説明

無線通信装置、電子装置、及び簡易アクセスポイントの決定方法

【課題】複数の無線通信装置間により形成される無線ネットワークにおいて、簡易アクセスポイントとなった無線通信装置の伝送処理能力不足に起因する無線ネットワーク全体のパフォーマンス低下を防止する。
【解決手段】無線通信装置1は、無線通信装置3との間でグループオーナー(簡易アクセスポイント)を決定するグループオーナーネゴシエーションを行う。無線通信装置1はGO(グループオーナー)ネゴシエーション要求を送信し(S3)、無線通信装置3はGOネゴシエーション応答を返信する(S4)。無線通信装置1はデバイスパフォーマンス情報要求を送信し(S5)、無線通信装置3はデバイスパフォーマンス情報応答を返信する(S6)。無線通信装置1は、GOネゴシエーション応答中のGOインテント値が自分のGOインテント値と同じ場合、伝送処理能力が高い方の装置をGOとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ネットワークの簡易アクセスポイント機能を持つ無線通信装置、それを備えた電子装置、及び簡易アクセスポイントの決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線LAN(Local Area Network)の標準規格の策定を行うIEEE(The Institute of Electrical and Electronic Engineers)802.11タスクグループが規定した、802.11a、802.11g、802.11nなどの無線LAN技術は世界的にオフィス及び家庭で普及している。
【0003】
802.11aは、5[GHz]の周波数帯域を用いて通信を行う仕様であり、802.11gは、2.4[GHz]の周波数帯域を用いて通信を行う仕様である。また、802.11nは、MIMO(Multiple Input Multiple Output)という、送信側及び受信側にて複数のアンテナを組み合わせることにより、データ送受信の帯域を広げる無線通信技術である。
【0004】
802.11a/11g/11nの仕様においては、その接続形態は、インフラストラクチャーモードとアドホックモードの2つに分けられる。
インフラストラクチャーモードとは、アクセスポイントを中心に、無線LAN端末である無線通信装置が存在し、ある無線通信装置と他の無線通信装置との間のデータ伝送を、アクセスポイント経由で行う通信モードである。オフィス、家庭などの環境において、多く使用されている一般的な接続形態である。
【0005】
一方、アドホックモードとは、アクセスポイントが存在せず、無線通信装置間のデータ伝送を無線通信装置同士で直接行う通信モードである。従って、アドホックモードではアクセスポイントは不要である。しかし、複数の無線通信装置間でアドホックモードの通信(以下、アドホック通信と言う)を行う場合に、各無線通信装置がネットワークに属する全ての無線通信装置の状況を把握する必要があるため、伝送レートや認証機能など機能を限定して使用する場合が多く、また接続のための設定方法も煩雑であったりするため、802.11a/11g/11n仕様は補助的な通信方式としての役割以上に普及していない。
【0006】
しかし、近年ではPC(パ−ソナルコンピュータ)などの情報通信端末以外に、携帯電話機、デジタルカメラ、プリンタ、携帯オーディオ機器などの小型端末にまで無線LAN機能を搭載した機器が増えてきた。勿論これらの機器もアクセスポイント経由での通信が可能であるが、機器間でのデータ通信に限って使用するケース、例えばデジタルカメラとプリンタとの間の通信の場合にはアクセスポイント経由で接続するより、アクセスポイントなしにアドホック的に直接接続する方が利用勝手がよい。
【0007】
そこで、アドホックモードをより使い易くするため、無線LAN製品の普及促進を図ることを目的とした業界団体であるWi-Fi
Allianceなどで、端末間で直接通信するための無線設定方法や、接続方法等に関する仕様が検討されている。
【0008】
例えば非特許文献1には、Wi-Fi Directの基本概念として、各無線通信装置が簡易アクセスポイント機能を搭載し、ネットワークに参加する複数台の対応装置の中で、いずれか一台の無線通信装置が、実際に簡易アクセスポイントとして動作することが記載されている。このように、簡易アクセスポイントが通常のアクセスポイントのように振舞うことで、アドホックモードであっても、インフラストラクチャーモードと同じように最大伝送レートや暗号方式の接続手順を行うことが可能となる。
