説明

無線通信媒体及び無線読取装置

【課題】無線通信媒体の機能を外力により切替え可能とする。
【解決手段】ICカード20は、アンテナ41,42を介して供給される電力により作動しアンテナ41,42を介して記憶情報の無線送信処理を行う2つのICチップ31,32と、外力が加えられることにより配置が変化し、その配置に応じて2つのICチップ31,32のうちの1つによる記憶情報の送信処理を禁止するスライドスイッチ21とを備えている。このため、使用者は、ICカード20のスライドスイッチ21に外力を加えて配置を変化させることにより、2つのICチップ31,32のうちの1つによる送信処理を禁止させて、無線読取装置10へ送信される記憶情報の内容を変化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で供給される電力により作動して記憶情報を無線送信可能に構成された無線通信媒体及びこうした無線通信媒体との間で無線通信を行う無線読取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、非接触で供給される電力により作動して記憶情報を無線送信可能に構成された無線通信媒体との間で無線通信を行う技術(RFID:Radio Frequency Identification)が知られている。無線通信媒体としては、ICチップ及びアンテナが内蔵されたカード(いわゆるICカード)やタグ(いわゆるICタグ)等が一般に用いられており、例えば、定期券としてのICカードを自動改札機の上にかざすだけで改札を通過できるようにしたシステムが実用化されている。
【0003】
なお、上述した内容は公知・公用の技術であり、出願人は特に先行技術調査を行っていないため、先行技術文献の開示については行わない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような無線通信媒体は、一定の機能しか果たさないことから不便な場合がある。例えば、会社のゲート(出入口)に無線読取装置を設置し、社員証としてのICカードを有する者のみがゲートを通過できるようにすることで不正者の侵入を防止するシステムが実用化されているが、この無線読取装置をタイムレコーダ代わりにそのまま利用しようとすると不都合が生じる。すなわち、社員がゲートを通過するのが出勤時及び退勤時だけであれば問題ないが、実際には一時的な外出等によりゲートを通過することも考えられ、無線読取装置側ではそれを区別することができない。よって、タイムカード用のICカードを別途所持して使い分けるといった必要がある。
【0005】
このような例に限らず、従来の無線通信媒体は、一定の機能しか果たさないことから不便な場合が多い。
本発明は、こうした問題にかんがみてなされたものであり、無線通信媒体の機能を外力により切替え可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた本発明の請求項1に記載の無線通信媒体は、アンテナを介して供給される電力により作動しアンテナを介して記憶情報の無線送信処理を行う複数のICチップと、外力が加えられることにより配置状態が変化し、その配置状態に応じて複数のICチップのうちの1又は複数のICチップによる送信処理を禁止する操作部とを備えたことを特徴としている。
【0007】
なお、ここでいう配置状態の変化としては、例えば、操作部が有する操作用部材(例えば、レバー、つまみ、ボタン等)を移動(スライド移動や回転移動)させることによる位置の変化、操作用部材を回転させることによる向きの変化、操作用部材を押圧することによる形状の変化などが挙げられる。ここで、配置状態は1つの操作用部材のみの状態に限定されるものではなく、複数の操作用部材の状態であってもよい。例えば、2つの操作用部材を有する場合、一方の操作用部材の状態が同じであっても、他方の操作用部材の状態が異なっていれば、全体として異なる配置状態と考えることができる。
【0008】
このような構成の無線通信媒体によれば、使用者は、操作部に外力を加えてその配置状態を変化させることにより、複数のICチップのうちの1又は複数のICチップによる送信処理を禁止させて、送信される記憶情報の内容を変化させることができる。このため、無線通信媒体から記憶情報を受信する無線読取装置は、無線通信媒体の存在を検出するだけでなく、その無線通信媒体の操作部の配置状態についても判断することが可能となる。この結果、無線通信媒体の機能(換言すれば、無線読取装置で行われる処理の内容)を外力により切り替えることが可能となる。
【0009】
ここで、操作部は、具体的には例えば請求項2又は請求項3に記載のように構成することができる。
