説明

無電解メッキ用触媒

【課題】 還元剤溶液を用いることなく簡便な工程で作成することができる上、無電解金属メッキ膜から金属メッキパターンを形成する工程を従来と比較して簡素化することができ、しかもミクロ〜ナノスケールで金属メッキパターンを正確に形成することができる無電解メッキ触媒を提供する。
【解決手段】 高分子−金属クラスター複合体からなる無電解メッキ用触媒。
高分子−金属クラスター複合体が、金属化合物の蒸気を、高分子化合物に、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において接触させ、金属化合物の蒸気を高分子内部に浸透させると同時に還元することにより得られたものである無電解メッキ用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解メッキに用いられる触媒に関し、更に詳しくは、プリント基板、電子デバイス実装パッケージ、フラットパネルディスプレー、太陽電池などの配線基盤、電極、あるいは電子機器の電磁波シールド膜などを構成する金属、半導体、セラミック膜やこれらのパターンを作成するために好適に用いられる無電解メッキ用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解メッキは、材料表面の触媒作用による還元を利用したメッキ法であり、電気メッキと異なり、窪んだ所にも一様にメッキができるという利点がある.そのため、無電解メッキは、合成樹脂への電気メッキのための胴体化処理や、印刷回路の薄膜製造などに利用されている。
無電解メッキを行うためには、基材表面に触媒活性化処理を施す必要があり、活性化触媒として周期律表8族もしくは1B族元素を含む化合物が使用されることは公知である。
例えば、Pd金属からなる触媒は、まず、塩化第1錫溶液に基板を侵漬させて、基板上に塩化第1錫を付与した後、塩化パラジウム溶液に浸漬させ、錫とパラジウムをイオン交換させることにより基板に塩化パラジウムを付与し、その後、還元性の溶液に侵漬させて塩化パラジウムをパラジウム金属へ還元させることにより、調整している.続いて、この基板を無電解メッキ浴に浸漬させることにより、金属メッキ膜を形成させていた。
そして、無電解金属メッキ膜により、金属配線、金属電極などの所定のパターンに形成するために、金属メッキ膜を作製した後、レジスト樹脂を塗布し、配線を形成する部分のメッキ部が開口するように、フォトマスクを介して露光し、選択的に硬化させ、未露光部を除去する。そして、エッチング技術により、不要なメッキ部を除去し、さらに、レジスト膜を除去することにより、配線をパターン得ている(特許文献1)。
【0003】
このように、従来の無電解メッキ触媒を調製するには、まず、(1)還元剤溶液を用いることが必須であり、また、(2)(a)基板上にパラジウム塩溶液を塗布する工程、(b)基板を還元剤溶液に浸漬する工程、(c)析出した金属触媒を乾燥する工程等の煩雑な工程を経なければならず、更には(3)得られた無電解金属メッキ膜をパターニングして配線パターンを形成する際には、無電解金属メッキ膜をエッチング処理する工程が必要とり、金属メッキパターンを形成する工程が煩雑であるという問題があった。
【0004】
このような煩雑な行程を簡略化する方法として、パラジウムより卑な金属元素を添加した炭素−炭素三重結合もしくは二重結合を有する化合物を放射線により重合、パターン化し、その後、パラジウム元素を含む溶液と接触させて、パラジウム元素とイオン交換し、さらに、パラジウム元素を還元することにより、無電解メッキ用触媒として作用する触媒核を基板表面に形成する方法を提案している(特許文献2)。
また、酸化亜鉛等の光触媒機能を有する物質を基材表面に形成し、所定のパターンを有するフォトマスクを介し光を照射し、紫外線照射部のみパラジウムイオンを金属パラジウムに還元することにより、触媒活性表面を形成している(特許文献3)。
しかし、このような方法においても、従来技術と同様に、基材に対し触媒表面を付与するための行程において、金属塩溶液を用い、還元剤を利用する必要があり、十分に簡略化されたとはいえない。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−43977号公報
【特許文献2】特開平9−3653号公報
