生体活性ガラスであるバイオガラス(Bioglass)(登録商標)を含む。これらガラスの生体適合性が良好であることから、罹患骨または損傷骨を修復・交換するために、人体におけるインプラント材料として使用できるよう広範に研究されている。
【0022】
使用した装置は、イリノイ州モートングローブのヘモスコープ社(Haemoscope Corp.)から市販のTEG(登録商標)アナライザーであった。この装置は、不適切な血栓症を引き起こすことなく機械的に出血を妨げるために、最初のフィブリン形成までの時間、最初のフィブリン塊が最大強度と極限強度に達する動力学、及びフィブリン塊の安定性(従って止血の作用を果たす能力)を測定する。
非活性化サンプルの場合:
i.360ulを頂部が赤色のチューブ(red topped tube)からカップ中にピペットで移し、TEG試験を開始する。
活性化サンプルの場合:
i.最初に、試験しようとするサンプルを実験室から得る。サンプルを計量し、瓶詰めし、オーブンで活性化し(必要な場合)、蓋をしてから実験を開始する。組み合わせ物質のサンプルを、試験する必要のある量の2倍量で瓶詰めする。例えば、チャンネル2が、5mgの組み合わせ物質Aと血液を試験すべき場合は、チャンネル2に対して瓶中にはかりとる量は10mgである。10mgのサンプルに対しては、20mgをはかりとる等々。この理由に関しては下記参照。
ii.1回の活性化実験に対し、一度に3つの組み合わせ物質サンプルを試験した。添加剤を含まない非活性化血液サンプルを、第1のチャンネルにて実験する。チャンネル2,3および4は、組み合わせ物質と接触状態にある血液サンプルである。
iii.試験の用意ができたら、一方のピペットを720ulに、他方のピペットを360ulに設定する。赤色の蓋をしたチューブ(化学薬品を加えていない単純なポリプロピレン裏打ちチューブ)を3つ用意して血液を抜き取り、そして赤色の蓋をしたチューブをさらに3つ用意して、組み合わせ物質サンプルを注入する。
iv.ボランティアから血液を抜き取り、TEGアナライザーに戻す。血液サンプルの組織因子混入を最小限に抑えるように採集した最初のチューブを廃棄する。血液サンプルと組み合わせ物質とを接触させ、TEG装置中にて処理し、次いでドナーから採取してから4〜5分経過させた。
v.瓶1を開き、組み合わせ物質を赤色の蓋をしたチューブに注入する。
vi.チューブ中の組み合わせ物質に、直ちに720ulの血液を加える。
【0023】
vii.5回逆さにする。
viii.血液と組み合わせ物質との混合物360ulをピペットでカップに移す。
ix.TEG試験を開始する。
【0024】
注意:血液と組み合わせ物質との初期混合に際しては、比率を2倍にして混合した。なぜなら、幾らかの量の血液がバイアルの側部にとられ、幾らかのサンプルが血液を吸収するからである。2倍の量を使用することで、ピペットでカップに移す血液が確実に少なくとも360ul得られるようにする。組み合わせ物質と我々が調べようとする血液との比率は通常、5mg/360ul、10mg/360ul、および30mg/360ulである。
【0025】
下表中に記載のR(分)は、実験の開始から血塊の初期形成までの時間(TEGアナライザーによって記録)である。TFGアナライザーは、4°45’の弧を描いて設定された速度で絶えず前後に振動するサンプルカップを有する。各回転が10秒続く。360ulの全血液サンプルをカップ中に入れ、トーションワイヤーに結びつけられた固定ピンを血液中に浸漬する。最初のフィブリンが形成されると、これがカップとピンにくっつき始め、これによりピンが血塊と同調して振動する。ピンの運動の加速度は、血塊形成の動力学の関数である。回転カップのトルクは、フィブリン−血小板結合がカップとピンに一緒にリンクした後にだけ、浸漬されたピンに伝達される。これらフィブリン−血小板結合の強さがピンの運動の大きさに影響を及ぼし、堅くて強い血塊がカップの運動と同調してピンを直接動かす。従って、出力の大きさは形成される血塊の強度に直接関係する。血塊が縮むか又は溶解すると、これらの結合が壊れ、カップの運動の伝達が少なくなる。ピンの回転運動が、機械的−電気的なトランスデューサによって電気信号に変換され、この電気信号をコンピュータによってモニターすることができる。
【0026】
こうして得られた止血プロフィールは、最初のフィブリンストランドが形成されるのに要する時間、血塊形成の動力学、血塊の強度(ダイン/cmの剪断弾性単位にて)、及び血塊の溶解の測定値を表わしている。下記のデータは、ボランティアドナーから採集した。いずれの場合も、既知量の物質を加えた後のデータと共に、混ぜ物をしていない血液のデータが含まれている。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
検討した材料は下記の材料を含む:
1. ヘムコン包帯は、オレゴン州ポートランドのヘムコン・メディカル・テクノロジーズ社から入手した、2インチ×2インチのエビ殻由来のキトサンパッドである。
【0030】
2. Ca4Aゼオライトは、NaAゼオライト(イリノイ州デスプレーンズのUOP LLCから入手したミクロンサイズの粉末)のカルシウムイオン交換によって得られる。
【0031】
3. セライト270は、ワールド・ミネラルズ社(米国カリフォルニア州サンタバーバラに本社)から入手した低表面積(4〜6m/g)の珪藻土である。
