説明

無線位置特定受信機及び信号処理装置

【解決手段】衛星無線位置特定受信機用疑似距離処理装置20は、補助基準タイマ40を刻時するために使用される補助クロック38にアクセスすることができる。補助基準タイマ40は、主クロックによって保持されているGPS時刻に関連して、追尾中に定期的に標本抽出される。処理装置は、相関器25及び主クロック37が作動していない低電力休眠モードの期間同士の間における間欠動作を可能にする。覚醒と同時に新しい標本が補助基準タイマ40から取得され、この新しい標本が相関ピーク123a〜cの最もありそうな位置の推定を可能にする。
【効果】高い即時再捕捉確率で、適切な符号位相ウィンドウ内でピークを直接に探索し始めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星無線位置特定装置、例えば一群の衛星から受信される信号によって正確な時刻と地理的な位置とを決定するための装置、に関するものである。もっと詳細に述べると、本発明は、受信機のうちの選択されたサブシステムのスイッチを切ることによって電力消費を低減させることのできる衛星無線位置特定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPS(全地球測位システム)、GLONASSまたはGalileoの様な衛星無線位置特定システムは、一群の周回衛星から放送される無線信号の受信に依存しており、受信機からその受信された衛星の各々までの間隔つまり距離を決定するためにこれらの信号中に含まれている情報を使用している。衛星の軌道が知られているので、絶対時刻とGPS受信機の位置とを幾何学的に決定することができる。
【0003】
本発明の文脈中では、『受信機』という用語や『GPS受信機』という用語は、完全な自己充足的な受信機装置だけでなく、複合物中に含まれているモジュール、例えば携帯電話、自動車警報装置、PDA(携帯情報端末)等の中のGPSモジュール、を意味することもある。上記の用語は、適切なバス、例えばGPS PC−カード、によってホスト装置と接続されることがある差し込み可能モジュールを指すこともある。
【0004】
『受信機』という用語や『GPS受信機』という用語は、本発明の文脈中では、上記に定義されている様な完全なGPS受信機または完全なGPSモジュールを実現する様に構成されている一つ以上の集積回路をも含むと理解されるべきである。
【0005】
以下の説明は、大部分はGPS全地球測位システムに関連している。しかし、本発明は、この特定のシステムに限定されず、同じ原理に基づく無線位置特定システム、例えばGLONASSシステムまたはGALILEOシステム、用の受信機中で用いることもできる。
【0006】
衛星無線位置特定装置の一般的な機能は、周知であり、以下の説明中では簡潔に要約される。本出願人の名義の特許出願EP1198068及び特許出願WO05003807が参照され、これらの出願がこの参照によって本明細書中に組み込まれている。
【特許文献1】欧州特許出願第1198068号明細書
【特許文献2】国際特許出願WO05003807号明細書
【0007】
GPS無線位置特定システムの場合には、『L1』周波数及び『L2』周波数と呼ばれており夫々1572.42MHz及び1227.60MHzである二つの搬送波周波数で構成されているマイクロ波無線信号を、可動GPS衛星の各々が送信する。L1搬送波及びL2搬送波は、C/Aコード(粗捕捉符号)及びPコード(精密符号)と呼ばれている二つのデジタル測距符号系列によって変調されている。現在のところ、商用GPS受信機によって使用されている粗捕捉符号はL1周波数及びL2周波数中で変調されているが、精密符号の使用は主に米国政府及び米国軍に限定されている。各GPS衛星毎に一意である粗捕捉符号は、遷移速度が1.023MHzである1023ビットつまり1023『チップ』の繰り返しを含む疑似ランダムGold符号である。従って、粗捕捉符号は1ミリ秒毎に自分自身を繰り返している。測距符号系列は、共通の正確な時刻基準、つまり各衛星の基板上の正確なクロックによって保持されている『GPS時刻』、に同期されており、主クロックに同期されている。
【0008】
その他の無線位置特定システム、例えば提案されているGalileoシステムも、絶対時刻の共通標準に同期されている測距符号に基づく類似のまたは同等の信号構造を用いている。GPSシステムとその他の無線位置特定衛星システムとに本発明が適用される場合には、GPSシステムの絶対時刻標準とその他の無線位置特定衛星システムの時刻標準との両方を意味するために、『GPS時刻』という用語が以下において使用されている。
