説明

無線通信装置及び無線通信方法

【課題】伝搬路状況に応じて送信ウェイト選択処理を切り替え、少ない計算負荷で適切な送信ウェイトを選択し、フィードバックMIMOにおける通信特性を高める無線通信装置を提供する。
【解決手段】複数のアンテナを備えた無線通信装置であって、他の無線通信装置から所定の周波数帯域に属するチャンネルの信号を受信し、前記チャンネルのチャンネル状態情報を取得する受信部と、前記チャンネル状態情報の変動を判定する判定部と、前記チャンネル状態情報に変動がない場合に、前記所定の周波数帯域に属する全ての前記チャンネル状態情報の平均値を、前記所定の周波数帯域全体の代表チャンネル状態情報として計算する、チャンネル状態情報計算部と、前記計算された代表チャンネル状態情報に基づいて、送信ウェイトを選択する送信ウェイト選択部と、前記送信ウェイトの識別情報を前記他の無線通信装置に送信する送信部と、を備えることを特徴とする無線通信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線通信装置及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信システムでは、信号の送受信に複数のアンテナを用いることにより、通信容量の増大や通信品質の向上を図っている。このような複数アンテナを用いた送受信技術はMIMO(Multi−Input Multi−Output)と呼ばれており、特に、受信端末が、送信端末に対して、チャンネル状態情報である、CSI(Channel State Information:伝搬路情報)に関する何らかの情報をフィードバックすることにより、MIMOの通信特性をさらに向上させる技術を、Closed−Loop MIMO、又はフィードバックMIMOと呼んでいる。
【0003】
受信端末は、送信端末が一定周期で送信する専用の参照信号(xi)と、受信端末における受信信号(yj,i)との関係から、第kのサブキャリア(チャンネル)に対するCSIを数1の通り測定することができる。ここでkはサブキャリアのインデックスであり、第3.9世代移動体通信システム(以下「3.9G」という。)で採用されているOFDMシステムでは、周波数と時間との二次元座標により一意に決まる値である。なお、数1において、TxAntは送信端末のアンテナ数、RxAntは受信端末のアンテナ数を表し、CSIは、RxAnt×TxAntの次元を持つ複素行列として表されるものである。また、実際には受信端末が受信信号を分離できるように、送信アンテナ毎に、参照信号が挿入されるサブキャリアは異なっている場合が多いが、ここでは簡単の為、全サブキャリアで受信信号と参照信号がアンテナ毎に独立に得られるものとして表現している。
【0004】
【数1】

【0005】
フィードバックMIMOでは、受信端末から送信端末にフィードバックするCSIの情報が詳細であればあるほど、MIMOの通信特性が改善することになる。しかし、受信端末がフィードバックするCSIの情報が詳細であればあるほど通信量が増加するため、結局はシステムの無線通信容量が逼迫してしまうことになる。かかる問題への対応として、送信端末及び受信端末で予め共通の送信ウェイトの情報を保持しておき、受信端末がCSIに応じた当該送信ウェイトのインデックス情報(識別情報)のみを送信端末にフィードバックする(つまり、どの番号の送信ウェイトを使用するかのみを通知する)ことにより、フィードバック情報を大幅に削減することが行われている。また、一つの送信ウェイトを複数のサブキャリアに対してまとめて適用することで、フィードバックする送信ウェイトのインデックス自体を減らすことができ、さらなるフィードバック情報の削減が可能になる。
【0006】
例えば、3.9Gの1つであるUMB(Ultra Mobile Broadband、例えば、非特許文献1参照)やE−UTRA(LTE)(Evolved UMTS Terrestrial Radio Access、Long Term Evolution、例えば、非特許文献2参照)では、上記送信ウェイトの情報をPM(Precoding Matrix)として送信端末及び受信端末で共有している。このPMは、複数アンテナの本数等に応じて複数定義されており、受信端末は、CSIに応じて適切なPMを選択し、当該PMの識別番号であるPMI(Precoding Matrix Index)を送信端末にフィードバックする。送信端末は受信端末からPMIを受信すると、PMIによって特定されるPMを用いて複数アンテナの送信ウェイト制御を行うことになる。
【0007】
