説明

無線ネットワークシステムおよびパケット中継端末装置ならびに同システムにおけるパケット中継方法

【課題】ブロードキャストにおける中継方向およびその領域を指定することで無線リソースの浪費を回避する。
【解決手段】ブロードキャスト信号を多段中継することにより周辺の端末装置にデータの配信を行う無線ネットワークシステムにおいて、送信元端末装置1が、ブロードキャストにおける中継方向(有効角度範囲)およびその領域(有効幅)を含むパラメータを指定し、これを受信したパケット中継端末装置2は、自身の現在位置情報が、パラメータが示す領域に含まれるか否かを判定し、受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信元端末装置がブロードキャストを行い、それを中継端末が多段中継して周辺の端末装置にデータの配信を行う、無線ネットワークシステムおよびパケット中継端末装置ならびに同システムにおけるパケット中継方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線ネットワークシステムでは、ブロードキャストパケットの通知にフラッディングと称される手法が用いられている。
フラッディングとは、送信元端末装置がブロードキャストパケットを同報(ブロードキャスト)し、それを受信した全ての端末装置がそのデータを転送(ブロードキャスト)することを繰り返すことで周辺の端末装置にデータを配信する手法である。つまり、フラッディングを行うと、データを全方向に位置する端末装置に転送することになる。
【0003】
一方、中継する端末装置数を削減することを目的に、送信元端末装置から中継端末までの情報の進行を表す情報進行ベクトルと中継端末の移動を表す移動進行ベクトルとが同じ向きになる場合にのみ中継を行う「情報伝送方法、情報伝送システム、情報端末および情報記憶媒体」が提案されている。しかしながらこの方式によっても全方向への転送となる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−339399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、情報によっては、ある方向や位置に対してのみ有効であり、その方向以外では必要のないケースが多々ある。このような場合にも全方向への転送が実施されれば、端末装置電力の浪費、および、無線リソースの浪費を引き起こすことになる。
例えば、車両間でマルチホップ無線ネットワークを形成し、ブロードキャストを用いて緊急車両接近情報を通知する際、情報が重要となるのは緊急車両がこれから通過する領域であるが、全方向に情報を通知する従来の手法では、緊急車車両の進行方向に対して後ろ側の無線リソースが浪費されることになる。また、事故情報を通知する際には、その情報が重要となるのは、事故現場に向かう車両となるため、例えば、一方通行道路などの場合には、無線リソースの浪費につながってしまう。
【0005】
上記した不都合を解消するため、本願出願人は、送信元である情報発信源が指定する方向ベクトルおよび位置情報を基準に、受信したブロードキャストパケットの中継の要否を、中継端末の位置情報および進行方向から決定することにより、無線リソースを有効活用することができる技術を平成16年2月27日に出願した(特願2004−55227号「無線ネットワークシステム、および同システムにおける中継端末ならびにプログラム」。
しかしながら、上記した出願によっても、送信元から遠方になるほど通知の範囲が広くなるため、無線リソースの浪費を解決する根本的な手法には至っていない。また、通知の範囲は現状の位置にのみ着目して決定され、将来的な位置が考慮されていないため、一定時間経過後にその通知領域に入る、あるいは通過する際に中継を必要とする端末装置への通知は不可能であった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ブロードキャストにおける中継方向およびその領域を指定することで無線リソースの浪費を回避し、また、現在位置のみならず将来的な位置も考慮して通知範囲を決定することで、一定時間経過後にその領域を出入りする端末装置にも通知を可能とした、無線ネットワークシステムおよびパケット中継端末装置ならびに同システムにおけるパケット中継方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために本発明は、ブロードキャスト信号を多段中継することにより周辺の端末装置にデータの配信を行う無