【0009】
L1搬送波とL2搬送波との両方は、50bpsの航法メッセージつまりNAV符号によっても変調されている。この航法メッセージは、他の情報と共に、時刻の関数としてのGPS衛星の座標と、クロック修正値と、大気データとを含んでいる。
【0010】
これらの符号を捕捉して位置決定を行うために、GPS受信機は、受信された各衛星毎に、受信された衛星のドップラー偏移を考慮に入れて、1.023MHzに近い周波数で作動している局部数値制御発振器に調節されている粗捕捉符号の局部複製を発生させる。次に、この符号は、受信機の相関エンジン中で、局部符号が衛星の符号と同期していることを示す相関値のピークが得られるまで、時間偏移されて受信信号と相関される。最適相関を達成するのに必要な時間偏移の量つまり疑似距離が、衛星とGPS受信機との間の間隔の表示である。GPSの内部クロックは、通常はGPS衛星のクロックに関する大きな誤差によって影響を受ける。この誤差を解決するためには、GPS受信機は少なくとも四つの衛星を捕捉して三つの空間座標x、y、zと時刻tとを含む位置決定を与えなければならない。
【0011】
更に、GPS信号の搬送波周波数は、未知のドップラー偏移によって公称周波数から偏移されている。GPS信号の捕捉は、三次元パラメータ空間の軸が衛星の識別つまり疑似ランダムGold符号の周波数偏移と時間偏移とに対応しているこの三次元パラメータ空間内における相関ピークを探索することを伴う本来的に時間のかかる過程である。特定の衛星に向けられる各探索毎に、ピークが見つかるまで、考えられる総ての符号位相と考えられる総ての周波数とが相関回路中で試みられなければならないかもしれない。この探索過程は、先行情報を利用できないときに特に長くて、最悪の場合には数秒に達することがある。ピークが見つかると、追尾段階中は、システムはその動きを追跡しさえすればよく、これを行うための困難または遅延は通常はもっと少ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この長い捕捉時間はGPSの多くの応用における制限因子である。詳細に述べると、例えば、短期間しかGPS受信機を供給しないことが望ましい、携帯通信ネットワーク等における位置サービスの様な幾つかの低速、低電力応用ではそうである。
【0013】
詳細に述べると、殆どの応用は中程度の速度の位置決定しか要求しない。自動車のナビゲーションシステムでは、1秒当たり1回の位置決定から5秒毎に1回の位置決定までの速度が標準であると考えられている。もっと低速の応用、例えば歩行者の追尾では、位置決定は時間的にもっと長い間隔、例えば1分当たり1回でもよい。従って、位置決定同士の合間に受信機の選択された部分のスイッチを切ることによって、受信機の電力消費を更に低減させることが可能である。しかし、間欠モードで作動するためには、その都度相関ピークの完全探索を行うことなく、先行の位置決定で追尾されていた衛星を受信機が直ちに再捕捉できなければならない。このため、受信機の幾つかの要素、例えば主クロックと相関エンジンは、間欠モードでスイッチを切られない。
【0014】
上述の制限を克服する無線位置特定システム用の受信機を提供することが本発明の目的であり、更に、選択された構成部分のスイッチを間欠的に切ることによって低消費電力を呈する無線位置特定システム用の受信機を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によると、独立請求項1中に記載されている様に、主クロック信号の中断後における衛星信号の直接再捕捉能力を有する衛星無線位置特定受信機中で信号を処理するための信号処理装置によって、これらの目的が達成される。
【0016】
本発明は、更に、独立型装置としてかまたはPDAや携帯電話の様なホストシステムにインタフェースされる組合せ型装置としてのその様な信号処理装置を含む完全な衛星無線位置特定受信機を含んでいる。
【0017】
更に、本発明は、対応する独立方法請求項中に記載されている特徴有しており主クロック信号の中断後における衛星無線位置特定受信機中での衛星信号の再捕捉のための方法と、この方法を実行するためのコンピュータプログラムとを含んでいる。
【0018】
本発明は、実施例として与えられており且つ図面によって図解されている実施形態の記載の助けによって一層十分に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1によると、本発明の無線位置特定装置100は無線周波数モジュール70を含んでおり、その機能は、本明細書では詳細には述べないが、アンテナ72によって無線位置特定衛星から受信される信号を処理することである。無線周波数回路は、単一または複数の変換ヘテロダイン無線受信機を含んでおり、その出力75に中間周波数信号、例えば4.092MHzの低−中間周波数信号か、その代わりにデジタル基底帯域信号を、提供する。