【特許文献3】特開平9−260808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたもので、溶液を用いることなく、簡便なドライプロセスにより、無電解メッキ用触媒を基材に付与することを可能にし、さらに、ミクロ〜ナノスケールで金属メッキパターンを種々の形状に正確に形成することができる無電解メッキ触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するための鋭意検討した結果、特定な高分子−金属クラスター複合体が無電解メッキ用触媒として有効であることを知見し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)高分子−金属クラスター複合体からなる無電解メッキ用触媒。
(2)高分子−金属クラスター複合体が、金属化合物の蒸気を、高分子化合物に、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において接触させ、金属化合物の蒸気を高分子内部に浸透させると同時に還元することにより得られたものであることを特徴とする上記(1)に記載の無電解メッキ用触媒。
(3)高分子−金属クラスター複合体が、ポリメチルメタクリレートからなり、局所的に紫外線もしくは電子線を照射した後、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において金属化合物蒸気を接触させ、金属粒子が紫外線もしくは電子線の照射された部位に選択的に形成されたものであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の無電解メッキ用触媒。
(4)高分子−金属クラスター複合体が、ブロック共重合体からなり、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において、金属化合物蒸気を接触させ、金属化合物がブロック共重合体の一つの相で選択的に還元されたものであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の無電解メッキ用触媒。
(5)金属が、パラジウムであることを特徴とする上記(1)乃至(4)何れかに記載の無電解メッキ用触媒。
(6)上記(1)乃至(5)何れかに記載の触媒基材と無電解メッキ液を接触させることを特徴とする無電解金属メッキパターンの形成方法。
(7)上記(6)に記載の方法で得られる無電解金属メッキパターンを有するメッキ製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る無電解メッキ用触媒は、所望金属を析出させるための金属塩(例えば硝酸銀、塩化金、塩化パラジウム)の浴中に基材を浸漬する工程や、次の、還元剤溶液による金属塩の触媒活性化工程を経ることなく、簡便な工程で触媒活性表面を基材表面に作成することができる上、さらに、放射線照射や高分子の自己組織化を利用することにより、ミクロンスケールからナノスケールの広範囲に及ぶパターニングが可能となり、プリント配線基板等の導電性パターンを作製することを可能とする。また、その形状も浸漬温度などの条件を選択することにより自由に代えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る無電解メッキ用触媒は、高分子−金属クラスター複合体からなる。
ここで、高分子−金属クラスター複合体とは、高分子をマトリックスとし、この中に重金属が微細状態で分散した複合体をいう。このような高分子−金属クラスター化合物は、非線形光学特性や高弾性率特性を有し、あるいは安定に着色されるので、非線形光学材料、高弾性率材料、装飾用材料などに利用されているが、無電解メッキ用触媒としての応用はこれまでになされていない。
【0010】
本発明においては、高分子−金属クラスター複合体であれば何れのものも使用できるが、好ましく用いられる高分子−金属クラスター複合体としては、本発明者等が先に提案した以下の3種を挙げることができる。
(A)金属化合物の蒸気を、高分子化合物に、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において接触させ、金属化合物の蒸気を高分子内部に浸透させると同時に還元することにより得られる高分子−金属クラスター複合体(特許第3062748号)
