説明

焼成ペースト用樹脂組成物およびそれに用いる重合体

【課題】 焼成時の焼成残渣と、特に熱分解終盤に発生する難分解生成物量が少ない焼成ペースト用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される単量体に由来する構成単位を含む焼成ペースト用重合体、およびそれを含む焼成ペースト用樹脂組成物である。
【化1】


(式中、R〜Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基またはアルコキシ基を表す。R、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板や液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネルの等の各種電子部品の製造に用いられる焼成ペーストに用いられるバインダー樹脂として好適な樹脂組成物およびそれに用いる重合体に関し、さらに詳しくは、優れた熱分解性により残渣の少ない良好な焼成性を示すアクリルバインダー樹脂組成物およびそれに用いる重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
無機物による成形体やそれにより形成される詳細なパターンは、電子材料等の様々な分野において数多く使用されている。このような成形体やパターンを形成する方法として従来から、金属粉末、金属酸化物粉末、蛍光体粉末、ガラスフリット等のフィラーをバインダー樹脂、溶剤、分散剤等に分散したペーストを、各種塗工法によりパターンもしくは成形体を作製し、その後焼成することによる方法が知られている。
【0003】
この方法に使用されるバインダー樹脂は、成形加工時の加工性保持のため、または移動時に成形体やパターンが損傷するのを防ぐため、フィラーをつなぎ止めるために必要となるもので、フィラーを焼結させる前に熱分解により除去される。従って、バインダー樹脂に求められる性能としては、スクリーン印刷やスラリーのドクタープレート等によるシート成形、ディップ法等の塗工における作業性を満足するとともに、良好な熱分解性を有する必要がある。
【0004】
従来からバインダー樹脂には、ブチラール樹脂、エチルセルロースやアクリル樹脂等の樹脂が用いられている。しかしながら、ブチラール樹脂やエチルセルロースは熱分解性に劣り、残渣が多く、この残渣は導体や無機成形体等部材に残存してしまうことから、部材としての特性が低下するという問題があった。
【0005】
一方、熱分解性が良いと言われるアクリル樹脂を用いた場合にも、完全にバインダー樹脂を除去するためには、高温条件下で長時間焼成を実施しなければならず、また熱分解不良を起こしやすいことから、部材の信頼性や製造エネルギー削減の観点から工夫の余地が残されていた。
【0006】
そこで、熱分解性の良い樹脂として、エーテル酸素を分子中に多く含むポリアルキレングリコール構造を有するアクリル共重合体を用いる技術が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004―315719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記アクリル共重合体は熱分解初期の分解速度は速いものの、熱分解終盤では分解速度が低下し、依然残渣が存在するという問題が残されていた。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、焼成時の焼成残渣と、特に熱分解終盤に発生する難分解生成物量が少ない焼成ペースト用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題について、メタクリレートのエステル部位の構造に着目して鋭意検討を行った結果、焼成残渣量と難分解生成物量が少ない構造を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨とするところは、
下記一般式(1)で表される単量体に由来する構成単位を含む焼成ペースト用重合体、およびそれを含む焼成ペースト用樹脂組成物である。
【化1】

【0011】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基またはアルコキシ基を表す。R、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焼成時の焼成残渣と難分解生成物量が少ない焼成ペースト用樹脂組成物を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
上記一般式(1)において、R〜Rで表わされる炭素数1〜8のアルキル基としては、構造は特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のものや芳香族を含有するものが挙げられる。上記一般式(1)に由来する構成単位は以下の式(2)で表される。
【化2】

【0015】
特にR〜Rは炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、更には炭素数1〜2のアルキル基であることがより好ましい。特にR〜Rがいずれもメチル基であり、更にR〜Rが水素であるネオペンチルメタクリレートが好ましい。
【0016】
一般式(1)で表される単量体としては、ネオペンチルメタクリレート、2,2−ジメチルブチルメタクリレート、2−メチル−2−エチルブチルメタクリレート、2,2−ジエチルブチルメタクリレート等が挙げられる。
【0017】
一般的に、t−ブチルメタクリレートに代表されるメタクリレートのエステル部位は、加熱により脱離してメタクリル酸が発生することが知られている。また、メタクリレートポリマーの熱分解においては、主に解重合が進行して単量体が生成することが知られているが、上記のように一部エステル部位の脱離により発生したカルボン酸がポリマー分子間又は分子内で脱水反応により酸無水物を形成するため、一部は熱分解し難い成分となることが予想される。
【0018】
