説明

無菌包装米飯の製造方法

【課題】pHが4.6以下であり、酸味・酸臭の抑えられた米飯食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩又は水和物、及びこれらのいずれかの混合物からなる群より選択され、得られる米飯食品100重量分に対し1重量部以下であり、かつpH低下剤pHを4.6以下とするのに有効な量の、pH低下剤1重量部に対し0.5〜10重量部のオリゴ糖混合物であって、このときオリゴ糖混合物は、5〜7糖を合計15重量%以上含有し、好ましくはさらに2〜3糖を合計10重量%以上含有するものを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品における、酸味及び/又は酸臭の抑制方法、それを利用した食品、並びにそのために用いる剤に関する。本発明は、pHを調整した無菌米飯における酸味及び/又は酸臭の抑制のために有用である。
【背景技術】
【0002】
常温で保存でき、温めるだけで喫食できるようにした密閉容器入りの米飯食品が市販されている。このような食品においては、ボツリヌス菌の殺菌又は増殖抑制が必須であり、そのための主な方法として、いわゆるレトルト処理又はそれに類似した処理を施す方法と、米国保健福祉省・食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)の酸性化食品(Acidified foods)に指定される条件、すなわちpHを4.6以下に調整する方法とがある。
【0003】
特許文献1は、(1)精米を洗米する工程、(2)浸漬水に浸漬後、浸漬水から取り出す工程、(3)蒸し器により蒸す工程、(4)無菌設備中でガスバリヤー性耐熱容器中に脱酸素剤と共に充填し、完全に密封する工程からなる蒸し米飯の製造方法において、上記の(2)の工程中および上記の(3)の工程中において、精米をグルコノデルタラクトン、グルコン酸またはその塩あるいはこれらの混合物から選択される少なくとも一つを必須成分として含有する水溶液と接触させて、蒸した後の米飯のpHが4.0〜4.8となるように調整することにより、米飯の製造方法を開示する。この方法によると、ボツリヌス菌をはじめとする食中毒の原因菌の増殖を防止することが可能であることが述べられている。
【0004】
特許文献2は、水に浸漬後に水切りされた米を少なくとも含む食材を、順次搬送されてくる容器に設定量ずつ入れ、その容器に加えた炊き水により炊飯して米飯食品を製造する工程において、その炊き水に、少なくともリゾチームを含む酵素製剤を添加し、前記容器の開口部を炊飯の完了後に密封することを特徴とする米飯食品の製造方法を開示する。この方法においては、その炊き水にグルコン酸液を添加することができ、グルコン酸とリゾチームとの併用により、それぞれの使用量を抑えることができることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−89880号公報
【特許文献2】特開2001−346529号公報(特許第4211963号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、無菌常温米飯食品に対し、pH4.6以下となるように、pH調整を行うことについて検討してきた。しかしながら、米飯食品においてpH調整のために有効な量で酸を添加した場合には、酸由来の酸味・酸臭が、特に加熱した際に、無視できないレベルとなることがあった。酸特有の酸味及び酸臭を、米飯として許容可能なレベルにまで低減させることができれば、製品としてさらに望ましいことはいうまでもない。
【0007】
そこで、本発明者らは、酸味及び酸臭の低減効果を有する物質の検討を種々行った結果、ある種のオリゴ糖に酸に対する顕著な効果があることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下のものを提供する:
[1]米飯食品の製造方法であって:
(1)下記を含む原材料:
米;
グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩又は水和物、及びこれらのいずれかの混合物からなる群より選択され、得られる米飯食品100重量分に対し1重量部以下であり、かつpH低下剤pHを4.6以下とするのに有効な量の、pH低下剤;
pH低下剤1重量部に対し0.5〜10重量部のオリゴ糖混合物であって、このときオリゴ糖混合物は、5〜7糖を合計15重量%以上含有し、好ましくはさらに2〜3糖を合計10重量%以上含有するものであり;及び

