説明

無機粉体、有機無機複合組成物とその製造方法、成形体、および光学部品

【課題】熱可塑性樹脂の溶解性に優れていて透明性が高い有機無機複合組成物を簡便な方法で製造する方法を提供する。
【解決手段】有機酸か無機酸の少なくとも一方が吸着している粒子サイズ1〜15nmの無機微粒子から構成される無機粉体、これを有機溶媒中に分散させて無機粒子分散液を作成する工程と、該分散液を熱可塑性樹脂と混合する工程を含む有機無機複合組成物の製造方法、有機無機複合組成物、これを成形した成形体およびこの有機無機複合組成物を含んで構成されるレンズ基材等の光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性が高くて熱可塑性樹脂の溶解性に優れた有機無機複合組成物と、それを簡便に製造するための無機粉体に関する。さらに、前記有機無機複合組成物を含んで構成される成形体、および光学部品にも関する。より詳しくは、レンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ等)等の光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、透明性、易成形性、軽量性、耐衝撃性、離型性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
【0003】
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
【0004】
それに伴い、レンズを薄肉化するために素材自体を高屈折率化することが求められるようになっており、例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(特許文献1、特許文献2参照)や、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(特許文献3参照)や、インデン誘導体とビニル単量体との共重合体を用いる技術(特許文献4参照)等が活発に研究されてきた。しかし、十分に屈折率が大きくて良好な透明性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。
【0005】
屈折率を有機物のみで上げることは難しいため、高屈折率を有する無機酸化物を樹脂マトリックス中に分散させることによって高屈折率材料をつくる試みがなされている(特許文献5、6参照)。このとき、レイリー散乱による透過光の減衰を低減するためには、粒子径が15nm以下の無機酸化物粒子を樹脂マトリクス中に均一に分散させることが好ましい。しかしながら、このような無機酸化物粒子は表面が親水性を有しているため、樹脂マトリクス中に均一に分散しにくくて、得られる有機無機複合組成物の透明性も低下しやすいという問題があった。
【0006】
このような問題に対処するために、正方晶ジルコニア粒子を用いること(特許文献7参照)や、シランカップリング剤、変性シリコーン、界面活性剤といった表面修飾剤を用いて酸化物粒子の表面を修飾すること(特許文献8〜10参照)が提案されている。提案されている方法では、いったん水媒体中で酸化物粒子の分散液を作製した後に乾燥し、さらにトルエンに再分散させてから熱可塑性樹脂と混合している。
【特許文献1】特開2002−131502号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2004−244444号公報
【特許文献4】特開2001−89537号公報
【特許文献5】特開昭61−291650号公報
【特許文献6】特開2003−73564号公報
【特許文献7】特開2007−99931号公報
【特許文献8】特開2007−217242号公報
【特許文献9】特開2007−262252号公報
【特許文献10】特開2007−119617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような方法でトルエンに再分散させた酸化物粒子を熱可塑性樹脂と混合すると、熱可塑性樹脂が十分に溶解しないという問題が生じたり、得られた有機無機複合組成物の透明性が悪くなるといった問題がある。このため、熱可塑性樹脂を溶解させるために熱可塑性樹脂の良溶媒を多量に用いたり、固形分濃度を低下させるなどの措置をとって対処しなければならず、煩雑であるとともに製造可能な有機無機複合組成物の範囲も限られていた。
【0008】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱可塑性樹脂の溶解性に優れていて透明性が高い有機無機複合組成物を簡便な方法で提供することと、その原料となる無機粉体を提供することにある。また、そのような有機無機複合組成物を用いて、高屈折率で透明性が高い成形体や光学部品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、有機酸か無機酸の少なくとも一方が吸着している無機微粒子から構成される無機粉体を用いれば、目的にかなう有機無機複合組成物を簡便に製造しうることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0010】
[1] 有機酸か無機酸の少なくとも一方が吸着している粒子サイズ1〜15nmの無機微粒子から構成されることを特徴とする無機粉体。
[2] 前記無機微粒子100質量部に対して、有機酸と無機酸があわせて0.1〜20質量部吸着していることを特徴とする[1]に記載の無機粉体。
[3] 前記無機微粒子に少なくとも有機酸が吸着していることを特徴とする[1]または[2]に記載の無機粉体。
[4] 前記有機酸が酢酸またはプロピオン酸であることを特徴とする[3]に記載の無機粉体。
[5] 前記無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、またはこれらの混合物であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の無機粉体。
【0011】
[6] [1]〜[5]のいずれか一項に記載の無機粉体を有機溶媒中に分散させて無機粒子分散液を作製する工程と、該無機粒子分散液を熱可塑性樹脂と混合する工程を含むことを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
