説明

焼成用転写フィルムおよび機能性パターン付き基体の形成方法

【課題】機能性パターンの転写性に優れ、焼成による有機物の熱分解ガスの放出をスムーズに行うことにより、形状や機能不良等の欠陥のない機能性パターンを基体の表面に形成できる焼成用転写フィルムを提供する。
【解決手段】基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することにより、機能性パターンの焼成体を形成するために用いる、焼成用転写フィルム。焼成用転写フィルムは、剥離フィルムと、剥離フィルム上に形成された上記積層体とを含み、積層体は、機能性パターンと、積層体を基体に転写する際に基体の表面に接着される少なくとも1層の接着層とを含み、機能性パターンは、無機粉体と焼成により除去可能な有機物とを含有し、接着層は、焼成により除去可能な有機物を含有し、機能性パターンと剥離フィルムとの間に位置する接着層に含有される有機物の熱分解終了温度が、機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の基体に配線回路や電極等の導電性パターンや模様等の装飾パターンを形成すための転写フィルムに関するもので、特に基体に機能性パターンを含む積層体を転写した後、焼成するのに適した焼成用転写フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上への電気回路等の導電性パターンの形成、陶磁器の装飾、プラズマディスプレイパネルにおける電極パターンやリブの形成、車載用ガラス板へのアンテナ形成など、ガラスや陶磁器等の基体に機能性パターンを付与することが各分野で行われている。
機能性パターンを形成する方法は、例えば、フォトリソグラフィー/エッチング法やスクリーン印刷法、スパッタリング法などが広く採用されている。しかし、基体の形状が平滑な面であれば直接上記の方法で形成することも可能であるが、基体が湾曲している場合や凹凸している場合では、上記の方法では対応ができない。そのためフィルム上に機能性パターンをあらかじめ形成しておき、フィルムから基体へこの機能性パターンを転写する転写方式が検討されている。転写方式であれば、基体の寸法や形状にかかわらず、機能性パターンを基体に追従させることが可能で、パターニング性や生産性に優れ、低コストで、任意の基体に機能性パターンを形成することができる。例えば、特許文献1〜5にはこのような転写型フィルムが記載されている。
【0003】
特許文献1には、印刷台紙上に複数の着色層と着色層の間に中間層をスクリーン印刷により順次形成し、最上部にカバー層を設けた陶磁器装飾用の転写紙が、特許文献3には、ベースフィルム上に、剥離可能に設けられた転写層と応力吸収層を設け、転写層はガラスフリットを含む無機成分と、焼成除去可能な有機成分を含有し、応力吸収層の複素弾性率を転写層の複素弾性率より小さくしたプラズマディスプレイパネル作製用の転写シートが、特許文献4には、転写フィルム上に積層された導体パターンを車載用ガラス板に転写方式で形成した車載用対数周期代ポールアンテナが、特許文献5には、転写フィルム上にガラスペーストにより印刷パターンを形成し、この印刷パターンを基板上に熱転写し、転写された印刷パターンを焼成する電気回路等のパターン形成方法が、それぞれ開示されている。これらは基体に転写した後、焼成することにより機能性パターンを形成する焼成用転写フィルムである。
【0004】
【特許文献1】特開平05−139020号公報
【特許文献2】特開平11−135009号公報
【特許文献3】特開平11−260250号公報
【特許文献4】特開2001−211020号公報
【特許文献5】特開2000−151080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
焼成用転写フィルムの機能性パターンを含む積層体は、少なくとも機能性パターンと機能性パターンを基体に接着するための接着層を必要とし、必要によりいくつかの層が積層された構成を有する。接着層は機能性パターン自体に接着成分を含有させるか、これとは別に設けられ、焼成によって分解除去される有機物により構成される。一方、機能性パターンは焼成後の機械的強度を発現するための熱融着可能な無機粉体と、焼成前の形状を維持し、焼成除去される有機物を少なくとも含有する。
有機物は高温で焼成すると各有機物固有の温度で熱分解がおこり熱分解ガスとなって除去され、無機粉体は粉体表面が溶融し粉体同士や基体の表面と融着する。焼成用転写フィルムでは、機能性パターンに含有される有機物の量はできるだけ少なくした方が、焼成後の機械的強度に優れ、所望の機能を十分に発現させることができ、また機能性パターンの設計上も好ましい。
【0006】
