説明

無電解めっき装置及び無電解めっき方法

【課題】めっき液の組成を簡便に制御可能な無電解めっき装置及び方法を提供する。
【解決手段】めっき槽2と、めっき槽2から抜き取っためっき液に金属のイオンを補給する金属溶解槽30、31と、金属溶解槽30、31から送られた液に含まれる溶存酸素の濃度を低下させて曝気液を生成する曝気槽4とを含む無電解金属めっき装置1を用い、めっき槽2から抜き取っためっき液を金属溶解槽30、31に送るめっき液搬送部と、高濃度化しためっき液を金属溶解槽30、31から曝気槽4に送る高濃度化めっき液搬送部と、曝気槽4からめっき槽2に曝気液を送る曝気液搬送部と、めっき液に酸素を溶解する酸素富化ガス供給部60、61とを備え、金属溶解槽30、31は、槽内に内包させる金属を配置・取り出し可能とする。イオンの溶解量を調節可能とし、酸素富化ガス供給部60、61は、金属溶解槽30、31又はめっき液搬送部に付設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき装置及び無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高速化、高性能化に伴い、システムボード、メモリボード等として使用されるプリント配線板の配線設計も多層化し、かつ、高密度化している。
【0003】
配線形成技術としては、電気めっき及び無電解めっきがあるが、後者は、電解分布の影響を受けず、前者に比べて膜厚均一性に優れており、配線の多層化、高密度化に対応可能な技術としてその重要性を増している。
【0004】
従来、プリント配線板や各種プラスチックのめっきに使用する無電解銅めっき液には、一般に、銅イオン源として硫酸銅、錯化剤にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、還元剤にホルムアルデヒドを用いている。
【0005】
無電解銅めっき処理を繰り返す場合、銅めっき反応の進行に伴って消費される各種成分を補うため、通常、銅イオンやホルムアルデヒドを補給しながら実施する。それに伴い、銅イオンの対イオンである硫酸イオン(SO2−)、反応副生成物であるぎ酸イオン(HCOO)などがめっき液中に蓄積する。塩の蓄積によりめっき液比重が増加すると共に溶存酸素濃度が低下し、めっき液が不安定になり、処理する基板の表面に銅の微粒子が異常析出する不具合が発生する。このため、ある時点でめっき液を新たに建浴して現状運用している。生産性向上および廃液量低減のためには、めっき液を長寿命化し、建浴頻度を低減することが望まれている。
【0006】
無電解銅めっき液の長寿命化を図るため、硫酸イオンやぎ酸イオンの除去方法あるいは生成抑制方法が種々提案されている。
【0007】
特許文献1には、低温槽内でめっき液を霧状に吹き付けて反応生成物を再結晶化させて除去する方法が開示されている。
【0008】
特許文献2には、水酸化バリウムを添加して硫酸イオンを硫酸バリウムとして除去する方法が開示されている。
【0009】
特許文献3には、電気透析法又は逆浸透膜法によりぎ酸イオンを除去する方法が開示されている。
【0010】
一方、特許文献4には、硫酸銅五水和物の代わりに、水酸化銅、酸化銅、オキシ塩化銅、並びに銅の塩基性炭酸塩、塩基性塩化物及び塩基性硫酸塩からなる群から選ばれる銅含有物質を使用する方法が開示されている。
【0011】
また、これらの銅含有物質を溶解してめっき槽に移送する方法については、特許文献5〜7に開示されている。
【0012】
また、硫酸銅五水和物の代わりに、銅イオン源として金属銅を用いるめっき方法および装置については特許文献8に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−67987号公報
【特許文献2】特開平7−286279号公報
【特許文献3】特開昭56−136967号公報
【特許文献4】特公昭59−32542号公報
【特許文献5】特開昭63−83282号公報
【特許文献6】特開平5−306471号公報
【特許文献7】特開平6−25863号公報
【特許文献8】特許3809608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、めっき液を長寿命化し、処理する基板の面積の変動に柔軟に対応可能とし、無電解めっき装置をコンパクト化し、めっき液の組成を簡便に制御可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の無電解金属めっき装置は、被めっき処理基材をめっき液に浸漬して金属のめっきを行うめっき槽と、前記めっき槽から抜き取った前記めっき液に前記金属のイオンを補給する金属溶解槽と、前記金属溶解槽から送られた液に含まれる溶存酸素の濃度を低下させて曝気液を生成する曝気槽とを含む装置であって、前記めっき槽から抜き取った前記めっき液を前記金属溶解槽に送るめっき液搬送部と、高濃度化した前記めっき液を前記金属溶解槽から前記曝気槽に送る高濃度化めっき液搬送部と、前記曝気槽から前記めっき槽に前記曝気液を送る曝気液搬送部と、前記めっき液に酸素を溶解する酸素富化ガス供給部とを含み、前記金属溶解槽は、その槽内に内包させる前記金属を配置・取り出し可能であって前記イオンの溶解量を調節可能としたものであり、前記酸素富化ガス供給部は、前記金属溶解槽又は前記めっき液搬送部に付設され、前記金属は、銅又はニッケルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、めっき液を長寿命化し、処理する基板の面積の変動に柔軟に対応可能とし、無電解めっき装置をコンパクト化し、めっき液の組成を簡便に制御可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例の無電解銅めっき装置を示す模式構成図である。
【図2】実施例の無電解銅めっき装置における銅イオン供給量の変化を示すグラフである。
【図3】実施例の金属銅溶解槽を示す模式構成図である。
【図4】比較例の無電解銅めっき装置を示す模式構成図である。
【図5】図1の曝気槽4の詳細な構成を示す断面図である。
【図6】実施例の金属銅溶解槽を示す模式構成図である。
【図7】図6の金属銅溶解槽の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、プリント配線板や各種プラスチックに無電解めっきを行う新規な無電解めっき装置及び無電解めっき方法を提供するものである。
【0019】
特許文献8において、無電解銅めっき装置は、めっき槽、貯液槽、金属銅溶解槽、銅補給槽および移送ポンプを含む構成を有している。この無電解銅めっき装置においては、めっき槽から一部汲み取っためっき液を移送ポンプによって貯液槽に送給し、次に、貯液槽から移送ポンプによって金属銅溶解槽に送給する。すなわち、金属銅溶解槽に酸素富化ガスを吹き込み、めっき液中の溶存酸素によって金属銅を溶解し、めっき液中の銅イオンを増大させる方式である。この無電解銅めっき装置においては、銅イオン濃度の高まっためっき液を再び貯液槽に戻し、更に貯液槽から移送ポンプにより銅補給槽に送給し、最終的に銅補給槽からめっき槽に供給する経路が配置してある。
【0020】
また、金属銅の溶解反応を維持するために、金属銅に外部より電位を与えるための電位測定器を設けている。無電解銅めっき液に硫酸イオンの蓄積を防止できると共に、配管内に銅の析出が起こらず、繰り返し無電解銅めっきにおいてめっき膜表面に銅微粒子の付着が起こらない平滑なめっき膜を長期間にわたって安定して得られることが開示されている。
【0021】
特許文献8において、めっき液は、めっき槽から一旦貯液槽に送液される。めっき反応に伴う銅イオン消費を補うためには、貯液槽から金属銅溶解槽への送液を行うことでめっき液中の銅イオン濃度を高めることが可能である。逆に、めっき液中の銅イオン濃度が上昇しすぎた場合には、貯液槽から金属銅溶解槽への送液を停止することにより、銅イオン濃度の制御が可能と考えられる。金属銅溶解槽から銅イオン濃度の高まっためっき液が貯液槽に送液され、i)銅補給槽に一旦送液する場合及びii)貯液槽から移送ポンプを逆回転して直接めっき槽に送液する場合が開示されている。
