説明

無段変速機の組立検査方法および組立検査装置

【課題】チェーン式の無段変速機を組み立てた後にチェーンのロッカーピンが抜けているか否かを自動的に検査する。
【解決手段】この組立検査装置は、複数のリンクプレートおよび複数本で対をなして前記リンクプレート相互を連結するロッカーピンにより構成され、無段変速機に組み付けられたチェーン15におけるロッカーピンの抜けを検査するために使用される。セカンダリ軸12を駆動側として回転シャフト48aにより無段変速機10を駆動した状態のもとで、チェーン15のうちセカンダリプーリからプライマリプーリに向けて移動する押し込み領域における変位部位の発生を検出することにより、ピン抜けが発生しているか否かを検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーン式の無段変速機の組立完了後にチェーンを構成するロッカーピンが抜けているか否かを検査する無段変速機の組立検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン動力を駆動輪に伝達するための動力伝達系を構成する自動変速機には、変速機入力軸の回転を無段階に変化させて変速機出力軸に伝達するようにした無段変速機(CVT)がある。無段変速機は、変速機入力軸としてのプライマリ軸に設けられるプライマリプーリと、変速機出力軸としてのセカンダリ軸に設けられるセカンダリプーリと、これらのプーリの間に装着される動力伝達要素とを有している。無段変速機の動力伝達要素には、ゴム系材料製のVベルト、スチール製のベルト積層体により形成される金属ベルト、およびリンクプレートを無端状にピン結合して形成されるチェーン等がある。
【0003】
金属ベルトは、帯状のスチールを積層して形成され無段状のベルト積層体と、これが嵌め込まれる凹部が形成された金属エレメント積層体とから構成される。チェーンは、複数のリンクプレートと、長手方向に隣り合うリンクプレートを相互に連結するロッカーピンとにより構成される。このような動力伝達要素が使用される無段変速機においては、動力伝達要素をその製造後に単体で検査するだけでなく、動力伝達要素がプーリ間に組み付けて無段変速機が組み立てられた後にも動力伝達要素が設計通りの構造となっているか否かを検査している。
【0004】
特許文献1には、金属ベルトを組み立てる前に、金属エレメント積層体の凹部に異物が入り込んでいるか否かを検査する金属エレメントの検査装置が記載されている。特許文献2には、車両が走行しているときに金属ベルト式無段変速機のベルトが損傷したか否かを、プーリの回転数を検出するセンサを利用して検出するようにしたベルト損傷検出装置が記載されている。さらに、特許文献3には、Vベルト式無段変速機のゴム製のVベルトの劣化による破断前兆を検出するようにした無段変速機が特許文献1に記載されている。この無段変速機においては、Vベルトの劣化に伴って生じる外側層の剥離を駆動プーリ側のカバー内に設けた接触式センサにより検知するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4003974号公報
【特許文献2】特開2008−57982号公報
【特許文献3】特許第3499210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無段変速機に動力伝達要素として用いられるチェーンは、複数のリンクプレートを無端状つまりループ状にピン結合するとともに、チェーンの厚み方向に複数枚のリンクプレートを積層させた構造となっている。それぞれのリンクプレートの両端部に装着されて長手方向に隣り合うリンクプレートを連結するためのロッカーピンは、リンクプレートの両端部にそれぞれ2本ずつ対となって装着されている。
【0007】
チェーンの組立製造が完了すると、組み立てられたチェーン単品について全てのロッカーピンが装着されているか否かが検査され、検査後にチェーンはプライマリプーリとセカンダリプーリとの間に組み付けられる。しかしながら、チェーンは、2本のロッカーピンを一対として長手方向に隣り合うリンクプレートの端部同士を連結しているので、チェーンをプーリ間に組み付ける前に、対をなす2本のロッカーピンのうち1本が脱落していても、チェーンはループ状を維持しており、作業者にはチェーンを一瞥しただけではロッカーピンが脱落していることが分かりにくい。対をなす2本のロッカーピンのうち1本が抜けたままの状態となって無段変速機が車両に搭載されると、車両走行時に切断したり、耐久性が低下したりするので、無段変速機の組立が完了した後にロッカーピンの抜けを検査する必要がある。
【0008】
チェーンを構成するロッカーピンが装着されているか否かの検査は、従来では作業者による目視観察によって行われており、その作業性が悪く、ロッカーピンの抜け検査の自動化が求められている。