すなわち、請求項2に記載の無線通信媒体は、上記請求項1に記載の無線通信媒体において、操作部が、外力が加えられることにより配置状態が変化し、外力が解放されると元の配置状態に戻るように構成されていることを特徴としている。このような構成の無線通信媒体によれば、使用者は、無線通信媒体を使用する際(無線通信媒体の記憶情報を無線読取装置に読み取らせる際)に、操作部に外力を加えることによって無線通信媒体の機能を切り替えることが可能となる。
【0010】
また、請求項3に記載の無線通信媒体は、上記請求項1に記載の無線通信媒体において、操作部が、外力が加えられることにより配置状態が変化し、外力が解放されてもその配置状態が維持されるように構成されていることを特徴としている。
【0011】
このような構成の無線通信媒体によれば、使用者は、無線通信媒体を使用する前(無線通信媒体の記憶情報を無線読取装置に読み取らせる前)に、あらかじめ操作部の配置状態を設定しておくことで、無線通信媒体の機能を切り替えることが可能となる。このため、RFIDを利用したシステムの最大の特徴である読み取り操作の手軽さを損なうことなく、無線通信媒体の機能を外力により切り替えることが可能となる。すなわち、RFIDを利用したシステム、例えばICカードの定期券による自動改札システムは、磁気カードの定期券による自動改札システムに比べ、カードを挿入口に挿入するといった正確な操作を行う必要がなく、また、定期入れ等に入れたままカードを使用することが可能となる等、カードを読み取らせる操作が格段に容易となる。本請求項3の無線通信媒体は、このようなカードを読み取らせる操作の手軽さを損なわせることなく、外力による機能の切替えが可能となる点で特に優れている。
【0012】
ところで、ICチップによる送信処理を禁止する具体的な構成としては、例えば請求項4に記載の構成が挙げられる。
すなわち、請求項4に記載の無線通信媒体は、上記請求項1〜3のいずれかに記載の無線通信媒体において、操作部が、その配置状態に応じてICチップとアンテナとの間の電流経路を遮断することにより、そのICチップによる送信処理を禁止することを特徴としている。
【0013】
この構成によれば、従来から用いられているICチップやアンテナをそのまま利用して構成しつつ、ICチップによる送信処理の一時的な禁止を実現することが可能となる。
一方、無線通信媒体に設けるアンテナの数は、例えば、ICチップの数と同数にしてもよく、また、ICチップの数よりも少なくしてもよい。具体的には、例えば請求項5又は請求項6に記載のように構成することができる。
【0014】
すなわち、請求項5に記載の無線通信媒体は、上記請求項1〜4のいずれかに記載の無線通信媒体において、アンテナは、複数のICチップにより共用されることを特徴としている。
【0015】
つまり、アンテナの数をICチップの数よりも少なくするのである。例えば、3つのICチップと1つのアンテナとを備えた構成とすることが考えられる。
このような請求項5に記載の無線通信媒体によれば、低コスト化や小型化を図ることができる。
【0016】
また、請求項6に記載の無線通信媒体は、上記請求項1〜4のいずれかに記載の無線通信媒体において、アンテナは、複数のICチップのそれぞれに対応して複数設けられていることを特徴としている。
【0017】
つまり、アンテナの数をICチップの数と同じにするのである。例えば、3つのICチップと3つのアンテナとを備えた構成とすることが考えられる。
このような請求項6に記載の無線通信媒体によれば、各ICチップへの電力供給等を安定的に行うことができる。
【0018】
ここで、請求項7に記載の無線通信媒体は、上記請求項6に記載の無線通信媒体において、操作部の配置状態には、送信処理を禁止しないICチップ(送信処理が可能なICチップ)を同時に2以上存在させる状態が含まれていることを特徴としている。
【0019】
このような構成によれば、送信処理が可能なICチップを同時に2以上存在させない構成に比べ、送信する記憶情報のパターンを多くすることができる。すなわち、例えば3つのICチップA,B,Cを備えている場合、送信処理が可能なICチップを同時に2以上存在させない構成では、送信する記憶情報のパターンとしては、Aの記憶情報のみ、Bの記憶情報のみ、Cの記憶情報のみ、の3つのパターンしか存在しない。これに対し、送信処理が可能なICチップを同時に2以上存在させる状態が含まれる構成では、送信する記憶情報のパターンとしては、上記3つのパターンに加え、A及びBの記憶情報、A及びCの記憶情報、B及びCの記憶情報、A,B及びCの記憶情報といったパターンも存在する。
【0020】
したがって、送信する記憶情報のパターンをできる限り多くするには、請求項8に記載のように構成することが特に好ましい。