焼成用転写フィルムの製造は、例えば剥離性を有するフィルムなどを支持体として、機能性パターン、接着層などを印刷方式等の方法で積層形成することができるが、基体の表面に機能性パターンを貼り合わせるためには、基体の表面に接着層を介して機能性パターンが転写される構成が好ましい。ところが接着層は有機物が主成分となり、焼成時に発生する熱分解ガスの発生量が機能性パターンと比較して多いため、熱分解ガスは、機能性パターンに含まれる無機粉体の影響で放出を妨げられ、気泡を内包した機能性パターンの焼成体が形成されたり、熱分解ガスの圧力が増加して、機能性パターンが破壊したり、基体から剥離するといった焼成不良をしばしば引き起こす。このため、欠陥のない良好な機能性パターンの焼成体が形成されるためには、機能性パターンを含む積層体から有機物の熱分解ガスがスムーズに放出されることが重要となる。
【0007】
よって本発明の目的は、機能性パターンを含む積層体の転写性に優れ、焼成による有機物の熱分解ガスの放出をスムーズに行うことができ、形状や機能不良等の欠陥のない機能性パターンの焼成体を基体の表面に形成できる焼成用転写フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することにより、機能性パターンの焼成体を形成するために用いる、焼成用転写フィルムにおいて、焼成用転写フィルムは、剥離フィルムと、剥離フィルム上に形成された上記積層体とを含み、積層体は、機能性パターンと、積層体を基体に転写する際に基体の表面に接着される少なくとも1層の接着層とを含み、機能性パターンは、無機粉体と焼成により除去可能な有機物とを含有し、接着層は、焼成により除去可能な有機物を含有し、機能性パターンと剥離フィルムとの間に位置する接着層に含有される有機物の熱分解終了温度が、機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低い、焼成用転写フィルムである。
【0009】
本発明の一実施形態によると、接着層に含有される有機物のガラス転移温度または軟化温度のいずれか一方は50℃以上、150℃以下である。
【0010】
本発明はまた、基体の表面に積層体を転写し焼成する機能性パターン付き基体の形成方法において、上記焼成用転写フィルムを、接着層を介して基体の表面に貼着して、焼成用転写フィルムの剥離フィルムを剥離することにより、機能性パターンを含む積層体が転写した基体を形成し、積層体が転写された基体を、接着層に含有される有機物の熱分解が終了した後に、機能性パターンに含有される有機物の熱分解が終了する焼成条件で焼成する、機能性パターン付き基体の形成方法である。
【0011】
本発明はさらに、基体の表面に積層体を転写し焼成する機能性パターン付き基体の形成方法において、上記焼成用転写フィルムを、接着層に含有される有機物のガラス転移温度または軟化温度以上の温度まで加熱し、加熱した焼成用転写フィルムを、機能性パターンが基体に接触するように基体の表面に貼着して、焼成用転写フィルムの剥離フィルムを剥離することにより、機能性パターンを含む積層体が転写された基体を形成し、積層体が転写した基体を、接着層に含有される有機物の熱分解が終了した後に、前記機能性パターンに含有される有機物の熱分解が終了する焼成条件で焼成する、機能性パターン付き基体の形成方法である。
本発明の一実施形態によると、焼成用転写フィルムを加熱する温度は、50℃以上、150℃以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の焼成用転写フィルムによれば、機能性パターンを含む積層体が接着層が機能性パターンを覆うように基体の表面に転写されるため、基体と機能性パターンとの間に接着層を介在させることなく転写可能となる。このため接着層と機能性パターンを同時に焼成しても、接着層から発生する熱分解ガスの影響がなく、気泡を内包した機能性パターンが形成されたり、熱分解ガスの圧力が増加して、機能性パターンが破壊したり、基体から剥離するといった焼成不良をなくすことができる。また接着層に含有される有機物の熱分解終了温度が、前記機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低いため、機能性パターンに含有される有機物の熱分解ガスの放出を容易にすることができる。さらに接着層に含有される有機物のガラス転移温度または軟化温度を50℃以上150℃以下とすることにより圧力と熱を加えることで容易に基体の表面に転写可能となり、基体の表面への転写性(接着性)を向上させることができる。
また、本発明の機能性パターン付き基体の形成方法によれば、焼成条件を適宜設定することにより、前記接着層が熱分解した後に、前記機能性パターンに含有される有機物が熱分解し、有機物の熱分解による分解ガスの放出が良好になり、形状や機能不良等の欠陥のない機能性パターンを基体上に形成することができる。
さらに、本発明の機能性パターン付き基体の形成方法によれば、機能性パターンを含む積層体を基体に転写形成するときに剥離フィルム越しに圧力と熱を加えることで、接着層が軟質化し、基体に接着させることが容易に可能となる。