【0009】
本発明の目的は、チェーン式の無段変速機を組み立てた後にチェーンのロッカーピンが抜けているか否かを自動的に検査し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の無段変速機の組立検査方法は、それぞれ複数のリンクプレートを連結して形成される複数のリンクプレート列および複数本で対をなして前記リンクプレート相互を連結するロッカーピンにより構成されるチェーンと、プライマリプーリが溝幅可変に設けられたプライマリ軸と、前記プライマリプーリとの間で前記チェーンが掛け渡されるセカンダリプーリが溝幅可変に設けられたセカンダリ軸とを備えた無段変速機の組立検査方法であって、前記プライマリ軸と前記セカンダリ軸の一方を駆動側として回転シャフトにより無段変速機を回転駆動した状態のもとで、前記チェーンのうち駆動側の軸に設けられたプーリから従動側のプーリに向けて移動する押し込み領域もしくは従動側の軸に設けられたプーリから駆動側のプーリに向けて移動する引き込み領域における変位部位の発生を変位検出手段により検出し、前記変位検出手段からの信号により変位部位の発生に基づいて前記ロッカーピンの抜けを検査することを特徴とする。
【0011】
本発明の無段変速機の組立検査方法は、前記変位検出手段からの信号に基づいて前記ロッカーピンの抜けを表示手段に表示することを特徴とする。本発明の無段変速機の組立検査方法は、前記チェーンのうち両方の前記プーリ間のガイド領域を案内するガイドレールに接触させた接触子に加わる荷重をロードセルにより検出し、前記チェーンのうち前記ガイド領域を通過した部分の屈曲変位に起因して前記接触子に加わる荷重により前記ロッカーピンの抜けを検出することを特徴とする。本発明の無段変速機の組立検査方法は、前記接触子に対して前記ガイドレールに向けて一定の押し付け力を加えた状態のもとで前記接触子に加わる荷重を検出することを特徴とする。本発明の無段変速機の組立検査方法は、前記プライマリ軸と前記セカンダリ軸の一方を駆動側軸として前記セカンダリプーリに対する前記チェーンの巻付け径を最大径とした状態のもとで前記セカンダリ軸を回転し、前記チェーンのうち両方の前記プーリの間の部分と前記プライマリプーリに接触する部分との境界部に発生する屈曲変位部位の発生を検出することを特徴とする。
【0012】
本発明の無段変速機の組立検査装置は、複数のリンクプレートおよび複数本で対をなして前記リンクプレート相互を連結するロッカーピンにより構成されるチェーンと、プライマリプーリが溝幅可変に設けられたプライマリ軸と、前記プライマリプーリとの間で前記チェーンが掛け渡されるセカンダリプーリが溝幅可変に設けられたセカンダリ軸とを備えた無段変速機の組立検査装置であって、前記プライマリ軸と前記セカンダリ軸の一方を駆動側として駆動側軸を回転する回転シャフトと、前記チェーンのうち駆動側の軸に設けられたプーリから従動側のプーリに向けて移動する押し込み領域もしくは従動側の軸に設けられたプーリから駆動側のプーリに向けて移動する引き込み領域の変位を検出する変位検出手段とを有し、前記チェーンの変位部位の発生に基づいて前記ロッカーピンの抜けを検査することを特徴とする。
【0013】
本発明の無段変速機の組立検査装置は、前記変位検出手段からの信号に基づいて前記ロッカーピンの抜けを表示するピン抜け表示手段を有することを特徴とする。本発明の無段変速機の組立検査装置は、前記変位検出手段は、前記チェーンのうち両方の前記プーリの間のガイド領域を案内するガイドレールに接触する接触子と、前記ガイドレールを介して前記接触子に加わる荷重を検出するロードセルとを有し、前記チェーンのうち前記ガイド領域を通過した部分の屈曲変位に起因して前記接触子に加わる荷重により前記ロッカーピンの抜けを検出することを特徴とする。本発明の無段変速機の組立検査装置は、前記接触子に対して前記ガイドレールに向けて一定の押し付け力を加える荷重付与手段を有することを特徴とする。本発明の無段変速機の組立検査装置は、前記プライマリ軸と前記セカンダリ軸の一方を駆動側軸として前記セカンダリプーリに対する前記チェーンの巻付け径を最大径とした状態のもとで前記セカンダリ軸を回転し、前記チェーンのうち両方の前記プーリの間の部分と前記プライマリプーリに接触する部分との境界部に発生する屈曲変位部位の発生を前記変位検出手段により検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、複数のリンクプレートとリンクプレート相互を複数本で一対とするロッカーピン対とにより構成され、無段変速機に組み付けられたチェーンを検査する際に、プライマリ軸とセカンダリ軸の一方を駆動側として回転シャフトにより回転させることにより、チェーンのうち駆動側のプーリから従動側のプーリに向けて移動する押し込み領域部と従動側から駆動側のプーリに向けて移動する引き込み領域部とを発生させる。この押し込み領域部と引き込み領域部においては、ロッカーピン対を構成するロッカーピンが抜けていると、その部分は変位部位となって鋭角に屈曲することになる。この屈曲変位部位を検出することによってチェーンにピン抜けが発生しているか否かを自動的に検査することができる。