4. Hi−Sil250は、ペンシルバニア州ピッツバーグのPPGインダストリーズ社から入手した沈降シリカ(シリカゲル)である。
【0032】
ヘムコンキトサンを含有する包帯と、カルシウム交換ゼオライト、珪藻土、およびシリカゲルのそれぞれとを組み合わせると、大幅な凝固促進が観察された。この包帯を単独で使用したときは凝固が促進されず、場合によっては凝固が遅くなった。キトサン含有包帯からのマイナス効果を考慮に入れると、驚くべきことに、本発明の混合物は止血プロセスの促進に極めて効果的であった。
【0033】
他の適切な止血剤または吸収剤も添加した。これらの止血剤または吸収剤としては、キトサンとその誘導体、フィブリノゲンとその誘導体〔ここではfibrin(ogen)と表示する;例えば、フィブリノゲンの開裂生成物であるフィブリン〕、多くのタイプの超吸収性ポリマー、多くのタイプのセルロース、他のカチオン(例えば、カルシウムイオン、銀イオン、およびナトリウムイオン)もしくはアニオン、他のイオン交換樹脂、および他の合成もしくは天然の吸収性物質(例えば、イオン特性すなわち電荷特性を有する超吸収性ポリマー、およびイオン特性すなわち電荷特性をもたない超吸収性ポリマー)などがあるが、これらに限定されない。
【0034】
さらに、組み合わせ物質に、血管作用剤または血管収縮と止血を促進する他の薬剤を添加してよい。このような薬剤は、カテコールアミンまたは血管作用性ペプチドを含んでよい。この点は乾燥形態の薬剤において特に有用であり、従って血液を吸収すると、添加剤が活性化され、組織中に滲出して作用を及ぼす。さらに、感染を防ぐ抗生物質や他の薬剤(殺菌性または静菌性の薬剤もしくは化合物)、および麻酔剤/鎮痛剤を加えることで、感染を防止し、そして痛みを和らげることによって治癒を速めることができる。さらに、ある形態のミネラルを外科的に取り除く際に蛍光剤もしくは蛍光成分を添加して、出血の限定的に抑制した後で、ミネラルの保持を確実に最小限に抑えるのに役立てることができる。
【0035】
本発明の製剤は、当業者によく知られている種々の手段のいずれによっても出血部位に投与することができる。例としては、創傷に対して体内から投与する仕方(例えば、液体または錠剤の形態で摂取することによって)、および創傷に対して直接的に投与する仕方(例えば、粉末または顆粒形態の物質を出血部位中もしくは出血部位上に直接振りかけることによって、あるいは物質を含浸させた包帯等の材料を創傷中もしくは創傷上に配置することによって、物質を創傷中もしくは創傷上に噴霧することによって、あるいは創傷に物質をコーティングすることによって)があるが、これらに限定されない。包帯は、力が加わると曲がり、従って創傷部位の形状に順応するタイプであってもよい。モルタルに類似した部分水和形や他の半固体−半流動体形などを使用して、特定のタイプの創傷に充填することができる。腹部内出血に対しては、トロカールを使用して腹膜に穿刺してから、種々の適切な配合の組み合わせ物質を投与することを我々は想定している。
【0036】
従って、本発明の製剤は、種々の形状、サイズ、柔軟度、及び/又は剛性を有する包帯;ゲル;液体;ペースト;スラリー;顆粒、粉末;ならびに他の形態;等の種々の形態であってよい。前記物質は、局所的、経消化管的、腔内的(inercavitary)、あるいはさらには経脈管的な移送を促進するために、特殊なキャリヤー(例えば、リポソームや他のビヒクル)中に組み込むことができる。さらに、これらの形態の組み合わせ物〔例えば、フレキシブルでスポンジ状もしくはゲル状の物質を組み合わせていて、創傷上に直接配置される包帯;および幾らか剛性の物質で構成される外側保護裏材料を有していて、取り扱いと操作が簡単な包帯(外側層が、処置後の創傷に対する機械的保護をもたらす)〕も使用することができる。内側材料と外側材料の両方が粘土物質を含有してよい。止血を促進するように鉱物粘土が出血部位と十分に接触する限り、いかなる投与手段も使用することができる。
【0037】
鉱物粘土を含む組成物を使用して、種々のセッティングでの出血を抑えることができる。これらの出血としては、(a)液体、スラリー、ゲル、スプレー、フォーム、ヒドロゲル、粉末、顆粒、またはこれらの製剤を含む包帯のコーティングの使用による創傷からの外出血(急性及び慢性);(b)摂取可能な液体、スラリー、ゲル、フォーム、顆粒、又は粉末の使用による消化管出血;(c)エアロゾル化粉末、スプレー、フォーム、パッチ、または被覆止血栓の使用による鼻出血;(d)液体、スラリー、スプレー、粉末、フォーム、ゲル、顆粒、又はこのような物質で被覆された包帯の使用による内部固形器官や骨の損傷の抑制;ならびに(e)あるゆるタイプの創傷(このような創傷からの痛みの抑制を含む)の治癒を促進するための、止血の促進、体液の吸収、およびタンパク質分解酵素の阻害;などがあるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明の多くの用途は、包帯の表面を、出血している創傷の全表面に適合させるようにするという公知の問題点がベースになっている。顆粒、粉末、ゲル、フォーム、スラリー、ペースト、および液体を使用することにより、本発明の製剤は、表面がどんなに不規則であろうとも全表面を覆うことが可能となる。例えば、股間に対する外傷性創傷は、単なる直接的に圧力、あるいは単にフラットな包帯を使用することでは抑えるのが極めて困難である。