【0009】
より詳しくは、非特許文献1では、ある一つの無線LANに参加する各無線通信装置を、P2P(Peer to Peer)デバイスとして定義し、そのネットワークを、P2Pグループとして定義している。そして、P2Pグループにおいて、実際に簡易アクセスポイントの機能を用いるP2Pデバイスを、P2Pグループオーナーとして定義し、P2Pグループオーナー以外のP2Pデバイスを、P2Pクライアントとして定義している。そして、複数のP2PグループデバイスからP2Pグループオーナーを決定する手順を、グループオーナーネゴシエーションとして定義している。
【0010】
図4は、二個のP2Pデバイスである無線通信装置100、200が接続相手の探索の後にグループオーナーネゴシエーションを実行する手順を示すシーケンス図である。なお、無線通信装置100、200は同じ構成を持っているが、ここでは無線通信装置200が探索動作を開始した場合について説明する。
【0011】
図示のように、まず無線通信装置200はプローブ要求(Probe Request)フレームを送信する(シーケンスS101)。プローブ要求フレームを受信した無線通信装置100は、プローブ応答(Probe Response)フレームを返信する(シーケンスS102)。
【0012】
無線通信装置200は、プローブ応答フレームを受信したことで、通信可能な場所に他の無線通信装置が存在することを認識すると、GO(グループオーナー)ネゴシエーション要求(Negotiation Request)フレームを送信することにより、グループオーナーネゴシエーションを開始する(シーケンスS103)。GOネゴシエーション要求フレームには、P2P・IE(Information Element)と、WPS・IE(Wi-Fi Protected Setup Information Element)が含まれる。そして、P2P・IEの中に、P2Pグループオーナーになることをどれだけ強く希望するかの度合いを表すパラメータであるグループオーナーインテント(Intent)値、サポートするチャンネルを表す“Channel”などの情報が含まれている。ここで、グループオーナーインテント値は0以上15以下の整数を設定可能である。
【0013】
GOネゴシエーション要求フレームを受信した無線通信装置100は、GOネゴシエーション応答(Negotiation Response)フレームを返信する(シーケンスS104)。GOネゴシエーション応答フレームには、GOネゴシエーション要求フレームと同様に、P2P・IEの内部に、グループオーナーインテント値、“Channel”などが含まれている。
【0014】
GOネゴシエーション応答フレームを受信した無線通信装置200は、図5に示すフローチャートの手順によりP2Pグループオーナーを決定し、その結果をGOネゴシエーション完了(Negotiation Confirmation)フレームにより、無線通信装置100に通知する(シーケンスS105)。また、GOネゴシエーション要求フレームを受信した無線通信装置100も図5に示すフローチャートの手順によりP2Pグループオーナーを決定する。即ち無線通信装置100、200は個々に同じ手順によりP2Pグループオーナーを決定する。以下、無線通信装置200の動作について説明する。
【0015】
図5に示すように、無線通信装置200は、無線通信装置100のグループオーナーインテント値x1と自装置のグループオーナーインテント値x2とが等しいか否かを判定する(ステップST101)。そして、等しくない場合は(ステップST101:No)、x1とx2の大小関係を判定し(ステップST102)、グループオーナーインテント値の大きい方の無線通信装置をP2Pグループオーナーとする(ステップST102〜ST104)。即ち、無線通信装置200のグループオーナーインテント値x2の方が大きければ(ステップST102:Yes)、無線通信装置200をP2Pグループオーナーとし(ステップST103)、無線通信装置100のグループオーナーインテント値x1の方が大きければ(ステップST102:No)、無線通信装置100をP2Pグループオーナーとする(ステップST104)。
