説明

無洗剤洗濯機能の付与方法及び洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品

本発明の目的は、繊維又は繊維製品に洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の効果が得られるという機能を付与することができる繊維製品に無洗剤洗濯機能を付与する方法、及び、洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品を提供することである。本発明は、繊維又は繊維製品に親水化処理を施す無洗剤洗濯機能の付与方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維又は繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与することができる無洗剤洗濯機能を付与する方法、及び、洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
汚れた繊維製品は、洗剤を用いて洗濯することが常識である。これは、洗剤の主成分である界面活性剤の効果により汚れ成分と繊維の表面との剥離を促進することにより達成される。しかし、大量の洗剤が環境中に排出された場合、海や湖沼等の環境を著しく汚染する可能性が指摘されている。これに対して、近年では、洗剤中の成分を見直して、環境に与える影響の少ない成分を主成分とする洗剤や、より少ない量で従来と同等の洗浄効果が得られる洗剤等が開発され、上市されている。しかしながら、家庭用途及び産業用途で使用され排出される洗剤の量は膨大であり、環境に与える影響をいかに軽減するかは依然として大きな課題のままであった。
【0003】
これに対して、洗濯機や洗濯方法を工夫することにより、洗剤を用いなくとも洗剤を用いた場合と同等の洗浄効果が得られる洗濯方法も検討されている。例えば、特許文献1には、ヒドロニウムイオンやヒドロキシルイオン等を含有した洗剤を入れなくとも洗浄効果を有する水と空気との混合体を高速で衣類を通過させる洗濯方法が開示されている。しかしながら、この方法は特殊な洗濯機を必要とするうえ、皮脂汚れ等の油性成分による汚れに対する洗浄効果は不充分であるとの報告もあった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−237485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、繊維又は繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与することができる無洗剤洗濯機能を付与する方法、及び、洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に本発明を詳述する。
なお、本明細書において繊維製品には、肌着、上着、靴下、パンティーストッキング、手袋、帽子、ヘアバンド、ネクタイ等の衣類の他、ハンカチ、タオル、フェイスマスク、マフラー、シーツ、枕カバー、ふとん、クッション、おむつ、おむつカバー等の通常繊維が用いられる全てのものが含まれる。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、驚くべきことに繊維又は繊維製品に親水化処理を施すことより無洗剤洗濯機能を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。これは、繊維又は繊維製品で問題となる汚れのほとんどが皮脂汚れをはじめとする油性成分であるところ、繊維又は繊維製品を親水化することにより汚れ成分と繊維との結合力が弱くなり、界面活性剤を用いるまでもなく水のみによっても汚れ成分を剥離できるためと考えられる。なお、油性成分以外の汚れについては、もともと大量の水を用いて洗濯を行えば、界面活性剤を用いるまでもなく剥離することができる。
【0008】
本明細書において無洗剤洗濯機能とは、洗剤を用いずに洗濯した場合であっても、洗剤を用いて洗濯した場合と略同等の洗浄効果が得られることを意味し、略同等の洗浄効果が得られるとは、本発明の無洗剤洗濯機能の付与方法による親水化処理を施した繊維又は繊維製品を洗剤を用いずに洗濯した場合の洗浄効果が、未処理の繊維又は繊維製品を洗剤を用いて洗濯した場合の洗浄効果と同等であることを意味する。具体的には例えば、対象となる繊維又は繊維製品が白色である場合には、本発明の無洗剤洗濯機能の付与方法による親水化処理を施した繊維又は繊維製品を汚して洗剤を用いずに洗濯した後の汚す前の繊維又は繊維製品との白度の変化量が、未処理の繊維又は繊維製品を汚して洗剤を用いて洗濯した後の汚す前の繊維又は繊維製品との白度の変化量の110%以内であることを意味する。また、対象となる繊維又は繊維製品が白色を含む色物である場合には、例えば、本発明の無洗剤洗濯機能の付与方法による親水化処理を施した繊維又は繊維製品にオレイン酸10%owf、ゼラチン2.5%owfを付着させた後洗剤を用いずに洗濯した後のオレイン酸の残留率(%)が、未処理の繊維製品にオレイン酸10%owf、ゼラチン2.5%owfを付着させた後洗剤を用いて洗濯した後のオレイン酸の残留率(%)の110%以内であることを意味する。
【0009】
上記親水化処理としては特に限定されないが、例えば、親水基を導入する方法、親水性分子を導入する方法、物理的に表面を改質する方法、及び、親水性物質を含有するコーティング剤でコーティングする方法からなる群より選択される少なくとも1種により行われるものであることが好ましい。
【0010】
