説明

無線補聴器システム

【課題】 補聴器に無線機能を装備し、携帯電話などの無線機器を介して音声信号を送受信し、無線機器が補聴器の音声信号処理機能を遠隔自動制御することで、補聴器使用者間の距離が離れている場合や、騒音が介在する場所であっても、明瞭な音声による会話が可能となる無線補聴器システムを提供する。
【解決手段】 音声信号を送受信する1つの補聴器10と、音声信号を送受信する他の補聴器10と、これら補聴器10,10との間で音声信号を送受信する機能を備えた無線機器20とを備え、これら複数の補聴器が無線機器20の送受信機能を介して音声信号を送受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシーバ、聴力補助具等を含むいわゆる補聴器に無線機器を介して音声信号を送受信することにより、良好な受聴を可能とする無線補聴器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や無線LANに代表される無線機器の普及と機能の拡充は目ざましく、携帯電話で複数の相手と同時会話をおこなったり、TVを視聴したり、TVなどの音響機器を操作したり、メールやインターネット等も可能になっている。
【0003】
一方、難聴者が使用する補聴器の形態としては、耳かけタイプや耳穴タイプ等があるが、近年のものとしては、特許文献1のように、補聴器の出力音等を無線機器と無線通信を行うことで調整可能なものや、特許文献2のように、骨振動を集音する骨導マイクロホンと、空気中を伝搬する音声を集音する気導マイクロホンと、上記骨導マイクロホンと気導マイクロホンとの出力信号を所定の混合比で加算する混合器と、混合器からの音声信号を可変増幅する可変増幅回路と、音声を出力するスピーカを備え、聞き取り易くしたもの等が開示されている。
【特許文献1】特開2002−94619号公報
【特許文献2】特開平05−244696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、難聴者が補聴器を使用して会話する場合における問題としては、難聴者間の距離が離れている場合や、騒音や雑音が発生するような場所では、所定の音声が届かず、会話ができ難くなることがある。このような問題は、健常者でも起こり得るが、補聴器使用者の場合は、たとえば高齢者は一般的に高音が聞き取り難いとか、テレビ等が鳴っていると騒音や雑音により会話が聞き取り難くなるといったように補聴器使用者の状態や使用する環境によって著しく異なり、このため設定を種々変更することが求められる。なお、健常者も含め近くで会話するときにおいては、多少騒音や雑音が入ったとしても、むしろその方が会話として好ましい場合がある。一方、難聴者が携帯電話を使用するときの問題としては、耳に差し込まれた状態の補聴器に、携帯電話を近づけるために、補聴器と携帯電話間でハウリング(スピーカから出た音が再びマイクロホンに入って正帰還増幅され発振する現象)が生じる問題を有していた。
【0005】
また、会話者自身の気導音若しくは骨導音あるいはその混合音に対して、携帯電話などの無線機器を介した音信号が遅延した場合においては、音の干渉により、特定の周波数成分が減衰し、会話者自身の声が聴き難いという問題を有していた。
【0006】
そこで本発明の目的は、補聴器に無線機能を装備し、携帯電話などの無線機器を介して音声信号を送受信し、無線機器が補聴器を遠隔自動制御することで、補聴器使用者間の距離が離れている場合や、騒音が介在する場所であっても、明瞭な音声による会話が可能となる無線補聴器システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成する本発明にかかる無線補聴器システムは、音声信号を送受信する1つの補聴器と、音声信号を送受信する他の補聴器と、これら補聴器との間で音声信号を送受信する機能を備えた無線機器とを備え、これら複数の補聴器が無線機器の送受信機能を介して音声信号を送受信する。また、本発明にかかる無線補聴器システムは、音声信号を送受信する1つの補聴器と、音声信号を送受信する他の補聴器と、1つの補聴器との間で音声信号を送受信する機能を備えた無線機器と、他の補聴器との間で音声信号を送受信する機能を備えた無線機器とを備え、これら1つの補聴器と他の補聴器が上記各無線機器の送受信機能を介して音声信号を送受信することを特徴とする。
【0008】