【0016】
二個の無線通信装置100、200のグループオーナーインテント値が等しい場合は(ステップST101:Yes)、それらが15未満であるか否かを判定する(ステップST105)。そして、15未満であった場合は(ステップST105:Yes)、タイブレークビット(Tie Break Bit)値が1の無線通信装置をP2Pグループオーナーとする(ステップST106)。
【0017】
ここで、タイブレークビット値とは、GOネゴシエーション要求を発行する無線通信装置がランダムに1又は0に設定し、GOネゴシエーション要求フレームに含めて送信し、GOネゴシエーション応答フレームでは、GOネゴシエーション要求フレームに含まれているタイブレークビット値をトグルして返信することが定められている値である。
【0018】
従って、無線通信装置100、200のグループオーナーインテント値が15未満でかつ同じ場合、無線通信装置200がGOネゴシエーション要求フレームを送信する時にタイブレークビット値を1に設定した場合は、無線通信装置200がP2Pグループオーナーとなり、0に設定した場合は、無線通信装置100がP2Pグループオーナーとなる。
【0019】
二個の無線通信装置100、200のグループオーナーインテント値がともに15であった場合は(ステップST105:No)、P2Pグループオーナーの決定手順を失敗とする(ステップST107)。
【0020】
このように非特許文献1に記載された接続方法で簡易アクセスポイントとなる無線通信装置を決めることができ、アクセスポイント端末装置なしでデバイス間でのP2P通信が可能となる。
【0021】
さて、P2Pグループオーナーはアクセスポイントの機能を肩代わりする。つまり、接続する無線通信装置(P2Pクライアント)に対してアドレスを割り振ったり、ビーコン信号で同期をとったり、簡易アクセスポイント経由で無線通信装置間のデータ通信を仲介したりと、P2Pクライアントに比べて負荷の大きな処理を伴う。
【0022】
このため、ネットワークグループに属するP2Pクライアントが、P2Pグループオーナーを介してP2Pクライアント間で通信したり、P2Pグループオーナーを介して外部のネットワークと通信したりする場合、P2PクライアントよりP2Pグループオーナーの伝送処理能力が低いと、P2Pグループオーナーがボトルネックとなり、本来のP2Pクライアントが持つ伝送処理能力より通信のパフォーマンスが低下してしまう。
【0023】
従って、P2Pグループオーナーになる無線通信装置として、ネットワーク全体の通信パフォーマンスを最大に発揮できるように、十分な伝送処理能力を持つ無線通信装置を選択すべきである。
【0024】
近年802.11n規格のようにMIMO技術によって物理層で600Mbpsもの高速無線を実現する規格が制定されているが、アンテナの本数や消費電力の観点で、802.11nに準拠していても最低限(Mandatory)の伝送速度のみ対応している無線通信装置が多い。
【0025】
また、P2Pデバイスというものは本来インフラストラクチャーモードでアクセスポイントにクライアントとして接続するデバイスであり、伝送処理能力が非力な場合が多い。例えば物理層の伝送速度が300Mbpsの変復調方式をサポートしていても、MAC(Media Access control)-SAP(Service Access Point)では100Mbps程度の伝送処理能力(スループット)しかないものがある。
【0026】
物理層の伝送速度については、通信を行うときに双方で同じ速度の変復調方式に合わせる必要があるが、MAC-SAPでの伝送処理能力については規格上の規定は存在しない。この伝送処理能力は内部のメモリ容量や、搭載している回路の動作速度、CPUの動作速度などによって左右されるため、デバイスによっては物理層の通信速度より大幅にスループットが低い場合がある。
【0027】
