説明

無欠陥化水素分離膜、無欠陥化水素分離膜の製造方法及び水素分離方法

【課題】水素選択性及び水素透過性が高い無欠陥化水素分離膜及びその製造方法、この無欠陥化水素分離膜を用いた水素分離方法を提供する。
【解決手段】多孔性支持体の表面細孔に実質的に侵入することなく前記多孔性支持体上に形成されたパラジウムからなる第1金属層と、前記第1金属層の上に該第1金属層表面に開口する欠陥を閉塞しつつパラジウムを堆積することで形成された第2金属層とを有する金属薄膜を備える無欠陥化水素分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無欠陥化水素分離膜、無欠陥化水素分離膜の製造方法及び水素分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パラジウム膜又はパラジウム合金膜は、水素や重水素の選択的透過性を有するものであり、この特性を利用して水素分離膜として用いられている。
パラジウム膜又はパラジウム合金膜を水素分離膜として用いる場合には、膜厚が薄いほど水素の透過速度が向上し、しかも高価なパラジウム等の貴金属使用量が減少する。このため、通常、アルミナ等の多孔性セラミックスを支持体として用い、その表面にめっき法によりパラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜を形成したものを水素分離膜として使用している(下記特許文献1参照)。
【0003】
このような多孔性セラミックスには通常、欠陥が存在しており、通常のめっき法によりパラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜を形成すると、膜が薄いほど膜に欠陥(ピンホール)が出来やすくなり、これが水素分離後の水素純度を低下させる(水素選択性が低い)原因となると共に膜の耐久性の劣化原因ともなる。これを防止する方法として無電解めっきの為の活性化金属溶液を多孔性セラミックス支持体の片面の圧力が他方の片面の圧力より大きくなるようにして、多孔性セラミックス支持体表面に開いている細孔の内部に活性化金属溶液を満たす表面活性化工程を経た後、無電解めっき液を多孔性セラミックス支持体の無電解めっき液に接触している片面の圧力が他方の片面の圧力より大きくなるようにして、パラジウム等の水素分離能を有する金属を多孔性セラミックス支持体表面の細孔に付着させることにより、ガス分離能を有する金属を細孔に充填し閉塞させることが開示されている(下記特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、この方法では細孔への侵入深さが例えば30μmまで水素分離能を有する金属が充填されているために水素透過速度が低下するという欠点がある(下記特許文献3参照)。そこで、特許文献3では、無電解めっきの為の活性化金属溶液を多孔性セラミックス支持体の片面の圧力が他方の片面の圧力と同じとして、多孔性セラミックス支持体表面に開いている細孔の表面に活性化金属溶液を付着させる表面活性化工程を経た後、無電解めっき液を多孔性セラミックス支持体の無電解めっき液に接触している片面の圧力が他方の片面の圧力より大きくなるようにして、パラジウム等の水素分離能を有する金属を多孔性セラミックス支持体表面の細孔に例えば1〜2μm程度の侵入深さで堆積させると共に支持体表面に析出させることで、多孔性支持体の表面の微小欠陥を閉塞させつつ水素分離能を有する金属の製膜を行っている。その結果として、水素選択性は低下するものの水素透過速度が改善される。しかしながら、依然として、小孔中にある金属が水素透過の抵抗となり、水素分離膜とした場合に必ずしも高い水素透過速度が得られる訳ではない。
【0005】
なお、パラジウムを主成分とする水素分離膜の水素透過速度(k)は一般にシーベルト則に従う。即ち、
k=J/(p10.5−p20.5
となる。ここでJは水素透過流速(mmol/s/m)、p1は入口側水素分圧(Pa)、p2は出口側水素分圧(Pa)である。例えば特許文献3に記載された膜厚1μm、細孔への金属侵入深さ1.5μmのパラジウム膜の500℃での水素透過データに基づいて計算すると、その水素透過速度は1.9mmol/s/m/Pa0.5、また、膜厚2μm、細孔への金属侵入深さ1.5μmのパラジウム膜の500℃での水素透過速度は1.4mmol/s/m/Pa0.5となる。パラジウム膜の水素透過速度は一般にアレニウス式に従う。即ち、
k=A×e−E/RT
