説明

無電解ニッケルめっき液の再生処理方法

【課題】無電解ニッケルめっき液に蓄積した亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等の不純物金属イオンを選択的に、しかも簡便な操作で除去することができる無電解ニッケルめっき液の再生処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる群から選択される少なくとも1種の不純物金属イオンを含む無電解ニッケルめっき液を、リン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種の抽出剤を内包させたマイクロカプセルと接触させて、該無電解ニッケルめっき液中の不純物金属イオンを除去することを特徴とする無電解ニッケルめっき液の再生処理方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等の不純物金属イオンが蓄積した無電解ニッケルめっき液の再生処理方法、及び無電解ニッケルめっき廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解ニッケルめっき法は、複雑な形状の部品に均一な厚さのニッケルめっき皮膜を施すことができるため、電子部品、精密機械部品等の分野で活用されている。一般に、無電解ニッケルめっき処理においては、めっき処理によって消耗した成分を定期的に補給しつつめっき処理が行われている。しかしながら、長期間連続してめっき処理を行うと、還元剤が酸化生成物となってめっき液中に蓄積し、これが無電解ニッケルめっきの析出性、物性等に悪影響を及ぼす原因となる。このため、無電解ニッケルめっき液は一定期間の使用後に廃液として処分される。建浴時の無電解ニッケルめっき液に含まれるニッケル量に相当する金属ニッケルが析出するまでめっき処理を行うことを1ターンとすると、通常、5〜6ターン程度が無電解ニッケルめっき液の寿命とされている。
【0003】
亜鉛置換皮膜を形成したアルミニウム系材料を被めっき物とする場合には、被めっき物から溶出した亜鉛イオン、アルミニウムイオン等が無電解ニッケルめっき液中に蓄積して、形成されるニッケルめっき皮膜の外観及び密着性の低下が生じる。例えば、亜鉛イオン濃度が50mg/l程度以上になると、形成されるニッケルめっき皮膜の外観及び密着性の低下が生じる。通常、亜鉛置換皮膜を形成したアルミニウム系材料を被めっき物として無電解ニッケルめっき処理を行う場合には、2〜3ターン程度のめっき処理を行うと、廃棄処分が必要な亜鉛イオン濃度である30〜50mg/l程度となり、通常の寿命である5〜6ターン程度と比べると大幅に寿命が短くなる。このため、コストが大きく増加し、廃液が多量に発生するという問題がある。特に、寿命に達した無電解ニッケルめっき液中には、リン化合物、錯化剤等が多量に含まれていることから、廃液処理が非常に困難である。
【0004】
一方、鉄鋼系材料を被めっき物とする場合には、被めっき物から溶出した鉄イオンが無電解ニッケルめっき液中に蓄積し、鉄イオン濃度が50mg/l程度以上になると、形成されるニッケルめっき皮膜の外観及び耐食性が低下する。通常、3〜6ターン程度のめっき処理を行うと、鉄イオンの影響で外観及び耐食性の低下が起こり、品質の低下しためっき皮膜となる。めっき皮膜の品質低下を避けるためには、鉄イオンの影響が出る前にめっき液を廃棄すればよいが、廃液が多量に発生するために、通常は、そのまま5〜6ターン程度まで使用されている。
【0005】
無電解ニッケルめっき液から不純物金属成分を除去する方法として、イオン交換膜を用いて電解処理を行う方法(特許文献1参照)が提案されている。しかし、この方法は、装置の大型化、操作が難しい等の問題があった。また、溶媒抽出法を用いて無電解めっき液から不純物金属イオンを分離する方法も提案されている(特許文献2参照)。特許文献2には、抽出剤として酸性有機リン化合物を含有する抽出有機溶媒を用いて抽出処理を行うことが記載されている。この方法は、水相への抽出剤の溶解性、水相と有機相との相分離の難しさ、抽出操作の複雑さ等の問題があった。また、多量の有機溶媒を使用することに対し、環境への影響、火災の危険性等が指摘されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−344208号公報
【特許文献2】特開2010−229449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、無電解ニッケルめっき液に蓄積した亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等の不純物金属イオンを選択的に、しかも簡便な操作で除去することができる無電解ニッケルめっき液の再生処理方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等の不純物金属イオンが蓄積した無電解ニッケルめっき液を、抽出剤を内包させたマイクロカプセルと接触させることにより、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等の不純物金属イオンを同時に除去することができることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づいてさらに研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の無電解ニッケルめっき液の再生処理方法、及び無電解ニッケルめっき廃液の処理方法を提供する。