すなわち、請求項8に記載の無線通信媒体は、上記請求項7に記載の無線通信媒体において、操作部の配置状態には、送信処理を禁止しないICチップ(送信処理が可能なICチップ)を少なくとも1つ存在させる2N−1とおりの状態(「N」はICチップの総数)が含まれていることを特徴としている。
【0021】
このような構成によれば、送信する記憶情報のパターンをできるだけ多くすることができる。例えば、8つのICチップを備えている場合、送信処理が可能なICチップを同時に2以上存在させない構成では、送信する記憶情報のパターンは8つであるが、請求項8の無線通信媒体によれば、255とおりのパターンで記憶情報を送信することができる。
【0022】
一方、ICチップによる送信処理を禁止する構成としては、例えば請求項9に記載の構成も挙げられる。
すなわち、請求項9に記載の無線通信媒体は、上記請求項7又は8に記載の無線通信媒体において、操作部は、その配置状態に応じて複数のアンテナのうちの一部を導電体(例えば鉄や銅などの金属体)で覆うことにより、そのアンテナに対応するICチップによる送信処理を禁止することを特徴としている。
【0023】
このような構成によっても、請求項4に記載の無線通信媒体と同様、ICチップによる送信処理を一時的に禁止することが可能となる。特に請求項9に記載の無線通信媒体によれば、電流経路を遮断する構成を設ける必要がないため、電気抵抗の増大を防ぐことができる。
【0024】
次に、請求項10に記載の無線読取装置は、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の無線通信媒体から記憶情報を受信する無線受信処理を行う受信手段と、受信手段により受信された記憶情報に基づき、無線通信媒体が備えるICチップによる送信処理の禁止状態を判断する判断手段とを備えたことを特徴としている。
【0025】
なお、ここでいう禁止状態とは、どのICチップ(又は、いくつ(何個)のICチップ)の送信処理が禁止されているか、換言すれば、どのICチップ(又は、いくつ(何個)のICチップ)が送信処理可能であるかという状態である。さらに別の言い方をすれば、操作部の配置状態である。
【0026】
このような構成の無線読取装置によれば、上記請求項1〜9のいずれかの無線通信媒体とシステムを構築することにより、無線通信媒体の機能を外力により切り替えることが可能となる。
【0027】
また、請求項11に記載の無線読取装置は、上記請求項10に記載の無線読取装置において、判断手段は、禁止状態として、送信処理を禁止しないICチップ(送信処理が可能なICチップ)が同時に2以上存在する状態も判断することを特徴としている。
【0028】
このような構成の無線読取装置によれば、判断可能な記憶情報のパターン(無線通信媒体の操作部の配置状態のパターン)を多くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の無線通信システムの概略構成を表すブロック図である。
【0030】
同図に示すように、この無線通信システムは、無線読取装置10と、無線通信媒体(本実施形態ではICカード)20とを備えている。
無線読取装置10は、アンテナ11と、制御部12とを備えている。
【0031】
制御部12は、CPU13、ROM14、RAM15等からなるマイクロコンピュータを中心に構成されている。そして、制御部12は、当該無線読取装置10から所定の通信距離の範囲内(通信可能範囲内)に存在するICカード20との間で、アンテナ11を介した無線通信処理を行う。なお、本実施形態の無線読取装置10は、通信可能範囲内に複数の通信対象(具体的にはICチップ)が存在していても各通信対象と通信可能な機能(アンチコリジョン機能)を有している。
【0032】
一方、図2は、ICカード20の構成を説明するための説明図であり、(A)は外観を表す模式図、(B)は内部構成を表す模式図である。
同図に示すように、ICカード20は、2つのICチップ(第1ICチップ31及び第2ICチップ32)と、2つのアンテナ(第1アンテナ41及び第2アンテナ42)と、スライドスイッチ21(使用者が指で矢印X1,X2方向へスライド操作可能なつまみを有するもの)とを備えている。
【0033】
第1ICチップ31には、当該ICカード20の所有者を識別可能な情報である所有者識別情報(例えば社員番号)と、当該ICチップが第1ICチップ31及び第2ICチップ32のいずれであるかを識別可能な情報であるチップ識別情報(ここでは第1ICチップ31であることを表すチップ識別情報であり、例えば「0」)が記憶されている。
【0034】
一方、第2ICチップ32には、第1ICチップ31に記憶されている内容と同一の所有者識別情報と、チップ識別情報(ここでは第2ICチップ32であることを表すチップ識別情報であり、例えば「1」)が記憶されている。