ここで、Aは頻度因子、Eは活性化エネルギー、Rはモル気体定数、Tは絶対温度である。通常、パラジウム膜の活性化エネルギーは10kJ/mol程度であり、上記の500℃での水素透過速度から推定される400℃での水素透過速度は膜厚1μmのパラジウム膜では1.5mmol/s/m/Pa0.5、膜厚2μmのパラジウム膜では1.1mmol/s/m/Pa0.5となる。
【0006】
また、水素以外の気体では、一般にガス透過速度(k’)は、
k’=J’/(p3−p4)
と、なる。ここでJ’はガス透過流速(mmol/s/m)、p3は入口側ガス分圧(Pa)、p4は出口側ガス分圧(Pa)である。
【0007】
水素選択性の目安としては例えば、差圧1気圧における水素透過流速と水素以外のガス透過流速の比(水素選択比、R)が挙げられる。即ち、
R = J/J’= k×1013250.5/(k’×101325)
例えば、水素濃度が80容量%の原料ガスから、入口側圧力10気圧、出口側圧力1気圧の条件で75%の水素を分離した場合、Rが4000以上あれば99.9%以上の水素純度が得られると推算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−137979号公報
【特許文献2】特許第3213430号
【特許文献3】特許第4112856号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、水素分離膜として有用性が高いパラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜を欠陥無く多孔性セラミックス膜上(多孔性支持体上)に形成し、高価なパラジウムの使用量を削減すると同時に、高い水素透過速度と水素選択比が5000以上の高い水素選択性を両立させる無欠陥化水素分離膜を提供することである。また、このような無欠陥化水素分離膜の製造方法を提供し、水素を効率よく分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、通常のめっきにより、パラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜の前駆体となる金属層を多孔性セラミックス支持体上に形成した後、パラジウムイオン又はパラジウム合金薄膜を形成する金属イオンの1種類、又は複数種類を含有する無電解めっき液を多孔性セラミックス支持体の無電解めっき液に接触している片面の圧力が他方の片面の圧力より大きくなるようにして、無電解めっき液を表面に残存する欠陥に導き、欠陥をパラジウムやパラジウム合金薄膜を形成する金属の1種類、又は複数種類で閉塞しつつ成膜することにより、多孔性セラミックス支持体表面細孔内部を閉塞することなく無欠陥のパラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜を製造できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の前記目的は、多孔性支持体の表面細孔に実質的に侵入することなく前記多孔性支持体上に形成されたパラジウムからなる第1金属層と、前記第1金属層の上に該第1金属層表面に開口する欠陥を閉塞しつつパラジウムを堆積することで形成された第2金属層とを有する金属薄膜を備える無欠陥化水素分離膜により達成される。
【0012】
また、本発明の前記目的は、多孔性支持体の表面細孔に実質的に侵入することなく前記多孔性支持体上に形成されたパラジウム合金を構成する金属の1種類、又は複数種類からなる第1金属層と、前記第1金属層の上に該第1金属層表面に開口する欠陥を閉塞しつつパラジウム合金を構成する金属の1種類、又は複数種類を堆積することで形成された第2金属層とを有する金属薄膜を備える無欠陥化水素分離膜により達成される。
【0013】
この無欠陥化水素分離膜において、前記金属薄膜の膜厚は3μm以下であることが好ましい。
【0014】
また、上記無欠陥化水素分離膜には、熱処理が更に施されることが好ましい。
【0015】
また、上記無欠陥化水素分離膜は、水素透過速度が400℃において3mmol/s/m/Pa0.5以上であることが好ましい。
【0016】
また、前記金属薄膜の上にパラジウム薄膜またはパラジウム合金薄膜を構成する金属が製膜され、無欠陥化水素分離膜全体の膜厚が6μm以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の前記目的は、多孔性支持体の一方面を活性化金属を含有する溶液に浸漬させる活性化ステップと、パラジウムイオンを含有するめっき液に前記多孔性支持体の前記一方面側を浸漬して、パラジウムからなる第1金属層を形成する第1金属層形成ステップと、パラジウムイオンを含有するめっき液に前記第1金属層が形成された前記多孔性支持体の前記一方面側を浸漬し、前記多孔性支持体の前記一方面側の圧力を他方面側の圧力よりも高める圧力差形成ステップとを有し、パラジウムが、前記第1金属層表面に開口する欠陥を閉塞しつつ成膜されることを特徴とする無欠陥化水素分離膜の製造方法により達成される。
