説明

焼成凝集体の製造方法、焼成凝集体、研磨材組成物及び研磨材物品。

【課題】内部が密に充填され、研磨粒子が均一に分散された構造を有する焼成凝集体を製造する方法であって、焼成凝集体内への異物の混入が少ない、焼成凝集体の製造方法を提供すること。
【解決手段】ガラスフリット112、研磨粒子111及び水溶性の多糖類を含有するスラリーを金属塩含有溶液と接触させて得られる凝集体108を焼成する、焼成凝集体120の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成凝集体の製造方法、焼成凝集体、研磨材組成物及び研磨材物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド粒子等の研磨粒子が内部に分散された焼成凝集体の製造方法としては、工業的に大量生産が可能であることから、従来、主にスプレードライ法が用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004−514017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スプレードライ法では、研磨粒子をスラリー状に分散させ、このスラリーを大きな反応容器中で噴霧乾燥し、スラリーの液滴より生じる乾燥凝集体を壁に衝突させて落下した凝集体を捕集し、焼成する。
【0005】
研磨材物品に用いられる焼成凝集体は、均一な研磨性能を発現する観点から、内部が研磨粒子とバインダーとで密に充填されていることが好ましい。しかしながら、スプレードライ法では、とくに粒経が200μm以上の大きな焼成凝集体を作製するに際し、捕集される凝集体の内部を密に充填することが困難であり、これを焼成して焼成凝集体を作製する場合に、内部に空洞ができる、多孔質様になる等の問題がある。
【0006】
また、スプレードライ法では、大きな反応容器中を完全に清浄にすることは困難であり、異なる組成の凝集体を連続して製造する場合に、反応容器中の付着物が異物として混入する恐れがある。研磨材においてはこのようなコンタミの中でも、意図しない大きな研磨粒子のコンタミは被研磨体に致命的なスクラッチ痕を生じる恐れがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、内部が密に充填され、研磨粒子が均一に分散された構造を有する焼成凝集体を製造する方法であって、焼成凝集体内への異物の混入が少ない、焼成凝集体の製造方法を提供することにある。本発明の目的はまた、上記製造方法により製造される焼成凝集体、並びにそれを用いた研磨材組成物及び研磨材物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ガラスフリット、研磨粒子及び水溶性の多糖類を含有するスラリーを金属塩含有溶液と接触させて得られる凝集体を焼成する、焼成凝集体の製造方法を提供する。このような製造方法によれば、内部が密に充填され、研磨粒子が均一に分散された構造を有する焼成凝集体を効率よく製造することができる。また、このような製造方法により製造された焼成凝集体は、内部への異物の混入が少なくなる。さらに、このような製造方法によれば、従来のスプレードライ法では作製困難だった大粒径(例えば300μm〜5mm)の凝集体も作製可能であり、粒径分布のコントロールも容易である。
【0009】
本発明はまた、ガラスフリット、研磨粒子及び水溶性の多糖類を含有するスラリーを金属塩含有溶液と接触させて得られる凝集体を焼成してなる、焼成凝集体を提供する。このような焼成凝集体は、内部が密に充填され、研磨粒子が均一に分散された構造を有し、内部への異物混入が少ない。そのため、これを用いた研磨物品は研磨性能に優れるようになる。
【0010】
本発明はまた、上記製造方法により製造された焼成凝集体と、バインダー樹脂とを含有する、研磨材組成物を提供する。この研磨材組成物は、研磨材物品の製造に有用である。
【0011】
すなわち、上記研磨材組成物を用いることにより、バッキングと、該バッキングの少なくとも一方の主面上に複数形成され、上記研磨材組成物からなる研磨材複合体と、を備える、研磨材物品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内部が密に充填され、研磨粒子が均一に分散された構造を有する焼成凝集体を製造する方法であって、焼成凝集体内への異物の混入が少ない、焼成凝集体の製造方法を提供することができる。また、上記製造方法により製造される焼成凝集体、並びにそれを用いた研磨材組成物及び研磨材物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る研磨材物品の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る研磨材物品の一実施形態を示す上面図である。
【図3】本発明に係る製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図4】本発明に係る製造方法の一実施形態を示す模式図である。
【図5】本発明に係る製造方法の一実施形態を示す模式図である。
