無線通信システム
【課題】所定の相関関係を有する複数のアンテナのうちのいずれかを選択的に使用して信号の送信を行う送信ダイバーシティに関し、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化の改善を図る。
【解決手段】第1の送受信装置(B点側)の制御部32は、レベル測定/比較部31から入力された情報に基づいて、使用する送信系を切り換えるタイミングを決定し、当該切り換えタイミングに同期して送信系を切り換えるように送信系選択部24を制御する。切り換えタイミングの情報は、送信系の切り換えに先立って第2の送受信装置(A点側)へ通知される。第2の送受信装置の制御部19は、通知された切り換えタイミングに同期して、受信ベースバンド部16における受信ベースバンド処理に関するパラメータを変更するように制御する。
【解決手段】第1の送受信装置(B点側)の制御部32は、レベル測定/比較部31から入力された情報に基づいて、使用する送信系を切り換えるタイミングを決定し、当該切り換えタイミングに同期して送信系を切り換えるように送信系選択部24を制御する。切り換えタイミングの情報は、送信系の切り換えに先立って第2の送受信装置(A点側)へ通知される。第2の送受信装置の制御部19は、通知された切り換えタイミングに同期して、受信ベースバンド部16における受信ベースバンド処理に関するパラメータを変更するように制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムに関し、特に、逆相関アンテナを利用した送信ダイバーシティで、送信アンテナ(送信系)の切り換えに起因する等化係数の再収束などにおいて、その所要時間を短縮することができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FWA(Fixed Wireless Access)システムでは、見通しが確保できる2地点に送信アンテナと受信アンテナが設置される。この場合、2地点における伝搬モデルとしては、直接波と1パスの反射波との2波モデルで近似することができる。
ここで、図11に例示するようなFWAシステムの伝搬モデルにおいて、送信点(送信側のアンテナaの位置)と受信点(受信側のアンテナbの位置)との間に海面が存在し、更に、反射波の反射点が海面上に位置する場合について検討する。
まず、直接波に関しては、潮位が変動しても、キャリア位相が変化することはない。
一方、反射波に関しては、潮位の変動に伴って、経路及び経路長が変化する。その結果、受信点における反射波のキャリア位相には変動が生じる。
このため、受信点では、直接波と反射波のキャリア位相差が変化することになり、その結果、直接波と反射波を合成した受信波(合成波)のレベルが変動する。
【0003】
受信レベルが変動する場合、ダイバーシティの実施により、レベル変動の影響を軽減することができる。ダイバーシティには、各種の方式が存在する。例えば、図12に例示するように、信号の受信に係る2つのアンテナb−1,b−2をそれぞれ異なる位置に設置し、各々を適宜切り替える選択ダイバーシティ方式がある。
ここで、図12のような選択ダイバーシティ方式において、アンテナb−1,b−2の位置関係が後述の条件(逆相関成立条件)を満たすとき、アンテナb−1による受信レベルの変動と、アンテナb−2による受信レベルの変動との関係が、逆相関関係になる。図13には、逆相関関係が成立している場合の受信レベルの変動例を示してある。図13において、横軸は潮位を表しており、縦軸は受信電界強度を表している。
【0004】
なお、図12における逆相関成立条件は、「アンテナb−1において、アンテナaからの直接波のキャリア位相と反射波のキャリア位相との差がδθであるとき、アンテナb−2において、アンテナaからの直接波のキャリア位相と反射波のキャリア位相との差がδθ+180°になること」である。
ここで、アンテナb−1に対する直接波と反射波の路程の差を路程差d1とし、アンテナb−2に対する直接波と反射波の路程の差を路程差d2とする。そして、位相で表現した上記の逆相関成立条件をキャリア波長での表現に言い換えると、逆相関成立条件は、「路程差d1と路程差d2の差が1/2波長になること」となる。従って、この条件を満たす位置関係でアンテナb−1,b−2を設置すれば良いことになる。
なお、より一般的には、「d1−d2=(2m+1)λ/2」の条件を満たす時、アンテナb−1,b−2は逆相関の関係が成立する。λはキャリア波長、mは0以上の整数である。
【0005】
潮位に対する受信レベルの変動と、受信レベルの変動に対処するための受信アンテナの切り換えの実施について、図14、図15を参照して説明する。図14には、逆相関関係が成立している場合の受信レベルの変動例及び受信アンテナの切り換えの実施点を示してあり、図15には、逆相関関係が成立していない場合の受信レベルの変動例及び受信アンテナの切り換えの実施点を示してある。図14、図15では、受信アンテナの切り換えの実施点を白抜きの“○”で示している。
図15に示されるように、逆相関関係が成立していない場合には、受信アンテナの切り換えの実施時点において、受信レベルの低下がやや大きくなる場合がある。これに対し、図14に示されるように、逆相関関係が成立している場合には、受信アンテナの切り換えの実施時点の受信レベルは、全て、図15に示した最も低下した際の受信レベルにまで低下することはない。
つまり、信号の受信に係る2つのアンテナb−1,b−2の設置条件に逆相関成立条件を加えることで、選択ダイバーシティにおいて受信レベルを一定以上に保つ効果が大きくなるといえる。
【0006】
ここで、複信方式としてTDD(Time Division Duplexing)を採用したシステムでは、上述した受信側の選択ダイバーシティ(受信ダイバーシティ)に加え、受信アンテナの切り換え制御に基づいた送信アンテナの切り換え(送信ダイバーシティ)も可能である。これは、TDDの場合には送受信を同一周波数のキャリアで行う、という特徴を有効に利用する方式である。
図16には、TDDシステムの特徴を利用した選択ダイバーシティの例を示してある。すなわち、アンテナb−1,b−2の側であるB点では、受信側の時間帯には受信ダイバーシティを行い、送信側の時間帯には送信ダイバーシティを行う。このような送信ダイバーシティの実施により、対向する装置側(アンテナaの側)であるA点の受信レベルも一定以上のレベルに保つことが可能になる。
【0007】
次に、伝搬路特性の補償について説明する。
反射波は、直接波に対して遅延する。この遅延時間がシンボル周期に対して大きくなると、変調波帯域内の周波数特性の歪みが無視できなくなる。変調多値数を大きくするためには、このような伝搬路歪みの補償が必須となる。この場合には、通常、時間領域或いは周波数領域において等化処理が行われる。
ここで、アンテナ選択による受信ダイバーシティを実施する場合、受信アンテナの切り換えに伴って伝搬路が切り換わり、伝搬路特性も変化する。このため、受信アンテナの切り換え時には受信品質が一時的に劣化することになるが、この劣化を解消するために、受信信号の等化処理に用いるパラメータ(等化係数)の調整などが必要になる。
同様に、アンテナ選択による送信ダイバーシティを実施する場合にも、送信アンテナの切り換えに伴って伝搬路特性が変化する。このため、送信アンテナの切り換え時には受信品質が一時的に劣化することになり、この劣化を解消するために、受信側は受信信号の等化処理に用いるパラメータ(等化係数)の調整などが必要になる。
【0008】
なお、ダイバーシティに関し、これまでに種々の発明が提案されている。
例えば、特許文献1には、2つのアンテナの相関係数を−1として、2つのアンテナで信号を受信する場合に、一方のアンテナの受信入力(例えば、電界強度)が最小となったときに、他方のアンテナの受信入力(例えば、電界強度)が最大となる逆相関関係とする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−135182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したようにアンテナ選択による送信ダイバーシティを実施する場合、対向する装置側(受信側)では、通信相手(送信側)がいつ送信アンテナを切り換えるか把握しておらず、実際に送信アンテナが切り換わった際の等化用パラメータ(等化係数)の調整などが遅延してしまうため、切り換え直後の通信品質が劣化することになる。
そこで、本発明では、所定の相関関係を有する複数のアンテナのうちのいずれかを選択的に使用して信号の送信を行う送信ダイバーシティに関し、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化の改善を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、所定の相関関係を有する複数のアンテナを用いて送信ダイバーシティを実施するにあたり、送信側では、送信アンテナを切り換えるタイミングを対向する装置側(受信側)に通知し、受信側では、通知された切り換えタイミングに同期して等化用パラメータ(等化係数)などを変更する。
ここで、所定の相関関係を有する複数のアンテナとしては、例えば、逆相関関係を有する2つのアンテナである。
すなわち、受信側では、送信側における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握でき、送信アンテナの切り換えに伴う伝搬路特性の変化への対応を速やかに行える。
【0012】
一構成例として、互いに信号の送受信を行う第1の送受信装置と第2の送受信装置とを有する無線通信システムにおいて、前記第1の送受信装置は、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有する複数のアンテナと、前記第2の送受信装置における特定のアンテナから送信されて前記複数のアンテナによりそれぞれ受信される信号の受信レベルに基づいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記第2の送受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記第2の送受信装置は、前記第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定のアンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備える。
当該構成によれば、第2の送受信装置では、第1の送受信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。
なお、上記無線通信システムとしては、同一のアンテナ間において送信及び受信の伝搬路特性が実質的に同一であることが望ましく、例えば、送信及び受信を同一の無線周波数帯で行う、TDDによる複信方式システムが好適である。
【0013】
また、一構成例として、上記構成例の第1の送受信装置は2つのアンテナを備え、当該2つのアンテナにおいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに逆相関となる関係を有する。
当該構成によれば、上記構成例に対して、特に、第1の送受信装置が備える2つのアンテナの各受信レベルが逆相関関係を有するという条件に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0014】
また、一構成例として、対向する送信装置と受信装置を有する無線通信システムにおいて、前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備える。
当該構成によれば、受信装置では、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。
【0015】
また、一構成例として、対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおいて、前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号に対する処理に関するパラメータを変更するパラメータ変更手段を備える。
当該構成によれば、受信装置では、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、受信信号に対する処理に関するパラメータの変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定の相関関係を有する複数のアンテナのうちのいずれかを選択的に使用して信号の送信を行う送信ダイバーシティに関し、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
【図2】n−3番目のフレームにおける通信内容の例を示す図である。
【図3】n−2番目のフレームにおける通信内容の例を示す図である。
【図4】n−1番目のフレームにおける通信内容の例を示す図である。
【図5】n番目のフレームにおける通信内容の例を示す図である。
【図6】各逆相関アンテナにおける直接波と反射波のキャリア位相差別の変調スペクトラムの例を示す図である。
【図7】相関関係にある3本のアンテナにおける受信レベルの例を示す図である。
【図8】相関関係にある3本のアンテナにおけるキャリア位相別の変調スペクトラムの例を示す図である。
【図9】適応等化器の内部の構成例を示す図である。
【図10】調整部の内部の構成例を示す図である。
【図11】FWAシステムの伝搬モデルの例を示す図である。
【図12】受信アンテナ選択によるダイバーシティの例を示す図である。
【図13】逆相相関条件が成立している場合の受信レベルの変動例を示す図である。
【図14】逆相関関係が成立している場合の受信レベルの変動例及び受信アンテナの切り換えの実施点を示す図である。
【図15】逆相関関係が成立していない場合の受信レベルの変動例及び受信アンテナの切り換えの実施点を示す図である。
【図16】TDDシステムの特徴を利用した選択ダイバーシティの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る無線通信システムの構成例を示してある。
本例の無線通信システムは、TDD複信方式のシステムであり、2つの送受信装置を有している。本例では、B点(図中右側)に位置する第1の送受信装置で、受信ダイバーシティ及び送信ダイバーシティを実施し、これに対向するA点(図中右側)に位置する第2の送受信装置で、B点側(第1の送受信装置)における送信ダイバーシティを実施した結果の信号を受信する構成となっている。
【0019】
A点側に位置する第2の送受信装置は、信号の送受信に用いるアンテナaに加え、ENC部(エンコーダ部)11、送信ベースバンド部12、送信RF部13、TDD−SW部(送受信切り換え部)14、受信RF部15、受信ベースバンド部16、DEC部(デコーダ部)17、タイミング管理部18、制御部19を有する。
B点側に位置する第1の送受信装置は、信号の送受信に用いるアンテナb−1,b−2に加え、ENC部(エンコーダ部)21、送信ベースバンド部22、送信RF部23、送信系選択部24、TDD−SW部(送受信切り換え部)25−1,25−2、受信RF部26−1,26−2、受信系選択部27、受信ベースバンド部28、DEC部(デコーダ部)29、タイミング管理部30、レベル測定/比較部31、制御部32を有する。
本例の第1の送受信装置では、2つのアンテナb−1,b−2を互いに逆相関関係となるような位置関係で配置している。
【0020】
第2の送受信装置(A点側)の各機能部について概略的に説明する。
ENC部11は、第1の送受信装置へ送信する対象として入力されたデータ(ユーザー用データや制御用データ)に対して符号化処理を行い、その結果の信号を送信ベースバンド部12へ出力する。
送信ベースバンド部12は、ENC部11から入力された信号に対して送信ベースバンド処理を行い、その結果の信号を送信RF部13へ出力する。
送信RF部13は、送信ベースバンド部12から入力された信号に対して送信RF処理を行い、その結果の信号をTDD−SW部14へ出力する。
TDD−SW部14は、制御部19による制御の下で、送信RF部13から入力された信号をアンテナaにより第1の送受信装置へ送信する状態と、アンテナaにより第1の送受信装置から受信した信号を受信RF部15へ出力する状態を切り換える。
【0021】
受信RF部15は、TDD−SW部14を介して入力される第1の送受信装置から受信した信号に対して受信RF処理を行い、その結果の信号を受信ベースバンド部16へ出力する。
受信ベースバンド部16は、受信RF部15から入力された信号に対して受信ベースバンド処理を行い、その結果の信号をDEC17へ出力する。
DEC17は、受信ベースバンド部16から入力された信号に対して復号化処理を行い、その結果のデータ(ユーザー用データや制御用データ)を出力する。
タイミング管理部18は、信号の送受信に係るフレーム中の位置を確認するためのカウンタである。
制御部19は、タイミング管理部18によるカウンタ値に基づいて、所定の制御を実施する。
【0022】
第1の送受信装置(B点側)の各機能部について概略的に説明する。
ENC部21は、第2の送受信装置へ送信する対象として入力されたデータ(ユーザー用データや制御用データ)に対して符号化処理を行い、その結果の信号を送信ベースバンド部22へ出力する。
送信ベースバンド部22は、ENC部21から入力された信号に対して送信ベースバンド処理を行い、その結果の信号を送信RF部23へ出力する。
送信RF部23は、送信ベースバンド部22から入力された信号に対して送信RF処理を行い、その結果の信号を送信系選択部24へ出力する。
送信系選択部24は、制御部32による制御の下で、送信RF部23から入力された信号をTDD−SW部25−1へ出力する状態(第1の送信系を使用する状態)と、送信RF部23から入力された信号をTDD−SW部25−2へ出力する状態(第2の送信系を使用する状態)を切り換える。なお、第1の送信系は、アンテナb−1、TDD−SW部25−1等により構成され、第2の送信系は、アンテナb−2、TDD−SW部25−2等により構成される。
【0023】
TDD−SW部25−1は、制御部32による制御の下で、送信系選択部24から入力された信号をアンテナb−1により第2の送受信装置へ送信する状態と、アンテナb−1により第2の送受信装置から受信した信号を受信RF部26−1へ出力する状態を切り換える。
TDD−SW部25−2は、制御部32による制御の下で、送信系選択部24から入力された信号をアンテナb−2により第2の送受信装置へ送信する状態と、アンテナb−2により第2の送受信装置から受信した信号を受信RF部26−2へ出力する状態を切り換える。