線ネットワークシステムであって、少なくともデータ有効角度範囲およびその有効幅から成るパラメータ情報を含む前記ブロードキャスト信号を生成する送信元端末装置と、前記パラメータ情報に基づき、自端末の位置情報および進行方向から前記受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断する複数のパケット中継端末装置と、を備えて成ることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、ブロードキャスト信号を多段中継することにより周辺の端末装置にデータの配信を行う無線ネットワークシステムにおけるパケット中継端末装置であって、送信元端末装置から、データ有効角度範囲とその有効範囲を示すパラメータ情報を含むブロードキャストパケットを受信するバケット受信部と、自身の位置情報を取得する自端末位置情報取得部と、前記取得した位置置情報が、前記パラメータ情報が示す領域に含まれるか否かに従い、前記パケット受信部で受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断するパケット中継判定部と、を具備することを特徴とする。
【0009】
また、本発明において、前記パケット中継判定部は、前記パラメータ情報に更に含まれる中継ノード位置範囲に基づき前記パケット受信部で受信したパケットを中継するか否かを判定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明において、前記パケット中継判定部は、前記パラメータ情報に更に含まれる想定時間に基づき所定時間経過後の自端末の位置情報を算出し、当該位置置情報が前記データ有効角度範囲およびその有効幅が示す領域に含まれるか否かに従い、前記パケット受信部で受信したパケットを中継するか否かを判定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明において、前記パラメータ情報に更に含まれるデータ有効位置範囲に基づき、前記パケット受信部で受信したパケットを取得するか否かを判定するデータ取得判定部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、ブロードキャスト信号を多段中継することにより周辺の端末装置にデータの配信を行う無線ネットワークシステムにおけるパケット中継方法であって、送信元端末装置から、データ有効角度範囲とその有効範囲を示すパラメータ情報を含むブロードキャストパケットを受信するステップと、自端末の位置情報を取得するステップと、前記取得した位置置情報が、前記パラメータ情報が示す領域に含まれるか否かに従い前記受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ブロードキャスト信号を多段中継することにより周辺の端末装置にデータの配信を行う無線ネットワークシステムにおいて、送信元端末装置が、ブロードキャストにおける中継方向(有効角度範囲)およびその領域(有効幅)を含むパラメータを指定し、これを受信した中継端末装置は、自身の現在位置情報が、パラメータが示す領域に含まれるか否かを判定し、受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断することで、データを必要とする端末装置に対してのみそのデータを送信することができ、無線リソースの浪費を回避することができる。
【0014】
また、中継端末装置が、パラメータ情報に更に含まれる想定時間に基づき、所定時間経過後の自端末の位置情報を算出し、当該位置置情報がデータ有効角度範囲およびその有効幅が示す領域に含まれるか否かを判定し、受信したパケットを中継するか否かを判定することで、現在位置のみならず将来的な位置も考慮して通知範囲を決定することができ、一定時間経過後にその領域を出入りする端末装置にも例えば緊急車両接近情報等の通知を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の無線ネットワークシステムの動作シーケスを示す図である。ここでは、情報発信源としての送信元端末装置1、ならびにパケット中継端末装置2〜nの関係が示されている。
【0016】
図1において、送信元端末装置1は、自身の「位置情報」、「配信方向」、「速度」、「位置オフセット」、「中継ノード位置範囲」、「データ有効位置範囲」、「有効角度範囲」「有効幅」に関するパラメータを、ブロードキャストパケットに付加して送信する(S1)。