しかし一般式(1)で表される構造は、エステル酸素原子のβ水素脱離が起こらないため加熱によるエステル部位の脱離が進行し難いと考えられることからポリマーの熱分解では、解重合のみが進行して単量体へ分解される為、焼成残渣が少なくなると考えられる。
【0019】
一般式(1)で表されるメタクリル単量体の合成方法としては特に限定されるものではなく、酸触媒の存在下でメタクリル酸とアルコールまたはフェノール類とを反応させるエステル化反応や、エステル交換触媒の存在下でメタクリル酸エステルとアルコールまたはフェノール類を反応させるエステル交換反応を利用して合成することが出来る。一般式(1)で表される単量体は、単独でも2種類以上を混合しても使用することが出来る。
本発明の重合体を製造する際、上記一般式(1)で表される単量体と共に、その他の共重合可能な単量体(以下、「その他の単量体」ともいう)を併用することが可能であり、その他の単量体としては、特に限定されるものでは無いが、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、α−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸ブチル、α−メトキシエトキシメチルアクリル酸メチル、α−メトキシポリ(エトキシ)メチルアクリル酸メチル等の単官能(メタ)アクリレート類;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の単官能(メタ)アクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルホルムアミド、 N−ビニルアセトアミド等の単官能N−ビニル化合物類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸アリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等の単官能ビニル化合物類;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、無水イタコン酸、イタコン酸、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、メチレンマロン酸、メチレンマロン酸ジメチル、メチレンマロン酸モノメチル、桂皮酸、桂皮酸メチル、桂皮酸エチル、クロトン酸、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル等の単官能α,β−不飽和化合物類;(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2−(2’−ビニロキシエトキシ)エチル等のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;グリシジル(メタ)アクリレート、α−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有重合性単量体類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFアルキレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物類;等が挙げられる。上記その他の単量体は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用することもできる。
【0020】
上記一般式(1)で表される単量体に由来する構成単位は、重合体100質量%に対し、1〜100質量%、好ましくは50〜100質量%、さらに好ましくは80〜100質量%の割合で含有されていることが焼成時の残渣低減の観点から望ましい。上記の含有量はNMR等によって定量することができる。
【0021】
本発明の重合体の分子量としては特に限定されないが、質量平均分子量で2万〜70万が好ましく、3万〜50万がより好ましい。質量平均分子量が2万以下の場合には固形分を高くした場合でも、ペースト粘度が低くなってしまうことからスクリーン印刷やディップ塗装等の塗工に必要な粘度を満足できない傾向にあり、逆に70万以上の場合には、粘度が高すぎることから塗工の際に生じる糸引きの課題やペーストとしての安定性が不足する等の不具合が生じる傾向にある。
【0022】
<樹脂組成物の重合方法>
本発明の重合体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、熱、紫外線、放射線、電子線、ラジカル重合開始剤等を利用した公知の種々の方法、例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等を採用する事ができる。溶液重合では、溶剤中で単量体を重合するため、重合終了と同時にバインダー樹脂溶液を得ることが出来る。乳化重合では、水に乳化させた単量体をミセル中で重合するため、乳化状態のポリマーを析出分離もしくはスプレードライヤーによって水分を乾燥させることで粉末状の固形ポリマーを得ることが出来る。懸濁重合では、水中で単量体懸濁液を重合するため、ビーズ状の固形ポリマーを得ることが出来る。
【0023】
上記重合方法のうち、溶液重合に用いることができる溶媒としては特に限定されるものでは無いが、例えば、トルエン、キシレン、工業用ガソリン、改質ガソリン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン類、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類等の有機溶媒や水が挙げられる。
【0024】
上記有機溶媒や水は、一般式(1)で表される単量体を含む単量体組成物の100質量部に対して、10〜90質量部、好ましくは、20〜80質量部の範囲となるように使用すれば良い。
【0025】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性のアゾ系開始剤;ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