【0015】
変位部位の検出は、チェーンに直接あるいは間接的に接触子を押し付け、接触子に変位部位により加えられた荷重を検出することにより、荷重が閾値を超えたときにはチェーンにピン抜きが発生していると判定することにより、自動的にチェーンにおけるピン抜けを検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】チェーン式無段変速機の一例を示す断面図である。
【図2】図1における横断面図である。
【図3】(A)は図1における一部拡大断面図、(B)はチェーンの側面図、(C)は(B)の平面図である。
【図4】(A)はロッカーピンが抜けていない状態のもとで特定の曲率半径で湾曲した状態のチェーンを示す正面図であり、(B)はロッカーピンが抜けた場合のチェーンの屈曲変位部位を示す正面図である。
【図5】無段変速機の組立検査装置を示す正面図である。
【図6】図5に示された検査ユニットを示す拡大正面図である。
【図7】図6における7−7線断面図である。
【図8】組立検査装置の制御回路を示すブロック図である。
【図9】組立検査装置によりピン抜けが発生したチェーンを検査したときにおけるモニタに表示された検査結果の一例を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。チェーン式無段変速機10は、図1に示されるように、変速機入力軸としてのプライマリ軸11とこれに対して平行に配置される変速機出力軸としてのセカンダリ軸12とを備えている。プライマリ軸11にはプライマリプーリ13が設けられている。プライマリプーリ13は、プライマリ軸11に固定されてプライマリ軸11とともに回転する固定シーブ13aと、プライマリ軸11に軸方向に移動自在に装着されてプライマリ軸11とともに回転する可動シーブ13bとを備えている。セカンダリ軸12にはセカンダリプーリ14が設けられている。セカンダリプーリ14は、セカンダリ軸12に固定されてセカンダリ軸12とともに回転する固定シーブ14aと、セカンダリ軸12に軸方向に移動自在に装着されてセカンダリ軸12とともに回転する可動シーブ14bとを備えている。
【0018】
プライマリプーリ13とセカンダリプーリ14との間には、エンドレスつまり無端状のチェーン15が掛け渡される。プライマリプーリ13の固定シーブ13aと可動シーブ13bの対向面はそれぞれ径方向外方に向かうに従って対向面間の幅が大きくなるように傾斜している。セカンダリプーリ14の固定シーブ14aと可動シーブ14bの対向面も同様に傾斜している。それぞれの対向面間のプーリ溝幅を変化させてチェーン15のそれぞれのプーリに対する巻付け径を変化させることにより、プライマリ軸11の回転は無段階つまり連続的に変化されてセカンダリ軸12に伝達される。図2に示されるように、チェーン15のプライマリプーリ13に対する巻付け径をRpとし、セカンダリプーリ14に対する巻付け径をRsとすると、無段変速機10の変速比はRs/Rpとなる。
【0019】
プライマリプーリ13の溝幅を変化させるために、図1に示されるように、プライマリ軸11にはシリンダ16が取り付けられ、このシリンダ16の内周面には可動シーブ13bに設けられたプランジャ17が摺動自在に接触している。シリンダ6とプランジャ17とによりプライマリ油室18が形成されており、このプライマリ油室18にはプライマリ軸11に形成された油圧供給用の油路19が連通している。
【0020】
セカンダリプーリ14の溝幅を変化させるために、セカンダリ軸12には円筒部21aとディスク部21bとを有するプランジャ21が固定され、このプランジャ21のディスク部外周面にはセカンダリプーリ14の可動シーブ14bに設けられたシリンダ22が摺動自在に接触している。シリンダ22とプランジャ21によりセカンダリ油室23が形成されており、このセカンダリ油室23にはセカンダリ軸12に形成された油圧供給用の油路24が連通している。
【0021】
プライマリプーリ13とセカンダリプーリ14の溝幅は、プライマリ油室18に油路19を介して導入されるプライマリ圧と、セカンダリ油室23に油路24を介して導入されるセカンダリ圧とを調整することにより制御される。セカンダリ油室23内にはセカンダリプーリ14の溝幅を小さくする方向のばね力を可動シーブ14bに付勢するために圧縮コイルばね25が装着されており、この圧縮コイルばね25の一端は可動シーブ14bの背面に当接し、他端はプランジャ21の内面に当接している。