【0022】
しかし、上記i)の場合においては、めっき槽および金属銅溶解槽の他に貯液槽及び銅補給槽を設ける必要があり、装置規模が大きく複雑になること、また、各槽の温度等の条件を保持するため、より多くのエネルギーを必要とすること等の欠点がある。上記ii)の場合においては、銅イオン濃度の高まっためっき液のめっき槽への供給が間欠的にならざるを得ず、めっき液中の銅イオン濃度の変動が大きくなり、めっき膜質に影響を及ぼすおそれがある。
【0023】
また、特許文献8のめっき装置およびめっき方法においては、処理する基板の面積が比較的一定の場合には有効であるが、それが大きく変動する場合には不具合が発生することが考えられる。すなわち、特許文献8に示すように、1槽のめっき槽に対して1槽の銅溶解槽を配置した場合を考える。処理する基板の面積をa(m)、めっき速度をv(m/h)とした場合、銅めっき反応に伴う単位時間あたりの銅消費量はav(m/h)となる。
【0024】
めっき液中の銅イオン濃度を安定に保つためには、めっき反応により消費された銅イオンを補給する必要がある。金属銅の溶解速度をv’、金属銅の表面積をa’とした場合、a’v’=avとなるように、金属銅溶解槽内に金属銅を所定量配置し、溶解速度を調整する必要がある。銅溶解速度は、金属銅に印加する電位や銅溶解槽内に供給するガス中の酸素含有比率である程度調節が可能であると考えられるが、我々の検討の結果から限界があることがわかった。
【0025】
処理する基板の面積が通常処理している条件に比べて極端に小さい条件においては、金属銅の溶解量を低下させる必要があるが、金属銅に印加する電位や供給ガス中の酸素含有比率の変更だけでは銅の溶解量を制御できなくなった。これは、電位で調整する場合、銅の溶解電位より負の電位を印加すると、溶解反応ではなく、めっき反応に転じてしまうためである。
【0026】
供給ガス中の酸素含有比率で調整する場合、銅溶解槽に供給する酸素量を低下させると、槽内部の銅の量が供給される酸素量に比べて過剰に存在する結果、局所的には銅の溶解反応が進行するものの、溶解槽内部の酸素濃度が低下した領域で銅が再析出してしまうためである。
【0027】
また、特許文献8に示すめっき装置およびめっき方法においては、金属銅溶解槽の使用経過時間の変化に伴い溶解槽内部の銅の表面積が変化するため、溶解槽出口から送液されるめっき液中の銅イオン濃度が変動する。電位あるいは酸素含有比率を変化させることである程度の補給量を調整することができるが、より精度良く濃度を制御するには不十分であった。
【0028】
本発明は、無電解めっき方法および無電解めっき装置に関し、銅イオン源として従来の硫酸銅五水和物、水酸化第二銅、酸化第二銅、オキシ酸銅、銅の塩基性炭酸塩、塩基性塩化物、塩基性硫酸塩などを使用する代わりに、金属銅を用いるめっき方法であって、めっき液を長寿命化し、かつ、処理する基板面積の変動に柔軟に対応可能で、装置規模を必要最小限とし、めっき液組成を簡便に制御可能なより実用的な無電解めっき方法および無電解めっき装置を提供することを目的とする。
【0029】
本発明の無電解めっき方法、無電解めっき装置およびそれらの技術を利用して製造したプリント配線板は、以下の特徴を有する。
【0030】
本発明の無電解銅めっき装置は、めっき槽中の無電解銅めっき液の一部を抜き取り、金属銅を内包した金属銅溶解槽に抜き取った無電解銅めっき液を送液し、無電解銅めっき液中の溶存酸素によって化学的に金属銅を銅イオンとして無電解銅めっき液に溶解し、めっき槽に補給しながら銅めっきを行うめっき装置であって、金属銅とめっき液との接触面積を可変にできる無電解銅めっき装置である。通常めっき処理を行う基板面積を1とした場合、処理基板面積が0.1〜1と変化した条件でも不具合なくめっき処理を実施するため、金属銅とめっき液との接触面積を通常の条件に対して0.01〜1倍に変化できるようにすることが好ましい。これにより、金属銅溶解槽に供給する酸素の量を少なくした場合も、それに対応して金属銅とめっき液との接触面積を小さくすることができ、金属銅溶解槽における酸素不足を防止し、金属銅溶解槽に浸漬した金属銅の表面でめっき反応が生じることを防止することができる。なお、処理基板面積が通常条件に対して0.01倍未満の場合は、めっき液比重の増加が小さく、液寿命に及ぼす影響が小さいため、金属銅溶解槽を使用せず、後述するように併設した硫酸銅水溶液のみによる銅イオン補給で行うことができる。
【0031】
金属銅とめっき槽から銅溶解槽に送液される無電解銅めっき液との接触面積を変える手段を考慮し、本発明の無電解銅めっき装置は、金属銅溶解槽を2槽以上有する構成とすることが望ましい。2槽以上の金属銅溶解槽を配置する場合、金属銅溶解槽ごとに異なる量の金属銅を配置することが好ましい。
【0032】
また、本発明の無電解銅めっき装置は、金属銅溶解槽内に金属銅を保持する金属銅保持体を設け、金属銅保持体を可動式にし、金属銅とめっき液との接触面積を可変にできる無電解銅めっき装置である。より好ましくは、めっき槽から金属銅溶解槽内に送液される無電解銅めっき液の液面に対して金属銅保持体の配置位置を相対的に上下に変えられる無電解銅めっき装置である。
【0033】
本発明の無電解銅めっき装置は、めっき槽と、該めっき槽から移送ポンプによって送給された無電解銅めっき液によって金属銅を溶解し、銅補給液を形成する前述した金属銅溶解槽と、該金属銅溶解槽内に酸素富化ガスを吹き込む酸素富化ガス供給部と、金属銅溶解槽より得られる銅補給液中の溶存酸素濃度を調整する曝気槽と、曝気槽内の銅補給液をめっき槽に供給する経路と、金属銅溶解槽を経由せずめっき液を循環させる経路と、めっき液の流通する経路を切り替えるバルブと、めっき槽にめっき反応の開始を確認するセンサと、制御部とを具備した無電解銅めっき装置である。制御部によりめっき槽でのめっき反応の開始を伝達する信号および被めっき処理基板(被めっき処理基材)の面積の値に基づいて切り替えバルブを制御することがより好ましい。
【0034】
以上の無電解銅めっき装置は、めっき槽中の無電解銅めっき液の一部を抜き取り、金属銅を内包した金属銅溶解槽に抜き取った無電解銅めっき液を送液し、無電解銅めっき液中の溶存酸素によって化学的に金属銅を銅イオンとして無電解銅めっき液に溶解し、めっき槽に補給しながら銅めっきを行うめっき装置であるが、これらに加えて規定濃度の銅イオン補給液をめっき槽に補給する補給装置を配置するものである。
【0035】
すなわち、めっき槽と、該めっき槽から移送ポンプによって送給された無電解銅めっき液によって金属銅を溶解し銅補給液を形成する金属銅溶解槽と、該金属銅溶解槽内に酸素富化ガスを吹き込む酸素富化ガス供給部と、金属銅溶解槽より得られる銅補給液中の溶存酸素濃度を調整する曝気槽と、曝気槽内の銅補給液をめっき槽に供給する経路と、金属銅溶解槽を経由せずにめっき液を循環させる経路と、めっき液の流通する経路を切り替えるバルブと、めっき槽にめっき反応の開始を確認するセンサと、規定濃度の銅イオン補給液をめっき槽に補給する補給装置と、制御部とを具備した無電解銅めっき装置である。
【0036】
本発明の無電解銅めっき方法は、前述の無電解銅めっき装置を用いることにより、以下の方法をとることができる。すなわち、無電解銅めっき反応により消費する銅イオンを補給するために必要な銅イオン補給を粗補給と微補給とに分け、めっき槽から送液される無電解銅めっき液と金属銅との接触面積が相対的に大きい金属銅溶解槽より得られる銅イオンにより粗補給し、めっき槽から送液される無電解銅めっき液と金属銅との接触面積が相対的に小さい金属銅溶解槽より得られる銅イオンにより微補給する無電解銅めっき方法である。
【0037】
金属銅を溶解することにより銅イオンをめっき槽に補給する方法と共に、規定濃度の銅イオン補給液を補給する方法を併用しながら、めっきを行う無電解銅めっき方法である。すなわち、金属銅溶解槽内の金属銅を化学的に溶解することより得られる銅イオンにより粗補給し、規定濃度の銅イオン補給液により微補給する無電解銅めっき方法である。