E−UTRA(LTE)は、図4に示す通り、例えば、通信に使用する周波数帯を4つのサブバンド(Subband)に分割し、各サブバンドを12個のリソースブロック(RB:Resource Block)に分割し、さらに、各リソースブロックを12個のサブキャリア(Subcarrier)に分割している。E−UTRA(LTE)では、複数のサブキャリアに対して共通に適用するPMを選択するために、受信端末は、サブバンド単位での送信ウェイト選択を行い、当該サブバンド単位のPMに対応したPMIを送信端末にフィードバックする。なお、E−UTRA(LTE)では、サブバンドあたりのリソースブロックの数は可変であり、前述する12個に限られるものではないことに留意されたい。また、UMBは、通信に使用する周波数帯を8つのサブバンドに分割し、各サブバンドを8個のタイル(Tile)に分割し、さらに、各タイルを16個のサブキャリアに分割しており、E−UTRA(LTE)同様に、サブバンド単位でPMの選択を行っている。
【0008】
図9は、E−UTRA(LTE)におけるサブバンド単位のPM選択のフローチャートである。図9に従い、従来技術である、E−UTRA(LTE)におけるサブバンド単位のPM選択方法の詳細を説明する。
【0009】
受信端末は、先ず、サブバンド範囲に属する全てのサブキャリアのCSIを取得する(ステップS101)。図5は、伝搬路の違いによる周波数選択性の一例を示す図である。図5を一例として、各サブキャリアのCSIは、周囲の環境によって変化するものであり、例えば各サブキャリアのCSIが大きく変動する場合や、各サブキャリアの変化が比較的少ないフラットフェージングである場合など、様々な状態が考えられる。従来技術では、受信端末は、各サブキャリアのCSIが大きく変動する場合や、フラットフェージングである場合など、全ての状態に対して、同じ送信ウェイト選択処理(ステップS102〜S106)を行っている。
【0010】
受信端末は、複数の送信ウェイトの候補WTx,i(iは送信ウェイトの識別番号であるPMIを表し、0≦i<送信ウェイトの数)を保持している。受信端末は、複数の送信ウェイトの候補WTx,iから、サブバンド単位で最適な送信ウェイトを選択するために、各送信ウェイトの候補WTx,iに対して、サブバンドに属する全てのサキャリアとのSINR(Signal−to−Interference and Noise power Ratio)の合計値を計算する(ステップS103〜S105)。
【0011】
ステップS104では、まず、受信端末は、サブバンド範囲に属するサブキャリアk(0≦k<NCSI、NCSIはサブバンドに含まれるキャリアの本数)のCSIと、送信ウェイトの候補WTx,iとを、数2の通り乗算する。
【0012】
【数2】

【0013】
ステップS104では、次に、受信端末は、例えばV−BLAST(Vertical Bell Laboratories Layered Space Time)、QRM−MLD(Maximum Likelihood Detection With Qr−Decomposition and M−algorithm)及びMMSE(Minimum Mean Square Error)などのMIMO受信方式に応じた処理を数2の結果に対して行い、サブキャリアkの予想受信ウェイトWRxを作成する。数3は、MMSE受信の場合の、サブキャリアkの予想受信ウェイトWRxを示す式である。なお、数3の表記に関して、(A)は行列Aの擬似逆行列を意味している。
【0014】
【数3】

【0015】
ステップS104では、最後に、受信端末は、これら送信ウェイトWTx,i、CSI、及び受信ウェイトWRxを掛け合わせ、対応するサブキャリアkの送受信間の伝搬路応答を想定したSINRを計算する。
【0016】
受信端末は、ある送信ウェイト候補に対し、上記計算をサブバンド範囲内の全サブキャリアに対して行い、サブキャリア毎のSINRを加算していく(ステップS105)。
【0017】
全ての送信ウェイトの候補WTx,iに対するSINRの合計値の計算(ステップS103〜S105)が終了すると(ステップS102のYES)、受信端末は、各送信ウェイトの候補WTx,iから、SINRの合計値が最も大きくなる送信ウェイトを選択し(ステップS106)、当該PMに対応するPMIを送信端末にフィードバックする。数4は、上記過程を数式で表現したものである。
【0018】
【数4】

【0019】
【非特許文献1】“Physical Layer for Ultra Mobile Broadband (UMB) Air Interface Specification(C.S0084-001-0 v1.0)”、3GPP2、平成19年4月