【0020】
受信された衛星群の変調体系によって、出力75はその信号の幾つかの角度成分を含む。GPSの場合には、例えば、90°だけ偏移されている二つの成分が、必要であって、従来からI(同相)成分及びQ(直角位相)成分と呼ばれている。その他の変調体系、例えばGALILEOシステム用に提案されている変調は、二よりも多い角度成分を必要とする。
【0021】
無線周波数モジュール70は、無線位置特定装置100のために安定な時刻基準、例えば32.734MHzの時刻基準を提供する主時刻基準発生器36に接続されている。時刻基準発生器36はGPS信号の捕捉及び追尾を可能にするために比較的正確で且つ安定していなければならず、この時刻基準発生器36は通常は高品質な温度補償された水晶発振器つまりTCXOを含んでいる。
【0022】
無線周波数モジュール70の出力75は疑似距離エンジン20とも呼ばれている信号処理装置20へ送り込まれ、この信号処理装置20は今度は無線周波数回路70へ制御命令76を供給する。疑似距離エンジン20の機能は、受信された各衛星毎に、受信信号に正確に時刻合わせされている変調符号(商用GPS受信機の場合には粗捕捉符号)の局部複製を発生させることによって、衛星から受信された信号を復元することである。疑似距離エンジン20によって発生された符号偏移つまり疑似距離77は航法エンジン60へ送られ、この航法エンジン60は位置決定座標及び時間座標x、y、z、tを計算する。航法エンジンは適切な探索命令78によって疑似距離エンジン20の操縦も行う。位置決定は通常は反復カルマンフィルタによって得られ、満足な解が見つかるまで航法エンジンは幾つかの符号期間を通して疑似距離データ77を追跡する必要があるかもしれない。
【0023】
疑似距離エンジン20及び無線周波数モジュール70は、二つの別個の集積回路としてまたは単一の共通の集積回路として実現されていることが好ましい。
【0024】
本発明の好ましい変形では、航法エンジン60はホストシステム90の一部であり、このホストシステム90は応用航法ソフトウェア80及び使用者との相互作用のための適切な周辺機器85をも含んでいる。本発明の無線位置特定装置100は、この場合、例えば、携帯電話、PDA、ゲーム機、パーソナルコンピュータまたはその他の任意の適切なホスト装置用の拡張カードまたは拡張モジュールの形態での、ホストシステムの拡張である。しかし、本発明は、航法エンジン、応用ソフトウェア及び周辺機器並びに無線周波数モジュール及び疑似距離エンジンを組み入れている独立型装置をも含んでいる。
【0025】
図2に関連して、本発明による疑似距離エンジン20がもっと詳細に説明されている。この疑似距離エンジン20は、無線周波数回路70とデジタル処理装置26例えばDSP処理装置とから中間周波数信号または基底帯域信号75を受け取る相関器25の配列を含む相関エンジンを含んでいる。構成がここでは指定されていないメモリ90が、データ及び命令を記録するために使用されている。
【0026】
本発明の一つの形態によると、各々の相関器25は、局部搬送波発生器と、示されてはいないが、中間周波数信号を更に変換して二成分基底帯域信号を発生させるための周波数変換段とを含んでいる。
【0027】
各々の相関器は、特定のGPS衛星に対応する粗捕捉符号の局部複製を提供するための少なくとも一つの局部Gold疑似ランダム符号源28をも含んでいる。この符号源28は、例えばタップ付きシフトレジスタによってGold疑似ランダム符号を内部的に発生させることができるか、または、等価的に、予め読み込まれている表からもしくはその他の任意の技術によってGold疑似ランダム符号をフェッチすることができる。本発明の変形によると、この疑似ランダム符号源は、特定のGPS衛星に対応する粗捕捉符号から得られる符号、例えば粗捕捉符号のフーリエ変換、を発生させる。
【0028】
この符号源28は、時刻基準信号37に接続されている約1.023MHzの独立数値制御粗捕捉クロックを含んでいる。局部搬送波の正確な周波数及び局部粗捕捉符号の正確な周波数は、衛星信号についてのドップラー偏移と局部発振器のドリフト及びバイアスとを補償するために、処理装置26によってまたは航法エンジン60の命令を受けて調節されている。到来中間周波数信号は、局部搬送波の同相(I)成分及び直角位相(Q)成分と複製粗捕捉符号の二つの時間偏移版とで乗算される。これらの演算の結果は、処理装置26及び航法エンジン60に理解し易い積分相関値を発生させるために、積分器27中で、プログラム可能期間の間、積分される。