[7] 前記無機粒子分散液を作製する工程において、あらかじめ表面修飾剤を溶解させた有機溶媒中に、前記無機粉体を添加して分散処理を行うことを特徴とする[6]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[8] 前記表面修飾剤が芳香族カルボン酸であることを特徴とする[7]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[9] 前記芳香族カルボン酸が、4−n−プロピル安息香酸、ジフェニル酢酸、および4−フェニル安息香酸からなる群より選択される1以上の化合物であることを特徴とする[8]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[10] 前記有機溶媒が、N,N−ジメチルアセトアミド、トルエン、アニソール、N−メチル−2−ピロリドン、酢酸エチル、および酢酸ブチルからなる群より選択される1以上の溶媒であることを特徴とする[6]〜[9]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【0012】
[11] [6]〜[10]のいずれか一項に記載の製造方法により製造される有機無機複合組成物。
【0013】
[12] [11]に記載の有機無機複合組成物を成形した成形体。
[13] [11]に記載の有機無機複合組成物を含んで構成される光学部品。
[14] 前記光学部品がレンズ基材であることを特徴とする[13]に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の無機粉体を用いて、本発明の製造方法により有機無機複合組成物を製造すれば、熱可塑性樹脂を十分かつ迅速に溶解させることができるとともに、得られる有機無機複合組成物の透明性も高くなる。また、本発明の有機無機複合組成物を用いてなる成形体や光学部品は、高屈折率で透明性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下において、本発明の無機粉体、有機無機複合組成物、それを含んで構成される成形体および光学部品について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
[無機粉体]
(特徴)
本発明の無機粉体は、有機酸か無機酸の少なくとも一方が吸着している粒子サイズ1〜15nmの無機微粒子から構成されることを特徴とする。このような無機粉体を用いて有機無機複合組成物を調製すれば、熱可塑性樹脂を速やかに効率よく溶解させることができ、透明性が高い有機無機複合組成物を簡便に提供することができる。さらには、成形することにより高屈折率で透明性が高い成形体を提供することもできる。
無機粉体中の水やメタノールの含有量は10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。また、ナトリウムやカリウムなどの不純物の含有量については、200ppm以下であることが好ましく、60ppm以下であることがより好ましい。
【0017】
(無機微粒子)
本発明の有機無機複合材料に用いられる無機微粒子としては特に制限はなく、例えば特開2002−241612号公報、特開2005−298717号、特開2006−70069号各公報等に記載の微粒子を用いることができる。
【0018】
具体的には、酸化物微粒子(酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化テルル、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ビスマス、酸化錫等)、複酸化物微粒子(ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、タンタル酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸バリウム、錫酸バリウム、ジルコンなど)、IIb-VIb族半導体(Zn、Cdのカルコゲン(S、Se、Te)化物または酸化物)などを用いることができる。なかでも、ジルコニウム、亜鉛、錫またはチタンの化合物が好ましく、具体的には、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。
無機微粒子は2種類以上を併用してもよい。
【0019】
本発明で用いられる無機微粒子は、屈折率、透明性、安定性などの観点から、複数の成分による複合物であってもよい。また無機微粒子の選択の幅は広いが、例えば酸化チタンなどを用いる場合には、光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的から、異種元素をドープしたり、表面層をシリカ、アルミナ等異種金属酸化物で被覆したり、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤、有機酸(カルボン酸類、スルホン酸類、リン酸類、ホスホン酸類等)または有機酸基を持つ分散剤などで表面修飾しても良い。さらに目的に応じて、これらの2種類以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、錫含有ルチル型酸化チタンを酸化ジルコニウムで被覆した微粒子を好ましく用いることができる。
【0020】
本発明で用いられる無機微粒子の屈折率に特に制限はないが、本発明の有機無機複合材料が高屈折率を必要とする光学部品に用いられる場合には、無機微粒子は高屈折率特性を持つことが好ましい。この場合、用いられる無機微粒子の屈折率は22℃、589nmの波長において1.90〜3.00であることが好ましく、より好ましくは2.00〜2.70であり、特に好ましくは2.10〜2.50である。微粒子の屈折率が3.0以下であれば樹脂との屈折率差が比較的小さいためレイリー散乱を抑制しやすくなる傾向がある。また、屈折率が1.9以上であれば高屈折率化の効果が得られやすくなる傾向がある。
【0021】
無機微粒子の屈折率は、例えば本発明で用いる熱可塑性樹脂と複合化した複合物を透明フィルムに成形して、アッベ屈折計(例えば、アタゴ社製「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率から算出する方法、あるいは濃度の異なる微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。またシリコンウエハ等の光学特性が既知な基板上に例えばスピンコート等で薄膜を作製し、十分乾燥した後エリプソメータで干渉パターンのフィッティングにより屈折率を求めることもできる。
【0022】
本発明で用いられる無機微粒子の数平均1次粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に該数平均1次粒子サイズが大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合材料の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる無機微粒子の数平均1次粒子サイズの下限値は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは7nm以下である。すなわち、本発明における無機微粒子の数平均1次粒子サイズとしては、1nm〜15nmが好ましく、2nm〜10nmがさらに好ましく、3nm〜7nmが特に好ましい。
