説明

焼成用アクリル系バインダー樹脂及びペースト組成物

【課題】含有量が少なくてもペースト組成物の粘度を充分に高くできる焼成アクリル系バインダー樹脂、及び該焼成アクリル系バインダー樹脂を含む、特にスクリーン印刷法やディップ法に有用なペースト組成物の提供を目的とする。
【解決手段】少なくとも一方がアクリル系のモノマーである、数平均分子量が400以上のマクロモノマーと他のモノマーとを共重合して得られる、質量平均分子量が150,000〜2,000,000である焼成用アクリル系バインダー樹脂。また、該焼成用アクリル系バインダー樹脂、無機粉末及び有機溶剤を含むペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成用アクリル系バインダー樹脂及びペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
無機物から形成される成形体又はパターンは電子材料分野等において有用である。このような成形体又はパターンを形成する方法としては、例えば、金属粉末、金属酸化物粉末、蛍光粉末、ガラスフリット等の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を含むペースト組成物を使用して、所定の形状の成形体又はパターンの前駆体を形成した後に焼成することで、該ペースト組成物中の有機物を熱分解や焼成することにより、成形体又はパターンを形成する方法が知られている。
【0003】
前記バインダー樹脂は、無機粉末同士をつなぎ止めて成形体又はパターンの前駆体の成形加工性を保持する目的、及び、成形体又はパターンの前駆体の移動時に該前駆体が損傷することを抑制する目的で使用される。そのため、バインダー樹脂には、良好な熱分解性を有することに加えて、成形体又はパターンの前駆体の成形加工性を充分に高められることが求められる。バインダー樹脂としては、ブチラール樹脂、エチルセルロース樹脂、アクリル樹脂等が使用されており、特に、低温下や還元雰囲気下での焼成性が良好なアクリル樹脂が好ましく用いられている。具体的には、例えば、メタクリル酸イソブチルエステル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、及び、β位又はα位に水酸基を有するメタクリル酸エステルの共重合体からなる、成形加工性の良好なセラミック成形用のバインダー樹脂が知られている(特許文献1)。
【0004】
成形体又はパターンの前駆体を得る方法としては、ペースト組成物を基材表面にスクリーン印刷するスクリーン印刷法、及び基材をペースト組成物中に浸漬して該基材表面にペースト組成物層を形成させるディップ法が広く用いられている。この場合、スクリーン印刷適性やディップ適性を満足させるために、ペースト組成物は充分な粘度を有している必要がある。一方で、成形体又はパターンにおいては、無機粉末の充填率が高いことが好ましい。従って、使用されるバインダー樹脂は、含有率が低くてもペースト組成物の粘度を充分に高められることが重要である。
特に近年では、電子材料に用いられる部品に関して、バインダー樹脂の含有量を更に低減して物性をより向上させることが求められている。例えば、導電性ペースト組成物では、有機溶剤を揮発させて導体を形成した際、不導体となるバインダー樹脂の含有量をより少なくすることで、抵抗値を低減することが求められている。また、焼成ペースト組成物では、バインダー樹脂の含有量をより少なくすることで焼成時の体積収縮を低減し、成形品の反りを低減することが求められている。そのため、充分な加工特性が得られる粘度を維持しつつ、ペースト組成物中に含有されるバインダー樹脂をより少なくする必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の共重合体をバインダー樹脂とした場合、バインダー樹脂の含有量が少ないと、スクリーン印刷適性やディップ適性を満足する充分な粘度を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−255703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、含有量が少なくてもペースト組成物の粘度を充分に高くできる焼成アクリル系バインダー樹脂、及び該焼成アクリル系バインダー樹脂を含む、特にスクリーン印刷法やディップ法に有用なペースト組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の焼成用アクリル系バインダー樹脂は、少なくとも一方がアクリル系のモノマーである、数平均分子量が400以上のマクロモノマーと他のモノマーとを共重合して得られ、質量平均分子量が150,000〜2,000,000である。
また、本発明のペースト組成物は、本発明の焼成用アクリル系バインダー樹脂と、無機粉末と、有機溶剤を含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の焼成用アクリル系バインダー樹脂は、含有量が少なくても充分な粘度を有するペースト組成物が得られる。
本発明のペースト組成物は、焼成用アクリル系バインダー樹脂が少なくても、充分な粘度を有しており、特にスクリーン印刷法やディップ法に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[焼成用アクリル系バインダー樹脂]
