説明

無限軌道走行装置及び走行車

【課題】転倒しても走行を続けられる無限軌道走行装置及び走行車を提供すること。
【解決手段】回転自在な複数の転輪5に巻き回される無端状の軌道体4によって車体2を走行させる無限軌道走行装置3であって、軌道体4の内側に設けられ、各転輪5のそれぞれを支持するリンク機構10と、このリンク機構10を駆動して、各転輪5を介して軌道体4の外形を変形させる駆動部とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端状の軌道体が循環して走行する無限軌道走行装置及び走行車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の走行車(クローラまたは無限軌道車両)として、例えば特許文献1に開示されたものは、軌道体が循環する無限軌道走行装置の本体と、別の軌道体が循環する前後のフリッパーとを備え、本体に対するフリッパーの傾斜角度を変えて、不整地や傾斜地を走行するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−132104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の無限軌道走行装置及び走行車にあっては、例えば走行車が転倒して裏返しになった場合に、走行不能になるという問題点があった。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、転倒しても走行を続けられる無限軌道走行装置及び走行車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転自在な複数の転輪に巻き回される無端状の軌道体によって車体を走行させる無限軌道走行装置であって、軌道体の内側に設けられ、各転輪のそれぞれを支持するリンク機構と、このリンク機構を駆動して、各転輪を介して軌道体の外形を変形させる駆動部とを備える構成とする。
【0007】
また、本発明は、上記の無限軌道走行装置を介して走行する走行車であって、左右の前記無限軌道走行装置によって支持され、伸長した無限軌道走行装置の間に挟まれる無限軌道内領域に収まる車体を備えることを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、無限軌道走行装置は、駆動部がリンク機構を駆動して、各転輪を介して軌道体の外形を変形させるので、軌道体の高さを車体の高さよりも高くしたり低くすることができる。これにより、無限軌道走行装置が転倒した場合に、軌道体の高さを車体の高さよりも高くすることにより、転倒した状態から走行を続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態を示す収縮時における無限軌道走行装置の斜視図である。
【図2】同じく伸長時における無限軌道走行装置の斜視図である。
【図3】同じく(a)は、収縮時における無限軌道走行装置の平面図であり、(b)は、伸長時における無限軌道走行装置の平面図である。
【図4】同じく(a)は、収縮時における無限軌道走行装置の側面図であり、(b)は、伸長時における無限軌道走行装置の側面図である。
【図5】同じく(a)は、収縮時における無限軌道走行装置の正面図であり、(b)は、伸長時における無限軌道走行装置の正面図である。
【図6】本発明の他の実施形態を示す無限軌道走行装置の側面図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示す無限軌道走行装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1〜5に示す走行車1は、車体2の左右に一対の無限軌道走行装置3を備え、不整地や傾斜地を走行可能である。
【0012】
左右の無限軌道走行装置3は、無端状(環状)の軌道体(クローラ)4と、この軌道体4の背面4b側に転接する4つの転輪(クローラピニオン)5と、この各転輪5を支持する4節の変形可能なリンク機構10とを備え、軌道体4が各転輪5に巻き回され、リンク機構10の外側全周に渡って循環するようにそれぞれ構成される。
【0013】
軌道体4は、路面9に接地する接地面4aと、各転輪5に転接する背面4bとを有し、この背面4bには例えば転輪5の図示しない歯車(ピニオン)に噛み合う歯(ラック)等が設けられる。
【0014】
各転輪5の少なくとも1つが図示しないモータ(駆動源)によって駆動される。1つの転輪5が回転駆動されることにより、軌道体4が各転輪5に転接して循環する。
【0015】