上記親水基を導入する方法としては特に限定されず、例えば、繊維又は繊維製品を構成する分子に、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、水酸基、リン酸基、エポキシ基、エーテル残基等の極性基又はこれらの基を有する基等の親水基を直接結合させる方法等が挙げられる。
【0011】
上記親水性分子を導入する方法としては特に限定されないが、例えば、繊維又は繊維製品を構成する分子に、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基等の極性基又はこれらの基を有する基等の親水基を有する分子を結合させたり、メタクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等をグラフト重合させて親水性の高い側鎖を結合させたりする方法等が挙げられる。この方法は、とりわけ繊維又は繊維製品がセルロース系、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等である場合に好適である。
【0012】
上記物理的に表面を改質する方法としては特に限定されないが、例えば、繊維又は繊維製品の表面にプラズマ処理、コロナ処理;紫外線、電子線、放射線、レーザー等の電離活性線処理、火炎処理、オゾン処理、酵素微生物処理等の処理を施す方法等が挙げられる。
上記親水性物質を含有するコーティング剤でコーティングする方法としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、グリオキサール樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ブタジエン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル−シリコン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂等のバインダー樹脂中に、親水性ビニル化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、親水性天然化合物等の親水性物質を溶解したコーティング剤を用いて繊維又は繊維製品の表面にコーティングする方法が挙げられる。また、これらのモノマー及びオリゴマーをコーティングした後、反応させて樹脂化させてもよい。
【0013】
本発明の無洗剤洗濯機能の付与方法の対象となる繊維又は繊維製品としては特に限定されず、セルロース系繊維(綿)、麻、絹、羊毛等の天然繊維からなるもの;ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、アクリル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維からなるものであってもよく、これらの混合繊維からなるものであってもよい。なかでも、セルロース系繊維は、肌着等をはじめとする繊維製品の多くに用いられることから、少なくともセルロース系繊維を含有するものが好適である。
【0014】
以下に本発明の無洗剤洗濯機能の付与方法について、繊維又は繊維製品が少なくともセルロース系繊維を含有するものである場合について、更に詳しく説明する。なお、少なくともセルロース系繊維を含有する繊維又は繊維製品が、セルロース系繊維と他の繊維との混合繊維である場合には、混合繊維の状態で下述する親水化処理を施してもよいし、セルロース系繊維のみに下述する親水化処理を施した後、混合を行ってもよい。
【0015】
本発明の無洗剤洗濯機能の付与方法において、上記繊維又は繊維製品が少なくともセルロース系繊維を含有するものである場合には、親水化処理によりセルロース系繊維の吸湿率を7.1%以上にすることが好ましい。7.1%未満であると、油性の汚れ成分と繊維又は繊維製品との結合力が強く、水だけでは充分に汚れ成分を落とせないことがある。より好ましくは7.5%以上である。吸湿率の上限については特に限定されないが、通常、好ましい上限は20%、より好ましい上限は15%である。
なお、上記吸湿率は下記式(1)により求めることができる。
【0016】
【数1】

上記式(1)において、絶乾重量は、例えば、測定対象となる繊維又は繊維製品を秤量ビンに入れて105℃で2時間乾燥させた後に秤量し、予め秤量しておいた秤量ビンの重量を差し引くことにより算出することができる。また、公定重量は、例えば、秤量ビンに入れて絶乾重量を測定した繊維又は繊維製品を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気に24時間放置した後に秤量し、秤量ビンの重量を差し引くことにより算出することができる。なお、絶乾重量及び公定重量の測定には、例えば、10×20cm程度の大きさの生地小片等を使用することができる。秤量は、重量が一定になるまで繰り返し測定する。
【0017】
繊維又は繊維製品が少なくともセルロース系繊維を含有するものである場合の親水化処理の方法としては特に限定されないが、高い吸湿率を比較的容易に付与できることから、カルボキシル基を導入する方法が好適である。なお、本明細書においてカルボキシル基には、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩も含まれる。
【0018】
上記セルロース系繊維にカルボキシル基を導入する方法の好ましい態様の1つを説明する。カルボキシル基は、例えば、セルロース系繊維にモノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)を含有する処理液を接触させることによりカルボキシメチル基の形で容易にセルロース系繊維に導入することができる。このようにカルボキシメチル基を導入することを、以下、カルボキシメチル化ともいう。
【0019】