【非特許文献2】“Multiplexing and channel coding (3GPP TS 36.212)”、3GPP、平成20年5月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記の通り、従来の方法では、受信端末は、サブバンド単位などといった、共通の送信ウェイト(PM)を適用する範囲(以下、「送信ウェイト適用範囲」という。)の伝搬路変動に応じた送信ウェイトを選択することができる。しかし、当該送信ウェイトを選択する過程で、全ての送信ウェイト候補と全てのサブキャリアとのSINRを、受信アンテナ数×送信アンテナ数の次元の行列演算によって計算するため、送信ウェイト選択に要する演算量が膨大になってしまうという問題点がある。特に、E−UTRA(LTE)の場合、NCSIは、例えば144(12×12)であり、時間方向の14シンボルも考慮すると、サブバンド単位の送信ウェイトを選択するために、上記行列演算を2000回近く実行する必要がある。さらに、高度なMIMOを実現するには、必要となる受信アンテナ数および送信アンテナ数も大きくなるため、演算量が飛躍的に増加してしまうという問題があった。
【0021】
従って、上記の諸課題を鑑みてなされた本発明の目的は、伝搬路状況に応じて送信ウェイトを選択する処理を切り替えることにより、少ない計算負荷で適切な送信ウェイトを選択し、フィードバックMIMOにおける通信特性を高める無線通信装置及び無線通信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した諸課題を解決すべく、本発明の無線通信装置は、
複数のアンテナを備えた無線通信装置であって、
他の無線通信装置から所定の周波数帯域に属するチャンネルの信号を受信し、前記チャンネルのチャンネル状態情報を取得する受信部と、
前記チャンネル状態情報の変動を判定する判定部と、
前記チャンネル状態情報に変動がない場合に、前記所定の周波数帯域に属する全ての前記チャンネル状態情報の平均値を、前記所定の周波数帯域全体の代表チャンネル状態情報として計算する、チャンネル状態情報計算部と、
前記計算された代表チャンネル状態情報に基づいて、送信ウェイトを選択する送信ウェイト選択部と、
前記送信ウェイトの識別情報を前記他の無線通信装置に送信する送信部と、
を備えることを特徴とする。
【0023】
また、前記判定部は、全ての前記チャンネル状態情報が、全ての前記チャンネル状態情報の平均値に基づく閾値以上である場合に、前記チャンネル状態に変動がないと判定する、ことが望ましい。
【0024】
また、前記送信ウェイト選択部は、前記チャンネル状態情報と前記送信ウェイトとの対応を記憶しており、前記代表チャンネル状態情報に対応する、記憶された前記送信ウェイトを選択することが望ましい。
【0025】
また、上述した諸課題を解決すべく、本発明の無線通信方法は、
複数のアンテナを備えた無線通信装置の無線通信方法であって、
他の無線通信装置から所定の周波数帯域に属するチャンネルの信号を受信し、前記チャンネルのチャンネル状態情報を取得するステップと、
前記チャンネル状態情報の変動を判定する判定ステップと、
前記チャンネル状態情報に変動がない場合に、前記所定の周波数帯域に属する全ての前記チャンネル状態情報の平均値を、前記所定の周波数帯域全体の代表チャンネル状態情報として計算する計算ステップと、
前記計算された代表チャンネル状態情報に基づいて、送信ウェイトを選択するステップと、
前記送信ウェイトの識別情報を前記他の無線通信装置に送信するステップと
を有することを特徴とする。
【0026】
また、前記判定ステップにおいて、全ての前記チャンネル状態情報が、全ての前記チャンネル状態情報の平均値に基づく閾値以上である場合に、前記チャンネル状態に変動がないと判定することが望ましい。
【0027】
また、前記送信ウェイト選択ステップにおいて、予め記憶してある前記チャンネル状態情報と前記送信ウェイトとの対応から、前記代表チャンネル状態情報に対応する、前記送信ウェイトを選択することが望ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、CSI情報に基づいて、送受信間の伝搬路状況を判別し、伝搬路の変動状況に合わせ、送信ウェイトを選択する処理を切り替えることにより、伝搬路に変動がない場合に、少ない計算負荷で適切な送信ウェイトを選択し、フィードバックMIMOにおける通信特性を改善することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以降、諸図面を参照しながら、本発明の実施態様を詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施の形態に係る通信端末1が使用可能な、通信ネットワークの概略構成を示す図である。図1において、通信端末1は、基地局2との間で、複数アンテナを用いたMIMOによる通信を行う。通信端末1は、基地局2が送信する参照信号からサブキャリア毎のCSIを取得し、当該CSIに所定の処理を行った後に、基地局2が利用すべき送信ウェイト(PM)を選択し、当該送信ウェイトに対応した送信ウェイトインデックスを基地局2にフィードバックする。基地局2は、当該送信ウェイトインデックスに応じて送信ウェイトを選択し、フィードバックMIMO制御を行う。