走行車1は、左右の無限軌道走行装置3を駆動する図示しない左右のモータが同一速度で回転作動することにより直進し、左右のモータが速度差をもって回転作動することにより旋回し、左右のモータの回転方向が同時に反対方向に切り替えられることによって前進、後進が切り替えられる。
【0016】
リンク機構10は、隣り合う転輪5を連結する4つのフレーム11と、各フレーム11の端部どうしを回動可能に連結する4つの軌道軸15とを備える。各フレーム11は、互いに等しい長さを有する。これによって、リンク機構10は、互いに対向するフレーム11どうしが平行な関係を保ちながら移動する平行リンク機構を構成する。
【0017】
なお、リンク機構10は、平行リンク機構に限らず、例えば5つ以上のフレーム11を備える構成とし、無限軌道走行装置3は、フレーム11と同数の転輪5を備える構成としてもよい。
【0018】
このように、軌道体4が循環して車体2を走行させる無限軌道走行装置3は、軌道体4に転接する4つ以上の転輪5と、この各転輪5を支持する4節以上の変形可能なリンク機構10とを備え、軌道体4がリンク機構10の外側を循環するように構成される。
【0019】
フレーム11には軌道体4を案内するガイドレールまたはガイドローラ等が軌道体4の背面側に設けられる。これにより、軌道体4は、フレーム11の外周に沿って直線状の経路を循環し、路面9に対する接地面圧が広い範囲に分布する。
【0020】
リンク機構10は、図示しない駆動部(アクチュエータ)によって各フレーム11が軌道軸15を支点として回動する。
【0021】
駆動部は、例えばそれぞれの端部どうしが回動可能に連結される二つのフレーム11のうち、一方のフレーム11にその回動中心軸と同軸上に連結されるウォームホイールと、他方のフレーム11に連結されウォームホイールに噛み合うウォームと、このウォームを回転駆動するモータとによって構成される。モータによってウォームが回転駆動されると、ウォームに噛み合うウォームホイールが回転作動し、ウォームホイールと一緒に、一方のフレーム11が他方のフレーム11に対して回動するようになっている。
【0022】
駆動部の作動によって各フレーム11が互いに回動すると、リンク機構10が拡縮して変形することにより、軌道体4の循環経路の形状(外形)が図4の(a)に示す略菱形と、図4の(b)に示す略矩形との間で変わる。
【0023】
転輪5は、軌道軸15と同軸上にて回転可能に支持される。これにより、各フレーム11が互いに回動してリンク機構10が拡縮して変形しても、循環経路の周長(軌道体4のある点が各転輪5に渡って一周するときの距離)が大きく変わらないようになっている。
【0024】
また、リンク機構10は、4つ以上のフレーム11と、各フレーム11の端部どうしを回動自在に連結する軌道軸15とを備え、転輪5は軌道軸15と同軸上にて回転可能に支持される構成としてもよい。
【0025】
車体2は、左右の無限軌道走行装置3の間に配置され、左右1組のフレーム11に連結される。
【0026】
車体2の前方に配置される左右1組の軌道軸15は、ロッド8によって互いに同軸上に連結される。左右のリンク機構10は、このロッド8を介して互いに連結されることにより、互いに平行に配置される関係が保たれるとともに、互いに循環経路の形状が同一になる関係が保たれる。
【0027】
図1と図3〜5の(a)は、左右の無限軌道走行装置3のリンク機構10が略菱形になるように折り畳まれた収縮時を示している。この収縮時に車体2に連結されたフレーム11の下に延びる軌道体4の部位が路面(地面)9に接地し、車体2より前方(図3〜5にて左方向)に位置するフレーム11の下に延びる軌道体4の部位が路面9に対して傾斜し、前後端の転輪5間の距離である軌道体4の有効長が前後方向について拡大するとともに、無限軌道走行装置3の重心が低くなり、重心が車体2の中央付近から車体2の前端付近(図4の(a)に示す状態においてリンク機構10の中央位置)に移動する。
【0028】
これにより、走行車1は、路面9に溝等の凹部がある場合に、軌道体4の傾斜部が先行して凹部の先の路面9に接地することにより、凹部を渡って走行できる。
【0029】
また、走行車1は、路面9に凸部がある場合に、軌道体4の傾斜部が先行して凸部に接地することにより、凸部を乗り越えて走行できる。
【0030】
図2と図3〜5の(b)は、左右の無限軌道走行装置3のリンク機構10が略矩形になるように伸長した伸長時を示している。車体2は、この伸長時における左右の無限軌道走行装置3の間に挟まれる空間である無限軌道内側領域Aに収まる形状を有している。これにより、走行車1は、左右の軌道体4が持つ4つの面のうち、いずれの面が接地しても走行を続けられる。
【0031】