なお、本発明の機能性パターン付き基体の形成方法において、焼成用転写フィルムを加熱する温度を、50℃以上、150℃以下とすることにより、ポリエステルなどプラスチックフィルムを用いた剥離フィルムを用いても、転写時のフィルムの熱変形等が生じにくく、機能性パターンへのダメージを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である焼成用転写フィルムの構造を例示する拡大断面模型図であり、図2は、平面模型図である。前記焼成用転写フィルムは、剥離フィルム1上に、接着層2、機能性パターン3をこの順に備えた構成であり、接着層2は機能性パターン3よりも広い面積で構成されている。図3は、前記焼成用転写フィルムの接着層2と機能性パターン3からなる積層体を基体4の表面(以下、単に基体という)に転写した拡大断面模型図である。前記焼成用転写フィルムを、接着層2が機能性パターン3を覆うように基体4に接着した後、剥離フィルム1を剥がし、接着層2と機能性パターン3とを同時に焼成することにより基体4に機能性パターンの焼成体を付与することができる。
【0014】
本発明によれば、転写後の機能性パターン3は、接着層2によって覆われることで剥き出しとならないため、焼成前の傷や外圧から物理的に保護され信頼性に優れる。また機能性パターンが細線やドットパターンであっても、接着層の面積を広くすることで、剥離フィルムや基体との接触面積が広くなり、剥離フィルムから剥離するときに欠けや脱落などのパターン欠陥が生じにくく、また基体との接着力を十分に維持することができる。
【0015】
剥離フィルムは、本発明の焼成用転写フィルムの製造時に機能性パターンを含む積層体の形成が可能であり、また機能性パターンを含む積層体を基体に転写形成するときに剥離性を有するものであれば良く、特に転写時の施工性を考慮してフレキシブル性のあるフィルム基材が好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリルなどのプラスチックや紙などが使用できる。またフィルム基材の厚さは特に限定されるものではないが、転写時の圧力や熱の伝達性とフィルムの屈曲性とのバランスの点から最適な厚さを選定すればよく、25〜250μm、好ましくは35〜125μm、さらに好ましくは50〜75μmが、製造上もしくは施工上好適に用いられる。
剥離フィルムは、機能性パターンを含む積層体を構成する接着層と機能性パターンとを印刷方式などで形成するときの支持体の役割を有している。また剥離フィルムは機能性パターンを含む積層体を基体に転写するときの保護フィルムとしての機能も有している。
剥離フィルムは、上記基材をそのまま使用しても良いが、機能性パターンを含む積層体を基体に転写するときの剥離を容易にするため、シリコーンなどの剥離層や微粘着層をフィルム基材上に形成してもよい。
【0016】
剥離フィルム上への接着層や機能性パターンの形成方法は、スクリーン印刷やオフセット印刷などの印刷方式やグラビアコーティングなどの塗布方式を用いることができる。パターンを形成する場合は、上記印刷方法が好適に用いられる。接着層のように広い面積に一様に層を形成する場合は、上記印刷方法に加えて上記塗布方法も好適に用いられる。
上記印刷方法や塗布方法により、機能性パターンや接着層を形成する場合は、これらに含有される無機粉体や有機物を溶剤中に分散または溶解してなる塗布液(ペースト)を作製し、使用する。溶剤としては、無機粉体や有機物の溶解性や分散性、そして印刷工程に適した沸点を考慮し、水系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、炭化水素系などを、単独または混合して使用することができる。そしてこれらの溶剤は、粘度やチキソ性など印刷適正、そして固形分を適宜調整して用いる。これらの溶剤は、機能性パターンの印刷や塗布後に大部分が揮発するが、残留する分は焼成によって揮発または分解除去される。
必要により印刷時の気泡対策や粘度調整のために消泡剤や増粘剤などの添加剤を使用してもよい。添加剤は焼成によって分解除去できるものを使用する。
【0017】
接着層は基体に機能性パターンを含む積層体を接着する役割と転写後の機能性パターンを保護する役割を担っており、アクリル、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエステルなどの樹脂が使用でき、単独もしくはこれらを混合して使用することができる。また接着性や可とう性を付与するために可塑剤を加えてもよい。可塑剤としては脂肪酸エステル系、リン酸エステル系などが使用可能である。また接着層に常温で粘着性を有さない有機物を用いると、剥離フィルムの剥離後から焼成までの間にゴミなどが付着しても空気などを拭きつけることによって容易に除去することが可能となる。
【0018】