【図6】湿潤凝集体、乾燥凝集体及び焼成凝集体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る焼成凝集体の製造方法は、ガラスフリット、研磨粒子及び水溶性の多糖類を含有するスラリーを金属塩含有溶液と接触させて得られる凝集体を焼成することを特徴とする。なお、スラリーとは分散液を示す。このような製造方法によれば、内部が密に充填され、研磨粒子が均一に分散された構造を有する焼成凝集体を効率よく製造することができる。また、このような製造方法により製造された焼成凝集体は、内部への異物の混入が少なくなる。また、このような製造方法によれば、大粒径(例えば300μm〜5mm)であり、且つ内部が密に充填された焼成凝集体が作製可能である。従来のスプレードライ法でこのような大粒径の凝集体を作製したには、内部に空洞ができる、多孔質様になる等問題を避けることが困難である。さらに、本実施形態に係る焼成凝集体によれば、粒径分布のコントロールも容易であり、例えば、変動係数を0.2以下にすることができる。
【0015】
ガラスフリットとは、粉末又はフレーク状のガラスをいい、焼成時に軟化して研磨粒子を融着する機能を有する。ガラスフリットとしては、シリカガラスフリット、珪酸塩ガラスフリット、硼珪酸塩ガラスフリット、リン酸塩ガラスフリット、ビスマス系ガラスフリット等が挙げられ、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0016】
珪酸塩ガラスフリットとしては、焼成凝集体の強度に優れることから、シリカの含有量が70〜80質量%である珪酸塩ガラスフリットが挙げられる。シリカ以外の成分の好適な含有量は、酸化ナトリウムについては10〜20質量%、酸化カルシウムについては5〜10質量%、酸化アルミニウムについては0.1〜1質量%、酸化マグネシウムについては2〜5質量%である。珪酸塩ガラスフリットとして、例えば市販品としては、珪酸塩ガラスフリットの全質量を基準として、シリカ73質量%、酸化ナトリウム16質量%、酸化カルシウム5質量%、酸化アルミニウム1質量%、酸化マグネシウム4質量%、酸化カリウム1質量%であるガラスフリットが挙げられる。
【0017】
硼珪酸塩ガラスフリットとしては、焼成凝集体の強度に優れることから、シリカの含有量が50〜80質量%である硼珪酸塩ガラスフリットが好ましい。シリカ以外の成分の好適な含有量は、酸化ホウ素については10〜30質量%、酸化アルミニウムについては1〜2質量%、酸化マグネシウムについては0〜10質量%、酸化亜鉛については0〜3質量%、酸化カルシウムについては0〜2質量%、酸化ナトリウムについては1〜5質量%、酸化カリウムについては0〜2質量%、酸化リチウムについては0〜2質量%である。硼珪酸塩ガラスフリットとして、たとえば、硼珪酸塩ガラスフリットの全質量を基準として、シリカ52質量%、酸化ホウ素27質量%、酸化アルミニウム9質量%、酸化マグネシウム8質量%、酸化亜鉛2質量%、酸化カルシウム1質量%、酸化ナトリウム1質量%、酸化カリウム1質量%、酸化リチウム1質量%であるガラスフリットが挙げられる。
【0018】
リン酸塩ガラスフリットとしては、焼成凝集体の強度および耐水性が良好となるため、リン酸化物の含有量が30〜80%であるリン酸塩ガラスフリットが好ましい。リン酸化物以外の成分の好適な含有量は、酸化鉛、フッ化鉛については0〜30質量%、酸化アンチモンについては20〜70質量%、酸化アルミニウムについては1〜5質量%、酸化マグネシウムについては0〜10質量%、酸化亜鉛については0〜3質量%、酸化カルシウムについては0〜2質量%、酸化ナトリウムについては1〜5質量%、酸化カリウムについては0〜2質量%、酸化リチウムについては0〜2質量%である。
【0019】
ビスマス系ガラスフリットとしては、焼成凝集体の強度および耐水性が良好となるため、ビスマス酸化物の含有量が20〜75%であるビスマス系ガラスフリットが好ましい。ビスマス酸化物以外の成分の好適な含有量は、酸化鉛、フッ化鉛については0〜30質量%、シリカについては0〜15質量%、酸化硼素については5〜40質量%、酸化アルミニウムについては0〜5質量%、酸化ジルコニウムについては0〜10質量%、酸化亜鉛については0〜15質量%、酸化カルシウムについては0〜15質量%、酸化ナトリウムについては0〜15質量%、酸化カリウムについては0〜15質量%である。
【0020】
ガラスフリットは、内部の粒子の分布が均一で一層密に充填された焼成凝集体が得られることから、平均粒径が50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。また、表面積の増加によってスラリーの粘度が過度に増大するのを防ぐために100nm以上であることが好ましい。なお、ガラスフリットの平均粒経は、レーザー回折法を用いた粒度測定器、コールターカウンター等で測定することができる。
【0021】
ガラスフリットは、研磨粒子が分解、溶融又は軟化しない温度で、融着するものがよく、このようなガラスフリットとしては、いわゆる低融点ガラスからなるものが挙げられる。ガラスフリットの軟化点は、好適には800〜600℃であり、750〜700℃がさらに好ましい。軟化点が上記下限値以上であることで、焼成凝集体の耐水性や機械強度が向上する傾向があり、上記上限値以下であることで、少ない熱量でガラスフリットと研磨粒子を融着させることができ、エネルギー消費を低減できる。
【0022】
ガラスフリット、研磨粒子及び水溶性の多糖類を含有するスラリーにおいて、ガラスフリットの含有量は、所望する焼成凝集体の性能によって適宜調整することができるが、上記スラリー全量基準で、40〜5質量%であることが好ましく、20〜10質量%であることがより好ましい。このような含有量にすることで、研磨粒子同士を十分に接着し、かつ研磨粒子の研磨機能を損なわない焼成凝集体を得ることができる。
【0023】
研磨粒子は、焼成凝集体に求められる研磨性能によって適宜変更することができ、例えば、ガラスハードディスク、半導体素子、光デバイス等の研磨に使用する焼成凝集体では、研磨粒子としてモース硬度5以上の鉱物粒子を含むことが好ましい。
