説明

無電解ニッケルめっき液およびそれを使用しためっき方法

【課題】鉛を含まない無電解ニッケルめっき液およびそれを使用しためっき方法を提供する。
【解決手段】無電解ニッケルめっき液の安定剤として、例えば、クエン酸ビスマスアンモニウム、酒石酸ビスマスカリウム、酒石酸ビスマスナトリウム等、高濃度の無電解ニッケルめっき原液に易溶性のビスマス塩化合物を採用する。それのより、安定剤として鉛を含む従来の無電解ニッケルめっき液と遜色のない浴寿命を有し、かつ、得られためっき皮膜2が優れた電気抵抗特性を示す無電解ニッケルめっき液を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、十分な浴寿命を有し、得られためっき皮膜が優れた電気抵抗特性を示す無電解ニッケルめっき液およびそれを使用しためっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器、電気機器の廃棄に関する欧州(EU)指令であるWEEE(EC Directive on Waste Electrical and Electronic Equipment:廃電気・電子機器リサイクル指令)、RoHS(EC Directive on the Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment:特定有害物質使用禁止指令)の有害物質使用規制により、鉛(Pb)等の有害物質が、2006年7月1目からEU加盟国において全廃されることが決定しており、日本国内においても同様の動きが加速している。
【0003】
無電解ニッケルめっきを実施する際には、浴の安定剤として硝酸鉛を使用しており、めっき皮膜中におよそ100〜1000ppmの鉛が含有してしまう。そこで、鉛フリー化への対応として、硝酸鉛に代わる新たな材料の検討が急務となっている。
【0004】
従来、無電解ニッケルめっきは、自動車工業、機械工業、石油化学工業等の部品や製品に使用されてきたが、その後、電気、電子工業の部品や製品に広く使われるようになってきている。また、科学技術の進展に伴って、無電解めっきに対する要求も機能面において多様化してきており、この多様化した機能の一つとして、例えば、電気抵抗薄膜に対する抵抗特性がある。
【0005】
電子機器類の重要部品である薄膜抵抗体は、従来、主に真空蒸着、スパッタ等の乾式法で作られていた。しかし、乾式法はコストが高いため量産には適さないという難点があるため、無電解めっき等の湿式法が着目されてきた。この湿式法によれば、低コストで量産が図れるため、抵抗膜等の機能めっきは湿式法によって作製されるようになってきた。特に無電解法においては、材質、形状に左右されることなく、密着性、機械的強度、耐食性の良好なめっき膜が得られ、抵抗膜への利用に適している。
【0006】
抵抗膜への利用としては、還元剤からめっき皮膜中に混入するリン、ホウ素等の濃度を調整することによって比抵抗および抵抗温度係数を可変できる他、第3、第4の金属として、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、クロム等を含有させることにより比抵抗および抵抗温度係数を調整できることもメリットの一つである。
【0007】
一方、めっき業界における環境対策は、以前より排水処理に対して特別な配慮がなされてきているが、近年、エレクトロニクス業界を中心に地球環境保全に対する関心が高まり、鉛、6価クロム、水銀、カドミウム等の環境負荷の大きい有害物質を排除しようとの動きが活発になってきている。
【0008】
ここでの大きな問題として、無電解ニッケルめっき液には、液の安定性を保つことを目的として微量の鉛化合物が含有されている点が挙げられる。鉛は、金属塩、還元剤、錯化剤、緩衝剤、促進剤、PH調整剤等で構成された複雑な組成において、それらの組成を比抵抗、抵抗温度係数等の目的に合わせた組成変更に対して悪影響を及ぼしにくく、目的とする効果が得やすいとの特徴がある。無電解ニッケルめっきが開発されて以来、基本的に鉛を使い続けている理由としては、微量でその効果を発揮することのみならず、めっき皮膜に要求される特性および作業性が高度になるにつれて、鉛以外の金属ではめっき液の構成が困難であったことによる。
【0009】
さらに大きな問題として、無電解ニッケルめっき液により得られるめっき皮膜の中に微量の鉛が含まれてしまう点にある。めっき皮膜に含まれる鉛の量は、無電解ニッケルめっき液のタイプ(酸性タイプとアルカリ性タイプ)により異なる。ここで、代表的なめっき液の種類と、めっき皮膜に含まれている鉛量について例示する。