【0035】
そして、各ICチップ31,32は、各アンテナ41,42を介して電力が供給されると、記憶している所有者識別情報及びチップ識別情報をアンテナ41,42を介して無線送信する処理を行う。なお、電力が供給された場合に直ちに情報を無線送信する処理を行うのではなく、無線読取装置10から所定の信号を受信した場合に無線送信する処理を行うようにしてもよい。
【0036】
スライドスイッチ21(正確にはスライドスイッチ21のつまみ。以下同様。)は、外力を加えられることにより一定範囲内でスライド移動し(矢印X1,X2に示す方向)、選択可能な3つの位置のうちのいずれか1つの位置に配置され、外力が解放されてもその位置に維持されるように構成されている。
【0037】
そして、スライドスイッチ21が第1の位置(矢印X1側の位置)に配置されている状態では、第1ICチップ31と第1アンテナ41との間の電流経路が接続され、第2ICチップ32と第2アンテナ42との間の電流経路が遮断される。つまり、第2ICチップ32が機能しなくなり(記憶情報の送信処理が禁止され)、第1ICチップ31のみが機能する状態(記憶情報の送信処理が可能な状態)となる。
【0038】
また、スライドスイッチ21が第2の位置(図2に示す位置)に配置されている状態では、第1ICチップ31と第1アンテナ41との間の電流経路と、第2ICチップ32と第2アンテナ42との間の電流経路とが、共に接続される。つまり、第1ICチップ31及び第2ICチップ32が共に機能する状態となる。
【0039】
さらに、スライドスイッチ21が第3の位置(矢印X2側の位置)に配置されている状態では、第1ICチップ31と第1アンテナ41との間の電流経路が遮断され、第2ICチップ32と第2アンテナ42との間の電流経路が接続される。つまり、第1ICチップ31が機能しなくなり(記憶情報の送信処理が禁止され)、第2ICチップ32のみが機能する状態(記憶情報の送信処理が可能な状態)となる。
【0040】
なお、第1ICチップ31及び第2ICチップ32が共に遮断される状態となる第4の位置を選択可能に構成してもよい。
このような構成により、ICカード20が無線読取装置10と通信可能な範囲に侵入すると、スライドスイッチ21の配置に応じた情報がICカード20から無線読取装置10へ送信される。
【0041】
具体的には、スライドスイッチ21が第1の位置に配置されている状態では、所有者識別情報と、第1ICチップ31であることを表すチップ識別情報とが、ICカード20から無線読取装置10へ送信される。
【0042】
また、スライドスイッチ21が第2の位置に配置されている状態では、所有者識別情報と、第1ICチップ31であることを表すチップ識別情報と、第2ICチップ32であることを表すチップ識別情報とが、ICカード20から無線読取装置10へ送信される。
【0043】
さらに、スライドスイッチ21が第3の位置に配置されている状態では、所有者識別情報と、第2ICチップ32であることを表すチップ識別情報とが、ICカード20から無線読取装置10へ送信される。
【0044】
このため、無線読取装置10は、ICカード20の存在を検出するだけでなく、そのICカード20におけるスライドスイッチ21の配置についても判断することができる。
ここで、具体例として、会社のゲートに無線読取装置10を設置し、社員証としてのICカード20を有する者のみがゲートを通過できるようにするシステムにおいて、無線読取装置10をタイムレコーダとしても利用する構成について説明する。
【0045】
図3は、このような構成の無線読取装置10のCPU13が実行するタイムレコーダ処理のフローチャートである。
このタイムレコーダ処理が開始されると、まず、S101で、アンテナ11を介して無線通信可能なICカード20が存在するか否かを判定し、存在すると判定した場合にS102へ移行する。具体的には、ICカード20の存在を検出するために定期的に送信する検出用電波に対し、ICカード20からの情報が受信された場合にICカード20が存在すると判定する。
【0046】
S102では、ICカード20から受信された所有者識別情報及びチップ識別情報に基づき、次の処理を行った後、S101へ戻る。
すなわち、チップ識別情報として第1ICチップ31であることを表すもののみが受信された場合には、現在の時刻を、受信された所有者識別情報に対応する社員の出退勤時刻として記憶する。
【0047】
また、チップ識別情報として第1ICチップ31であることを表すものと第2ICチップ32であることを表すものとが共に受信された場合には、現在の時刻を、受信された所有者識別情報に対応する社員の一時的な社用外出時刻として記憶する。
【0048】