非特許文献1に記載されているグループオーナーネゴシエーションでは、P2Pグループオーナーを決める判断基準として、各P2Pデバイスのグループオーナーインテント値及びタイブレークビット値を用いており、伝送処理能力は考慮されていない。そのため、P2Pグループが形成された後、P2Pグループオーナーの伝送処理能力不足によりネットワーク全体のパフォーマンスが低下する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、無線ネットワークの簡易アクセスポイント機能を持つ複数の無線通信装置間により形成される無線ネットワークにおいて、簡易アクセスポイントとなった無線通信装置の伝送処理能力不足に起因する無線ネットワーク全体のパフォーマンス低下を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、無線ネットワークの簡易アクセスポイント機能を持つ複数の無線通信装置間で前記簡易アクセスポイントを決定する方法であって、無線ネットワークを形成する二個の無線通信装置間で、それぞれに記憶されている伝送処理能力情報を交換する第1の工程と、当該二個の無線通信装置が、自装置の伝送処理能力情報及び相手装置の伝送処理能力情報に基づいて、自装置又は相手装置を簡易アクセスポイントとして決定する第2の工程とを有する簡易アクセスポイントの決定方法である。
また、本発明は、無線ネットワークの簡易アクセスポイント機能を持つ無線通信装置であって、伝送処理能力情報を記憶する伝送処理能力情報記憶部と、無線ネットワークを形成する他の無線通信装置との間で自装置又は相手装置を簡易アクセスポイントとして決定する手段とを備え、当該手段は、相手装置の伝送処理能力情報を取得する手段と、自装置の伝送処理能力情報及び相手装置の伝送処理能力情報に基づいて、簡易アクセスポイントを決定する手段とを有する無線通信装置である。
【0030】
[作用]
本発明によれば、無線ネットワークの簡易アクセスポイント機能を持つ二個の無線通信装置間で簡易アクセスポイントを決定する際に、伝送処理能力情報を交換し、自装置の伝送処理能力情報及び相手装置の伝送処理能力情報に基づいて、自装置又は相手装置を簡易アクセスポイントとして決定する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、無線ネットワークの簡易アクセスポイント機能を持つ複数の無線通信装置間により形成される無線ネットワークにおいて、簡易アクセスポイントとなった無線通信装置の伝送処理能力不足に起因する無線ネットワーク全体のパフォーマンス低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態の無線通信装置を備えた電子装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施形態の無線通信装置のグループオーナーネゴシエーションを示すシーケンス図である。
【図3】図2に示すグループオーナーネゴシエーションにおいて、グループオーナーを決定する手順を示すフローチャートである。
【図4】従来の無線通信装置のグループオーナーネゴシエーションを示すシーケンス図である。
【図5】図4に示すグループオーナーネゴシエーションにおいて、グループオーナーを決定する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
〈無線通信装置を備えた電子装置の構成及び概略動作〉
図1は本発明の実施形態の無線通信装置1と、画像処理装置2とからなる電子装置のブロック図である。ここで、無線通信装置1はIEEE802.11規格に準拠している。
【0034】
無線通信装置1は、バス10と、バス10に接続されたCPU(Central Processing Unit)11、メモリ12、USB(Universal Serial Bus)などの外部I/F(インタフェース)13、及びMAC(Media Access Control) H/W(ハードウェア)14を備えている。メモリ12はCPU11が実行するファームウェア17や各種固定データを記憶するROM(Read Only Memory)、及びCPU11の動作時にワークエリアとなるRAM(Random Access Memory)などからなる。また、無線通信装置1は、MAC H/W14に接続されたPHY(物理層)部15、PHY部15に接続されたアンテナ16を備えている。なお、無線通信装置1はこれ以外にもクロック生成部、電力供給部等を備えているが、これらの一般的な構成要素は省略した。
【0035】