【0031】
図2は、本発明の一実施の形態に係る通信端末1の構成を示す図である。ここで、通信端末1は、例えば、MIMOの通信インターフェースを備える携帯電話機、ノートパソコン、又はPDA(携帯情報端末)などからなる。通信端末1は、基地局2から信号を受信し、サブキャリアのCSIを取得する受信部10と、受信部10からCSIの情報を取得し、伝搬路の変動を判定する伝搬路変動判定部(判定部)50と、受信部10からCSIの情報を取得するとともに、伝搬路変動判定部50から伝搬路の変動状態を取得して、CSIに関する所定の計算を行うCSI計算部(チャンネル状態情報計算部)20と、CSI計算部20の結果に基づき、基地局2にフィードバックする送信ウェイトの送信ウェイトインデックスを選択する送信ウェイト選択部30と、送信ウェイト選択部30が選択した送信ウェイトインデックスを、通信データ等と同時に基地局2に送信する送信部40と、を有する。
【0032】
受信部10及び送信部40は、例えば、E−UTRA(LTE)、UMBまたは他の任意の好適なフィードバックMIMOに対応したインターフェース機器から構成される。なお、受信部10及び送信部40は、無線信号の送受信に必要な信号の変調/復調、誤り訂正の復号化/符号化、PS/SP変換、及びチャンネル推定といった、無線通信に要する通常の機能を有しうる。伝搬路変動判定部50、CSI計算部20及び送信ウェイト選択部30は、例えば、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ構成されるものであり、CSI計算部20及び送信ウェイト選択部30の各機能は、当該プロセッサ上で実行されるソフトウェアや、又は各機能の処理に特化した専用のプロセッサ(例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ))によって構成することができる。
【0033】
図3は、本発明の一実施の形態に係る通信端末の動作のフローチャートである。当該フローチャートを参照しながら、通信端末1の各機能ブロックの動作を詳述する。
【0034】
通信端末1が基地局2から参照信号を受信すると、通信端末1において、CSI計算部20は、受信部10から送信ウェイト適用範囲に属するサブキャリアのCSIを取得する(ステップS001)。本実施例では、例えば、送信ウェイト適用範囲には、E−UTRAのサブバンドに相当する144本のサブキャリアが含まれるものとする(NCSI=144)。なお、送信ウェイト適用範囲がサブキャリアが144本の場合に限られないことは、当業者にとって明らかな事項である。
【0035】
伝搬路変動判定部50は、送信ウェイト適用範囲に属するCSIの平均電力(PowAve)を数5により計算する(ステップS002)。
【0036】
【数5】

【0037】
伝搬路変動判定部50は、平均電力の計算結果から、送信ウェイト適用範囲に属するCSIに変動があるかどうかを判定する(ステップS003)。この判定は、周波数選択性などの要因により落ち込みが生じているかを判断するものである。かかる変動の判定は、送信ウェイト適用範囲のCSIの平均電力に基づいて設定した判定基準(閾値)に対し、各サブキャリアのCSIの電力が、当該判定基準を下回っているかどうかによって判定する。当該判定基準は、送信ウェイト適用範囲のCSIの平均電力の値そのものとしたり、当該平均電力値に所定の係数を乗除したり(例えば、平均電力値の0.8倍、1.2倍、1/2、1/3など)、加算減算(例えば、オフセットとして+1、−0.5など)したものとすることができる。当該判定基準を高く設定すれば、変動が存在すると判定される確率は高くなり、低く設定すれば、変動が存在すると判定される確率は低くなる。また、当該判定基準を下回るCSIの数に応じて変動の存在を判定することも可能であり、例えば、判定基準を下回るCSIの数が所定値を上回る場合に、変動が存在すると判定することもできる。
【0038】
CSI計算部20は、伝搬路変動判定部50の判定結果を基に、送信ウェイト適用範囲全体の代表CSI(代表チャンネル状態情報)の計算を行う。伝搬路変動が存在しない場合には(ステップS003のNo)、例えば、各サブキャリアのCSIがフラットフェージング状態にあると考えられるため、CSI計算部20は、数6に従い、送信ウェイト適用範囲のCSIの平均値(CSIAve)を計算し、当該平均値を代表CSIとする(ステップS004)。伝搬路がフラットフェージングに近い環境であれば、当該平均値の計算により、各サブキャリアのCSIに含まれる雑音によるCSI推定誤差の影響を軽減することができ、CSI毎に送信ウェイト候補とのSINRを個別に計算することなく、代表CSIのみと送信ウェイト候補とのSINRを計算することによって、適切な送信ウェイトを選択することが可能になるためである。