を準備し、そして、
(2)原材料の混合物を、殺菌上有効であり、かつ調理上有効な条件で加熱調理して米飯食品を得る
工程を含む、米飯食品の製造方法。
[2](1)開口部を有する容器内に原材料を充填した後に加熱調理し;そして
(2)加熱調理後に容器の開口部を予め殺菌処理したシール材で密閉する
工程を含む、[1]記載の製造方法。
[3]pH低下剤が、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、これらの塩又は水和物、及びこれらのいずれかの混合物からなる群より選択される、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]オリゴ糖混合物が、pH低下剤1重量部に対し2〜6重量部であり、5〜7糖を合計30重量%以上含有するものである、[1]〜[3]のいずれか1に記載の製造方法。
[5]オリゴ糖混合物が、pH低下剤1重量部に対し2〜6重量部であり、5〜7糖を合計15重量%以上、さらに3糖を20重量%以上含有するものである、[1]〜[3]のいずれか1に記載の製造方法。
[6]米飯食品100重量分に対し1重量部以下のpH低下剤(このときpH低下剤は、グルコン酸及び/又はグルコノデルタラクトンを含む。);及び
pH低下剤1重量部に対し0.5〜10重量部のオリゴ糖混合物(このときオリゴ糖混合物は、5〜7糖を15重量%以上含み、好ましくはさらに2〜3糖を10重量%以上含む。)
を含み、
pHが4.6以下である、容器入り米飯食品。
[7]5〜7糖を15重量%以上含み、好ましくはさらに2〜3糖を10重量%以上含むオリゴ糖混合物を含有する、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩もしくは水和物、又はこれらのいずれかの混合物の、酸味及び/又は酸臭の抑制剤。
[8]5〜7糖を15重量%以上含み、好ましくはさらに2〜3糖を10重量%以上含むオリゴ糖混合物を用いる、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩もしくは水和物、又はこれらのいずれかの混合物からなる群より選択されるいずれかの酸味及び/又は酸臭の抑制方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<原材料>
pH低下剤:
本明細書でいう「pH低下剤」とは、特に記載した場合除き、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩又は水和物、及びこれらのいずれかの混合物からなる群より選択されるものを指す。pH低下剤は、本発明においては、米飯食品のpHを下げ、保存性を向上させるために使用される。
【0009】
本発明において使用される好ましいpH低下剤は、米飯食品において適切な量を使用した場合に、酸味及び酸臭を強く呈しないものが好ましく、また後述するオリゴ糖混合物の添加により酸味及び酸臭をマスキング可能なものが好ましい。このようなpH低下剤の例は、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸である。
【0010】
グルコノデルタラクトン(D-グルコノ-1,5-ラクトン。GDL、グルコノラクトンということもある。)は、水溶液中ではグルコン酸と平衡状態にある。食品添加物として、豆腐、チーズ等の凝固剤、ビスケット、パン等の膨張剤、ハム、ソーセージ等のpH調整剤、ジュース等の酸味料として利用されている。グルコン酸((2R,3S,4R,5R)-2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキサン酸)は、天然物(蜂蜜、果物、米)の中に微量存在する成分である。クエン酸(2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸。3-ヒドロキシペンタン二酸-3-カルボン酸ということもある。)は、天然物では、かんきつ類等の中に比較的多く含有されている成分である。
【0011】
本発明におけるpH低下剤の量は、最終製品としての米飯食品のpHを4.6以下とするのに有効な量であり、かつ米飯食品に対してマスキング不能な酸味・酸臭を与えない範囲の量である。当業者であれば、用いるpH低下剤の種類に応じて、使用量を適宜設計することができるが、多くの場合、pH低下剤は、1重量部以下で使用される。
【0012】
例えば、pH低下剤としてGDLを用いる場合、米飯食品100重量部に対して、0.05