(B)互いに非相溶でかつ重金属化合物に対する還元力に差がある2種類以上のポリマー鎖がそれぞれの末端で結合したブロック共重合体からなり、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において、金属化合物蒸気を接触させ、金属化合物がブロック共重合体の一つの相で選択的に還元されたものである高分子−金属クラスター複合体(特許第3309139号)
(C)ポリメチルメタクリレートからなり、局所的に紫外線もしくは電子線を照射した後、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において金属化合物蒸気を接触させ、金属粒子が紫外線もしくは電子線の照射された部位に選択的に形成された高分子−金属クラスター複合体(特開2004−99777号公報)
そして、これらの高分子−金属クラスター複合体では、高分子マトリックス中で金属クラスターが直径1nm〜10nmの大きさで安定に分散している。
以下、これらの高分子−金属クラスター複合体について説明する。
【0011】
[高分子−金属クラスター複合体(A)]
高分子−金属クラスター複合体(A)は、金属化合物の蒸気がガラス状態の高分子化合物に接触して、その中に溶け込み、そこで還元されたものである。
高分子化合物としては、処理温度においてガラス状態にあるもの、好ましくは30〜200℃の範囲の転移温度を有し、その中に溶け込んだ重金属化合物の重金属単体への変換を容易にするために、還元力を有するものであることが好ましい。
このような高分子化合物としては、例えばナイロン6、ナイロン66のようなポリアミドや、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステルやポリスチレン、ポリプロピレンのような不飽和炭化水素重合体やポリビニルアルコールやポリカーボネートやエポキシ樹脂などの合成高分子化合物を挙げることができるが、そのほか酢酸セルロースのような天然高分子化合物から誘導されたものも用いることができる。
【0012】
また、金属化合物としては、処理条件下で、蒸気となる昇華性、揮発性の化合物又は錯化合物が用いられる。このようなものとしては、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金などの重金属化合物、例えばテトラカルボニル(η‐アクリル酸メチル)鉄(0)(10-2mmHgで昇華)、トリカルボニル(η‐1,3‐シクロヘキサジエン)鉄(0)(bp50〜66℃/1mmHg)、トリカルボニル(シクロブタジエン)鉄(0)(47/3mmHg)、(η‐シクロペンタジエニル)(η‐ホルミルシクロペンタジエニル)鉄(II)(昇華70℃/1mmHg)、(η‐アリル)トリカルボニルコバルト(bp39℃/15mmHg)、ノナカルボニル(メチリジン)三コバルト(昇華50℃/0.1mmHg)、ジカルボニル(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ロジウム(I)(昇華80〜85℃/10〜20mmHg)、ペンタヒドリドビス(トリメチルホスフィン)イリジウム(V)(昇華50℃/1mmHg)、(η3‐アリル)(η‐シクロペンタジエニル)ニッケル(II)(bp50℃/0.45mmHg)、トリス(η‐シクロペンタジエニル)[μ3‐(2,2‐ジメチルプロピリジン)]三ニッケル(昇華115〜120℃/1mmHg)、η‐シクロペンタジエニル(η‐アリル)白金(昇華25℃/0.01mmHg)、クロロ(trans‐シクロオクテン)金(I)(bp115℃)、クロロ(シクロヘキセン)金(I)(bp60℃)などがある。特に好ましいのは、アセチルアセトナート錯体、例えばビス(アセチルアセトナート)パラジウム(II)(昇華160℃/0.1mmHg)、ビス(アセチルアセトナート)白金(II)(昇華170℃)、ビス(アセチルアセトナート)銅(II)(昇華65〜110℃/0.02mmHg)である。
【0013】