【0018】
また、本発明の前記目的は、多孔性支持体の一方面を活性化金属を含有する溶液に浸漬させる活性化ステップと、パラジウム合金を形成する金属イオンを含有するめっき液に前記多孔性支持体の前記一方面側を浸漬して、パラジウム合金を構成する金属の一種類又は複数種類からなる第1金属層を形成する第1金属層形成ステップと、パラジウムイオン又はパラジウム合金を形成する金属イオンを含有するめっき液に前記第1金属層が形成された前記多孔性支持体の前記一方面側を浸漬し、前記多孔性支持体の前記一方面側の圧力を他方面側の圧力よりも高める圧力差形成ステップとを有し、パラジウム合金を構成する金属の一種類又は複数種類が、前記第1金属層に開口する欠陥を閉塞しつつ成膜されることを特徴とする無欠陥化水素分離膜の製造方法により達成される。
【0019】
また、本発明の前記目的は、上記無欠陥化水素分離膜を介して、一方側に水素含有混合気体を位置させ、他方側の水素分圧を水素含有混合気体側の水素分圧以下とすることを特徴とする水素含有混合気体からの水素の分離方法により達成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、比較的簡単な方法によって、膜厚が薄い場合であっても無欠陥化された水素分離膜を形成できる。この方法は、大規模な製造設備を必要としない方法であり、工程の厳密な管理や歩留まりの悪さから解放され、大量生産が容易となる点等で、非常に有用性が高い方法である。
【0021】
得られる無欠陥化パラジウム薄膜、又は無欠陥化パラジウム合金薄膜は、水素以外の気体が透過することを極めて効果的に防止でき、優れた水素の選択的透過性を有するものであり、水素を含有する混合気体から水素を分離するための水素分離膜として極めて有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る無欠陥化水素分離膜の断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず最初に、本発明に係る無欠陥化水素分離膜及び無欠陥化水素分離膜の製造方法について説明する。本発明の無欠陥化水素分離膜は多孔性セラミックス膜を多孔性支持体として、その上にパラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜を形成したものであり、その時、多孔性セラミックス膜に存在する細孔内部が、実質的にパラジウム又はパラジウム合金を構成する金属により閉塞されないことを特徴とする。そのため、膜厚3μm以下のパラジウム薄膜でも5000以上の高い水素選択比を実現する無欠陥化と400℃において3mmol/s/m/Pa0.5以上の高い水素透過速度を同時に得ることが可能となった。
【0024】
多孔性セラミックス膜の材質としてはイットリウム安定化酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、ジルコニア−セリア、アルミナ、シリカ、酸化チタニウムなどが例示できる。特にイットリウム安定化酸化ジルコニウムは高温における安定性、パラジウムに類似した熱膨張率といった点で好ましい。多孔性セラミックス膜は焼結金属や金属メッシュ等の多孔性金属体上に形成されていても差し支えない。多孔性セラミックス膜の細孔径は好ましくは0.02〜1.0μm、更に好ましくは0.05〜0.5μmである。これより小さすぎると水素透過速度が遅くなり実用性を失い、これより大きすぎるとパラジウム又はパラジウム合金で細孔を閉塞することが難しくなる。
【0025】
多孔性セラミックス膜の表面に存在する欠陥を予め金属で閉塞したものを多孔性支持体として用いても差し支えない。本方法にこのような多孔性支持体を用いると効率的なパラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜の形成が可能となって、歩留まり良く無欠陥化が可能となる。
【0026】