ここで、「位置オフセット」とは、実際の情報発信源1の位置から進行方向後方に基準位置をシフトするためのオフセットであり、「中継ノード位置範囲」は、中継端末2〜nが中継を行うか否かを判定する情報発信源からの距離、「データ有効位置範囲」とは、パケット中継端末装置2〜nがデータをアプリケーションに通知するか否かを判定する情報発信源からの距離を示す。
【0017】
情報発信源からブロードキャストパケットを受信したパケット中継端末装置2は、自身の位置情報から情報発信源の位置を基準とした位置ベクトルを求める。但し、位置ベクトルは、情報発信源の位置情報に情報発信源の進行方向逆向きに位置オフセット分だけシフトした位置を基準として求める。
そして、上記した位置ベクトルと通知された進行方向ベクトルの内積からcosθが有効角度から得られる値、例えば、有効方向が90°の場合、0よりも大きく、かつ、後述する判定式を満足すれば、中継およびデータ取得の候補とする(S2)。そして、候補となった状態で位置ベクトルの大きさを調べ、「中継端末位置範囲」よりも小さければ中継を実行し(ブロードキャスト)、また、「データ有効位置範囲」よりも小さければデータを取得してアプリケーションを実行する(S3)。図6に、緊急車輌接近時の自車両との関係において上記した「データ有効位置範囲」または「中継ノード位置範囲」が示されている。
【0018】
図2は、本発明実施形態におけるパケット中継端末装置の内部構成を機能展開して示したブロック図である。
パケット中継端末装置2は、情報発信源である送信元端末装置1が指定するパラメータ情報に基づき、自端末の位置情報および進行方向から前記受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断するもので、ここでは、パケット受信部21と、自位置情報取得部22と、ベクトル算出部23と、パケット中継判定部24と、データ取得判定部25と、パケット送信部26と、アプリケーション実行部27で構成される。
【0019】
パケット受信部21は、情報発信源となる送信元端末装置1からブロードキャストパケットを受信してそのパケットをベクトル算出部23、パケット中継判定部24およびデータ取得判定部25へ供給する。自位置情報取得部22は、例えば、GPS(Global Positioning System)レシーバ等により自身の位置情報を取得してベクトル算出部23へ供給する。
ベクトル算出部23は、情報発信源である送信元端末装置1が指定する方向ベクトルおよび位置情報と、自端末2の位置情報および進行方向とのベクトル演算を行い、その結果を中継判定部24ならびに取得判定部25へ供給する。
【0020】
パケット中継判定部24は、ベクトル算出部23から出力されるベクトル値と中継ノード位置範囲に基づき受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断する。パケット中継判定部24はまた、自身の現在および将来を含めた位置が、有効角度範囲とその有効幅から成るパラメータが示す領域に含まれるか否かに従い、パケット受信部21で受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断する。
一方、データ取得判定部25は、ベクトル算出部23から出力されるベクトル値とデータ有効位置範囲に基づき受信したブロードキャストパケットに含まれるデータ有効距離範囲を基準にパケット受信部21で受信したパケットを取得するか否かを判定する。
【0021】
ここでの判断結果は、それぞれパケット送信部26、アブリケーション実行部27に転送され、データ送信、もしくはアプリケーションの実行が行われる。
【0022】
図5は、本発明の第1の実施形態を説明するために引用した図であり、ここでは、緊急車両が接近した場合のイメージ図を示す。以下、本実施形態の動作について緊急車両接近通知といった具体的例を用いて説明する。図3、図4にその動作の流れがフローチャートで示されている。
図3のフローチャートにおいて、情報発信源である緊急車両(送信元端末装置1)から送信されるブロードキャストパケットをパケット受信部21で受信したパケット中継端末装置2は(S31)、ベクトル算出部23で自身の位置情報から情報発信源の位置を基準とした位置ベクトルを求める(S32)。但し、位置ベクトルは、情報発信源の位置情報に、情報発信源の進行方向逆向きに位置オフセット分だけシフトした位置を基準として求める。
【0023】