【0039】
【数6】

【0040】
送信ウェイト選択部30は、CSI計算部20から供給された代表CSI(CSIAve)に基づき、送信ウェイトを選択する(ステップS005〜S007)。ステップS005およびS006において、送信ウェイト選択部30は、数2および数3に従い、送信ウェイト選択部が保持する全ての送信ウェイト候補と、代表CSI(CSIAve)とのSINRを計算する。全ての送信候補ウェイトについてSINRの計算が終了すると(ステップS005のYes)、送信ウェイト選択部30は、最大のSINRとなる送信ウェイトを代表CSI(CSIAve)に対する送信ウェイトとして選択する(ステップS007)。数7は、送信ウェイト選択部30による上記選択過程を数式で表現したものである。数7と従来方式である数4とを比較すると、送信ウェイト選択部30は、CSI計算部20から供給された代表CSI(CSIAve)のみに基づいてのみ送信ウェイトを選択するため、CSI毎に送信ウェイト候補とのSINRを個別に計算する場合に比べ、行列演算の回数を1/NCSIに削減することが可能になる。送信ウェイト選択部30は、選択した送信ウェイトに対応する送信ウェイトインデックスを、送信部40を通じて基地局2にフィードバックする。
【0041】
【数7】

【0042】
なお、伝搬路に変動が存在する場合には(ステップS003のYes)、CSI計算部20は、図9のステップS101〜S106に示すとおり、従来手法による送信ウェイト選択を行う。つまり、予め定義されている全ての送信ウェイト(PM)候補と、通信に使用する周波数帯に属する全てのサブキャリアのCSIとに対して、受信アンテナ数×送信アンテナ数の次元の行列演算を実行することになる。
【0043】
なお、送信ウェイト選択部30は、予めCSIと送信ウェイトとの対応を記憶しており、かかる対応によって、代表チャンネル状態情報に対応する、送信ウェイトを選択することもできる。
【0044】
基地局2は、通信端末1よりフィードバックされた送信ウェイトインデックスを用いて送信ウェイトを選択することにより、フィードバックMIMOの通信特性を改善することができる。
【0045】
本実施例によると、CSIの落ち込みがない場合には、各サブキャリアのCSIがフラットフェージング状態にあると考えられるため、送信ウェイト適用範囲のCSIの平均値(CSIAve)を用いて、送信ウェイトの選択を行うことにより、少ない演算量で(少ない消費電力で)、適切な送信ウェイトを選択することが可能になる。
【0046】
図6および図7は、本発明の一実施形態にかかる送信ウェイト選択方法と、従来方式の送信ウェイト選択方法とによる、MIMO通信時のスループット特性を示す図である。なお、図6は、チャンネルの伝搬路選択性が比較的穏やかな場合(Pedestrian-B)での特性を示し、図7は、チャンネルの伝搬路選択性が厳しい場合(Enhanced Typical Urban)での特性を示す。また、図8は、本発明の一実施形態にかかる送信ウェイト選択方法と、従来技術の送信ウェイト選択方法とによる、演算量を示す図である。図6〜8より明らかなとおり、本発明の一実施形態にかかる送信ウェイト選択方法では、少ない演算量(約25%減)で、従来手法と同等のスループットを実現していることがわかる。
【0047】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0048】
上記実施例では、伝搬路の変動判定基準として電力を用いているが、これは他の基準、例えば位相や振幅値などでも構わない。例えば、位相を基準とする場合には、受信部10がCSIの位相を検出し、伝搬路変動判定部50が、隣接するチャンネル間で位相の回転方向が反転する場合を変動と判定することができる。さらに、位相の回転量に着目する場合には、伝搬路変動判定部50が、位相の回転量が所定の閾値より多いサブキャリアがある場合を変動と判定することができる。また、振幅値を基準とする場合には、受信部10が振幅値の大きさを検出し、伝搬路変動判定部50が、振幅値が所定の閾値より低いサブキャリアがある場合を変動と判定することができる。また、上記実施例では単純にアンテナ間のCSIに関して論じているが、例えばCSIに送受信のウェイトを乗じた系としての電力値を基準としても構わない。
【0049】