多孔性セラミックス膜の形状について特に限定はなく、水素分離膜としての使用形態に応じて適宜決めればよいが、通常、板状、中空の管状、有底筒状等として用いられる。多孔性セラミックス膜を多孔性焼結金属体に積層したものを多孔性支持体としても差し支えない。この場合、多孔性セラミックス膜の薄層化が図れ、多孔性セラミックス膜の厚みに由来するガス拡散抵抗を軽減することができる。また、焼結金属体を多孔性セラミックス膜の支持体とすることにより、金属継手や溶接が可能となるので水素分離膜の金属製装置への接合が容易なものとできる。焼結金属体の材質としては、ステンレス、ハステロイ合金、インコネル合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金等を例示できる。例えば多孔性金属のような表面細孔径が大きい基材である場合、その表面細孔に充填される形態で多孔性セラミックス薄膜が形成されていても差し支えない。焼結金属体の厚みには特に制限はなく、その構造が安定に保持できれば良いが、通常、0.3〜2mmが例示できる。焼結金属体の細孔径については特に制限はなく、その上に積層される多孔性セラミックス膜が安定に保持できれば良いが、通常、1〜100μmが例示できる。
【0027】
パラジウム合金薄膜としては、パラジウムと、銀、金、銅、ニッケル、白金、ロジウム及びルテニウムからなる群から選ばれる一種または二種以上の金属との合金が好ましい。この様なパラジウム合金中におけるパラジウムの割合は、40重量%以上であることが好ましい。パラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜の平均膜厚は0.1〜10μmが好ましく、0.2〜6μmがより好ましい。膜厚がこれより小さいと膜のピンホールが増加して水素分離膜としての水素選択性を低くし、膜厚がこれより大きいと水素透過速度が小さくなって実用性を失う。
【0028】
多孔性セラミックス膜上へのパラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜の前駆体となる第1金属層の形成は例えば無電解めっき法、化学蒸着法、マグネトロンスパッタリングといった公知の方法によれば良いが、無電解めっき法によるのが最も簡便である。ここで薄膜前駆体となる第1金属層の平均層厚は好ましくは多孔性セラミックス膜(多孔性支持体)の平均細孔径の0.5倍以上、更に好ましくは1倍以上あれば良い。これよりも層厚が小さいと細孔表面を金属層で覆うことが困難となる。
【0029】
金属の無電解めっきでは通常、被めっき物への無電解めっき用触媒微粒子付与、及び、めっき用触媒微粒子の還元が被めっき物表面の活性化のため、金属イオン及び還元剤を含むめっき浴中での無電解めっきに先駆けて行われる。無電解めっき浴中の被めっき物表面では付与した触媒微粒子によって金属イオンの還元反応が最初に生じ、触媒微粒子が核となって、めっきする金属の成長が生じる。ここでの無電解めっき用試薬類は公知のものを使用すれば良い。無電解めっき用触媒付与の方法としては、一般にスズイオン等の金属イオンを含んだ溶液に被めっき物を入れ、被めっき物表面にスズイオン等の金属イオンを吸着させ、その後、パラジウムイオンを含んだ触媒溶液に入れて表面に付着したスズイオン等の金属イオンをパラジウムイオンに交換し、その後、これを還元する方法や、スズイオンやパラジウムイオン等が共存する溶液に被めっき物を入れ、その後、これを還元する方法、及び、アルカリ性触媒と言われるパラジウムイオンを直接、被めっき物に付着させる触媒溶液に入れ、その後、これを還元する方法などがある。
【0030】
多孔性セラミックス膜(多孔性支持体)上へパラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜の前駆体となる第1金属層を形成するためには、何れの手法を用いても差し支えないが、処理の簡便性からアルカリ性触媒を用いるのが好ましい。触媒を多孔性セラミックス膜表面に付着させるためには、多孔性セラミックス膜表面に触媒溶液を接触させれば良い。また、多孔性セラミックス膜の触媒溶液に接触している片面の圧力が他方の片面の圧力より大きくなるようにして、触媒溶液を細孔内に侵入させても良い。付着した触媒を還元するためには還元剤を含んだ溶液を多孔性セラミックス膜表面に接触させれば良い。また、多孔性セラミックス膜の還元剤を含んだ溶液に接触している片面の圧力が他方の片面の圧力より大きくなるようにして、溶液を細孔内に侵入させても良い。触媒の還元には水素などの還元性ガスを用いても良い。
【0031】
支持体として多孔性セラミックス膜表面に存在する欠陥を予め金属で閉塞したものを用いる場合、欠陥への金属析出工程中で、多孔性セラミックス膜表面に前記と同様に触媒付与を行ってから触媒の還元を行うことがある。この場合、既に多孔性セラミックス膜表面が活性化されているので、金属による欠陥の閉塞後に再度の触媒付与と触媒の還元は必ずしも必要ではない。
【0032】