高分子−金属クラスター複合体(A)を作成するには、固体高分子化合物100重量部当り、重金属換算で金属化合物0.01〜40重量部、好ましくは0.1〜2重量部を含有する複合体が得られる割合で、両者を接触させるのがよい。この際の雰囲気としては、非酸化性雰囲気、すなわち酸素分圧が1mmHg以下の窒素、アルゴンのような不活性ガスの雰囲気を用いるのが有利である。この雰囲気は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよい。処理温度としては、原料として使用する高分子化合物のガラス転移温度以上が選ばれる。金属化合物蒸気との接触時間は、処理温度に依存するが、通常10分ないし5時間の範囲内で選ばれる。
【0014】
[高分子−金属クラスター複合体(B)]
高分子−金属クラスター複合体(B)では、金属化合物の蒸気が、互いに非相溶でかつ金属化合物に対する還元力に差がある2種類以上のポリマー鎖がそれぞれの末端で結合したブロック共重合体フィルムに接触し、フィルム内部に浸透すると同時に還元され、金属クラスターが形成するが、金属錯体の還元力の相対的に強いポリマー相中において選択的に還元が起こるため、ブロック共重合体のミクロドメイン構造(ラメラ、シリンダー、スフェアなど)を反映し、ナノスケールでの周期的なパターンとして金属クラスターが2次元もしくは3次元状に配列化する。
【0015】
このミクロドメイン構造は、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの分子量比の変化により種々の異なった空間配列をとる。また、その分子量を調製することによりポリマー中に分散する金属クラスターの配列周期を任意に調製することができる。例えば、ブロックコポリマーを構成する、重金属化合物に対して還元力の大きいポリマー(以下、P1ポリマーともいう)の分子量をこれよりも還元力の小さいポリマー(以下、P2ポリマーともいう)の分子量をより著しく大にすると、金属クラスターが島状に配列したミクロドメイン構造の高分子−金属クラスター複合体が得られる。またP1ポリマーの分子量をP2ポリマーよりやや大にすると、金属クラスターが棒状に配列したミクロドメイン構造を有するものが、更にP1ポリマーとP2ポリマーの分子量を等価にすれば、金属クラスターがラメラ状に配列したミクロドメイン構造のものが得られる。
【0016】
このような、ブロックコポリマーの代表的なものを以下に例示するが、本発明はこれらのコポリマーに限定されるものではない。ポリスチレン-b-ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン-b-ポリブチルメタクリレート、ポリスチレン-b-ポリ2ビニルピリジン、ポリスチレン-b-ポリブタジエン、ポリスチレン-b-ポリイソプレン、ポリメチルメタクリレート-b-ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート-b-ポリブタジエン、ポリメチルメタクリレート-b-ポリイソプレン、ポリメチルメタクリレート-b-ポリエチレン等。
【0017】
また、金属化合物としては、前記で説明したものが同様に使用される。
高分子−金属クラスター複合体Bを作成するには、ブロックコポリマー100重量部当り、金属換算で金属化合物0.1〜50重量部、好ましくは1〜20重量部を含有する複合体が得られる割合で、両者を接触させるのがよい。この際の雰囲気としては、非酸化性雰囲気、すなわち酸素分圧が1mmHg以下の窒素、アルゴンのような不活性ガスの雰囲気を用いるのが有利である。この雰囲気は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよい。
処理温度としては、原料として使用する前記ブロックコポリマーのガラス転移温度以上が選ばれ、金属化合物蒸気との接触時間は、処理温度に依存するが、通常1分〜5時間の範囲内で選ばれる。
【0018】
[高分子−金属クラスター複合体(C)]
この高分子−金属クラスター複合体Cは、紫外線又は電子線(以下、紫外線等ともいう)照射部を有するポリメチルメタクリレート基板に金属化合物の蒸気を接触させて紫外線等の照射部に重金属粒子を付着させたものである。先に説明した[高分子−金属クラスター複合体(A)]の中でもポリメチルメタクリレートは特異的に還元力が弱いが、紫外線もしくは電子線を照射することにより、還元力が向上する。この特性を利用することにより、所定のパターンを有するフォトマスク等を介し光をポリメチルメタクリレートに照射した後、[高分子−金属クラスター複合体(A)]と同様の方法により金属化合物の蒸気を接触させることにより、金属クラスターのパターンを作製することが可能となる.
