説明

無線による自己測量位置決定方法

マスタユニットに対する複数の無線送信ユニットの位置を決定する方法であって、制御信号がマスタユニットから供給され、各無線送信ユニットに送信させ、残りのユニットに受信させる命令を出す。テスト信号の到着時間は、受信する無線送信ユニットで計測され、マスタユニットに対する各無線送信ユニットの位置は、計測された到着時間および各ユニットの近似開始位置のみに基づいて計算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタユニットに対する複数の無線送信ユニットの幾何図形的位置を決定する方法に関する。本方法は、ユニットの相対的位置の決定に関するものであるが、地理的位置(またはグリッド)データを任意で加えて、絶対位置を決定することが出来る。本発明はそのような方法を利用するよう配置されたシステムに拡張する。
【背景技術】
【0002】
GPS等の無線位置選定システムはよく知られており、位置が決定される「移動体」および既知の位置の「固定」コンポーネントに、システムを分割することにより動作する。追跡システムに関しては、移動体ユニットの位置は、固定ユニットが受信する信号の到着時間を計測することにより決定される。ナビゲーションシステム(例えばGPS)に関しては、送信部と受信部が入れ替わるけれども、位置決定の原理は同じままである。
【0003】
1つの可能な用途は、競技場所での運動選手の追跡である。これは、運動選手の位置を示すアニメーション表示を作成する目的であってもよく、トレーニング活動に関連してもよく、その目的は、健康状態に関連した生物医学的データを得ることである。この場合、位置データは医療センサデータと組み合わされて、既存の技術から現在入手不可能な追加データを提供する。競技場所での運動選手の追跡と同様に、同様な無線位置選定システムがトラック上の競走馬またはレースカーの位置の監視に使用できる。
【0004】
そのような無線位置選定システムのもう1つの可能な用途は、在庫管理の領域である。位置データは、慣性センサに基づいた警報監視機能と組み合わせることが出来る。可能な用途は、倉庫の中の車のような高価な品物の監視、船舶またはコンテナ倉庫の中のコンテナの監視を含む。もう1つのわずかに異なる用途が、スーパーマーケットの中のショッピングカートの監視に使われる。この用途の機能は、スーパーマーケット内の買い物支援だけでなくスーパーマーケットの外のショッピングカートの回収を含んでもよい。
【0005】
別の可能な用途は人の位置選定である。無線位置選定システムは、建物の中の担当者の位置追跡に有利に使用できる。そのようなシステムは、高セキュリティ環境で必要とされるかもしれないし、担当者が危険な活動を実施する環境で必要とされるかもしれない。建物内の消防士の位置監視がそのような用途の一例である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に室内またはマルチパス環境ではGPSでは実現性のない用途が多くあり、正確な短距離無線位置選定システムの可能な用途が多くあるそのような環境が多く存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの形態によれば、マスタユニットに対する複数の無線送信機の位置を決定する方法は、
上記マスタユニットから、上記無線送信機の各々にテスト信号を送信し、残りのユニットにその信号を受信するよう命令する制御信号を供給するステップ;
上記無線送信ユニットが受信する上記テスト信号の到着時間を計測するステップ;および
上記計測された到着時間および各ユニットの近似位置のみに基づいて、上記マスタユニットに対する各無線送信ユニットの位置を計算するステップ
を含む。
【0008】
好ましくは、制御信号が無線送信ユニットの各々に命令して、順にテスト信号を送信し、残りのユニットがこれらの信号を受信する。好ましくは、タイミング基準信号も供給される。好ましくは、マスタユニットはタイミング基準信号も提供する。これは、マスタユニットから全てのユニットに直接送信されてもよく、マスタユニットから、第1のユニットへ、そして第1のユニットから第2のユニットへといったように連続的に送信されてもよい。
【0009】
本方法は近似開始位置および到着時間データを利用してユニットの位置を計算する。本方法は、新しい位置が計算されるたびに、各ユニットの前の位置が近似位置として使用できる追跡システムに特に有用である。
【0010】
本発明の実施は、ユニットの幾何図形的位置が、最初は非同期の無線送信ユニットからの到着時間データのみに関して決定できる方法により、効果的に達成できる。好ましい技法は、各ユニットが連続して送信して、その信号を残りのユニットが受信することである。データ集合から、ユニットの相対的位置が決定できる。
【0011】