1. 亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる群から選択される少なくとも1種の不純物金属イオンを含む無電解ニッケルめっき液を、リン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種の抽出剤を内包させたマイクロカプセルと接触させて、該無電解ニッケルめっき液中の不純物金属イオンを除去することを特徴とする無電解ニッケルめっき液の再生処理方法。
2. 前記抽出剤が、リン酸系抽出剤である、上記項1に記載の無電解ニッケルめっき液の再生処理方法。
3. 前記リン酸系抽出剤が、リン酸エステル及びアルキルホスホン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項2に記載の無電解ニッケルめっき液の再生処理方法。
4. 前記マイクロカプセルが、多孔質マイクロカプセルである、上記項1〜3のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液の再生処理方法。
5. 亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる群から選択される少なくとも1種の不純物金属イオンを含む無電解ニッケルめっき廃液を、リン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種の抽出剤を内包させたマイクロカプセルと接触させて、該無電解ニッケルめっき廃液中の不純物金属イオンを除去することを特徴とする無電解ニッケルめっき廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無電解ニッケルめっき液の再生処理方法によれば、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等の不純物金属イオンが蓄積した無電解ニッケルめっき液から、不純物金属イオンを選択的に除去することができる。このため、不純物金属イオンが含まれることにより生じるニッケルめっき皮膜の品質低下等を抑制し、無電解ニッケルめっき液の液寿命を延長することができる。また、この再生処理方法は、抽出剤を内包したマイクロカプセルを用いることにより、非常に簡便な操作で、不純物金属イオンを選択的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例で用いる抽出剤内包マイクロカプセルの調製工程を示すスキームである。
【図2】抽出剤内包マイクロカプセルのSEM写真(左:表面、右:断面)である。
【図3】ニッケルめっき廃液から抽出剤内包マイクロカプセルを用いて金属イオンを抽出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において、処理対象となる無電解めっき液は、亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる群から選択される少なくとも1種の不純物金属イオンを含む無電解ニッケルめっき液である。
【0014】
亜鉛イオン及びアルミニウムイオンを含む無電解ニッケルめっき液として、例えば、亜鉛置換皮膜を形成したアルミニウム、アルミニウム合金等のアルミニウム系材料を被めっき物として無電解ニッケルめっきを行うことによって、被めっき物から溶出した亜鉛イオン、アルミニウムイオン等が蓄積した無電解ニッケルめっき液を挙げることができる。また、鉄イオンを含む無電解ニッケルめっき液として、例えば、鉄鋼系材料を被めっき物として無電解ニッケルめっきを行うことによって、被めっき物から溶出した鉄イオン等が蓄積した無電解ニッケルめっき液を挙げることができる。
【0015】
無電解ニッケルめっき液の組成について、特に限定はなく、通常の還元剤を含有する自己触媒性の無電解ニッケルめっき液であれば、いずれも処理対象とすることができる。
【0016】
このような無電解ニッケルめっき液としては、金属ニッケルの供給源として、硫酸ニッケル、塩化ニッケル等の水溶性ニッケル塩を含有し、さらに、還元剤として、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸アンモニウム等の次亜リン酸塩を含有し、錯化剤として、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、コハク酸等のカルボン酸を含有するめっき液が挙げられる。
【0017】
本発明の処理方法を行う際の無電解ニッケルめっき液中の亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンの濃度は、特に限定的ではなく、通常、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等の蓄積によって析出皮膜の特性に悪影響が生じる前に再生処理を行えばよい。一般に、亜鉛イオン濃度については、30〜50mg/l程度になると析出皮膜の密着性及び外観に悪影響を及ぼすとされており、アルミニウムイオン濃度については、30〜50mg/l程度になると析出皮膜の外観及び液の濁りに悪影響を及ぼすとされている。また、鉄イオン濃度については、50〜100mg/l程度になると析出皮膜の外観及び耐食性に悪影響を及ぼすとされている。よって、亜鉛イオン、アルミニウムイオン又は鉄イオンの濃度が上記範囲となっためっき液について再生処理を行えばよい。
【0018】