接着層は機能性パターンを覆うように広い範囲に形成されることが好ましく、機能性パターンが複数のパターンからなる場合などはこれにより各パターンの位置関係をずらさずに転写させることが容易となる。そのため接着層は剥離フィルム全面を覆うように形成して良い。
接着層の膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。1μm未満の場合、接着力が不足し転写性が低下する。膜厚が20μmよりも厚くなると、熱分解ガス量が多くなるため焼成炉を汚染し、また機能性パターンの焼成性を低下させてしまう。よって、接着層の膜厚は、接着力を維持できる範囲でできるだけ薄膜にすることが好ましい。
【0019】
機能性パターンは、主に焼成後の機械的強度を発現するための熱融着可能な無機粉体と、焼成前の形状を維持するための焼成除去される有機物、焼成後の所望の機能に応じた各種機能材料を含有する。
機能性パターンは一つのパターンでも複数のパターンでもよく、複数のパターンもしくは異なる機能性パターンを積層しても、個々に併設しても良い。
【0020】
前記熱融着可能な無機粉体としては、各種機能材料を焼成後に基体に担持させ、耐久性を向上させるなど目的のために、ガラスフリットなどの材料が使用可能であり、焼成温度や熱収縮率などのバランスを考慮して、ガラスフリットの組成を決定する。
【0021】
前記有機物としては、焼成除去可能な材料を用いれば種類は限定されない。焼成による熱分解によって除去されやすい材料としては、アクリル、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエステルなどの樹脂を、単独または混合して使用することができる。また焼成前の機能性パターンに可とう性を付与する目的で可塑剤を加えてもよい。可塑剤としては脂肪酸エステル系、リン酸エステル系などが使用可能である。
【0022】
機能性材料としては、焼成後の所望の機能に応じた材料を適宜選択して使用する。例えば、配線や電極などには、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Sn、Pb、Zn、Bi、Inの粉体やこれらを含む合金の粉体を使用することが可能である。またコンデンサ部品などの誘電体や高抵抗部品などに使用される材料として、BaTiO、SiC、TiO2、SiO2、やRuOなどの粉体が挙げられる。
【0023】
本発明の焼成用転写フィルムを用いて基体に機能性パターンを含む積層体を転写すると、接着層が機能性パターンを覆うように形成される(図3)。このため接着層に含有される有機物の熱分解終了温度が機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低くなるように各有機物が選ばれる。機能性パターンを含む積層体を焼成すると最初に接着層が熱分解され、接着層が全て熱分解されてから機能性パターンに含有される有機物の熱分解が始まるのが好ましいが、接着層の熱分解特性によっては接着層が完全に消失する前に機能性パターンに含有される有機物の熱分解が始まる場合もある。この場合でも接着層は熱分解ガスの放出により疎な膜状態となり、熱分解ガスの抜け道(空隙)が形成され、焼成温度の上昇に伴い接着層に含有される有機物の分解は進行して空隙率が高くなるため、機能性パターンから発生した熱分解ガスは上層の接着層の空隙を通過して放出されることになる。その後更に加熱することにより機能性パターン中の無機粉体同士が融着し、同時に基体と無機粉体も融着されて機能性パターンの焼成体が形成される。
接着層の熱分解終了温度が、機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも高い場合は、機能性パターンの熱分解ガスが接着層によって閉じ込められ内部圧力が高くなり機能性パターンに亀裂が生じ、破壊されてしまう現象が生じやすくなる。
接着層のガラス転移温度、もしくは軟化温度は、転写時に剥離フィルム越しに圧力と熱を加えることで、接着層が軟質化し、機能性パターンを覆うように基体と接着させるため、50℃以上、150℃以下であることが好ましい。
【0024】
本発明の焼成用転写フィルムの別の構成としては、2層の接着層(第1接着層と第2接着層)を含む構成がある。機能性パターンを設けた箇所を除いた第1接着層上に第2接着層を形成して、機能性パターンと接着層との段差をなくしている(図4)。この場合、第2接着層は焼成除去可能な有機物より構成され、第1接着層の熱分解終了温度が、第2接着層の熱分解終了温度と同じかそれよりも低いことを特徴とする。第1接着層と第2接着層とは同一の有機物であってもよいし、異なった有機物であってもよい。
第2接着層を常温で粘着性を有する有機物で形成した場合は、加熱なしで、常温で機能性パターンを含む積層体を基体に接着させることが可能となり、転写施工性が容易となる。常温で粘着性を有する焼成除去可能な有機物としては、アクリル系、ゴム系などの粘着剤が使用可能である。