【0023】
また本発明に用いられる無機微粒子は上記の平均粒子サイズを満たし、かつ粒子サイズ分布が狭いほど望ましい。このような単分散粒子の定義の仕方はさまざまであるが、例えば特開2006−160992号公報に記載されるような数値規定範囲が、本発明で用いられる微粒子の好ましい粒径分布範囲にも当てはまる。
ここで、上述の数平均1次粒子サイズとは例えば、X線回折(XRD)装置あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)などで測定することができる。
【0024】
本発明に用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。
例えば、金属塩類やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。この方法の詳細は、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、あるいは、ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)等に記載されている。
これらの水分を含有する反応系において合成した無機微粒子を応用する際に水分が悪影響を及ぼす場合がある。このような場合は無機微粒子合成後に他の適切な有機溶媒に置換することもできる。必要に応じて適切な分散剤を用いることで分散性を損なうことなく均一分散が可能である。
【0025】
また、水中で加水分解させる方法以外の方法として、有機溶媒中や本発明における熱可塑性樹脂が溶解した有機溶媒中で無機微粒子を作製する方法を採用してもよい。この際、必要に応じて各種表面処理剤(シランカップリング剤類、アルミネートカップリング剤類、チタネートカップリング剤類、有機酸類(カルボン酸類、スルホン類、ホスホン酸類など))を共存させてもよい。
これらの方法に用いられる溶媒としては、アセトン、2−ブタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
溶液中で無機粒子を作製する場合、合成時の温度により無機粒子の特性、粒子サイズ、凝集状態等が異なり適切な条件を求めることが重要である。しかしながら、常圧下では溶液の沸点以上の温度で合成することは不可能である。特性上より高温での合成が必要な場合には、例えばオートクレーブのような高圧釜を用いて高圧下で合成することにより必要な特性を得ることもできる。
【0026】
無機微粒子の合成法としては、上記の如く液相のみで行う場合以外に、更なる高温処理を行うために焼成工程を用いる場合もある。このような焼成法は、液相で微粒子を形成した後、結晶化度を高めるために行う場合や、原材料を焼成工程で直接反応させ合成する場合または微粒子の前駆体を液相で形成した後、焼成工程で所望の微粒子を合成する場合等がある。焼成法の例として特開2003-19427号公報には、無機微粒子原料成分とそれ以外の無機化合物を溶解した溶液を噴霧熱分解して粒子合成を行った後、水で洗浄して無機微粒子以外の無機化合物を取り除くことにより結晶性の高い粒子のみを得る方法が開示してある。
または、粒子の前駆体を液相で形成した後に無機塩で粒子の凝集を防ぎながら焼成により結晶化させる方法が特開2006−16236号公報に記載されている。
さらには分子ビームエピタキシー法やCVD法のような真空プロセスを用いた気相法で作製する方法など、例えば特開2006−70069号公報等に記載される各種一般的な微粒子合成法を挙げることができる。
【0027】
無機微粒子の結晶化度は合成する条件により異なるが、いかなる結晶化度の無機粒子でも状況に応じて用いることができる。XRD装置で測定した場合明確なピークを有する結晶性のものであってもブロードなハローを持つアモルファスであっても構わない。一般に結晶化度の高い無機微粒子は低いものに比較して屈折率が高く、高屈折材料への応用には有利である。しかしながら、例えば酸化チタンのように光触媒活性が高い材料の場合、結晶化度を低くすることにより光触媒活性を抑制できることが知られている。無機微粒子の光触媒活性は、有機無機複合材料に光を照射した場合樹脂の分解という重大な問題を引き起こす場合がある。このような場合には、結晶化度の低い無機ナノ粒子を用いて光触媒活性を抑制することも可能である。
無機微粒子がコアーシェル構造を有する場合、コア部分とシェル部分の結晶化度は同一であっても全く異なっても構わない。これらの組み合わせは、コア部分とシェル部分の結晶構造、格子定数等で物理的に決定される場合もあるが、合成条件により意図的に作り分けることが可能な場合もある。それぞれの特性を活かしたコアとシェルの組み合わせが必要である。
【0028】
本発明の有機無機複合材料における無機微粒子の含有量は、透明性と高屈折率化の観点から、20〜95質量%が好ましく、25〜70質量%がさらに好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。
【0029】
(酸)
本発明の無機粉体は、無機微粒子に有機酸か無機酸の少なくとも一方が吸着している。
無機微粒子に吸着させることができる有機酸の種類は特に制限されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸などを用いることが可能であり、特に酢酸を用いることが好ましい。
本発明の無機微粒子分散液に含ませることができる無機酸の種類は特に制限されないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などを用いることが可能であり、なかでも塩酸、硝酸を用いることが好ましい。
【0030】
有機酸と無機酸はそれぞれ複数種を組み合わせて用いてもよく、有機酸と無機酸を組み合わせて用いてもよい。好ましいのは、少なくとも有機酸を用いる場合であり、さらには少なくとも酢酸またはプロピオン酸を用いる場合である。例えば、酢酸やプロピオン酸を単独で用いる場合や、これらに塩酸を添加する態様を挙げることができる。
【0031】
無機微粒子に有機酸や無機酸を吸着させる方法は特に制限されない。例えば、溶媒中で無機粒子と有機酸や無機酸を一定時間攪拌する工程などを実施することにより吸着させることができ、十分な攪拌さえ行うことができればよいが、粒子の分散状態が不十分な場合などもあるので超音波分散機などの市販の分散機を用いて分散する方法を採用することが好ましい。
【0032】