ベクトル算出部23は、更に、上記した位置ベクトルと通知された進行方向ベクトルとの内積からcosθを求め(S33)、cosθが有効角度範囲から得られる値、例えば、有効方向が90°の場合、0よりも大きければ(S34“cosθ≧α”)、中継およびデータ取得の候補としてパケット中継判定部24、およびデータ取得判定部25へ供給する。
パケット中継判定部24は、候補となった状態で位置ベクトル大きさを調べ(S35)、「中継端末位置範囲」よりも小さければ、データ送信部26を介して中継を実行し、大きければデータを破棄する(S39)。データ取得判定部25もまた、「データ有効位置範囲」と比較し(S37)、データ有効位置範囲よりも小さければデータを取得し(S38)、アプリケーション実行部27にてそのアプリケーションを実行する。
なお、上記した緊急車両(送信元端末装置1)が指定する方向ベクトルおよび位置情報を基準に、受信したブロードキャストパケットの中継の要否を、パケット中継端末装置2の位置情報および進行方向から決定する方法およびその演算式については、上記した特願2004−55227号に詳細に示されている。
【0024】
また、中継実行(S36)、あるいはデータ取得(S38)に先立ち、パケット中継判定部24およびデータ取得判定部25は、あらかじめ定義された判定式に基づき、中継もしくはデータの取得を決定する(それぞれS40、S41)。
このとき使用される変数およびパラメータは、位置ベクトルX=(x,y)、進行方向ベクトルV=(cos(90−θ),sin(90−θ))、速度vとする。ここで、θは移動方向(北を基準とした時計廻り)とする。また、通知される情報は、位置ベクトルX=(x,y)、進行方向ベクトルV=(cos(90−θ),sin(90−θ))、速度v、位置オフセットa[m]、有効角度範囲φ[deg]、有効幅w[m]とする。
【0025】
図4に、上記したS40、S41の処理に関する詳細手順(判定式に基づく演算処理)が示されている。ここでは、まず、ベクトル演算部23で通知車両位置を原点にした位置情報への変換処理が実行される(S401)。
ここで、自車両の現在位置Xは、X=X−X+aVとなる。また、判定用関数として以下の演算式(1)が用意され、パケット中継判定部24で関数F、F、Fの演算が実行される(S402)。
【0026】
【数1】

【0027】
図7に示されるように、F(x,y)=0、および、F(x,y)=0は、直線1、直線2を示しており、F(x,y)<0、F(x,y)<0となる場合(S403“Yes”)、自車両がそれぞれ直線の通知車両側に存在することを意味する。また、F(x,y)>0となる場合(S404“Yes”)、通知車両から見た自車両の位置は、通知の方向に対して有効角度範囲φ以内の角度にあることを意味する。
ここで、現在位置が有効範囲角度内で(S404“Yes”)、有効範囲幅にある場合(S405“Yes”)、パケット中継判定部24の指示の下、パケット送信部26による通知(パケット中継)、あるいはデータ取得判定部25の指示の下でアプリケーション実行部27によるデータの取得操作およびアプリケーションの実行が起動される(図3、S36またはS38)。このときの判定式は、以下の演算式(2)に従う。
【0028】
【数2】

【0029】
上記した判定式を満足することにより、パケット中継判定部24は、パケット送信部26を制御してパケットの中継を実行し、また、データ取得判定部25はアプリケーション実行部27を制御してデータの取得を行い、アプリケーションにそのデータの引渡しを行ってアプリケーションの実行を指示する。
【0030】
図8は、本発明の第2の実施形態を説明するために引用した図である。図8は、図5に示す第1の実施形態同様、緊急車両が接近した場合のイメージ図であるが、図5に示す実施形態との差異は、一定時間経過後の通知車両の予想位置を用いてブロードキャストを行う点にある。他は同様である。
ここでは、情報発信源となる通知車両(送信元端末装置1)は、位置範囲、有効角度範囲、有効幅と、車両の現在位置、および一定時間経過後の予想位置を用いてブロードキャストを行う。なお、前方への通知、後方への通知、周辺への通知、任意地点への通知は同一のブロードキャスト手法を用いることとするが、パラメータの設定の仕方によりブロードキャストの範囲を変化させるものとする。
【0031】
ここでは、まず、情報発信源である通知車両(送信元端末装置1)は、「通知車両の位置情報」、「通知の配信方向」、「速度」、「位置オフセット」、「中継ノード位置範囲」、「データの有効位置範囲」、「有効角度範囲」、「有効幅」、および「想定時間」をパラメータ情報とするブロードキャストパケットを、設定された通知間隔毎に設定された通知回数だけ送信する。