【0029】
本発明の考えられる変形では、即時相関値に加えて、例えばGPS信号を局部複製符号の1/2チップ遅延版及び1/2先進版と乗算することによって得られる遅行相関値及び先行相関値を、捕捉された各衛星毎に発生させる様に相関器25をプログラムすることもできる。これらの遅行相関値及び先行相関値は、相関ピークの形状を決定するためと、追尾アルゴリズムにおいて相関ピークの位置を追跡するためとに、用いられる。
【0030】
別の変形によると、符号源28には固定の間隔またはプログラム可能な間隔で複数のタップがあり、従って相関器は符号位相中のかなりの相関範囲、例えば±15マイクロ秒の時間的期間に対応する±15符号チップの範囲を並列的に処理することができる。任意の長さであって必要に応じて1チップ、1/2チップ、1/4チップ等の段階を有する相関プロファイルをシステムが提供できる様に、相関ウィンドウの幅及び細分性はプログラム可能であることが好ましい。
【0031】
上記の疑似距離エンジンの説明は、相関器付きの古典的な構成に当てはまる。しかし、これが考えられる唯一のアプローチではなく、その他の型のGPS受信機、例えば高速フーリエ変換アプローチに基づくGPS受信機にも本発明は適用可能である。この場合、相関ピークの位置及び形状は、受信信号の高速フーリエ変換を処理することによって決定される。Gold疑似ランダム符号との相関は、上述の様な時間領域かまたは周波数領域かの何れかにおいて実行される。後者の場合には、特定の衛星用のGold符号系列のフーリエ変換を直接に供給する様に、符号源28が構成されていてよい。
【0032】
本発明の考えられる変形では、上述の二つのアプローチつまり相関器系の構成と高速フーリエ変換系の構成とを結合することができる。例えば、強い信号を呈して容易に捕捉することのできる衛星については、最初の捕捉を相関器系の捕捉エンジンで実行することができ、その後にもっと弱い信号の更なる捕捉を高速フーリエ変換系の処理システムによって行うことができる。
【0033】
本発明の考えられる別の変形では、高速フーリエ変換系の処理システムによって衛星を捕捉することができる。しかし、十分な数の衛星が識別され且つ相対的な相関ピークの位相位置が知られていれば、エネルギーと計算資源とを節約するためにこれらの衛星の追尾は時間領域において相関器のバンク中で続けられる。
【0034】
主時刻基準信号37に加えて、疑似距離エンジン20は補助時刻基準38にもアクセスすることができる。本発明の好ましい変形では、この補助時刻基準38は疑似距離エンジン内の低電力実時間クロックによって得られる。この実時間クロックは、低電力発振器、例えば32kHzの発振器と、この低電力発振器の発振を計数する計時レジスタとを含んでいる。補助時刻基準には高い精度も安定性も必要ない。
【0035】
補助時刻基準38は、僅かな電流しか伴わない様にされており、且つ本発明の無線位置特定装置の他の部分がスイッチを切られるかまたは低電力モードにされている間ずっと流れ続けることができることが、好ましい。この補助時刻基準信号は、主GPSクロックのスイッチが切られても作動していて計数していることができる補助基準タイマ40中で、累算される。しかし、必要なときにのみ、例えば主クロックの中断中とその直前とにのみ、補助時刻基準のスイッチを入れることが可能であってよい。
【0036】
本発明の別の変形では、補助時刻基準は、疑似距離エンジン20の外部にあってよく、独立型モジュールまたは無線周波数回路70もしくはホストシステム90の要素であってよい。考えられるその他の変形では、無線位置特定装置にとって連続的に利用可能な外部の時刻信号または外部の周波数基準に、補助時刻基準が依存してよい。例えば、補助時刻基準はホストシステム90のクロック信号、例えばPCクロックであってよく、もしGPS装置が携帯電話の一部であれば、この補助時刻基準は携帯電話網のフレーム同期信号から得られてよい。
【0037】
本発明の補助時刻基準の目的及び使用を、図3a〜3eに関連して説明する。
【0038】
図3aは、基準クロック37とも呼ばれる主GPSクロック信号37と、補助基準タイマ40中で計数される遅行補助時刻基準38とを表している。信号39は、主GPSクロック37から得られてGPS時刻を測定するために使用される基準タイマである。この基準タイマは、一般に二つの構成部分、つまり、符号期間を計数するEpochカウンタと符号期間中へのオフセットを測定する周期カウンタとを含んでおり、衛星または受信機の如何なる動きもない場合には、主GPSクロックの安定性及び精度に起因する変動が殆どないことを条件として、受信された衛星の相関ピークは常に基準タイマ39の同じ符号位相で生じる。実際の動作状態では、相関ピークの符号位相は、受信機に対する衛星の動きに従って変動する。