〜1重量部、好ましくは0.1〜0.75重量部、より好ましくは、0.2〜0.5重量部用いることができる。
【0013】
本発明においては、pH低下剤の量は、浸漬米(米に水を吸収させたもの)を炊飯する際に加える水(炊き水)へ添加する割合として示すこともできる。例えば、pH低下剤としてGDLを用いる場合、炊き水におけるpH低下剤の量は、0.05〜2重量%であり、好ましくは0.1〜2重量%であり、より好ましくは0.2〜1重量%である。
【0014】
本発明においては、pH低下剤の添加により、最終製品としての米飯食品のpHは4.6以下に調整される。4.6以下であれば、特に制限はないが、pH4.5以下とするのが好ましい。本発明において米飯食品に関してpH値をいうときは、特に示した場合を除き、本明細書の実施例に記載された方法で測定した値をいう。
【0015】
本発明においては、pH低下剤は製法に拠らず、合成物、天然物、発酵により生産されたもののいずれも用いることができる。
オリゴ糖混合物:
本発明で「オリゴ糖混合物」というときは、オリゴ糖(2〜20の単糖がグリコシド結合したもの)を主成分とする糖質の混合物であり、オリゴ糖以外の糖類(単糖、21糖以上のもの)を含んでもよい。オリゴ糖混合物の主成分となる糖質の例は、マルトオリゴ糖(グルコースがα-1,4グルコシド結合したもの。例えば、マルトース(G2とあらわすことがある。)、マルトトリオース(G3)、マルトテトラオース(G4)、マルトペンタオース(G5)、マルトヘキサオース(G6)、マルトヘプタオース(G7))、分岐オリゴ糖(グルコースのα-1,6グルコシド結合構造を含むもの。例えば、イソマルトース、パノース)、ゲンチオオリゴ糖(グルコースのβ-1,6グルコシド結合構造を含むもの。例えば、ゲンチオビオース、ゲンチアノース)、ニゲロオリゴ糖(例えば、ニゲロース、ニゲロシルグルコース、ニゲロシルマルトース)、トレハロースである。なお、本明細書においては、グルコース又はグルコース単位をG、フルクトース又はフルクトース単位をF、マルトースをMと表すことがある。
【0016】
本発明においては、オリゴ糖混合物は、pH低下剤によって呈される酸味及び/又は酸臭を抑制するために用いられる。
本発明のオリゴ糖混合物は、5〜7糖、合計15重量%以上含有する。なお、本発明においてオリゴ糖混合物の組成を示す場合は、特に記載した場合を除き、そのオリゴ糖混合物中の糖質(固形分)中の割合として示している。例えば、「5〜7糖を合計15重量%」というときは、そのオリゴ糖混合物中に含まれる全糖質を100重量部としたとき、そのオリゴ糖混合物中に含まれる糖単位が5〜7である糖質の合計が15重量%であることをいう。このような割合は、高速クロマトグラフィー等の従来技術を用いて測定することができる。
【0017】
本発明のオリゴ糖混合物は、酸臭抑制効果の高い5〜7糖を高い割合で含有する。好ましい態様においては、オリゴ糖混合物は、G6、G7が酸臭を抑制する効果が特に高いことから、5〜7糖、好ましくはG6及び/又はG7を、10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上含有する。
【0018】
本発明のオリゴ糖はまた、5〜7糖を高い割合で含有し、かつ酸味抑制効果の高い2〜3糖を高い割合で含有することが好ましい。好ましい態様においては、オリゴ糖混合物は、5〜7糖(好ましくはG6及び/又はG7)を合計7.5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上含有し、かつ2〜3糖(好ましくは2糖及び3糖、又は3糖)を、10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上含有する。
【0019】
本発明においては、オリゴ糖混合物の量は、pH低下剤1重量部に対し0.1〜10重量部とすることができる。好ましくは1〜8重量部であり、より好ましくは2〜6重量部である。
本発明においては、オリゴ糖混合物の量を炊き水へ添加する割合として示すこともできる。炊き水におけるオリゴ糖混合物の量(固形分)は、0.1〜10重量%であり、好ましくは0.5〜7.5重量%であり、より好ましくは1〜6重量%である。
【0020】
本発明においては、オリゴ糖混合物として、製法、由来に拠らず、種々のものを用いることができる。
米その他:
本発明で「米」というときは、特に記載した場合を除き、調理されていないものをいい、「米」は、玄米、分づき米、白米(精白米ということもある。)、これらの混合物を含む。本発明においては、米は、ジャポニカ種(日本型、短粒種)、インディカ種(インド型、長粒種)、ジャバニカ種(ジャワ型、大粒種)であってもよく、うるち米であってももち米であってもよく、品種も限定されないが、食味に優れた品種を特に好適に用いることができる。このましい品種の例には、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、キヌヒカリ、きらら、はえぬき、ほしのゆめ、つがるロマンがある。
【0021】
本発明における原材料の「水」としては、米飯製造において通常用いられるものを使用することができる。
本発明においては、原材料として、上述したもののほか、米以外の穀類(例えば、麦、あわ、ひえ、きび)、具材(例えば、豆類、野菜、果実、畜肉、魚貝類)、調味料、食品として許容される添加物(例えば、リゾチーム)を適宜使用することができる。
【0022】
本発明で「米飯食品」というときは、白飯、具飯(米と種々の具材とを混合した食材を炊飯することで製造される米飯)を含む。
<製造方法>
本発明においては、米飯食品は、原材料を準備し、そして原材料の混合物を、殺菌上有効であり、かつ調理上有効な条件で加熱調理する工程を含む方法により、製造される。
【0023】
本発明の製造方法は、好ましくは、開口部を有する容器内に原材料を充填した後に加熱調理し;そして加熱調理後に容器の開口部を予め殺菌処理したシール材で密閉する工程を含む。このような工程により製造された米飯食品は、常温保存で無菌状態を充分に長く(例えば、6か月を超えて)保つことができ、電子レンジ等に加熱直ちに喫食可能である。
【0024】
本発明の第1の工程では、必要な原材料を準備する。米は、常法により洗米・浸漬・水切りしておくことができる。具材を用いる場合は、必要に応じて下処理しておく。原材料の全部又は一部を混合し、炊飯のための機器又は開口部を有する個別の容器内に、所定量だけ充填する。
【0025】
続く殺菌及び調理工程では、個別の容器に充填された形態である場合は、殺菌処理を別に実施してもよい。この殺菌工程では容器入り原料に調理水を加えないで、そのまま所定短時間だけ高温加熱する。この場合の加熱方法は、140〜145℃の高温度に維持させたチャンバー内に、1回につき例えば4〜8秒間程度の短時間づつ間欠的に所定回数(例えば合計6〜8回程度)だけ出し入れするようにして行うとよい。この殺菌工程は、高圧下(例えば1.2〜4気圧程度)において行ってもよい。
【0026】
加熱調理工程では、水を含むすべての原料を、調理上有効な条件(例えば100〜105℃程度の蒸気で、数十分間加熱する)で調理する。
個別の容器に充填された形態である場合は、調理工程に続いてシール工程を経ることができる。ここでは、殺菌処理したシール材を常法により調理済み容器入り食品の容器開口部に熱融着させて、該容器開口部を完全シールする。シール工程を終えた容器入り調理物は、さらに蒸らし工程(例えば、90℃〜100℃で数十分)に投じてもよく、その後必要に応じ、水等を用いて冷却に投じてもよい。必要であれば、その後にさらに、各種検査(例えばピンホール検査や重量検査)を行って最終製品とすることができる。
【0027】
<本発明の効果等>
本発明により、pHが4.6以下で、無菌であって、pH低下のために使用した添加物の酸味・酸臭が抑えられた米飯食品及びその製造方法が提供される。
【0028】
本発明者らの検討によると、2〜3糖は、pH低下剤の酸味に対して抑制効果を有するが、酸臭はあまり抑えない。また、G4は、何れに対しても効果が低いようであり、一方G6及び/又はG7は、pH添加材の酸味・酸臭を抑える効果が高い。また、オリゴ糖混合物は、GDLのみではなく、クエン酸に対しても効果があり、他のpH低下剤の酸味・酸臭に対しても効果を有しうる。
【0029】
本発明者らの検討に拠ると、G6及びG7に比較して、糖そのものの甘みで勝るマルトース、果糖ぶどう糖糖液、スクロースにおいて、酸味及び酸臭に対する効果が高いわけではなかった。また、米飯食品にpH低下剤として添加される酸類は、飲料やすし飯等の酸味を有する食品における酸量と比較して少量であることを考慮すると、本発明におけるオリゴ糖混合物の酸味・酸臭抑制機序は、従来技術において酸味を糖の甘味でマスキングする場合の作用機序とは異なることが推察される。したがって、本発明は、従来技術の酸味抑制とは異なる用途を提供するものであるといえる。
【0030】