これについて詳述すると、図2と図3〜5の(b)に示すように、左右の無限軌道走行装置3のリンク機構10が略矩形になるように伸長した伸長時に、左右の軌道体4が略矩形の経路を循環し、左右の軌道体4の間に略立方体の無限軌道内側領域Aが画成される。車体2は、この伸長時における無限軌道内側領域Aに収まる形状を有する。
【0032】
換言すると、図4の(b)に示す伸長時の走行車1の側面図上において、車体2は、無限軌道走行装置3(軌道体4)の外形より小さい外形を有し、無限軌道走行装置3の外形の内側に収まり、無限軌道走行装置3の外形から突出する部位を持たない。
【0033】
走行車1は、例えば転倒して上下方向について反転する裏返しになったような場合に、リンク機構10を伸長させることにより、車体2が無限軌道内側領域Aに収まって路面9に干渉することが避けられ、軌道体4のいずれかの部位が路面9に接地した状態が維持され、走行を続けることができる。
【0034】
車体2に取り付けられる中央のアタッチメント7は、伸長時における左右の無限軌道走行装置3の間に挟まれる空間である無限軌道内側領域A内に収まるように格納される。
【0035】
また、左右の無限軌道走行装置3に対する車体2の取付け高さを変えられる高さ調整機構(図示せず)を設けて、走行車1が転倒する可能性がある場合に、車体2の取付け高さを低くして走行車1の重心を下げるとともに、アタッチメント7等を無限軌道内側領域Aの内側に収める構成してもよい。
【0036】
なお、走行車1が横方向に転倒(反転)して左右の無限軌道走行装置3のうち一方が路面9に接地し、他方が路面9から離れることが考えられるが、これに対処して車体2の側方に突出する伸縮アーム(図示せず)を設けて、この伸縮アームを介して車体2を起こす構成としてもよい。また、車体2の側方に常時突出する固定アーム(図示せず)を設けて、この固定アームを介して車体2が転倒することを防止する構成としてもよい。
【0037】
以下、本実施形態の要旨と作用、効果を説明する。
【0038】
本実施形態では、回転自在な複数の転輪5に巻き回される無端状の軌道体4によって車体2を走行させる無限軌道走行装置3であって、軌道体4の内側に設けられ、各転輪5のそれぞれを支持するリンク機構10と、このリンク機構10を駆動して、各転輪5を介して軌道体4の外形を変形させる駆動部とを備える構成とする。
【0039】
上記構成に基づき、無限軌道走行装置3は、駆動部がリンク機構10を駆動して、各転輪5を介して軌道体4の外形を変形させるので、軌道体4の高さを車体2の高さよりも高くしたり低くすることができる。例えば、無限軌道走行装置3が走行する場合に、軌道体4の高さを車体2の高さよりも低くして、軌道体4の有効長を長くする。また、無限軌道走行装置3が転倒した場合に、軌道体4の高さを車体2の高さよりも高くする。
【0040】
無限軌道走行装置3は、軌道体4の高さを車体2の高さよりも低くして、軌道体4の有効長を長くすることにより、走破性を向上させることができる。また、無限軌道走行装置3は、軌道体4の高さを車体2の高さよりも高くすることにより、転倒した状態から走行を続けることができる。
【0041】
本実施形態では、前記リンク機構10は、隣り合う転輪5を連結するフレーム11と、このフレーム11と転輪5とを回動自在に支持する軌道軸15とを備える構成とする。
【0042】
上記構成に基づき、無限軌道走行装置3は、各フレーム11が互いに回動してリンク機構10が拡縮しても、軌道体4の循環経路の周長が大きく変わらず、軌道体4の張力が適度に保たれる。
【0043】
また、前記転輪5は、4つ以上設けられ、前記フレーム11は、4つ以上設けられる構成とする。
【0044】
上記構成に基づき、無限軌道走行装置3は、各フレーム11が互いに回動してリンク機構10が拡縮する。
【0045】
本実施形態では、無限軌道走行装置3を介して走行する走行車1であって、左右の無限軌道走行装置3によって支持され、伸長した無限軌道走行装置3の間に挟まれる無限軌道内領域Aに収まる車体2を備える構成とした。
【0046】
上記構成に基づき、走行車1は、左右の無限軌道走行装置3に備えられるリンク機構10が収縮することによって軌道体4の有効長が前後方向について拡大して走破性を高められるとともに、走行車1が転倒して裏返しになってもリンク機構10が伸長することによって、車体2が無限軌道内側領域Aの内側に収まって路面9に干渉することが抑えられ、軌道体4を路面9に接地させて走行を続けられ、不整地や傾斜地を走行することができる。
【0047】
なお、走行車は、これに限らず、例えば、単一の無限軌道走行装置を車体の中央部に設け、車体の左右に補助輪を設ける構成としてもよい。
【0048】