【0038】
本発明のプリント配線板は、以上の無電解銅めっき装置あるいはめっき方法より製造されるプリント配線板である。
【0039】
以下、本発明の一実施形態に係る無電解金属めっき装置及び無電解金属めっき方法について説明する。
【0040】
前記無電解金属めっき装置は、被めっき処理基材(めっき処理する基板等を含む。)をめっき液に浸漬して金属(銅又はニッケル)のめっきを行うめっき槽と、めっき槽から抜き取っためっき液に金属のイオンを補給する金属溶解槽と、金属溶解槽から送られた液に含まれる溶存酸素の濃度を低下させて曝気液を生成する曝気槽とを含む。そして、めっき槽から抜き取っためっき液を金属溶解槽に送るめっき液搬送部と、金属溶解槽より得られる高濃度化しためっき液を曝気槽へ送液する高濃度化めっき液搬送部と、曝気槽からめっき槽に曝気液を送る曝気液搬送部と、めっき液に酸素を溶解する酸素富化ガス供給部とを含む。金属溶解槽は、その槽内に内包させる金属を任意に配置・取り出し可能であって金属のイオンの溶解量を調節可能としたものであり、酸素富化ガス供給部は、金属溶解槽又はめっき液搬送部に付設してある。
【0041】
前記無電解金属めっき装置において、金属溶解槽は、金属とめっき液との接触面積を変化させることができるように構成してある。
【0042】
前記無電解金属めっき装置は、金属溶解槽を複数備えている。
【0043】
前記無電解金属めっき装置において、複数の金属溶解槽はそれぞれ、異なる量の金属を配置可能としている。
【0044】
前記無電解金属めっき装置は、金属を保持した状態で金属溶解槽の内部に浸漬・引き上げ可能とした金属保持体を設けてある。
【0045】
前記無電解金属めっき装置は、切り替えバルブを有する分岐部をめっき液搬送部に設け、切り替えバルブを切り替えることにより分岐部からめっき液をめっき槽に返送可能としてある。また、前記無電解金属めっき装置には、めっき槽にめっき反応の開始を検知するセンサが付設してある。
【0046】
前記無電解金属めっき装置は、センサからの信号及び被めっき処理基材の面積の値に基づいて切り替えバルブを制御する制御部を有する。
【0047】
前記無電解金属めっき装置は、金属の塩の溶液を作製してめっき液に補給するイオン補給部を備えている。
【0048】
前記無電解金属めっき方法は、めっき槽と、金属溶解槽と、曝気槽とを含む無電解金属めっき装置を用いてめっきを行う方法であって、めっき槽に入れためっき液に被めっき処理基材を浸漬して金属のめっきを行い、めっき槽から抜き取っためっき液と空気よりも酸素濃度が高い酸素富化ガスとを接触させることによりめっき液の溶存酸素濃度を増加させ、そのめっき液と金属とを接触させることによりめっき液に含まれる金属のイオンの濃度を増加させ、めっき液と空気又は空気より酸素濃度が低いガスとを接触させることにより溶存酸素濃度を低下させて曝気液とし、この曝気液をめっき槽に送る工程を有する。そして、金属溶解槽は、その槽内に内包させる金属の量を任意に変えて配置・取り出し可能であって金属のイオンの溶解量を調節可能としたものである。
【0049】
前記無電解金属めっき方法は、金属の塩の溶液を作製し、溶液をめっき液に混合する工程を有する。
【0050】
前記無電解金属めっき方法において、金属溶解槽における金属のイオンの溶解量は、溶液をめっき液に混合する工程における金属のイオンの補給量よりも多くしている。
【0051】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0052】
表1は、実施例の無電解銅めっき液の組成及びめっき条件を示したものである。尚、めっき液の建浴時点では銅イオン源として硫酸銅五水和物を用いた。還元剤は、特にホルムアルデヒドに限定されず、グリオキシル酸なども用いることができる。
【0053】
【表1】

【0054】
図1は、実施例の無電解銅めっき装置(無電解金属めっき装置)を示す模式構成図である。
【0055】
無電解銅めっき装置1は、めっき槽2、2槽の金属銅溶解槽30、31(金属溶解槽)、曝気槽4、及び銅の塩の一種である硫酸銅の溶液を作製してめっき槽2に補給する銅イオン補給部5を含む構成である。
【0056】
めっき槽2のめっき液には、常時空気が供給されており、ヒータや熱交換器等の加温手段で液温度が一定に保たれている。金属銅溶解槽30、31の底部にはそれぞれ酸素富化ガス供給部60、61が配置され、減圧弁80、81、酸素流量計90、91を介して酸素発生装置70、71(酸素発生部)が接続されている。めっき槽2と金属銅溶解槽30、31とは、送液ポンプ10を介して配管で接続されており、金属銅溶解槽30、31に流入しためっき液に酸素富化ガス、すなわち、空気より酸素濃度の高いガスを供給することができる。配管には、切り替えバルブ11を配置し、それにより金属銅溶解槽30、31を経由せずめっき液を循環させることが可能である。
【0057】
ここで、送液ポンプ10、及びめっき槽2と金属銅溶解槽30、31とを接続する配管をめっき液搬送部と呼ぶ。
【0058】
本図においては、酸素富化ガス供給部60、61は、金属銅溶解槽30、31の底部に設けてあるが、めっき液搬送部に設けてもよい。
【0059】
また、2槽の金属銅溶解槽30、31への流通分岐部にも切り替えバルブ212を配置し、これにより、銅溶解槽30、31の両者にめっき液を流通させること、或いは溶解槽30のみ、又は溶解槽31のみにめっき液を流通させることも可能である。
【0060】
金属銅溶解槽30、31の内部に配置する金属銅251、252の量は、同量としても良いが、好ましくは異なる量とする。各金属銅溶解槽30、31はそれぞれ、フィルタ12、13を介して送液ポンプ14、15により曝気槽4に接続されている。なお、送液ポンプ14、15、及び金属溶解槽30、31と曝気槽4とを接続する配管を高濃度化めっき液搬送部と呼ぶ。曝気槽4は、送液ポンプ16を有する配管を介してめっき槽2に接続されている。曝気槽4内には、空気または酸素濃度が空気より比較的低いガスを供給し、金属銅溶解槽30、31を経由することにより溶存酸素濃度の高まっためっき液を通常の溶存酸素濃度のめっき液に戻すようになっている。ここで、曝気槽4において通常の溶存酸素濃度に戻されためっき液を曝気液と呼ぶ。なお、送液ポンプ16、及び曝気槽4とめっき槽2とを接続する配管を曝気液搬送部と呼ぶことにする。
【0061】
また、本明細書において、「空気」とは、窒素及び酸素の比がおよそ80:20である地球の大気の組成を有するガスをいう。
【0062】
ここで、めっき液の物質収支について検討する。
【0063】
めっき槽2における通常のめっき処理時の被処理基板の面積をa(m)とする。また、表1に示すめっき液は、めっき速度v(m/h)であるとする。このとき、めっき反応の進行に伴うめっき液中の銅消費速度はav(m/h)となる。これを補い、めっき液の組成を安定化するためには、金属銅溶解槽30、31内の金属銅251、252を溶解することにより、銅イオンの消費量分を補償する必要がある。
【0064】
我々が検討した結果、金属銅の表面積に対して十分過剰な酸素流量を供給する場合、金属の溶解量は金属銅の表面積に比例することがわかった。また、酸素流量を変化させることにより銅の溶解量を変化させられることがわかった。上述したように、金属銅の溶解速度は酸素流量によりある程度制御可能である。ここで、溶解速度v’(m/h)とする。このとき、めっき反応により消費した銅イオンを補償するためには、金属銅の表面積a’(m)はa’=av/v’(m)である必要があることがわかる。
【0065】
以上の計算に基づき、金属銅溶解槽30に金属銅表面積がa’となるように金属銅を配置する。金属銅は、多角形平板、多角形柱、円柱、球状又はナゲット状のいずれの形状でも用いることができる。
【0066】
以上の条件の下で、金属銅251を金属銅溶解槽30のみに配置し、めっきを行った。このとき、切り替えバルブ212により金属銅溶解槽30にのみめっき槽2のめっき液が流通するように実施した。この場合、問題なく連続的にめっきが可能であった。