考慮中のシステムは2次元空間に分布したトランスポンダからなる。課題は、ユニット間相互の全ての相対的位置を、ユニット間無線通信を使用することのみにより決定することである。本方法は、好ましくは時間的に連続に、各ユニットからの送信を順序正しく制御する必要があるので、制御チャネルが必要である。1つのユニットがマスタユニットとして定められ、そこから、制御メッセージが送信される。他の「標準」ユニットは、送信または受信のどちらかの命令に関して制御チャネルを監視する。マスタユニットは、送信用の近似タイムスロットを定めるために使用できるタイミング基準信号を好ましくは供給する。
【0012】
1つの実施の形態では、マスタユニットはテスト信号を送信または受信する動作をしないけれども、単に、制御信号およびタイミング基準信号を送信するのみである。この場合、最低7つの追加の「標準」ユニットが存在することが好ましい。
【0013】
もう1つの実施の形態では、マスタユニットは、制御信号とタイミング基準信号を送信するのに加えて、マスタユニットもテスト信号を送信および受信し、この場合、最低5つの「標準」ユニットが必要である。
【0014】
残りのユニットの位置は、マスタユニットに対して決定でき、マスタユニットは、相対位置決めシステムの一般性を失わずに、原点に定められる。第2のユニットの位置は、また相対位置決めシステムの一般性を失わずに、x軸上に定められる。地球上の絶対位置、例えばオーストラリアンマップグリッド(AMG)は、AMG上で2点が定められると、相対位置から決定できる。これらの位置は、標準的な技法を使用して測量される。
【0015】
好ましくは、ユニットの位置を計算するステップは、ユニットに関する近似位置で開始される最小二乗適合技法の使用を含む。反復手順は、最小二乗適合プロセスへの入力として最初の位置の推定を使用し、各反復により本当の位置のより近くに接近する。最初の位置の推定を得るための多くの可能な方法が存在する。例えば、レース中の馬または車を追跡すると、レースのスタート地点が最初に使用でき、最後に計算された位置が、それに続く各計算に使用できる。代わりに、本発明は、各ユニットの近似送信/受信無線装置遅延パラメータを知ることにより計算できる。
【0016】
ユニットの位置選定を決定する基本的方法は、固定されたユニットの位置が既知の従来のシステムの移動体ユニットの位置を決定するために使用される技法と基本的に同様の最小二乗適合技法である。この技法は、線形化された測距方程式に基づいた反復手順を使用する。この技法は、正確な収束のために近似開始位置を必要とする。この最初の位置は、無線ユニットの送信/受信遅延パラメータを知っている必要のある近似方法を使用して得ることが出来る。これらの遅延パラメータは、(約)数十ナノ秒の精度の装置のために決定される。疑似距離データおよび遅延パラメータを使用して、ユニット間の距離が2つのユニット間の往復の遅延から推定できる。装置の遅延が既知であると思われるので、伝播遅延(すなわちメートルでの距離)が、装置の遅延を引いて、2で割ることにより計算できる。この最初の推定の精度は、ユニット間の遅延パラメータのばらつきに依存する。これらの距離の推定から、ユニットの位置が、三角測量技法を使用して計算できる。次に、これらの近似位置は、より正確な最小二乗位置適合技法のための「シード(seed)」として使用できる。この位置選定方法は、位置決定用のユニットの遅延パラメータの入力を必要とせず、それ故、三角測量技法よりも正確である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付の図を参照して発明の実施の形態を説明する。
【0018】
本システムの幾何図形的配列は図1に示されている。マスタユニット(タイミング基準送信機)は原点に位置し、ユニット#1は(任意に)x軸上に定められる。次にy軸は、この定められたx軸に対して垂直である。全ての他のユニットはxy平面上に任意に位置するけれども、平面上の既知の高さに位置するアンテナを備える。地球のグリッド軸は、ユニットの位置選定に基づいた任意に定められた座標系に対して一般的に回転する。
【0019】
最初の位置の計算
最初の位置の決定は、ユニット間の距離の推定に基づいている。以下の場合、2つのユニット(マスタユニットおよびユニット#1)が、地球に対して既知の固定された位置にあり、これらの固定されたユニットすなわち地球に対する他のユニットの位置を決定する必要がある。
【0020】
マスタユニットおよび2つの他のユニット(例えば#1および#2)の幾何図形的配列を考える。標準ユニットは、マスタユニットのタイミング基準信号を使用して、標準ユニットのローカルクロックを同期させる。マスタユニットのクロック位相がφ0とすると、他のユニットのクロック位相φ1、φ2は以下の式で与えられる。
【数1】