【0024】
研磨粒子としては、例えば、ダイヤモンド粒子、シリコンカーバイド粒子、黒色炭化ケイ素粒子、酸化アルミニウム粒子(溶融アルミナ、セラミックアルミナ、焼成アルミナ、焼結アルファアルミナ、白色溶融アルミナ、褐色溶融アルミナ、単結晶溶融アルミナ、等)、ジルコニア粒子、アルミナジルコニア粒子、溶融アルミナジルコニア粒子、変性セラミック酸化アルミニウム粒子、立方晶窒化ホウ素粒子、炭化チタン粒子、窒化チタン粒子、酸化セリウム粒子、シリカ(酸化ケイ素)粒子、炭化ホウ素粒子、BO及びB10Oであるホウ素酸化物粒子、ガーネット粒子、トリポリ粒子、炭窒化ホウ素粒子、並びにベーマイト誘導体粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を好適に使用できる。上記研磨粒子のうち、ダイヤモンド粒子は、硬度が極めて高い事に起因して、Waferの研削等の難削材の精密研磨に使用する焼成凝集体に好適に用いられる。なお、セラミックアルミナ粒子であるCUBITRON(商品名)は、3M社(St.Paul,Minn.)より購入できる。
【0025】
研磨粒子の平均粒径は、作製される焼成凝集体の平均粒径に応じて適宜変更することができ、例えば、0.01μm〜100μmの範囲のものを用いることができる。
【0026】
焼成凝集体と研磨粒子がいずれも粒子径状を有する場合、焼成凝集体の内部の均一性を向上させるために、焼成凝集体の平均粒径Xに対する研磨粒子の平均粒径Yの比(Y×100/X(%))が、0.0001〜20%であることが好ましく、0.05〜5%であることがより好ましく、0.2〜3%であることがさらに好ましい。なお、焼成凝集体の平均粒経は、例えば、スラリーを金属塩含有溶液に滴下して接触させる際に、スラリーの液滴の大きさを適宜変更することにより、調整することができる。また、焼成凝集体の平均粒経は、ふるい分けや沈降法により測定可能である。
【0027】
研磨粒子が、軟化点、融点及び分解温度のうち少なくとも一つを有する場合、ガラスフリットの軟化点は、これらのいずれの温度よりも低いことが好ましい。このようなガラスフリットの採用により、研磨粒子が、焼成凝集体中に均一に分散した球状研磨材としてより優れた研磨性能を発揮することができる。また、焼成凝集体の内部に空洞ができることを一層抑制することができる。
【0028】
スラリー中の研磨粒子の含有量は、所望する焼成凝集体の性能によって適宜調整することができ、スラリー全量基準で50〜10質量%であることが好ましく、30〜10質量%であることがより好ましい。このような含有量にすることで、研磨粒子の研磨特性がより顕著に研磨材物品に反映される。
【0029】
水溶性の多糖類としては、一価のカチオンを含有するアルギン酸塩、L−M−ペクチン塩等が挙げられる。一価のカチオンを含有する塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられ、これらのうちナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩を好適に使用できる。これらの水溶性の多糖類のうち、内部に研磨粒子が均一に分散した焼成凝集体が得られる点、並びに、球状の凝集体が形成されやすくなり、球状凝集体形成時の異物の混入が一層少なくなる点から、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、L−M−ペクチンから選ばれる少なくとも一種が好ましく、アルギン酸ナトリウムとアルギン酸アンモニウムが特に適している。
【0030】
スラリー中の水溶性の多糖類の濃度は、0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましく、0.3〜1質量%がさらに好ましい。水溶性の多糖類の濃度を上記範囲内にすることで、金属塩含有溶液と接触した際に凝集体が迅速且つ確実に形成されるようになる。これにより、内部が一層密に充填された焼成凝集体が得られやすくなり、研磨物品の研磨性能を向上できる。
【0031】
スラリーは、アルコール、有機バインダー、分散剤(界面活性剤)等の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0032】
添加剤としてアルコールが含有すると、スラリーの粘度は上昇する傾向にある。すなわち、アルコールの添加量によりスラリーの粘度を調整することができる。アルコールの添加量としては、水溶性の多糖類が十分に溶解している範囲であることが好ましい。
【0033】
スラリーの粘度は、1mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましく、300mPa・s以上であることがさらに好ましい。このようなスラリーを金属塩含有溶液と接触させることで、均一な形状の焼成凝集体が一層得られやすくなる。また、スラリーの粘度は3000mPa・s以下であることが好ましく、2000mPa・s以下であることがより好ましく、1000mPa・s以下であることがさらに好ましい。このようなスラリーは均一な液滴を連続して金属塩含有溶液に滴下するのに好適であり、生産性を向上できる。
【0034】
上記の好適な粘度範囲を有するスラリーとしては、5〜20質量%のガラスフリット、5〜20質量%の研磨粒子、0.1〜1質量%の水溶性の多糖類、及び、30〜80質量%の水を含有するスラリーが挙げられる。
【0035】