【0067】
次に、めっき処理面積を通常条件のa/10(m)とし、金属銅溶解槽30のみを使用してめっきを行った。銅の溶解速度を1/10にするため、酸素流量を極端に低下させた場合、処理の途中でめっき液の銅イオン濃度が低下し、所望の濃度に調節できなくなった。これは、金属銅溶解槽30への酸素供給量を低下させた結果、金属銅溶解槽30の上流では局部的に銅の溶解が進行するが、めっき液中の溶存酸素が銅の溶解反応により消費されてしまい、溶解した銅イオンが下流において再析出したため、めっき槽2に銅イオンが適切に供給できなかったことが考えられる。つまり、1槽のめっき槽2に対して1槽の金属銅溶解槽30では通常の条件でめっきする場合には問題は発生しないが、めっき処理する基板の面積が通常に比べて極端に小さい場合には、不具合が発生する。
【0068】
これらの結果に基づき、金属銅溶解槽30、31にそれぞれ、金属銅251、252の表面積が例えば0.7a(m)、0.3a(m)となるように金属銅251、252を配置する。めっき処理する基板の面積がa(m)の場合、切り替えバルブ212より金属銅溶解槽30、31の両者にめっき液が流通させながらめっきを行うことにより、めっき反応に伴う銅イオン消費量を不足なく補償することができる。
【0069】
また、めっき処理する基板の面積がa/10(m)の場合、切り替えバルブ12により金属銅溶解槽31のみにめっき液を送液し、金属銅溶解槽31の減圧弁81により酸素供給量を低下させた状態でめっきを行うことができる。この場合、金属銅溶解槽31に配置されている金属銅252が少ないため、銅の溶解量を低下させるために酸素供給量を極端に低下させる必要がない。酸素供給量のわずかな低下にとどめられるため、金属銅溶解槽31の内部でめっき反応が進行することなく、銅溶解速度を低く保持しながら連続的に溶解反応を進行させることができる。
【0070】
以上のように、金属銅溶解槽30、31を複数にすることにより、処理する基板の面積の大きな変動に対しても十分対応が可能となる。尚、複数ある金属銅溶解槽30、31のうち1槽にのみめっき液を流通させる場合は、それ以外の金属銅溶解槽30、31には酸素を連続的に供給し、金属銅溶解槽30、31内のめっき液を排出し、金属銅溶解槽30、31の内部でめっき反応が進行しないように、あるいは銅の過剰な溶解が進行しないように制御する。
【0071】
ところで、金属銅溶解槽30、31を繰り返し使用する場合、金属銅溶解槽30、31内部の金属銅251、252が溶解することにより、その表面積が変化する。金属銅251、252として平板を用いる場合は大きな表面積の変化が見られないが、球状の金属銅251、252を用いた場合は比較的表面積の変動が大きくなる。つまり、金属銅溶解槽30、31内の銅ボール表面積が徐々に小さくなり、酸素供給量一定の条件では、銅の溶解量が小さくなっていく。
【0072】
繰り返し使用中に適宜溶解した銅の量を補充するために新たな金属銅を充填することも考えられるが、最初から充填されていた金属銅251、252と新たに充填した金属銅が混在するため、金属銅溶解槽30、31内の金属銅251、252の総表面積は容易に計算できず、結果的に同一条件で酸素供給を行っていても、繰り返し使用に伴い銅の溶解量が変わることになる。従って、めっき液中の銅イオン濃度を所望の値に制御することが難しくなるケースが考えられる。
【0073】
そこで、より好ましい形態として、前述のように複数の金属銅溶解槽30、31を使用することに加えて、従来から用いられている規定濃度の銅イオン補給液を併用する形態が挙げられる。すなわち、規定濃度の銅イオン補給液として、硫酸銅五水和物、水酸化第二銅、酸化第二銅、オキシ酸銅、銅の塩基性炭酸塩、銅の塩基性塩化物、銅の塩基性硫酸塩などを予め規定の濃度に調製した補給液を用いることができる。規定濃度の銅イオン補給液を併用することにより、めっき液の組成をより精度良く制御することが可能になる。
【0074】
複数の金属銅溶解槽30、31と規定濃度の硫酸銅補給液とを併用した場合を例にとって、図2を用いて無電解銅めっき方法を説明する。横軸はめっき時間、縦軸は銅イオン供給量(単位時間あたりの銅溶解量)を示す。前半のT1ではめっき処理面積がa(m)、後半のT2ではめっき処理面積がa/10(m)である。
【0075】
T1においては、めっき槽2から切り替えバルブ212により金属銅溶解槽30、31の両者にめっき液を送液しながら、めっきを行う。その際、金属銅溶解槽30、31に供給する酸素流量は、いずれの槽も例えば通常の90%とする。すなわち、めっき反応による消費量av(m/h)を補償するために、各金属銅溶解槽30、31の銅溶解量が0.7a’×0.9v’、0.3a’×0.9v’に相当する量になるように各酸素流量を設定し、必要な銅イオン補給の粗調整を行う。そして、残る0.7a’×0.1v’+0.3a’×0.1v’に相当する量を硫酸銅溶液で補給することにより、めっき液中の銅イオン濃度の微調整を行う。
【0076】
硫酸銅の補給においては、めっき槽内のめっき液の銅イオン濃度を分析した結果に基づき、規定濃度の硫酸銅補給液(硫酸銅溶液)の必要量を算出することにより、不足分をより精度良く補給することができる。硫酸銅の補給を併用することにより、めっき処理の繰り返しに伴い、めっき液中に硫酸塩が蓄積するため、金属銅溶解槽30、31のみを用いた場合に比べて、めっき液の寿命は短くなる。従って、金属銅溶解槽30、31が担う銅補給量が補給に必要な総量の95〜98%にすることがより好ましい。
【0077】
後半のT2においても同様に、金属銅溶解槽30、31と硫酸銅の補給とを併用してめっきすることができる。この場合、切り替えバルブ12により金属銅溶解槽31のみにめっき液を送液しながら、めっきを行う。同様に金属銅溶解槽が担う銅補給量を補給に必要な総量の90%に設定し、残る10%を硫酸銅補給に担わせ、めっきを行う。
【0078】
以上では、規定濃度の硫酸銅補給液を用いたが、これの代わりに金属銅溶解槽30、31に比べて更に小型の銅溶解槽を用いて、それにめっき液中の銅イオン濃度の微調整用に使用することが更に好ましい形態である。
【0079】
以上から、金属銅溶解槽30、31を複数化し、各金属銅溶解槽30、31内に異なる量の金属銅251、252を配置するめっき装置により、無電解銅めっき液を長寿命化し、かつ、めっき処理する基板の面積の大きな変動に対しても銅を連続的に溶解し、適切な銅イオン補給が可能となる。また、金属銅溶解槽30、31と、硫酸銅補給液又は更に小型の金属銅溶解槽とを併用することにより、めっき液中の銅イオン濃度をより精度良く制御することが可能である。
【0080】
無電解銅めっき装置1は、金属銅溶解槽30、31を経由しないめっき液の送液経路を配置することがより好ましい形態である。また、めっき槽2にめっき反応が開始したことを確認するためのセンサ17を配置することがより好ましい。金属銅溶解槽30、31を経由しためっき液は、各酸素富化ガス供給部60、61によりめっき液中の溶存酸素が高まった状態になっている。
【0081】
曝気槽4においては、めっき液中の溶存酸素濃度を通常の値に戻すため、大量の空気によりめっき液中のガス置換を行う。
【0082】
我々の検討では、処理する基板において一旦めっき反応が進行すると、金属銅溶解槽30、31では銅の溶解反応が進行し、めっき槽2ではめっき反応が進行することがわかった。一方で、ガス置換が不十分な場合、処理する基板に対してもめっき反応が進行しないケースがあった。そのため、めっき槽2においてめっき反応が進行することを確認するためのセンサ17を配置することが好ましい。
【0083】
センサ17は、特に限定されないが、パラジウム(Pd)による触媒処理を施したSUS製の細線をプローブとしてめっき液中に浸漬し、両端に抵抗計を接続したものなどを用いることができる。すなわち、めっき反応の開始によりSUS製の細線表面に銅めっきが被覆するため、抵抗値の減少が見られる。
【0084】