ここで、無線機器としては、携帯電話や携帯情報端末(Personal Digital Assistant;PDA)等が該当する。本発明によれば、難聴者等がこの補聴器を装着して会話をすれば、携帯電話等の無線機器を介して通話することにより、補聴器使用者間の距離が離れている場合や、騒音や雑音が介在する場所であっても、支障なく会話(又は通話)を行うことができる。
【0009】
また、発明にかかる無線補聴器システムとしては、当該補聴器に、空気中を伝搬する音声を集音する気導マイクロホンと、気導マイクロホンからの音声信号を減衰させる減衰器と、骨振動を集音する骨導マイクロホンと、上記気導マイクロホンと骨導マイクロホンとの出力信号を所定の混合比で加算する混合器と、無線機器からの音声信号を所定の混合比で加算する混合器と、混合器からの音声信号を可変増幅する可変増幅回路と、音声を出力するスピーカと、を備え、前記無線機器に上記減衰器を操作する手段が設けられている構成が好ましい。補聴器のマイクロホンが無線機器から出た音(携帯情報端末等の無線機器のスピーカから出た音)を拾い、これを出力することになると、正帰還増幅により、補聴器と無線機器間でハウリングを生じさせるおそれが考えられる。しかし、本発明によれば、上記構成により、主に骨導音により音声を拾い会話することになるから、ハウリングが防止され、これにより聞き取り難くなる事態が防止される。また、気導音には、周囲の雑音や騒音等が含まれるが、主に骨導音により音声を拾い会話することにより、雑音等が含まれないクリアな音声による会話が可能になる。
【0010】
さらに、本発明にかかる無線補聴器システムとしては、前記補聴器に上記気導マイクロホンと骨導マイクロホンとの出力信号を所定の混合比で加算する混合器から、無線機器からの音声信号を所定の混合比で加算する混合器への信号を制御するスイッチが設けられており、前記無線機器に上記スイッチを操作する手段が設けられている構成が好ましい。本発明によれば、上記スイッチを開き、無線機器を介した音信号のみを会話者に伝達することにより、会話者自身の気導音若しくは骨導音あるいはその混合音と、無線機器を介した音信号との干渉をなくすことにより、特定の周波数成分が減衰し、会話者自身の声が聴き難いという問題点を防止する利点がある。
【0011】
このような本発明にかかる無線補聴器システムにおいては、補聴器を使用しているユーザが、使用状況に応じて、携帯電話等の無線機器を介して、補聴器の状態を遠隔自動制御することで、明瞭な音声信号の送受信ができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、補聴器に無線機能を装備し、携帯電話などの無線機器を介して音声信号を送受信し、無線機器が補聴器を遠隔自動制御することで、補聴器使用者間の距離が離れている場合や、騒音や雑音が介在する場所であっても、難聴者が何ら煩雑な操作を行うことなく、明瞭な音声による会話が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
この実施の形態は、無線機器として携帯電話を使用し、携帯電話に内蔵された切り替え制御器および無線回路部で構成された遠隔自動制御回路により、1つまたは複数の補聴器の音声信号処理機能を遠隔自動制御するものである。
【0015】
なお、以下では、説明の便宜上、無線により補聴器の状態を遠隔自動制御し、無線インターフェースを介して補聴器と音声信号のやりとりを行う装置を携帯電話に限定せず、無線機器と称する。また、本願の書類において、「補聴器」とは、レシーバ、聴力補助具等を含むものとして使用する。すなわち、補聴器は、薬事法で平成17年の4月より管理医療機器となったが、同じ機能をもたせたものであれば、聴力補助器やレシーバ等と呼ばれるものも含むものとして説明する。
【0016】