ファームウェア17には、外部I/F13から受け取ったデータをもとに送信データフレームを生成する通信プロトコル制御部17a、受信情報を解析するパラメータ解析部17b等、無線LANのプロトコルを制御する上で必要となる機能が実装されている。なお、これらの機能の一部を画像処理装置2に設けることもできる。
【0036】
PHY部15は、ベースバンド部15aとRF(Radio Frequency)部15bからなる。ベースバンド部15aは、送信時はMAC H/W14からのデータの変調処理などを行い、受信時はRF部15bからのデータの復調処理などを行う。RF部15bは、送信時はベースバンド部15aからベースバンド信号を無線周波信号に変換してアンテナ16に送出し、受信時はアンテナ16からの無線周波信号をベースバンド信号に変換してベースバンド部15aに送出する。
【0037】
画像処理装置2は、バス20と、バス20に接続されたCPU21、メモリ部22、画像入力部23、画像出力部24、画像処理部25、及びUSBなどの外部I/F26を備えている。また、図示を省略したが、画像処理装置2は、商用AC電源から供給されるAC電力のDC変換出力、又は内蔵するバッテリから出力されるDC電力を選択的に各部に供給する電力供給部を備えている。画像処理装置2から無線通信装置1に対して、USBバスパワーによりDC電力を供給することもできる。
【0038】
CPU21はこの画像処理装置2全体の制御などを行う。メモリ部22は、CPU21が実行するファームウェアや各種固定データを記憶するROM、及びCPU21の動作時にワークエリアとなるRAMなどからなる。
【0039】
画像入力部23は原稿の画像を読み取り、画像データに変換する。画像出力部24は画像データに基づいて画像の印刷を行う。画像処理部25は画像入力部23で生成された画像データに対して所定の画像処理を施す。外部I/F26は、無線通信装置1の外部I/F13との間でデータの送受信を行う。
【0040】
無線通信装置1が通信相手の無線通信装置に対してデータを送出する場合には、まず外部I/F13から入力される画像データを基にファームウェア17がデータフレームを生成し、MAC H/W14に渡す。MAC H/W14は、入力されたデータフレームに対して、無線通信ヘッダの付加などのMAC層処理を施し、PHY部15に渡す。PHY部15では、入力された0又は1のデジタルデータがベースバンド部15aにより変調処理などを受け、RF部15bにより無線周波数信号に変換された後にアンテナ16を介して送出される。
【0041】
無線通信装置1が相手の無線通信装置からのデータを受信する場合には、アンテナ16で受信された無線周波信号が、RF部15bによりベースバンド信号に変換され、ベースバンド部15aにより0又は1のデジタルデータに変換され、MAC H/W14に渡され、ファームウェア17にてデータフレームが分析され、外部I/F13を介して画像処理装置2に送出される。
【0042】
〈グループオーナーネゴシエーション〉
ファームウェア17として、従来装置と同様、Wi-Fi Directに準拠するグループオーナーネゴシエーションを実行するために必要なプログラム及びデータが実装されている。
【0043】
図2は、本実施形態の無線通信装置1が同様な構成を持つ他の無線通信装置3との間でP2Pグループオーナーを決定する手順を示すシーケンス図である。ここでは無線通信装置1が探索動作を開始した場合について説明する。なお、予め無線通信装置1はグループオーナーインテント値12a及び伝送処理能力パラメータ12b等の制御情報を例えば外部I/F13を介してメモリ12に入力し、保持しておく。無線通信装置3についても同様である。
【0044】
ここで、伝送処理能力パラメータ12bは、無線通信装置1の伝送処理能力であり、例えばMAC-SAPのスループット値や、TCP(Transmission Control Protocol)/IP(Internet Protocol)層のスループット値を表すものである。
【0045】
後述するように、本実施形態では、グループオーナーネゴシエーションにおいて、グループオーナーインテント値に加えて、伝送処理能力パラメータをP2Pデバイス間で相互に比較するため、ネットワークグループで予め何を対象とするのかを決めておく。
【0046】