【0010】
例1:ニッケル-リン酸性浴
金属塩として硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてリンゴ酸およびクエン酸ナトリウム、安定剤として硝酸鉛を使用したとき、浴PH4.5〜5.5から得られる鉛含有量は、100ppm〜1000ppmである。
【0011】
例2:ニッケル-リン-タングステン アルカリ性浴
金属塩として硫酸ニッケル、タングステン酸ナトリウム、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてクエン酸ナトリウム、安定剤として硝酸鉛を使用した場合、浴PH8〜12から得られる鉛含有量は、1000ppm〜5000ppmである。
【0012】
無電解ニッケルめっき液に安定剤は不可欠であるが、鉛に代わる金属としては、触媒毒として作用するビスマス、テルル、アンチモン、セレン等、限られた種類しかない。このような金属は既に知られているが、一部の製品にしか実用化されなかった。その理由は、鉛と比べて容易には使いこなせないからである。
【0013】
例えば、鉛のみビスマスに置き換えた場合を想定すると、
(1)鉛は微粉末等に吸着する効果が高いのに比ベてビスマスは低く、浴の安定性を制御しにくい。
(2)ほとんどのビスマス化合物は水に難容または極微容であるため、安定剤としての必要量を液中に溶解させることが困難である。
(3)無電解めっき液の作製、運搬、保管、建浴等を操作する際、コスト面および作業面からめっき液を数倍程濃くしためっき原液として準備することは必須であるが、高濃度のめっき液にビスマスを添加しても多くのビスマス化合物は安定剤としての必要量が溶解されないか、後に分離し沈殿を生じてしまう。言うまでもなく、分離沈殿を生じためっき液の安定性が著しく低下する。
【0014】
例えば、特許文献1は、「硝酸鉛、酢酸鉛等の水溶性鉛塩または硝酸ビスマス等の水溶性ビスマス塩を鉛またはビスマスとして0.1〜10mg/Lを含有することを特徴とする無電解ニッケルめっき液」を開示している。また、特許文献2には、安定剤として「硝酸鉛、酢酸鉛等の鉛塩、硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等のビスマス塩(中略)を添加することができる」旨の開示がある。
【0015】
【特許文献1】特開2000−180261号公報
【特許文献2】特開2005−82883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、これら硝酸ビスマスまたは酢酸ビスマスを単体もしくは2種類添加した無電解ニッケルめっき液では、高濃度のめっき原液はもとより、建浴されためっき液に対しても安定剤としての必要量を浴中に溶解させることは困難であり、従来の鉛と変わらぬ安定した操作および良好なめっき皮膜を得ることが難しい、という問題がある。具体的には、硝酸ビスマスには“水に難容であり、希硝酸には溶ける。しかし、その溶液に多量の水を加えると白色の塩基性硝酸ビスマスの沈殿を生ずる”、といった性状がある。また、酢酸ビスマスの性状を述べると、“水に難容であり、酢酸に微容”である。
【0017】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、めっき液としてのみならず、高濃度のめっき原液および補給液においても安定性、操作性が良好な無電解ニッケルめっき液およびそれを使用しためっき方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、得られためっき皮膜の電気抵抗特性が良好で、かつ鉛を使用しない無電解ニッケルめっき液およびそれを使用しためっき方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
かかる目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として、例えば、以下の構成を備える。すなわち、本発明に係る無電解ニッケルめっき液は、少なくとも金属塩、還元剤、錯化剤、添加剤を含んでなる無電解ニッケルめっき液であって、安定剤として易溶性のビスマス塩化合物を含有することを特徴とする。
【0019】
例えば、上記ビスマス塩化合物は、めっき原液または補給液として0.1mMから1mMの濃度で、めっき液建浴時に0.001mMから0.05mMの濃度で含有することを特徴とする。また、例えば、上記ビスマス塩化合物として、クエン酸ビスマスアンモニウム、酒石酸ビスマスカリウムまたは酒石酸ビスマスナトリウムの塩または塩基性塩を含有することを特徴とする。