フロードキャストパケットを受信した車両(パケット中継端末装置2)は、通知車両(送信元端末装置1)との位置オフセットを含む距離が、先のパラメータ情報である「中継ノード位置範囲」にあり、かつ、判定用関数(1)式を満足する場合にその受信パケットを中継する。また、位置オフセットを含む通知車両との距離が「データの有効位置範囲」内にあり、かつ、判定用関数(1)式を満足する場合はその受信したパケットを取り込みアプリケーションに引き渡す。
【0032】
以下に詳細を説明する。まず、通知車両(送信元端末装置1)は、設定値から、「通知車両の位置情報」、「通知の配信方向」、「速度」、「中継位置オフセット」、「中継有効角度範囲」、「中継ノード位置範囲」、「データ有効位置オフセット」、「データ有効角度範囲」、「有効幅」、「想定時間」に関するパラメータ、更には、参考情報として、「通知車両の進行方向」、「通知車両の目的地」を生成し、ブロードキャストパケットに付加して送信する。
ブロードキャストにおけるパケットの中継、もしくはデータの取得を決定するための判定式は、図5に示す実施形態同様、演算式(1)によって示される。なお、判定式とは別に、「中継ノード位置範囲」、および「データの有効位置範囲」についても判定を行う。図9に、緊急車輌接近時の自車両との関係において上記した「データ有効位置範囲」または「中継ノード位置範囲」が示されている。
【0033】
ここで、判定に使用される変数およびパラメータは、位置ベクトルX=(x,y)、進行方向ベクトルV=(cos(90−θ),sin(90−θ))、速度vとする。但し、θは移動方向(北を基準とした時計廻り)とする。
また、通知される情報は、位置ベクトルX=(x,y)、進行方向ベクトルV=(cos(90−θ),sin(90−θ))、速度v、位置オフセットα[m]、有効角度範囲φ[deg]、有効幅w[m]、そして、想定時間t[s]とする。
【0034】
判定用関数を演算するにあたり、まず、通知車両位置を原点にした位置情報への変換処理が実行される。ここで、自車両の現在位置Xは、X=X−X+aV、自車両の予想位置は、X=X+t*V−X+aVとなる。
また、判定用関数として以下の演算式(3)が用意され、ここで関数F、F、Fの演算が実行される。
【0035】
【数3】

【0036】
演算結果、図10に示されるように、現在位置が有効範囲角度内で、有効範囲幅にある場合、通知(パケット中継)、あるいはデータの取得操作を実行する。このときの判定式は以下の演算式(4)に従う。
【0037】
【数4】

【0038】
また、現在位置が「有効角度範囲」内で「有効範囲幅外」にあり、その後、予想位置(X=X+t*V−X+aV)が「有効範囲幅」に侵入する場合も、通知(パケット中継)、あるいはデータの取得操作を実行する。このときの判定は以下に示す演算式(5)に従う。
【0039】
【数5】

【0040】
上記した判定式を満足することにより、パケット中継判定部24は、データ送信部26を制御してパケットの中継を実行し、また、データ取得部25を制御してデータの取得を行い、アプリケーション実行部27にてそのデータの引渡しを行ってアプリケーションの実行を指示する。図11に予想位置を用いた通知の概念が示されている。
なお、上記した実施形態によれば、現在位置のみならず将来的な位置も考慮して通知範囲を決定することができ、一定時間経過後にその領域を出入りする端末装置にも例えば緊急車両接近情報等の通知を可能とすることができる。
【0041】
次に、後方へのブロードキャスト、周辺へのブロードキャスト、任意地点へのブロードキャストのそれぞれについて、説明する。
送信元端末装置1がパラメータを変更してブロードキャストを行うことで様々な形態に対応できることは上記したとおりである。第3の実施形態として示す後方へのブロードキャストは、「通知の配信方向」として、第1、第2の実施形態で示した通知車両の進行方向θに対し、mod(通知車両の進行方向(θ)+180°、360°)としたパラメータを用いることとした。他は同じである。また、第4の実施形態として示す周辺へのブロードキャストは、「中継有効角度範囲」と「データ有効角度範囲」を180°とし、方向を無くしたパラメータを用いることとした。他は同じである。
【0042】
第5の実施形態として示す任意地点へのブロードキャストは、図12にその概念が示されている。