ラジカル重合開始剤は、一般式(1)で表される単量体を含む単量体組成物100質量部に対して、0.05〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部の範囲内となるように使用すればよい。ラジカル重合開始剤の使用量の範囲が、収率の点、経済性の点で好ましい。
【0027】
また、重合させる際の反応温度は、室温〜200℃の範囲が好ましく、40〜150℃の範囲がより好ましい。
【0028】
さらに、必要に応じて分子量を調節する目的で、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、四塩化炭素等の連鎖移動剤や重合度調節剤を用いても良い。
【0029】
連鎖移動剤や重合度調節剤は、一般式(1)で表される単量体を含む単量体組成物100質量部に対して、0.01〜10質量部、好ましくは0.02〜5質量部の範囲内となるように使用すればよい。
【0030】
上記重合方法の内、乳化重合に、用いることのできる乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤、分子中に1個以上の重合可能な炭素−炭素不飽和結合を有する重合性界面活性剤等を挙げることができる。上記界面活性剤は、単独でも2種類以上を混合して使用することもできる。
【0031】
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等のアルカリ金属アルキルサルフェート類;アンモニウムドデシルサルフェート等のアンモニウムアルキルサルフェート類;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート、ナトリウムスルホシノエート、スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩類;スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート類;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩類等が挙げられる。
【0032】
上記カチオン性界面活性剤としては、例えば、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルアリールスルホネート類;高級アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等が挙げられる。
【0033】
上記非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド類;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体、エチレンオキサイドと脂肪酸アミン、アミドまたは酸との縮合生成物等が挙げられる。
【0034】
上記両性界面活性剤は、分子内にアニオン性部位とカチオン性部位の両方を有する界面活性剤であり、溶液のpHに応じて陽・両性・陰イオンとなる。具体的には、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等が挙げられる。
【0035】
上記高分子界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、これらの重合体の構成単位である重合性単量体の二種以上の共重合体または他の単量体との共重合体、クラウンエーテル類の相関移動触媒等が挙げられる。
【0036】
上記重合性界面活性剤としては、例えば、プロペニル−2−エチルヘキシルベンゼンスルホコハク酸エステルナトリウム、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンエステルのリン酸エステル等のアニオン性重合性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルベンゼンエーテル(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(メタ)アクリル酸エステル等のノニオン性重合性界面活性剤等が挙げられる。
【0037】
上記乳化剤の使用量は、例えば、一般式(1)で表される単量体を含む単量体組成物100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0038】
また、乳化重合で用いられる重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)・二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等のアゾ系化合物類;過可硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、過酢酸、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物類が挙げられる。また、この時還元剤として亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸等を用いてレドックス系開始剤としても良い。
【0039】
上記重合方法の内、懸濁重合を採用して重合体を得る方法としては特に制限されないが、例えば、水中に重合体を構成する単量体、分散剤、油溶性重合開始剤、必要に応じて連鎖移動剤などを加え水性懸濁液とし、これを撹拌しながら単量体を0.05〜1mm程度の液滴に分散させ、加熱下に重合を進行させる方法が挙げられる。
【0040】
分散剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩、または(メタ)アクリル酸とメチル(メタ)アクリレートとの共重合物のアルカリ金属塩;70〜100%のケン化度のポリビニルアルコール、メチルセルロース等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0041】