【0019】
紫外線等の照射部を有するポリメチルメタクリレート基板を得る方法は特に限定されず、(1)ポリメチルメタクリレート基板に予めマスキング部を形成し、ついで非マスキング部に紫外線等を照射する方法、(2)予めポリメチルメタクリレート基板全体に紫外線等を照射しておき、ついでその照射部に所定形状のマスキング部を形成する方法、(3)光ファイバーからの光やレーザービームをポリメチルメタクリレート基盤上において走査するなどの方法を選べばよい。この中で、(1)の方法が、大面積に効率よくパターニングがなされ、かつ、マスキング材料を再度使用することが可能である点からみて好ましい。
この紫外線等の照射部に金属化合物を接触させる際の、金属化合物の使用量、温度条件、処理時間などは上記で説明したもの中から適宜選定すればよい。
【0020】
[触媒の調製態様]
このような高分子−金属クラスター複合体を無電解メッキ用触媒として調整するためには、まず、金属クラスターを分散させるための高分子マトリックスを次の方法により調整する。
(1)高分子溶液を基板上に塗布し、乾燥させ、高分子薄膜を作製する.塗布の方法としては、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレー法などが挙げられるが、限定されるものではない。
(2)金属化合物に対する還元力を有する高分子化合物をフィルムや成型物に加工する.このように作製した高分子に対し、金属化合物蒸気を接触させ、還元し、金属クラスターを形成することにより、無電解メッキ用触媒核となる金属クラスターを高分子内部に形成する。
また、所定のパターンを作製する場合には、 ポリメチルメタクリレートを基板上に塗布する、もしくは、フィルム、成型物に加工し、紫外線または電子線を照射し、所望のパターンを表面に作製するか、ブロック共重合体を基材に塗布し、薄膜化し、薄膜面内の2次元状にミクロドメインを周期的に配列化させる。このようにパターンを作製した高分子に対し、金属化合物蒸気を接触させ、還元し、金属クラスターを形成することにより、無電解メッキ用触媒核となる金属クラスターを紫外線もしくは電子線を照射した部分、あるいはブロック共重合体薄膜における相対的に還元力の強い相へ選択的に金属クラスターを形成する。
このような高分子−金属クラスター複合体において、無電解メッキ用触媒として作用する金属クラスターは高分子表面近傍に存在する一部の金属クラスターに過ぎないが、金属クラスターの高い触媒活性により、効率よく金属メッキ膜を作製することが可能である。また、高分子−金属クラスター複合体の無電解メッキ用触媒としての効率を高めるために、プラズマエッチングや不活性ガス雰囲気での熱処理により、高分子を選択的に除去し、金属クラスターの表面被服率を向上させることも可能である。
【0021】
[無電解メッキの実施態様]
本発明に係る高分子−金属クラスター複合体からなる触媒を用いて、無電解メッキ金属膜パターンを形成するには、触媒基材もしくは該触媒基材を設けた基板を無電解メッキ浴に所定時間浸漬すればよい。
このような浸漬処理により、高分子マトリックス中に所定パターン状に存在する金属触媒が、無電解メッキ液中の還元剤を酸化し、その時に放出される電子によって金属イオンが還元され、メッキ被膜が生成する。
基板としては、特に制限されず、紙、ガラス、金属、セラミックス、半導体、プラスチックなどが用いられる。また、無電解メッキ浴に特に制限はなく、金属塩、還元剤、錯化剤、緩衝剤、安定剤が配合された水溶液など従来公知のメッキ浴全て使用できる。例えば、神戸徳蔵著”無電解めっき”槇書店(1894年)等の成書に記載のメッキ浴およびメッキ条件はいずれも本発明において使用可能である.
【実施例】
【0022】
次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
シリコンウェハ上に厚さ20nmのポリメチルメタクリレート薄膜をスピンコーティングにより設け、ついで、20ミクロン四方のパターンを有するフォトマスクを載せ、300nm以下の紫外線を10J/cm2照射した。その後、窒素雰囲気下、180℃において、パラジウム(II)ジアセチルアセトナート蒸気を10分間作用させ、図1に示すようなパラジウムナノ粒子のパターンを有するポリメチルメタクリレート薄膜からなる無電解メッキ用触媒を作製した。図1aは、この膜の低倍率での透過型電子顕微鏡写真であり、紫外線が照射された部分は、ポリメチルメタクリレートの分解により、密度が低下するため、明るいコントラストとなる。図1bおよびcに、それぞれ、この薄膜の紫外線照射部と未照射部の高倍率写真により、パラジウムナノ粒子の分散状態を示す。パラジウムナノ粒子の平均粒径は3nmであり、紫外線露光部に選択的に分散していることが判る。
この基板を0.01モル/リットルの硝酸亜鉛を含有する0,03モル/リットルジメチルアミンボラン水溶液に50℃、10分間浸した。その結果、図2に示すように、高分子薄膜上に酸化亜鉛のパターンが形成された。光露光部の拡大写真から、粒径約50nmの酸化亜鉛粒子が凝集していることを走査型電子顕微鏡により確認した(図2)。また、形成された粒子の同定は、電子線回折およびXPSにより行った.