金属塩含有溶液は、スラリーが接触して凝集体を形成する溶液であり、金属塩含有溶液に含有される金属イオンとしては、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Cu2+、Al3+、Cr3+等がある。金属塩含有溶液として、好ましくは2価の金属イオンを含有する溶液であり、より好ましくはMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+及びAl3+からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属イオンを含有する溶液であり、さらに好ましくはCa2+Sr2+、Ba2+、Al3+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+及びCu2+からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属イオンを含有する溶液である。これらの金属イオンを含有する溶液を用いることで、金属塩含有溶液と接触した際に凝集体が迅速且つ確実に形成されるようになる。
【0036】
上記の金属イオンは、金属塩として金属塩含有溶液に溶解する。例えば、好適な金属イオンの塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、等の金属塩が溶解した溶液が用いられる。
【0037】
金属塩含有溶液は、通常水が溶媒として用いられるため、金属塩は水溶性であることが望ましい。そのため、主に上記金属イオンの塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩が好適に用いられ、特に塩化物塩が好適である。塩化物塩としては、塩化カルシウム、塩化マンガン、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化銅等が例示できる。
【0038】
金属塩含有溶液は、凝集体の形成が迅速且つ確実に行われることから、金属塩の濃度が0.1〜5mol/lであることが好ましく、0.5〜2mol/lであることがより好ましい。
【0039】
以下、本実施形態に係る焼成凝集体の製造方法について、図面を参照しつつ詳述する。
【0040】
本実施形態に係る焼成凝集体の製造方法は、ガラスフリット、研磨粒子及び水溶性の多糖類を含有するスラリーを金属塩含有溶液と接触させて得られる凝集体を焼成することを特徴とする。本実施形態に係る製造方法では、例えば、スラリーを金属塩含有溶液に滴下して接触させることで、球状の凝集体を得て、当該凝集体を焼成することで球状の焼成凝集体を得ることもできる。また、別法として所定の形状の凹部に注入されたスラリーを金属塩含有溶液と接触させて所定の形状を有する凝集体を得て、当該凝集体を焼成することで所定の形状を有する焼成凝集体を得てもよい。
【0041】
スラリーを金属塩含有溶液に滴下して得られる凝集体を焼結する製造方法では、従来の方法では製造困難であった、内部が密に充填された平均粒経が300μm〜5mmである焼成凝集体を、簡便に製造することができる。
【0042】
このような製造方法においては、ガラスフリット、研磨粒子及び水溶性の多糖類を含有するスラリーを金属塩含有溶液に滴下すると、水溶性の多糖類が金属塩含有溶液由来の金属イオンと瞬時にイオン交換して不溶性の塩を形成し、液滴の球体を保持したままゲル化が進行する。通常は、滴下後金属塩含有溶液中で凝集体を数時間放置して充分にゲル化を進行させる。そして得られた凝集体を蒸留水等で洗浄して乾燥を行い、ガラスフリットが融解する温度域で加熱して球状凝集体を焼成し、焼成凝集体を製造する。
【0043】
なお、金属塩含有溶液中で得られた凝集体中、不溶性の多糖類の塩は、スラリー調製時に用いた溶媒又は金属塩含有溶液の溶媒(通常は、水)で膨潤したヒドロゲルとなっており、当該ヒドロゲルに研磨粒子とガラスフリットが捕捉されていると考えられる。以下、このような凝集体を湿潤凝集体と称する。図6の(a)に、ヒドロゲルである膨潤多糖類塩113と、当該膨潤多糖類塩113に捕捉された研磨粒子111及びガラスフリット112からなる湿潤凝集体108の模式断面図を示す。
【0044】
また、上記湿潤凝集体を乾燥させたものを、乾燥凝集体と称する。乾燥凝集体では、溶媒をほとんど含有しない多糖類塩からなる乾燥ゲルに、研磨粒子とガラスフリットが捕捉されていると考えられる。乾燥凝集体は、湿潤凝集体と比較して、粒径が小さく、研磨粒子とガラスフリットが密に充填している。図6の(b)に、乾燥多糖類塩114と、当該乾燥多糖類塩114に捕捉された研磨粒子111及びガラスフリット112からなる乾燥凝集体110の模式断面図を示す。
【0045】
図6の(c)に、乾燥凝集体を焼成して得られる焼成凝集体120の模式断面図を示す。焼成凝集体120では、乾燥凝集体110におけるガラスフリット112が融着して密な構造を有するガラスマトリックス115となり、当該ガラスマトリックス115中に研磨粒子111が保持されている。乾燥多糖類塩114は焼結時に焼失し、焼成凝集体120中にはほぼ残存しない。また、ガラスフリットが凝集収縮する。このため、焼成凝集体120は乾燥凝集体110と比較して粒径が小さくなる。なお、図6には示されていないが、乾燥多糖類塩114が金属塩である場合、焼成凝集体120中には、乾燥多糖類塩114由来の金属が含有される場合がある。すなわち、場合により、上記金属塩含有溶液に含有される金属イオン由来の金属が、焼成凝集体120中に含まれる。
【0046】
上記の製造方法において、通常、スラリーはガラスフリットと研磨粒子とを均一に混合した後、当該混合物を多糖類含有溶液に加えて調製される。このように調製することで、スラリー中でガラスフリットと研磨粒子が均一に分散し、内部が均一である凝集体を作製しやすくなる。また、この方法で調製すると、多糖類含有溶液の粘度調整を行うことでスラリーの粘度が推測しやすくなり、スラリーの粘度を容易に変更できる。なお、スラリーの粘度を適切に調整することで湿潤凝集体が安定的に成形される。