無機微粒子に対する有機酸と無機酸の合計吸着量は、無機微粒子100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、0.1〜20質量部であることがより好ましく、0.2〜15質量部であることがさらに好ましく、0.3〜13質量部であることが特に好ましい。吸着量の調整に際しては、酸を多めに吸着させた無機微粒子を用意しておいて、加熱により脱着させる方法などを採用することができる。
【0033】
無機粉体への吸着量は、熱重量示差熱分析(TG−DTA)測定により決定することができる。具体的には、特定の温度範囲内で昇温したときの重量減少分を測定することにより求めることができる。測定に先立って、既知量の酸を吸着させた無機微粒子サンプルを用意して、温度上昇に伴う質量減少曲線を取得するとともに、GC−MSなどで脱離成分の分析を行っておき、酸を吸着させていない無機微粒子サンプルの質量減少曲線との比較を行っておく。これらの事前測定と分析により、測定すべき温度範囲を決定して対象サンプルの測定を行う。
【0034】
[有機無機複合組成物]
(製法)
本発明の有機無機複合組成物は、上記の本発明の無機粉体を有機溶媒中に分散させて無機粒子分散液を作製する工程と、該無機粒子分散液を熱可塑性樹脂と混合する工程を経ることにより製造することができる。また、これらの工程の後に、さらに乾燥することにより溶媒を除去する工程を含んでいてもよい。
【0035】
従来は、無機微粒子を液中で調製し、エバポレーション法などによって溶媒置換することにより分散液を調製していたが、この方法で調製した分散液を用いると、熱可塑性樹脂と混合したときに熱可塑性樹脂が速やかに溶解しなかったり、最後まで溶解せずに沈殿したりする問題があった。このため、熱可塑性樹脂と混合する際に、熱可塑性樹脂の良溶媒を多量に使用したり、固形分を低下させるなどの対策を講じなければならなかった。一方、本発明にしたがって酸が吸着した無機微粒子から構成される無機粉末を分散させた分散液を用いれば、驚くべきことに熱可塑性樹脂が速やかに溶解し、溶解性と透明性が極めて高い有機無機複合組成物を効率よく調製することができる。したがって、熱可塑性樹脂の良溶媒を多量に使用する必要がなく、固形分が高い組成物を簡便かつ安価に得ることができる。
【0036】
そもそも、溶媒を除去することにより合成した無機粉体を再び分散させると、凝集等の現象がより発生することが多いため、このような凝集体を含む無機粒子分散液を用いて有機無機複合材料やレンズなどの成形体を得ることは難しいと考えられている。しかしながら、本発明では酸が存在する溶液中に存在していた粒子を乾燥させたのちに、所望の溶媒中に再分散させるという新しい工程を経ることにより、従来の予測に反し、凝集体が存在しない透明な有機無機複合材料や成形体を得ることに成功した。
【0037】
無機微粒子と熱可塑性樹脂の混合割合は、調製しようとしている有機無機複合組成物の用途や機能に応じて適宜決定することができる。有機無機複合組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、5〜80質量%が好ましく、30〜75質量%がさらに好ましく、40〜70質量%が特に好ましい。
【0038】
(熱可塑性樹脂)
本発明の有機無機複合組成物に用いる熱可塑性樹脂の構造は特に制限されない。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルカルバゾール、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリチオエーテル、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の公知の構造を有する樹脂を例示することができる。製法の観点から述べると、ビニルモノマーの重合によって得られるビニルポリマー、エポキシモノマーの重合によって得られるポリエーテル、開環メタセシス重合ポリマーおよび縮合ポリマー(ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンなど)など従来公知のポリマーのいずれからでも選択可能であるが、ビニルポリマー、開環メタセシス重合ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステルが好ましく、製造適性の点からビニルポリマーがより好ましい。本発明では少なくとも、高分子鎖末端、または、側鎖に無機微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
【0039】
<一般式(1)で表される単位構造>
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、一般式(1)で表される単位構造を少なくとも一つ有しているものであることが好ましい。また、本発明で用いる熱可塑性樹脂は、側鎖にカルボキシル基を有するランダム共重合体であることが好ましい。
【0040】
【化1】

【0041】
一般式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアシルオキシ基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアリールチオ基、置換もしくは無置換のアミノ基、または、シアノ基を表す。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂には、1分子中に一般式(1)で表される単位構造が1種のみ存在していてもよいし、複数種存在していてもよい。また、一般式(1)で表される特定種の単位構造は、分子中に連続してブロック状に存在していてもよいし、ランダムに存在していてもよい。
【0043】
一般式(1)で表される単位構造は、下記一般式(2)で表されるモノマーを重合させることにより形成することができる。
【0044】
【化2】

[一般式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアシルオキシ基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアリールチオ基、置換もしくは無置換のアミノ基、または、シアノ基を表す。]
【0045】
以下に、一般式(2)で表されるモノマーの具体例をA−1〜A−30として挙げるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。
【0046】
【化3】

【0047】
【化4】