例えばMAC-SAPのスループット値とする場合、50Mbpsの伝送処理能力しかないデバイスは50、200Mbpsの伝送処理能力があるデバイスは200が伝送処理能力パラメータとなる。ただし、伝送処理能力は伝送するデータの種類やデータ長にもよるので、例えば、「TCP/IP層でのスループット値測定、FTPプロトコル使用で転送データサイズ1Mbyte、パケットデータサイズ:4096Byte、暗号処理あり、バースト転送なし」のように、予め測定方法を決めておいた方が良い。
【0047】
図2に示すように、まず無線通信装置1はプローブ要求フレームを送信する(シーケンスS1)。プローブ要求フレームを受信した無線通信装置3は、プローブ応答フレームを返信する(シーケンスS2)。無線通信装置1は、プローブ応答フレームを受信したことで、通信可能な場所に他の無線通信装置が存在することを認識すると、GOネゴシエーション要求フレームを送信することにより、グループオーナーネゴシエーションを開始する(シーケンスS3)。GOネゴシエーション要求フレームを受信した無線通信装置3は、GOネゴシエーション応答フレームを返信する(シーケンスS4)。
【0048】
次に無線通信装置1はデバイスパフォーマンス情報要求(Request Device Performance Info)フレームを送信する(シーケンスS5)。このフレームは、無線通信装置3に対して伝送処理能力パラメータの送信を要求するとともに、無線通信装置1の伝送処理能力パラメータを無線通信装置3に通知するフレームである。デバイスパフォーマンス情報要求フレームを受信した無線通信装置3は、デバイスパフォーマンス情報応答(Response Device Performance Info)フレームに伝送処理能力パラメータを含めて送信する(シーケンスS6)。
【0049】
デバイスパフォーマンス情報応答フレームを受信した無線通信装置1は、図3に示すフローチャートの手順によりP2Pグループオーナーを決定し、その結果をGOネゴシエーション完了フレームにより、無線通信装置3に通知する(シーケンスS7)。また、無線通信装置3も図3に示すフローチャートの手順によりP2Pグループオーナーを決定する。以下、無線通信装置1の動作について説明する。
【0050】
図3に示すように、無線通信装置1は、自装置のグループオーナーインテント値y1と無線通信装置3のグループオーナーインテント値y2とが等しいか否かを判定する(ステップST1)。そして、等しくないと判定した場合は(ステップST1:No)、y1とy2の大小関係を判定し(ステップST2)、グループオーナーインテント値の大きい方の無線通信装置をP2Pグループオーナーとする(ステップST2〜ST4)。即ち、自装置のグループオーナーインテント値y1の方が大きければ(ステップST2:No)、自装置をP2Pグループオーナーとし(ステップST4)、無線通信装置3のグループオーナーインテントy2値の方が大きければ(ステップST2:Yes)、無線通信装置3をP2Pグループオーナーとする(ステップST3)。
【0051】
無線通信装置1、3のグループオーナーインテント値が等しい場合は(ステップST1:Yes)、両装置の伝送処理能力パラメータが等しいか否かを判定する(ステップST5)。そして、等しくないと判定した場合(ステップST5:No)、伝送処理能力の高い方の無線通信装置をP2Pグループオーナーとする(ステップST6〜ST8)。即ち、自装置の伝送処理能力p1の方が高ければ(ステップST6:No)、自装置をP2Pグループオーナーとし(ステップST8)、無線通信装置3の伝送処理能力p2値の方が高ければ(ステップST6:Yes)、無線通信装置3をP2Pグループオーナーとする(ステップST7)。
【0052】
また、両装置の伝送処理能力が同じであった場合は(ステップST5:Yes)、両装置のグループオーナーインテント値が15未満であるか否かを判定する(ステップST9)。そして、15未満であった場合は(ステップST9:Yes)、タイブレークビット値が1の無線通信装置をP2Pグループオーナーとし(ステップST10)、15であった場合は(ステップST9:No)、P2Pグループオーナーの決定手順を失敗とする(ステップST11)。
【0053】
この図において、ステップST1〜ST4、及びST9〜ST11は、それぞれ図5のステップST101〜ST104、及びST105〜ST107と同じである。つまり、この図のフローチャートの処理は、図5に示す従来の処理のステップST101:YesとステップST105との間に、ステップST5〜ST8を挿入したものと言える。