【0024】
受信RF部26−1は、TDD−SW部25−1を介して入力される第2の送受信装置から受信した信号に対して受信RF処理を行い、その結果の信号を受信系選択部27及びレベル測定/比較部31へ出力する。
受信RF部26−2は、TDD−SW部25−2を介して入力される第2の送受信装置から受信した信号に対して受信RF処理を行い、その結果の信号を受信系選択部27及びレベル測定/比較部31へ出力する。
【0025】
受信系選択部27は、制御部32による制御の下で、受信RF部26−1から入力された信号を受信ベースバンド部28へ出力する状態(第1の受信系を使用する状態)と、受信RF部26−2から入力された信号を受信ベースバンド部28へ出力する状態(第2の受信系を使用する状態)を切り換える。なお、第1の受信系は、アンテナb−1、TDD−SW部25−1、受信RF部26−1等により構成され、第2の受信系は、アンテナb−2、TDD−SW部25−2、受信RF部26−2等により構成される。
受信ベースバンド部28は、受信系選択部27から入力された信号に対して受信ベースバンド処理を行い、その結果の信号をDEC29へ出力する。
DEC29は、受信ベースバンド部28から入力された信号に対して復号化処理を行い、その結果のデータ(ユーザー用データや制御用データ)を出力する。
【0026】
タイミング管理部30は、信号の送受信に係るフレーム中の位置を確認するためのカウンタである。
レベル測定/比較部31は、受信RF部26−1から入力された信号及び受信RF部26−2から入力された信号のレベル(例えば、電力の値)をそれぞれ測定し、これらのレベルを比較し、当該比較結果の情報を制御部32へ出力する。
制御部32は、タイミング管理部30によるカウンタ値及びレベル測定/比較部から入力された情報に基づいて、所定の制御を実施する。
【0027】
本例の無線通信システムに係る受信ダイバーシティでは、第1の送受信装置(B点側)の制御部32は、レベル測定/比較部31から入力された情報に基づいて、使用する受信系を切り換えるように受信系選択部27を制御する。また、受信系の切り換えと共に(例えば、受信系の切り換えの前に)、受信ベースバンド部28における受信ベースバンド処理に関するパラメータを変更するように制御する。
受信ベースバンド処理に関するパラメータとしては、一例として、受信信号の等化処理に用いるパラメータである等化係数が挙げられる。等化係数は、受信系の切り換えに伴って、切り換え後の受信系に対応した初期化が行われ、その後、所定の係数更新アルゴリズムに基づいて更新(収束)される。
【0028】
また、本例の無線通信システムに係る送信ダイバーシティでは、第1の送受信装置(B点側)の制御部32は、レベル測定/比較部31から入力された情報に基づいて、使用する送信系を切り換えるタイミングを決定し、当該切り換えタイミングに同期して送信系を切り換えるように送信系選択部24を制御する。また、切り換えタイミングの情報は、送信系の切り換えに先立って第2の送受信装置(A点側)へ通知される。そして、第2の送受信装置の制御部19は、通知された切り換えタイミングに同期して、受信ベースバンド部16における受信ベースバンド処理に関するパラメータを変更するように制御する。
受信ベースバンド処理に関するパラメータとしては、一例として、受信信号の等化処理に用いるパラメータである等化係数が挙げられる。等化係数は、第1の送受信装置(B点側)における送信系の切り換えに伴って、切り換え後の送信系に対応した初期化(変更)が行われ、その後、所定の係数更新アルゴリズムに基づいて更新(収束)される。
【0029】
なお、本例の第1の送受信装置は、受信系の切り換えと同様に受信信号のレベルに基づいて送信系の切り換えを決定する構成であるが、これは、本例の無線通信システムにおいて特定の2つのアンテナ間で行う送信と受信の伝搬路は実質的に同一であり、各受信系で受信した信号のレベルと、当該受信系に対応する送信系により送信される信号の第2の送受信装置側での受信レベルは同様に変化することに基づいている。
【0030】
受信ダイバーシティから送信ダイバーシティまでの動作例について説明する。
本例では、以下の[ステップ1]〜[ステップ4]に示すように、受信ダイバーシティの実施に連動して送信ダイバーシティを実施するものとする。
図2には、n−3番目のフレームにおける通信内容の例を示してあり、図3には、n−2番目のフレームにおける通信内容の例を示してあり、図4には、n−1番目のフレームにおける通信内容の例を示してあり、図5には、n番目のフレームにおける通信内容の例を示してある。
【0031】
[ステップ1;n−3番目のフレーム時の動作]について、図2を参照して説明する。
n−3番目のフレームにおいて、受信ダイバーシティ及び送信ダイバーシティの実施タイミングを決定する。
すなわち、B点(第1の送受信装置)では、2つの受信系で受信された信号のレベルをそれぞれ測定して両者を比較し、受信レベルの大小の入れ替わりに応じて、受信レベルが大きくなった方の受信系への切り換えを決定する。送信系についても、当該受信系と同じアンテナで構成される送信系への切り換えを決定する。本例では、受信系の切り換えは、当該フレーム(n−3番目のフレーム)時点では実施せず、その次のフレーム(n−2番目のフレーム)時点で実施する(つまり、フレームの途中では切り換えない)。送信系の切り換えについてもこの時点では実施しない。
一方、A点(第2の送受信装置)では、この時点でのダイバーシティ関連の制御はない。
なお、受信系及び送信系の切り換えの決定は、受信レベルの大小の入れ替わりに応じて行われる態様だけでなく、測定された受信レベルを比較して、受信レベルの大きさが入れ替わると予測される場合に、大きくなると予測される方の受信系へ予め切り換えるように決定する態様をとってもよい。
【0032】
[ステップ2;n−2番目のフレーム時の動作]について、図3を参照して説明する。
n−2番目のフレームにおいて、受信ダイバーシティを実施する。
すなわち、B点(第1の送受信装置)では、当該フレーム(n−2番目のフレーム)の信号の受信を開始するタイミングに合わせて、受信系の切り換えと、受信ベースバンド処理に関するパラメータ(例えば、等化係数などの伝搬路特性補償処理に係るパラメータ)の調整(変更)を実施する。送信系の切り換えは、この時点では実施しない。
一方、A点(第2の送受信装置)では、この時点でのダイバーシティ関連の制御はない。
【0033】
[ステップ3;n−1番目のフレーム時の動作]について、図4を参照して説明する。
n−1番目のフレームにおいて、送信ダイバーシティに関する通知を行う。
すなわち、B点(第1の送受信装置)では、送信ダイバーシティを実施するフレームの位置(送信系の切り換えタイミング)をA点(第2の送受信装置)側に通知するために、そのフレーム位置情報を当該フレーム(n−2番目のフレーム)で送信する制御用データの信号に埋め込んで送信する。本例では、送信系の切り換えは、当該フレーム(n−1番目のフレーム)時点では実施せず、その次のフレーム(n番目のフレーム)時点で実施する(すなわち、フレームの途中では切り換えない)。
一方、A点(第2の送受信装置)では、受信した制御用データの信号をデコードしてフレーム位置情報を抽出(送信系の切り換えタイミングを特定)し、B点(第1の送受信装置)における送信系の切り換えに備える。
【0034】
[ステップ4;n番目のフレーム時の動作]について、図5を参照して説明する。
n番目のフレームにおいて、送信ダイバーシティを実施する。
すなわち、B点(第1の送受信装置)では、当該フレーム(n番目のフレーム)の信号の送信を開始するタイミングに合わせて、送信系の切り換えを行う。
一方、A点(第2の送受信装置)では、当該フレーム(n番目のフレーム)の受信を開始するタイミングに合わせて、受信ベースバンド処理に関するパラメータ(例えば、等化係数などの伝搬路特性補償処理に係るパラメータ)の調整(変更)を実施する。
【0035】
以上に述べたステップ1〜ステップ4の手順を踏むことにより、B点(第1の送受信装置)における送信ダイバーシティのための送信アンテナ(送信系)の切り換え直後であっても、対向するA点(第2の送受信装置)側で、伝搬路特性の変化に対する適応が済むまでの一時的な期間における受信状態の乱れを回避できる。
なお、本例では、送信アンテナの切り換えを、対向側(A点側)に切り換え情報(位置情報)を通知した直後のフレームとしているが、これに限定するものではなく、第1の送受信装置及び第2の送受信装置の双方でタイミングを同期して切り換え処理がなされればよい。すなわち、例えば、“数フレーム後に実施”という情報(送信系の切り換えを実施するフレーム位置の情報)を通知し、当該情報に基づく制御を双方の装置で行うようにしてもよい。
【0036】
なお、本例では、受信系の切り換えを決定する手法として、各受信系で受信した信号のレベルに基づいて、受信系の切り換え及び送信系の切り換えを決定しているが、これに限られず、例えば、受信信号のスペクトルを測定した結果に基づいて決定するような手法が用いられてもよい。
【0037】
また、本例では好適な例として、受信系の切り換えと送信系の切り換えを同時に決定し、それぞれ切り換え動作を行うが、これに限られず、受信系の切り換えと送信系の切り換えを行う判断基準を異ならせて、それぞれ異なるタイミングで切り換えを決定するようにしてもよい。
【0038】
以上のように、本例の無線通信システムはTDD複信方式であり、第1の送受信装置と第2の送受信装置を対向させて設置し、第1の送受信装置に、受信レベル(例えば受信電力)の推移が逆相関の関係になるようにアンテナを設け、アンテナ切り換えによる受信ダイバーシティを行う。
更に、第1の送受信装置は、アンテナ切り換えによる受信ダイバーシティに連動して送信ダイバーシティを行う。すなわち、受信アンテナを切り換えたタイミングに基づき、送信も、切り換え後のアンテナ側から行うように切り換える。また、第1の送受信装置は、送信アンテナを切り換えるタイミングを第2の送受信装置に伝えるために、ユーザ用データのほかに制御用データを送信する。この制御用データに、送信アンテナがいつ切り換わるかを示す情報(切り換えタイミングの情報)を載せる。
一方、第2の送受信装置は、送信アンテナがいつ切り換わるかを、受信した制御用データの中から判断する。そして、制御用データで指定されたタイミングで、送信アンテナの切り換わりに対応するための受信関連パラメータ(例えば、等化係数)を変更する。
【0039】
従って、本例の無線通信システムでは、送信側の装置(第1の送受信装置)におけるアンテナ間の逆相関特性を利用した送信ダイバーシティの実施に同期して、対向する受信側の装置(第2の送受信装置)における受信関連パラメータが適切な値に変更される(近づけられる)。このような構成は、例えば、潮位変動の影響がある環境でFWAシステムを使用する場合に有用である。
【0040】
次に、第2の送受信装置(A点側)の受信ベースバンド部16における受信ベースバンド処理に関するパラメータの変更について説明する。なお、第1の送受信装置(B点側)の受信ベースバンド部28側については、第2の送受信装置(A点側)の受信ベースバンド部16側と概略的に同様な処理であるため、その説明は割愛する。
受信ベースバンド処理では、例えば、直交変調処理、デシメーション(サンプリングレートの変換)処理、受信フィルタ処理、等化処理などの各処理が順に実施される。
以下では、受信ベースバンド処理に関するパラメータを変更する例として、等化処理に用いるパラメータである等化係数を初期化する場合について説明する。
【0041】
(第1実施例)
等化係数の初期化の第1実施例を説明する。
図9には、受信ベースバンド部16に設けられる適応等化器の内部の構成例を示してある。
本例では、適応等化器のタップ数が3である場合を示すが、他の種々なタップ数が用いられてもよい。
本例の適応等化器は、3個のレジスタ(Reg)51−0〜51−2、3個の(係数可変の)乗算器52−0〜52−2、加算器(又は、累算器)53を備えており、また、3個のレジスタ(Reg)61−0〜61−2、3個の選択部62−0〜62−2、3個の調整部63−0〜63−2、係数更新部64を備えており、また、シンボル判定部71、参照信号部72、スイッチ73、加算器74を備えている。
【0042】
また、本例では、n=0,1,2として、kが時刻(例えば、サンプル番号)を表すとし、xn(k)が入力信号を表し、y(k)が出力信号を表し、d(k)が所望信号を表し、en(k)が等化誤差信号を表し、wn(k)が等化信号を表すとする。
本例では、xn(k)、y(k)、d(k)、en(k)、wn(k)は、複素数である。
【0043】
本例の適応等化器において行われる動作の例を示す。
入力信号が、直列に接続された3個のレジスタ51−0〜51−2を通過する。
第1のレジスタ51−0からの出力信号x0(k)が、第1の乗算器52−0に入力されて等化係数w0(k)を乗算され、その結果の信号が加算器53に入力される。
第2のレジスタ51−1からの出力信号x1(k)が、第2の乗算器52−1に入力されて等化係数w1(k)を乗算され、その結果の信号が加算器53に入力される。
第3のレジスタ51−2からの出力信号x2(k)が、第3の乗算器52−2に入力されて等化係数w2(k)を乗算され、その結果の信号が加算器53に入力される。
加算器53は、3個の乗算器52−0〜52−2から入力された信号を加算(合成)し、当該加算結果の信号を出力信号y(k)として出力する。この信号y(k)は、シンボル判定部71及び加算器74に入力される。
【0044】
シンボル判定部71は、加算器53から入力された信号y(k)についてシンボルを判定し、判定したシンボルの信号を出力する。
参照信号部72は、例えば、予め、トレーニングに用いられる所定のシンボルに等しい参照信号をメモリ等に記憶しており、その参照信号を出力する。
スイッチ73は、例えば制御部19により制御され、シンボル判定部71からのシンボルの信号を所望信号d(k)として選択して加算器74へ出力する状態と、参照信号部72からの参照信号を所望信号d(k)として選択して加算器74へ出力する状態を切り換える。
加算器74は、スイッチ73からの所望信号d(k)から、加算器73からの出力信号y(k)を減算し、当該減算結果の信号(等化誤差信号)e(k){=d(k)−y(k)}を係数更新部64へ出力する。
【0045】
係数更新部64は、入力信号x0(k),x1(k),x2(k)や、等化誤差信号e(k)や、各レジスタ61−0〜61−2から出力される等化係数w0(k),w1(k),w2(k)を入力し、所定の係数更新アルゴリズムに従って、更新後の等化係数w0(k+1),w1(k+1),w2(k+1)を算出して各選択部62−0〜62−2へ出力する。具体的には、第1の選択部62−0には等化係数w0(k+1)が出力され、第2の選択部62−1には等化係数w1(k+1)が出力され、第3の選択部62−2には等化係数w2(k+1)が出力される。
なお、ここでは、入力情報の時刻kに対して出力情報の時刻(k+1)を用いて表したが、次の時刻における処理においては、この時刻(k+1)が再び時刻kとして扱われるとみなす。
【0046】
各調整部63−0〜63−2は、それぞれ、各レジスタ61−0〜61−2から出力される等化係数w0(k),w1(k),w2(k)を入力し、調整を行って、調整済みの等化係数を各選択部62−0〜62−2へ出力する。具体的には、第1の調整部63−0は等化係数w0(k)を入力して調整後に出力し、第2の調整部63−1は等化係数w1(k)を入力して調整後に出力し、第3の調整部63−2は等化係数w1(k)を入力して調整後に出力する。
また、各調整部63−0〜63−2は、例えば、制御部19から入力される所定の制御信号(制御_A)により制御される。
【0047】
各選択部62−0〜62−2は、それぞれ、係数更新部64からの更新後の等化係数w0(k+1),w1(k+1),w2(k+1){ここでは、時刻(k+1)を再び時刻kとみなして、等化係数w0(k),w1(k),w2(k)と考える。}と、各調整部63−0〜63−2からの調整済みの等化係数を入力して、いずれか一方を選択して各レジスタ61−0〜61−2へ出力する。具体的には、第1の選択部62−0は等化係数w0(k)に関する入力及び出力を行い、第2の選択部62−1は等化係数w1(k)に関する入力及び出力を行い、第3の選択部62−2は等化係数w2(k)に関する入力及び出力を行う。
また、各選択部62−0〜62−2は、例えば、制御部19から入力される所定の制御信号(制御_B)により制御される。
【0048】
ここで、本例に係る第2の送受信装置(A点側)では、各選択部62−0〜62−2は、第1の送受信装置(B点側)において送信系が切り換えられることに同期して、各選択部62−0〜62−2からの調整済みの等化係数を選択して各レジスタ61−0〜61−2へ出力し、また、送信系が切り換えられないときには、係数更新部64からの更新後の等化係数を選択して各レジスタ61−0〜61−2へ出力するように、制御される。これにより、第1の送受信装置(B点側)において送信系が切り換えられることに同期して、第2の送受信装置(A点側)における等化係数wn(k)が初期化される。
【0049】
各レジスタ61−0〜61−2は、それぞれ、各選択部62−0〜62−2から入力された等化係数w0(k),w1(k),w2(k)を各乗算器52−0〜52−2へ出力するとともに、各調整部63−0〜63−2及び係数更新部64へ出力する。具体的には、第1のレジスタ61−0は等化係数w0(k)を処理し、第2のレジスタ61−1は等化係数w1(k)を処理し、第3のレジスタ61−2は等化係数w2(k)を処理する。
【0050】
図10には、調整部63−0内の内部の構成例を示してある。なお、他の調整部63−1,63−2についても同様である。
本例の調整部63−0は、実数部抽出部81、虚数部抽出部82、−1部83、乗算器84、0部85、選択器86、複素数化部87を備えている。
【0051】
本例の調整部63−0において行われる動作の例を示す。なお、他の調整部63−1,63−2についても同様である。
レジスタ61−0から出力された等化係数wn(k)(調整部63−0については、w0(k))が、実数部抽出部81及び虚数部抽出部82に入力される。
実数部抽出部81は、入力された等化係数wn(k)の実数部を抽出して複素数化部87へ出力する。
虚数部抽出部82は、入力された等化係数wn(k)の虚数部を抽出して乗算器84へ出力する。
【0052】
−1部83は、−1の値の信号を乗算器84へ出力する。
乗算器84は、虚数部抽出部82からの虚数部の信号と−1部83からの−1の信号を乗算し、当該乗算結果(−1×虚数部)の信号を選択器86へ出力する。