上記カルボキシメチル化を行う場合の処理液中における、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度としては、目的の加工度が得られるよう処理液の条件を適宜定めればよいが、10〜500g/Lであることが好ましく、より好ましくは50〜300g/L、更に好ましくは100〜200g/Lである。
【0020】
上記カルボキシメチル化を行う場合の処理液には、アルカリ金属の水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムを配合することが好ましい。水酸化ナトリウムを配合することにより、得られる処理繊維のカルボキシメチル化度を向上させることができる。上記処理液中における水酸化ナトリウム濃度を上げるほど反応度が上がる傾向があり、通常は20g/L以上とすることが好ましい。ただし、大量の水酸化ナトリウムを配合すると、得られる繊維の風合いが悪化する傾向があるので注意を要する。
【0021】
セルロース系繊維と上記処理液とを接触させる方法としては、例えば、処理液中で繊維を回転させる液流法;繊維を処理液中に浸漬した後にパディング(絞り)する方法等が挙げられる。使用効率の点で、浴比(処理液の使用割合)を下げることが有効であり、この点で浸漬した後にパディングする方法が有効である。なお、セルロース系繊維と処理液とを接触させる際の温度条件としては特に限定されず、例えば、5〜50℃の範囲内とすることができる。
【0022】
上記セルロース系繊維と処理液とを接触させる時間としては目的とするカルボキシメチル化度や処理中のモノクロル酢酸濃度、水酸化ナトリウム濃度等の諸条件から適宜選択すればよい。常温で数時間〜数日間程度接触させていてもよいし、熱処理することにより要する時間を短縮することもできる。
【0023】
肌着等の衣類等、とりわけ風合いが求められる場合には、処理液中のモノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度、処理液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度、処理温度、及び、処理時間を調整することが好ましい。なかでも処理液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度が高くなると、セルロース系繊維にダメージを与えて風合いを硬化させる傾向がある。従って、処理液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度をできる限り低くし、かつ、処理温度を低温にしてアルカリ金属の水酸化物による影響を抑制することが好ましい。一方、アルカリ金属の水酸化物の濃度を低く抑えた状態でも充分なカルボキシメチル化度を得るためには、処理液中のモノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度を比較的高く設定し、処理時間を長くする必要がある。具体的には、セルロース系繊維を、アルカリ金属の水酸化物の濃度が20〜100g/L、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度が100〜400g/Lの処理液と10〜40℃、6〜48時間接触させる場合には、充分な吸湿度と風合いとを両立させることができる。
【0024】
上記カルボキシメチル化度の好ましい下限は0.1モル%である。0.1モル%未満であると、充分な吸湿度が得られないことがある。より好ましい下限は1モル%である。カルボキシメチル化度の上限は特に限定されないが、好ましい上限は10モル%、より好ましい上限は5モル%である。
【0025】
なお、本明細書においてカルボキシメチル化度とは、カルボキシメチル化反応したセルロースの水酸基の割合(%)、即ち、未処理セルロースの水酸基の数に対するカルボキシメチル化した後のCOO基の数の割合(%)を意味する。また、セルロース系繊維中のCOO基の数は、セルロース系繊維の全COO基をCOOH基とし、水酸化ナトリウム水溶液(0.1N)に浸漬した後、その置換に使用されたNaを定量することにより求めることができる。置換に使用されたNa量は、処理済の繊維又は繊維製品を浸漬した水酸化ナトリウム水溶液を、例えば、塩酸(0.1N)を使用して滴定することにより、定量することができる。具体的には、以下の測定方法を採用することができる。
【0026】
まず、処理済のセルロース系繊維(例えば、生地小片)を、0.3Nの塩酸に、浴比1:50、液温20℃の条件で1時間浸漬して全COO基をCOOH基とし、脱水し、乾燥して残留HClを除去し、約4gをサンプリングして絶乾重量(W(g))を秤量する。次いで、絶乾重量を秤量したセルロース繊維等を、精秤した0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液50mL(B(mL))に浸漬して液温20℃で1晩放置することにより、全COOH基をCOONaに置換する。更に、置換に使用されたNaを定量するため、0.1N塩酸を使用して液を滴定し、滴定値をX(mL)とする。指示薬としてはフェノールフタレインを使用することができる。
【0027】
カルボキシメチル化度は、セルロース系繊維等の絶乾重量(W(g))、水酸化ナトリウム水溶液の体積(B(mL))、滴定に要した塩酸の体積(X(mL))から、下記式(2)に従って算出することができる。
【0028】
【数2】

繊維又は繊維製品が少なくともセルロース系繊維を含有するものである場合の親水化処理方法としては、セルロース系繊維にメタクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、及び、メタクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種のモノマーをグラフト重合する方法も好適である。