【0054】
このように本発明の実施形態の無線通信装置1は、他の無線通信装置3との間でP2Pグループオーナーを決定する際に、双方のグループオーナーインテント値が同じ場合、双方の伝送処理能力を比較し、伝送処理能力の高い方の装置をP2Pグループオーナーとするので、グループオーナーインテント値が同じでも、伝送処理能力の高い方の装置をP2Pグループオーナーに選定することができる。従って、P2Pグループオーナーとなった装置の伝送処理能力不足に起因する無線ネットワーク全体のパフォーマンス低下の可能性を低減することができる。
【0055】
ここで、無線通信装置1及び3の動作が正常であれば、それぞれが決定したP2Pグループオーナーは同じになる筈である。従って、無線通信装置3は、万一、自装置が決定したP2Pグループオーナーと無線通信装置1がGOネゴシエーション完了フレームで通知してきたP2Pグループオーナーとが一致しなかった場合、無線通信装置1が通知してきたP2Pグループオーナーを採用するか、又はエラー通知を無線通信装置1に送信するように構成することができる。
【0056】
なお、図2に示す手順では、デバイスパフォーマンス情報要求フレーム及びデバイスパフォーマンス情報応答フレームのやりとりの際に伝送処理能力パラメータの交換を行っているが、GOネゴシエーション要求フレームに無線通信装置1の伝送処理能力パラメータを含ませ、GOネゴシエーション応答フレームに無線通信装置3の伝送処理能力パラメータを含ませることで、GOネゴシエーション要求フレーム及びGOネゴシエーション応答フレームのやりとりの際に伝送処理能力パラメータの交換を行い、デバイスパフォーマンス情報要求フレーム及びデバイスパフォーマンス情報応答フレームのやりとりを省略することもできる。
【0057】
なお、図2に示す手順でP2Pグループオーナーを決定した後に、P2Pグループを形成する各無線通信装置と通信可能な位置に新たに無線通信装置が移動してきて、その無線通信装置がP2Pグループオーナーになることを希望する場合は、その無線通信装置とP2Pグループオーナーとの間でグループオーナーネゴシエーションを実行し、新たにP2Pグループオーナーを決定する。
【0058】
このように、本発明の実施形態によれば、複数の無線通信装置で構成されるネットワークグループであって、ネットワークグループ内の選ばれた無線通信装置の一つがP2Pグループオーナーとしてインフラストラクチャー通信のアクセスポイントのような役割を担うアドホックネット通信を行うネットワークグループにおいて、各無線通信装置は、オーナー希望の度合を示すグループオーナーインテント値、及び伝送処理能力を示す伝送処理能力パラメータを保持し、グループオーナーインテント値及び伝送処理能力パラメータを無線通信装置間で交換し、交換したグループオーナーインテント値が等しい場合、交換した伝送処理能力パラメータを比較し、伝送処理能力の高い方の無線通信装置をP2Pグループオーナーとするので、グループオーナーインテント値が同じでも、伝送処理能力の高い無線通信装置をP2Pグループオーナーに選定することができる。この結果、ネットワークグループを形成する複数の無線通信装置の中で、最も伝送処理能力の高い無線通信装置がP2Pグループオーナーとなるので、P2Pグループオーナーとなった無線通信装置の伝送処理能力不足に起因する無線ネットワーク全体のパフォーマンス低下の可能性を低減することができる。
【0059】
なお、以上の実施形態では、グループオーナーネゴシエーションにおいて、無線通信装置1、3がグループオーナーインテント値を交換し、両装置のグループオーナーインテント値が等しい場合に、伝送処理能力の高低に基づいて、P2Pグループオーナーを決定しているが、グループオーナーインテント値の交換及び比較を行わず、伝送処理能力パラメータの交換及び比較のみにより、P2Pグループオーナーを決定してもよい。この構成の場合、グループオーナーインテント値の影響を受けることなく、純粋に伝送処理能力の高低に基づいて、P2Pグループオーナーを決定することができるので、P2Pグループオーナーとなった無線通信装置の伝送処理能力不足に起因する無線ネットワーク全体のパフォーマンス低下を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0060】