この多孔性セラミック膜表面の活性化工程が終わってから、パラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜の前駆体となる第1金属層を形成する金属の無電解めっきを行う。この無電解めっき液は公知のものを使用すれば良い。無電解めっき液は、触媒付与による活性化処理が施された多孔性セラミックス膜の表面側(一方面側)に置けば良い。この時、多孔性セラミックス膜の他方面側の圧力を故意に一方面側の圧力より低くするのは無電解めっき液が多孔性支持体の表面細孔内に侵入し細孔を閉塞する結果となるので好ましくない。
【0033】
ここで第1金属層の平均層厚は好ましくは0.04〜1.0μm、更に好ましくは0.08〜0.5μmである。これより小さいと次のステップにおいてめっき液が細孔内に侵入し細孔を閉塞する結果となるし、これより大きいと次のステップにおいて効率的な欠陥の閉塞ができなくなる。
【0034】
このようにして、パラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜の前駆体となる第1金属層を形成する金属の無電解めっきを行うと、多孔性セラミックス膜の一方面が平滑で欠陥がなければ、結果的に、無欠陥の金属膜の製膜が可能となる。しかし、実際には多孔性セラミックス膜表面に開口する欠陥が存在するため、その欠陥部位が金属膜のピンホールの原因となる。また、予め表面に存在する欠陥を金属で閉塞した多孔性セラミックス膜を使用した場合でも、残存する小欠陥が金属薄膜の無欠陥化を阻害する要因となる。このピンホールを除去するには、めっきを長時間にわたって行うのが通常であるが、金属膜の膜厚が大きくなるので好ましくない。そこで、パラジウム薄膜又はパラジウム合金薄膜の前駆体となる第1金属層が多孔性セラミックス膜の主な細孔内部に侵入することなく細孔表面をほぼ覆った後、第2段階の金属膜の製膜として、形成された第1金属層上への第2金属層のめっきを行う。その時、第1金属層が形成された多孔性セラミック膜の一方面側(第1金属層が形成されている面側)の圧力が、多孔性セラミック膜の他方面側(第1金属層が形成されていない面側)の圧力よりも大きくなるようにして、多孔性セラミック膜の一方面側に置かれた無電解めっき液を第1金属層に存在する欠陥及び/又は多孔性セラミックス膜上に残存する欠陥に侵入させる。その結果として、これらの欠陥内部でパラジウムまたはパラジウム合金薄膜を形成する金属の析出が生じ効率的に欠陥を閉塞させることができる。ここで第1段階の第1金属層がパラジウムである場合は必ずしも必要でないが、第2段階の始めに無電解めっき用触媒微粒子付与工程を実施しても良い。この時、多孔性セラミックス膜の触媒溶液に接触している一方面側の圧力が他方面側の圧力より大きくなるようにして、触媒溶液を欠陥内に導入すれば良い。また、触媒の還元時にも、多孔性セラミックス膜の還元剤を含んだ溶液に接触している一方面側の圧力が他方面側の圧力より大きくなるようにして、溶液を欠陥内に導入すれば良い。ここで、第1段階の無電解めっき液と第2段階の無電解めっき液は異なっていても良い。
【0035】
このような製造方法によると、図1に示したように、多孔性セラミックス膜(多孔性支持体)の細孔を閉塞することなく、しかも欠陥の生成を抑制して多孔性支持体の一方面上にパラジウム又はパラジウム合金を構成する金属の膜を形成して無欠陥化水素分離膜とすることができる。更に、この無欠陥化水素分離膜を基材として、より欠陥の少ない無欠陥化水素分離膜を製造することができる。
【0036】
即ち、ここで形成された第1金属層と第2金属層を有する金属薄膜上にパラジウム薄膜またはパラジウム合金薄膜を構成する金属を製膜して無欠陥化水素分離膜としても良い。既に基材となる金属薄膜は無欠陥化されているので、製膜方法としては公知の方法を用いれば良く、例えば電気めっき、無電解めっき、置換めっき、化学蒸着といった手法で行えば良い。この時、めっき液または蒸着ガスに接触している薄膜面の圧力が他方面側の支持体側の面の圧力より大きくなるようにして、めっき液や蒸着ガスを残存する微小欠陥内に侵入させれば更なる無欠陥化が可能となる。
【0037】
上記のように多孔性セラミックス膜上にパラジウム薄膜を成膜した場合、水素分離膜として、そのまま用いても差し支えないが、熱処理を行うと性能が安定化するので好ましい。また、パラジウム合金を構成する金属を成膜した場合、水素分離膜として、そのまま用いても差し支えないが、完全な合金状態を得るために熱処理が必要である。この熱処理は通常、還元ガス雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気下で加熱することによって行うことができる。還元ガスとしては、例えば水素、一酸化炭素、メタノール等の還元性を有する気体を用いることができる。不活性ガスとしてはヘリウム、窒素、アルゴン等が例示できる。あるいは、真空下で行ってもよい。処理温度は適宜設定することができるが、300〜800℃程度とすることが好ましく、400〜700℃とすることが特に好ましい。熱処理の上限温度は多孔性セラミックスや焼結金属(多孔性セラミックス膜の支持体とした場合)の耐熱性も考慮して決定される。処理中に水素分離膜表面に付着した有機物を取り除くため、酸素あるいは酸素を含んだ気体と接触させても差し支えない。