0部85は、0の値の信号を選択器86へ出力する。
【0053】
選択器86は、乗算器85からの信号を選択して複素数化部87へ出力する状態と、0部85からの信号を選択して複素数化部87へ出力する状態を切り換える。
また、選択器86は、例えば、制御部19から入力される調整方法制御のための所定の制御信号(制御_A)により制御される。
【0054】
複素数化部87は、実数抽出部81から入力された実数部の信号と、選択器56から入力された虚数部に関する信号に基づいて、これらの値からなる複素数を生成して、その信号を調整済みの等化係数wn(k)(調整部63−0については、w0(k))として選択部(調整部63−0については、選択部62−0)へ出力する。
【0055】
ここで、選択器86により乗算器84からの信号(−1×虚数部)が選択された場合には、複素数化部87は、調整部63−0に入力された等化係数wn(k)の虚数部の正負(±)を反転させたものを調整済みの等化係数wn(k)として出力する。
また、選択器86により0部55からの信号(0)が選択された場合には、複素数化部87は、調整部63−0に入力された等化係数wn(k)の虚数部を0としたもの(実数部のみ)を調整済みの等化係数wn(k)として出力する。
【0056】
以下、本例では、選択器86により乗算器84からの信号(−1×虚数部)が選択された場合について説明する。
実際に第1の送受信装置(B点側)における送信系の切り換えタイミングに同期して、それまでに収束した1つ又は複数の等化係数wn(k)に対して、虚数部の符号を反転することにより、各等化係数の複素共役を求め、その値(調整済みの等化係数)によりそれぞれの等化係数wn(k)を初期化する。なお、第1の送受信装置(B点側)における送信系の切り換え以外の場合では、所定の係数更新アルゴリズムに基づいて、等化係数wn(k)の更新処理を行う。
【0057】
ここで、第1の送受信装置(B点側)における送信系の切り換え時における等化係数wn(k)の初期値として複素共役を求める理由は、本例のような逆相関アンテナの選択ダイバーシティを実施する場合、逆相関関係にある2つのアンテナの受信信号の変調波スペクトラム(振幅特性)が、図6(a)〜(h)に示されるような関係になることに基づく。
【0058】
図6(a)〜(h)には、直接波と反射波のキャリア位相差別、つまり、直接波のキャリアの位相を0とした場合における、反射波(遅延波)のキャリア位相別の変調波スペクトラムの例を示してある。
図6(a)〜(d)は、基準側の受信系について示してあり、それぞれ、0度(同相加算)、+90度、180度(逆相加算)、−90度(+270度)である場合を示している。また、図6(e)〜(h)は、逆相関側の受信系について示してあり、それぞれ、180度(逆相加算)、−90度(+270度)、0度(同相加算)、+90度である場合を示している。また、図6(a)〜(d)と図6(e)〜(h)が、それぞれ、対応している。
図6(a)〜(h)の各グラフでは、横軸は周波数を表しており、縦軸は振幅を表している。
図6(a)〜(h)は第1の送受信装置側における受信信号のスペクトラムであるが、上述の通り、本例の無線通信システムにおいては、同一のアンテナで行う送信と受信の伝搬路が実質的に同一であるため、各アンテナから送信されて第2の送受信装置側において受信される信号も、それぞれ図6と同様の変調波スペクトラムを有する。
【0059】
ここで、図6に示す様に、逆相関アンテナの各アンテナの変調波スペクトラムは、一定の相関関係を有している。特に、本例において、各受信系の受信レベルに基づいて受信系及び送信系の切り換えが行われると想定されるタイミングは、例えば、(+90度から−90度になる場合)又は(−90度から+90度になる場合)である。この場合における反射波の変調波スペクトラムは、左右対称、つまり、DC成分を中心に左右反転させた特性になる。これは、一方のアンテナ側の伝搬路特性を補償するために求めた等化係数であれば、その複素共役が、もう一方のアンテナ側の伝搬路特性を補償できることを意味している。
なお、上記では変調波スペクトラムの振幅特性の関係に基づいて説明したが、逆相関関係にある2つのアンテナを用いることにより、位相特性についても、複素共役を用いてアンテナ切り換え後の伝搬路特性を補償できる条件を満たすことができる。
本例のような等化係数の初期化を実行することにより、アンテナの切り換え時に、異なる伝搬路特性への追加的な追従時間が不要になり、切り換え時における通信品質を維持することができる。
【0060】
次に、本例のような逆相関アンテナの選択ダイバーシティにおける等化係数の初期化に関し、効率的な適用条件について説明する。
まず、アンテナ切り換え時における各変調波スペクトラムが、左右対称になることが必要である。より具体的には、各変調波スペクトラムに示される周波数特性のうち、振幅特性に関しては、中心周波数を反転軸にしたとき、一方がもう一方を反転したものと同じになることが必要である。なお、位相特性に関しては、左右反転した後、位相自体の符号反転も必要となる。
これが満たされているという前提があるならば、直接波に対する反射波の遅延が大きくなるほど、効果が顕著になる。但し、この遅延があまりに大きくなりすぎると、ダイバーシティとは無関係な期間の受信品質に影響が出てくる。このため、このような影響が無視できる範囲あれば、遅延が大きいほど、本例の効果がはっきりわかるということである。
【0061】
前記のような遅延時間の大小は、装置設置距離とアンテナ設置高との関係で決まる。
例えば、距離が離れていても、アンテナ設置高が低ければ、直接波のパス長と反射波のパス長との差は、大きくならない。
反対に、距離が離れていなくても、アンテナ設置高が高ければ、直接波のパス長と反射波のパス長との差が、大きくなる。
【0062】
また、例えば、対向するアンテナが固定されており且つ伝搬路が海越えのような環境下では、直接波と反射波との関係が比較的単純であり、ダイバーシティアンテナ間における直接波と反射波との位相差の関係が凡そλ/2に保たれるため、本例の効果は大きい。
また、本例では、アンテナ切り換えを行うため、例えば、FDD(Frequency Division Duplexing)方式よりも、TDD方式に適合的な構成である。
【0063】
以上のように、本例の無線通信システムでは、第1の送受信装置(B点側)において、基準アンテナ(例えば、アンテナb−1)と、基準アンテナに対して逆相関の関係になるように配置された逆相関アンテナ(例えば、アンテナb−2)を使用し、また、基準アンテナ及び逆相関アンテナの受信レベルを検出(観測)し、各々のレベルの比較に基づいて使用すべき送信系を決定し、送信系の切り換えタイミングを第2の送受信装置(A点側)に通知し、当該通知した切り換えタイミングに同期した送信系切り換えを実施する。そして、第2の送受信装置(A点側)おいて、通知された切り換えタイミングに同期して、切り換え前の等化係数に基づいて、等化係数を初期化する。これにより、第1の送受信装置(B点側)における送信アンテナ(送信系)の切り換えに起因する、第2の送受信装置(A点側)における等化係数の再収束のための所要時間を短縮することを可能とする。
【0064】
また、本例の無線通信システムでは、初期化用の等化係数を求める方法として、切り換え時における等化係数の初期値を、切り換え直前における等化係数の複素共役とする。このように、本例では、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して等化係数を初期化する場合に、アンテナ切り換え直前における等化係数の収束値に基づいて、各々の係数の複素共役を算出し、これを初期値として使用する。
【0065】
従って、本例の無線通信システムでは、現在のアンテナから逆相関の関係にあるアンテナへ送信系を切り換えるときに、送信アンテナ(送信系)の切り換えに伴って発生する切り換え実行直後に必要な等化係数再収束のための所要時間を短縮することができる。本例では、送信アンテナ(送信系)の切り換え直後の等化係数再収束処理について、切り換え直前の等化係数の複素共役を求め、これを等化係数再収束処理の開始時点における等化係数の初期値とする。
【0066】
このように、本例では、逆相関関係にある2つのアンテナを受信状況に応じて選択的に切り換えて送信に用いるアンテナ選択ダイバーシティ技術において、特に、送受信間で海越えを行うような環境下において、送信アンテナ(送信系)の切り換え時における等化係数の収束時間を効果的に短縮することができる。
【0067】
(第2実施例)
等化係数の初期化の第2実施例を説明する。
上記した第1実施例では、B点(第1の送受信装置)における送信系の切り換えタイミングに同期して実行する等化係数の初期値の算出として、直前までの等化係数の収束値の複素共役を求める場合を示した。これに対して、本例では、送信系の切り換えタイミングに同期して実行する等化係数の初期値の算出として、直前までの等化係数の収束値の実数部だけを使用する場合を示す。なお、本例では、実数部だけを使うということと、虚数部を0にするということとは、同じ意味である。
【0068】
以下、本例では、図10に示される調整部の選択器86により0部85からの信号(0)が選択された場合について説明する。
本例のように、選択器86により0部85からの信号(0)が選択された場合には、複素数化部87は、調整部に入力された等化係数wn(k)の虚数部を0としたもの(実数部のみ)を調整済みの等化係数wn(k)として出力する。
【0069】
各々のアンテナでの受信レベル推移において理想的な逆相関が成立するときには、一方の伝搬路特性を補償するための係数の複素共役は、もう一方のための係数そのものになる。そして、その係数の虚数部を0にした状態は、複素共役を求める前の係数と求めた後の係数との平均値ととらえることができる。従って、周波数特性としては、各々から同程度異なった特性になる。
【0070】
以上のように、本例の無線通信システムでは、第2の送受信装置(A点側)における初期化用の等化係数を求める方法として、切り換え時における等化係数の初期値を、切り換え直前における等化係数の実数部をそのままとし虚数部を0化して求めた値とする。このように、本例では、送信アンテナ(送信系)の切り換えタイミングに同期して、等化係数を初期化する場合に、切り換え直前における等化係数の収束値に基づいて、各々の係数の虚数部を0とし、これを初期値として使用する。
【0071】
従って、本例の無線通信システムでは、送信アンテナ(送信系)の切り換え時に、異なる伝搬路特性への追加的な追従時間を短縮することができ、切り換え時における通信品質を維持することができる。更に、例えば、海面変動が大きくなり、逆相関の関係が理想的でなくなったような場合においても、等化係数再収束処理の所要時間の短縮効果を維持することが可能である。
【0072】
(第3実施例)
等化係数の初期化の第3実施例を説明する。
上記した第1実施例や第2実施例では、第2の送受信装置(A点側)において、B点(第1の送受信装置)における送信系の切り換えタイミングに同期して、切り換え前の送信アンテナから送信された信号の受信結果(受信信号)に基づいて適応的に収束された等化係数とは異なる等化係数を設定する(異なる等化係数へ変更する)ことにより、切り換え後の送信アンテナから送信された信号の受信結果(受信信号)に対する等化係数の収束時間を短縮する例を示した。
ここで、このような異なる等化係数(送信系の切り換え後における等化係数の初期値)としては、上記した第1実施例や第2実施例に示したものに限られず、種々なものが用いられてもよい。
本例では、これについて説明する。
【0073】
上記した第1実施例では、送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数の複素共役を初期値として使用する例を示したが、必ずしも厳密に複素共役である必要はなく、複素共役以外についても、送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数に基づいて送信系切り換え後の収束が短縮される係数を与えることにより、等化係数の収束時間を短縮できる場合が考えられる。このような例として、受信スペクトラムの解析結果と送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数に基づいて新たな等化係数を与えることなどが考えられる。
【0074】
また、このような例として、上記した第2実施例では、送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数の実数部をそのままとして虚数部を0としたものを初期値として使用する例を示した。
また、上記した第2実施例の変形例として、例えば、送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数について虚数部に0を使用する一方で、実数部には直前までの収束値の実数部ではなく0や1或いは他の予め定められた値を使用したものを初期値とするような構成が実施されてもよい。このような変形例に係る初期値を使用しても、収束の所要時間の短縮効果が得られることが期待される。なお、この実数部として、0や1以外の値を使用する場合には、例えば、アンテナ特性等に応じて適切な初期値を設定するようなことが可能である。
【0075】
以上のように、送信系の切り換え時における等化係数の初期値としては、種々な値が用いられてもよい。
一構成例として、第1の送受信装置(送信側の装置)は、逆相関関係にある2つの送信アンテナを備え、送信アンテナの切り換えタイミングを第2の送受信装置(受信側の装置)に通知した後に送信アンテナの切り換えを行い、第2の送受信装置は、前記2つの送信アンテナに対向する1つの受信アンテナと1つの適応等化器を備え、第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、切り換え前後の送信アンテナ間の関係(逆相関関係)を利用して適応等化器の等化係数を変更する。変更後の等化係数は、例えば、変更前(送信アンテナの切り換え直前)の等化係数に対して逆相関関係を利用した演算により求められる。
【0076】
一構成例として、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して変更される等化係数としては、送信アンテナの切り換えタイミング時(例えば、直前)の等化係数に基づいて与えられる。すなわち、送信アンテナが切り換えが行われるタイミングにおける等化係数に基づいて、変更後の等化係数を決定する。
一構成例として、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して変更される等化係数としては、送信アンテナの切り換えタイミング時(例えば、直前)の複素共役が与えられる。すなわち、送信アンテナが切り換えが行われるタイミングにおける等化係数の複素共役を、変更後の等化係数として決定する。
一構成例として、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して変更される等化係数としては、実数部として送信アンテナの切り換えタイミング時(例えば、直前)の等化係数の実数部が与えられ、虚数部として0が与えられる。すなわち、すなわち、送信アンテナが切り換えが行われるタイミングにおける等化係数の実数部をそのままとして虚数部を0としたものを、変更後の等化係数として決定する。
一構成例として、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して変更される等化係数としては、予め定められた値(初期値)が与えられる。すなわち、変更後の等化係数として、予め設定された値を用いる。
【0077】
以上の説明では、2つの送信系を切り換える構成例を示したが、3つ以上の送信系を切り換える構成を実施することも可能である。すなわち、一構成例として、第1の送受信装置(送信側の装置)は、所定の相関関係を有する3つ以上の送信アンテナを備え、送信アンテナの切り換えタイミングを第2の送受信装置(受信側の装置)に通知した後に送信アンテナの切り換えを行い、第2の送受信装置は、前記3つ以上の送信アンテナに対向する1つの受信アンテナと1つの適応等化器を備え、第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、切り換え前後の送信アンテナ間の関係(所定の相関関係)を利用して適応等化器の等化係数を変更する。変更後の等化係数は、例えば、変更前(送信アンテナの切り換え直前)の等化係数に対して所定の相関関係を利用した演算により求められる。
このような構成においても、例えば、所定の相関関係を有する3つ以上のアンテナを用いた送信ダイバーシティで、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
ここで、上記3つ以上の送信アンテナは、例えば、2つの送信アンテナを切り換える構成例と同様、各アンテナにおける受信レベルの推移が相関関係を有するように設置、構成される。つまり、例えば3つの送信アンテナの場合には、各アンテナが受信する直接波と反射波のキャリア位相差がそれぞれ120°ずつ異なるように設置、構成され、第1の送受信装置、及び第2の送受信装置のいずれにおいても受信レベルを一定以上に保つことが可能になる。
【0078】
更に一般的には、n本のアンテナ(n>=2)で、各アンテナ間の特定の相関を利用したアンテナ切り替えを行うことも可能である。
n本のアンテナで、任意のタイミングで、直接波の位相と遅延波の位相との差を求めたとき、各々が、以下のように表せればよい。
【数1】
なお、kは0〜n−1の整数であり、φ0は任意の定数である。
【0079】
ここで、例えば上述の実施例のように、n=2(アンテナが2本)の場合、任意のタイミングにおける直接波の位相と遅延波の位相との差はそれぞれ以下の値となる。なお、φ0は任意なので、以降、簡単のためφ0=0とする。
【数2】
この場合、“特定の相関”は“逆相関”、つまりそれぞれのアンテナにおける直接波の位相と遅延波の位相との差が180°の関係となる。
【0080】
また、n=3(アンテナが3本)の場合、任意のタイミングにおける直接波の位相と遅延波の位相との差はそれぞれ以下の値となる。
【数3】
この場合は、“特定の相関”は“逆相関”ではなく、それぞれのアンテナにおける直接波の位相と遅延波の位相との差が互いに120°の関係となる。このように、n本のアンテナ(n>=2)についても、同様に切り替えが可能な関係になるアンテナの組み合わせは存在する。
【0081】
図7、図8は、n=3(アンテナが3本)の場合における受信レベルの相互関係、及び、スペクトラムの相互関係を示してある。