本発明の無電解ニッケルめっき液の再生処理方法では、処理対象とする無電解ニッケルめっき液を、リン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種の抽出剤を内包させたマイクロカプセル(以下、「抽出剤内包マイクロカプセル」という場合もある)に接触させる。
【0019】
上記したとおり、本発明方法において処理対象とする無電解ニッケルめっき液は、長期間使用して亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる群から選択される少なくとも1種の不純物金属イオンが蓄積した無電解ニッケルめっき液である。本発明者らは、これらの不純物金属イオンを含む無電解ニッケルめっき液に、リン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種の抽出剤を内包させたマイクロカプセルを接触させることによって、亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオン等の不純物金属イオンが優先的にマイクロカプセル内の抽出剤に吸着され、ニッケルイオンの吸着は大きく抑制されることを見出した。
【0020】
従って、亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる群から選択される少なくとも1種の不純物金属イオンが蓄積した無電解ニッケルめっき液を、リン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種の抽出剤を内包させたマイクロカプセルに接触させる方法によれば、該無電解ニッケルめっき液中のニッケルイオン濃度を大きく低下させることなく、無電解ニッケルめっき液中に蓄積した亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる不純物金属イオンのみを選択的に除去することができる。これにより、不純物金属イオンが蓄積することにより生じるニッケルめっき皮膜の品質低下等を抑制して、無電解ニッケルめっき液の液寿命を延長することができる。
【0021】
マイクロカプセルに内包させる抽出剤として、リン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0022】
リン酸系抽出剤として、リン酸エステル、アルキルホスホン酸エステル等を用いることができる。リン酸エステルとして、例えば、一般式:
【0023】
【化1】

【0024】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数8〜18のアルキル基である。)で表されるリン酸エステルを挙げることができる。
【0025】
上記炭素数8〜18のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよいが、分岐鎖状のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、8〜12程度が好ましい。リン酸エステルとして、特に、リン酸ジ(2−エチルヘキシル)が好ましい。
【0026】
アルキルホスホン酸エステルとしては、一般式:
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数8〜18のアルキル基である。)で表されるアルキルホスホン酸エステルを挙げることができる。
【0029】
上記炭素数8〜18のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよいが、分岐鎖状のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、8〜12程度が好ましい。アルキルホスホン酸エステルとして、特に、2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0030】
カルボン酸系抽出剤として、Versatic 10、911、1519等を用いることができる。
【0031】
キレート系抽出剤として、5−ドデシルサリチルアルドキシム、2−ヒドロキシ−5−ノニルアセトエノンオキシム等を用いることができる。
【0032】
これらの抽出剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を適宜混合して用いてもよい。
【0033】
上記抽出剤の中では、酸又はアルカリを用いてpHを調整しなくても、使用条件の無電解ニッケルめっき液から不純物金属イオンを抽出する能力が高いことから、リン酸系抽出剤が好ましい。さらに、リン酸系抽出剤の中で、2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。
【0034】
上記した抽出剤は、そのままで、又は有機溶媒に溶解して、上記のマイクロカプセルに内包させて用いる。有機溶媒としては、水溶液である無電解めっき液にほとんど溶解しないものであればよく、さらに、第3相が生じ難いものが好ましい。このような有機溶媒として、例えば、ケロシン等の石油系溶媒;ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ドデカノール等の高級アルコール系溶媒等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、有機溶媒は、無電解めっき液との分離性を向上させる目的等により、2種以上を適宜混合して用いてもよい。
【0035】