【0039】
図3aは、ある時間(区画b及び区画c)にGPS信号を追尾し且つ一つ以上の位置決定を得た後に、主GPSクロック37と基準タイマ39とが作動していない低電力休眠状態に無線位置特定受信機がされている(区画z)、状況を示している。覚醒時(区画d及び区画e)には、GPSクロック37及び基準タイマ39は、休眠状態の前のそれらの状態とは何の関係もなく、覚醒と同時にリセットさえされるかもしれない。一方、補助時刻信号38及び補助基準タイマ40は、図3a中に示されており休眠期間(z)の前後の幾らかの時間に亙る全時間の間で、作動している。
【0040】
図3bは、図3aの区画(b)のことを指しており、無線位置特定装置の追尾動作を概略的に示している。ここでは、この装置が首尾よく少なくとも四つの衛星を捕捉し且つ対応する相関ピーク121a〜121dの相対位相を識別したと仮定されている。次に、疑似距離エンジンがそれらのピークを追尾して有効なデータを航法エンジンに提供し、位置決定解に収束するためのデータが達成されるまで、今度は航法エンジンが疑似距離エンジンに探索命令78を発する。疑似距離エンジンが何れかの衛星のピークを検出すれば、その衛星用に航法エンジンから来る探索命令は無視され、その代わりに、疑似距離エンジンはこれらのピークに対する追尾モードに自律的に入る。
【0041】
この状況では、基準タイマ39とGPS時刻との関係はシステムに知られており、受信機に関する衛星の相対速度の実際の値から、相関ピーク122a〜122dの予想される将来の位置を、システムは予測することができる。同時に、捕捉された各衛星についての将来のドップラー偏移及び搬送周波数も、システムは予測することができる。
【0042】
図3aの区画(c)のことを指している図3cによると、主GPSクロック37が作動している間、無線位置特定装置は補助基準タイマ40の標本抽出を行う。この動作では、補助時刻基準の前縁が標本抽出され170、その時に、GPSクロック37の精度で、例えば32.734MHzの基準クロックで、従って30ナノ秒の不確実性で、補助基準タイマ40の値が記憶される。標本抽出170は基準タイマ39の値も含む。補助基準タイマ40の値と基準タイマ39の値とが、同じ瞬間か、または既知の時間オフセット、例えば固定の時間オフセット、だけ離れている異なる瞬間に、取得される。
【0043】
提示されている実施例では、矩形補助時刻信号38の前縁で標本抽出170が行われている。しかし、同等な方法で、補助時刻信号38のその他の特徴、例えば矩形信号の場合には後縁や、または一般的な形状の信号の場合には補助時刻信号38の定義されているその他の任意の特徴を、システムは標本抽出することができる。
【0044】
補助基準タイマ40及び基準タイマ39の少なくとも二つの離隔している標本をシステムが記憶することが好ましい。簡単な実現では、システムは、覚醒状態では、定期的につまり毎秒または数秒毎に補助基準タイマ40及び基準タイマ39の標本を記録して、最後の二つの標本対を記録しておく。しかし、その他の体系も可能である。
【0045】
図3aの区画(d)で、主GPSクロック37と基準タイマ39とが休眠期間(z)後に再開されている。主GPSクロック37の位相と基準タイマ39の値とは、中断前のそれらの状態とは何の関係もなくてよい。この時点では、相関ピーク122a〜122dの位置を、相関器は予測することができない。図3dによると、補助基準タイマ40と基準タイマ39との新しい標本抽出175を、システムが実行する。一般に、定期的なGPS同期事象によって、例えば1ミリ秒毎に、標本抽出175が引き起こされる。
【0046】
一つの変形では、GPSシステムは休眠期間(z)中に一時的に無効にされてよいが、主GPSクロックは例えばシステム中のどこかほかで使用されているので作動させ続ける。この場合、正確な基準タイマ39はGPS時刻との既知の関係を喪失している。
【0047】
もしGPS基準クロックが連続的に作動しており且つGPSシステムが有効なままであれば、基準タイマ39が何であったのかを計算するために、従って相関ピークの最後の成功した追尾と新しい基準タイマ状態とに関する相関器の符号位相における変化を計算するために、本発明の無線位置特定装置は、中断(z)の前に取得された補助基準タイマ40と基準タイマ39との二つの標本対170を、新しい測定値175と共に使用することができる。