本例では、基準となる第1アンテナと、第1アンテナに対して120度の位相差を持たせた第2アンテナと、第1アンテナに対して240度の位相差を持たせた第3アンテナの各々についての受信レベルが、図7のような相互関係を有するように設定してある。この場合、各アンテナについての直接波と反射波のキャリア位相差別の変調スペクトラムは、図8のような相互関係を有する。なお、図7のグラフでは、横軸は直接波と反射波のキャリア位相差を表しており、縦軸は相対レベルを表している。また、図8のグラフでは、横軸は周波数を表しており、縦軸は振幅を表している。
【0082】
このような相互関係を有する第1〜第3アンテナを設けた構成では、第2アンテナの受信レベルが最小となるタイミング(b)で第1アンテナの受信レベルと第3アンテナの受信レベルが逆転する(第3アンテナの方が大きくなる)ので、タイミング(b)で第1アンテナから第3アンテナへの切り換えを行う。同様に、第1アンテナの受信レベルが最小となるタイミング(d)で第3アンテナの受信レベルと第2アンテナの受信レベルが逆転する(第2アンテナの方が大きくなる)ので、タイミング(d)で第3アンテナから第2アンテナへの切り換えを行い、第3アンテナの受信レベルが最小となるタイミング(f)で第2アンテナの受信レベルと第1アンテナの受信レベルが逆転する(第1アンテナの方が大きくなる)ので、タイミング(f)で第2アンテナから第1アンテナへの切り換えを行う。
【0083】
また、以上の説明では、第1の送受信装置(送信側)の複数の送信アンテナについて、切り換え前後の送信アンテナ間の関係(所定の相関関係)の好適な例として、信号レベルの推移が図13、図14や図7に示す関係となる場合を示したが、本発明はこれに限られるものではない。上述の実施例では、第1の送受信装置の各受信系における受信レベルに基づいて送信系の切り換えを行うが、各受信系における受信レベルに拠らず、送信系の切り換え前後の各送信系の伝搬路特性に所定の相関関係がある場合(例えば、複数の送信アンテナから送信される信号の変調波スペクトラム(周波数特性)が図6に示す様な関係となるように当該複数の送信アンテナが構成されている場合)、送信系切り換え前後の伝搬路特性の関係に基づいて第2の送受信装置における適応等化器の等化係数などを最適な値に近づくように初期化(変更)することができる。
これにより、上述の実施例と同様に、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0084】
また、以上の説明では、第1の送受信装置は、信号の送信及び受信に共用する2つ又は3つの共用アンテナを備え、各共用アンテナにより受信した信号に基づいて、信号の送信に用いるアンテナを選択的に切り換えているが、他の手法により、信号の送信に用いるアンテナを選択するようにしてもよい。すなわち、例えば、第1の送受信装置は、信号の送信に用いる2つの送信アンテナと信号の受信に用いる1つの受信アンテナを備え、各送信アンテナから送信した信号に係る情報を受信アンテナにより第2の送受信装置から受信し、当該情報に基づいて送信アンテナを選択的に切り換えるようにしてもよい。
【0085】
本明細書の記載事項には、少なくとも次の発明が含まれる。
すなわち、第1の発明は、互いに信号の送受信を行う第1の送受信装置と第2の送受信装置とを有する無線通信システムにおいて、前記第1の送受信装置は、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有する複数のアンテナと、前記第2の送受信装置における特定のアンテナから送信されて前記複数のアンテナによりそれぞれ受信される信号の受信レベルに基づいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記第2の受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記第2の送受信装置は、前記第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定のアンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、ことを特徴とする無線通信システムである。
当該第1の発明によれば、第1の送受信装置では、受信される信号の受信レベルに基づいて、第2の送受信装置へ信号を送信するアンテナを複数のアンテナのいずれかに切り換えることで、常に信号の送信に最適なアンテナにより信号を送信することができるとともに、第2の送受信装置では、第1の送受信装置における信号を送信するアンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、第1の送受信装置の複数のアンテナは、第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有しており、当該受信レベルに基づいて信号の送信に用いるアンテナの切り換えを行うことから、当該複数のアンテナの各受信レベルが相関関係を有し、当該受信レベルに基づいて信号の送信に用いるアンテナの切り換えを行うという条件に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができるので、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0086】
第2の発明は、上記第1の発明に記載の無線通信システムにおいて、前記第1の送受信装置は2つのアンテナを備え、当該2つのアンテナは、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに逆相関となる関係を有することを特徴とする無線通信システムである。
当該第2の発明によれば、上記第1の発明に対して、前記第1の送受信装置が備える2つのアンテナが、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに逆相関となる関係を有しているため、特に、当該2つのアンテナは各受信レベルが逆相関関係を有するという条件に基づいて、等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0087】
第3の発明は、対向する送信装置と受信装置を有する無線通信システムにおいて、前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、ことを特徴とする無線通信システムである。
当該第3の発明によれば、受信装置では、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性が所定の相関関係を有しているため、当該相関関係を考慮して、等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
前記送信装置の複数の送信アンテナが有する伝搬路特性の相関関係としては、例えば、複数の送信アンテナから送信される信号の変調波スペクトラム(周波数特性)が、図6に示す様な関係や、図7,図8に示す様な関係が考えられる。
【0088】
なお、上記第1〜第3の発明における、送信アンテナ切換手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、タイミング管理部30、レベル測定/比較部31、制御部32、送信系選択部24などにより構成される。また、タイミング通知手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、タイミング管理部30、制御部32、及び、信号を送信する機能に関する各構成(ENC部21、送信ベースバンド部22、送信RF部23、アンテナb、等)などにより構成される。また、等化係数変更手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、タイミング管理部18、制御部19、受信ベースバンド部16に設けられる適応等化器(図9)などにより構成される。
【0089】
第4の発明は、対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおいて、前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号に対する処理に関するパラメータを変更するパラメータ変更手段を備えた、ことを特徴とする無線通信システムである。
当該第4の発明によれば、受信装置では、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、受信信号に対する処理に関するパラメータの変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性(例えば、変調波スペクトラム等)が所定の相関関係を有しているため、受信信号に対する処理に関するパラメータの変更時に、当該相関関係を考慮したパラメータを設定することができ、送信系の切り換えに起因するパラメータの変更において当該パラメータを最適値に近づけることが可能である。
【0090】
なお、上記第4の発明における、パラメータ変更手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、タイミング管理部18、制御部19、受信ベースバンド部16に設けられる適応等化器(図9)などにより構成される。
【0091】
第5の発明は、対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおける前記送信装置であって、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備えたことを特徴とする送信装置である。
当該第5の発明によれば、送信装置が送信アンテナの切り換えタイミングを事前に受信装置へ通知し、受信装置は当該タイミングを事前に把握することができる。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性(例えば、変調波スペクトラム等)が所定の相関関係を有しているため、受信装置は、例えば受信信号の等化処理に用いる等化係数を、当該切り換えタイミングに同期して、当該相関関係に基づいた値に変更(初期化)することが可能である。これにより、送信装置における送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善されるとともに、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0092】
第6の発明は、特定の受信アンテナにより信号を受信する受信装置と、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナを備え、前記受信装置の特定の受信アンテナに信号を送信するアンテナを前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換えて信号を送信する送信装置と、を有する無線通信システムにおける前記受信装置であって、前記受信装置は、前記送信装置から前記複数の送信アンテナを切り換えるタイミングを通知する信号を受信し、受信した信号に基づき前記送信アンテナの切り換えタイミングを取得する切り換えタイミング取得手段と、前記切り換えタイミング取得手段により取得される切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、ことを特徴とする受信装置である。
当該第6の発明によれば、受信装置は、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性(例えば、変調波スペクトラム等)が所定の相関関係を有しているため、当該相関関係に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0093】
なお、上記第6の発明における、切り換えタイミング取得手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、アンテナa、受信RF部15、受信ベースバンド部16、DEC17、制御部19などにより構成される。
【0094】
第7の発明は、特定の受信アンテナにより信号を受信する受信装置と、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナを備え、前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換えて前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信する送信装置と、を有する無線通信システムにおける前記送信装置及び受信装置の制御方法であって、前記送信装置は、前記受信装置へ信号を送信する送信アンテナを切り換えるタイミングを前記受信装置に通知し、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記送信装置から前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更することを特徴とする前記送信装置及び受信装置の制御方法である。
当該第7の発明によれば、受信装置は、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性(例えば、変調波スペクトラム等)が所定の相関関係を有しているため、当該相関関係に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0095】
第8の発明は、特定のアンテナにより信号を送受信する第2の送受信装置と、前記第2の送受信装置の特定のアンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数のアンテナを選択的に使用して信号を送受信する第1の送受信装置と、を有する無線通信システムにおける前記第1の送受信装置及び第2の送受信装置の制御方法であって、前記第1の送受信装置において、前記第2の送受信装置における特定のアンテナから送信されて前記複数のアンテナによりそれぞれ受信される信号の受信レベルに基づいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換えるタイミングを決定する切り換えタイミング決定ステップと、前記第1の送受信装置において、前記切り換えタイミング決定ステップで決定された送信アンテナの切り換えタイミングを前記第2の送受信装置に通知する切り換えタイミング通知ステップと、前記第2の送受信装置において、前記第1の送受信装置から通知された送信アンテナの切り換えタイミングに同期して、前記第2の送受信装置から前記特定のアンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更ステップと、を備えることを特徴とする前記第1の送受信装置及び第2の送受信装置の制御方法である。
当該第8の発明によれば、第1の送受信装置では、受信される信号の受信レベルに基づいて、第2の送受信装置へ信号を送信するアンテナを複数のアンテナのいずれかに切り換えることで、常に信号の送信に最適なアンテナにより信号を送信することができるとともに、第2の送受信装置では、第1の送受信装置における信号を送信するアンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、第1の送受信装置の複数のアンテナは、第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有しており、当該受信レベルに基づいて信号の送信に用いるアンテナの切り換えを行うことから、当該複数のアンテナの各受信レベルが相関関係を有し、当該受信レベルに基づいて信号の送信に用いるアンテナの切り換えを行うという条件に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができるので、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
11:ENC部(エンコーダ部)、 12:送信ベースバンド部、 13:送信RF部、 14:TDD−SW部(送受信切り換え部)、 15:受信RF部、 16:受信ベースバンド部、 17:DEC部(デコーダ部)、 18:タイミング管理部、 19:制御部、
21:ENC部(エンコーダ部)、 22:送信ベースバンド部、 23:送信RF部、 24:送信系選択部、 25−1,25−2:TDD−SW部(送受信切り換え部)、 26−1,26−2:受信RF部、 27:受信系選択部、 28:受信ベースバンド部、 29:DEC部(デコーダ部)、 30:タイミング管理部、 31:レベル測定/比較部、 32:制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムに関し、特に、逆相関アンテナを利用した送信ダイバーシティで、送信アンテナ(送信系)の切り換えに起因する等化係数の再収束などにおいて、その所要時間を短縮することができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FWA(Fixed Wireless Access)システムでは、見通しが確保できる2地点に送信アンテナと受信アンテナが設置される。この場合、2地点における伝搬モデルとしては、直接波と1パスの反射波との2波モデルで近似することができる。
ここで、図11に例示するようなFWAシステムの伝搬モデルにおいて、送信点(送信側のアンテナaの位置)と受信点(受信側のアンテナbの位置)との間に海面が存在し、更に、反射波の反射点が海面上に位置する場合について検討する。
まず、直接波に関しては、潮位が変動しても、キャリア位相が変化することはない。
一方、反射波に関しては、潮位の変動に伴って、経路及び経路長が変化する。その結果、受信点における反射波のキャリア位相には変動が生じる。
このため、受信点では、直接波と反射波のキャリア位相差が変化することになり、その結果、直接波と反射波を合成した受信波(合成波)のレベルが変動する。
【0003】
受信レベルが変動する場合、ダイバーシティの実施により、レベル変動の影響を軽減することができる。ダイバーシティには、各種の方式が存在する。例えば、図12に例示するように、信号の受信に係る2つのアンテナb−1,b−2をそれぞれ異なる位置に設置し、各々を適宜切り替える選択ダイバーシティ方式がある。
ここで、図12のような選択ダイバーシティ方式において、アンテナb−1,b−2の位置関係が後述の条件(逆相関成立条件)を満たすとき、アンテナb−1による受信レベルの変動と、アンテナb−2による受信レベルの変動との関係が、逆相関関係になる。図13には、逆相関関係が成立している場合の受信レベルの変動例を示してある。図13において、横軸は潮位を表しており、縦軸は受信電界強度を表している。