【0020】
例えば、金属成分として、ニッケルおよびリンの他、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、クロムのうち1または2種類以上を含有させてなることを特徴とする。また、例えば、上記金属成分は、当該無電解ニッケルめっき液によるめっき操作で得られためっき皮膜中に0.1から70%の範囲で含有されることを特徴とする。
【0021】
例えば、本発明に係る無電解ニッケルめっき液は、PH3から12であり、かつ鉛フリーであることを特徴とする。
【0022】
上述した課題を解決する他の手段として、例えば、以下の構成を備える。すなわち、本発明に係る無電解ニッケルめっき方法は、上記いずれかの発明に係る無電解ニッケルめっき液を使用してめっき対象にめっき処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来の鉛含有無電解ニッケルめっき液と同等、あるいはそれ以上の作業性、および操作性を保持しつつ、得られためっき皮膜も良好な電気抵抗特性を保持する無電解ニッケルめっき液を作製でき、また、それを使用しためっき方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面および表を参照して、本発明の実施の形態例に係る鉛フリー無電解ニッケルめっき液について詳細に説明する。本実施の形態例に係る鉛フリー無電解ニッケルめっき液では、硝酸鉛等に代わる安定剤として、クエン酸ビスマスアンモニウム等を使用し、それにより、めっき工程およびめっき素材の鉛フリー化を可能にした。また、浴安定性は、Pb浴とほぼ同等であり、後述するように、密着性、TCR、初Rバラツキ、耐熱性等の素材評価では、硝酸鉛を使用した従来のめっき液との大きな違いはなく、品質上の問題は見られなかった。皮膜組成は、Pbの代わりにビスマス(Bi)を160〜1300ppm含有する。
【0025】
本実施の形態例に係る無電解ニッケルめっき液は、高濃度のめっき原液および補給液に対しても十分な溶解度を持つビスマス塩化合物を安定剤として含有する。具体的には、硝酸鉛、酢酸鉛等の水溶性鉛塩または硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等の難溶性または微溶性ビスマス塩に代わる安定剤として、高濃度の無電解ニッケルめっき液に易溶性のビスマス塩化合物、例えば、クエン酸ビスマスアンモニウム、酒石酸ビスマスカリウム、酒石酸ビスマスナトリウム等を含有した。
【0026】
本実施の形態例に係る無電解ニッケルめっき液およびその原液または補給液は、金属塩(例えば、10〜300g/L)、還元剤(例えば、10〜300g/L)、錯化剤(例えば、10〜300g/L)、促進剤、緩衝剤、安定剤、PH調整剤、その他湿潤剤、応力緩和剤等の添加剤からなる。特に本実施の形態例に係る無電解ニッケルめっき液は、PH3〜12、すなわち、酸性〜中性〜アルカリ性の全ての範囲に対応することが可能であり、浴安定性および操作性は全てのめっき液ともに良好である。
【0027】
金属塩としては、主成分のニッケル塩として、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル等の水溶性のものが挙げられる。還元剤としては、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等が挙げられる。また、錯化剤としては、主として乳酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、酒石酸、グルコン酸等オキシカルボン酸とその塩類やグリシン、アラニン等のアミノカルボン酸およびエチレンジアミン、アンモニア等が挙げられる。
【0028】
促進剤は、主として、酢酸、ぎ酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等のモノカルボン酸やジカルボン酸、並びにその塩類が挙げられる。PH調整剤としては、硫酸、塩酸等の酸、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリが挙げられる。また、各種添加剤としては、その目的に応じて界面活性剤、サッカリン等が挙げられる。
【0029】