ただし、ΔtxおよびΔrxはユニット1、2、およびマスタ(ms)ユニットの送信遅延および受信遅延である。
【0021】
ユニット#1の送信およびユニット#2の受信に関する疑似距離は以下の式で与えられる。
【数2】

【0022】
同様に、ユニット#2の送信およびユニット#1の受信に関する疑似距離は以下の式で与えられる。
【数3】

【0023】
したがって、方程式(2)および方程式(3)を組み合わせることにより、ユニット#1およびユニット#2の間の距離が以下の式で与えられる。
【数4】

ただし、Δbsはユニット(基地局)の受信遅延および送信遅延の合計の平均である。
【0024】
したがって、1組の疑似距離計測および遅延パラメータを知っていることにより、ユニット間の距離が推定できる。通常、全てのユニットは同じであると思われるので、1つの遅延パラメータΔbsのみが必要とされる。しかし、遅延パラメータが全て異なるけれども既知の場合は、この方法が容易に拡張できる。
【0025】
同様な解析を使用して、マスタユニットから標準ユニットへの距離を決定できる。(ユニット#1に関する)結果は、
【数5】

ただし、Δmsはマスタユニットの送信遅延および受信遅延の合計である。
【0026】
したがって、ユニット間の距離は、マスタユニットにおける標準ユニットの送信の疑似距離計測およびユニットの遅延パラメータを知っていることから推定できる。
【0027】
距離の推定を確立すると、ユニットの相対位置は三角測量により決定できる。計算の開始位置は、マスタユニットおよびユニット#1の既知の位置(位置が既知の固定ユニットと思われる)である。マスタユニットおよびユニット#1からの距離は推定されたので(上の記述を参照)、ユニット#2の位置は2つの円の交点で決定できる。一般的に、2つの解があり、1つはx軸より上で、1つはx軸より下である(または鏡像)。この曖昧さは、測定されたデータからは解決できないので、正しい解を選択するのにオペレータの入力が必要である。
【0028】
(x1、y1)および(x2、y2)を中心とし、半径r1およびr2を持つ2つの円の交点の一般的解は以下の方程式の組により与えられる。
【数6】