【0022】
無段変速機10は、図1に示されるように、プライマリ軸11とセカンダリ軸12とチェーン15とを有しており、これらの部材は図示しないトランスミッションケース内に組み付けられる。
【0023】
図1および図2に示されるように無段変速機10の組立が完了し、プライマリ油室18とセカンダリ油室23とに油圧が供給されていないときには、コイルばね25のばね力によりセカンダリプーリ14の溝幅が最も狭くなっている。このときは、セカンダリプーリ14に対するチェーン15の巻付け径は最大となっており、プライマリプーリ13に対するチェーン15の巻付け径は最小となっているので、変速比は低速側となっている。
【0024】
チェーン15は、図3(B)に示されるように、両端面が円弧形状となったほぼ長方形の複数のリンクプレート26と、長手方向に隣り合うリンクプレート26をそれぞれの端部で連結するロッカーピン対27とにより構成されている。チェーン15は、図2に示されるように、リンクプレート26を連結することにより全体的にループ状つまり無端状に組み立てられている。それぞれのロッカーピン対27は、2本のロッカーピン27aで一対をなしている。ロッカーピン対27は、リンクプレート26の端部に形成され貫通孔28を貫通しており、リンクプレート26に対して揺動自在となっている。両端の貫通孔28は中央の凹部29に連通している。
【0025】
図3(B)に示されるように、チェーン15は、リンクプレート26の両端部をロッカーピン対27により連結して構成されるリンクプレート列を、図3(C)に示すように複数列厚み方向に積層することにより形成されている。それぞれのロッカーピン27aの両端部には、リンクプレート26からそれぞれのロッカーピン27aが抜け落ちるのを防止するために、止めピン30が取り付けられている。
【0026】
図2に示すように、チェーン15のうちプライマリプーリ13とセカンダリプーリ14に巻き付けられた部分以外の部分には、チェーン15の移動を案内するためのガイドレール31,32が図示しないトランスミッションケースに装着されている。それぞれのガイドレール31,32は、チェーン15のそれぞれのプーリに対する巻き付け径が変化すると、支持軸33,34を中心に揺動するようになっている。
【0027】
チェーン15は、上述のように、複数のリンクプレート26とこれらを連結する複数対のロッカーピン対27とを組み立てることにより形成されている。止めピン30をそれぞれのロッカーピン27aの両端部に溶接することにより、チェーン15の組立が完了する。組立完了後のチェーン15は、検査工程において設計通りの枚数のリンクプレート26を有しているか、全てのロッカーピン対27が取り付けられているかが検査される。
【0028】
無段変速機10は、図1に示されるように、プライマリプーリ13とセカンダリプーリ14との間にチェーン15を組み付けることにより組み立てられ、これらの部材は図示しないトランスミッションケース内に組み込まれる。チェーン15をプーリに組み付ける前あるいは組み付ける際に、止めピン30が外れてロッカーピン対27を構成するロッカーピン27aが脱落する恐れがある。対をなす2本のロッカーピン27aのうちの1本が脱落してもチェーン15は切断されることなく無端状となっているので、チェーン15を一瞥しただけではロッカーピン27aの脱落を検出することができない。1本のロッカーピン27aが脱落すると、チェーン15の全長は長くなるが、その長さは全長のバラツキの許容値の範囲内であるので、チェーン15の全長を測定してもロッカーピン27aの抜け落ちを検出することができない。
【0029】
図4(A)はロッカーピン27aが抜け落ちていない状態のもとでチェーン15が特定の曲率半径で湾曲した場合におけるチェーン15の一部を示す正面図である。これに対し、図4(B)はチェーン15のうち対をなしてロッカーピン対27を構成する2本のロッカーピン27aのうちの1本が抜け落ちた部分を示す正面図である。
【0030】
チェーン15の全てのロッカーピン対27が2本のロッカーピン27aを有していれば、図4(A)に示されるように、チェーン15はプーリに対する巻き付け径に応じてリンクプレート26がロッカーピン対27に対して揺動することになる。これに対し、対をなす複数本のロッカーピン27aのうちの1本が抜けていると、図4(B)に示すように、リンクプレート26はチェーン15の長手方向にずれるように変位することになる。したがって、チェーン15の全長はわずかではあるが長くなるが、上述のように、1本のチェーン15から1本のロッカーピン27aが抜けても、増加する長さはチェーン15の全長のバラツキ許容値の範囲内である。
【0031】