【0047】
ここで多糖類含有溶液に使用される溶媒としては、水溶性の多糖類が溶解する溶媒である必要があり、水が好ましい。多糖類含有溶液としては、容易に入手でき、扱いやすいためアルギン酸ナトリウム水溶液が最も好適であるが、ナトリウムの混入を嫌う場合にはアルギン酸アンモニウムも使用できる。多糖類塩含有溶液において、多糖類の塩の配合量は、多糖類塩含有溶液の全質量基準で、好適には0.1〜10質量%であり、さらには0.5〜8質量%であり、特には1〜5質量%であることが好ましい。
【0048】
ここでスラリーの粘度は、好適には1〜5000mPa・sに調製されることが好ましいが、必要な粒経に応じて適宜選択される。スラリーの粘度が上記範囲内であると、液滴が安定性に優れるため、金属塩含有溶液に滴下された際に凝集体が球状に安定的に成形される。なお、スラリーの粘度は、多糖類含有溶液における多糖類濃度が高いほど上昇する傾向にあり、多糖類濃度が低いほど低下する傾向にある。また、スラリーにおけるガラスフリット及び研磨粒子の合計含有量が多いほど上昇する傾向にあり、ガラスフリット及び研磨粒子の合計含有量が少ないほど低下する傾向にある。また、アルギン酸の構成要素である、マンヌロン酸部とグルロン酸部の数の比はM/G比と呼ばれ、これが低い方が粘度は上昇する。この現象はスラリー粘度を調整する要素として考慮できるが、そのM/G比の範囲は本発明においては限定されるものではない。
【0049】
スラリーの滴下方法としては、ノズル滴下、噴射器、インクジェット法等による滴下等公知の液滴作製技術を使用することができるが、狭い粒径分布の焼成凝集体を得るためには均一な液滴を連続して形成できる方法が好ましい。また、液滴の粒経を適宜調整可能な滴下方法によってスラリーの滴下を行うことで、所定の平均粒径を有する焼成凝集体が簡便に得られる。さらに、スラリーにおけるガラスフリットと研磨粒子の比重差が大きい場合、充分に攪拌しながら滴下を行うことで、均一な内部構造を有する焼成凝集体が得られる。
【0050】
金属塩含有溶液は、多糖類と塩を形成して不溶性ゲルを生成し得る金属イオンを含有する。好適には塩化カルシウム水溶液、塩化マンガン水溶液、塩化コバルト水溶液、塩化ニッケル水溶液、塩化銅水溶液等が使用され、これらの金属塩含有溶液には、凝集体を着色するための着色剤が含有してもよい。
【0051】
スラリーを滴下する際、ゲル化が完全に進行するまでの湿潤凝集体内部の研磨粒子の分散状態の均一化を図るために、球状の湿潤凝集体が浮遊している金属塩含有溶液をスターラー等で攪拌することが好ましい。また、スラリーの滴下により得られた湿潤凝集体は、ゲル化が十分に進行するまで金属塩含有溶液中に所定の時間浸漬させることが好ましい。ここで、浸漬させる時間は、スラリーの組成比や金属塩含有溶液の濃度によって異なるが、通常、室温で0.1〜30時間、好ましくは室温で0.1〜3時間浸漬させる。
【0052】
金属塩含有溶液中に形成された湿潤凝集体は、金属塩含有溶液中から取り出した後、蒸留水で洗浄し、乾燥した後に、焼成することが好ましい。乾燥に際しては、凝集体が急激な変形を生じない程度に加熱してもよく、例えば、50〜80℃で加熱乾燥(例えば、5〜12時間)を行うことができる。乾燥時は湿潤凝集体の粒を静置しても連続的に転動撹拌してもよい。また、焼成は、凝集体中に含有されるガラスフリットの少なくとも一部が軟化する温度域で行う。焼成温度は、ガラスフリットの軟化点により適宜選択できるが、研磨粒子の軟化、溶融、分解等を抑制しつつガラスフリットを軟化させることが好ましい。このような焼成温度は、研磨粒子の分解温度あるいはガラスフリットの軟化点に依存し、通常500〜1500℃が選択される。例えば、研磨粒子がダイヤモンドの場合には、好ましくは650〜750℃である。焼成時もまた、乾燥凝集体の粒を静置しても連続的に転動撹拌してもよい。焼成時に凝集体の粒同士が融着するのを防ぐために、ガラスの軟化点又は融点よりも高い融点をもつ、アルミナ等の粉末を凝集体の表面に付着させておくこともできる。
【0053】
上記工程を備える製造方法では、スラリーの濃度や粘度、滴下装置のノズル径や滴下速度等を調整することにより、非常に狭い範囲の粒度分布で目的のサイズの焼成凝集体を得ることができる。また、均一な形状の焼成凝集体を、連続して多量に製造することができる。
【0054】
焼成凝集体の製造方法の一実施形態の工程図を図3に示す。第1混合工程S1では、水溶性の多糖類と蒸留水とを混合する。第2混合工程S2では、S1で得た混合溶液と、研磨粒子とガラスフリットとを混合し、スラリーを得る。接触工程S3では、S2で得たスラリーを、例えば金属塩含有溶液への滴下により、金属塩含有溶液に接触させる。S3では、S2で得たスラリーと金属塩含有溶液との接触により、湿潤凝集体が生じる。ゲル化工程S4では、S3で生じた湿潤凝集体を、金属塩含有溶液と所定の時間接触させることにより、湿潤凝集体内部まで充分にゲル化を進行させる。洗浄工程S5では、S4を経て得られた湿潤凝集体を、蒸留水で洗浄する。ここで洗浄方法としては、例えば、湿潤凝集体を蒸留水中に分散させて攪拌等を行うことで洗浄することができる。乾燥工程S6では、湿潤凝集体を乾燥させて乾燥凝集体を得る。乾燥方法としては、特に制限はなく、例えばオーブン中で50〜80℃で加熱して乾燥凝集体を得ることができる。なお、乾燥凝集体は、湿潤凝集体と比較して保持される水分量が少なければ、多少の水分を含有していてもよい。焼成工程S7では、乾燥凝集体を焼成して焼成凝集体を得る。焼成は、例えば、電気炉中で500〜1500℃に加熱することで行うことができる。