【0029】
上記の手順は、残りのユニットに関して繰り返すことが出来る。しかし、曖昧さは、ユニット#1からユニット#2の2つの可能な位置までの距離を計算することにより解決できる。計算された距離と計測された距離の間の最小誤差を持つ位置が正確な位置である。
【0030】
従って、上記の手順は、ユニットの遅延パラメータだけでなく、マスタユニットおよびユニット#1の既知の位置に基づいてユニットの位置を決定する。これらの位置は、下に記載するように最小二乗解の「シード」として使用される。
【0031】
最小二乗適合位置計算
ユニットの正確な位置は、最小二乗適合技法を使用した疑似距離データのみから決定できる。マスタユニットおよびユニット#1の位置は既知であると思われる。相対的位置の決定には、マスタユニットが原点になり、ユニット#1がx軸上にあると思われる。しかし、この方法は、マスタユニットおよびユニット#1に関する任意の1つのあらかじめある位置データなしに拡張できるけれども、相対位置が決定出来るのみである。
【0032】
位置決定の方法は、標準ユニットおよびマスタユニットにおいて計測された疑似距離データを使用する。1つのユニットが一度に送信するので、1送信あたりの計測する数全体は(N−1)であり、Nはユニットの数(マスタユニットを含まない)である。全ての送信に関する計測する数全体はN(N−1)である。このシナリオで注意すべきは、マスタユニットも送信することであるけれども、「標準」ユニット用のタイミング基準信号として使用される。これらのデータは、原点のマスタユニットに対するN個のユニットの位置を計算するために使用される。さらに、ユニット#1はx軸上の既知の位置にあると思われるので、未知の(x、y)座標データの数は2N−1である。加えて、疑似距離データのみが計測されるので、各ユニットの「位相」パラメータは、位置決定計算で、決定もされねばならない。したがって、未知の全体数は3N−1である。装置の遅延パラメータも未知であるけれども、これらの未知の変数は、以下の解析により示される方程式から排除できる。未知の変数を解くのに必要なユニットの数の決定は以下で与えられる。
【0033】
方法の解析
N個のユニットがある場合を考える。ユニットは1度に1つ送信し(インデックスt=1..N)、残りのユニット(r=1..N、(r≠t))は送信信号を受信する。受信ユニットは、ユニットの送信信号とマスタユニットにより送信されるタイミング基準信号との間の時間の差を計測する。受信パスは送信アンテナから受信アンテナまでの伝播パスと、受信アンテナから受信ユニットの出力までの余分な伝播遅延とを含む。また、送信ユニットの位相が未知であると思われて、データ処理により決定される。便宜上、全ての遅延は、伝播速度に基づいた透過な距離に変換されると思われる。したがって、受信ユニットの計測は以下の式により与えられる。
【数7】

ただし、Δ項はアンテナからベースバンドクロックまでの送信遅延または受信遅延であり、φ項は送信ユニットおよび受信ユニットのローカルクロック位相である。これらのクロックは、マスタユニットから送信されたタイミング基準信号から設定される(方程式(1)参照)。これらのクロックの式を方程式(7)に適用することにより、結果として式は以下のようになる。
【数8】

【0034】
従って、測定値Mt,rは、送信ユニットのみに関連する2つの距離および位相パラメータの項で表すことが出来る。装置の遅延パラメータが方程式に現れないことに注意し、それ故、方程式は、従来の位置決定の疑似距離方程式に密接に関連する。
【0035】
標準ユニットからマスタユニットへの送信に関して同様な解析が実行される。結果は以下の方程式で表される。
【数9】

【0036】
N個の標準ユニットに関して、全部でN(N−1)個のユニット間測定置と、N個の標準ユニットからマスタユニットへの測定値が生成される(全体でN2個の計測値)。未知の変数の数は、(N−1)個の標準ユニットの(x、y)座標、ユニット#1のy座標、N個の位相Φ、およびマスタユニットパラメータΔms(全体で3N個の未知変数)である。ユニット(x、y)の未知の位置を定め、基準(マスタ)ユニットを原点に設定すると計測値予想モデルは以下の式により与えられる。
【数10】

【0037】
地形はフラットであると思われるので、高さ(z)は、単純に地上からのアンテナの高さである。これらのアンテナの高さは、独立して計測されると思われるので、この位置決定プロセスによっては決定されない。同様に、マスタユニットで受信される送信の予想方程式は以下の式で与えられる。
【数11】

【0038】
次の課題は、計測方程式Mと予想方程式Pとの間の最小二乗適合を決定することであり、それ故、未知変数を解くことである。この課題は、予想方程式が非線形であるという事実により複雑なる。そのような場合の標準的な技法は、テイラー級数近似を使用して方程式を線形にすることである。したがって、上に記載したように、位置の最初の近似推定(位相は最初は全て0であると仮定できる)を使用して、予想方程式(10)は以下のように記述できる。
【数12】