マイクロカプセルに内包させる抽出剤の量については、抽出する金属イオン濃度を考慮して適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0036】
抽出剤をマイクロカプセル化することで、水相との相分離が容易になり、抽出操作が簡便となる。また、有機溶媒使用量の削減、及び抽出剤の損失低減が達成できるとともに、選択的分離が行えるため、不純物金属イオンの除去率が高くなる。また、従来のイオン交換膜等を用いて電解分離する方法等と比較して、非常に簡便な操作で、不純物金属イオンを除去することができる。
【0037】
マイクロカプセルを構成する壁材は、特に限定はない。使用する製造方法に合わせて、適切な壁材を用いることができる。代表的な壁材は、ポリマーであり、例えば、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、ポリエステル、ポリウレア、ポリウレタン、ポリアミド、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、ゼラチン、アラビアゴム、及びこれらの共重合物等を挙げることができる。
【0038】
マイクロカプセルは、多孔質マイクロカプセルであることが好ましい。マイクロカプセルを多孔質化することで、抽出剤と金属イオンとの接触面積が増加し、カプセル内からカプセル表面への抽出剤の拡散距離、及びカプセル表面で抽出剤と金属イオンとで形成された抽出錯体のカプセル内部への拡散距離が少なくなることにより、抽出速度を上げることができる。
【0039】
抽出剤内包マイクロカプセルの製造方法としては、公知のマイクロカプセル製造法を用いることができる。例えば、界面重合法、in situ重合法、コアセルベーション法、界面沈殿法、液中乾燥法等を挙げることができる。
【0040】
多孔質のマイクロカプセルは、例えば、W/O/Wエマルションのin situ重合により製造することができる。このマイクロカプセルの調製は、W/O/Wエマルションの形成と、調製されたエマルション液滴内における重合反応によるカプセル壁形成という2段階の工程により行うことができる。詳細には、エマルションの形成工程では、抽出剤及び壁材を構成するモノマー等を含む有機相(O相)に微細な水相(内水相:W相)を分散させて(W/O)エマルションを形成し、この(W/O)エマルションを水相(外水相:W相)に分散させることによりW/O/Wエマルションを形成する。そして、このW/O/Wエマルションをin situ重合させて、抽出剤内包マイクロカプセルを形成させる。
【0041】
無電解ニッケルめっき液を、抽出剤を内包させたマイクロカプセルに接触させる方法については特に限定的ではなく、無電解ニッケルめっき液と抽出剤を内包させたマイクロカプセルとを十分に接触させることが可能な方法であればよい。
【0042】
例えば、抽出剤内包マイクロカプセルを直接めっき液に添加し、不純物金属イオンを抽出したマイクロカプセルをフィルター又は網等で回収するバッチ法、抽出剤内包マイクロカプセルを充填したカラムにめっき液を流通させるカラム法、水で満たした円筒状のカラムに抽出剤内包マイクロカプセルを浮遊させた状態でめっき液を流通させる流通型等が挙げられる。
【0043】
処理条件については、用いる方法に応じ、無電解ニッケルめっき液中の不純物金属イオンが十分に除去されるように決めればよい。
【0044】
例えば、処理時の無電解ニッケルめっき液の温度は、特に限定されるものではないが、20〜50℃程度が適当である。処理時間は、処理対象とするめっき液の量、濃度、マイクロカプセルに含まれる抽出剤の濃度等の処理条件によって異なるので、処理条件に応じて適宜決めればよい。
【0045】
上記した方法によって、処理対象の無電解ニッケルめっき液中に含まれる亜鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等の不純物金属イオンを選択性よく抽出除去することができる。無電解ニッケルめっき液中のニッケルイオンは、これらの不純物金属イオンと比較すると高濃度であるにもかかわらず、ほとんど抽出されない。よって、無電解ニッケルめっき液のニッケルイオンの減少量は、少なく抑えられる。従って、処理後の無電解ニッケルめっき液は、そのまま再利用することが可能である。必要に応じて、処理後の無電解ニッケルめっき液にニッケル化合物、その他の添加剤等を加えて、液組成を調整してもかまわない。また、本発明の方法により無電解ニッケルめっき液を処理した後、さらに、電気透析等の処理を行ってもかまわない。電気透析を行えば、めっき液中に含まれる還元剤の酸化生成物等の不純物を分離することができ、無電解ニッケルめっき液の液寿命をさらに延長することができる。
【0046】
無電解ニッケルめっき廃液が亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる群から選択される少なくとも1種の不純物金属イオンを含む場合には、上述したリン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種の抽出剤を内包させたマイクロカプセルと接触させることにより、該無電解ニッケルめっき廃液中の不純物金属イオンを選択的に除去することができる。これにより、不純物金属イオンが除去された無電解ニッケルめっき廃液を、無電解ニッケルめっき液として再利用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
製造例1(抽出剤内包マイクロカプセルの調製)
図1に示す調製スキームに従って、抽出剤内包マイクロカプセルを調製した。