【0023】
実施例2
実施例1の浸漬温度を40℃、とした以外は実施例1と同様にして無電解メッキ用触媒を作成した。得られる酸化亜鉛メッキ膜は繊維状となっていることが判った(図3)。
特開2001-116426号公報や特開2000-8180号公報では、従来の錫イオンを含有する溶液を用いたセンシタイジングによる無電解メッキ触媒核付与行程により、酸化亜鉛被膜を作製しているが、メッキ時間は、65℃において、30分間を要している。本発明による無電解メッキ用触媒では、40℃程度のより低温、10分程度のより短時間により、酸化亜鉛被膜を得ることが可能であり、本発明の触媒活性の有為性が証明される。
【0024】
実施例3
実施例1において、硝酸亜鉛を硝酸鉄(III)に代えた以外は実施例1と同様にして、無電解メッキを行ったところ高分子薄膜上に酸化鉄粒子が配列した。
【0025】
実施例4
シリコンウェハをブロック共重合体であるポリメチルメタクリレート-b-ポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレートの0.5重量%ジオキサン溶液に浸漬し、ディップコーティングにより膜厚20nmのかかる共重合体薄膜を形成した。本薄膜は、約20nmのポリ−ヒドロキシエチルメタクリレートのドメインがポリメチルメタクリレートのマトリックス中に6方細密充填状に2次元規則的に配列している.ついで、実施例1と同様して、パラジウム(II)ジアセチルアセトナート蒸気に30分間接触させ、パラジウム粒子が2-ヒドロキシエチルメタクリレートからなるドメインに20nmの周期で選択的に配列した無電解メッキ用触媒を作製した(図4)。
この無電解メッキ触媒を用いることにより、ナノスケールでの金属メッキパターンを作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】aは、ポリメチルメタクリレート薄膜に形成されたパラジウムナノ粒子のパターニング状態の透過型電子顕微鏡写真、bは、紫外線露光部に形成されたパラジウムナノ粒子の分散状態の透過型電子顕微鏡写真、cは未露光部のパラジウムナノ粒子の分散状態の透過型電子顕微鏡写真。
【図2】aは、走査型電子顕微鏡による無電解メッキにより作製した酸化亜鉛被膜のパターニング状態の透過型電子顕微鏡写真、bは紫外線照射部に形成された酸化亜鉛粒子の凝集状態の透過型顕微鏡写真、cは、未露光部に形成した酸化亜鉛の透過型顕微鏡写真。
【図3】aは、メッキ浴への侵漬温度を40℃とした時に形成した酸化亜鉛被膜の形態の走査型電子顕微鏡写真、bは、その透過型電子顕微鏡写真。
【図4】ポリメチルメタクリレート-b-ポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレート薄膜に作製したパラジウムナノ粒子のナノパターニング状態の透過型電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子−金属クラスター複合体からなる無電解メッキ用触媒。
【請求項2】
高分子−金属クラスター複合体が、金属化合物の蒸気を、高分子化合物に、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において接触させ、金属化合物の蒸気を高分子内部に浸透させると同時に還元することにより得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の無電解メッキ用触媒。
【請求項3】
高分子−金属クラスター複合体が、ポリメチルメタクリレートからなり、局所的に紫外線もしくは電子線を照射した後、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において金属化合物蒸気を接触させ、金属粒子が紫外線もしくは電子線の照射された部位に選択的に形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の無電解メッキ用触媒。
【請求項4】
高分子−金属クラスター複合体が、ブロック共重合体からなり、ガラス転移温度以上、不活性ガス雰囲気下において、金属化合物蒸気を接触させ、金属化合物がブロック共重合体の一つの相で選択的に還元されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の無電解メッキ用触媒。
【請求項5】
金属が、パラジウムであることを特徴とする請求項1乃至4何れかに記載の無電解メッキ用触媒基材。
【請求項6】
請求項1乃至5何れかに記載の触媒と無電解メッキ液を接触させることを特徴とする無電解金属メッキパターンの形成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で得られる無電解金属メッキパターンを有するメッキ製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−2189(P2006−2189A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177673(P2004−177673)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム、精密高分子技術プロジェクト、高機能材料の基板技術研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】