【0048】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、一般式(1)で表される単位構造を1〜70質量%含むものであることが好ましく、3〜70質量%含むものであることがより好ましく、5〜50質量%含むものであることがさらに好ましく、7〜30質量%含むものであることがさらにより好ましい。ここでいう一般式(1)で表される構造単位を1〜70質量%含む熱可塑性樹脂とは、重合することによって一般式(1)で表される構造を与えうるモノマー(一般式(2)で表されるモノマー)を、モノマー混合物中にモノマー総量の1〜70質量%で存在させて重合することにより得られる熱可塑性樹脂をいう。
【0049】
<共重合可能なモノマー>
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、重合することによって一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーとともに、他のモノマーを共重合させることにより製造することができる。そのような他のモノマーとして、Polymer Handbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience (1975) Chapter 2 Page 1〜483に記載のものなどを用いることができる。
【0050】
具体的には、例えば、スチレン誘導体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、イタコン酸ジアルキル類、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。
【0051】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、上記の共重合することができるモノマーに由来する構造単位を30〜99質量%含むものであることが好ましく、30〜97質量%含むものであることがより好ましく、50〜95質量%含むものであることがさらに好ましく、70〜93質量%含むものであることがさらにより好ましい。本発明で用いる熱可塑性樹脂は、特に芳香族基を有するビニルモノマーに由来する単位構造を20〜99質量%含むものであることが好ましく、30〜97質量%含むものであることがより好ましく、40〜93質量%含むものであることがさらに好ましい。
【0052】
本発明では、共重合することができるモノマーとして、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマーを用いることが好ましい。無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基として、例えば以下の構造を有する官能基を挙げることができる。
【0053】
【化5】

[R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表す。]、−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、−OHまたはその塩、−Si(OR17n18n[R17、R18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表し、nは1〜3の整数を表す。]
【0054】
無機粒子と化学結合を形成しうる官能基を熱可塑性樹脂中に導入するには、該官能基もしくはその前駆体を有する重合性モノマーを用いて重合反応を行う方法や、樹脂を反応剤と反応させて該官能基もしくはその前駆体を導入する方法を挙げることができる。官能基導入量の制御の容易さから、該官能基もしくはその前駆体を有する重合モノマーを用いて重合反応を行って樹脂を得る方法を採用することが好ましい。
【0055】
重合反応によって樹脂を得る場合、無機粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマーとして、ジオール化合物やジチオール化合物、ジカルボン酸化合物など、本発明で用いる他のモノマーと重合反応できるモノマーを採用することができる。
【0056】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、前記官能基を有するビニルモノマーに由来する構造単位を0.1〜5質量%含むことが好ましく、0.3〜3質量%含むことがより好ましく、0.4〜2.5質量%含むことがさらに好ましい。また、本発明で用いる熱可塑性樹脂において、上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。
【0057】
重合することによって一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーとともに共重合することができるモノマーとしては、例えば以下のものが挙げられるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。なお、以下においてnは1以上の整数を表す。
【0058】
【化6】

【0059】
【化7】

【0060】
本発明で用いる熱可塑性樹脂の数平均分子量は10000〜200000であることが好ましく、20000〜200000であることがより好ましく、50000〜200000であることがさらに好ましい。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性と成型性の観点から80℃〜400℃であることが好ましく、100〜380℃であることがより好ましく、100〜300℃であることがさらに好ましい。
【0061】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の屈折率に特に制限はないが、本発明の有機無機複合組成物が高屈折率を必要とする光学部品に用いられる場合には、熱可塑性樹脂は高屈折率特性を持つことが好ましい。この場合、用いられる熱可塑性樹脂の屈折率は22℃、589nmの波長において1.55以上であることが好ましく、1.57以上であることがより好ましく、1.58以上であることがさらに好ましい。
【0062】
(添加剤)
本発明においては上記熱可塑性樹脂および無機微粒子といった本発明の必須成分以外に均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合してもよい。例えば、表面処理剤、可塑化剤、帯電防止剤、分散剤、離型剤等を挙げることができる。また熱可塑性樹脂として上で具体的に挙げた樹脂類以外の樹脂を添加してもよく、このような樹脂の種類に特に制限はないが、前記熱可塑性樹脂と同様の光学物性、熱物性、分子量を有するものが好ましい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記無機微粒子および熱可塑性樹脂を足しあわせた量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがよりこのましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。