【0055】
また、焼成凝集体の製造方法の一実施形態の模式図を、図4と図5に示す。
【0056】
この実施形態においては、攪拌器21を備える容器20に、蒸留水101を所定量入れ、攪拌しながら水溶性の多糖類102を加え、多糖類含有水溶液103を得る。次いで、多糖類含有水溶液103に、攪拌しながらガラスフリット104及び研磨粒子105を加える。ここで、ガラスフリット104と研磨粒子105は同時に加えても、順次加えてもよい。ガラスフリット104と研磨粒子105を加えた後、充分に攪拌し、スラリー106を得る。
【0057】
次いで、スラリー106を、流量コントロールポンプ22により一定流量で定量吐出ユニット23に送り、定量吐出ユニット23から液滴状に吐出させることで、金属塩含有水溶液107に滴下する。ここで、流量コントロールポンプ22の制御によりスラリー106の滴下速度を所望の値にすることができる。また、定量吐出ユニット23により、スラリー106の滴下時の液滴の大きさを適宜調整することができる。ここでスラリー106の液滴の大きさを調整することで、焼成凝集体の粒経を自由に調整することができる。金属塩含有水溶液107に滴下されたスラリー106がゲル化し、湿潤凝集体108が得られる。ここで、金属塩含有水溶液107の容器24は、攪拌器25を備えることが好ましく、スラリー106の滴下中、攪拌器25により金属塩含有水溶液107が攪拌されていることが好ましい。これにより、湿潤凝集体のゲル化が未熟な段階においてもゲル内部でのスラリーの沈降を防ぎ、組成の偏りが生じるのを防ぐため、一層均一な粒径及び構造を有した焼成凝集体が得られる。スラリー106の滴下後、湿潤凝集体108は金属塩含有水溶液107中で内部まで充分にゲル化を進行させる。
【0058】
次に、湿潤凝集体108を、蒸留水109中に分散させ洗浄する。洗浄後、湿潤凝集体108を乾燥用ヒータ28により加熱し、乾燥させて乾燥凝集体110を得る。そして、乾燥凝集体110を焼成用ヒータ29により焼成し、焼成凝集体120を得る。
【0059】
以下、本実施形態に係る研磨材組成物及び研磨材物品について詳述する。
【0060】
本実施形態に係る焼成凝集体は、被覆研磨材製品、接着研磨材製品(ガラス質、樹脂状および金属の研削ホイール、カットオフホイール、マウンテッドポイント、ホーニング砥石等を含む。)、不織研磨材製品、研磨材ブラシなどの従来の研磨材製品中で使用することができる。また、そのまま溶液等に分散させて遊離研磨材として使用することもできる。この場合、研磨化合物(例えば、ポリッシングコンパウンド)、ミリング媒体、ショットブラスト媒体、振動ミル媒体等のスラリーを用いる研磨材用途に用いることができる。
【0061】
また、焼成凝集体とバインダー樹脂とを含有させることで研磨材組成物が提供されるが、この研磨材組成物は、研磨材物品の製造に有用である。すなわち、当該研磨材組成物を用いることにより、バッキングと、該バッキングの少なくとも一方の主面上に複数形成され、研磨材組成物からなる研磨材複合体とを備える、研磨材物品が提供される。このような研磨材物品は、焼成凝集体の内部が密に充填された構造であることに起因して、優れた研磨性能を有する。ここで、バインダー樹脂は、複数の焼成凝集体を互いに接合し、保持する。このようにバインダー樹脂で焼成凝集体が保持された研磨材組成物を用いた研磨材物品によれば、スラリーとして用いる場合に研磨に供されず廃棄される焼成凝集体が多かった点が問題であったところ、焼成凝集体の損失を低減することができ、効率良く研磨を行うことが可能となる。
【0062】
バインダー樹脂としては熱硬化性樹脂が好適であり、フェノール樹脂、アミノプラスト樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン系不飽和樹脂、アクリル化イソシアヌレート樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、イソシアヌレート樹脂、アクリル化ウレタン樹脂、アクリル化エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂等が用いられる。これらは複数組み合わせて使用してもよい。
【0063】
また、研磨材組成物は、繊維、潤滑剤、湿潤剤、チキソトロープ材料、界面活性剤、顔料、染料、帯電防止剤(例えば、カーボンブラック、酸化バナジウム、グラファイトなど)、カップリング剤(例えば、シラン、チタネート、ジルコアルミネートなど)、可塑剤、懸濁剤等の添加剤も含んでもよく、これらの添加剤は所望の特性をもたらすように適宜含有量を調整して使用する。
【0064】
本実施形態に係る研磨物品は、バッキングと、該バッキングの少なくとも一方の主面上に複数形成され、研磨材組成物からなる研磨材複合体とを備える。
【0065】
上記研磨材物品の一実施形態を図1及び図2に示す。図1は、バッキング14上に形成された複数の研磨材複合体11を有する研磨材物品10の斜視図である。研磨材複合体11は、バインダー樹脂中に分散した複数の焼成凝集体を含有する。また、図2は研磨材物品10の上面図である。ここで、研磨材複合体11はひし形であり、研磨材複合体11は規則的にバッキング14上に形成されている。このように規則的に研磨材複合体11が形成されることで、研磨材物品10による研磨性能が均一なものとなる。
【0066】