【0049】
まず、1Lビーカーに、ポリビニルアルコール(PVA)(14.4g)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(1.8g)を量り入れ、約90℃に温めておいた蒸留水に加えて外水相(W相)720mlを調製し、これを洗浄済みの2Lジャケット付セパラブルフラスコに入れ、70℃に保温した。200mLビーカーに、ジビニルベンゼン(DVB)(36.7g)、2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシル(PC−88A)(15.7g)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸(818SX)(7.2g)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)(0.72g)及びトルエン(7.2g)を量り入れ、スターラーで攪拌して混合し、有機相(O相)72mlを調製した。内水相(W相)として、4.5M塩化ナトリウム水溶液を用いた。有機相(O相)72mlに内水相(W相)8mlを加えた混合液を、ホモジナイザーにより3000rpmで10分間攪拌し、(W/O)エマルションを調製した。70℃に保温した外水相(W相)を250rpmで攪拌しながら、その中へ(W/O)エマルションを加えて(W/O/W)エマルションを調製し、そのまま5時間攪拌した。その後、吸引濾過し、蒸留水で洗浄した後、減圧乾燥してPC−88A内包マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は約230μm、細孔径は約2μm、PC−88A内包率は32.2%であった。また、得られたマイクロカプセルのSEM写真を図2に示す(左:表面、右:断面)。
【0050】
実施例1(めっき廃液から亜鉛イオン及び鉄イオンの抽出)
下記の表1に示す組成を有する試験めっき廃液を使用し、製造例1で調製したマイクロカプセルを用いて、以下のようにめっき廃液から不純物金属イオンを抽出した。
【0051】
【表1】

【0052】
まず、硫酸及び/又はアンモニア水を用いて、試験めっき廃液のpHを1に調整した。30mLスクリュー栓付サンプル管に製造例1で得られたマイクロカプセルを0.1g量り入れ、pH1のめっき溶液15mlを加え、これを30℃の恒温振とう槽中で24時間振とうした。その後、濾過し、濾液のpHを測定した後、溶液を5ppm以下に希釈し、ICP発光分析装置により亜鉛及び鉄の濃度を測定し、減少量より抽出量及び抽出率を算出した。また、pHを2、3、4、5及び6に調整した試験めっき廃液についても同様に測定を行った。その結果を図3に示す。
【0053】
図3の結果から、抽出剤内包マイクロカプセルを用いることにより、亜鉛イオン及び鉄イオンを含むニッケルめっき廃液から、ニッケルイオンをほとんど除去することなく、亜鉛イオン及び鉄イオンを選択的に除去することができることがわかる。
【0054】
実施例2(めっき廃液から亜鉛イオン及びアルミニウムイオンの抽出)
下記の表2に示す金属イオンを有するめっき廃液(pH4.35)について、製造例1で得られたマイクロカプセルを用いて、pHの調整操作以外は実施例1と同様の操作を行い、亜鉛イオン及びアルミニウムイオンを抽出した。その結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2の結果から、抽出剤内包マイクロカプセルを用いることにより、亜鉛イオン及びアルミニウムイオンを含むニッケルめっき廃液から、ニッケルイオンをほとんど除去することなく、亜鉛イオン及びアルミニウムイオンを選択的に除去することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる群から選択される少なくとも1種の不純物金属イオンを含む無電解ニッケルめっき液を、リン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種の抽出剤を内包させたマイクロカプセルと接触させて、該無電解ニッケルめっき液中の不純物金属イオンを除去することを特徴とする無電解ニッケルめっき液の再生処理方法。
【請求項2】
前記抽出剤が、リン酸系抽出剤である、請求項1に記載の無電解ニッケルめっき液の再生処理方法。
【請求項3】
前記リン酸系抽出剤が、リン酸エステル及びアルキルホスホン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の無電解ニッケルめっき液の再生処理方法。
【請求項4】
前記マイクロカプセルが、多孔質マイクロカプセルである、請求項1〜3のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液の再生処理方法。
【請求項5】
亜鉛イオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンからなる群から選択される少なくとも1種の不純物金属イオンを含む無電解ニッケルめっき廃液を、リン酸系抽出剤、カルボン酸系抽出剤及びキレート系抽出剤からなる群から選択される少なくとも1種の抽出剤を内包させたマイクロカプセルと接触させて、該無電解ニッケルめっき廃液中の不純物金属イオンを除去することを特徴とする無電解ニッケルめっき廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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