【0063】
<可塑化剤>
本発明における熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、有機無機複合組成物の成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、本発明の有機無機複合組成物の成形温度を下げるために可塑剤を使用してもよい。可塑化剤を添加する場合の添加量は、有機無機複合組成物の総量の1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜20質量%であることが特に好ましい。
本発明で使用できる可塑剤は樹脂との相溶性、耐候性、可塑化効果などトータルで考える必要があり、最適な可塑剤は他の材料に依存するため一概には言えないが、屈折率の観点からは芳香環を有するものが好ましい。好ましい化合物の代表例として、下記一般式(11)で表される化合物を挙げることができる。
【0064】
【化8】

[一般式(11)中、R1およびR2はそれぞれ独立に置換基を表す。Lはオキシ基もしくはメチレン基を表す。aは0もしくは1を表す。m1およびm2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。]
【0065】
また、下記一般式(12)〜(14)のいずれかで表されることを特徴とする化合物も可塑剤として好ましい。
【0066】
【化9】

[一般式(12)〜(14)において、R3、R4、R5、R6およびR7はそれぞれ独立に置換基を表す。Z1、Z2、Z3およびZ4はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。m3、m4およびm6はそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。m5およびm7はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。b1、b2およびb3はそれぞれ独立に2以上の整数を表す。]
【0067】
さらに、下記一般式(15)で表される化合物も可塑剤として好ましい。
【0068】
【化10】

[一般式(15)中、Ra、RbおよびRcはそれぞれ独立に置換基を表す。A1はオキシ基もしくはメチレン基を表す。A2はオキシ基、置換もしくは無置換のアルキレン基、カルボニル基、置換もしくは無置換のイミノ基、またはこれら2以上の基からなる基を表す。n1およびn2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。n3は0〜4の整数を表す。p、qおよびrはそれぞれ独立に0もしくは1を表す。ただし、qが0の時、rは0である。]
【0069】
(有機無機複合組成物の性質)
本発明の有機無機複合組成物は、高い透明性を有しており、特定の厚さに成形したときに高い屈折率を示すという特徴がある。また、成形する際には、ステンレス鋼などの金型に対する腐食抵抗性が強いため、金型に対するダメージを効果的に抑えることができる。したがって、同じ金型を用いて繰り返して成形を行う場合には、本発明の有機無機複合組成物は有用である。
【0070】
本発明の有機無機複合組成物を厚み1mmに成形したときの透過率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。
【0071】
[成形体の製造方法]
本発明の無機微粒子分散液と熱可塑性樹脂溶液を混合して有機無機複合組成物を調製した場合、溶液状態のままキャスト成形して透明成形体を得ることができる。この方法によれば、極めて簡便かつ迅速に低コストで成形体を製造することができる。また、得られる成形体の透明性は極めて高い。従来の有機無機複合組成物を用いて成形する場合は、白濁のおそれがあるために乾燥速度を遅くして時間をかけて乾燥しなければならないことが少なくなかったが、本発明の有機無機複合組成物を用いて成形する場合は、白濁のおそれが無いために迅速に乾燥させることが可能である。時間をかけずに乾燥しても透明な成形体が得られることから、本発明によれば製造効率を上げ、製造コストを抑えることができる。
【0072】
成形体は、上記のキャスト成形以外の方法でも製造することができる。例えば、溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により、本発明の有機無機複合組成物から溶媒を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の公知の手法によって成形することもできる。この際、粉状の有機無機複合組成物を直接加熱溶融あるいは圧縮などによりレンズ等の成形体に加工することもできるが、いったん押し出し法などの手法で、一定の重さ、形状を有するプリフォーム(前駆体)を作成した後、該プリフォームを圧縮成形で変形させてレンズ等の光学部品を作成することもできる。この場合目的の形状を効率的に作成するために、プリフォームに適当な曲率をもたせることもできる。
【0073】
また、上記有機無機複合組成物をマスターバッチとして他の樹脂に混合して用いてもよい。
【0074】
[光学部品]
上述の本発明の有機無機複合組成物を成形することにより、本発明の光学部品を製造することができる。
本発明の光学部品は、有機無機複合組成物の説明で前記した屈折率や光学特性を示すものが有用である。
また本発明の光学部品としては、最大0.1mm以上の厚みを有する高屈折率の光学部品が特に有用である。好ましくは0.1〜5mmの厚みを有する光学部品への適用であり、特に好ましくは1〜3mmの厚みを有する透明物品への適用である。
これらの厚い成形体は溶液キャスト法での製造では、溶媒が抜けにくく通常容易ではないが、本発明の有機無機複合組成物を用いることにより、成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に付与することができ、酸化物粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する光学部品とすることができる。
【0075】
本発明の有機無機複合組成物を利用した光学部品は、本発明の有機無機複合組成物の優れた光学特性を利用した光学部品であれば特に限定はないが、例えば、レンズ基材や、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)に使用することも可能である。かかる光学部品を備えた機能装置としては、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。かかる光学機能装置における前記パッシブ光学部品としては、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル、フィルム、光導波路、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。