【0029】
上記グラフト化の方法としては、例えば、上記モノマーを、セルロース系繊維と接触させた状態で、重合反応させる方法等が挙げられる。具体的には、例えば、上記モノマー及び重合開始剤(例えば、ペルオキソ2硫酸アンモニウム等)を含有する液中に、セルロース系繊維を浸漬して絞った後、加熱することにより、親水性分子がグラフトしたセルロース系繊維を得ることができる。
【0030】
上記グラフト化により導入する親水性分子の量としては、親水性分子の種類、セルロース系繊維に要求される吸湿率等を考慮して適宜選択することができるが、グラフト率の好ましい下限は1%である。1%未満であると、充分な吸湿度が得られないことがある。より好ましい下限は2%である。グラフト率の上限については特に限定されないが、好ましい上限は30%、より好ましい上限は25%、更に好ましい上限は20%である。
なお、本明細書においてグラフト率は、グラフトさせる前のセルロース系繊維等の絶乾重量(処理前絶乾重量)とグラフトさせた後の絶乾重量(処理後絶乾重量)から、下記式(3)により算出することができる。
【0031】
【数3】

上記式(3)において、絶乾重量は、例えば10×20cm程度の大きさの生地小片を、秤量ビンに入れ105℃で2時間乾燥後、秤量し、予め秤量しておいた秤量ビンの重量を差し引いくことにより、算出することができる。
【0032】
本発明の繊維製品に無洗剤洗濯機能を付与する方法によれば、繊維又は繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の効果が得られるという機能を付与することができる。また、洗剤を用いずに洗濯を行う場合には、洗剤を除去する操作(すすぎ操作)を省略することができることから、より短い時間で洗濯を行うことができる。このような洗濯時間の短縮により、水や電気等の資源を大幅に節約することができる。更に、本発明の無洗剤洗濯機能を付与する方法が施された繊維製品は、吸放湿性に極めて優れ、着衣の際の快適性に優れるという副次的な効果もある。
【0033】
親水化処理が施された繊維を含有する洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品もまた、本発明の1つである。
本明細書において洗剤を用いずに洗濯できるとは、洗剤を用いずに洗濯した場合であっても、洗剤を用いて洗濯した場合と略同等の洗浄効果が得られることを意味し、更に、略同等の洗浄効果が得られるとは、本発明の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品を洗剤を用いずに洗濯した場合の洗浄効果が、通常の繊維製品を洗剤を用いて洗濯した場合の洗浄効果と同等であることを意味する。具体的には、上述の無洗剤洗濯機能と同様である。
【0034】
本発明の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品は、親水化処理が施された繊維を含有する。上記親水化処理としては特に限定されないが、親水基を導入する方法、親水性分子を導入する方法、物理的に表面を改質する方法、及び、親水性物質を含有するコーティング剤でコーティングする方法からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。これらの各処理方法の具体例としては、上述の無洗剤洗濯機能の付与方法の場合と同様である。
【0035】
上記親水化処理が施された繊維としては特に限定されないが、セルロース系繊維(綿)、麻、絹、羊毛等の天然繊維に親水化処理が施されたもの;ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、アクリル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維に親水化処理が施されたもの;これらの混合繊維に親水化処理が施されたもの等が挙げられる。なかでも、セルロース系繊維は、肌着等をはじめとする繊維製品の多くに用いられることから、少なくとも親水化処理が施されたセルロース系繊維を含有するものが好ましい。
【0036】
本発明の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品が、親水化処理が施されたセルロース系繊維を含有するものである場合、上記親水化処理が施されたセルロース系繊維は、吸湿率が7.1%以上であることが好ましい。7.1%未満であると、油性の汚れ成分と繊維との結合力が強く、水だけでは充分に汚れ成分を落とせないことがある。より好ましくは7.5%以上である。吸湿率の上限については特に限定されないが、通常、好ましい上限は20%、より好ましい上限は15%である。
【0037】
上記親水化処理が施されたセルロース系繊維としては、例えば、カルボキシメチル化されたセルロース系繊維が好適である。とりわけ風合いが求められる場合には、セルロース系繊維を、アルカリ金属の水酸化物の濃度が20〜100g/L、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度が100〜400g/Lの処理液と10〜40℃、6〜48時間接触させることにより得られたカルボキシメチル化されたセルロース系繊維がより好適である。この場合、カルボキシメチル化度は0.1〜10モル%であることが好ましい。
【0038】
また、上記親水化処理が施されたセルロース系繊維としては、メタクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、及び、メタクリル酸からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーによりグラフト化されたセルロース系繊維も好適である。この場合、グラフト率は1〜20%であることが好ましい。