図12に示されるように、任意地点へのブロードキャストでは、「通知の配信方向」として、mod(通知車両の進行方向(θ)+180°、360°)を、「中継位置オフセット」として、任意地点の中心までの距離+任意地点の半径を、「中継有効角度範囲」として90°を、「中継ノード位置範囲」として、任意地点中心までの距離+任意地点の半径を、「データ有効位置オフセット」として180°を、「データ有効角度範囲」として任意地点の半径を、「有効幅」としてデータ有効位置範囲以上をパラメータ設定することとした。
【0043】
以上説明のように、第3、第4、第5の実施形態によれば、送信元端末装置1が、パラメータ情報の一部を変更するだけで、前方、後方、周辺、任意地点等、ブロードキャストの方向ならびに範囲を任意に変更することができる。
最後に、第6の実施形態として、上記した第1〜第5の実施形態において、中継車両の進行方向を用いてブロードキャストを行う場合について説明する。
この場合は、新たに、判定式として以下の演算式(6)を用いることとする。
【0044】
【数6】

【0045】
そして、現在位置が有効範囲角度内で、有効範囲幅内、かつ、両車両が向かい合っている場合に、通知(バケット中継)、もしくはデータ取得を行う。このときの判定式は、以下の演算式(7)に従う。
【0046】
【数7】

【0047】
また、現在位置が有効角度範囲内で、有効範囲幅外、その後、予想位置が有効範囲幅内に侵入、かつ、両車両が向かい合っている場合に、通知(バケット中継)、もしくはデータ取得を行う。このときの判定式は、以下の演算式(8)に従う。
【0048】
【数8】

【0049】
以上説明のように本発明は、ブロードキャスト信号を多段中継することにより周辺の端末装置にデータの配信を行う無線ネットワークシステムにおいて、送信元端末装置が、ブロードキャストにおける中継方向(有効角度範囲)およびその領域(有効幅)を含むパラメータを指定し、これを受信したパケット中継端末装置は、自身の現在位置情報が、パラメータが示す領域に含まれるか否かを判定し、受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断することにより、データを必要とする端末装置に対してのみそのデータを送信することができる。このことにより、無線リソースの浪費を回避し、また、各中継端末は不要なパケットを送信する必要がなくなるため、端末電力の浪費も回避するものである。
【0050】
また、パケット中継端末装置が、パラメータ情報に更に含まれる想定時間に基づき、所定時間経過後の自端末の位置情報を算出し、当該位置置情報がデータ有効角度範囲およびその有効幅が示す領域に含まれるか否かを判定し、受信したパケットを中継するか否かを判定することで、現在位置のみならず将来的な位置も考慮して通知範囲を決定することができ、一定時間経過後にその領域を出入りする端末装置にも例えば緊急車両接近情報等の通知を可能とすることができる。
本発明は、特に、ITSにおける緊急車輌接近情報や事故情報通知等、アドホックネットワーク内での情報配信に効果的である。
【0051】
なお、図2に示すパケット受信部21、自位置情報取得部22、ベクトル算出部23、パケット中継判定部24、データ取得判定部25、パケット送信部26、アプリケーション実行部27のそれぞれで実行される手順をコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって本発明の無線ネットワークシステムおよびパケット中継端末装置を実現することができる。ここでいうコンピュータシステムとは、OSや周辺機器等のハードウェアを含む。
【0052】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組合せで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0053】
以上、この発明の実施形態につき、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の無線ネットワークシステムの動作シーケスを示す図である。
【図2】本発明のパケット中継端末装置の内部構成を機能展開して示したブロック図である。
【図3】本発明における第1の実施形態の動作をフローチャートで示した図である。
【図4】本発明における第1の実施形態の動作をフローチャートで示した図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における自車両と緊急車両のイメージ図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における自車両と緊急車両の位置関係を説明するために引用した図である。