【0076】
[レンズ]
本発明の有機無機複合組成物を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の有機無機複合組成物を用いて製造されたレンズ基材は、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、有機無機複合組成物を構成するモノマーの種類や分散させる酸化物粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0077】
有機無機複合組成物をレンズ基材に成形する方法として、下記に3種類の代表的な方法を示す。しかしながら、本発明のレンズ基材の成形方法は、これらに限るものではない。
(1)有機無機複合組成物の分散液を、たとえば比表面積(表面積/体積)が15mm-1以上の乾燥した粉状に乾燥固化させ、得られた粉末を加熱圧縮して所定形状のレンズ基材とすることができる。
(2)有機無機複合組成物の分散液を、有機無機複合組成物が不溶な液体に滴下することにより、製造しようとしているレンズ基材と同等もしくはやや大きなサイズを有するレンズ形の有機無機複合組成物の分散液が液体表面に浮遊する状態を形成する。このとき、分散液と液体との界面および分散液と空気との界面は、両方とも界面張力によって凸曲面となるように、分散液の組成や液体の種類を選択する。形成されたレンズ形の分散液から分散媒を除去することにより、所定形状のレンズ基材を得ることができる。また、その後、さらにプレス、加熱、圧縮の少なくとも1以上の工程を行って所望の形にすることもできる。
(3)押出機のような装置を用いて、有機無機複合組成物を加熱して押出し、押出した材料を切断して塊状の中間体を形成し、次いで、中間体をプレス成形により加熱、圧縮することによりレンズ基材とすることができる。
【0078】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、撮像レンズ(車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ等;ズームレンズや、正/負のパワーレンズなど各種公知の撮像レンズを含む)、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0080】
[実施例1]
(1)無機粉体の作製と分析
オキシ塩化ジルコニウム8水塩を原料として、溶液中でジルコニア粒子を調製し、一般的な処理に相当する工程(未反応の原料や不純物を取り除く処理)を行った後に、酢酸を添加し十分攪拌させることにより酢酸が吸着した無機粉体を合成した。TEMより無機微粒子の数平均粒子サイズは3.4nm、標準偏差は0.4nmであることが確認された。また、無機粉体の屈折率は2.1あった。
無機粉体への酢酸吸着量は、熱重量示差熱分析(TG−DTA)測定を窒素中で行い、250℃から500℃に昇温したときの重量減少分から求めた。この温度域の質量減少が酢酸の脱離によるものであることは、脱離成分の分析(GC−MSなど)や酢酸等の有機酸を用いない場合のサンプルを測定した結果との比較などから確認済みである。実施例1の無機粉体における酢酸吸着量は、無機微粒子100質量部に対して12.8質量部であった。
【0081】
(2)無機粉体の酢酸ブチル分散液の作製(粉体分散法)
酢酸ブチル450.00g中に、4−n−プロピル安息香酸を10.00g溶解させた。次いで、(1)で作製した無機粉体を50.00することにより混合し、超音波分散機によって十分に攪拌することにより、無機粉体の酢酸ブチル分散液を作製した。
得られた分散液の透明性をまず目視で評価した。透明性の高いと判断されるものについては、10mm厚のセル中に分散液を入れて、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」((株)島津製作所製)を用いて波長550nmにおける透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
(3)有機無機複合組成物の作成
下記の構造を有するポリマー100質量部とm−テルフェニル9質量部を酢酸ブチルに溶解させた溶液に、(2)で酢酸ブチルに分散させた無機粉体分散液を5分かけて滴下し、これを1時間攪拌した後、50℃にて加熱処理を1時間行い、その後溶媒を除去することにより、有機無機複合組成物を得た。有機無機複合組成物の組成は、下記の構造を有するポリマーが45.83質量%、酸化ジルコニウム微粒子が41.67質量%、4−n−プロピル安息香酸が8.33質量%、m−テルフェニルが4.17質量%であった。
得られた溶液状態の有機無機複合組成物について、以下の基準で透明性を目視で評価した。結果を表1に示す。
○ 透明であり、まったく濁りが見られない。
△ 若干の濁りが認めらる。
× 白濁している。
【0083】
【化11】

【0084】
(4)成形
得られた有機無機複合組成物を、組成物に接する表面がスタバックス鋼でできた金型(直径5.08cmの円形金型)の中に導入し、圧縮成形することにより厚さ1.0mmの成形体とした。
得られた成形体について、(3)と同じ基準により目視で透明性を評価した。また、波長589nmの光を用いてアッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)により成形体の屈折率を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例2]
実施例1の方法と同様にして得たジルコニア粒子含有液中に、実施例1とは異なる量の酢酸を導入することにより、酸の吸着量が8.6質量部である無機粉体を合成した。この無機粉体を用いて、実施例1と同じ手順を行うことにより分散液、有機無機複合組成物、成形体を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例3]
実施例2の無機粉体を空気中で200℃にて1時間加熱することにより、酸の吸着量が6.5質量部である無機粉体を合成した。この無機粉体を用いて、実施例1と同じ手順を行うことにより分散液、有機無機複合組成物、成形体を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0087】
[実施例4]
実施例2の無機粉体を空気中で400℃にて1時間加熱することにより、酸の吸着量が2.5質量部である無機粉体を合成した。この無機粉体を用いて、実施例1と同じ手順を行うことにより分散液、有機無機複合組成物、成形体を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[実施例5]