また、本願発明は、CSIの変動の有無によって、各送信ウェイト適用範囲において一律に、CSI毎に送信ウェイト候補とのSINRを個別に計算するか、代表CSI(送信ウェイト適用範囲のCSIの平均値)のみと送信ウェイト候補とのSINRを計算するか、を切り換える態様に限られるものではなく、例えば、CSIの変動が激しい送信ウェイト適用範囲(例えばサブバンド)においては、CSI毎に送信ウェイト候補とのSINRを個別に計算し、CSIの変動がない送信ウェイト適用範囲においては、代表CSI(送信ウェイト適用範囲のCSIの平均値)のみと送信ウェイト候補とのSINRを計算するといった、送信ウェイト適用範囲毎に処理を切り換える態様も、当然本願発明の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係る通信端末が使用可能な、通信ネットワークの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る通信端末の構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る通信端末の動作のフローチャートである。
【図4】E−UTRA(LTE)における周波数分割単位を示す図である。
【図5】伝搬路の違いによる周波数選択性の一例を示す図である。
【図6】MIMO通信時のスループット特性を示す図である。
【図7】MIMO通信時のスループット特性を示す図である。
【図8】送信ウェイト選択にかかる演算量を示す図である。
【図9】従来の通信端末の動作のフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
1 通信端末
2 基地局
10 受信部
20 CSI計算部
30 送信ウェイト選択部
40 送信部
50 伝搬路変動判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを備えた無線通信装置であって、
他の無線通信装置から所定の周波数帯域に属するチャンネルの信号を受信し、前記チャンネルのチャンネル状態情報を取得する受信部と、
前記チャンネル状態情報の変動を判定する判定部と、
前記チャンネル状態情報に変動がない場合に、前記所定の周波数帯域に属する全ての前記チャンネル状態情報の平均値を、前記所定の周波数帯域全体の代表チャンネル状態情報として計算する、チャンネル状態情報計算部と、
前記計算された代表チャンネル状態情報に基づいて、送信ウェイトを選択する送信ウェイト選択部と、
前記送信ウェイトの識別情報を前記他の無線通信装置に送信する送信部と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記判定部は、
全ての前記チャンネル状態情報が、
全ての前記チャンネル状態情報の平均値に基づく閾値以上である場合に、
前記チャンネル状態に変動がないと判定する、
請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記送信ウェイト選択部は、
前記チャンネル状態情報と前記送信ウェイトとの対応を記憶しており、
前記代表チャンネル状態情報に対応する、記憶された前記送信ウェイトを選択する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
複数のアンテナを備えた無線通信装置の無線通信方法であって、
他の無線通信装置から所定の周波数帯域に属するチャンネルの信号を受信し、前記チャンネルのチャンネル状態情報を取得するステップと、
前記チャンネル状態情報の変動を判定する判定ステップと、
前記チャンネル状態情報に変動がない場合に、前記所定の周波数帯域に属する全ての前記チャンネル状態情報の平均値を、前記所定の周波数帯域全体の代表チャンネル状態情報として計算する計算ステップと、
前記計算された代表チャンネル状態情報に基づいて、送信ウェイトを選択するステップと、
前記送信ウェイトの識別情報を前記他の無線通信装置に送信するステップと
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項5】
前記判定ステップにおいて、
全ての前記チャンネル状態情報が、
全ての前記チャンネル状態情報の平均値に基づく閾値以上である場合に、
前記チャンネル状態に変動がないと判定する、
請求項4に記載の無線通信方法。
【請求項6】
前記送信ウェイト選択ステップにおいて、
予め記憶してある前記チャンネル状態情報と前記送信ウェイトとの対応から、
前記代表チャンネル状態情報に対応する、前記送信ウェイトを選択する、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−81396(P2010−81396A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248824(P2008−248824)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】