さらに、チップ識別情報として第2ICチップ32であることを表すもののみが受信された場合には、現在の時刻を、受信された所有者識別情報に対応する社員の一時的な私用外出時刻として記憶する。
【0049】
つまり、ICカード20のスライドスイッチ21を第1の位置に配置した状態では、ICカード20を検出した時刻が出退勤時刻として記憶され、スライドスイッチ21を第2の位置に配置した状態では、ICカード20を検出した時刻が社用外出時刻として記憶され、スライドスイッチ21を第3の位置に配置した状態では、ICカード20を検出した時刻が私用外出時刻として記憶される。
【0050】
したがって、複数のICカード20を用いることなく、1枚のICカード20の機能を外力により切り替えることが可能となる。
以上説明したように、第1実施形態の無線通信システムに用いられるICカード20は、アンテナ41,42を介して供給される電力により作動しアンテナ41,42を介して記憶情報の無線送信処理を行う2つのICチップ31,32と、外力が加えられることにより配置が変化し、その配置に応じて2つのICチップ31,32のうちの1つによる記憶情報の送信処理を禁止するスライドスイッチ21とを備えている。一方、無線読取装置10は、ICカード20から受信した記憶情報に基づき、ICカード20が備えるどのICチップ31,32が機能しているかを判断する。このような構成の無線通信システムによれば、使用者は、ICカード20のスライドスイッチ21に外力を加えて配置を変化させることにより、2つのICチップ31,32のうちの1つによる送信処理を禁止させて、無線読取装置10へ送信される記憶情報の内容を変化させることができる。このため、無線読取装置10は、ICカード20の存在を検出するだけでなく、そのICカード20におけるスライドスイッチ21の配置についても判断することができる。この結果、ICカード20の機能を外力により切り替えることが可能となる。
【0051】
また、このICカード20は、スライドスイッチ21が、外力が加えられることにより配置が変化し、外力が解放されてもその配置が維持されるように構成されている。このような構成のICカード20によれば、使用者は、ICカード20を使用する前(ICカード20の記憶情報を無線読取装置10に読み取らせる前)に、あらかじめスライドスイッチ21の配置を設定しておくことで、ICカード20の機能を切り替えることが可能となる。このため、RFIDを利用したシステムの最大の特徴である読み取り操作の手軽さを損なうことなく、ICカード20の機能を外力により切り替えることが可能となる。
【0052】
また、このICカード20は、2つのICチップ31,32のそれぞれに対応して2つのアンテナ41,42を備えており、2つのICチップ31,32を両方とも機能させる態様も可能としている。一方、無線読取装置10は、2つのICチップ31,32が両方とも機能している状態も判断可能である。このため、本通信システムによれば、2つのICチップ31,32で3つのパターンの記憶情報を送信することができる。
【0053】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の無線通信システムについて説明する。
第2実施形態の無線通信システムは、第1実施形態の無線通信システムと基本的な構成は同じであるが、ICカード20の構成が一部異なる。具体的には、図4に示すように、第2実施形態のICカード20は、第1実施形態のICカード20(図2)と対比すると、スライドスイッチ21に替えて2つのボタン51,52を備えている点が異なる。
【0054】
各ボタン51,52は、押圧力が加えられることにより弾性変形して凹み、押圧力が解放されると元の形状に戻るように構成されている。
そして、第1のボタン51が押圧されている状態では、第1ICチップ31と第1アンテナ41との間の電流経路が接続されて第1ICチップ31が機能する状態となり、押圧されていない状態では、第1ICチップ31と第1アンテナ41との間の電流経路が遮断されて第1ICチップ31が機能しない状態となる。
【0055】
また、第2のボタン52が押圧されている状態では、第2ICチップ32と第2アンテナ42との間の電流経路が接続されて第2ICチップ32が機能する状態となり、押圧されていない状態では、第2ICチップ32と第2アンテナ42との間の電流経路が遮断されて第2ICチップ32が機能しない状態となる。
【0056】
このような構成により、ICカード20が無線読取装置10と通信可能な範囲に侵入すると、第1のボタン51及び第2のボタン52に押圧力が加わっているか否かに応じた情報がICカード20から無線読取装置10へ送信される。
【0057】
