説明

焼却灰溶融炉の電極操作方法

【課題】電極の止電を長時間行った場合にもCOガスの発生を低く抑えることができる。
【解決手段】燃焼空気を吹き込みつつ、昇降動可能な黒鉛電極3に通電して当該黒鉛電極3からの放電によって焼却灰Aを溶融する焼却灰溶融炉において、黒鉛電極3に通電し放電を生じさせる操業位置Xよりも上方に第1退避位置Yと第2退避位置Zを設定し、相対的に短時間の通常止電時には黒鉛電極3を第1退避位置Yへ上昇させるとともに、相対的に長時間の非定常止電時には黒鉛電極3を第1退避位置Yよりも上方の第2退避位置Zへ上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼却灰溶融炉の電極操作方法に関し、特に、COの排出を抑制できる電極操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ごみ焼却灰や下水・し尿・汚泥焼却灰等を減容し無害化する焼却灰溶融炉が知られており、その一例が特許文献1に開示されている。開示された焼却灰溶融炉では、炉蓋を上下方向へ貫通させて複数の黒鉛電極を設け、これら黒鉛電極から生じるアーク放電によって焼却灰を加熱し溶融している。この際、炉内へは燃焼空気が吹き込まれて、溶融時に発生する可燃性ガスが燃焼させられ、排ガスとして排出される。
【特許文献1】特開平7−280448
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来の焼却灰溶融炉において、炉蓋を貫通して炉内へ突出する黒鉛電極は、放電に伴う消耗以外に炉内雰囲気によって酸化消耗させられる。炉内温度は通常1000℃以上の高温となっているため、電極の黒鉛酸化により発生するガスは通常はCO2になる。ところが、排ガスダクトの点検や耐火物の部分交換等によって長時間電極通電を停止(止電)すると、炉内温度が低下するために黒鉛酸化により発生するガスがCO2まで酸化せず、COにとどまって排ガス中のCO濃度が高くなるという問題があった。
【0004】
本発明はこのような課題を解決するもので、電極の止電を長時間行った場合にもCOの発生を低く抑えることができる焼却灰溶融炉の電極操作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明では、燃焼空気を吹き込みつつ、昇降動可能な黒鉛電極(3)に通電して当該黒鉛電極(3)からの放電によって焼却灰(A)を溶融する焼却灰溶融炉において、黒鉛電極(3)に通電し放電を生じさせる操業位置(X)よりも上方に第1退避位置(Y)と第2退避位置(Z)を設定し、相対的に短時間の通常止電時には黒鉛電極(3)を第1退避位置(Y)へ上昇させるとともに、相対的に長時間の非定常止電時には黒鉛電極(3)を第1退避位置(Y)よりも上方の第2退避位置(Z)へ上昇させる。
【0006】
本発明において、相対的に短時間の通常止電時には黒鉛電極は、ベースメタルMに電極下端が付着固化せずかつ通電復帰に時間を要しない第1退避位置へ上昇させられる。相対的に長時間の非定常止電時には黒鉛電極は上記第1退避位置よりも上方の第2退避位置へ上昇させられ、この位置では黒鉛電極の炉体内への露出長さが短くなるから、雰囲気温度が低下した状態での電極炭素分の酸化消耗は最小限に抑えられ、排ガス中のCO濃度が低く抑えられる。
【0007】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明の焼却灰溶融炉の電極操作方法によれば、電極の止電を長時間行った場合にもCOの発生を低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は焼却灰溶融炉の一例を示す概略断面図である。図1において、上方へ開放する容器状の炉体1は炉蓋2で閉鎖されている。炉蓋2には空冷された複数の電極管21(図はそのうち一本のみを示す)が上下方向へ貫設されており、これら電極管21にそれぞれ黒鉛電極3が昇降動可能に挿通されている。黒鉛電極3は公知の電極昇降装置4に保持されて昇降作動させられる。電極昇降装置4は上下方向の三位置で黒鉛電極を選択的に位置決めできるように設定されている。三位置とは、後述する操業位置X、第1退避位置Y、第2退避位置Zで、この順に高くなっている。なお、上記三位置への黒鉛電極の位置決めはリミットスッチ等で検出することによって行う。
【0010】
焼却灰の溶融を行う通常運転時には、黒鉛電極3は図1に示すように最下位置の操業位置Xで保持されており、通電によって黒鉛電極3の下端と炉体1内に貯留された溶融したベースメタルMとの間でアーク放電Dを生じている。なお、操業位置Xは、黒鉛電極3の下端がベースメタルMの溶融面から上方へLX離れて位置するように設定されており、この状態では黒鉛電極3はLYの長さで炉体1内に露出している。操業位置XでのLXの一例は20〜30mm、LYは1580〜1570mmである。
【0011】
炉蓋2には焼却灰供給口22が開口しており、ここから炉体1内へ投入供給された焼却灰Aが電極3のアーク熱によって加熱され溶融される。炉体1の側壁には燃焼空気供給口11が開口して、これより炉体1内へ燃焼空気Bが供給されており、溶融時に発生する可燃性ガスは燃焼空気Bによって燃焼させられる。この時生じる排ガスCは、炉蓋2に開口するガス排出口23を経て炉体1外へ排出される。なお、図1ではベースメタル表面を覆うスラグ層や炉体に設けられる出滓口は図示を省略してある。
【0012】
表1には、通常運転時の炉内雰囲気温度と排ガスC中のCO、CO2、O2の各ガス濃度の一例を示す。なお、表中のCO、CO2濃度はO212%換算値である。これによると、炉内雰囲気温度は1000〜1300℃を維持し、CO濃度は27ppmで、旧厚生省の「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン」に示されたO212%換算でのCOの4時間平均規制値である30ppm以下を満足している。
【0013】
【表1】