【0039】
本発明の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品は、更に消臭剤を含有してもよい。親水化処理としてカルボキシル基が導入された場合には高い消臭効果があるが、消臭剤を配合することにより、更に高い消臭効果を得ることができる。
【0040】
上記消臭剤としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛系、酸化チタン系、銀系、ゼオライト系、植物抽出物系等の従来公知のものを用いることができる。なかでも、繊維への加工が容易であることから酸化亜鉛系の消臭剤を用いることが好ましい。
【0041】
本発明の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品は、上述の構成よりなることから、洗剤を用いずに洗濯した場合であっても、洗剤を用いて洗濯した場合と略同等の洗浄効果が得られる。また、本発明の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品は、洗剤を用いずに洗濯を行う場合には、洗剤を除去する操作(すすぎ操作)を省略することができることから、より短い時間で洗濯を行うことができる。このような洗濯時間の短縮により、水や電気等の資源を大幅に節約することができる。更に、本発明の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品は、吸放湿性に極めて優れ、着衣の際の快適性に優れる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、繊維又は繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与することができる無洗剤洗濯機能を付与する方法、及び、洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
元生地として通常の綿布を使用し、モノクロル酢酸ナトリウム(200g/L)及び水酸化ナトリウム(70g/L)を含有する処理液中に1:20の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、25℃、24時間放置して反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
得られた処理布についてカルボキシメチル化度を測定したところ2.67であり、また、吸湿率を測定したところ8.9%であった。
【実施例2】
【0045】
元生地として通常の綿布を使用し、150g/Lメタクリル酸モノマー−7.5g/Lペルオキソ2硫酸アンモニウム水溶液中に20℃、1分間浸漬した。パッダーで絞った後、100℃、10分間水蒸気をあてた後、水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
得られた処理布についてグラフト率を測定したところ2.1%であり、また、吸湿率を測定したところ7.8%であった。
【実施例3】
【0046】
元生地として通常の綿布を用い、これを反応染料(Smifix Supra:住友化学工業社製)を用いて1.0%owfの濃度にまで染色したものを用いた。モノクロル酢酸ナトリウム(200g/L)及び水酸化ナトリウム(70g/L)を含有する処理液中に1:20の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、25℃、24時間放置して反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
得られた処理布について吸湿率を測定したところ8.4%であった。
【実施例4】
【0047】
元生地として綿の含有率が64重量%、ポリエチレンテレフタレートの含有率が36重量%である綿−ポリエチレンテレフタレート混合繊維からなる布を使用し、モノクロル酢酸ナトリウム(250g/L)及び水酸化ナトリウム(70g/L)を含有する処理液中に1:28の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、25℃、24時間放置して反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
得られた処理布について綿部分のカルボキシメチル化度を測定したところ2.85であり、また、吸湿率を測定したところ8.9%であった。
【実施例5】
【0048】
元生地として通常の綿布を使用し、モノクロル酢酸ナトリウム(200g/L)及び水酸化ナトリウム(70g/L)を含有する処理液中に1:20の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、100℃にて5分間反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
得られた処理布についてカルボキシメチル化度を測定したところ2.58であり、また、吸湿率を測定したところ8.7%であった。
【実施例6】
【0049】
元生地として通常の綿布を使用し、モノクロル酢酸ナトリウム(200g/L)及び水酸化ナトリウム(100g/L)を含有する処理液中に1:20の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、25℃、24時間放置して反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