本発明の焼成用アクリル系バインダー樹脂(以下、「バインダー樹脂(A)」という。)は、少なくとも一方がアクリル系のモノマーであるマクロモノマーと他のモノマーとを共重合することで得られる樹脂である。すなわち、マクロモノマーと他のモノマーのいずれか一方又は両方がアクリル系のモノマーである。ここで、マクロモノマーとは、数平均分子量(Mn)が400以上のモノマーを意味する。
マクロモノマーの数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法によるポリスチレン換算により算出される値を意味する。
【0010】
アクリル系のマクロモノマーとしては、例えば、東亞合成製のAA−6(商品名)等のポリメチルメタクリレート(PMMA)マクロモノマー、ダイセル化学製のプラクセルFM−3(商品名)、同FM−5(商品名)、同FA−10L(商品名)等のポリエステルマクロモノマー、日油製のポリエチレングリコール(PEG)のメタクリレート等のポリエーテルマクロモノマー等が挙げられる。
アクリル系以外のマクロモノマーとしては、例えば、チッソ製のポリシロキサンマクロモノマー等が挙げられる。
マクロモノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
バインダー樹脂(A)の製造に用いるマクロモノマーは、バインダー樹脂(A)を所望の質量平均分子量(Mw)にできることから、有機溶剤に不溶であることが好ましい。本発明において有機溶剤に不溶とは、溶解度が1%以下であることを意味する。
マクロモノマーとしては、焼成残渣を少なくできることから、アクリル系のマクロモノマーが好ましく、PMMAマクロモノマーがより好ましい。
【0012】
マクロモノマーの数平均分子量(Mn)は、バインダー樹脂(A)を所望の質量平均分子量(Mw)にできることから、300以上が好ましく、400以上がより好ましい。また、同じ理由でマクロモノマーの数平均分子量は、10,000以下が好ましく、7,000以下がより好ましい。
【0013】
他のモノマーは、前記マクロモノマーと共重合可能な化合物である。
他のモノマーとしては、マクロモノマーが有する官能基と共重合可能なものであれば特に限定されない。他のモノマーによって形成されるポリマー鎖が有機溶剤中で広がりやすく、より高い粘度を発現しやすい点から、他のモノマーは後述する有機溶剤に対して相溶するものが好ましい。
【0014】
アクリル系の他のモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の環状構造を持つ(メタ)アクリレート類;アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のモノヒドロキシ含有(メタ)アクリレート類;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アクリル系以外の他のモノマーとしては、例えば、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、ケイ皮酸等のカルボキシル基含有モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル等が挙げられる。
他のモノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
他のモノマーとしては、焼成性の観点から、アクリル系のモノマーが好ましく、(メタ)アクリレート類がより好ましく、有機溶剤への相溶性の観点から、ブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
また、焼成性の観点から、他のモノマー全体に占める(メタ)アクリレート類の割合は、50質量%以上が好ましい。
【0016】
マクロモノマーと他のモノマーの合計(100質量%)に対するマクロモノマーの割合は、0.5〜10質量%が好ましく、1.5〜5質量%がより好ましい。前記マクロモノマーの割合が前記下限値以上であれば、バインダー樹脂(A)の含有量が少なくても充分な粘度を有するペースト組成物が得られやすい。また、前記マクロモノマーの割合が前記上限値以下であれば、バインダー樹脂(A)の有機溶剤への溶解性が向上する。
【0017】
本発明のバインダー樹脂(A)の質量平均分子量(Mw)は、ペースト組成物の液漏れや液垂れを抑制し、良好なディップ塗工適正が得られることから、150,000以上であり、400,000以上が好ましい。また、バインダー樹脂(A)の質量平均分子量(Mw)は、ペースト組成物の糸引きを抑制し、良好なスクリーン印刷適性が得られることから、2,000,000以下であり、1,500,000以下が好ましい。
バインダー樹脂(A)の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法によりポリスチレン換算で算出される値を意味する。
【0018】
バインダー樹脂(A)の製造方法としては、懸濁重合、溶液重合、乳化重合等の公知の方法を採用できる。懸濁重合では、水中でモノマー懸濁液を重合するため、脱水、乾燥して得られるビーズ状ポリマーを有機溶剤に溶解することでバインダー樹脂(A)を製造する。溶液重合では、有機溶剤中でモノマーを重合するため、ペースト組成物に用いる有機溶剤中で重合してもよく、ペースト組成物に用いる有機溶剤以外の有機溶剤中で重合し、脱気することでバインダー樹脂(A)を製造してもよい。乳化重合では、水に乳化させたモノマーをミセル中で重合するため、乳化状態のポリマーを析出分離するか、もしくはスプレードライヤーによって水分を乾燥させて、得られたポリマーを有機溶剤に溶解させることでバインダー樹脂(A)を製造する。中でも質量平均分子量が150,000〜2,000,000である高分子量のバインダー樹脂(A)を効率よく製造できることから、懸濁重合が好ましい。