実際のめっき処理においては、処理する基板がめっき槽に浸漬される直前に、切り替えバルブ11により金属銅溶解槽30、31を経由させずにめっき液を循環させる。処理する基板を浸漬した数分後に抵抗値の変化が見られ、めっき反応が開始することがわかる。この抵抗値の変化を検知し、制御部18に信号として送信し、これに基づいて、切り替えバルブ11を作動させ、金属銅溶解槽30、31にめっき液の流通を開始する。
【0085】
また、処理する基板の面積を制御部18に予め入力することにより、切り替えバルブ212および減圧弁80、81を作動させ、処理する基板の面積に応じて金属銅溶解槽の30、31使用槽数および各金属銅溶解槽30、31に供給する酸素の流量を決定することも可能である。
【0086】
以上、本発明の無電解銅めっき装置として、金属銅溶解槽30、31を複数化し、各金属銅溶解槽30、31内に異なる量の金属銅251、252を配置するもの、ならびにそれらと硫酸銅補給液とを併用するものについて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
また、図1においては、銅イオン補給部5をめっき槽2に付設してあるが、本発明はこれに限定されるものではなく、めっき液又は曝気液に硫酸銅の溶液を補給する位置としては、無電解銅めっき装置1の任意の位置を選択することができる。
【0088】
以下では、金属銅溶解槽30、31内の金属銅251、252と金属銅溶解槽30、31内に送液されるめっき液との接触面積を可変にする方式について説明する。
【0089】
例えば、図3に示すように、金属銅溶解槽30を液槽20と、浸漬・引き上げが可能な複数の金属銅支持体21(金属銅保持体又は金属保持体とも呼ぶ。)とで構成する。各金属銅支持体21の内部には、金属銅102が充填されており、金属銅支持体21にはスリット、孔(開口部)などを設け、金属銅支持体21の内部の金属銅102とめっき液103および酸素富化ガス104とが接触できるようになっている。
【0090】
処理する基板の面積がa(m)の場合は、全ての金属銅支持体21を液槽20に浸漬して用いる。一方、処理する基板の面積が小さい場合、例えばa/4(m)の場合は、複数ある金属銅支持体21のうちの1つを液槽20に浸漬し、酸素流量を減圧弁80により調整した状態で用いることができる。
【0091】
前述したように、図3に示す金属銅溶解槽30と硫酸銅補給液とを併用してめっきを行うこともできる。金属銅溶解槽30は、図3に示す形態に限らず、金属銅102とめっき液103の接触面積を簡便に可変できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0092】
尚、本発明の無電解銅めっき装置において、めっき液に接触する部分の材料は、めっき液に溶解しない材料であれば、特に限定されない。例えば、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、金属に耐めっき液の樹脂をライニング加工したものなどを用いることができる。
【0093】
金属銅溶解槽および金属銅支持体21の材質は特に限定されないが、めっき液に溶解し難く、かつ金属銅の重量に耐えうる材質であることが好ましい。例えば、ステンレス鋼のような高強度の金属にめっき液に耐えられる樹脂をライニング加工したものなどを用いることができる。また、高温の水の中においても十分な強度を有するポリプロピレン樹脂(PP)等の樹脂を用いてもよい。
【0094】
さらに、小容量の金属銅支持体21を多数準備し、金属銅102を小分けしてめっき液に浸漬してもよい。これにより、金属銅102の溶解量を微調整することが容易になる。
【0095】
また、無電解銅めっき液への銅イオンの補給は、以上のいずれかの方法を用いればよく、それ以外のホルムアルデヒドやグリオキシル酸などの還元剤や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのpH調整剤や添加剤の補給は公知の方法で行うことができる。補給方法は間欠的な補給あるいは連続補給のいずれの方法でもよい。
【0096】
上記の無電解銅めっき方法および無電解銅めっき装置を用いることにより、めっき皮膜中の不純物濃度が低い、優れた機械特性および接続信頼性を示すプリント配線板を作製することができる。
【0097】
本発明の無電解銅めっき方法および無電解銅めっき装置を用いて作製したプリント配線板は、システムボード、メモリボード等に用いることができるが、特にこれらに限定されるわけではない。
【0098】
上記の無電解銅めっき方法およびめっき装置を用いることによりプリント配線板を作製した実施例を以下に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0099】
実施例1においては、金属銅溶解槽を2槽配置した無電解銅めっき装置および無電解銅めっき方法について説明する。
【0100】
無電解銅めっき装置は、図1に示すものを用いた。
【0101】
めっき槽2に容量2000L(リットル)の無電解銅めっき液を表1の組成で建浴した。最初のめっき液の建浴には、銅イオン源として硫酸銅五水和物を使用した。金属銅251、252としては、直径11mmφの金属銅ボールを用い、金属銅溶解槽30、31にはそれぞれ、410kg(金属銅の総表面積25m)、82kg(金属銅の総表面積5m)の金属銅251、252を充填した。
【0102】
以下、金属銅溶解槽30について更に詳細に説明する。
【0103】
図6は、金属銅溶解槽30の内部を模式的に示す断面図であり、図7は、金属銅溶解槽30を模式的に示す上面図である。
【0104】
これらの図において、金属銅溶解槽30の内部は、隔壁304により仕切られた多段構造としてあり、各段に金属銅102を充填した金属銅保持体21を配置できるようにしてある。溶解槽30の外槽301および内槽302には金属銅挿入口303が設置してあり、それらを介して金属銅102および金属銅保持体21を任意に配置し、取り出すことが可能である。隔壁304は、格子状となっており、めっき液および酸素富化ガスが流通できる構造となっている。
【0105】
金属銅102が溶解する際には、めっき液搬送部よりめっき液が酸素供給部を経由して送液され、内槽302の内部を流通する。その際、金属銅102が溶解し、めっき液中に銅イオンが供給され、めっき液の銅濃度を高濃度化することができる。
【0106】
金属銅溶解槽30の上部に送液された、高濃度化しためっき液は、内槽302と外槽301との間を流通し、排出口305を介して排出され、高濃度化めっき液搬送部を経由して曝気槽4へ送液される。なお、本実施例においては、金属銅溶解槽31も金属銅溶解槽30と同様の構造とした。
【0107】
めっき液が所定温度の74℃になるまでは、制御部18により切り替えバルブ11を切り替え、金属銅溶解槽30、31を経由せずにめっき液を循環させた。めっき槽2には常時空気を供給した。めっき処理を施す基板19の面積を30mとした。めっき前処理として基板19の脱脂、酸洗浄、触媒付与、及び触媒活性化処理を行った。めっき処理前に予め処理する基板19の面積の情報を制御部18に入力した。処理する基板19および同様に触媒処理したSUS製の直径1mmφの細線(センサ17)をめっき液中に浸漬した。
【0108】
SUS細線の両端の抵抗値の急激な減少が数分後に見られ、予め設定しておいた抵抗値を下回った時点で制御部18により切り替えバルブ11および212を作動させ、金属銅溶解槽30、31の両者にめっき液を流通させた。これと同時に、酸素発生部70、71により減圧弁80、81、流量計90、91および酸素供給部60、61を介して金属銅溶解槽30、31に酸素供給を行った。酸素発生部70、71からは、酸素濃度約85%の酸素富化ガスが供給される。酸素供給流量は、銅溶解槽30、31に対してそれぞれ47L/min、9L/minとした。このときの銅溶解速度はそれぞれ約2μm/hに相当する。なお、酸素発生部70、71における高濃度の酸素の生成方式は、特に限定されるものではなく、酸素富化膜を用いてもよいし、圧力スイング吸着(Pressure Swing Adsorption:PSA)を用いてもよい。また、酸素ボンベを利用してもよい。さらに、水の電気分解を利用して酸素を発生させてもよい。