無線補聴器の基本システムは、図1に示すように、ユーザが所持する補聴器10と、この補聴器10を遠隔自動制御し、無線インターフェースを介して補聴器と音声信号のやりとりを行う無線機器20から構成される。 補聴器10は、図1に示すように、空気中を伝搬する音声を集音する気導マイクロホン11と、気導マイクロホン11からの音声信号を減衰させる減衰器12と、骨振動を集音する骨導マイクロホン13と、上記減衰器12を調整する切り替え制御器14と、上記気導マイクロホン11と骨導マイクロホン13との出力信号を所定の混合比で加算する第1の混合器M1と、無線機器20と音声信号をやりとりする無線回路部15と、無線機器からの音声信号を所定の混合比で加算する第2の混合器M2と、第2の混合器M2からの音声信号を可変増幅する可変増幅回路16と、音声を出力するスピーカ17とを備える。無線機器20は、図1に示すように、送話用マイクロホン21と、通話機能部22と、補聴器10に備わった切り替え制御器14を制御する切り替え制御器23と、補聴器10と音声信号をやりとりする無線回路部24と、音声を出力するスピーカ25と、を備える。 切り替え制御器23は、難聴者が補聴器10と無線機器20を使用するときに起こる、ハウリングを防止するため、補聴器10に備わった切り替え制御器14を介して、減衰器12を制御し、気導音信号レベルを調整する。たとえば、図5は、この実施の形態を模式的に表したものであり、携帯電話である無線機器20と補聴器10を保有する者と、補聴器10のみ保有する者との間で、上記無線機器20を介して会話する一例である。
【0017】
図1の無線補聴器システムは、上記構成により、主に骨導音により音声を拾い会話することから、補聴器の気導マイクロホン11が無線機器20から出た音を拾い、これを出力することによる補聴器10と無線機器20間でのハウリングが防止でき、これにより聞き取り難くなる事態が防止される。また、気導音には、周囲の雑音や騒音等が含まれるが、主に骨導音により音声を拾い会話するため、雑音等が含まれないクリアな音声による会話が可能になる。
また、ユーザ間の会話を、いったん無線機器20を介して、デジタル信号に変換処理するため、ユーザ間の音声信号を直接音波にて伝播する場合に比べて、音声信号の劣化がなく、雑音が少ない利点がある。
【0018】
図2は、無線機器20の通信機能を介して、複数のユーザが所持する複数の補聴器間にて音声信号を送受信する無線補聴器システムを示す。たとえば、図6は、この実施の形態を模式的に表したものであり、1つの携帯電話を介して複数人間で会話する一例である。
【0019】
図2の無線補聴器システムは、図1と同様の利点がある。なお、無線機器20の送話用マイクロホン21および受話用スピーカ25を複数の会話者が利用することで、健常者も含めた会話ができる。
【0020】
図3は、前記補聴器10に上記第1の混合器M1から第2の混合器M2への信号を制御する第2のスイッチS2が設けられている無線補聴器システムを示す。 たとえば、図7は、この実施の形態を模式的に表した一例である。
【0021】
図3の無線補聴器システムは、会話者自身の気導音若しくは骨導音あるいはその混合音に対して、無線機器20を介した音信号が、通信経路の影響により、遅延した場合において、第2のスイッチS2を開き、無線機器20を介した音信号のみを会話者に伝達することにより、会話者自身の気導音若しくは骨導音あるいはその混合音と、無線機器20を介した音信号との干渉をなくすことにより、特定の周波数成分が減衰し、会話者自身の声が聴き難いという問題点を防止する利点がある。
【0022】
図4は、無線機器20の通信機能を介して、複数のユーザが所持する複数の図3に示す補聴器間にて音声信号を送受信する無線補聴器システムを示す。 たとえば、図8は、この実施の形態を模式的に表した一例である。
【0023】
図4の無線補聴器システムは、図1、図2および図3と同様の利点がある。
【0024】
ここで、図4にて、複数の補聴器10からの音を無線機器20を介して複数の補聴器10の第2の混合器M2に信号入力する際に、無線機器20からの音声信号レベルの総和が一定値を超えないように、各々補聴器10からの音声信号レベルを下げることがある。この場合は、会話者自身の気導音若しくは骨導音あるいはその混合音と、無線機器20を介した会話者自身の音信号とのレベル差が大きく、このため音の干渉が起こり難いことから、第2のスイッチS2を省いてもよい。
【0025】
また、上述した実施の形態では、複数の補聴器10に備わった上記減衰器12および上記第2のスイッチS2は、一斉に切り替える必要性はなく、無線機器20を介して、随時、会話に参加する一つまたは複数の補聴器10に対して、適宜、減衰器12および第2のスイッチS2のいずれか、または両方を遠隔自動制御するようにしてもよい。