無段変速機10を組み立てた状態のもとで、チェーン15に1本でもロッカーピン27aの抜けがあると、プーリを試験的に回転させてチェーン15を回転移動させると、特定の部位が変位することになる。例えば、図2において矢印Aで示すように、セカンダリ軸12を駆動側としてこれを時計方向に回転駆動してチェーン15を介してプライマリ軸11を従動回転させると、チェーン15のうちセカンダリプーリ14からプライマリプーリ13に向けて移動する直線部分35は、セカンダリプーリ14により押し込み方向の推力を受ける押し込み領域部となる。ガイドレール31は、この押し込み領域を案内することになる。これに対して、チェーン15のうちプライマリプーリ13からセカンダリプーリ14に向けて移動する直線部分36は、セカンダリプーリ14により引っ張り方向の推力を受ける引っ張り領域部つまり引き込み領域部となる。ガイドレール32は、この引き込み領域部を案内することになる。
【0032】
このように、チェーン15のうちガイドレール31内の直線部分35が押し込み領域部となるようにセカンダリ軸12を駆動側としてこれを回転駆動すると、ピン抜けが発生したチェーン15においては、直線部分35とチェーン15がプライマリプーリ13に巻き付けられる部分との境界部は、図2において二点鎖線で示すように、ピン抜けに起因してチェーン15が変位することになる。この変位によって、図4(B)に示したように、ピン抜けが発生した部分を中心にチェーン15には鋭角に湾曲した変位部位Mが発生することになる。
【0033】
上述とは逆に、プライマリ軸11を駆動側として図2においてプライマリ軸11を時計方向に回転駆動してセカンダリ軸12を従動回転させると、チェーン15のうちプライマリプーリ13からセカンダリプーリ14に向けて移動する直線部分36は、プライマリプーリ13により押し込み方向の推力を受ける押し込み領域部となる。したがって、チェーン15にピン抜けが発生していると、この押し込み領域部とセカンダリプーリ14との境界部に変位部位Mが発生することになる。これに対して、チェーン15のうちセカンダリプーリ14からプライマリプーリ13に向けて移動する直線部分35は、プライマリプーリ13により引っ張り方向の推力を受ける引き込み領域部となる。
【0034】
チェーン15にピン抜けが存在すると、プライマリ軸11とセカンダリ軸12の一方を駆動側軸としてこれらを回転させると、それぞれの直線部分35,36とプーリに巻き付けられた湾曲部との境界部分に径方向に変位した部分が発生する。特に、図2に示すように、セカンダリプーリ14の巻付け径が最大となった状態のもとで、セカンダリ軸12を駆動側軸としてこれを回転駆動した場合には、図2に二点鎖線で示すように、チェーン15の押し込み領域部、特に押し込み領域部と巻付け部との境界部が径方向外方に変位することになる。この変位部位Mが発生しているか否かを検出することにより、ピン抜けの発生を検査することができる。
【0035】
図5は無段変速機の組立検査装置を示す正面図であり、図6は図5に示された検査ユニットを示す拡大正面図であり、図7は図6における7−7線断面図であり、図8は組立検査装置の制御回路を示すブロック図である。図示する組立検査装置においては、ピン抜けに起因してチェーン15の押し込み領域部に変位が発生しているか否かを検出することにより、ピン抜けの検査を行っている。
【0036】
図5に示すように、組立が完了した無段変速機10はプライマリ軸11とセカンダリ軸12が垂直方向を向くようにパレット41に搭載されてコンベア42によって検査ステーションに搬送されるようになっている。検査ステーションには、図5に示されるように、支持梁43が上端部に設けられた支柱44が取り付けられている。支柱44に設けられたガイド45には検査ユニット46が上下に移動自在に装着されており、検査ユニット46は支持梁43に取り付けられた昇降シリンダ47のロッド47aにより上下に駆動される。検査ユニット46にはナットランナー48が取り付けられ、このナットランナー48により回転駆動される回転シャフト48aの先端にはソケット49が取り付けられている。ソケット49にはセカンダリ軸12の端部に嵌合される六角穴が形成されており、昇降シリンダ47により検査ユニット46を下降移動させると、ソケット49がセカンダリ軸12の端部に嵌合される。これにより、ナットランナー48の回転シャフト48aによりセカンダリ軸12を駆動側としてこれを回転させてチェーン15を介してプライマリ軸11を追従回転させることができる。
【0037】
検査ユニット46には図5に示すように変位検出ヘッド51が取り付けられている。変位検出ヘッド51は、図6および図7に示されるように、検査ユニット46に固定されたヘッド駆動用の空気圧シリンダ52のスライドテーブル53に取り付けられており、スライドテーブル53は図6において左右方向に往復動自在となっている。スライドテーブル53に固定されたヘッド基台54には空気圧シリンダ52のロッド52aが連結されている。空気圧シリンダ52を駆動すると、ヘッド基台54は空気圧シリンダ52の下面に装着されたスライドテーブル53とともに図6において左右方向に往復動される。