同様に線形にされたマスタユニットの予想方程式は
【数13】

【0039】
上記の線形にされた予想方程式および計測方程式は以下のマトリックスの形で表される。
【数14】

[ΔX]マトリックスは3N個の未知変数(状態ベクトル)を表し、(x0、y0)は原点にあり(マスタユニット)、(x1、y1)は、x軸上にあると思われるユニット#1の座標である(したがってx1はマスタユニットとユニット#1との間の距離である)。しかし、これらの線形方程式は独立ではないので、独立な方程式の代わりの組が得られる。ユニット間距離Rt,rおよびRr,t(これらはもちろん同じ距離である)に関する疑似距離計測値の組合せを考える。したがって、組み合わされた疑似距離方程式は以下のようになる。
【数15】

【0040】
方程式15を方程式8と比較することにより、ユニット間の距離および2つのユニットの遅延のみ組み合わされた方程式の中で現れ、それ故、これらの方程式は独立である。方程式15が方程式9と構造の点で似ていることにも気付くと、(2倍の)距離パラメータと2つの遅延パラメータが存在する。方程式15は、前に記載したのと同様な方法で線形にでき、結果の方程式は以下のようになる。
【数16】

【0041】
代わりの線形にされた方程式も以下のマトリックス形式で表せる。つまり、
【数17】

【0042】
したがって、両方の場合で、未知変数(増分)が1組の線形方程式から決定できる。両方の場合、方程式の数は未知変数の数よりも多いので、最小二乗解が、最良推定値を得るために必要とされる。計測誤差が統計的に独立していると仮定すると、線形方程式の標準最小二乗解は方程式(14)で表される。
【数18】

【0043】
同様な式を方程式(17)に適用する。しかし、計測方程式の数はN(N+1)からN(N+1)/2に減少する。
【0044】
上記の最小二乗推定は、全ての計測値が等しい精度からなるという仮定に基づいている。しかし、実際の状況では、計測値は受信ノイズおよびマルチパス伝搬に関連するシステム的誤差により破損する。そのような状況では、計測値は、適切に重み付けされるべきであるので、最小二乗方程式は以下のようになる。
【数19】

【0045】
重み付けマトリックスWを決定する従来のアプローチは、独立したランダム誤差と思われるので、重み付けマトリックスは、測定ノイズのばらつきに反比例する対角線成分を持ち、その他全ての要素は0である。しかし、通常の動作環境では、ランダムノイズよりもマルチパス誤差が大きいので、重み付けマトリックスの要素は、マルチパス測定誤差に関係するべき(大きな誤差には軽い重み付け)である。マルチパス測定誤差は前もって分からないけれども、誤差の推定値は、計測データと予想データとの差異である。すなわち、以下の式で表される。
【数20】

【0046】
次に重み付けマトリックスは以下のように決定できる。始めに、重み付けマトリックスの全ての要素が1に設定され、最初の計測誤差が方程式(19)から推定される。次に重み付け誤差マトリックスは以下の式で表される。
【数21】

【0047】
重み付け計測値の対角線要素の標準偏差をσmと定める。もし計測誤差がασm(αは定数、例えば3)の範囲内ならば、重み付け要素を変更しない、範囲外ならば、計測誤差が大きすぎるので、要素”m”の重み付けは、幾何級数的に減少する。すなわち、以下の式で表される。
【数22】

【0048】
重み付けマトリックスを調整する上記手順は、重み付け誤差がα標準偏差内になるまで続けられる。上記のプロセスの結果は、計測値が測定の精度ににより重み付けされ、わずかな「悪い」計測値は計算された位置に大きくは影響しない。
【0049】
状態ベクトルの第1次推定値は最初の推定値から以下の式により更新される。
【数23】