【0019】
[ペースト組成物]
本発明のペースト組成物は、前述したバインダー樹脂(A)、無機粉末(フィラー)及び有機溶剤を含む組成物である。
本発明のペースト組成物に含まれるバインダー樹脂(A)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0020】
無機粉末としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化インジウムスズ、チタン酸バリウム等の酸化物系粉体、窒化アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素当の窒化物系粉体、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉体、低融点ガラス粉等のシリカ系粉体、陰極線やPDP等に用いられる各種蛍光粉体等が挙げられる。無機粉末は、適宜選択できる。
本発明のペースト組成物に含まれる無機粉末は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0021】
有機溶剤としては、特に限定されない。有機溶剤が蒸発し難くなることで、ペースト組成物のスクリーン印刷またはディップ塗工時の作業性が向上することから、沸点が100℃以上のものが好ましく、沸点が120℃以上のものがより好ましい。本発明における「沸点」とは、1気圧における沸点を意味する。
沸点が100℃以上の有機溶剤としては、例えば、α、β、γ−ターピネオール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチル−3−エトキシプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、イソホロン、3−メトキシブチルアセテート、ベンジルアルコール、1−オクタノール、1−ノナオール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、トルエン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。沸点が120℃以上の有機溶剤としては、例えば、α、β、γ−ターピネオール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチル−3−エトキシプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、イソホロン、3−メトキシブチルアセテート、ベンジルアルコール、1−オクタノール、1−ノナオール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。なかでも、α、β、γ−ターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。
本発明のペースト組成物に含まれる有機溶剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0022】
本発明のペースト組成物でスクリーン印刷やディップ塗装の生産性が向上することから、有機溶剤は、有機溶剤全体(100質量%)に対するα、β、γ−ターピネオールの割合が、50質量%以上である溶剤が好ましく、70質量%以上である溶剤がより好ましい。
【0023】
本発明のペースト組成物には、必要に応じて、可塑剤、分散助剤、消泡剤、レベリング剤、接着剤等の添加剤を用いてもよい。
【0024】
本発明のペースト組成物中のバインダー樹脂(A)の含有量は、焼成残渣を少なくできることから、有機溶剤100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。また、バインダー樹脂(A)の含有量は、ペースト組成物を高粘度化できることから、有機溶剤100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。
【0025】
本発明のペースト組成物中の無機粉末の含有量は、焼成後の成形性の点から、有機溶剤100質量部に対して、700質量部以下が好ましく、500質量部以下がより好ましい。また、無機粉末の含有量は、焼成後の成形性の点から、有機溶剤100質量部に対して、100質量部以上が好ましく、300質量部以上がより好ましい。ただし、無機粉末の含有量は、無機粉末の比重や目的とする焼成後の成形体の物性により異なるので、必ずしも上記範囲に当てはまるものではない。
【0026】
本発明のペースト組成物は、ディップ塗装、スクリーン印刷、ディスペンス法等による成形体又はパターンの形成に特に有用である。ただし、ドクターブレード法、キャスト法等の低粘度用途で用いてもよい。
ペースト組成物を印刷又は塗布する基材としては、例えば、セラミックス基板、コンデンサ等が挙げられる。
【0027】
以上説明した本発明のペースト組成物は、バインダー樹脂(A)の含有量が少なくても、充分に高い粘度を有する。そのため、例えば、本発明のペースト組成物を用いた導体の形成では、不導体となるバインダー樹脂の含有量をより少なくすることで、抵抗値をより低減できる。また、焼成時の体積収縮を低減して、成形品の反りを低減できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。本実施例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を示す。