得られた処理布についてカルボキシメチル化度を測定したところ3.83であり、また、吸湿率を測定したところ11.1%であった。
【実施例7】
【0050】
元生地として通常の綿布を使用し、モノクロル酢酸ナトリウム(50g/L)及び水酸化ナトリウム(150g/L)を含有する処理液中に1:20の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、100℃にて5分間反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
得られた処理布についてカルボキシメチル化度を測定したところ2.63であり、また、吸湿率を測定したところ8.8%であった。
【0051】
(対照例)
対照布として実施例で用いた綿布(元生地)を用いた。この綿布の吸湿率は7.0%であった。
【0052】
(評価)
実施例1〜7で得た処理布及び対照布について以下の方法により、オレイン酸洗浄性試験、繰り返し洗濯試験、消臭効果試験を行った。
結果を表1に示した。
【0053】
(1)オレイン酸洗浄性試験
試験布にオレイン酸10%owf、ゼラチン2.5%owfを付着させた後、通常の家庭用洗濯機(シャープ社製、ES−S4A)を用いて、水のみの場合と、洗剤(花王社製、アタック)を0.67g/Lの濃度となるように加えた場合とで洗濯を行った。
洗濯後の各試験布を天日乾燥した後、試験布上に残存するオレイン酸をメタノールで抽出し、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC−17A)によりオレイン酸の残留量を測定し、オレイン酸残留率(%)を求めた。求めたオレイン酸残留率(%)から、以下の基準により評価した。
◎:水のみで洗濯した場合のオレイン酸残留率(%)が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合のオレイン酸残留率の80%以下
○:水のみで洗濯した場合のオレイン酸残留率(%)が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合のオレイン酸残留率の110%以下
△:水のみで洗濯した場合のオレイン酸残留率(%)が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合のオレイン酸残留率の120%以下
×:水のみで洗濯した場合のオレイン酸残留率(%)が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合のオレイン酸残留率の120%を超える
【0054】
(2)繰り返し洗濯試験
試験布を、オレイン酸40.6%、トリオレイン22.4%、コレステロールオレート17.5%、流動パラフィン3.6%、コレステロール2.3%及びゼラチン10.0%を主成分とする人工汗に浴比が1:30となるように浸漬した後、絞り率130%で絞り、105℃、30分間乾燥した。
通常の家庭用洗濯機(シャープ社製、ES−S4A)を用いて、水のみの場合と、洗剤(花王社製、アタック)を0.67g/Lの濃度となるように加えた場合とで洗濯を行った。洗濯後の各試験布を天日乾燥した。この操作を繰り返し3回行い、それぞれの試験布の白度の変化を調べた。白度の測定には測色機(マクベス社製、ホワイトアイ3000)を用いた。試験前後での試験布の白度の変化量を求め、以下の基準により評価した。
◎:水のみで洗濯した場合の白度の変化量が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合の白度の変化量の80%以下
○:水のみで洗濯した場合の白度の変化量が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合の白度の変化量の100%以下
△:水のみで洗濯した場合の白度の変化量が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合の白度の変化量の120%以下
×:水のみで洗濯した場合の白度の変化量が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合の白度の変化量の120%を超える
【0055】
(3)消臭効果試験
500mL(実容積625mL)の三角フラスコにマグネチィックスターラーバーを入れ、4cm×5cmに切り取った試験布に糸をつけ、糸の端を三角フラスコの外側にセロハンテープで止めることにより、試験布を三角フラスコ内に吊り下げた。次いで、アンモニア消臭の場合には2%アンモニア溶液を、酢酸消臭の場合には3%酢酸溶液をそれぞれマイクロピペットで5μL、三角フラスコの内側壁に垂らした。2重のラップで覆ったシリコン栓ですばやく三角フラスコを密栓し、更にそのラップを3重にした輪ゴムで密栓した。その後、マグネチィックスターラーで攪拌しながら20℃、120分間放置した。
120分放置した後、ラップがはがれないようにしてシリコン栓を拔き、測定用シリコン栓付検知管(ガステック社製、No.3La/アンモニア用:ガステック社製、No.81/酢酸用)を用いて三角フラスコ内のガス濃度を測定した。
同様の試験を、試験布を三角フラスコ内に吊り下げない状態で行い、これをブランク測定値とした。下記式を用いて消臭率(%)を求め、下記の基準により評価した。
【0056】
【数4】

(アンモニア消臭)
○:消臭率が70%以上
△:消臭率が50%以上、70%未満
×:消臭率が50%未満
(酢酸消臭)
○:消臭率が85%以上
△:消臭率が75%以上、85%未満
×:消臭率が75%未満
【0057】
(4)風合いの評価
対照布を基準にして官能試験を行い、以下の基準により評価した。
◎:対照布と同程度の柔らかさであった