【0038】
このように構成された水素分離膜は、常法に従って、水素を含有する混合気体から水素のみを分離するために使用できる。例えば、該水素分離膜によって隔離された任意の一方の側(水素分離膜の一方面側)に水素含有混合気体を位置させて該水素分離膜の一方の面を水素含有気体と接触させ、水素分離膜の他方の面側の水素分圧を水素含有混合気体側の水素分圧以下とすればよい。これにより水素分離膜中を水素が選択的に透過して、水素含有混合気体側にある水素のみを反対側に移動させて分離することができる。この場合の水素分離膜の温度は、通常150℃〜700℃程度、好ましくは300℃〜600℃程度とすればよい。温度が低すぎるとパラジウム又はパラジウム合金薄膜の脆化が生じ易くなり、温度が高すぎると膜の劣化が生じ易くなるので好ましくない。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
内部と外部が隔離された有底筒状のステンレス製焼結金属フィルター(フィルター長5cm、フィルター直径1cm)の外表面にイットリウム安定化酸化ジルコニウム粒子をコーティングして製作した層厚30μm、平均細孔径0.1μmのセラミックス多孔体薄膜(多孔性セラミックス膜)を成膜した多孔性支持体を、市販のアルカリ触媒中に50℃で浸漬して、外表面にパラジウムイオンを付着させ、引き続き、市販の還元液中で還元した。次に、市販の無電解パラジウムめっき液を有底筒状の焼結金属フィルターの内部に満たし、セラミックス多孔体薄膜の外表面をグルコース濃度4mol/Lの水溶液中に室温で1時間浸漬しセラミックス多孔体薄膜表面に存在する欠陥をパラジウムで閉塞した多孔性支持体を得た。この支持体を水洗後、市販の無電解パラジウムめっき液中に50℃で浸漬し、多孔性セラミックス膜表面にパラジウムを析出させた。多孔性支持体の外表面がパラジウムからなる第1金属層に覆われた後、無電解パラジウムめっき液をパラジウムからなる第1金属層に残存する貫通欠陥に導くため有底筒状のフィルター内部をポンプによって0.1気圧まで減圧して無電解パラジウムめっき(第2金属層のめっき)を行った。尚、パラジウムからなる第1金属層の推定される平均層厚は0.1μmであり、最終的なパラジウム薄膜の平均膜厚は1.9μmであった。
【0040】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素雰囲気下400℃で24時間、加熱処理して多孔性セラミックス膜を支持体とするパラジウム薄膜からなる無欠陥化水素分離膜を得た。
【0041】
上記方法で得られた無欠陥化水素分離膜について、水素差圧0〜2気圧、アルゴン差圧0〜4気圧の範囲でガス透過試験を行った結果、400℃において3.0mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得た。また、アルゴンの透過速度は0.9nmol/s/m/Paであり、差圧1気圧における水素選択比は11100であった。
【0042】
実施例2
実施例1と同様の操作で多孔性セラミックス膜表面の欠陥をパラジウムで閉塞した多孔性支持体上に実施例1と同様の操作でパラジウムからなる第1金属層を形成し、引き続き実施例1と同様の操作で有底筒状のフィルター内部を減圧しパラジウム薄膜を成膜した。尚、パラジウムからなる第1金属層の推定される平均層厚は0.3μmであり、最終的なパラジウム薄膜の平均膜厚は1.4μmであった。
【0043】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素雰囲気下400℃で24時間、加熱処理して多孔性セラミックス膜を支持体とするパラジウム薄膜からなる無欠陥化水素分離膜を得た。
【0044】
ガス透過試験の結果、400℃において4.0mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得た。また、アルゴンの透過速度は2.3nmol/s/m/Paであり、差圧1気圧における水素選択比は5400であった。
【0045】
実施例3