【0038】
ヘッド基台54の下面にはブラケット54aにより押し付け用の空気圧シリンダ55が取り付けられており、この空気圧シリンダ55により往復動するロッド55aの先端にはスライドブロック56が取り付けられている。このスライドブロック56には、接触子57が設けられたロードセル58が取り付けられており、ロードセル58は接触子57に加わる荷重に応じた検出信号を出力する。スライドブロック56は、ヘッド基台54の下面に固定されたガイド59により軸方向に往復動自在に装着されており、このスライドブロック56を介してロードセル58の接触子57が被測定部位に押し付けられる。
【0039】
図2において二点鎖線で示すように、ピン抜けに起因してチェーン15の押し込み領域部、特に、押し込み領域部と巻付け部との境界部が径方向外方に変位したことを検出するために、ロードセル58の接触子57は、ガイドレール31の下流側の端部に突き当てられるようになっている。ヘッド基台54にはこれに取り付けられた支持プレート61を介してロック用の空気圧シリンダ62が取り付けられており、この空気圧シリンダ62のロッド62aには、スライドブロック56に形成された凹部63に嵌入されるロック片64が設けられている。
【0040】
したがって、図5に示した変位検出ヘッド51を昇降シリンダ47により下降移動させ、ロードセル58の接触子57をガイドレール31の下流側の端部に対向させる。この状態のもとで、図6に示されたヘッド駆動用の空気圧シリンダ52によりロードセル58をガイドレール31に向けて前進移動させて接触子57をガイドレール31に図2に示すように押し付ける。次いで、押し付け用の空気圧シリンダ55により接触子57は、ガイドレール31に対して10Nの一定荷重で押し付けられ、ロック用の空気圧シリンダ62によりスライドブロック56はロックされる。
【0041】
この状態のもとで、ナットランナー48によりセカンダリ軸12を駆動側としてこれを図2において矢印で示すように時計方向に回転させる。チェーン15にピン抜けが存在すると、図2において二点鎖線で示すように、ピン抜け部分を角部としてチェーン15の一部が径方向外方に突出するように変位することになる。このようにチェーン15の一部に変位部位Mが発生すると、その変位部位Mの発生によりガイドレール31が外方に向けて変位することになる。このガイドレール31の変位は接触子57に伝達されて、その荷重がロードセル58に検出される。
【0042】
図8に示すように、ナットランナー48はコントローラ65に接続されており、コントローラ65からの駆動信号により作動が制御される。上述したそれぞれの空気圧シリンダ52,55,62には圧縮空気を供給する状態と供給を停止する状態とに切り換える電磁弁66が接続されており、3つの電磁弁66はコントローラ65からの駆動信号により流路の開閉作動がそれぞれ制御される。コントローラ65には、ロードセル58からの検出信号に基づいてロードセル58に加わる荷重の変化を表示するモニタ67が接続されるとともに、荷重の変化を記録するメモリ68が接続されている。コントローラ65には操作盤69が接続されており、操作キーを入力することによって組立検査装置の作動が指令される。図8に示すように、コンベア42からはコントローラ65に信号が送られるようになっており、パレット41に搭載された無段変速機10が所定の検査位置まで搬送されたときには、コンベア42からコントローラ65に信号が送られ、自動的に組立検査が開始されるようになっている。ただし、操作盤69のキー操作によって組立検査を開始させるようにしても良い。
【0043】
図9は組立検査装置によりモニタ67に表示された検査結果を示すデータである。チェーン15に取り付けられるべき全てのロッカーピン27aのうち1本抜き取った状態のチェーン15を用いて無段変速機10を組み立ててコンベア42により検査ステージまで搬送してピン抜けの検査を行った。
【0044】
検査ステージにおいては、検査ユニット46が昇降シリンダ47により下降されてソケット49がセカンダリ軸12の端部に嵌合される。さらに、ロードセル58の接触子57がガイドレール31に押し付けられ、空気圧シリンダ62により接触子57のガイドレール31に対する押し付け力が一定値に設定される。この状態のもとで、セカンダリ軸12を駆動側軸としてチェーン15を回転移動させると、図9に示すような荷重データが得られた。この荷重データに示すように、ピン抜けに起因してチェーン15のピン抜け部が径方向外方に変位し、その変位によってガイドレール31には変位力が伝搬され、ロードセル58の検出荷重が大きくなる。これにより、ガイドレール31に加わる荷重をロードセル58により検出することによって、チェーン15にピン抜け部が存在すると、ピン抜け部の変位によりロードセル58に大きな荷重が加わることからピン抜けを自動的に検査することができる。なお、図9はチェーン15を3回転させた場合であり、ロッカーピン27aが1本抜けていることが示されている。複数本抜けていると、チェーン15を1回転させることによって、抜けたピンの数に相当する回数だけ大きな荷重が検出される。