したがって、第2実施形態の無線通信システムによれば、使用者は、ICカード20の第1のボタン51及び第2のボタン52のうちの一方を押圧した状態でICカード20を使用することにより、2つのICチップ31,32のうちの1つによる送信処理を禁止させて、無線読取装置10へ送信される記憶情報の内容を変化させることができる。このため、無線読取装置10は、ICカード20の存在を検出するだけでなく、そのICカード20におけるボタン51,52の押圧状態についても判断することができる。この結果、第1実施形態の通信システムと同様、ICカード20の機能を外力により切り替えることが可能となる。
【0058】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態の無線通信システムについて説明する。
第3実施形態の無線通信システムは、第1実施形態の無線通信システムと基本的な構成は同じであるが、ICカード20の構成が一部異なる。具体的には、図5に示すように、第3実施形態のICカード20は、第1実施形態のICカード20(図2)と対比すると、スライドスイッチ21に替えて、使用者が指で矢印X1,X2方向へスライド操作可能な金属板60(例えば鉄板や銅板)を備えている点が異なる。すなわち、第1実施形態及び第2実施形態のICカード20は、ICチップ31,32とアンテナ41,42との間の電流経路を遮断することによりICチップ31,32を機能させない構成であるのに対し、第3実施形態のICカード20は、アンテナ41,42を金属板60で覆って磁界を遮ることにより、そのアンテナ41,42に対応するICチップ31,32を機能させない構成となっている。
【0059】
具体的には、金属板60は、外力を加えられることにより一定範囲内でスライド移動し(矢印X1,X2に示す方向)、選択可能な3つの位置のうちのいずれか1つの位置に配置され、外力が解放されてもその位置に維持されるように構成されている。
【0060】
そして、金属板60が、第1アンテナ41のみを覆う第1の位置(矢印X1側の位置)に配置されている状態では、第1ICチップ31が機能しなくなり、第2ICチップ32のみが機能する状態となる。
【0061】
また、金属板60が、第1アンテナ41及び第2アンテナ42を共に覆わない第2の位置(図2に示す位置)に配置されている状態では、第1ICチップ31及び第2ICチップ32が共に機能する状態となる。
【0062】
さらに、金属板60が、第2アンテナ42のみを覆う第3の位置(矢印X2側の位置)に配置されている状態では、第2ICチップ32が機能しなくなり、第1ICチップ31のみが機能する状態となる。
【0063】
このような構成により、ICカード20が無線読取装置10と通信可能な範囲に侵入すると、金属板60の配置に応じた情報がICカード20から無線読取装置10へ送信される。
【0064】
したがって、第3実施形態の無線通信システムによっても、第1実施形態の無線通信システムと同様の効果を得ることができる。特に、第3実施形態の無線通信システムでは、ICカード20に電流経路を遮断する構成を設ける必要がないため、電気抵抗の増大を防ぐことができる。
【0065】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態の無線通信システムについて説明する。
第4実施形態の無線通信システムは、第2実施形態の無線通信システムと基本的な構成は同じであるが、ICカード20の構成が一部異なる。具体的には、図6に示すように、第4実施形態のICカード20は、第2実施形態のICカード20(図4)と対比すると、アンテナ70が1つである点が異なる。このような構成によれば、ICカード20の低コスト化及び小型化を図ることができる。
【0066】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
例えば、機能させるICチップ31,32の切替えを行う構成は、スライドスイッチ21やボタン51,52に限ったものではなく、レバーを回転移動させたり、円形のつまみを一定位置で回転させたりすることにより行う構成とすることも可能である。
【0067】
また、上記各実施形態では、無線通信媒体としてICカード20を例示したが、本発明はICカード20以外の無線通信媒体にも適用することができる。例えば、姿勢を変えることが可能な人形(フィギュアモデル)に本発明の無線通信媒体を適用することにより、人形の姿勢を判断することが可能となる。具体的には、例えば頭の向きに応じて複数のICチップのうちの1又は複数のICチップによる送信処理を禁止するようにすれば、頭の向きを検出することができる。同様にして、手足等の関節部分の状態を検出することで、人形の姿勢を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】第1実施形態の無線通信システムの概略構成を表すブロック図である。