実施例1と同様の操作で多孔性セラミックス膜表面の欠陥をパラジウムで閉塞した多孔性支持体上に実施例1と同様の操作でパラジウムからなる第1金属層を形成し、引き続き実施例1と同様の操作で有底筒状のフィルター内部を減圧しパラジウム薄膜を成膜した。尚、パラジウムからなる第1金属層の推定される平均層厚は0.2μmであり、最終的なパラジウム薄膜の平均膜厚は0.7μmであった。
【0046】
そして、引き続き、この多孔性支持体上に形成されたパラジウム薄膜からなる無欠陥化水素分離膜をパラジウム及び銀のアンミン錯体からなる電気めっき液に浸漬し、有底筒状のフィルター内部をポンプによって0.1気圧まで減圧しながら、パラジウム薄膜上にパラジウム・銀合金の電気めっきを行い、パラジウム薄膜上にパラジウム・銀合金薄膜を形成した。
【0047】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素雰囲気下400℃で50時間、パラジウム中へ銀を拡散させる為に加熱処理して多孔性セラミックス膜を支持体とするパラジウム・銀合金薄膜からなる無欠陥化水素分離膜を得た。得られた合金の平均銀含有量は5重量%、合金の平均膜厚は1.7μmであった。
【0048】
ガス透過試験の結果、400℃において3.5mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得た。また、アルゴンの透過速度は1.4nmol/s/m/Paであり、差圧1気圧における水素選択比は7900であった。
【0049】
実施例4
実施例1と同様の操作で多孔性セラミックス膜表面の欠陥をパラジウムで閉塞した多孔性支持体上に実施例1と同様の操作でパラジウムからなる第1金属層を形成し、引き続き実施例1と同様の操作で有底筒状のフィルター内部を減圧しパラジウム薄膜を成膜した。尚、パラジウムからなる第1金属層の推定される平均層厚は0.2μmであり、最終的なパラジウム薄膜の平均膜厚は2.4μmであった。
【0050】
そして、引き続き、この多孔性支持体上に形成されたパラジウム薄膜からなる無欠陥化水素分離膜をパラジウム及び銀のアンミン錯体からなる電気めっき液に浸漬し、有底筒状のフィルター内部をポンプによって0.1気圧まで減圧しながら、パラジウム薄膜上にパラジウム・銀合金の電気めっきを行い、パラジウム薄膜上にパラジウム・銀合金薄膜を形成した。
【0051】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素雰囲気下400℃で50時間、パラジウム中へ銀を拡散させる為に加熱処理して多孔性セラミックス膜を支持体とするパラジウム・銀合金薄膜からなる無欠陥化水素分離膜を得た。得られた合金の平均銀含有量は4重量%、合金の平均膜厚は4.0μmであった。
【0052】
ガス透過試験の結果、400℃において2.4mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得た。また、アルゴンの透過速度は0.1nmol/s/m/Paであり、差圧1気圧における水素選択比は75000であった。
【0053】
実施例5
実施例1と同様の操作で多孔性セラミックス膜表面の欠陥をパラジウムで閉塞した多孔性支持体上に実施例1と同様の操作でパラジウムからなる第1金属層を形成し、引き続き実施例1と同様の操作で有底筒状のフィルター内部を減圧しパラジウム薄膜を成膜した。尚、パラジウムからなる第1金属層の推定される平均層厚は0.1μmであり、最終的なパラジウム薄膜の平均膜厚は1.2μmであった。
【0054】
そして、引き続き、この多孔性支持体上に形成されたパラジウム薄膜からなる無欠陥化水素分離膜を銅のエチレンジアミン錯体からなる電気めっき液に浸漬し、有底筒状のフィルター内部をポンプによって0.1気圧まで減圧しながら、パラジウム薄膜上に銅の電気めっきを行い、パラジウム薄膜上に銅薄膜を形成した。
【0055】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素気流下400℃で24時間、パラジウム薄膜と、その上にめっきされた銅薄膜との合金化の為に加熱処理を行い、多孔性セラミックス膜を支持体とするパラジウム・銅合金薄膜からなる無欠陥化水素分離膜を得た。得られた合金の平均銅含有量は40重量%、合金の平均膜厚は2.3μmであった。
【0056】
ガス透過試験の結果、400℃において1.7mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得た。また、アルゴンの透過速度は0.7nmol/s/m/Paであり、差圧1気圧における水素選択比は7700であった。
【0057】
比較例1