ジルコニアのN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)分散液中にプロピオン酸を導入することにより、プロピオン酸の吸着量が5.1質量部である無機粉体を合成した。この無機粉体を用いて、実施例1と同じ手順を行うことにより分散液、有機無機複合組成物、成形体を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0089】
[比較例1]
比較例1では、従来の方法にしたがって以下の手順で溶媒置換することにより無機微粒子の分散液を調製して用いた(溶媒置換法)。
50g/lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム分散液を得た。この分散液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水を溶媒として酸化ジルコニウム換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理して酸化ジルコニウム微粒子分散液を得た。TEMより数平均粒子サイズが3.2nm、標準偏差0.5nmの酸化ジルコニウム微粒子の生成を確認した。得られたジルコニウム微粒子分散液をろ過したのち、メタノールを溶媒とした酸化ジルコニウム換算で濃度10質量%の酸化ジルコニウム微粒子分散液を得た。
酢酸ブチル500.00g中に、4−n−プロピル安息香酸を9.00g溶解させた。これを上で準備した450.00gの酸化ジルコニウム微粒子分散液中に添加し、十分攪拌した。その後、メタノールをエバポレーションによって固形分が8.5質量%になるまで蒸発させ、酸化ジルコニウム微粒子の酢酸ブチル分散液を作製した。
【0090】
この分散液を用いて、実施例1と同じ手順を行うことにより有機無機複合組成物と成形体を作製し、評価した。結果を表1に示す。
比較例1の酸化ジルコニウム微粒子の酢酸ブチル分散液を熱可塑性樹脂と混合したところ、熱可塑性樹脂が析出して沈殿が発生した。
【0091】
[比較例2]
比較例2では、酸が吸着していない無機微粒子からなる無機粉体を用いて分散液の調製時に酢酸を添加した。すなわち、酢酸ブチル450.00g中に、4−n−プロピル安息香酸9.00gと酢酸を溶解させた。次いで、酸が吸着していない無機粉体を添加し。超音波分散処理することにより混合し、十分に攪拌することにより、無機粉体の酢酸ブチル分散液を作製した。酢酸の添加量は、無機粉体100質量部に対して22.0質量部とした。
得られた分散液を用いて、実施例1と同じ手順により有機無機複合組成物と成形体を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0092】
[比較例3]
実施例2の無機粉体を空気中で750℃にて1時間加熱することにより、酸が吸着していない無機粉体を合成した。この無機粉体を用いて、実施例1と同じ手順を行うことにより分散液、有機無機複合組成物、成形体を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1の結果から明らなかように、本発明の条件を満たす無機粉体を用いて作製した実施例1〜5の有機無機複合組成物は、熱可塑性樹脂の溶解性が良好であり、透明性が高い。また、これらの有機無機複合組成物を用いて作製した成形体は、高屈折率で透明性が高い。これに対して、無機粉体を用いずに従来の溶媒交換法で調製した比較例1の成形体や、酸が吸着していない無機粉体を用いた比較例2および比較例3の成形体は透明性が悪かった。以上より、本発明の優位性は裏付けられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸か無機酸の少なくとも一方が吸着している粒子サイズ1〜15nmの無機微粒子から構成されることを特徴とする無機粉体。
【請求項2】
前記無機微粒子100質量部に対して、有機酸と無機酸があわせて0.1〜20質量部吸着していることを特徴とする請求項1に記載の無機粉体。
【請求項3】
前記無機微粒子に少なくとも有機酸が吸着していることを特徴とする請求項1または2に記載の無機粉体。
【請求項4】
前記有機酸が酢酸またはプロピオン酸であることを特徴とする請求項3に記載の無機粉体。
【請求項5】
前記無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の無機粉体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の無機粉体を有機溶媒中に分散させて無機粒子分散液を作製する工程と、該無機粒子分散液を熱可塑性樹脂と混合する工程を含むことを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項7】
前記無機粒子分散液を作製する工程において、あらかじめ表面修飾剤を溶解させた有機溶媒中に、前記無機粉体を添加して分散処理を行うことを特徴とする請求項6に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項8】
前記表面修飾剤が芳香族カルボン酸であることを特徴とする請求項7に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項9】
前記芳香族カルボン酸が、4−n−プロピル安息香酸、ジフェニル酢酸、および4−フェニル安息香酸からなる群より選択される1以上の化合物であることを特徴とする請求項8に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項10】
前記有機溶媒が、N,N−ジメチルアセトアミド、トルエン、アニソール、N−メチル−2−ピロリドン、酢酸エチル、および酢酸ブチルからなる群より選択される1以上の溶媒であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の製造方法により製造される有機無機複合組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の有機無機複合組成物を成形した成形体。
【請求項13】
請求項11に記載の有機無機複合組成物を含んで構成される光学部品。
【請求項14】
前記光学部品がレンズ基材であることを特徴とする請求項13に記載の光学部品。

【公開番号】特開2009−298945(P2009−298945A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155939(P2008−155939)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】