本発明はまた、5〜7糖を15重量%以上含み、好ましくはさらに2〜3糖を10重量%以上含むオリゴ糖混合物を含有する、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩もしくは水和物、又はこれらのいずれかの混合物の、酸味及び/又は酸臭の抑制剤(本発明で「剤」というときは、食品添加物として適した形態の組成物を指し、既存の食品を含まない。)を提供し;また、5〜7糖を15重量%以上含み、好ましくはさらに2〜3糖を10重量%以上含むオリゴ糖混合物を用いる、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩もしくは水和物、又はこれらのいずれかの混合物からなる群より選択されるいずれかの酸味及び/又は酸臭の抑制方法を提供する。
【実施例】
【0031】
[実施例1:オリゴ糖混合物組成及び添加量に関する検討]
<方法>
実験には、下表のオリゴ糖混合物等を用いた。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
以下の方法で、無菌米飯食品を製造した。
1)新潟産コシヒカリ精米(白度40.5)を200g軽量した。
2)ざるの中で流水で軽く混ぜながら30秒洗米した。
3)ボールに移し変えて5回すすいだ。
4)ボールの中で生米の4倍の水を加えて20℃で、1時間浸漬した。
5)浸漬米に下表の炊飯水を164ml添加し、炊飯器(MITSUBISHI NJ-JG10を使用して、炊飯器にあらかじめ設定されている通常の炊飯条件(約20分の密封加熱と約20分前後の非密封加熱とからなる。)で炊飯し、炊飯米を得た。
【0035】
【表3】

【0036】
炊飯米のpH計測は、下記のように行った。
1)5g以上の米飯を9倍の蒸留水を添加し、30分以上20℃で放置した。
2)指で米粒が潰れることを確認した後、ストマッカーで3分ホモジナイズした。
3)その上清を採取し、pH測定した。
【0037】
官能評価は、炊き上げ30分後に実施した。また、官能評価は、専門のパネラー2〜3名により、GDLを使用したものはn=4、クエン酸を使用したものはn=3で実施し、各回の結果を総じて最終的な評価結果とした。
【0038】
<結果>
pH計測及び官能評価の結果を下表に示した。
【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
酸臭の評価で++++以上のものは炊き上がり後に酸臭があり、それがしばらく持続するが、+++は持続しなかった。オリゴ糖混合物又はその他の糖を添加したものは、無添加のものよりもおこげのような着色を呈した。色の強弱にはほとんど違いは観られなかったが、強いて挙げれば、クラスターデキストリン又はサイクロデキストリンを添加したものは、他の場合よりも濃い着色が観られた。
【0042】
(1)より、用いた量では、マルトース単独では、酸味を少し抑えるが酸臭はあまり抑えないと考えられた。良好な結果の得られた(2)と(3)との比較より、G6及び/又はG7のオリゴ糖には 、酸味、酸臭を抑える効果があるが、G4の効果は低いように思われた。
【0043】
(3)と良好な結果の得られた(4)との比較より、(4)においては、M(G2)の量が増えているのでその影響の可能性もあるが、G3が効いている可能性が示唆された。
(11)と(12)の違いはG7の効果が出ていると考えることができる。そう考えると、G7は単独で(G6と混合でなくても)効果がある。
【0044】
オリゴ糖混合物は、GDLのみではなく、クエン酸に対しても効果があることが分かったが、GDLに対して特に良い効果を示した。
以上より、GDLの酸味抑制と酸臭抑制は、別の物質に拠ると考えられた。酸味に関しては2〜3糖、酸臭に関しては6〜7糖に顕著な効果が見られたが、サイクロデキストリンやクラスターデキストリンについてはほとんど酸味酸臭軽減効果はなかった。G67に比較して、糖そのものの甘みで勝るマルトース、果糖ぶどう糖糖液、スクロースが酸味及び酸臭に対する効果が高いわけではなかったので、G67の作用機序は、従来技術の酢酸などの酸味を糖の甘味でマスキングする作用機序とは異なることが推察された。
【0045】
[実施例2:組み合わせの効果の確認、個食用製品の製造]
以下の方法で、トレー入り無菌米飯食品を製造した。
1)新潟産コシヒカリ(白度43)を水に1時間浸漬した。
2)得られた浸漬米112gをトレーに充填した。
3)加圧加熱機にて加熱時間5秒を4ショット行い、殺菌した(F値は約10)。殺菌後、トレーに炊き水113.5g(対生米150%)を加えて、コンベクションスチーマーで100℃前後で、32分炊飯した。