【0109】
曝気槽4は、図5に示すように、二重構造としてある。
【0110】
すなわち、曝気槽4は、外槽201及び内槽202を有する。内槽202には、金属銅溶解槽より送液されるめっき液を供給するための配管203が接続してある。また、内槽202の底部には、溶存酸素濃度を低下させるための空気を供給する空気供給部204が設けてある。外槽201には、溶存酸素濃度を低下させた液をめっき槽2に戻すための配管205が接続してある。
【0111】
曝気槽4の容量は500Lとし、金属銅溶解槽30、31を経由しためっき液は内槽202に供給される。内槽202には金属銅溶解槽30、31を経由しためっき液中の溶存酸素濃度を低下させるために空気を流量200L/minで供給した。内槽202からオーバーフローしためっき液(曝気液)は曝気槽4の外槽201に流出し、このめっき液をポンプ16によりめっき槽2に再び戻すようにした。
【0112】
本図に示す曝気槽4を用いることにより、金属銅溶解槽30、31において溶存酸素濃度が高くなっためっき液に空気を満遍なく接触させることができ、曝気の効率を高めることができる。
【0113】
めっき反応により消費するホルムアルデヒド及び水酸化ナトリウムの補給液としては、37%ホルマリン水溶液及び200g/L水酸化ナトリウム水溶液を用い、めっき液の各成分の濃度分析結果に基づき、不足分を15分間隔で補給した。
【0114】
また、金属銅溶解槽における銅イオン補給に加えて、250g/L硫酸銅五水和物水溶液を補給液として用い、めっき液中の銅イオン濃度の分析結果に基づき、不足分を15分間隔で補給した。
【0115】
表1のめっき液組成とした場合のめっき速度は、約2.2μm/hであり、処理する基板の仕上がりめっき膜厚を25μmとするため、約11.5時間めっきを行った。めっき処理中における金属銅溶解槽30、31への酸素供給流量は一定で行った。めっき処理中、めっき液中の各成分の濃度は設定濃度に対して安定に保持することができた。
【0116】
めっき終了後、基板は、十分水洗し、乾燥した。得られためっき膜は光沢のある平滑な皮膜であった。また、めっき装置は、めっき終了後、制御部18により切り替えバルブ11、212および金属銅溶解槽の底部に設けられた排出口(図示せず)を作動させ、金属銅溶解槽の内部のめっき液を排出すると共に、金属銅溶解槽を経由しない配管経路に切り替え、めっき槽内のめっき液を循環させた。
【0117】
次に、処理する基板の面積を5mとした条件でめっきを行った。
【0118】
切り替えバルブ12により金属銅溶解槽31のみにめっき液を流通させたことを除き、上記と同様にめっきを行った。金属銅溶解槽31への酸素供給流量は9L/minとした。このときの銅溶解速度は約2μm/hである。処理する基板の面積が5mの場合でも、30mと同様にめっき液中の各成分の濃度は設定濃度に対して安定に保持することができた。得られためっき膜は処理する基板の面積が30mの場合と同様に、光沢のある平滑な皮膜であった。
【0119】
引き続き、同様の操作を繰り返してめっきを行ったところ、処理する基板の積算面積が410mになった時点においても問題なくめっき処理が可能であった。初期のめっき液比重1.032(at20℃)であったのに対し、このときのめっき開始時点では比重1.103に増加した。これは、めっき液中にぎ酸イオンが増加したこと、及び硫酸銅の補給により硫酸イオンが増加したことによるものである。しかし、処理する基板の積算面積が410mになった時点でもめっき液はきわめて安定であり、めっき槽2、曝気槽4及び金属銅溶解槽30、31の内壁には銅の析出が認められなかった。また、めっき膜も光沢を呈する平滑な表面であった。
【0120】
以上、金属銅溶解槽を2槽用いて、それぞれに異なる量の金属銅を配置し、かつ硫酸銅補給液を用いることにより、無電解銅めっき液を長寿命化し、処理する基板の面積の大きな変動に対しても不具合なく連続的にめっき液中に銅イオンを供給し、精度良く銅イオン濃度を安定に保持できる効果が得られた。
【実施例2】
【0121】
実施例2においては、金属銅溶解槽を図3の構成としたことを除き、実施例1と同様の構成とし、実施例1と同様の手順でめっきを実施した。
【0122】
金属銅支持体21は、SUS製の直方体のバスケットであり、バスケットの内部に直径27mmφの金属銅ボールを配置した。バスケットの底面および側面は網目状の格子としてあり、約5mm×5mmの開口部が多数存在する構造とした。これにより、バスケットの内部及び外部にめっき液および酸素が行き来でき、かつ金属銅ボールの直径が約5mmに小さくなるまでは金属銅ボールがバスケットの外部に流出することがなく使用できる。
【0123】
液槽20は、容量300Lとし、金属銅支持体21、すなわちバスケットの数を10個とし、各バスケットに金属銅102を約121kg(バスケット1個あたりに充填された金属銅102の総表面積3m)充填した。
【0124】
実施例1と同様に、めっき処理する基板の面積を30mとしてめっきを行った。その際、金属銅支持体10個全てを液槽20に浸漬した。酸素発生部70により、減圧弁80、酸素流量計90、液槽20の底部に設けられた酸素供給部60を介して液槽20のめっき液に対して流量150L/minで酸素供給を行った。このときの銅溶解速度は約1.8μm/hであった。
【0125】
実施例1と同様に硫酸銅補給液を併用した。めっき速度は約2.0μm/hであり、12.5時間めっきを行った。
【0126】
めっき処理中、めっき液中の各成分の濃度は設定濃度に対して安定に保持することができた。得られためっき膜は光沢のある平滑な皮膜であった。
【0127】
次に、めっき処理する基板の面積を3mとし、上記手順と同様にめっきを行った。但し、上記手順と異なり、金属銅支持体21を1個だけを液槽20に浸漬してめっきを行った。めっき処理中、めっき液中の各成分の濃度は設定濃度に対して安定に保持することができた。得られためっき膜は光沢のある平滑な皮膜であった。
【0128】
引き続き、同様の操作を繰り返してめっきを行ったところ、処理する基板の積算面積にして400mになった時点でも問題なくめっき処理が可能であった。初期のめっき液比重1.032(at20℃)であったのに対し、このときのめっき開始時点では比重1.107に増加した。これはめっき液中にぎ酸イオンが増加したことと硫酸銅補給による硫酸イオンの増加のためである。しかし、処理する基板の積算面積が400mになった時点でもめっき液はきわめて安定であり、また、めっき槽2、曝気槽4、金属銅溶解槽30、31の内壁には銅の析出が認められず、更にめっき膜も光沢を呈する平滑な表面であった。
【0129】
以上、金属銅溶解槽を複数槽用い、それぞれに金属銅を配置し、かつ硫酸銅補給液を用いることにより、無電解銅めっき液を長寿命化し、処理する基板の面積の大きな変動に対しても不具合なく連続的にめっき液中に銅イオン供給し、精度良く銅イオン濃度を安定に保持できる効果が得られた。
【実施例3】
【0130】
実施例3においては、金属銅溶解槽を金属ニッケル溶解槽(金属溶解槽)としたことを除き、実施例1と同様の構成とし、実施例1の手順に準拠して無電解ニッケルめっきを実施した。
【0131】
無電解ニッケルめっき装置は、図1に示すものを用いた。
【0132】
めっき槽2には、50Lの無電解ニッケルめっき液を表2の組成で建浴した。
【0133】
【表2】

【0134】
最初のめっき液の建浴には、ニッケルイオン源として硫酸ニッケルを使用した。金属銅251、252に対応する金属ニッケルとしては、直径10mmφの金属ニッケルボールを用い、金属銅溶解槽30、31に対応する金属ニッケル溶解槽にはそれぞれ、48kg(金属ニッケルの総表面積3.2m)、12kg(金属ニッケルの総表面積0.8m)の金属ニッケルを充填した。
【0135】