【0048】
中断(z)の前後の標本対中に取得されている補助時刻基準40の値及び基準タイマ39の値が、基準タイマ39と基準タイマ39の動作の中断(z)に続くGPS時刻との関係を再計算することを可能にする。
【0049】
補助基準タイマ40と基準タイマ39とを標本抽出する時には、殆ど同時に相関ピークの位相を標本抽出すればこれらの相関ピークの再開後の予想される位置123a〜123dの推定が簡単になるので、上述の殆ど同時の標本抽出が有利である。
【0050】
本発明によると、システムは補助基準タイマ40及び基準タイマ39と共に他の量も標本抽出することができ、例えば搬送波と符号ドップラー偏移とを標本抽出時点で標本抽出して休眠期間(z)後にありそうな搬送波及び符号ドップラーを予測するためにその後に使用することができる。この様にして、休眠期間(z)後の衛星の相関ピークの探索が更に改善されている。
【0051】
図3e中に図解されている様に、本発明の無線位置特定装置は、休眠期間(z)前に衛星が最後に追尾された時の以前の値と、これらの以前の値が変化していた速度と、補助基準タイマ40及び基準タイマ39の測定された標本とに基づいて、休眠期間(z)前に追尾された各衛星毎に、最もありそうなピーク位置123a〜123dと搬送波及び符号のドップラー周波数パラメータとを推定することができる。従って、予測されるピーク位置の周囲のウィンドウ中における相関ピークを、衛星の信号を迅速に検出する高い確率で、処理装置26が直ちに探索することができる。
【0052】
補助基準タイマ40及び基準タイマ39の標本抽出170、175と、相関ピーク(123a〜123d)の位相のその後の推定とは、疑似距離エンジン20の内部の処理装置26によって行われることが好ましい。
【0053】
好都合なことに、ピーク位置の最後に知られた変化速度が期間(z)中殆ど一定であると仮定すれば、中断前のピーク位置の簡単な線形外挿法によって、予測されるピーク位置123a〜123dを得ることができる。この様にして、疑似距離エンジンは、統計的に、航法エンジンが新しい探索パラメータを提供する前に多くの衛星を迅速且つ自律的に再捕捉することができ、従って探索時に必要なかなりの電力及び時間を節約することができる。しかし、その他の構成、例えばピーク123a〜123dの位置の推定がホストシステム90の外部のソフトウェアモジュール中で行われる構成、が可能である。この場合、予測アルゴリズムを遥かに精巧にすることができる。
【0054】
性能を更に改善するために、システムが節電モードに入る前に、予想される符号位相と符号及び搬送波のドップラー偏移とをホストシステム90が予測してよい。この場合、迅速な検出の確率を高めるために、例えば、使用者の現在の動き及びその他のパラメータをもホストシステムが考慮してよい。
【0055】
補償されていない低電力水晶発振器が使用される場合には、補助時刻信号38における変動と補助時刻基準40における対応誤差とは温度ドリフトが支配的である。しかし、電源初期投入期間に続く可動GPS回路内では、温度勾配は通常は非常に低い。従って、短期間の温度変化を無視して、予測される相関ウィンドウ123a〜123dに対して十分な分解能を今まで通り維持することが、可能である。
【0056】
必要であれば、補助時刻基準クロックが、オフセット及びドリフトに備えて、正確なGPS時刻に基づいて自動的に修正されてよい。例えば、もし補助基準信号が他の装置によって、例えばPC内で、共有されていれば、このことは有用であるかもしれない。
【0057】
ドップラー偏移及び相関ウィンドウ123a〜123dの変化速度も、一般の応用にとっては、主に衛星の動きに由来する。また一方、衛星の相対速度が数分間ではおそらく根本的には変化しないであろうことを、軌道の規則性が確実にしている。従って、相関器が再開される時には、十分な数の衛星が迅速に再捕捉されるという高い確率がある。
【0058】
一例として、システムが、追尾中に30ナノ秒の時間不確実性で5秒毎に補助基準タイマ40と基準タイマ39とを標本抽出すると仮定する。そして、5秒間隔には30+30ナノ秒=60ナノ秒の誤差のあることが分かる。
【0059】
今、GPSクロックと相関器とが5分間スイッチを切られ、次に別の位置決定を計算するために覚醒する、と仮定する。30ナノ秒の誤差のある別の標本対が補助基準タイマ40と基準タイマ39とについて取得され、測定された経過時間に基づく線形外挿法によって相関ウィンドウ123a〜123dが再計算される。補助時刻基準自体の周波数ドリフトを無視すれば、誤差は60*60ナノ秒=3.6マイクロ秒である。
【0060】