【0045】
図2に示すように、セカンダリプーリ14に対するチェーン15の巻付け径は最大となっており、プライマリプーリ13に対する巻付け径は最小となっている。この理由は、セカンダリプーリ14には図1に示されるように、コイルばね25により溝幅を小さくする方向のばね力が加えられているので、無段変速機10の組立が完了したときには、図1および図2に示すような低速側の巻付け径となる。この状態のもとでは、セカンダリ軸12を駆動側軸としてチェーン15を回転移動させると、直線部分35がチェーン15の押し込み領域となり、この押し込み領域とプライマリプーリ13への巻付け部との境界部に大きな変位部が形成される。
【0046】
ピン抜けによりチェーン15に変位部が発生するのは、巻付け部と直線部との境界部であり、変位部はそれぞれの直線部の両端部に相当する4個所に発生することになる。つまり、押し込み領域部と引き込み領域部の両端部いずれにも変位部が発生することになる。いずれかの部分の変位部を検出することによって、チェーン抜けを検査することができる。駆動側とする軸もプライマリ軸11とセカンダリ軸12のいずれを駆動軸としても良い。
【0047】
プライマリ軸11を駆動側の軸としてプライマリ軸11をナットランナー48により回転駆動するようにした場合には、ガイドレール32に案内される領域が押し込み領域となる。その場合であっても、チェーン15にピン抜けがあると、ガイドレール32を通過してセカンダリプーリ14に巻き付けられる前の部分には、ピン抜けにより変位部位Mが顕著に発生することになる。ただし、図2に示すように、セカンダリ軸12を駆動側としてナットランナー48によりセカンダリ軸12を駆動してガイドレール31によって、セカンダリプーリ14により押し出されてプライマリプーリ13に向かう押し込み領域の変位を検出するようにし、小径となったプライマリプーリ13側に変位部位Mを発生させるようにした方が、図9に示すように、より明確にピン抜けの発生を検査することができる。
【0048】
ロードセル58の接触子57をガイドレール31に押し付けることなく、チェーン15の外周面に直接的に押し付けることも可能である。ただし、図示するように、ロードセル58に伝達される荷重の変動はガイドレール31に接触子57を押し付けた方が少なくなる。ピン抜けに起因したチェーン15の変位を、非接触式のセンサによって検出することも可能であるが、チェーン15の外周面に接触子57を押し付けたり、ガイドレール31を利用してそれに接触子57を押し付けたりすることにより、確実にピン抜けを検出することができる。
【0049】
ロードセル58からの信号により検出された荷重を表示するモニタ67をピン抜け表示手段としているが、荷重が所定の閾値を超えたときに、ブザーを鳴らしたり、警報ランプを点灯するようにしたりしても良く、その場合にはブザーや警報ランプがピン抜け表示手段を構成することになる。
【0050】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。上述の実施の形態においては、ロードセル58により接触子57に加わる荷重からピン抜けを検出するようにしているが、非接触式のセンサによりチェーン15の屈曲変位を検出してピン抜けを検出するようにしても良い。
【符号の説明】
【0051】
10 無段変速機
11 プライマリ軸
12 セカンダリ軸
13 プライマリプーリ
14 セカンダリプーリ
15 チェーン
18 プライマリ油室
23 セカンダリ油室
25 圧縮コイルばね
26 リンクプレート
27 ロッカーピン対
27a ロッカーピン
30 止めピン
31,32 ガイドレール
35 直線部分(押し込み領域部)
36 直線部分(引き込み領域部)
46 検査ユニット
47 昇降シリンダ
48 ナットランナー
49 ソケット
51 変位検出ヘッド
54 ヘッド基台
57 接触子
58 ロードセル
65 コントローラ
67 モニタ(ピン抜け表示手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ複数のリンクプレートを連結して形成される複数のリンクプレート列および複数本で対をなして前記リンクプレート相互を連結するロッカーピンにより構成されるチェーンと、プライマリプーリが溝幅可変に設けられたプライマリ軸と、前記プライマリプーリとの間で前記チェーンが掛け渡されるセカンダリプーリが溝幅可変に設けられたセカンダリ軸とを備えた無段変速機の組立検査方法であって、