【0050】
次に上記の手順は、解が必要な精度まで収束するまで繰り返される。実際には、解が1ミリメートルより良い精度に収束するのに、3回から5回の反復が必要になるだけである。しかし、(ランダムおよびマルチパス)計測誤差は、収束した解がシステム的(恒常的)成分およびランダム成分を含むことを意味する。ランダム成分は、複数回の計測により、状態ベクトルの複数の推定値の平均をとることにより最小化できるけれども、主にマルチパスによるシステム的誤差は残る。従って、(主に地面で反射する)マルチパス信号の影響は、位置決定の精度の主な制限要素である。
【0051】
(上記の手順により決定される)ユニットの相対位置は、マスタユニットおよびユニット#1の独立して決定される位置に基づいて、容易にグリッドに変換できる。これらのグリッド座標(東方向および北方向)が(E0、N0)および(E1、N1)だとすると、残りのユニットのグリッド座標は以下の式で与えられる。
【数24】

【0052】
方程式(24)を使用して、ユニットの位置がグリッド上で決定できる。したがって、追跡用に使用される(x、y)座標系がグリッド(E、N)座標に変換されるので、ユニットの位置はグリッド座標内にある。この座標系は、ユニットの位置が(グリッドに基づいて)地図上に重ねることが出来ることを意味する。
【0053】
必要なユニットの数
上記解析により、未知変数(ユニット位置および位相)の数が独立方程式の数よりも少ないと、解が得られる。解を得るのに、ユニット(N)がいくつ必要か疑問が残る。この節では、解の種々の構成に必要なユニットの数を解析する。
【0054】
全ての推定値の開始位置は独立方程式の数の決定になる。ユニット間の距離は以下の方程式で表されることが上に示されている。
【数25】

ただし、”t”は送信ユニット番号であり、”r”は受信ユニット番号である。ユニット間の距離が各方程式で一意であるので、これらの方程式は明らかに独立である。送信ユニットと受信ユニットが入れ替わると、システムは対称であるので、そのような方程式の数は、N(N−1)/2個ある(Nは「標準」ユニットの数)。
【0055】
計算に標準ユニットのみを使用するのに加えて、マスタユニットも同様に使用するオプションがある。この場合、余分なN個の方程式があり、全体でN(N+1)/2個である。
【0056】
未知変数の数を定め、この数を方程式の数の関連させることで、種々の構成に関してユニットの数が決定できる。冗長性(r)は、独立方程式の数と、未知数の数との間の余分として定められる。
【0057】
1.標準ユニットのみ。このシナリオでは、N個の標準ユニットのみ使用されて、絶対位置データなしに(相対位置のみで)テスト信号を送受信する。マスタユニットは原点にあると仮定し、ユニット#1はx軸上にあると仮定する。(x、Δ)のみを持つユニット#1以外の各ユニットは3つの未知変数(x、y、Δ)を持つ。したがって、未知変数の数は3N−1であり、未知変数および変数に関する方程式は以下のように表される。
【数26】

ただし、”r”は冗長な方程式の数である。
【0058】
2.標準ユニットのみ(グリッドデータ付き)。このシナリオでは、マスタユニットおよびユニット#1のグリッドデータと共に標準ユニットのみが使用されて、テスト信号を送受信して、絶対位置を得る。マスタユニットは原点にあると仮定し、ユニット#1はx軸上の既知の座標にあると仮定する。Δのみを持つユニット#1以外の各ユニットは3つの未知変数(x、y、Δ)を持つ。したがって、未知変数の数は3N−2であり、未知変数と変数に関する方程式は以下のように表される。
【数27】

【0059】
3.標準/マスタユニットのみ。このシナリオでは、グリッドデータなしで(相対位置のみで)標準ユニットおよびマスタユニットが使用されて、テスト信号を送受信する。マスタユニットは原点にあると仮定し、ユニット#1はx軸にあると仮定する。(x、Δ)のみを持つユニット#1およびΔのみを持つマスタユニット以外の各ユニットは3つの未知変数(x、y、Δ)を持つ。したがって未知変数の数は3Nであり、未知変数および変数に関する方程式は以下のように表される。
【数28】