分散剤の配合量は、水性懸濁液100質量中、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましい。分散剤の配合量が0.001質量%以上であれば、重合時の分散性が良好となる傾向にある。一方、分散剤の配合量が10質量%以下であれば、得られる重合体湿粉の脱水性、乾燥性が良好となる傾向にある。
【0042】
懸濁重合の方法としては、水中に上述の分散剤を単独もしくは2種類以上溶かし込み、単量体、油溶性重合開始剤、必要に応じて連鎖移動剤を加え、攪拌を行いながら単量体を0.05〜1mm程度の液滴に分散させ、加熱下に重合を行うのが好ましい。
【0043】
懸濁重合時に使用する油溶性の重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤を挙げることができる。また、連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル等のチオグリコール酸エステル類、α−メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。
【0044】
重合温度は特に限定されるものではないが、50℃〜100℃の範囲が、分散安定性確保と反応時間の点で好ましい。
【0045】
また、懸濁重合時の分散安定性を向上させる目的で、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の電解質を使用してもよい。
【0046】
油溶性重合開始剤の配合量は、特に制限されないが、単量体の合計100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。重合開始剤の配合量が0.05質量部以上であれば、比較的短時間で重合が進行し、生産性が向上する傾向にある。一方、重合開始剤の配合量が10質量部以下であれば、重合発熱が緩和され、重合温度の制御が容易となる傾向にある。
【0047】
懸濁重合に用いられる連鎖移動剤としては、特に制限されないが、例えば、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;チオグリコール酸オクチル等のチオグリコール酸エステル類;α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
連鎖移動剤の配合量は、特に制限されないが、単量体100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0049】
得られた重合体は、精製せずにそのまま使用してもよいし、再沈殿法等の方法により精製して使用してもよい。
【0050】
<焼成ペースト用樹脂組成物>
本発明の焼成ペースト用樹脂組成物は、上記一般的(1)で表される単量体に由来する構成単位を含む重合体、無機粉体(フィラー)、溶媒、および必要に応じて添加剤を含んで成る。前記無機粉体(フィラー)としては、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム等の酸化物系はもとより、窒化アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素当の窒化物系、銅、銀、ニッケル等の金属、低融点ガラス粉等のシリカ系粉体や蛍光体等が挙げられる。これらフィラーは、焼成によりバインダー樹脂の分解した後、更に高温の焼結のプロセスにより溶融されるものである為、バインダー樹脂の熱分解温度よりも十分に高い溶融温度を持つものであれば、特に限定されるものではなく、種々の無機粉体を使用する事が出来る。無機粉体とバインダー樹脂の混合比は、無機粉体100質量部に対して、バインダー樹脂固形分で3〜30質量部添加することができるが、無機粉体の比重により異なるため、上記範囲に限定されるものではない。また必要に応じて可塑剤、分散助剤、消泡剤を添加してもよい。塗工方法は、高粘度用途では、スクリーン印刷または、ディップ塗装等が挙げられ、低粘度用途ではドクターブレード法やキャスト法が挙げられる。
本発明の焼成ペースト用樹脂組成物と共に使用される有機溶剤は、沸点150℃以上の有機溶剤が好ましい。沸点が150℃以上とすることにより、スクリーン印刷またはディップ塗工時の塗装作業性が良好となる。有機溶剤の含有量は、重合体100質量部に対し、150〜2,000質量部が好ましい。有機溶剤を150質量%以上とすることにより、重合体を均一に溶解させ流動性を付与することができ、2,000質量%以下とすることにより良好な高粘度を発現させることが出来る。有機溶剤の具体的な例としては、ターピネオール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル1,3-ペンタジオールモノイソブチレート、イソホロン、3−メトキシブチルアセテート、沸点150℃以上の芳香族または脂肪族炭化水素、乳酸ブチル、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタル酸エステルまたはジブチルアジペート、ジオクチルアジペート等のアジピン酸エステル等の可塑剤等が挙げられ、上記溶剤を少なくとも1種以上を混合して使用できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について実施例を用いて説明する。但し、実施例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を示す。
【0052】
なお、実施例中の評価方法は、以下の通りである。
【0053】
<質量平均分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)[東ソー製 HLC−8120]を用いて測定し、標準ポリスチレン換算にて算出した。
【0054】
<焼成残渣量の測定>
得られた重合体を乾燥させ、サンプル量約10mgをアルミ皿にのせ、熱質量分析(TGA)を実施した。空気中、昇温速度15℃/minで室温から500℃まで昇温し、初期質量に対する350℃での残留質量を残渣量(%)として評価した。
【0055】
<難分解生成物量の測定>