【図2】第1実施形態のICカードの構成を説明するための説明図であり、(A)は外観を表す模式図、(B)は内部構成を表す模式図である。
【図3】無線読取装置が実行するタイムレコーダ処理のフローチャートである。
【図4】第2実施形態のICカードの構成を説明するための説明図であり、(A)は外観を表す模式図、(B)は内部構成を表す模式図である。
【図5】第3実施形態のICカードの構成を説明するための説明図であり、(A)は外観を表す模式図、(B)は内部構成を表す模式図である。
【図6】第4実施形態のICカードの構成を説明するための説明図であり、(A)は外観を表す模式図、(B)は内部構成を表す模式図である。
【符号の説明】
【0069】
10…無線読取装置、11…アンテナ、12…制御部、13…CPU、14…ROM、15…RAM、20…ICカード、21…スライドスイッチ、31…第1ICチップ、32…第2ICチップ、41…第1アンテナ、42…第2アンテナ、51…第1のボタン、52…第2のボタン、60…金属板、70…アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを介して供給される電力により作動し前記アンテナを介して記憶情報の無線送信処理を行う複数のICチップと、
外力が加えられることにより配置状態が変化し、その配置状態に応じて前記複数のICチップのうちの1又は複数のICチップによる前記送信処理を禁止する操作部と、
を備えたことを特徴とする無線通信媒体。
【請求項2】
前記操作部は、外力が加えられることにより配置状態が変化し、外力が解放されると元の配置状態に戻るように構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の無線通信媒体。
【請求項3】
前記操作部は、外力が加えられることにより配置状態が変化し、外力が解放されてもその配置状態が維持されるように構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の無線通信媒体。
【請求項4】
前記操作部は、その配置状態に応じて前記ICチップと前記アンテナとの間の電流経路を遮断することにより、そのICチップによる前記送信処理を禁止すること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の無線通信媒体。
【請求項5】
前記アンテナは、前記複数のICチップにより共用されること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の無線通信媒体。
【請求項6】
前記アンテナは、前記複数のICチップのそれぞれに対応して複数設けられていること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の無線通信媒体。
【請求項7】
前記操作部の配置状態には、前記送信処理を禁止しないICチップを同時に2以上存在させる状態が含まれていること
を特徴とする請求項6に記載の無線通信媒体。
【請求項8】
前記操作部の配置状態には、前記送信処理を禁止しないICチップを少なくとも1つ存在させる2N−1とおりの状態(「N」はICチップの総数)が含まれていること
を特徴とする請求項7に記載の無線通信媒体。
【請求項9】
前記操作部は、その配置状態に応じて前記複数のアンテナのうちの一部を導電体で覆うことにより、そのアンテナに対応するICチップによる前記送信処理を禁止すること
を特徴とする請求項7又は請求項8に記載の無線通信媒体。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の無線通信媒体から前記記憶情報を受信する無線受信処理を行う受信手段と、
前記受信手段により受信された前記記憶情報に基づき、前記無線通信媒体が備える前記ICチップによる前記送信処理の禁止状態を判断する判断手段と、
を備えたことを特徴とする無線読取装置。
【請求項11】
前記判断手段は、前記禁止状態として、前記送信処理を禁止しないICチップが同時に2以上存在する状態も判断すること
を特徴とする請求項10に記載の無線読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−257147(P2007−257147A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78767(P2006−78767)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(599103801)株式会社 ネオテクノ (8)
【Fターム(参考)】