実施例1と同様の操作で多孔性セラミックス膜表面の欠陥をパラジウムで被覆した後、パラジウムからなる第1金属層の形成を行わない以外は実施例1と同様の操作で有底筒状のフィルター内部を減圧し、多孔性セラミックス膜の表面細孔内にパラジウムめっき液を導いてパラジウム薄膜を成膜した。最終的なパラジウム薄膜の平均膜厚は1.9μmであった。
【0058】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素気流下400℃で24時間、加熱処理して多孔性セラミックス膜を支持体とするパラジウム薄膜からなる水素分離膜を得た。
【0059】
ガス透過試験の結果、400℃において2.2mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得た。また、アルゴンの透過速度は0.4nmol/s/m/Paであり、差圧1気圧における水素選択比は16700であった。この比較例1と上述の実施例1とを比較すると、水素透過速度は、比較例が2.2mmol/s/m/Pa0.5であるのに対し、実施例1が3.0mmol/s/m/Pa0.5であり、本発明に係る水素分離膜が、優れた水素透過速度性能を有することが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体の表面細孔に実質的に侵入することなく前記多孔性支持体上に形成されたパラジウムからなる第1金属層と、前記第1金属層の上に該第1金属層表面に開口する欠陥を閉塞しつつパラジウムを堆積することで形成された第2金属層とを有する金属薄膜を備える無欠陥化水素分離膜。
【請求項2】
多孔性支持体の表面細孔に実質的に侵入することなく前記多孔性支持体上に形成されたパラジウム合金を構成する金属の1種類、又は複数種類からなる第1金属層と、前記第1金属層の上に該第1金属層表面に開口する欠陥を閉塞しつつパラジウム合金を構成する金属の1種類、又は複数種類を堆積することで形成された第2金属層とを有する金属薄膜を備える無欠陥化水素分離膜。
【請求項3】
前記金属薄膜の膜厚は3μm以下である請求項1又は2に記載の無欠陥化水素分離膜。
【請求項4】
熱処理を更に施すことにより形成した、請求項1から3のいずれかに記載の無欠陥化水素分離膜。
【請求項5】
水素透過速度が400℃において3mmol/s/m/Pa0.5以上である請求項1〜4のいずれかに記載の無欠陥化水素分離膜。
【請求項6】
前記金属薄膜の上にパラジウム薄膜またはパラジウム合金薄膜を構成する金属が製膜され、膜厚が6μm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の無欠陥化水素分離膜。
【請求項7】
多孔性支持体の一方面を活性化金属を含有する溶液に浸漬させる活性化ステップと、
パラジウムイオンを含有するめっき液に前記多孔性支持体の前記一方面側を浸漬して、パラジウムからなる第1金属層を形成する第1金属層形成ステップと、
パラジウムイオンを含有するめっき液に前記第1金属層が形成された前記多孔性支持体の前記一方面側を浸漬し、前記多孔性支持体の前記一方面側の圧力を他方面側の圧力よりも高める圧力差形成ステップとを有し、
パラジウムが、前記第1金属層表面に開口する欠陥を閉塞しつつ成膜されることを特徴とする無欠陥化水素分離膜の製造方法。
【請求項8】
多孔性支持体の一方面を活性化金属を含有する溶液に浸漬させる活性化ステップと、
パラジウム合金を形成する金属イオンを含有するめっき液に前記多孔性支持体の前記一方面側を浸漬して、パラジウム合金を構成する金属の一種類又は複数種類からなる第1金属層を形成する第1金属層形成ステップと、
パラジウムイオン又はパラジウム合金を形成する金属イオンを含有するめっき液に前記第1金属層が形成された前記多孔性支持体の前記一方面側を浸漬し、前記多孔性支持体の前記一方面側の圧力を他方面側の圧力よりも高める圧力差形成ステップとを有し、
パラジウム合金を構成する金属の一種類又は複数種類が、前記第1金属層に開口する欠陥を閉塞しつつ成膜されることを特徴とする無欠陥化水素分離膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6に記載の無欠陥化水素分離膜を介して、一方側に水素含有混合気体を位置させ、他方側の水素分圧を水素含有混合気体側の水素分圧以下とすることを特徴とする水素含有混合気体からの水素の分離方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−206629(P2011−206629A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74206(P2010−74206)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】