従って、±15マイクロ秒の相関ウィンドウが与えられれば、航法エンジンの命令の前に相関器25が衛星を検出することを殆ど保証するのに十分な正確さで、相関ピークの位相を予測することができる。この場合には、歩行者の追尾では貴重な節電を示す1〜2%程度の使用率の間欠動作を達成することができる。
【0061】
更に、GPS衛星の信号が再捕捉され且つ位置決定が利用可能になれば、基準タイマ39とGPS時刻との関係が再記憶される。システムは予測されたピーク位置123a〜123dと相関ピークの実際の位相オフセットとの間の誤差を得ることができ、二つの発振器の相対周波数の計算を更に修正するためと、間欠動作のもっと長い期間に亙る推定の精度を改善するためとに、この誤差を使用することができる。
【0062】
信号処理装置20は、例えば周期的なオンオフサイクルに従ってまたは別の方法で、繰返しの節電モードの期間つまり休眠期間(z)に会うことができる。その様な場合には、上述の様に、節電モードの各期間後に、節電モードの期間の前に取得された補助基準タイマ40及び基準タイマ39の一対の標本と節電モードの期間の後に取得された補助基準タイマ40及び基準タイマ39の一対の標本とを使用することによって、本発明の方法を繰り返すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】衛星無線位置特定装置の構造の概略図である。
【図2】本発明による無線位置特定装置の疑似距離エンジンの構造の概略図である。
【図3a】本発明による無線位置特定装置のタイミング信号の時間図である。
【図3b】本発明の無線位置特定装置の追尾段階に関連する時間図である。
【図3c】本発明の無線位置特定装置の補助時刻基準の標本抽出の線図である。
【図3d】本発明の無線位置特定装置の補助時刻基準の標本抽出の線図である。
【図3e】本発明の無線位置特定装置の再捕捉段階に関連する時間図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の無線位置特定衛星によって送られ且つ予め決められている測距符号系列によって変調されている信号を処理するための、無線位置特定受信機(100)用信号処理装置(20)であって、
この信号処理装置は主クロック信号(37)にアクセスすることができ、
前記信号処理装置(20)は、受信信号中における前記測距符号系列の存在を求めて入力信号を探索するためと、前記測距符号系列の相対位相を決定するためとの、捕捉及び追尾手段を具備しており、
前記信号処理装置(20)は、前記受信機に利用可能な補助時刻基準信号(38)に基づいて前記測距符号系列の位相のありそうな値を前記主クロック信号(37)の中断後に決定する様に構成されている計算手段(26)を含んでいる、信号処理装置(20)。
【請求項2】
前記無線位置特定衛星によって送られる前記信号の前記測距符号系列に関連づけられている局部符号系列を発生させる様に構成されている一つ以上の符号発生器(28)と、
前記局部符号系列を移相し、前記受信信号中で変調されている前記測距符号系列と比較して、前記移相された局部符号系列と前記受信信号との間の相関値を提供する様に構成されている、一つの相関エンジン(25)と
を更に具備する、請求項1に記載の信号処理装置(20)。
【請求項3】
前記捕捉及び追尾手段は、前記受信信号の高速フーリエ変換を行い、前記受信信号の前記高速フーリエ変換に従うことによって前記測距符号系列の相対位相を決定し、前記測距符号系列の前記相対位相を示す相関ピーク(121a〜121d)を提供する様に、構成されており、
前記信号処理装置(20)は、前記無線位置特定衛星によって送られる前記信号の前記測距符号系列に関連づけられている局部符号系列を発生させる様に構成されている一つ以上の符号発生器(28)と、前記局部符号系列を移相し、前記受信信号中で変調されている前記測距符号系列と比較して、前記移相された局部符号系列同士の相関値を提供する様に構成されている、一つの相関エンジン(25)とを、更に具備しており、
前記捕捉及び追尾手段は、前記受信信号の高速フーリエ変換を行う様に更に構成されており、
前記信号処理装置は、前記相関器によって提供される前記相関値からかまたは前記受信信号の前記高速フーリエ変換に従うことによって、前記測距符号系列の相対位相を決定する様に構成されている、請求項1に記載の信号処理装置(20)。
【請求項4】
補助時刻信号(38)から得られる補助基準タイマ(40)を更に具備しており、
前記計算手段(26)は、前記補助基準タイマ(40)の時刻と前記主クロック信号(37)から得られる基準タイマ(39)の時刻とを標本抽出し、前記記録された標本値(170、175)の何れかに基づいて休眠期間(z)後の前記疑似ランダム符号系列のありそうな位相を決定する様に、構成されている、請求項1に記載の信号処理装置(20)。