更に、熱分解生成物、特に熱分解終了付近の分解生成物の分析を目的にEGA−MS(Evolved Gas Analysis−Mass Spectrometry)による分析を実施した。試料1mgを試料カップに入れ、流量50ml/minのヘリウム雰囲気中の熱分解装置(フロンティアラボ製PY−2010D)に導入し、昇温速度10℃/minで50℃から600℃まで昇温させて発生した1/50の量の熱分解ガスを1ml/minのヘリウムをキャリアガスとして300℃のGC(Agilent社製6890型GC)カラムに送り込み、質量分析計(Agilent社製5973N型)にて分析を実施した。カラムは、液相なしで長さ2.5m、直径0.15mm(Ultra Alloy DTM)のものを用いた。質量分析は質量範囲m/Z=17〜500までを検出範囲とした。
【0056】
分析結果では、400℃付近までの熱分解生成物は全て単量体のマススペクトルと一致しており、熱分解は解重合が主体で起こっていることが示唆された。
【0057】
ところが、熱分解終了付近の約420℃において単量体ではない生成物のピークが観測され、これを難分解生成物と定義し、このマススペクトルに特徴的なm/Z=91のイオンピーク面積のトータルイオンピーク面積に対する割合を難分解生成物量として評価した。
【0058】

[実施例1]
<単量体:ネオペンチルメタクリレートの合成>
加熱、冷却が可能な反応装置に、105℃で2時間乾燥したモレキュラーシーブ(3A/Powder)を100g、トルエン300g、トリエチルアミン304gとネオペンチルアルコール273gを入れ、氷浴中で攪拌しながら塩化メタクリロイル314gをトルエン300gで希釈したものを1時間かけて滴下した。滴下終了後攪拌を継続しながら50℃に加温して2時間反応させた。反応終了後1.2Nの塩酸1L、1NのNa2CO31L、飽和食塩水1Lで1回ずつ洗浄し、エバポレーターにてトルエンを留去させた反応液をシリカゲルカラム(ヘキサン/酢酸エチル)を通し分離した後、減圧蒸留にて精製し、ネオペンチルメタクリレート(以下NPMAと呼ぶ)130g(収率27%)を得た。
【0059】
<重合体の製造>
重合体の製造においては、固形で純粋なポリマーが得られる観点から懸濁重合で実施した。
【0060】
加温、冷却が可能な重合装置に、脱イオン水190部とNPMA100部を入れ、油溶性重合開始剤として2,2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.3部、分散助剤としての役割をもつ電解質として硫酸ナトリウム0.5部、連鎖移動剤としてチオグリコール酸オクチル0.19部を加えて十分に撹拌して溶解させた。その後、一度撹拌を止め、分散剤としてポリビニルアルコール(ケン化度80%、重合度1,700)0.3部を10部の脱イオン水に溶解させた分散剤溶液を添加し、撹拌を再開させ、昇温した。75〜80℃の反応温度を保持して2時間反応させ、重合発熱の最大値を確認した後、85℃に昇温して1時間保持して反応を終了させた。
【0061】
得られた水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布により濾過し、脱イオン水で十分洗浄した後脱水機にて脱水し、40℃で16時間乾燥することで、ネオペンチルメタクリレートの微粒状ホモポリマーを得た。質量平均分子量は237,000であった。
【0062】
[比較例1〜7]
実施例1と同じ懸濁重合法により、表1に示すホモポリマーを得た。単量体は市販のものを用い、単量体の種類以外は全て実施例1と同様の重合手順でホモポリマーを製造した。
【0063】
実施例1、比較例1〜7では得られたホモポリマーの構造と分子量、TGA350℃での熱分解残渣量、EGA−MS分析での難熱分解生成物量を比較したものである。
【表1】

【0064】
※1:GPC溶離液(THF)に溶解せず未測定。
【0065】
※2:焼成残渣量・・・350℃での残留質量(空気中、昇温速度15℃/min)
○:1.5%以下、△:1.5〜5%、▲:5〜10%、×:10%以上
※3:難分解生成物量:(m/Z=91)のイオンピーク面積/トータルイオンピーク面積
○:0.02%以下、△:0.02〜0.05%、×:0.05%以上
NPMA:ネオペンチルメタクリレート
PME−100:メトキシポリエチレングリコール(n=2)メタクリレート(日油(株) ブレンマーPME−100)
AAEM:2−アセトアセトキシエチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
n−BMA:n−ブチルメタクリレート
2−EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート
t−BMA:t−ブチルメタクリレート
PHMA:フェニルメタクリレート

表1から明らかなように、NPMAのホモポリマーは、焼成時の焼成残渣が少なく、熱分解終盤に発生する難分解生成物の量が少ないことが分る。これに対し、各比較例では熱分解生成物量が多かった。
【0066】
以上の結果から明白なように、本発明によれば、焼成時の焼成残渣が少ない焼成用アクリル樹脂組成物を得ることが出来、本技術は焼成ペーストを用いる電子材料等の様々な分野において、部材の信頼性向上や製造エネルギー削減の観点から非常に有用な技術ということが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単量体に由来する構成単位を含む焼成ペースト用重合体。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基またはアルコキシ基を表す。R、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の重合体を含む焼成ペースト用樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−286988(P2009−286988A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144346(P2008−144346)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】