前記プライマリ軸と前記セカンダリ軸の一方を駆動側として回転シャフトにより無段変速機を回転駆動した状態のもとで、前記チェーンのうち駆動側の軸に設けられたプーリから従動側のプーリに向けて移動する押し込み領域もしくは従動側の軸に設けられたプーリから駆動側のプーリに向けて移動する引き込み領域における変位部位の発生を変位検出手段により検出し、
前記変位検出手段からの信号により変位部位の発生に基づいて前記ロッカーピンの抜けを検査することを特徴とする無段変速機の組立検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の無段変速機の組立検査方法において、前記変位検出手段からの信号に基づいて前記ロッカーピンの抜けを表示手段に表示することを特徴とする無段変速機の組立検査方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の無段変速機の組立検査方法において、前記チェーンのうち両方の前記プーリ間のガイド領域を案内するガイドレールに接触させた接触子に加わる荷重をロードセルにより検出し、前記チェーンのうち前記ガイド領域を通過した部分の屈曲変位に起因して前記接触子に加わる荷重により前記ロッカーピンの抜けを検出することを特徴とする無段変速機の組立検査方法。
【請求項4】
請求項3記載の無段変速機の組立検査方法において、前記接触子に対して前記ガイドレールに向けて一定の押し付け力を加えた状態のもとで前記接触子に加わる荷重を検出することを特徴とする無段変速機の組立検査方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の無段変速機の組立検査方法において、前記プライマリ軸と前記セカンダリ軸の一方を駆動側軸として前記セカンダリプーリに対する前記チェーンの巻付け径を最大径とした状態のもとで前記セカンダリ軸を回転し、前記チェーンのうち両方の前記プーリの間の部分と前記プライマリプーリに接触する部分との境界部に発生する屈曲変位部位の発生を検出することを特徴とする無段変速機の組立検査方法。
【請求項6】
複数のリンクプレートおよび複数本で対をなして前記リンクプレート相互を連結するロッカーピンにより構成されるチェーンと、プライマリプーリが溝幅可変に設けられたプライマリ軸と、前記プライマリプーリとの間で前記チェーンが掛け渡されるセカンダリプーリが溝幅可変に設けられたセカンダリ軸とを備えた無段変速機の組立検査装置であって、
前記プライマリ軸と前記セカンダリ軸の一方を駆動側として駆動側軸を回転する回転シャフトと、
前記チェーンのうち駆動側の軸に設けられたプーリから従動側のプーリに向けて移動する押し込み領域もしくは従動側の軸に設けられたプーリから駆動側のプーリに向けて移動する引き込み領域の変位を検出する変位検出手段とを有し、
前記チェーンの変位部位の発生に基づいて前記ロッカーピンの抜けを検査することを特徴とする無段変速機の組立検査装置。
【請求項7】
請求項6記載の無段変速機の組立検査装置において、前記変位検出手段からの信号に基づいて前記ロッカーピンの抜けを表示するピン抜け表示手段を有することを特徴とする無段変速機の組立検査装置。
【請求項8】
請求項6または7記載の無段変速機の組立検査装置において、前記変位検出手段は、前記チェーンのうち両方の前記プーリの間のガイド領域を案内するガイドレールに接触する接触子と、前記ガイドレールを介して前記接触子に加わる荷重を検出するロードセルとを有し、前記チェーンのうち前記ガイド領域を通過した部分の屈曲変位に起因して前記接触子に加わる荷重により前記ロッカーピンの抜けを検出することを特徴とする無段変速機の組立検査装置。
【請求項9】
請求項8記載の無段変速機の組立検査装置において、前記接触子に対して前記ガイドレールに向けて一定の押し付け力を加える荷重付与手段を有することを特徴とする無段変速機の組立検査装置。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の無段変速機の組立検査装置において、前記プライマリ軸と前記セカンダリ軸の一方を駆動側軸として前記セカンダリプーリに対する前記チェーンの巻付け径を最大径とした状態のもとで前記セカンダリ軸を回転し、前記チェーンのうち両方の前記プーリの間の部分と前記プライマリプーリに接触する部分との境界部に発生する屈曲変位部位の発生を前記変位検出手段により検出することを特徴とする無段変速機の組立検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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