○:対照布に比べるとわずかに硬いものの、充分な柔らかさであった
×:対照布に比べて明らかに硬く、肌着等の用途には用いられない硬さであった
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、繊維又は繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与することができる無洗剤洗濯機能を付与する方法、及び、洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維又は繊維製品に親水化処理を施すことを特徴とする無洗剤洗濯機能の付与方法。
【請求項2】
親水化処理は、親水基を導入する方法、親水性分子を導入する方法、物理的に表面を改質する方法、及び、親水性物質を含有するコーティング剤でコーティングする方法からなる群より選択される少なくとも1種により行われるものであることを特徴とする請求項1記載の無洗剤洗濯機能の付与方法。
【請求項3】
繊維又は繊維製品は少なくともセルロース系繊維を含有するものであって、親水化処理により前記セルロース系繊維の吸湿率を7.1%以上にすることを特徴とする請求項1又は2記載の無洗剤洗濯機能の付与方法。
【請求項4】
カルボキシメチル化して、セルロース系繊維にカルボキシル基を導入することを特徴とする請求項3記載の無洗剤洗濯機能の付与方法。
【請求項5】
セルロース系繊維を、アルカリ金属の水酸化物の濃度が20〜100g/L、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度が100〜400g/Lの処理液と10〜40℃、6〜48時間接触させることを特徴とする請求項4記載の無洗剤洗濯機能の付与方法。
【請求項6】
カルボキシメチル化度を0.1〜10モル%にすることを特徴とする請求項4又は5記載の無洗剤洗濯機能の付与方法。
【請求項7】
セルロース系繊維にメタクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、及び、メタクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種のモノマーをグラフト重合することを特徴とする請求項3記載の無洗剤洗濯機能の付与方法。
【請求項8】
グラフト率を1〜20%にすることを特徴とする請求項7記載の無洗剤洗濯機能の付与方法。
【請求項9】
親水化処理が施された繊維を含有することを特徴とする洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品。
【請求項10】
親水化処理は、親水基を導入する方法、親水性分子を導入する方法、物理的に表面を改質する方法、及び、親水性物質を含有するコーティング剤でコーティングする方法からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項9記載の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品。
【請求項11】
親水化処理が施された繊維は、吸湿率が7.1%以上である親水化処理が施されたセルロース系繊維であることを特徴とする請求項9又は10記載の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品。
【請求項12】
親水化処理が施されたセルロース系繊維は、カルボキシメチル化されたセルロース系繊維であることを特徴とする請求項11記載の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品。
【請求項13】
親水化処理が施されたセルロース系繊維は、セルロース系繊維を、アルカリ金属の水酸化物の濃度が20〜100g/L、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度が100〜400g/Lの処理液と10〜40℃、6〜48時間接触させることにより得られたものであることを特徴とする請求項12記載の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品。
【請求項14】
カルボキシメチル化されたセルロース系繊維は、カルボキシメチル化度が0.1〜10モル%であることを特徴とする請求項12又は13記載の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品。
【請求項15】
親水化処理が施されたセルロース系繊維は、メタクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、及び、メタクリル酸からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーによりグラフト化されたセルロース系繊維であることを特徴とする請求項11記載の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品。
【請求項16】
グラフト化されたセルロース系繊維は、グラフト率が1〜20%であることを特徴とする請求項15記載の洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品。

【国際公開番号】WO2005/005711
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511465(P2005−511465)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006969
【国際出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】