炊き水は下表の配合で調合した。炊き水中のGDL濃度はすべて0.4%とした。
4)炊飯後、さらに、フィルムでトレー開口部をシールしてから、70℃以上で15分蒸した。
【0046】
【表6】

【0047】
使用した各オリゴ糖混合物の詳細は、実施例1と同じである。オリゴ糖混合物は、固形分換算せずにそのまま30gずつ使用した。No.5 はG67 と#360をそれぞれ半量ずつ混合した。なお、G67は水分含有率24±1%、#360の固形分は72%以上である。
【0048】
官能評価は、炊き上げたものを水道水で15分冷却後、500W電子レンジで2分加熱し、30分経過した後のものについて行った。専門のパネラー3名により、n=3で実施し、各回の結果を平均した。
【0049】
【表7】

【0050】
<結果>
結果を下表に示した。
【0051】
【表8】

【0052】
GDLのみに比べてオリゴ糖混合物を使用した試作品すべてにおいて、酸臭及び酸味が抑制された。
さらに、試作品を1ヶ月間35℃で保存し、官能評価した結果を下表に示した。
【0053】
【表9】

【0054】
GDLのみに比べてオリゴ糖混合物を使用した試作品すべてにおいて、酸臭及び酸味が抑制された。特に組み合わせて使用した試作品においては、酸臭が充分に抑制された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米飯食品の製造方法であって:
(1)下記を含む原材料:
米;
グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩又は水和物、及びこれらのいずれかの混合物からなる群より選択され、得られる米飯食品100重量分に対し1重量部以下であり、かつpH低下剤pHを4.6以下とするのに有効な量の、pH低下剤;
pH低下剤1重量部に対し0.5〜10重量部のオリゴ糖混合物であって、このときオリゴ糖混合物は、5〜7糖を合計15重量%以上含有し、好ましくはさらに2〜3糖を合計10重量%以上含有するものであり;及び

を準備し、そして、
(2)原材料の混合物を、殺菌上有効であり、かつ調理上有効な条件で加熱調理して米飯食品を得る
工程を含む、米飯食品の製造方法。
【請求項2】
(1)開口部を有する容器内に原材料を充填した後に加熱調理し;そして
(2)加熱調理後に容器の開口部を予め殺菌処理したシール材で密閉する
工程を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
pH低下剤が、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、これらの塩又は水和物、及びこれらのいずれかの混合物からなる群より選択される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
オリゴ糖混合物が、pH低下剤1重量部に対し2〜6重量部であり、5〜7糖を合計30重量%以上含有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
オリゴ糖混合物が、pH低下剤1重量部に対し2〜6重量部であり、5〜7糖を合計15重量%以上、さらに3糖を20重量%以上含有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
米飯食品100重量分に対し1重量部以下のpH低下剤(このときpH低下剤は、グルコン酸及び/又はグルコノデルタラクトンを含む。);及び
pH低下剤1重量部に対し0.5〜10重量部のオリゴ糖混合物(このときオリゴ糖混合物は、5〜7糖を15重量%以上含み、好ましくはさらに2〜3糖を10重量%以上含む。)
を含み、
pHが4.6以下である、容器入り米飯食品。
【請求項7】
5〜7糖を15重量%以上含み、好ましくはさらに2〜3糖を10重量%以上含むオリゴ糖混合物を含有する、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩もしくは水和物、又はこれらのいずれかの混合物の、酸味及び/又は酸臭の抑制剤。
【請求項8】
5〜7糖を15重量%以上含み、好ましくはさらに2〜3糖を10重量%以上含むオリゴ糖混合物を用いる、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、これらの塩もしくは水和物、又はこれらのいずれかの混合物からなる群より選択されるいずれかの酸味及び/又は酸臭の抑制方法。