しかしながら、例えば粉末、顆粒、ゲル、フォーム、あるいは創傷に注いだり、吹きかけたり、もしくはポンプ送りすることができるかなり高粘度の液体製剤の形態での組み合わせ物質とシーラントを使用し、次いで圧力を加えることによって処置を施すことができる。本発明の製剤の利点の1つは、不規則な形状の創傷に対して、また、創傷の跡(すなわち、銃弾やナイフの刃のような傷を与える要因の経路)をシールするために、使用できることである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液凝固促進剤と血液とを接触させることを含む、血液凝固を促進するための方法であって、前記血液凝固促進剤が、珪藻土、ガラス粉末、ガラス繊維、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、及びカルシウム交換パームチットからなる群から選択される無機物質と親水性ポリマーとの混合物を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記親水性ポリマーが、アルギン酸塩、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリシン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラゲーナン、第四級アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、澱粉、変性セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロナン、又はこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血液凝固促進剤が、織り繊維物品、不織繊維物品、パフ、スポンジ、及びこれらの混合物からなる群から選択される多孔質キャリヤー中に含有される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質キャリヤーが、アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維、化学修飾セルロース繊維、及びこれらの混合物からなる群から選択される繊維を含む織り繊維物品または不織繊維物品である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記血液凝固促進剤が、血液の凝固を、それが存在しない場合よりも2〜12倍速い速度で促進する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記血液凝固促進剤がさらに、抗生物質、抗真菌剤、抗微生物剤、抗炎症剤、鎮痛剤、静菌剤、銀イオンを含有する化合物、フィブリン(フィブリノゲン)、トロンビン、超吸収性ポリマー、カルシウム、ポリエチレングリコール、デキストラン、血管作用性カテコールアミン、血管作用性ペプチド、静電剤、麻酔剤、又は蛍光剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
珪藻土、ガラス粉末、ガラス繊維、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、及びカルシウム交換パームチットからなる群から選択される無機物質と親水性ポリマーとの混合物を含む血液凝固促進剤。
【請求項8】
前記親水性ポリマーが、アルギン酸塩、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリシン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラゲーナン、第四級アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、澱粉、変性セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロナン、又はこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項7に記載の血液凝固促進剤。
【請求項9】
前記血液凝固促進剤が、織り繊維物品、不織繊維物品、パフ、スポンジ、及びこれらの混合物からなる群から選択される多孔質キャリヤー中に含有される、請求項7に記載の血液凝固促進剤。
【請求項10】
前記血液凝固促進剤がさらに、抗生物質、抗真菌剤、抗微生物剤、抗炎症剤、鎮痛剤、静菌剤、銀イオンを含有する化合物、フィブリン(フィブリノゲン)、トロンビン、超吸収性ポリマー、カルシウム、ポリエチレングリコール、デキストラン、血管作用性カテコールアミン、血管作用性ペプチド、静電剤、麻酔剤、又は蛍光剤を含む、請求項7に記載の血液凝固促進剤。

【公表番号】特表2010−512842(P2010−512842A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541464(P2009−541464)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/085568
【国際公開番号】WO2008/076598
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】