【図7】本発明の第1の実施形態における自車両と緊急車両の位置関係を説明するために引用した図である。
【図8】本発明の第2の実施形態における自車両と緊急車両のイメージ図である。
【図9】本発明の第2の実施形態における自車両と緊急車両の位置関係を説明するために引用した図である。
【図10】本発明の第2の実施形態における自車両と緊急車両の位置関係を説明するために引用した図である。
【図11】本発明の第2の実施形態において、自車両予測位置を反映させた緊急車両との位置関係を説明するために引用した図である。
【図12】本発明の第5の実施形態における車両間の位置関係を説明するために引用した図である。
【符号の説明】
【0055】
1…送信元端末装置、2…パケット中継端末装置、21…パケット受信部、22…自位置情報取得部、23…ベクトル算出部、24…パケット中継判定部、25…データ取得判定部、26…パケット送信部、27…アプリケーション実行部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロードキャスト信号を多段中継することにより周辺の端末装置にデータの配信を行う無線ネットワークシステムであって、
少なくともデータ有効角度範囲およびその有効幅から成るパラメータ情報を含む前記ブロードキャスト信号を生成する送信元端末装置と、
前記パラメータ情報に基づき、自端末の位置情報および進行方向から前記ブロードキャストパケットの中継の要否を判断する複数のパケット中継端末装置と、
を備えて成ることを特徴とする無線ネットワークシステム。
【請求項2】
ブロードキャスト信号を多段中継することにより周辺の端末装置にデータの配信を行う無線ネットワークシステムにおけるパケット中継端末装置であって、
送信元端末装置から、データ有効角度範囲とその有効範囲を示すパラメータ情報を含むブロードキャストパケットを受信するバケット受信部と、
自身の位置情報を取得する自端末位置情報取得部と、
前記取得した位置置情報が、前記パラメータ情報が示す領域に含まれるか否かに従い、前記パケット受信部で受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断するパケット中継判定部と、
を具備することを特徴とするパケット中継端末装置。
【請求項3】
前記パケット中継判定部は、
前記パラメータ情報に更に含まれる中継ノード位置範囲に基づき前記パケット受信部で受信したパケットを中継するか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載の中継端末装置。
【請求項4】
前記パケット中継判定部は、
前記パラメータ情報に更に含まれる想定時間に基づき所定時間経過後の自端末の位置情報を算出し、当該位置置情報が前記データ有効角度範囲およびその有効幅が示す領域に含まれるか否かもしくは通過するか否かに従い、前記パケット受信部で受信したパケットを中継するか否かを判定することを特徴とする請求項2または3に記載のパケット中継端末装置。
【請求項5】
前記パラメータ情報に更に含まれるデータ有効位置範囲に基づき、前記パケット受信部で受信したパケットを取得するか否かを判定するデータ取得判定部と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載のパケット中継端末装置。
【請求項6】
ブロードキャスト信号を多段中継することにより周辺の端末装置にデータの配信を行う無線ネットワークシステムにおけるパケット中継方法であって、
送信元端末装置から、データ有効角度範囲とその有効範囲を示すパラメータ情報を含むブロードキャストパケットを受信するステップと、
自端末の位置情報を取得するステップと、
前記取得した位置置情報が、前記パラメータ情報が示す領域に含まれるか否かに従い前記受信したブロードキャストパケットの中継の要否を判断するステップと、
を有することを特徴とする無線ネットワークシステムにおけるパケットの中継方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−100983(P2006−100983A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282124(P2004−282124)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】