【0004】
なお、図12における逆相関成立条件は、「アンテナb−1において、アンテナaからの直接波のキャリア位相と反射波のキャリア位相との差がδθであるとき、アンテナb−2において、アンテナaからの直接波のキャリア位相と反射波のキャリア位相との差がδθ+180°になること」である。
ここで、アンテナb−1に対する直接波と反射波の路程の差を路程差d1とし、アンテナb−2に対する直接波と反射波の路程の差を路程差d2とする。そして、位相で表現した上記の逆相関成立条件をキャリア波長での表現に言い換えると、逆相関成立条件は、「路程差d1と路程差d2の差が1/2波長になること」となる。従って、この条件を満たす位置関係でアンテナb−1,b−2を設置すれば良いことになる。
なお、より一般的には、「d1−d2=(2m+1)λ/2」の条件を満たす時、アンテナb−1,b−2は逆相関の関係が成立する。λはキャリア波長、mは0以上の整数である。
【0005】
潮位に対する受信レベルの変動と、受信レベルの変動に対処するための受信アンテナの切り換えの実施について、図14、図15を参照して説明する。図14には、逆相関関係が成立している場合の受信レベルの変動例及び受信アンテナの切り換えの実施点を示してあり、図15には、逆相関関係が成立していない場合の受信レベルの変動例及び受信アンテナの切り換えの実施点を示してある。図14、図15では、受信アンテナの切り換えの実施点を白抜きの“○”で示している。
図15に示されるように、逆相関関係が成立していない場合には、受信アンテナの切り換えの実施時点において、受信レベルの低下がやや大きくなる場合がある。これに対し、図14に示されるように、逆相関関係が成立している場合には、受信アンテナの切り換えの実施時点の受信レベルは、全て、図15に示した最も低下した際の受信レベルにまで低下することはない。
つまり、信号の受信に係る2つのアンテナb−1,b−2の設置条件に逆相関成立条件を加えることで、選択ダイバーシティにおいて受信レベルを一定以上に保つ効果が大きくなるといえる。
【0006】
ここで、複信方式としてTDD(Time Division Duplexing)を採用したシステムでは、上述した受信側の選択ダイバーシティ(受信ダイバーシティ)に加え、受信アンテナの切り換え制御に基づいた送信アンテナの切り換え(送信ダイバーシティ)も可能である。これは、TDDの場合には送受信を同一周波数のキャリアで行う、という特徴を有効に利用する方式である。
図16には、TDDシステムの特徴を利用した選択ダイバーシティの例を示してある。すなわち、アンテナb−1,b−2の側であるB点では、受信側の時間帯には受信ダイバーシティを行い、送信側の時間帯には送信ダイバーシティを行う。このような送信ダイバーシティの実施により、対向する装置側(アンテナaの側)であるA点の受信レベルも一定以上のレベルに保つことが可能になる。
【0007】
次に、伝搬路特性の補償について説明する。
反射波は、直接波に対して遅延する。この遅延時間がシンボル周期に対して大きくなると、変調波帯域内の周波数特性の歪みが無視できなくなる。変調多値数を大きくするためには、このような伝搬路歪みの補償が必須となる。この場合には、通常、時間領域或いは周波数領域において等化処理が行われる。
ここで、アンテナ選択による受信ダイバーシティを実施する場合、受信アンテナの切り換えに伴って伝搬路が切り換わり、伝搬路特性も変化する。このため、受信アンテナの切り換え時には受信品質が一時的に劣化することになるが、この劣化を解消するために、受信信号の等化処理に用いるパラメータ(等化係数)の調整などが必要になる。
同様に、アンテナ選択による送信ダイバーシティを実施する場合にも、送信アンテナの切り換えに伴って伝搬路特性が変化する。このため、送信アンテナの切り換え時には受信品質が一時的に劣化することになり、この劣化を解消するために、受信側は受信信号の等化処理に用いるパラメータ(等化係数)の調整などが必要になる。
【0008】
なお、ダイバーシティに関し、これまでに種々の発明が提案されている。
例えば、特許文献1には、2つのアンテナの相関係数を−1として、2つのアンテナで信号を受信する場合に、一方のアンテナの受信入力(例えば、電界強度)が最小となったときに、他方のアンテナの受信入力(例えば、電界強度)が最大となる逆相関関係とする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−135182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したようにアンテナ選択による送信ダイバーシティを実施する場合、対向する装置側(受信側)では、通信相手(送信側)がいつ送信アンテナを切り換えるか把握しておらず、実際に送信アンテナが切り換わった際の等化用パラメータ(等化係数)の調整などが遅延してしまうため、切り換え直後の通信品質が劣化することになる。
そこで、本発明では、所定の相関関係を有する複数のアンテナのうちのいずれかを選択的に使用して信号の送信を行う送信ダイバーシティに関し、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化の改善を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、所定の相関関係を有する複数のアンテナを用いて送信ダイバーシティを実施するにあたり、送信側では、送信アンテナを切り換えるタイミングを対向する装置側(受信側)に通知し、受信側では、通知された切り換えタイミングに同期して等化用パラメータ(等化係数)などを変更する。
ここで、所定の相関関係を有する複数のアンテナとしては、例えば、逆相関関係を有する2つのアンテナである。
すなわち、受信側では、送信側における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握でき、送信アンテナの切り換えに伴う伝搬路特性の変化への対応を速やかに行える。
【0012】
一構成例として、互いに信号の送受信を行う第1の送受信装置と第2の送受信装置とを有する無線通信システムにおいて、前記第1の送受信装置は、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有する複数のアンテナと、前記第2の送受信装置における特定のアンテナから送信されて前記複数のアンテナによりそれぞれ受信される信号の受信レベルに基づいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記第2の送受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記第2の送受信装置は、前記第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定のアンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備える。
当該構成によれば、第2の送受信装置では、第1の送受信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。
なお、上記無線通信システムとしては、同一のアンテナ間において送信及び受信の伝搬路特性が実質的に同一であることが望ましく、例えば、送信及び受信を同一の無線周波数帯で行う、TDDによる複信方式システムが好適である。
【0013】
また、一構成例として、上記構成例の第1の送受信装置は2つのアンテナを備え、当該2つのアンテナにおいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに逆相関となる関係を有する。
当該構成によれば、上記構成例に対して、特に、第1の送受信装置が備える2つのアンテナの各受信レベルが逆相関関係を有するという条件に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0014】
また、一構成例として、対向する送信装置と受信装置を有する無線通信システムにおいて、前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備える。
当該構成によれば、受信装置では、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。
【0015】
また、一構成例として、対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおいて、前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号に対する処理に関するパラメータを変更するパラメータ変更手段を備える。
当該構成によれば、受信装置では、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、受信信号に対する処理に関するパラメータの変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定の相関関係を有する複数のアンテナのうちのいずれかを選択的に使用して信号の送信を行う送信ダイバーシティに関し、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
【図2】n−3番目のフレームにおける通信内容の例を示す図である。
【図3】n−2番目のフレームにおける通信内容の例を示す図である。
【図4】n−1番目のフレームにおける通信内容の例を示す図である。
【図5】n番目のフレームにおける通信内容の例を示す図である。
【図6】各逆相関アンテナにおける直接波と反射波のキャリア位相差別の変調スペクトラムの例を示す図である。
【図7】相関関係にある3本のアンテナにおける受信レベルの例を示す図である。
【図8】相関関係にある3本のアンテナにおけるキャリア位相別の変調スペクトラムの例を示す図である。
【図9】適応等化器の内部の構成例を示す図である。
【図10】調整部の内部の構成例を示す図である。
【図11】FWAシステムの伝搬モデルの例を示す図である。
【図12】受信アンテナ選択によるダイバーシティの例を示す図である。
【図13】逆相相関条件が成立している場合の受信レベルの変動例を示す図である。
【図14】逆相関関係が成立している場合の受信レベルの変動例及び受信アンテナの切り換えの実施点を示す図である。
【図15】逆相関関係が成立していない場合の受信レベルの変動例及び受信アンテナの切り換えの実施点を示す図である。
【図16】TDDシステムの特徴を利用した選択ダイバーシティの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る無線通信システムの構成例を示してある。
本例の無線通信システムは、TDD複信方式のシステムであり、2つの送受信装置を有している。本例では、B点(図中右側)に位置する第1の送受信装置で、受信ダイバーシティ及び送信ダイバーシティを実施し、これに対向するA点(図中右側)に位置する第2の送受信装置で、B点側(第1の送受信装置)における送信ダイバーシティを実施した結果の信号を受信する構成となっている。
【0019】
A点側に位置する第2の送受信装置は、信号の送受信に用いるアンテナaに加え、ENC部(エンコーダ部)11、送信ベースバンド部12、送信RF部13、TDD−SW部(送受信切り換え部)14、受信RF部15、受信ベースバンド部16、DEC部(デコーダ部)17、タイミング管理部18、制御部19を有する。
B点側に位置する第1の送受信装置は、信号の送受信に用いるアンテナb−1,b−2に加え、ENC部(エンコーダ部)21、送信ベースバンド部22、送信RF部23、送信系選択部24、TDD−SW部(送受信切り換え部)25−1,25−2、受信RF部26−1,26−2、受信系選択部27、受信ベースバンド部28、DEC部(デコーダ部)29、タイミング管理部30、レベル測定/比較部31、制御部32を有する。
本例の第1の送受信装置では、2つのアンテナb−1,b−2を互いに逆相関関係となるような位置関係で配置している。
【0020】
第2の送受信装置(A点側)の各機能部について概略的に説明する。
ENC部11は、第1の送受信装置へ送信する対象として入力されたデータ(ユーザー用データや制御用データ)に対して符号化処理を行い、その結果の信号を送信ベースバンド部12へ出力する。
送信ベースバンド部12は、ENC部11から入力された信号に対して送信ベースバンド処理を行い、その結果の信号を送信RF部13へ出力する。
送信RF部13は、送信ベースバンド部12から入力された信号に対して送信RF処理を行い、その結果の信号をTDD−SW部14へ出力する。
TDD−SW部14は、制御部19による制御の下で、送信RF部13から入力された信号をアンテナaにより第1の送受信装置へ送信する状態と、アンテナaにより第1の送受信装置から受信した信号を受信RF部15へ出力する状態を切り換える。
【0021】
受信RF部15は、TDD−SW部14を介して入力される第1の送受信装置から受信した信号に対して受信RF処理を行い、その結果の信号を受信ベースバンド部16へ出力する。
受信ベースバンド部16は、受信RF部15から入力された信号に対して受信ベースバンド処理を行い、その結果の信号をDEC17へ出力する。
DEC17は、受信ベースバンド部16から入力された信号に対して復号化処理を行い、その結果のデータ(ユーザー用データや制御用データ)を出力する。
タイミング管理部18は、信号の送受信に係るフレーム中の位置を確認するためのカウンタである。
制御部19は、タイミング管理部18によるカウンタ値に基づいて、所定の制御を実施する。
【0022】
第1の送受信装置(B点側)の各機能部について概略的に説明する。
ENC部21は、第2の送受信装置へ送信する対象として入力されたデータ(ユーザー用データや制御用データ)に対して符号化処理を行い、その結果の信号を送信ベースバンド部22へ出力する。
送信ベースバンド部22は、ENC部21から入力された信号に対して送信ベースバンド処理を行い、その結果の信号を送信RF部23へ出力する。
送信RF部23は、送信ベースバンド部22から入力された信号に対して送信RF処理を行い、その結果の信号を送信系選択部24へ出力する。
送信系選択部24は、制御部32による制御の下で、送信RF部23から入力された信号をTDD−SW部25−1へ出力する状態(第1の送信系を使用する状態)と、送信RF部23から入力された信号をTDD−SW部25−2へ出力する状態(第2の送信系を使用する状態)を切り換える。なお、第1の送信系は、アンテナb−1、TDD−SW部25−1等により構成され、第2の送信系は、アンテナb−2、TDD−SW部25−2等により構成される。
【0023】
TDD−SW部25−1は、制御部32による制御の下で、送信系選択部24から入力された信号をアンテナb−1により第2の送受信装置へ送信する状態と、アンテナb−1により第2の送受信装置から受信した信号を受信RF部26−1へ出力する状態を切り換える。
TDD−SW部25−2は、制御部32による制御の下で、送信系選択部24から入力された信号をアンテナb−2により第2の送受信装置へ送信する状態と、アンテナb−2により第2の送受信装置から受信した信号を受信RF部26−2へ出力する状態を切り換える。
【0024】
受信RF部26−1は、TDD−SW部25−1を介して入力される第2の送受信装置から受信した信号に対して受信RF処理を行い、その結果の信号を受信系選択部27及びレベル測定/比較部31へ出力する。
受信RF部26−2は、TDD−SW部25−2を介して入力される第2の送受信装置から受信した信号に対して受信RF処理を行い、その結果の信号を受信系選択部27及びレベル測定/比較部31へ出力する。
【0025】
受信系選択部27は、制御部32による制御の下で、受信RF部26−1から入力された信号を受信ベースバンド部28へ出力する状態(第1の受信系を使用する状態)と、受信RF部26−2から入力された信号を受信ベースバンド部28へ出力する状態(第2の受信系を使用する状態)を切り換える。なお、第1の受信系は、アンテナb−1、TDD−SW部25−1、受信RF部26−1等により構成され、第2の受信系は、アンテナb−2、TDD−SW部25−2、受信RF部26−2等により構成される。
受信ベースバンド部28は、受信系選択部27から入力された信号に対して受信ベースバンド処理を行い、その結果の信号をDEC29へ出力する。
DEC29は、受信ベースバンド部28から入力された信号に対して復号化処理を行い、その結果のデータ(ユーザー用データや制御用データ)を出力する。
【0026】
タイミング管理部30は、信号の送受信に係るフレーム中の位置を確認するためのカウンタである。
レベル測定/比較部31は、受信RF部26−1から入力された信号及び受信RF部26−2から入力された信号のレベル(例えば、電力の値)をそれぞれ測定し、これらのレベルを比較し、当該比較結果の情報を制御部32へ出力する。
制御部32は、タイミング管理部30によるカウンタ値及びレベル測定/比較部から入力された情報に基づいて、所定の制御を実施する。
【0027】
本例の無線通信システムに係る受信ダイバーシティでは、第1の送受信装置(B点側)の制御部32は、レベル測定/比較部31から入力された情報に基づいて、使用する受信系を切り換えるように受信系選択部27を制御する。また、受信系の切り換えと共に(例えば、受信系の切り換えの前に)、受信ベースバンド部28における受信ベースバンド処理に関するパラメータを変更するように制御する。
受信ベースバンド処理に関するパラメータとしては、一例として、受信信号の等化処理に用いるパラメータである等化係数が挙げられる。等化係数は、受信系の切り換えに伴って、切り換え後の受信系に対応した初期化が行われ、その後、所定の係数更新アルゴリズムに基づいて更新(収束)される。
【0028】
また、本例の無線通信システムに係る送信ダイバーシティでは、第1の送受信装置(B点側)の制御部32は、レベル測定/比較部31から入力された情報に基づいて、使用する送信系を切り換えるタイミングを決定し、当該切り換えタイミングに同期して送信系を切り換えるように送信系選択部24を制御する。また、切り換えタイミングの情報は、送信系の切り換えに先立って第2の送受信装置(A点側)へ通知される。そして、第2の送受信装置の制御部19は、通知された切り換えタイミングに同期して、受信ベースバンド部16における受信ベースバンド処理に関するパラメータを変更するように制御する。