1,3…無線通信装置、2…画像処理装置、11…CPU、12…メモリ、12a…グループオーナーインテント値、12b…伝送処理能力パラメータ、17…ファームウェア、17a…通信プロトコル制御部、17b…パラメータ解析部、S3…グループオーナーネゴシエーション要求フレームを送信するシーケンス、S4…グループオーナーネゴシエーション応答フレームを送信するシーケンス、S5…デバイスパフォーマンス情報要求フレームを送信するシーケンス、S6…デバイスパフォーマンス情報応答フレームを送信するシーケンス、S7…グループオーナーネゴシエーション完了フレームを送信するシーケンス。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0061】
【非特許文献1】Wi-FiPeer-to-Peer(P2P)Technical Specification Version 1.00

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線ネットワークの簡易アクセスポイント機能を持つ複数の無線通信装置間で前記簡易アクセスポイントを決定する方法であって、
無線ネットワークを形成する二個の無線通信装置間で、それぞれに記憶されている伝送処理能力情報を交換する第1の工程と、
当該二個の無線通信装置が、自装置の伝送処理能力情報及び相手装置の伝送処理能力情報に基づいて、自装置又は相手装置を簡易アクセスポイントとして決定する第2の工程とを有する簡易アクセスポイントの決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載された簡易アクセスポイントの決定方法において、
前記二個の無線通信装置間で、それぞれに記憶されている所定の基準に基づいて定められた簡易アクセスポイントになることを希望する度合を示すインテント値を交換する第3の工程を備え、
前記第2の工程は、自装置のインテント値及び伝送処理能力情報、並びに相手装置のインテント値及び伝送処理能力情報に基づいて、簡易アクセスポイントを決定する簡易アクセスポイントの決定方法。
【請求項3】
請求項2に記載された簡易アクセスポイントの決定方法において、
前記第1の工程及び第3の工程を同時に実行する簡易アクセスポイントの決定方法。
【請求項4】
請求項2に記載された簡易アクセスポイントの決定方法において、
前記第1の工程及び第3の工程を順次に実行する簡易アクセスポイントの決定方法。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載された簡易アクセスポイントの決定方法において、
前記第2の工程は、相手装置のインテント値と自装置のインテント値との大小関係を判定する工程と、インテント値が等しくないと判定したとき、インテント値の大きい方の無線通信装置を簡易アクセスポイントとし、インテント値が等しいと判定したとき、伝送処理能力の高い方の無線通信装置を簡易アクセスポイントとする工程とからなる簡易アクセスポイントの決定方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された簡易アクセスポイントの決定方法において、
前記第1の工程は、一方の無線通信装置が他方の無線通信装置に対して、伝送処理能力情報の要求及び自装置の伝送処理能力情報の通知を行う工程と、前記他方の無線通信装置が、当該要求に応じて、伝送処理能力情報を送信する工程とからなる簡易アクセスポイントの決定方法。
【請求項7】
無線ネットワークの簡易アクセスポイント機能を持つ無線通信装置であって、
伝送処理能力情報を記憶する伝送処理能力情報記憶部と、
無線ネットワークを形成する他の無線通信装置との間で自装置又は相手装置を簡易アクセスポイントとして決定する手段とを備え、当該手段は、相手装置の伝送処理能力情報を取得する手段と、自装置の伝送処理能力情報及び相手装置の伝送処理能力情報に基づいて、簡易アクセスポイントを決定する手段とを有する無線通信装置。
【請求項8】
請求項7に記載された無線通信装置を備えた電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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