また、研磨材複合体11は、互いに分離することが好ましい。このように分離することによって、研磨材複合体11間を流体媒体が自由に流れることができる。このように研磨複合体11間を流体媒体が自由に流れることが可能となるように設計されることで、研磨材物品10は優れた表面仕上げ性を有する。なお、研磨材複合体11間のスペースは、以下「ランドエリア」と称する場合がある。
【0067】
研磨材物品10は、上面から観測して1cm当りに5個以上の研磨材複合体11を備えることが好ましく、1cm当り100個以上の研磨材複合体11を備えることがより好ましい。
【0068】
研磨材複合体11の高さは、一定であることが好ましいが、研磨材複合体11が互いに異なる様々な高さを有してもよい。研磨材複合体11の高さとしては10〜25000μmが好ましく、25〜15000μmがより好ましく、100〜10000μmがさらに好ましく、1000〜8000μmが特に好ましい。
【0069】
研磨材複合体の形状は、様々な形状とすることができ、立方体、ブロック、円筒、角柱、直方体、角錐、切頭角錐、円錐、切頭円錐、従事、平坦な上面を有する柱、半球形等の形状でバッキング上に形成することができる。研磨材物品は、これら形状の異なる研磨材複合体をそれぞれ複数有してもよい。
【0070】
バッキングは、研磨材複合体を支持する機能を果たす。バッキングとしては、得られる研磨材物品が長寿命となるように強靭で耐久性に優れたものが好ましく、ポリマーフィルム、紙、バルカナイズドファイバー、成形または注型エラストマー、処理不織バッキング、処理織物等が挙げられる。ポリマーフィルムとは、例えば、ポリエステルフィルム、コポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム等である。
【0071】
バッキングは、充填剤、繊維、染料、顔料、湿潤剤、カップリング剤、可塑剤などの添加剤を含むことができ、DuPont Company(デラウェア州Wilmington)より入手可能な織物NOMEXTMTMなどの補強スクリムや織物を含んでもよい。
【0072】
場合によっては、研磨材複合体と一体的に成形されたバッキング、すなわち、織物などのバッキングに研磨材複合体複合体を別個に取り付ける代わりに、研磨材複合体と隣接させて直接成形したバッキングが好ましい。研磨材複合体を成形した後で研磨材複合体の裏側の上にバッキングを成形または注型してもよく、複合体とバッキングを同時に成形または注型することもできる。このようなバッキングは、通常、熱又は放射線硬化性の熱可塑性又は硬化性樹脂から成形される。ここで熱硬化性樹脂として好ましくは、フェノール樹脂、アミノプラスト樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン系不飽和樹脂、アクリル化イソシアヌレート樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、イソシアヌレート樹脂、アクリル化ウレタン樹脂、アクリル化エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、及びこれらの混合物が挙げられる。また、熱可塑性樹脂として好ましくは、ポリアミド樹脂(例えばナイロン)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂(ポリウレタン−尿素樹脂を含む)等が挙げられる。これらのうち、ポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオールとイソシアネートの反応生成物から誘導されるポリウレタンは、耐久性に優れるため、好適である。
【実施例】
【0073】
(実施例1〜16)
ガラスフリットとしてBA351(日本山村硝子社製商品名、Bi系低融点ガラス、軟化点598℃)、LFZ80(日本山村硝子社製商品名、Zn−B系低融点ガラス、軟化点580℃)、4724(S)、4724(30μm)(日本琺瑯釉薬社製商品名、ホウ珪酸系低融点ガラス、軟化点620℃)、PCS(日本琺瑯釉薬社製商品名、リン酸系低融点ガラス、軟化点680℃)、研磨粒子(ダイヤモンド粒子)としてLS6BXT 1/2−1、LS6BXT 6−11、LS6BXT 22−36(LANDS PRODUCTS製)、RJK−1C3M(GE Micron PRODUCTS社製)を、表1に記載の配合量で混合し、1wt%アルギン酸ナトリウム水溶液8g中に分散させた。スラリー上の分散液を、ノズル径500μmの滴下装置を用いて10wt%塩化カルシウム水溶液に滴下し、自然に形成される球状ゲルを80℃で一晩乾燥し、それぞれガラスフリットの軟化点付近の温度(700〜750℃)で加熱を行い、実施例1〜16の焼成凝集体を得た。得られた焼成凝集体の色及び形状は、表1に記載のとおりであった。
【0074】
(実施例17〜24)
ガラスフリットと研磨粒子を表1に記載の配合量で混合し、1wt%アルギン酸ナトリウム水溶液3g中に分散させた以外は、実施例1と同様にして、実施例17〜24の焼成凝集体を得た。得られた焼成凝集体の色及び形状は、表1に記載のとおりであった。
【0075】
(実施例25)
ガラスフリットと研磨粒子を表1に記載の配合量で混合し、1wt%アルギン酸アンモニウム水溶液8g中に分散させた以外は、実施例1と同様にして、実施例25の焼成凝集体を得た。得られた焼成凝集体の色及び形状は、表1に記載のとおりであった。
【0076】
実施例1〜25の焼成凝集体について、耐荷重試験を行った。耐荷重試験は、簡易的に、量りの上に焼成凝集体を一粒静置して、凝集体に対し徐々に荷重をかけ、破壊されたときの目盛りを読み取ることで行った。耐加重試験の結果は、表1に記載のとおりであった。
【0077】
【表1】

【0078】