受信ベースバンド処理に関するパラメータとしては、一例として、受信信号の等化処理に用いるパラメータである等化係数が挙げられる。等化係数は、第1の送受信装置(B点側)における送信系の切り換えに伴って、切り換え後の送信系に対応した初期化(変更)が行われ、その後、所定の係数更新アルゴリズムに基づいて更新(収束)される。
【0029】
なお、本例の第1の送受信装置は、受信系の切り換えと同様に受信信号のレベルに基づいて送信系の切り換えを決定する構成であるが、これは、本例の無線通信システムにおいて特定の2つのアンテナ間で行う送信と受信の伝搬路は実質的に同一であり、各受信系で受信した信号のレベルと、当該受信系に対応する送信系により送信される信号の第2の送受信装置側での受信レベルは同様に変化することに基づいている。
【0030】
受信ダイバーシティから送信ダイバーシティまでの動作例について説明する。
本例では、以下の[ステップ1]〜[ステップ4]に示すように、受信ダイバーシティの実施に連動して送信ダイバーシティを実施するものとする。
図2には、n−3番目のフレームにおける通信内容の例を示してあり、図3には、n−2番目のフレームにおける通信内容の例を示してあり、図4には、n−1番目のフレームにおける通信内容の例を示してあり、図5には、n番目のフレームにおける通信内容の例を示してある。
【0031】
[ステップ1;n−3番目のフレーム時の動作]について、図2を参照して説明する。
n−3番目のフレームにおいて、受信ダイバーシティ及び送信ダイバーシティの実施タイミングを決定する。
すなわち、B点(第1の送受信装置)では、2つの受信系で受信された信号のレベルをそれぞれ測定して両者を比較し、受信レベルの大小の入れ替わりに応じて、受信レベルが大きくなった方の受信系への切り換えを決定する。送信系についても、当該受信系と同じアンテナで構成される送信系への切り換えを決定する。本例では、受信系の切り換えは、当該フレーム(n−3番目のフレーム)時点では実施せず、その次のフレーム(n−2番目のフレーム)時点で実施する(つまり、フレームの途中では切り換えない)。送信系の切り換えについてもこの時点では実施しない。
一方、A点(第2の送受信装置)では、この時点でのダイバーシティ関連の制御はない。
なお、受信系及び送信系の切り換えの決定は、受信レベルの大小の入れ替わりに応じて行われる態様だけでなく、測定された受信レベルを比較して、受信レベルの大きさが入れ替わると予測される場合に、大きくなると予測される方の受信系へ予め切り換えるように決定する態様をとってもよい。
【0032】
[ステップ2;n−2番目のフレーム時の動作]について、図3を参照して説明する。
n−2番目のフレームにおいて、受信ダイバーシティを実施する。
すなわち、B点(第1の送受信装置)では、当該フレーム(n−2番目のフレーム)の信号の受信を開始するタイミングに合わせて、受信系の切り換えと、受信ベースバンド処理に関するパラメータ(例えば、等化係数などの伝搬路特性補償処理に係るパラメータ)の調整(変更)を実施する。送信系の切り換えは、この時点では実施しない。
一方、A点(第2の送受信装置)では、この時点でのダイバーシティ関連の制御はない。
【0033】
[ステップ3;n−1番目のフレーム時の動作]について、図4を参照して説明する。
n−1番目のフレームにおいて、送信ダイバーシティに関する通知を行う。
すなわち、B点(第1の送受信装置)では、送信ダイバーシティを実施するフレームの位置(送信系の切り換えタイミング)をA点(第2の送受信装置)側に通知するために、そのフレーム位置情報を当該フレーム(n−2番目のフレーム)で送信する制御用データの信号に埋め込んで送信する。本例では、送信系の切り換えは、当該フレーム(n−1番目のフレーム)時点では実施せず、その次のフレーム(n番目のフレーム)時点で実施する(すなわち、フレームの途中では切り換えない)。
一方、A点(第2の送受信装置)では、受信した制御用データの信号をデコードしてフレーム位置情報を抽出(送信系の切り換えタイミングを特定)し、B点(第1の送受信装置)における送信系の切り換えに備える。
【0034】
[ステップ4;n番目のフレーム時の動作]について、図5を参照して説明する。
n番目のフレームにおいて、送信ダイバーシティを実施する。
すなわち、B点(第1の送受信装置)では、当該フレーム(n番目のフレーム)の信号の送信を開始するタイミングに合わせて、送信系の切り換えを行う。
一方、A点(第2の送受信装置)では、当該フレーム(n番目のフレーム)の受信を開始するタイミングに合わせて、受信ベースバンド処理に関するパラメータ(例えば、等化係数などの伝搬路特性補償処理に係るパラメータ)の調整(変更)を実施する。
【0035】
以上に述べたステップ1〜ステップ4の手順を踏むことにより、B点(第1の送受信装置)における送信ダイバーシティのための送信アンテナ(送信系)の切り換え直後であっても、対向するA点(第2の送受信装置)側で、伝搬路特性の変化に対する適応が済むまでの一時的な期間における受信状態の乱れを回避できる。
なお、本例では、送信アンテナの切り換えを、対向側(A点側)に切り換え情報(位置情報)を通知した直後のフレームとしているが、これに限定するものではなく、第1の送受信装置及び第2の送受信装置の双方でタイミングを同期して切り換え処理がなされればよい。すなわち、例えば、“数フレーム後に実施”という情報(送信系の切り換えを実施するフレーム位置の情報)を通知し、当該情報に基づく制御を双方の装置で行うようにしてもよい。
【0036】
なお、本例では、受信系の切り換えを決定する手法として、各受信系で受信した信号のレベルに基づいて、受信系の切り換え及び送信系の切り換えを決定しているが、これに限られず、例えば、受信信号のスペクトルを測定した結果に基づいて決定するような手法が用いられてもよい。
【0037】
また、本例では好適な例として、受信系の切り換えと送信系の切り換えを同時に決定し、それぞれ切り換え動作を行うが、これに限られず、受信系の切り換えと送信系の切り換えを行う判断基準を異ならせて、それぞれ異なるタイミングで切り換えを決定するようにしてもよい。
【0038】
以上のように、本例の無線通信システムはTDD複信方式であり、第1の送受信装置と第2の送受信装置を対向させて設置し、第1の送受信装置に、受信レベル(例えば受信電力)の推移が逆相関の関係になるようにアンテナを設け、アンテナ切り換えによる受信ダイバーシティを行う。
更に、第1の送受信装置は、アンテナ切り換えによる受信ダイバーシティに連動して送信ダイバーシティを行う。すなわち、受信アンテナを切り換えたタイミングに基づき、送信も、切り換え後のアンテナ側から行うように切り換える。また、第1の送受信装置は、送信アンテナを切り換えるタイミングを第2の送受信装置に伝えるために、ユーザ用データのほかに制御用データを送信する。この制御用データに、送信アンテナがいつ切り換わるかを示す情報(切り換えタイミングの情報)を載せる。
一方、第2の送受信装置は、送信アンテナがいつ切り換わるかを、受信した制御用データの中から判断する。そして、制御用データで指定されたタイミングで、送信アンテナの切り換わりに対応するための受信関連パラメータ(例えば、等化係数)を変更する。
【0039】
従って、本例の無線通信システムでは、送信側の装置(第1の送受信装置)におけるアンテナ間の逆相関特性を利用した送信ダイバーシティの実施に同期して、対向する受信側の装置(第2の送受信装置)における受信関連パラメータが適切な値に変更される(近づけられる)。このような構成は、例えば、潮位変動の影響がある環境でFWAシステムを使用する場合に有用である。
【0040】
次に、第2の送受信装置(A点側)の受信ベースバンド部16における受信ベースバンド処理に関するパラメータの変更について説明する。なお、第1の送受信装置(B点側)の受信ベースバンド部28側については、第2の送受信装置(A点側)の受信ベースバンド部16側と概略的に同様な処理であるため、その説明は割愛する。
受信ベースバンド処理では、例えば、直交変調処理、デシメーション(サンプリングレートの変換)処理、受信フィルタ処理、等化処理などの各処理が順に実施される。
以下では、受信ベースバンド処理に関するパラメータを変更する例として、等化処理に用いるパラメータである等化係数を初期化する場合について説明する。
【0041】
(第1実施例)
等化係数の初期化の第1実施例を説明する。
図9には、受信ベースバンド部16に設けられる適応等化器の内部の構成例を示してある。
本例では、適応等化器のタップ数が3である場合を示すが、他の種々なタップ数が用いられてもよい。
本例の適応等化器は、3個のレジスタ(Reg)51−0〜51−2、3個の(係数可変の)乗算器52−0〜52−2、加算器(又は、累算器)53を備えており、また、3個のレジスタ(Reg)61−0〜61−2、3個の選択部62−0〜62−2、3個の調整部63−0〜63−2、係数更新部64を備えており、また、シンボル判定部71、参照信号部72、スイッチ73、加算器74を備えている。
【0042】
また、本例では、n=0,1,2として、kが時刻(例えば、サンプル番号)を表すとし、xn(k)が入力信号を表し、y(k)が出力信号を表し、d(k)が所望信号を表し、en(k)が等化誤差信号を表し、wn(k)が等化信号を表すとする。
本例では、xn(k)、y(k)、d(k)、en(k)、wn(k)は、複素数である。
【0043】
本例の適応等化器において行われる動作の例を示す。
入力信号が、直列に接続された3個のレジスタ51−0〜51−2を通過する。
第1のレジスタ51−0からの出力信号x0(k)が、第1の乗算器52−0に入力されて等化係数w0(k)を乗算され、その結果の信号が加算器53に入力される。
第2のレジスタ51−1からの出力信号x1(k)が、第2の乗算器52−1に入力されて等化係数w1(k)を乗算され、その結果の信号が加算器53に入力される。
第3のレジスタ51−2からの出力信号x2(k)が、第3の乗算器52−2に入力されて等化係数w2(k)を乗算され、その結果の信号が加算器53に入力される。
加算器53は、3個の乗算器52−0〜52−2から入力された信号を加算(合成)し、当該加算結果の信号を出力信号y(k)として出力する。この信号y(k)は、シンボル判定部71及び加算器74に入力される。
【0044】
シンボル判定部71は、加算器53から入力された信号y(k)についてシンボルを判定し、判定したシンボルの信号を出力する。
参照信号部72は、例えば、予め、トレーニングに用いられる所定のシンボルに等しい参照信号をメモリ等に記憶しており、その参照信号を出力する。
スイッチ73は、例えば制御部19により制御され、シンボル判定部71からのシンボルの信号を所望信号d(k)として選択して加算器74へ出力する状態と、参照信号部72からの参照信号を所望信号d(k)として選択して加算器74へ出力する状態を切り換える。
加算器74は、スイッチ73からの所望信号d(k)から、加算器73からの出力信号y(k)を減算し、当該減算結果の信号(等化誤差信号)e(k){=d(k)−y(k)}を係数更新部64へ出力する。
【0045】
係数更新部64は、入力信号x0(k),x1(k),x2(k)や、等化誤差信号e(k)や、各レジスタ61−0〜61−2から出力される等化係数w0(k),w1(k),w2(k)を入力し、所定の係数更新アルゴリズムに従って、更新後の等化係数w0(k+1),w1(k+1),w2(k+1)を算出して各選択部62−0〜62−2へ出力する。具体的には、第1の選択部62−0には等化係数w0(k+1)が出力され、第2の選択部62−1には等化係数w1(k+1)が出力され、第3の選択部62−2には等化係数w2(k+1)が出力される。
なお、ここでは、入力情報の時刻kに対して出力情報の時刻(k+1)を用いて表したが、次の時刻における処理においては、この時刻(k+1)が再び時刻kとして扱われるとみなす。
【0046】
各調整部63−0〜63−2は、それぞれ、各レジスタ61−0〜61−2から出力される等化係数w0(k),w1(k),w2(k)を入力し、調整を行って、調整済みの等化係数を各選択部62−0〜62−2へ出力する。具体的には、第1の調整部63−0は等化係数w0(k)を入力して調整後に出力し、第2の調整部63−1は等化係数w1(k)を入力して調整後に出力し、第3の調整部63−2は等化係数w1(k)を入力して調整後に出力する。
また、各調整部63−0〜63−2は、例えば、制御部19から入力される所定の制御信号(制御_A)により制御される。
【0047】
各選択部62−0〜62−2は、それぞれ、係数更新部64からの更新後の等化係数w0(k+1),w1(k+1),w2(k+1){ここでは、時刻(k+1)を再び時刻kとみなして、等化係数w0(k),w1(k),w2(k)と考える。}と、各調整部63−0〜63−2からの調整済みの等化係数を入力して、いずれか一方を選択して各レジスタ61−0〜61−2へ出力する。具体的には、第1の選択部62−0は等化係数w0(k)に関する入力及び出力を行い、第2の選択部62−1は等化係数w1(k)に関する入力及び出力を行い、第3の選択部62−2は等化係数w2(k)に関する入力及び出力を行う。
また、各選択部62−0〜62−2は、例えば、制御部19から入力される所定の制御信号(制御_B)により制御される。
【0048】
ここで、本例に係る第2の送受信装置(A点側)では、各選択部62−0〜62−2は、第1の送受信装置(B点側)において送信系が切り換えられることに同期して、各選択部62−0〜62−2からの調整済みの等化係数を選択して各レジスタ61−0〜61−2へ出力し、また、送信系が切り換えられないときには、係数更新部64からの更新後の等化係数を選択して各レジスタ61−0〜61−2へ出力するように、制御される。これにより、第1の送受信装置(B点側)において送信系が切り換えられることに同期して、第2の送受信装置(A点側)における等化係数wn(k)が初期化される。
【0049】
各レジスタ61−0〜61−2は、それぞれ、各選択部62−0〜62−2から入力された等化係数w0(k),w1(k),w2(k)を各乗算器52−0〜52−2へ出力するとともに、各調整部63−0〜63−2及び係数更新部64へ出力する。具体的には、第1のレジスタ61−0は等化係数w0(k)を処理し、第2のレジスタ61−1は等化係数w1(k)を処理し、第3のレジスタ61−2は等化係数w2(k)を処理する。
【0050】
図10には、調整部63−0内の内部の構成例を示してある。なお、他の調整部63−1,63−2についても同様である。
本例の調整部63−0は、実数部抽出部81、虚数部抽出部82、−1部83、乗算器84、0部85、選択器86、複素数化部87を備えている。
【0051】
本例の調整部63−0において行われる動作の例を示す。なお、他の調整部63−1,63−2についても同様である。
レジスタ61−0から出力された等化係数wn(k)(調整部63−0については、w0(k))が、実数部抽出部81及び虚数部抽出部82に入力される。
実数部抽出部81は、入力された等化係数wn(k)の実数部を抽出して複素数化部87へ出力する。
虚数部抽出部82は、入力された等化係数wn(k)の虚数部を抽出して乗算器84へ出力する。
【0052】
−1部83は、−1の値の信号を乗算器84へ出力する。
乗算器84は、虚数部抽出部82からの虚数部の信号と−1部83からの−1の信号を乗算し、当該乗算結果(−1×虚数部)の信号を選択器86へ出力する。
0部85は、0の値の信号を選択器86へ出力する。
【0053】
選択器86は、乗算器85からの信号を選択して複素数化部87へ出力する状態と、0部85からの信号を選択して複素数化部87へ出力する状態を切り換える。
また、選択器86は、例えば、制御部19から入力される調整方法制御のための所定の制御信号(制御_A)により制御される。
【0054】
複素数化部87は、実数抽出部81から入力された実数部の信号と、選択器56から入力された虚数部に関する信号に基づいて、これらの値からなる複素数を生成して、その信号を調整済みの等化係数wn(k)(調整部63−0については、w0(k))として選択部(調整部63−0については、選択部62−0)へ出力する。
【0055】
ここで、選択器86により乗算器84からの信号(−1×虚数部)が選択された場合には、複素数化部87は、調整部63−0に入力された等化係数wn(k)の虚数部の正負(±)を反転させたものを調整済みの等化係数wn(k)として出力する。
また、選択器86により0部55からの信号(0)が選択された場合には、複素数化部87は、調整部63−0に入力された等化係数wn(k)の虚数部を0としたもの(実数部のみ)を調整済みの等化係数wn(k)として出力する。
【0056】
以下、本例では、選択器86により乗算器84からの信号(−1×虚数部)が選択された場合について説明する。
実際に第1の送受信装置(B点側)における送信系の切り換えタイミングに同期して、それまでに収束した1つ又は複数の等化係数wn(k)に対して、虚数部の符号を反転することにより、各等化係数の複素共役を求め、その値(調整済みの等化係数)によりそれぞれの等化係数wn(k)を初期化する。なお、第1の送受信装置(B点側)における送信系の切り換え以外の場合では、所定の係数更新アルゴリズムに基づいて、等化係数wn(k)の更新処理を行う。
【0057】
ここで、第1の送受信装置(B点側)における送信系の切り換え時における等化係数wn(k)の初期値として複素共役を求める理由は、本例のような逆相関アンテナの選択ダイバーシティを実施する場合、逆相関関係にある2つのアンテナの受信信号の変調波スペクトラム(振幅特性)が、図6(a)〜(h)に示されるような関係になることに基づく。
【0058】
図6(a)〜(h)には、直接波と反射波のキャリア位相差別、つまり、直接波のキャリアの位相を0とした場合における、反射波(遅延波)のキャリア位相別の変調波スペクトラムの例を示してある。
図6(a)〜(d)は、基準側の受信系について示してあり、それぞれ、0度(同相加算)、+90度、180度(逆相加算)、−90度(+270度)である場合を示している。また、図6(e)〜(h)は、逆相関側の受信系について示してあり、それぞれ、180度(逆相加算)、−90度(+270度)、0度(同相加算)、+90度である場合を示している。また、図6(a)〜(d)と図6(e)〜(h)が、それぞれ、対応している。
図6(a)〜(h)の各グラフでは、横軸は周波数を表しており、縦軸は振幅を表している。
図6(a)〜(h)は第1の送受信装置側における受信信号のスペクトラムであるが、上述の通り、本例の無線通信システムにおいては、同一のアンテナで行う送信と受信の伝搬路が実質的に同一であるため、各アンテナから送信されて第2の送受信装置側において受信される信号も、それぞれ図6と同様の変調波スペクトラムを有する。
【0059】