めっき液が所定温度の85℃になるまでは、制御部18により切り替えバルブ11を切り替え、金属ニッケル溶解槽を経由せずにめっき液を循環させた。めっき槽2には常時空気を供給した。めっき処理を施す基板19の面積を0.5mとした。めっき前処理として基板19の脱脂、酸洗浄、触媒付与、及び触媒活性化処理を行った。めっき処理前に予め処理する基板19の面積の情報を制御部18に入力した。処理する基板19および同様に触媒処理したSUS製の直径1mmφの細線(センサ17)をめっき液中に浸漬した。
【0136】
センサ17(SUS細線)の両端の抵抗値の急激な減少が数分後に見られ、予め設定しておいた抵抗値を下回った時点で制御部18により切り替えバルブ11および212を作動させ、金属ニッケル溶解槽の両者にめっき液を流通させた。これと同時に、酸素発生部70、71により減圧弁80、81、流量計90、91および酸素供給部60、61を介して金属ニッケル溶解槽に酸素供給を行った。酸素発生部70、71からは、酸素濃度約85%の酸素富化ガスが供給される。酸素供給流量は、金属ニッケル溶解槽に対して50L/minとした。このときのニッケル溶解速度はそれぞれ約2μm/hに相当する。
【0137】
曝気槽4の容量は50Lとし、金属ニッケル溶解槽を経由しためっき液中の溶存酸素濃度を低下させるために空気を流量100L/minで供給した。曝気槽4を経由しためっき液(曝気液)をポンプ16によりめっき槽2に再び戻すようにした。
【0138】
めっき反応により消費する次亜燐酸ナトリウム及びpH調整用の補給液としては、50%次亜燐酸ナトリウム水溶液及び200g/L水酸化ナトリウム水溶液または50%硫酸水溶液を用い、めっき液の各成分の濃度分析結果に基づき、不足分を15分間隔で補給した。
【0139】
また、金属ニッケル溶解槽におけるニッケルイオン補給に加えて、250g/L硫酸ニッケル六水和物水溶液を補給液として用い、めっき液中のニッケルイオン濃度の分析結果に基づき、不足分を15分間隔で補給した。
【0140】
表2のめっき液組成とした場合のめっき速度は、約16μm/hであり、処理する基板19の仕上がりめっき膜厚を10μmとするため、約40分間めっきを行った。めっき処理中における金属ニッケル溶解槽への酸素供給流量は一定で行った。めっき処理中、めっき液中の各成分の濃度は設定濃度に対して安定に保持することができた。
【0141】
めっき終了後、基板19は、十分水洗し、乾燥した。得られためっき膜は光沢のある平滑な皮膜であった。また、めっき装置は、めっき終了後、制御部18により切り替えバルブ11、12および金属ニッケル溶解槽の底部に設けられた排出口(図示せず)を作動させ、金属ニッケル溶解槽の内部のめっき液を排出すると共に、金属ニッケル溶解槽を経由しない配管経路に切り替え、めっき槽2内のめっき液を循環させた。
【0142】
次に、処理する基板19の面積を0.1mとした条件でめっきを行った。
【0143】
切り替えバルブ12により金属銅溶解槽31に対応する金属ニッケル溶解槽のみにめっき液を流通させたことを除き、上記と同様にめっきを行った。この金属ニッケル溶解槽(31)への酸素供給流量は50L/minとした。このときのニッケル溶解速度は約2μm/hである。処理する基板19の面積が0.1mの場合でも、0.5mの場合と同様にめっき液中の各成分の濃度は設定濃度に対して安定に保持することができた。得られためっき膜は、処理する基板19の面積が0.5mの場合と同様に、光沢のある平滑な皮膜であった。
【0144】
引き続き、同様の操作を繰り返してめっきを行ったところ、処理する基板19の積算面積が410mになった時点においても問題なくめっき処理が可能であった。初期のめっき液比重1.032(at20℃)であったのに対し、このときのめっき開始時点では比重1.103に増加した。これは、めっき液中にぎ酸イオンが増加したこと、及び硫酸銅の補給により硫酸イオンが増加したことによるものである。しかし、処理する基板19の積算面積が410mになった時点でもめっき液はきわめて安定であり、めっき槽2、曝気槽4及び金属ニッケル溶解槽の内壁にはニッケルの析出が認められなかった。また、めっき膜も光沢を呈する平滑な表面であった。
【0145】
以上、無電解ニッケルめっきの場合においても無電解銅めっきと同様に、金属ニッケル溶解槽を2槽用いて、それぞれに異なる量の金属ニッケルを配置し、かつ硫酸ニッケル補給液を用いることにより、処理する基板19の面積の大きな変動に対しても不具合なく連続的にめっき液中にニッケルイオンを供給し、精度良くニッケルイオン濃度を安定に保持できる効果が得られた。実施例3ではニッケルイオン源として金属ニッケルを用いることにより、実施例1と同様、めっき液中への硫酸ニッケルの蓄積を抑制できるため、無電解ニッケルめっき液を長寿命化できる。
【0146】
なお、実施例3においては、表2に示すニッケルめっき液を用いた場合の説明をしたが、酢酸ナトリウムの代わりに錯化剤として、クエン酸、乳酸、プロピオン酸、コハク酸ナトリウム、リンゴ酸等を含むめっき液を用いた場合でも同様の効果を示すことを確認した。
【0147】
(比較例1)
比較例1の無電解銅めっき装置は図4に示す構成とした。
【0148】
35Lのめっき槽2と10Lの貯液槽50とに、実施例1と同じ無電解銅めっき液を作製した。35Lめっき槽2においては、空気供給部53から18L/minの量で空気を供給しながら保管した。貯液槽50においては、酸素含有ガス供給部160から5L/minの量で空気を噴出して攪拌し、めっき液温度を74℃に保温した。
【0149】
一方、酸素富化ガス供給部161を具備した容量10Lの金属銅溶解槽30内には、金属銅として、直径27mmφの無酸素金属銅ボー ル21kg(金属銅総表面積0.53m)を充填した。貯液槽50のめっき液を移送ポンプ52によって金属銅溶解槽2内に送液すると共に、酸素含有ガス供給部160から7L/minの量の酸素ガスを供給し、貯液槽50に再び流入するようにめっき液を循環させた。そして、貯液槽50内のめっき液の銅濃度が約5.2g/Lになった時点で、この銅補給液を移送ポンプ52で銅補給槽51に送液した。
【0150】
銅補給槽51においては、酸素富化ガス供給部161から2.0L/minの量で空気を供給し、めっき液温度を74℃に保温した。同時に、めっき槽2から貯液槽50への無電解銅めっき液の送液を移送ポンプ52で開始した。この一連のめっき液の流通経路は、めっき槽2、貯液槽50、金属銅溶解槽30、貯液槽50、銅補給槽51及びめっき槽2の順となる。
【0151】
処理する基板の面積を53dmとした条件で、めっき槽2に基板を浸漬し、めっきを行った。めっき槽2内のめっき液のホルムアルデヒド濃度とpHは実施例1と同様に、37%ホルマリン水溶液および200g/L水酸化ナトリウム水溶液を15分間隔で補給しながらめっきを行った。また、めっき処理中、銅補給槽51内の銅イオン補給液を移送ポンプ52で送液しながら12.5時間めっきを行った。めっき処理中、めっき液中の各成分の濃度は設定濃度に対して安定に保持することができた。めっき後、基板を水洗し、乾燥させた。得られためっき皮膜は光沢のある平滑な皮膜であった。
【0152】
次に、処理する基板の面積を7dmとした条件で、めっき槽2に基板を浸漬し、めっきを行った。処理する基板の面積が小さくなるのに伴い、めっき反応による銅イオン消費速度が小さくなる。そのため、金属銅溶解槽30内の金属銅溶解速度を低下させるため、酸素供給量を1L/minに低減してめっきを行った。めっき途中、めっき槽内の銅イオン濃度が徐々に低下する現象が見られ、めっき液の銅イオンが安定に保てなくなり、めっきを途中で終了した。
【0153】
めっき液の循環を一時停止し、金属銅溶解槽30内の銅ボールの浸漬電位を測定すると、約−750mV vs Ag|AgClを示しており、溶解反応ではなくめっき反応が進行する電位に移行していることがわかった。これは、処理する基板の面積の低下に合わせて金属銅溶解槽30内の酸素流量を低下させた結果、銅溶解槽30内の酸素が効率よく接触する領域では局所的に銅溶解が進行したものの、銅溶解槽30の下流付近ではめっき液中の溶存酸素濃度が低下し、溶解反応ではなく、めっき反応が進行したためと考えられる。
【0154】
(比較例2)