本実施例中の評価方法は、以下の通りである。
[質量平均分子量(Mw)]
共重合体の質量平均分子量(Mw)は、GPC法によるポリスチレン換算で算出した。具体的には、試料をTHFに溶解し、樹脂分として0.3%のTHF溶液を調製し、これを0.5μmメンブランフィルターで濾過し、濾液を用いて下記条件にてGPC法により質量平均分子量を測定した。
(測定条件)
装置:東ソー製HPLC−8120GPC
カラム:東ソー製TSKgel SuperHM−H(6.0mmID×15cmL)を4本直列に接続したもの。
溶離液:THF
流速:0.6mL/分
温度:40℃
検出器:示差屈折計
注入量:20μL
【0029】
[溶液粘度]
バインダー樹脂(A)を濃度が5%となるように有機溶剤に溶解し、得られた溶液に対し、粘弾性測定装置Physica MCR300(Anton Paar社製)を用いて、コーンプレート0.5°/25mm、測定温度23℃の条件で粘度を測定した。せん断速度1(1/s)のときの粘度を用いて、以下の基準で、粘度発現性を評価した。
◎:2000mPa・s以上
○:170mPa・s以上、2000mPa・s未満
×:170mPa・s未満
【0030】
[製造例1]
加温、冷却が可能な重合装置に、脱イオン水180部、PMMAマクロモノマー(東亞合成製、AA−6)1部、及びi−ブチルメタクリレート(i−BMA)99部を入れ、さらに油溶性重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.24部、電解質として硫酸ナトリウム1.0部を加えて充分に撹拌して溶解させた。その後、一度撹拌を止め、分散剤としてポリビニルアルコール(ケン化度80%、重合度1,700)1.64部を脱イオン水20部に溶解させた分散剤溶液を添加し、撹拌を再開して昇温した。反応温度を80℃に保持して1時間反応させ、重合発熱の最大値を確認した後、95℃に昇温して1時間保持して反応を終了させた。次いで、得られた水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布により濾過し、脱イオン水で充分洗浄した後、脱水機にて脱水し、バインダー樹脂(A−1)を得た。
【0031】
[製造例2〜5]
用いるマクロモノマー及び他のモノマーを、表1の組成に変更した以外は製造例1と同様の方法でバインダー樹脂(A−2)〜(A−5)を得た。
【0032】
[製造例6及び7]
用いるマクロモノマー及び他のモノマーを表1の組成に変更し、さらに油溶性開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.3部、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン0.1〜0.2部を使用した以外は製造例1と同様の方法でバインダー樹脂(A−6)及び(A−7)を得た。
【0033】
【表1】

【0034】
なお、表1における略号は以下の意味を示す。
AA−6:PMMAマクロモノマー(東亞合成製)、Mn=6000
FM−5:ポリエステルマクロモノマー(ダイセル製)、Mn=700
FM−3:ポリエステルマクロモノマー(ダイセル製)、Mn=450
iBMA:イソブチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
【0035】
[実施例1]
有機溶剤としてターピネオール(日本香料薬品社製)を用い、ウォーターバス及び撹拌機を備えたフラスコ中にターピネオール95部、製造例1で得られたバインダー樹脂(A−1)を5部添加した。フラスコを撹拌しながら60℃に昇温して、4時間かけて溶解ししてペースト組成物を得た後、溶液粘度の評価を行った。
【0036】
[実施例2〜6]
バインダー樹脂(A−1)の代わりにバインダー樹脂(A−2)〜(A−6)を用いた以外は、実施例1と同様にしてペースト組成物を得て、溶液粘度の評価を行った。
【0037】
[比較例1]
バインダー樹脂(A−1)の代わりにバインダー樹脂(A−7)を用いた以外は、実施例1と同様に溶液粘度の評価を行った。
実施例1〜6及び比較例1の溶液粘度の評価結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表1に示すように、質量平均分子量(Mw)が150,000未満のバインダー樹脂を用いた比較例1では粘度が150mPa・sと低かったのに対し、質量平均分子量(Mw)が150,000〜2,000,000のバインダー樹脂(A)を用いた実施例1〜6では、充分な粘度を有するペースト組成物が得られた。なお、各実施例のペースト組成物は無機粉末を含まないものであるが、上記の優れた結果から、無機粉末を含む場合であっても同様の結果が得られることが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方がアクリル系のモノマーである、数平均分子量が400以上のマクロモノマーと他のモノマーとを共重合して得られる、質量平均分子量が150,000〜2,000,000である焼成用アクリル系バインダー樹脂。
【請求項2】
請求項1に記載の焼成用アクリル系バインダー樹脂と、無機粉末と、有機溶剤を含有するペースト組成物。

【公開番号】特開2012−246392(P2012−246392A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119268(P2011−119268)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】