ここで、図6に示す様に、逆相関アンテナの各アンテナの変調波スペクトラムは、一定の相関関係を有している。特に、本例において、各受信系の受信レベルに基づいて受信系及び送信系の切り換えが行われると想定されるタイミングは、例えば、(+90度から−90度になる場合)又は(−90度から+90度になる場合)である。この場合における反射波の変調波スペクトラムは、左右対称、つまり、DC成分を中心に左右反転させた特性になる。これは、一方のアンテナ側の伝搬路特性を補償するために求めた等化係数であれば、その複素共役が、もう一方のアンテナ側の伝搬路特性を補償できることを意味している。
なお、上記では変調波スペクトラムの振幅特性の関係に基づいて説明したが、逆相関関係にある2つのアンテナを用いることにより、位相特性についても、複素共役を用いてアンテナ切り換え後の伝搬路特性を補償できる条件を満たすことができる。
本例のような等化係数の初期化を実行することにより、アンテナの切り換え時に、異なる伝搬路特性への追加的な追従時間が不要になり、切り換え時における通信品質を維持することができる。
【0060】
次に、本例のような逆相関アンテナの選択ダイバーシティにおける等化係数の初期化に関し、効率的な適用条件について説明する。
まず、アンテナ切り換え時における各変調波スペクトラムが、左右対称になることが必要である。より具体的には、各変調波スペクトラムに示される周波数特性のうち、振幅特性に関しては、中心周波数を反転軸にしたとき、一方がもう一方を反転したものと同じになることが必要である。なお、位相特性に関しては、左右反転した後、位相自体の符号反転も必要となる。
これが満たされているという前提があるならば、直接波に対する反射波の遅延が大きくなるほど、効果が顕著になる。但し、この遅延があまりに大きくなりすぎると、ダイバーシティとは無関係な期間の受信品質に影響が出てくる。このため、このような影響が無視できる範囲あれば、遅延が大きいほど、本例の効果がはっきりわかるということである。
【0061】
前記のような遅延時間の大小は、装置設置距離とアンテナ設置高との関係で決まる。
例えば、距離が離れていても、アンテナ設置高が低ければ、直接波のパス長と反射波のパス長との差は、大きくならない。
反対に、距離が離れていなくても、アンテナ設置高が高ければ、直接波のパス長と反射波のパス長との差が、大きくなる。
【0062】
また、例えば、対向するアンテナが固定されており且つ伝搬路が海越えのような環境下では、直接波と反射波との関係が比較的単純であり、ダイバーシティアンテナ間における直接波と反射波との位相差の関係が凡そλ/2に保たれるため、本例の効果は大きい。
また、本例では、アンテナ切り換えを行うため、例えば、FDD(Frequency Division Duplexing)方式よりも、TDD方式に適合的な構成である。
【0063】
以上のように、本例の無線通信システムでは、第1の送受信装置(B点側)において、基準アンテナ(例えば、アンテナb−1)と、基準アンテナに対して逆相関の関係になるように配置された逆相関アンテナ(例えば、アンテナb−2)を使用し、また、基準アンテナ及び逆相関アンテナの受信レベルを検出(観測)し、各々のレベルの比較に基づいて使用すべき送信系を決定し、送信系の切り換えタイミングを第2の送受信装置(A点側)に通知し、当該通知した切り換えタイミングに同期した送信系切り換えを実施する。そして、第2の送受信装置(A点側)おいて、通知された切り換えタイミングに同期して、切り換え前の等化係数に基づいて、等化係数を初期化する。これにより、第1の送受信装置(B点側)における送信アンテナ(送信系)の切り換えに起因する、第2の送受信装置(A点側)における等化係数の再収束のための所要時間を短縮することを可能とする。
【0064】
また、本例の無線通信システムでは、初期化用の等化係数を求める方法として、切り換え時における等化係数の初期値を、切り換え直前における等化係数の複素共役とする。このように、本例では、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して等化係数を初期化する場合に、アンテナ切り換え直前における等化係数の収束値に基づいて、各々の係数の複素共役を算出し、これを初期値として使用する。
【0065】
従って、本例の無線通信システムでは、現在のアンテナから逆相関の関係にあるアンテナへ送信系を切り換えるときに、送信アンテナ(送信系)の切り換えに伴って発生する切り換え実行直後に必要な等化係数再収束のための所要時間を短縮することができる。本例では、送信アンテナ(送信系)の切り換え直後の等化係数再収束処理について、切り換え直前の等化係数の複素共役を求め、これを等化係数再収束処理の開始時点における等化係数の初期値とする。
【0066】
このように、本例では、逆相関関係にある2つのアンテナを受信状況に応じて選択的に切り換えて送信に用いるアンテナ選択ダイバーシティ技術において、特に、送受信間で海越えを行うような環境下において、送信アンテナ(送信系)の切り換え時における等化係数の収束時間を効果的に短縮することができる。
【0067】
(第2実施例)
等化係数の初期化の第2実施例を説明する。
上記した第1実施例では、B点(第1の送受信装置)における送信系の切り換えタイミングに同期して実行する等化係数の初期値の算出として、直前までの等化係数の収束値の複素共役を求める場合を示した。これに対して、本例では、送信系の切り換えタイミングに同期して実行する等化係数の初期値の算出として、直前までの等化係数の収束値の実数部だけを使用する場合を示す。なお、本例では、実数部だけを使うということと、虚数部を0にするということとは、同じ意味である。
【0068】
以下、本例では、図10に示される調整部の選択器86により0部85からの信号(0)が選択された場合について説明する。
本例のように、選択器86により0部85からの信号(0)が選択された場合には、複素数化部87は、調整部に入力された等化係数wn(k)の虚数部を0としたもの(実数部のみ)を調整済みの等化係数wn(k)として出力する。
【0069】
各々のアンテナでの受信レベル推移において理想的な逆相関が成立するときには、一方の伝搬路特性を補償するための係数の複素共役は、もう一方のための係数そのものになる。そして、その係数の虚数部を0にした状態は、複素共役を求める前の係数と求めた後の係数との平均値ととらえることができる。従って、周波数特性としては、各々から同程度異なった特性になる。
【0070】
以上のように、本例の無線通信システムでは、第2の送受信装置(A点側)における初期化用の等化係数を求める方法として、切り換え時における等化係数の初期値を、切り換え直前における等化係数の実数部をそのままとし虚数部を0化して求めた値とする。このように、本例では、送信アンテナ(送信系)の切り換えタイミングに同期して、等化係数を初期化する場合に、切り換え直前における等化係数の収束値に基づいて、各々の係数の虚数部を0とし、これを初期値として使用する。
【0071】
従って、本例の無線通信システムでは、送信アンテナ(送信系)の切り換え時に、異なる伝搬路特性への追加的な追従時間を短縮することができ、切り換え時における通信品質を維持することができる。更に、例えば、海面変動が大きくなり、逆相関の関係が理想的でなくなったような場合においても、等化係数再収束処理の所要時間の短縮効果を維持することが可能である。
【0072】
(第3実施例)
等化係数の初期化の第3実施例を説明する。
上記した第1実施例や第2実施例では、第2の送受信装置(A点側)において、B点(第1の送受信装置)における送信系の切り換えタイミングに同期して、切り換え前の送信アンテナから送信された信号の受信結果(受信信号)に基づいて適応的に収束された等化係数とは異なる等化係数を設定する(異なる等化係数へ変更する)ことにより、切り換え後の送信アンテナから送信された信号の受信結果(受信信号)に対する等化係数の収束時間を短縮する例を示した。
ここで、このような異なる等化係数(送信系の切り換え後における等化係数の初期値)としては、上記した第1実施例や第2実施例に示したものに限られず、種々なものが用いられてもよい。
本例では、これについて説明する。
【0073】
上記した第1実施例では、送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数の複素共役を初期値として使用する例を示したが、必ずしも厳密に複素共役である必要はなく、複素共役以外についても、送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数に基づいて送信系切り換え後の収束が短縮される係数を与えることにより、等化係数の収束時間を短縮できる場合が考えられる。このような例として、受信スペクトラムの解析結果と送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数に基づいて新たな等化係数を与えることなどが考えられる。
【0074】
また、このような例として、上記した第2実施例では、送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数の実数部をそのままとして虚数部を0としたものを初期値として使用する例を示した。
また、上記した第2実施例の変形例として、例えば、送信系の切り換えタイミングの直前における等化係数について虚数部に0を使用する一方で、実数部には直前までの収束値の実数部ではなく0や1或いは他の予め定められた値を使用したものを初期値とするような構成が実施されてもよい。このような変形例に係る初期値を使用しても、収束の所要時間の短縮効果が得られることが期待される。なお、この実数部として、0や1以外の値を使用する場合には、例えば、アンテナ特性等に応じて適切な初期値を設定するようなことが可能である。
【0075】
以上のように、送信系の切り換え時における等化係数の初期値としては、種々な値が用いられてもよい。
一構成例として、第1の送受信装置(送信側の装置)は、逆相関関係にある2つの送信アンテナを備え、送信アンテナの切り換えタイミングを第2の送受信装置(受信側の装置)に通知した後に送信アンテナの切り換えを行い、第2の送受信装置は、前記2つの送信アンテナに対向する1つの受信アンテナと1つの適応等化器を備え、第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、切り換え前後の送信アンテナ間の関係(逆相関関係)を利用して適応等化器の等化係数を変更する。変更後の等化係数は、例えば、変更前(送信アンテナの切り換え直前)の等化係数に対して逆相関関係を利用した演算により求められる。
【0076】
一構成例として、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して変更される等化係数としては、送信アンテナの切り換えタイミング時(例えば、直前)の等化係数に基づいて与えられる。すなわち、送信アンテナが切り換えが行われるタイミングにおける等化係数に基づいて、変更後の等化係数を決定する。
一構成例として、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して変更される等化係数としては、送信アンテナの切り換えタイミング時(例えば、直前)の複素共役が与えられる。すなわち、送信アンテナが切り換えが行われるタイミングにおける等化係数の複素共役を、変更後の等化係数として決定する。
一構成例として、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して変更される等化係数としては、実数部として送信アンテナの切り換えタイミング時(例えば、直前)の等化係数の実数部が与えられ、虚数部として0が与えられる。すなわち、すなわち、送信アンテナが切り換えが行われるタイミングにおける等化係数の実数部をそのままとして虚数部を0としたものを、変更後の等化係数として決定する。
一構成例として、送信アンテナの切り換えタイミングに同期して変更される等化係数としては、予め定められた値(初期値)が与えられる。すなわち、変更後の等化係数として、予め設定された値を用いる。
【0077】
以上の説明では、2つの送信系を切り換える構成例を示したが、3つ以上の送信系を切り換える構成を実施することも可能である。すなわち、一構成例として、第1の送受信装置(送信側の装置)は、所定の相関関係を有する3つ以上の送信アンテナを備え、送信アンテナの切り換えタイミングを第2の送受信装置(受信側の装置)に通知した後に送信アンテナの切り換えを行い、第2の送受信装置は、前記3つ以上の送信アンテナに対向する1つの受信アンテナと1つの適応等化器を備え、第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、切り換え前後の送信アンテナ間の関係(所定の相関関係)を利用して適応等化器の等化係数を変更する。変更後の等化係数は、例えば、変更前(送信アンテナの切り換え直前)の等化係数に対して所定の相関関係を利用した演算により求められる。
このような構成においても、例えば、所定の相関関係を有する3つ以上のアンテナを用いた送信ダイバーシティで、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
ここで、上記3つ以上の送信アンテナは、例えば、2つの送信アンテナを切り換える構成例と同様、各アンテナにおける受信レベルの推移が相関関係を有するように設置、構成される。つまり、例えば3つの送信アンテナの場合には、各アンテナが受信する直接波と反射波のキャリア位相差がそれぞれ120°ずつ異なるように設置、構成され、第1の送受信装置、及び第2の送受信装置のいずれにおいても受信レベルを一定以上に保つことが可能になる。
【0078】
更に一般的には、n本のアンテナ(n>=2)で、各アンテナ間の特定の相関を利用したアンテナ切り替えを行うことも可能である。
n本のアンテナで、任意のタイミングで、直接波の位相と遅延波の位相との差を求めたとき、各々が、以下のように表せればよい。
【数1】
なお、kは0〜n−1の整数であり、φ0は任意の定数である。
【0079】
ここで、例えば上述の実施例のように、n=2(アンテナが2本)の場合、任意のタイミングにおける直接波の位相と遅延波の位相との差はそれぞれ以下の値となる。なお、φ0は任意なので、以降、簡単のためφ0=0とする。
【数2】
この場合、“特定の相関”は“逆相関”、つまりそれぞれのアンテナにおける直接波の位相と遅延波の位相との差が180°の関係となる。
【0080】
また、n=3(アンテナが3本)の場合、任意のタイミングにおける直接波の位相と遅延波の位相との差はそれぞれ以下の値となる。
【数3】
この場合は、“特定の相関”は“逆相関”ではなく、それぞれのアンテナにおける直接波の位相と遅延波の位相との差が互いに120°の関係となる。このように、n本のアンテナ(n>=2)についても、同様に切り替えが可能な関係になるアンテナの組み合わせは存在する。
【0081】
図7、図8は、n=3(アンテナが3本)の場合における受信レベルの相互関係、及び、スペクトラムの相互関係を示してある。
本例では、基準となる第1アンテナと、第1アンテナに対して120度の位相差を持たせた第2アンテナと、第1アンテナに対して240度の位相差を持たせた第3アンテナの各々についての受信レベルが、図7のような相互関係を有するように設定してある。この場合、各アンテナについての直接波と反射波のキャリア位相差別の変調スペクトラムは、図8のような相互関係を有する。なお、図7のグラフでは、横軸は直接波と反射波のキャリア位相差を表しており、縦軸は相対レベルを表している。また、図8のグラフでは、横軸は周波数を表しており、縦軸は振幅を表している。
【0082】
このような相互関係を有する第1〜第3アンテナを設けた構成では、第2アンテナの受信レベルが最小となるタイミング(b)で第1アンテナの受信レベルと第3アンテナの受信レベルが逆転する(第3アンテナの方が大きくなる)ので、タイミング(b)で第1アンテナから第3アンテナへの切り換えを行う。同様に、第1アンテナの受信レベルが最小となるタイミング(d)で第3アンテナの受信レベルと第2アンテナの受信レベルが逆転する(第2アンテナの方が大きくなる)ので、タイミング(d)で第3アンテナから第2アンテナへの切り換えを行い、第3アンテナの受信レベルが最小となるタイミング(f)で第2アンテナの受信レベルと第1アンテナの受信レベルが逆転する(第1アンテナの方が大きくなる)ので、タイミング(f)で第2アンテナから第1アンテナへの切り換えを行う。
【0083】
また、以上の説明では、第1の送受信装置(送信側)の複数の送信アンテナについて、切り換え前後の送信アンテナ間の関係(所定の相関関係)の好適な例として、信号レベルの推移が図13、図14や図7に示す関係となる場合を示したが、本発明はこれに限られるものではない。上述の実施例では、第1の送受信装置の各受信系における受信レベルに基づいて送信系の切り換えを行うが、各受信系における受信レベルに拠らず、送信系の切り換え前後の各送信系の伝搬路特性に所定の相関関係がある場合(例えば、複数の送信アンテナから送信される信号の変調波スペクトラム(周波数特性)が図6に示す様な関係となるように当該複数の送信アンテナが構成されている場合)、送信系切り換え前後の伝搬路特性の関係に基づいて第2の送受信装置における適応等化器の等化係数などを最適な値に近づくように初期化(変更)することができる。
これにより、上述の実施例と同様に、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0084】
また、以上の説明では、第1の送受信装置は、信号の送信及び受信に共用する2つ又は3つの共用アンテナを備え、各共用アンテナにより受信した信号に基づいて、信号の送信に用いるアンテナを選択的に切り換えているが、他の手法により、信号の送信に用いるアンテナを選択するようにしてもよい。すなわち、例えば、第1の送受信装置は、信号の送信に用いる2つの送信アンテナと信号の受信に用いる1つの受信アンテナを備え、各送信アンテナから送信した信号に係る情報を受信アンテナにより第2の送受信装置から受信し、当該情報に基づいて送信アンテナを選択的に切り換えるようにしてもよい。
【0085】
本明細書の記載事項には、少なくとも次の発明が含まれる。