比較例2の無電解銅めっき装置は、比較例1と同じものを用いて、比較例1と異なるめっき方法で実施した。すなわち、処理する基板の面積の大小にかかわらず、金属銅溶解槽30への酸素供給流量は7L/minとした。処理する基板の面積が小さい場合、貯液槽50から金属銅溶解槽30へのめっき液の送液を間欠的に行った。この方法によれば、めっき液中の銅イオン濃度が低下した場合はめっき液を貯液槽50から金属銅溶解槽30に送液し、銅イオン濃度が上昇しすぎたときは貯液槽30から銅補給槽51にめっき液を送液する。処理する基板の面積を7dmとした条件でめっきを行った結果、比較例1の処理する基板の面積7dmの場合と異なり、不具合なく12.5時間めっきを行うことができた。
【0155】
しかし、めっき処理中のめっき液の銅イオン濃度は実施例1に比べて大きく変動した。得られためっき膜は半光沢であり、基板表面の一部に凹凸が見られた。これはめっき処理中めっき液の銅イオン濃度が大きく変動したことに起因していると考えられる。
【0156】
以上のように、比較例1及び2においては、金属銅溶解槽30の金属銅とめっき液との接触面積が大きく変えることができないため、処理する基板の面積の大きな変動、特に処理する基板の面積が小さい場合に処理中に不具合が発生することがわかった。
【0157】
本発明の無電解銅めっき方法およびめっき装置を用いることにより、無電解銅めっき液を長寿命化でき、建浴頻度の低減による生産性の向上および廃液量の低減が見込める。それに加えて、金属銅の溶解量の調節がより柔軟に制御可能となり、めっき処理する基板の面積の大きな変動にも対応でき、特に処理する基板の面積が小さい場合においても銅溶解槽内でめっき反応が進行することなく、所望の溶解反応を持続でき、制御を簡便にできる。また、めっき液中の銅イオン濃度をより精度良く調整することが可能となり、機械的な特性、及び信頼性が高いプリント配線板を提供することができる。
【0158】
実施例1においては、比較例1に示す銅補給槽51を設けることはしなかったが、図1に示す曝気槽4とめっき槽2との間に上記の銅補給槽51に該当するバッファ槽を設けてもよい。バッファ槽を設けることにより、めっき槽2に流入する曝気液の量を調整しやすくすることができる。
【0159】
また、本明細書においては、無電解めっき方法および無電解めっき装置について説明したが、不溶性陽極を用いた電気銅めっき液の銅イオン供給にも適用可能である。

【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の無電解めっき装置及び無電解めっき方法によれば、無電解めっき液を長寿命化し、かつ、処理する基板の面積の大きな変動に対しても対応可能であり、めっき液組成を精度よく制御することが可能となる。めっき液の長寿命化により、めっき液の建浴頻度が低減でき、その結果、生産性の向上、原価低減、及び廃液量の低減に繋げることができる。
【0161】
また、本発明によれば、めっき皮膜中の不純物含有量が少なく、優れた機械特性、接続信頼性を示すプリント配線板を提供することができる。このプリント配線板は、システムボートやメモリボード等に利用できる。本発明は無電解銅めっきに限らず、無電解ニッケルめっきにも利用可能である。
【符号の説明】
【0162】
1:無電解銅めっき装置、2:めっき槽、4:曝気槽、5:銅イオン補給部、10、14、15、16:送液ポンプ、11:切り替えバルブ、12、13、101:フィルタ、17:センサ、18:制御部、19:基板、20:液槽、21:金属銅支持体、30、31:金属銅溶解槽、50:貯液槽、51:銅補給槽、52:移送ポンプ、53、204:空気供給部、60、61:酸素富化ガス供給部、70、71:酸素発生部、80、81:減圧弁、90、91:酸素流量計、102、251、252:金属銅、103:めっき液、104:酸素富化ガス、301:外槽、302:内槽、303:金属銅挿入口、304:隔壁、305:排出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき処理基材をめっき液に浸漬して金属のめっきを行うめっき槽と、前記めっき槽から抜き取った前記めっき液に前記金属を溶解することにより前記金属のイオンを補給する金属溶解槽と、前記金属溶解槽から送られた液に含まれる溶存酸素の濃度を低下させて曝気液を生成する曝気槽とを含む無電解金属めっき装置であって、前記めっき槽から抜き取った前記めっき液をめっき液搬送部を経由して前記金属溶解槽に送り、次に高濃度化めっき液搬送部を経由して前記曝気槽に送り、次に前記曝気槽から曝気液搬送部を経由して前記めっき槽に前記曝気液を送る構成とし、前記金属溶解槽は、前記金属溶解槽内に内包させる前記金属を配置・取り出し可能であって前記イオンの溶解量を調節可能としたものであり、前記金属溶解槽又は前記めっき液搬送部に酸素富化ガス供給部を付設し、前記金属は、銅又はニッケルであることを特徴とする無電解金属めっき装置。
【請求項2】
前記金属溶解槽は、前記金属と前記めっき液との接触面積を変化させることができるように構成したことを特徴とする請求項1記載の無電解金属めっき装置。
【請求項3】
前記金属溶解槽を複数備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の無電解金属めっき装置。
【請求項4】
複数の前記金属溶解槽はそれぞれ、異なる量の前記金属を配置可能としたことを特徴とする請求項3記載の無電解金属めっき装置。
【請求項5】
前記金属を保持した状態で前記金属溶解槽の内部に配置・取り出し可能とした金属保持体を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の無電解金属めっき装置。
【請求項6】
切り替えバルブを有する分岐部を前記めっき液搬送部に設け、前記切り替えバルブを切り替えることにより前記分岐部から前記めっき液を前記めっき槽に返送可能とし、前記めっき槽にめっき反応の開始を検知するセンサを付設したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の無電解金属めっき装置。
【請求項7】
前記センサからの信号及び前記被めっき処理基材の面積の値に基づいて前記切り替えバルブを制御する制御部を有することを特徴とする請求項6記載の無電解金属めっき装置。
【請求項8】
前記金属の塩の溶液を作製して前記めっき液に補給するイオン補給部を備えたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の無電解金属めっき装置。
【請求項9】
めっき槽と、金属溶解槽と、曝気槽とを含む無電解金属めっき装置を用いて行うめっき方法であって、前記めっき槽に入れためっき液に被めっき処理基材を浸漬して金属のめっきを行い、前記めっき槽から抜き取った前記めっき液と空気よりも酸素濃度が高い酸素富化ガスとを接触させることにより前記めっき液の溶存酸素濃度を増加させ、そのめっき液と前記金属とを接触させることにより前記めっき液に含まれる前記金属のイオンの濃度を増加させ、前記めっき液と前記空気又は前記空気より酸素濃度が低いガスとを接触させることにより溶存酸素濃度を低下させて曝気液とし、この曝気液を前記めっき槽に送る工程を有し、前記金属溶解槽は、前記金属溶解槽内に内包させる前記金属を配置・取り出し可能であって前記イオンの溶解量を調節可能としたものであり、前記金属は、銅又はニッケルであることを特徴とする無電解金属めっき方法。
【請求項10】
前記金属の塩の溶液を作製し、前記溶液を前記めっき液に混合する工程を有することを特徴とする請求項9記載の無電解金属めっき方法。
【請求項11】
前記金属溶解槽における前記イオンの溶解量は、前記溶液を前記めっき液に混合する工程における前記イオンの補給量よりも多いことを特徴とする請求項10記載の無電解金属めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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