【請求項5】
前記計算手段(26)は、前記補助時刻基準信号(38)の定義されている特徴と一致する前記補助基準タイマ(40)と前記基準タイマ(39)との少なくとも二つの離隔している標本(170)を記録し、前記基準タイマ(39)を標本抽出する様に、プログラムされており、
前記補助基準タイマ(40)及び前記基準タイマ(39)は、同時に、または既知の時間遅延だけ離隔している二つの瞬間に、標本抽出される、請求項4に記載の信号処理装置(20)。
【請求項6】
前記計算手段(26)は、位置決定が確立される時の前記基準タイマ(39)とGPS時刻との間の関係を計算し、前記基準タイマ(39)と前記GPS時刻との間の前記関係に従って前記補助基準タイマ(40)を測定し、この補助基準タイマ(40)の値に基づいて前記基準タイマ(39)の動作の中断(z)に続く前記基準タイマ(39)と前記GPS時刻との間の関係を再計算する様に、構成されている、請求項1に記載の信号処理装置(20)。
【請求項7】
前記計算手段(26)は、前記測距符号系列の前記相対位相を示す相関ピーク(121a〜121d)を提供し、前記主クロック信号(37)の中断前における前記記録されているパルス時刻(170、175)と前記記録されている相関ピーク時刻(122a〜122c)とに基づいて前記主クロック信号(37)または前記基準タイマ(39)の中断後における前記相関ピークの位置を決定する様に、構成されている、請求項1に記載の信号処理装置(20)。
【請求項8】
電力消費を制限するために、前記相関エンジン(25)及び/または前記処理装置(26)及び/または前記主クロック(37)が一時的にスイッチを切られるかまたは低減機能状態にされることができる低電力状態を有する、請求項1に記載の信号処理装置(20)。
【請求項9】
休眠期間(z)の後の衛星無線位置特定受信機(100)中における衛星信号の再捕捉方法であって、
a)前記受信機(100)に利用可能な補助時刻基準信号(38)に基づいて、前記休眠期間(z)の前に捕捉された各々の前記衛星毎に、相関ピークの最も確からしい位置(123a〜123d)を決定する段階と、
b)前記最も確からしい位置(123a〜123d)の周りの位相ウィンドウ内で前記衛星の前記相関ピークを探索する段階と
を具備する方法。
【請求項10】
前記段階(a)が、
前記休眠期間(z)の前に、基準タイマ(39)に関連して、前記受信機に利用可能な補助基準タイマ(40)を標本抽出する段階と、
前記補助基準タイマ(40)及び前記基準タイマ(39)の離隔している標本(170)と前記相関ピーク(170)の相対位相とを記録する段階と、
前記休眠期間(z)の後に前記補助基準タイマ(40)及び前記基準タイマ(39)の更なる標本(175)を得る段階と、
前記休眠期間(z)の前に捕捉された各々の前記衛星毎に、前記相関ピークの最も確からしい位置(123a〜123d)を決定する段階と
を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記段階(a)が、
前記休眠期間(z)の前に、基準タイマ(39)に関連して、前記受信機に利用可能な補助基準タイマ(40)を標本抽出する段階と、
前記補助時刻基準(40)及び前記基準タイマ(39)の離隔している標本(170)と前記相関ピーク(170)の相対位相とを記録する段階と、
各測定組において前記基準タイマ(39)とGPS時刻との間の関係を計算し、前記測定組用の共通の時刻基準を確立するためにこの値を使用する段階と、
前記休眠期間(z)の後に前記補助基準タイマ(40)及び前記基準タイマ(39)の更なる標本(175)を得る段階と、
前記休眠期間(z)の前に捕捉された各々の前記衛星毎に、前記相関ピークの最も確からしい位置(123a〜123d)を決定する段階と
を更に含む請求項9に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図3d】
image rotate

【図3e】
image rotate


【公開番号】特開2007−155707(P2007−155707A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−285803(P2006−285803)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(505474980)ネメリックス・エスエー (5)
【Fターム(参考)】