すなわち、第1の発明は、互いに信号の送受信を行う第1の送受信装置と第2の送受信装置とを有する無線通信システムにおいて、前記第1の送受信装置は、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有する複数のアンテナと、前記第2の送受信装置における特定のアンテナから送信されて前記複数のアンテナによりそれぞれ受信される信号の受信レベルに基づいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記第2の受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記第2の送受信装置は、前記第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定のアンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、ことを特徴とする無線通信システムである。
当該第1の発明によれば、第1の送受信装置では、受信される信号の受信レベルに基づいて、第2の送受信装置へ信号を送信するアンテナを複数のアンテナのいずれかに切り換えることで、常に信号の送信に最適なアンテナにより信号を送信することができるとともに、第2の送受信装置では、第1の送受信装置における信号を送信するアンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、第1の送受信装置の複数のアンテナは、第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有しており、当該受信レベルに基づいて信号の送信に用いるアンテナの切り換えを行うことから、当該複数のアンテナの各受信レベルが相関関係を有し、当該受信レベルに基づいて信号の送信に用いるアンテナの切り換えを行うという条件に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができるので、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0086】
第2の発明は、上記第1の発明に記載の無線通信システムにおいて、前記第1の送受信装置は2つのアンテナを備え、当該2つのアンテナは、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに逆相関となる関係を有することを特徴とする無線通信システムである。
当該第2の発明によれば、上記第1の発明に対して、前記第1の送受信装置が備える2つのアンテナが、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに逆相関となる関係を有しているため、特に、当該2つのアンテナは各受信レベルが逆相関関係を有するという条件に基づいて、等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0087】
第3の発明は、対向する送信装置と受信装置を有する無線通信システムにおいて、前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、ことを特徴とする無線通信システムである。
当該第3の発明によれば、受信装置では、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性が所定の相関関係を有しているため、当該相関関係を考慮して、等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
前記送信装置の複数の送信アンテナが有する伝搬路特性の相関関係としては、例えば、複数の送信アンテナから送信される信号の変調波スペクトラム(周波数特性)が、図6に示す様な関係や、図7,図8に示す様な関係が考えられる。
【0088】
なお、上記第1〜第3の発明における、送信アンテナ切換手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、タイミング管理部30、レベル測定/比較部31、制御部32、送信系選択部24などにより構成される。また、タイミング通知手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、タイミング管理部30、制御部32、及び、信号を送信する機能に関する各構成(ENC部21、送信ベースバンド部22、送信RF部23、アンテナb、等)などにより構成される。また、等化係数変更手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、タイミング管理部18、制御部19、受信ベースバンド部16に設けられる適応等化器(図9)などにより構成される。
【0089】
第4の発明は、対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおいて、前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号に対する処理に関するパラメータを変更するパラメータ変更手段を備えた、ことを特徴とする無線通信システムである。
当該第4の発明によれば、受信装置では、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、受信信号に対する処理に関するパラメータの変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性(例えば、変調波スペクトラム等)が所定の相関関係を有しているため、受信信号に対する処理に関するパラメータの変更時に、当該相関関係を考慮したパラメータを設定することができ、送信系の切り換えに起因するパラメータの変更において当該パラメータを最適値に近づけることが可能である。
【0090】
なお、上記第4の発明における、パラメータ変更手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、タイミング管理部18、制御部19、受信ベースバンド部16に設けられる適応等化器(図9)などにより構成される。
【0091】
第5の発明は、対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおける前記送信装置であって、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備えたことを特徴とする送信装置である。
当該第5の発明によれば、送信装置が送信アンテナの切り換えタイミングを事前に受信装置へ通知し、受信装置は当該タイミングを事前に把握することができる。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性(例えば、変調波スペクトラム等)が所定の相関関係を有しているため、受信装置は、例えば受信信号の等化処理に用いる等化係数を、当該切り換えタイミングに同期して、当該相関関係に基づいた値に変更(初期化)することが可能である。これにより、送信装置における送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善されるとともに、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0092】
第6の発明は、特定の受信アンテナにより信号を受信する受信装置と、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナを備え、前記受信装置の特定の受信アンテナに信号を送信するアンテナを前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換えて信号を送信する送信装置と、を有する無線通信システムにおける前記受信装置であって、前記受信装置は、前記送信装置から前記複数の送信アンテナを切り換えるタイミングを通知する信号を受信し、受信した信号に基づき前記送信アンテナの切り換えタイミングを取得する切り換えタイミング取得手段と、前記切り換えタイミング取得手段により取得される切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、ことを特徴とする受信装置である。
当該第6の発明によれば、受信装置は、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性(例えば、変調波スペクトラム等)が所定の相関関係を有しているため、当該相関関係に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0093】
なお、上記第6の発明における、切り換えタイミング取得手段は、例えば上述の実施形態(図1)においては、アンテナa、受信RF部15、受信ベースバンド部16、DEC17、制御部19などにより構成される。
【0094】
第7の発明は、特定の受信アンテナにより信号を受信する受信装置と、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナを備え、前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換えて前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信する送信装置と、を有する無線通信システムにおける前記送信装置及び受信装置の制御方法であって、前記送信装置は、前記受信装置へ信号を送信する送信アンテナを切り換えるタイミングを前記受信装置に通知し、前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記送信装置から前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更することを特徴とする前記送信装置及び受信装置の制御方法である。
当該第7の発明によれば、受信装置は、送信装置における送信アンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、送信装置における切り換え前後の送信アンテナの伝搬路特性(例えば、変調波スペクトラム等)が所定の相関関係を有しているため、当該相関関係に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができ、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【0095】
第8の発明は、特定のアンテナにより信号を送受信する第2の送受信装置と、前記第2の送受信装置の特定のアンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数のアンテナを選択的に使用して信号を送受信する第1の送受信装置と、を有する無線通信システムにおける前記第1の送受信装置及び第2の送受信装置の制御方法であって、前記第1の送受信装置において、前記第2の送受信装置における特定のアンテナから送信されて前記複数のアンテナによりそれぞれ受信される信号の受信レベルに基づいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換えるタイミングを決定する切り換えタイミング決定ステップと、前記第1の送受信装置において、前記切り換えタイミング決定ステップで決定された送信アンテナの切り換えタイミングを前記第2の送受信装置に通知する切り換えタイミング通知ステップと、前記第2の送受信装置において、前記第1の送受信装置から通知された送信アンテナの切り換えタイミングに同期して、前記第2の送受信装置から前記特定のアンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更ステップと、を備えることを特徴とする前記第1の送受信装置及び第2の送受信装置の制御方法である。
当該第8の発明によれば、第1の送受信装置では、受信される信号の受信レベルに基づいて、第2の送受信装置へ信号を送信するアンテナを複数のアンテナのいずれかに切り換えることで、常に信号の送信に最適なアンテナにより信号を送信することができるとともに、第2の送受信装置では、第1の送受信装置における信号を送信するアンテナの切り換えタイミングを事前に把握することができ、当該切り換えタイミングに同期して、等化処理に用いる等化係数の変更(初期化)が実施されるため、送信アンテナの切り換え直後における通信品質の劣化が改善される。特に、第1の送受信装置の複数のアンテナは、第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有しており、当該受信レベルに基づいて信号の送信に用いるアンテナの切り換えを行うことから、当該複数のアンテナの各受信レベルが相関関係を有し、当該受信レベルに基づいて信号の送信に用いるアンテナの切り換えを行うという条件に基づいて等化係数変更時の係数を設定することができるので、送信系の切り換えに起因する等化係数の再収束において、その所要時間を短縮することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
11:ENC部(エンコーダ部)、 12:送信ベースバンド部、 13:送信RF部、 14:TDD−SW部(送受信切り換え部)、 15:受信RF部、 16:受信ベースバンド部、 17:DEC部(デコーダ部)、 18:タイミング管理部、 19:制御部、
21:ENC部(エンコーダ部)、 22:送信ベースバンド部、 23:送信RF部、 24:送信系選択部、 25−1,25−2:TDD−SW部(送受信切り換え部)、 26−1,26−2:受信RF部、 27:受信系選択部、 28:受信ベースバンド部、 29:DEC部(デコーダ部)、 30:タイミング管理部、 31:レベル測定/比較部、 32:制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに信号の送受信を行う第1の送受信装置と第2の送受信装置とを有する無線通信システムにおいて、
前記第1の送受信装置は、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有する複数のアンテナと、前記第2の送受信装置における特定のアンテナから送信されて前記複数のアンテナによりそれぞれ受信される信号の受信レベルに基づいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記第2の送受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、
前記第2の送受信装置は、前記第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定のアンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記第1の送受信装置は2つのアンテナを備え、当該2つのアンテナは、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに逆相関となる関係を有する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおいて、
前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、
前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおいて、
前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、
前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号に対する処理に関するパラメータを変更するパラメータ変更手段を備えた、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項1】
互いに信号の送受信を行う第1の送受信装置と第2の送受信装置とを有する無線通信システムにおいて、
前記第1の送受信装置は、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに所定の相関関係を有する複数のアンテナと、前記第2の送受信装置における特定のアンテナから送信されて前記複数のアンテナによりそれぞれ受信される信号の受信レベルに基づいて、前記第2の送受信装置の特定のアンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記第2の送受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、
前記第2の送受信装置は、前記第1の送受信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定のアンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記第1の送受信装置は2つのアンテナを備え、当該2つのアンテナは、前記第2の送受信装置の特定のアンテナから送信される信号の受信レベルが互いに逆相関となる関係を有する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおいて、
前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数の送信アンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、
前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号の等化処理に用いる等化係数を変更する等化係数変更手段を備えた、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
対向する送信装置と受信装置とを有する無線通信システムにおいて、
前記送信装置は、前記受信装置の特定の受信アンテナとの間の伝搬路特性が所定の相関関係を有する複数の送信アンテナと、前記受信装置の特定の受信アンテナへ信号を送信するアンテナを前記複数のアンテナのいずれかに切り換える送信アンテナ切換手段と、前記送信アンテナ切換手段による切り換えタイミングを前記受信装置に通知するタイミング通知手段と、を備え、
前記受信装置は、前記送信装置から通知された切り換えタイミングに同期して、前記特定の受信アンテナにより受信する信号に対する処理に関するパラメータを変更するパラメータ変更手段を備えた、
ことを特徴とする無線通信システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−34059(P2013−34059A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168299(P2011−168299)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】
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