【0014】
新たな黒鉛電極の継ぎ足し等のために10分程度の電極通電の停止(通常止電)を行うことがあるが、この際には、図2に示すように、黒鉛電極3を第1退避位置Yまで上昇させる。この第1退避位置Yは、ベースメタルMに電極下端が付着固化せず、かつ通電復帰に時間を要しないような、ベースメタルMの溶融面に近い上方位置であり、この場合のLXの一例は300mm程度、LYは1300mm程度である。
【0015】
表2には、通常止電時の炉内雰囲気温度と排ガスC中の各ガス濃度の時間変化の一例を示す。なお、CO、CO2の濃度はO212%換算の瞬時値である。これによると、止電後15分で炉内雰囲気温度は850℃に低下し、CO濃度は35ppmに増加するが、4時間平均では30ppm以下となる。したがって、10分程度の通常止電であればCO濃度が問題になることは無い。
【0016】
【表2】

【0017】
ところが、排ガスダクトの清掃や耐火物の交換等によって半日程度と長時間の電極通電の停止(非定常止電)を行うと、黒鉛電極を第1退避位置に保持した状態では表2に示すように、時間の経過と雰囲気温度の低下とともに次第に排ガスC中のCO濃度が増加し、止電が30分以上になると4時間平均でのCO濃度が上記ガイドライン規制値の30ppmを大きく超えてしまう。なお、止電が90分以上になると雰囲気温度の低下によって黒鉛電極の炭素分の蒸発量が減り、CO濃度は低下し始めるが、その低下割合は小さく、4時間平均のCO濃度は30ppmを超えたままとなる。
【0018】
そこで、本実施形態では、長時間の非定常止電を行う場合には図3に示すように黒鉛電極3を第2退避位置Zまで上昇させる。第2退避位置ZにおけるLXは例えば1000mm程度、LYは600mm程度である。なお、LYを小さくした方が炉体1内への電極露出面積が小さくなって好ましいが、灼熱した黒鉛電極3の下端が上昇接近することによる電極管21周囲の機構部への熱的影響との兼ね合いを考慮する必要がある。
【0019】
第2退避位置Zでは黒鉛電極3の炉体1内への露出長さLYが短くなるから、雰囲気温度が低下した状態での電極炭素分の酸化消耗は最小限に抑えられる。この結果、表3に示すように排ガスC中のCO濃度は、止電後30分、60分、90分と経過してもO212%換算値の4時間平均値は前述のガイドライン規制値の30ppm以下を維持する。なお、表3中のCO濃度は止電後30分、60分の瞬時値が30ppmを越えているが、4時間平均値は30ppm以下となる。
【0020】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例における、通常運転時の焼却灰溶融炉の概略断面図である。
【図2】通常止電時の焼却灰溶融炉の概略断面図である。
【図3】非定常止電時の焼却灰溶融炉の概略断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1…炉体、2…炉蓋、22…焼却灰供給口、23…ガス排出口、3…黒鉛電極、4…電極昇降装置、X…操業位置、Y…第1退避位置、Z…第2退避位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼空気を吹き込みつつ、昇降動可能な黒鉛電極に通電して当該黒鉛電極からの放電によって焼却灰を溶融する焼却灰溶融炉において、前記黒鉛電極に通電し放電を生じさせる操業位置よりも上方に第1退避位置と第2退避位置を設定し、通常止電時には前記黒鉛電極を前記第1退避位置へ上昇させるとともに、非定常止電時には前記黒鉛電極を前記第1退避位置よりも上方の前記第2退避位置へ上昇させることを特徴とする焼却灰溶融炉の電極操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−60229(P2010−60229A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227704(P2008−227704)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】