【0060】
4.ベース/マスタユニット(グリッドデータ付き)。このシナリオでは、マスタユニットおよびユニット#1のグリッドデータと共に標準およびマスタユニットが使用されて、テスト信号を送受信して、絶対位置が得られる。マスタユニットは原点にあると仮定し、ユニット#1はx軸上の既知の座標にあると仮定する。Δのみを持つユニット#1およびマスタユニット以外の各ユニットは3つの未知変数(x、y、Δ)を持つ。したがって未知変数の数は3N−1であり、未知変数および変数に関する方程式は以下のように表される。
【数29】

【0061】
結果は以下の表にまとめる。(グリッドデータのあるなしにかかわらず)マスタユニットを使用すると、必要なユニットの数を1ユニット減らすという甘い期待よりも優れている2つのユニットの減少になる。グリッドデータを加えると、必要なユニットの数が減らないけれども、絶対位置および更なる冗長性が得られる。
【0062】
以下の表は異なる構成の性能をまとめたものを示す。
【表1】

【0063】
請求の範囲および明細書の中では、言語または必要な示唆により文脈で必要とされない限り、単語「備える」または、活用形「備えた」、「備えている」は含むという意味で使用され、すなわち、述べられた特性が存在することを示すけれども、本発明の種々の実施の形態の中で、別の特性が存在することまたは別の特性を加えることは排除しない。
【0064】
ここでの従来技術文献に関する言及は、それらの文献がオーストラリアまたは任意の他の国での一般常識の一部を形成する承認を構成するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】4つ標準ユニットおよび1つのマスタユニットのシステムの図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタユニットに対する複数の無線送信機の位置を決定する方法であって、
上記マスタユニットから、上記無線送信機の各々にテスト信号を送信し、残りのユニットにその信号を受信するよう命令する制御信号を供給するステップ;
上記無線送信ユニットが受信する上記テスト信号の到着時間を計測するステップ;および
上記計測された到着時間および各ユニットの近似位置のみに基づいて、上記マスタユニットに対する各無線送信ユニットの最初の位置を計算するステップ
を含む方法。
【請求項2】
上記制御信号が、各無線送信ユニットに命令を出して順番にテスト信号を送信させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タイミング基準信号も供給される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記マスタユニットも上記タイミング基準信号を供給する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記マスタユニットが、テスト信号を送信または受信するように動作しない請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
上記マスタユニットも、テスト信号を送信および受信する請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも7つのユニット間の計測値が利用される請求項5に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも5つのユニット間の計測値が利用される請求項6に記載の方法。
【請求項9】
任意の2つの他のユニットのグリッド位置により各ユニットのグリッド位置を決定するステップを含む請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
各無線送信ユニットの上記位置を計算する上記ステップが、各ユニットの近似位置から開始する最小二乗適合技法を使用することを含む請求項1から請求項9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
各ユニットの上記近似開始位置が、各ユニットの近似送信/受信遅延パラメータを使用して計算される請求項1から請求項10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
位置監視用のシステムであって、
マスタユニット;および
複数の無線送信ユニットを備え、
制御信号を供給して各無線送信機にテスト信号を送信させ、残りのユニットに受信させる命令を出す手段を上記マスタユニットが備え、
上記システムが、上記受信する無線送信ユニットへの上記テスト信号の到着時間を計測する手段、および、各無線送信ユニットの上記計測された到着時間および近似開始位置のみに基づいて、上記マスタユニットに対する各無線送信ユニットの位置を計算する手段をさらに備える
システム。

【図1】
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【公表番号】特表2007−533968(P2007−533968A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529448(P2006−529448)
【出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【国際出願番号】PCT/AU2004/000698
【国際公開番号】WO2004/104621
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(598152079)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼイション (16)
【Fターム(参考)】