ここで、必要十分な量のビスマス塩化合物の濃度は、例えば、めっき原液または補給液として0.1mM〜1mMとし、めっき液建浴時のビスマス化合物の濃度として0.001mM〜0.05mMが完全に溶解された状態で含有する。また、ここでは、めっき処理によって得られためっき皮膜中にニッケルおよびリンの他、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、クロム等の内、1種類または2種類以上の金属成分を、例えば、0.1〜70%の範囲で含有させる。
【0030】
無電解ニッケルめっき方式には、多量処理、低膜厚のめっきに適したバッチ方式と、作業性、経済性に優れた連続方式の2種類がある。バッチ方式は、めっき槽に高濃度のめっき原液を所定量入れた後、熱水にて希釈して使用できる。そのため、めっき液温度を素早く調整でき、作業が容易になる。
【0031】
無電解めっきは、電気めっきと違って陽極からの金属の補給がないため、浴中の金属が急速に消耗し、それに伴いPHも大きく変動する。もちろん還元剤も消耗するため浴寿命は短く、めっき液建浴―浴温の調整―めっき作業―めっき液廃棄―めっき液建浴のサイクルが短い。よって、実作業において浴温の調整にかかる時間の短縮は重要である。また、めっき液の運搬、保管の観点からも、めっき液原液は高濃度であるほど望ましく、これらの理由から、めっき液原液は高濃度であるほど、コスト面、作業面からも大きなメリットとなり得る。
【0032】
連続方式の無電解めっきは、浴管理装置等により不足した金属塩、還元剤、錯化剤、安定剤等を補充し、変動するPHを間断なく補って調整するものである。一方、浴中に蓄積する反応生成物の亜リン酸塩、硫酸塩は、浴を不安定とさせるため、補給される安定剤が重要となる。ここで、不足した金属塩、還元剤、錯化剤、安定剤等を補うための補給液を考えるに、補給によるめっき液の増加を防ぐためには、補給液はできるだけ高濃度であることが要求される。
【0033】
次に、具体的な実施例を挙げて、本実施の形態例に係る無電解ニッケルめっき液について詳細に説明する。
【0034】
<実施例1>
直径2mm、長さ5.45mmの円柱状の1/2Wセラミック碍子体を被めっきサンプルとして、以下の条件でエッチングおよび前処理を行った。
(1)エッチング
フッ化水素酸15%溶液
温度:常温
処理時間:4分
(2)前処理
(i)感受性化
塩化第一錫:0.5g/L
温度:常温
処理時問:5分
(ii)活性化
塩化パラジウム:0.2g/L
塩酸:2CC/L
温度:常温
処理時問:5分
上記の感受性化と活性化を2回繰り返す。以上のエッチングおよび前処理を施したサンプル10万個を1ロットとする。
【0035】
次に、後述するように連続方式用酸性無電解ニッケル−リンめっき原液および補給液を調整し、めっき液を調整後、得られたニッケル−リン合金めっき皮膜により固定抵抗器を作製して電気抵抗特性の評価を実施した。なお、建浴用原液は5倍に希釈して使用した。
【0036】
(建浴用原液)
・硫酸ニッケル 112.5g/L
・次亜リン酸ナトリウム 112.5g/L
・リンゴ酸 100g/L
・クエン酸ナトリウム 62.6g/L
・クエン酸ビスマスアンモニウム 0.0135g/L
・アンモニア水 67.5CC/L
(補給液A)
・硫酸ニッケル 225g/L
・リンゴ酸 50g/L
(補給液B)
・次亜リン酸ナトリウム 287.6g/L
・クエン酸ナトリウム 31.46g/L
・クエン酸ビスマスアンモニウム 0.14g/L
・アンモニア水 5CC/L
(めっき液条件)
PH:3.8〜4.6
温度:90〜99℃
浴量:500L
浴管理装置:上村工業株式会社製 「スターライン・ダッシュ」
【0037】
<実施例2>
直径1.3mm、長さ2.7mmの円柱状の1/4Wセラミック碍子体を被めっきサンプルとして、上述した実施例1と同条件にてエッチングおよび前処理を行った。エッチングおよび前処理を施したサンプル20万個を1ロットとする。
【0038】
以下のようにバッチ方式用アルカリ性無電解ニッケル−リン−タングステンめっき原液を調整し、めっき液を調整後、得られたニッケル−リン−タングステン合金めっき皮膜により固定抵抗器を作製し、電気抵抗特性の評価を実施した。なお、建浴めっき液は、めっき原液A:B:Cの配合比を1:1:3とし、原液に対して5倍に希釈して使用した。
【0039】
(原液A)
・硫酸ニッケル 300g/L
(原液B)
・次亜リン酸ナトリウム 700g/L
(原液C)
・タングステン酸ナトリウム 200g/L
・クエン酸ビスマスアンモニウム 0.1g/L
・水酸化ナトリウム 適量