【0026】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは、いうまでもない。例えば、本実施の形態では難聴者が補聴器を使用する場合で説明したが、本発明は健常者がこの補聴器を使用しても良い。この場合は、ユーザ間の会話を、いったん無線機器20を介して、デジタル信号に変換処理するため、ユーザ間の音声信号を直接音波にて伝播する場合に比べて、音声信号の劣化がなく、雑音が少ない利点がある。また、会話者自身の気導音若しくは骨導音あるいはその混合音に対して、無線機器20を介した音信号が遅延した場合においては、第2のスイッチS2を開き、無線機器20を介した音信号のみを会話者に伝達することにより、会話者自身の気導音若しくは骨導音あるいはその混合音と、無線機器20を介した音信号との干渉をなくすことにより、特定の周波数成分が減衰し、会話者自身の声が聴き難いという問題点を防止する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態として示す無線補聴器システムの構成図である。
【図2】同無線補聴器システムの構成を示す図である。
【図3】同無線補聴器システムの構成を示す図である。
【図4】同無線補聴器システムの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態として示す無線補聴器システムの使用例の模式図である。
【図6】同無線補聴器システムの使用例の模式図である。
【図7】同無線補聴器システムの使用例の模式図である。
【図8】同無線補聴器システムの使用例の模式図である。
【符号の説明】
【0028】
10 補聴器
11 気導マイクロホン
12 減衰器
13 骨導マイクロホン
14 切り替え制御器
15 無線回路部
16 可変増幅回路
17 気導スピーカ
20 無線機器
21 送話用マイクロホン
22 通話機能部
23 切り替え制御器
24 無線回路部
25 受話用スピーカ
M1 第1の混合器
M2 第2の混合器
S1 第1のスイッチ
S2 第2のスイッチ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を送受信する1つの補聴器と、音声信号を送受信する他の補聴器と、これら補聴器との間で音声信号を送受信する機能を備えた1つの無線機器とを備え、これら複数の補聴器が1つの無線機器の送受信機能を介して音声信号を送受信することを特徴とする無線補聴器システム。
【請求項2】
音声信号を送受信する1つの補聴器と、音声信号を送受信する他の補聴器と、1つの補聴器との間で音声信号を送受信する機能を備えた無線機器と、他の補聴器との間で音声信号を送受信する機能を備えた無線機器とを備え、これら1つの補聴器と他の補聴器が上記各無線機器の送受信機能を介して音声信号を送受信することを特徴とする無線補聴器システム。
【請求項3】
前記補聴器は、空気中を伝搬する音声を集音する気導マイクロホンと、気導マイクロホンからの音声信号を減衰させる減衰器と、骨振動を集音する骨導マイクロホンと、上記気導マイクロホンと骨導マイクロホンとの出力信号を所定の混合比で加算する混合器と、無線機器からの音声信号を所定の混合比で加算する混合器と、混合器からの音声信号を可変増幅する可変増幅回路と、音声を出力するスピーカとを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の無線補聴器システム。
【請求項4】
前記無線機器に上記減衰器を操作する手段が設けられていること
を特徴とする請求項3記載の無線補聴器システム。
【請求項5】
前記補聴器に上記気導マイクロホンと骨導マイクロホンとの出力信号を所定の混合比で加算する混合器から、無線機器からの音声信号を所定の混合比で加算する混合器への信号を制御するスイッチが設けられていること
を特徴とする請求項3記載の無線補聴器システム。
【請求項6】
前記無線機器に上記スイッチを操作する手段が設けられていること
を特徴とする請求項5記載の無線補聴器システム。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−11300(P2008−11300A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180817(P2006−180817)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(504324280)株式会社NTTデータ北陸 (2)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】