実施例1〜25はいずれも球状の湿潤凝集体、乾燥凝集体、および焼成凝集体を良好に形成した。電子顕微鏡にて表面および断面を観察したところ、焼成凝集体内部までダイヤモンド粒子は均一に分散し、構造は緻密であった。ガラスフリットとダイヤモンドの粒子の粒径、およびガラスフリットの焼成温度等の組み合わせによって最適条件は異なるが、上記方法は球状の焼成凝集体製造の方法として汎用性があり、焼成凝集体間で均一、かつ緻密な構造の焼成凝集体を得る方法として有用であることが確認できた。
【0079】
(実施例26〜28)
研磨粒子としてダイヤモンド粒子(LANDS 1/2−1um)、ガラスフリットとしてPCS(リン酸塩系低融点ガラス)を用いた。この粉末をアルギン酸ナトリウム水溶液(1wt%)中に分散させた。重量比はダイヤモンド:PCS:アルギン酸ナトリウム水溶液=1:1:8である。このスラリーを実施例28では、ラボスポイト(口径約1mm)を用いて、実施例26及び実施例27ではサンエイテック製微小吐出ディスペンサー(使用ノズル径23G=0.34mm)を用いて、それぞれ塩化カルシウム水溶液(10wt%)に滴下し、得られた湿潤凝集体を乾燥、焼成して、焼成凝集体を得た。なお、実施例26では、吐出時間3.0msec、Air圧0.015MPa、ディスペンスニードルストローク3mmとし、実施例27では、吐出時間3.0msec、Air圧0.015MPa、ディスペンスニードルストローク1.5mmとした。得られた焼成凝集体を、電子顕微鏡(OLYMPUS製、BX51)および顕微鏡に付属しているソフトウエア(FLVFS−FIS (XD200))にて球径を測定し、分布を求めた。測定結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【符号の説明】
【0081】
10…研磨材物品、11…研磨材複合体、12…研磨材複合体の上面部、14…バッキング、20、24、26…容器、21、25、27…攪拌器、22…流量コントロールポンプ、23…定量吐出ユニット、28…乾燥用ヒータ、29…焼成用ヒータ、101、109…蒸留水、102…水溶性の多糖類、103…多糖類含有水溶液、104…ガラスフリット、105…研磨粒子、106…スラリー、107…金属塩含有水溶液、108…湿潤凝集体、110…乾燥凝集体、111…研磨粒子、112…ガラスフリット、113…膨潤多糖類塩、114…乾燥多糖類塩、115…ガラスマトリックス、120…焼成凝集体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフリット、研磨粒子及び水溶性の多糖類を含有するスラリーを金属塩含有溶液と接触させて得られる凝集体を焼成する、焼成凝集体の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーを前記金属塩含有溶液に滴下して接触させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性の多糖類は、多糖類の塩である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記多糖類の塩は、一価のカチオンを含有する塩である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記スラリー中の前記水溶性の多糖類の濃度は、0.3〜5質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記スラリーは、5〜20質量%のガラスフリット、5〜20質量%の研磨粒子、0.1〜1質量%の水溶性の多糖類、及び、30〜80質量%の水を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性の多糖類は、アルギン酸又はその塩である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記金属塩含有溶液は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Cu2+、Al3+及びCr3+からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する溶液である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記金属塩含有溶液は、金属塩を1〜20質量%含有する金属塩含有溶液である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記研磨粒子は、ダイヤモンド粒子である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ガラスフリットは、低融点ガラスフリットである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
ガラスフリット、研磨粒子及び多糖類の塩を含有するスラリーを金属塩含有溶液と接触させて得られる凝集体を焼成してなる、焼成凝集体。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法により製造された焼成凝集体と、バインダー樹脂とを含有する、研磨材組成物。
【請求項14】
バッキングと、該バッキングの少なくとも一方の主面上に複数形成され、請求項13に記載の研磨材組成物からなる研磨材複合体と、を備える、研磨材物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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