(めっき液条件)
PH:8〜10
温度:90〜99℃
浴量:200L
【0040】
<実施例3>
実施例3として、上述した実施例1のめっき浴において使用した安定剤のクエン酸ビスマスアンモニウムを、同濃度の硝酸鉛と置き換えた。(酸性従来浴)
【0041】
<実施例4>
実施例4として、上記の実施例2のめっき浴において使用した安定剤のクエン酸ビスマスアンモニウムを、同濃度の硝酸鉛と置き換えた。(アルカリ性従来浴)
【0042】
次に、エッチングおよび前処理を施したサンプル1ロットをネットに入れ、無電解ニッケルめっき液に浸漬し、揺動を繰り返す。めっきが析出するに従って得られる出現抵抗値が所定の値となったところで終了とし、サンプルをめっき液中より取り出す。
【0043】
このようなめっき操作によって、碍子上に、実施例1ではニッケル−リン合金めっき皮膜を、実施例2ではニッケル−リン−タングステン合金めっき皮膜を形成し、その後、260℃の温度で大気または窒素雰囲気による熱処理を行い、金属皮膜固定抵抗器として電気抵抗特性を測定した。
【0044】
図1は、以上の工程で作製された金属皮膜固定抵抗器の内部構造を示している。図1に示す金属皮膜固定抵抗器は、アルミナを主成分とするセラミック碍子からなる基体1と、形成されためっき皮膜2(無電解ニッケル−リン合金めっき皮膜、またはニッケル−リン−タングステン合金めっき皮膜)と、鉄素地に約2μmの銅めっきと錫めっきを施してなり、基体1の端部に圧入されたキャップ3と、銅素地に約2μmの錫めっきを施し、キャップ3に溶接されたリード線4と、抵抗膜を樹脂でコーティングした後、硬化させてなる保護層5とからなる。なお、図2は、保護層5を形成する前の抵抗器の外観を示している。
【0045】
表1は、上述した実施例1〜4に係る無電解ニッケルめっき液を使用しためっき操作によって形成した無電解ニッケルめっき皮膜中の鉛含有量を測定した結果を示している。なお、無電解ニッケルめっき皮膜中の鉛含有量は、ICP分析法(ICP質量分析法)により測定した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示す、無電解ニッケルめっき皮膜中の鉛含有量の測定結果より、安定剤として鉛を含有した従来浴の実施例3および実施例4から得られた無電解ニッケルめっき皮膜が、高い濃度で鉛が含有しているのに対し、実施例1および実施例2によって得られためっき皮膜は、いずれも50ppm以下と含有量が少ないことが分かる。
【0048】
図3は、実施例1〜4に係る無電解ニッケルめっき液によるめっき皮膜の抵抗温度係数を測定した結果である。なお、抵抗温度係数は、25℃および125℃の抵抗値測定により求めた。
【0049】
図3に示す抵抗温度係数の測定結果から以下のことが分かる。すなわち、安定剤として鉛を含有した従来浴の実施例3および実施例4より得られた無電解ニッケルめっき皮膜による抵抗器と比較して、実施例1および実施例2に係るめっき皮膜による抵抗器は、いずれも同等かあるいは値が小さく、抵抗温度が優れている。
【0050】
図4は、はんだ耐熱性試験による抵抗値変化率を測定した結果である。このはんだ耐熱試験では、360℃のはんだ中に4秒間浸漬した後の抵抗値変化率を測定した。
【0051】
図4に示す、はんだ耐熱性試験によって抵抗値変化率ΔRを測定した結果によれば、安定剤として鉛を含有した従来浴の実施例3から得られた無電解ニッケルめっき皮膜による抵抗器と比較して、実施例1に係るめっき皮膜による抵抗器は、変化率が同等かあるいは小さく、はんだ耐熱性に優れていることが分かる。
【0052】
図5は、温度サイクル試験による抵抗値変化率を測定した結果である。この温度サイクル試験は、−55℃/150℃を各30分間放置するサイクルを、5回繰り返した後の抵抗値変化率の測定結果である。
【0053】
図5に示す温度サイクル試験による抵抗値変化率ΔRを測定した結果から、安定剤として鉛を含有した従来浴の実施例4に係る無電解ニッケルめっき皮膜による抵抗器と比較して、実施例2から得られためっき皮膜による抵抗器は、変化率が同等かあるいは小さく、温度特性において優れていることが分かる。
【0054】
なお、上述した実施例に係るめっき原液等における添加剤の添加量、処理温度等は、いずれも一例であり、他の類似する条件下においても、本発明の目的を達成することができることは言うまでもない。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態例によれば、無電解ニッケルめっき液の安定剤として、高濃度の無電解ニッケルめっき原液に易溶性のビスマス塩化合物、例えば、クエン酸ビスマスアンモニウム、酒石酸ビスマスカリウム、酒石酸ビスマスナトリウム等を採用することによって、十分な浴寿命を有する無電解ニッケルめっき原液および高濃度の補給液を容易に作製することができる。