次に、他の実施形態として、図6に示すように、リンク機構20は、対角にある転輪5を連結する2つのフレーム21と、各フレーム21の中央部を回動自在に連結する軌道軸25とを備える構成としてもよい。各フレーム21は、互いに等しい長さを有する。
【0049】
上記構成に基づき、図6(a)に示すように、リンク機構20は、駆動部によって前後方向に拡がった状態では、軌道体4の有効長を長くし、走破性を高められる。図6(b)に示すように、リンク機構20が作動した状態では、軌道体4の4つの面のうちいずれの面が接地しても走行を続けられる。図6(c)に示すように、リンク機構20は、上下方向に延びた状態では、軌道体4の有効長が短くなる。
【0050】
なお、リンク機構20が拡縮するのに伴って軌道体4の循環経路の周長が変わるが、これに対処して軌道体4の張力を略一定に保つ張力補償機構(図示せず)を備える構成としてもよい。
【0051】
次に、他の実施形態として、図7に示すように、リンク機構30は、伸縮シリンダ32と交差して対角にある転輪5を連結するフレーム31を備え、駆動部は、対角にある転輪5を連結するとともに、伸縮自在な伸縮シリンダ32を備える構成としてもよい。
【0052】
上記構成に基づき、図7(a)に示すように、リンク機構20は、伸縮シリンダ32が収縮すると、軌道体4の有効長を長くし、走破性を高められる。図7(b)に示すように、伸縮シリンダ32が伸長すると、軌道体4が略矩形の経路を循環し、軌道体4の4つの面のうちいずれの面が接地しても走行を続けられる。
【0053】
なお、リンク機構20が拡縮するのに伴って軌道体4の循環経路の周長が変わるが、これに対処して軌道体4の張力を略一定に保つ張力補償機構(図示せず)を備える構成としてもよい。
【0054】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の無限軌道走行装置及び走行車は、例えば海底採鉱機、無人偵察機、他の作業機等に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 走行車
2 車体
3 無限軌道走行装置
4 軌道体
5 転輪
7 アタッチメント
8 ロッド
10 リンク機構
11 フレーム
15 軌道軸
20 リンク機構
21 フレーム
25 軌道軸
30 リンク機構
31 フレーム
32 伸縮シリンダ
A 無限軌道内側領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在な複数の転輪に巻き回される無端状の軌道体によって車体を走行させる無限軌道走行装置であって、
前記軌道体の内側に設けられ、前記各転輪のそれぞれを支持するリンク機構と、
前記リンク機構を駆動して、前記各転輪を介して前記軌道体の外形を変形させる駆動部とを備えることを特徴とする無限軌道走行装置。
【請求項2】
前記リンク機構は、
隣り合う前記転輪を連結するフレームと、
前記フレームと前記転輪とを回動自在に支持する軌道軸と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の無限軌道走行装置。
【請求項3】
前記転輪は、4つ以上設けられ、
前記フレームは、4つ以上設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の無限軌道走行装置。
【請求項4】
前記リンク機構は、
対角にある前記転輪を連結するフレームと、
前記各フレームを回動自在に連結する軌道軸と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の無限軌道走行装置。
【請求項5】
前記各フレームは、互いに等しい長さを有することを特徴とする請求項2から4のいずれか一つに記載の無限軌道走行装置。
【請求項6】
前記駆動部は、対角にある転輪を連結するとともに、伸縮自在な伸縮シリンダを備えることを特徴とする請求項1に記載の無限軌道走行装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の無限軌道走行装置を介して走行する走行車であって、
左右の前記無限軌道走行装置によって支持され、伸長した前記無限軌道走行装置の間に挟まれる無限軌道内領域に収まる車体を備えることを特徴とする走行車。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−240655(P2012−240655A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116019(P2011−116019)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(304039065)カヤバ システム マシナリー株式会社 (185)