【0056】
また、本実施の形態例に係る無電解ニッケルめっき液は、安定剤として鉛を含有する従来の無電解ニッケルめっき液と同様の作業性、操作性を保持するとともに、得られた無電解ニッケルめっき皮膜は、抵抗器用抵抗皮膜として良好な電気抵抗特性を保持する。
【0057】
さらには、浴寿命として、本実施の形態例に係る無電解ニッケルめっき液は、鉛を含有する従来の無電解ニッケルめっき液と同等の5ターン以上の使用が可能である。なお、ターンは、無電解ニッケルめっきにおける浴寿命を表し、浴寿命内の析出重量の合計が最初の浴の中に含まれていた金属重量の何倍に当たるかを示す単位である。すなわち、1ターンとは、めっき液中の金属分が全て析出して、補給による金属分と入れ代わったときの状態を示している。
【0058】
よって、本実施の形態例に係る無電解ニッケルめっき液は、鉛を含まない無電解ニッケルめっき液であって、めっき操作を行う際はもちろん、高濃度のめっき原液および補給液として保管、運搬する場合においても、液の沈殿、自己分解および異常析出を抑制し、安定剤として鉛を含む従来の無電解ニッケルめっき液と遜色のない浴寿命を有するとともに、そのめっき液を使用して得られためっき皮膜は、優れた電気抵抗特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態例に係る無電解ニッケルめっき液によってめっき処理された金属皮膜固定抵抗器の内部構造を示す図である。
【図2】保護層を形成する前の金属皮膜抵抗器の外観を示す図である。
【図3】実施例1〜4に係る無電解ニッケルめっき液によるめっき皮膜の抵抗温度係数の測定結果を示す図である。
【図4】はんだ耐熱性試験による抵抗値変化率の測定結果を示す図である。
【図5】温度サイクル試験による抵抗値変化率の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 基体
2 めっき皮膜
3 キャップ
4 リード線
5 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属塩、還元剤、錯化剤、添加剤を含んでなる無電解ニッケルめっき液であって、安定剤として易溶性のビスマス塩化合物を含有することを特徴とする無電解ニッケルめっき液。
【請求項2】
めっき原液または補給液として0.1mM乃至1mMの濃度で前記ビスマス塩化合物を含有し、めっき液建浴時に0.001mM乃至0.05mMの濃度で前記ビスマス塩化合物を含有することを特徴とする請求項1記載の無電解ニッケルめっき液。
【請求項3】
前記ビスマス塩化合物として、クエン酸ビスマスアンモニウム、酒石酸ビスマスカリウムまたは酒石酸ビスマスナトリウムの塩または塩基性塩を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の無電解ニッケルめっき液。
【請求項4】
金属成分として、ニッケルおよびリンの他、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、クロムのうち1または2種類以上を含有してなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液。
【請求項5】
前記金属成分は、当該無電解ニッケルめっき液によるめっき操作で得られためっき皮膜中に0.1乃至70%の範囲で含有されることを特徴とする請求項4記載の無電解ニッケルめっき液。
【請求項6】
PH3乃至12であり、かつ鉛フリーであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液を使用してめっき対象にめっき処理を施すことを特徴とする無電解ニッケルめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−154223(P2007−154223A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347544(P2005−347544)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000105350)コーア株式会社 (201)
【Fターム(参考)】