【0025】
また本発明の焼成用転写フィルムは、機能性パターンを含む積層体の支持体および保護フィルムとなる(第1)剥離フィルムに加えて、前記積層体の反対面にシリコーンやアルキド樹脂などからなる剥離層や微粘着層を設けた第2剥離フィルムを設けることができる。特に前記積層体が、常温で粘着性のある第2接着層を有する場合は、焼成用転写フィルムの保管時に第2接着層が他の物質に触れないように保護することができる。基体に粘着されるのは、前記積層体の第2剥離フィルム側であるので、第2剥離フィルムと第2接着層および第2剥離フィルムと機能性パターンとの接着力は、第1剥離フィルムと第1接着層との接着力よりも低くすることが好ましい。
【0026】
本発明の焼成用転写フィルムは、剥離フィルム上に接着層と機能性パターンを順次積層形成することにより製造される。しかし機能性パターンの形成方法や条件により、接着層の表面(転写面)が荒れて、基体への接着性が低下することがある。また接着層上に機能性パターンを形成する場合、接着層と機能性パターンに含有される各有機物や各溶剤の組み合わせによって、接着層と機能性パターンとが溶解し合って良好な積層膜が形成できない場合がある。この場合は、支持体となる(第1)剥離フィルム上に接着層を形成し、これとは別に平滑な表面性を有する第2剥離フィルム上に機能性パターンを形成して、接着層と機能性パターンに含有される各溶剤が十分に揮発した後に、各フィルムの形成面を向かい合わせて、熱と圧力により貼り合わせることにより転写フィルムを製造することができる。この製造方法であれば、接着層が溶剤に溶解されることがなく、更に平滑な剥離フィルム上に形成した機能性パターンは、剥離フィルムの平滑性に依存して基体と接する面の平滑性が良好となり、焼成後の基体との密着性や接着性が向上する。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の具体例を説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、焼成用転写フィルムを作製した。
支持体となる剥離フィルムとしてシリコーン系剥離層を設けたPETフィルム「A70」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ 20cm×30cm、厚さ 25μm)を用意した。
接着層の塗布液としてアクリル系樹脂「BR1122」(三菱レイヨン(株)製)を用意し、接着層ペーストとした。
機能性パターンの塗布液としてガラスフリット、Ag粉体および有機物を含有する導電性ペースト「H4170」(昭栄化学工業(株)製)を用意した。
【0028】
前記剥離フィルムの剥離層側の全面に、前記接着層ペーストを厚さ 10μmとなるようにメイヤーバーを用いて塗布し、接着層を形成した。そして、接着層に含有される溶剤を十分に揮発させた。
前記接着層上の中央付近に、前記導電性ペーストをサイズ 2cm×5cm、厚さ 15μmとなるようにスクリーン印刷により印刷し、機能性パターンを形成した。
接着層と機能性パターンが形成された剥離フィルムから機能性パターンを含む部分をサイズ 5cm×10cmに切り出し、実施例1の焼成用転写フィルムを作製した。
【0029】
(機能性パターン付き基体の作製)
以下の手順で、機能性パターン付き基体を作製した。
基体としてフロート法により製造されたガラス板(サイズ 10cm×10cm)を用意した。
前記ガラス板の表面に、前記焼成用転写フィルムをその機能性パターンを向かい合わせて貼り合わせ、焼成用転写フィルムを上側にして前記ガラス板を略水平な台の上に配置した。前記ガラス板に対して、150℃に加熱したゴムローラーを用いて、0.5kg/cmの圧力で剥離フィルム上から加熱と加圧を行い、室温で1分間放置した後、剥離フィルムを剥離して、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。加熱に用いた温度は、接着層の材料を軟化させるのに十分な温度であったので、接着層と機能性パターンの境目に存在する可能性があった空気は、ゴムローラーの移動と共に排除されたと考えられる。
【0030】
そして、前記機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を、焼成炉「P90」(デンケン(株)製)を用いて、略水平に配置した状態で焼成した。焼成条件は、大気雰囲気中で昇温速度 20℃/minで室温から600℃まで昇温し、その温度を30分間維持した後、過熱を停止し、炉内放冷で100℃以下まで冷却することとした。
そして、冷却された機能性パターン付きガラス板を焼成炉から取り出した。
【0031】
(熱特性の測定)
機能性パターンを含む積層体の各層に含まれる有機物の熱分解終了温度を、JIS K7120(プラスチックの熱重量測定方法)に準拠し、熱重量測定装置「TG−DTA2000」((株)マック・サイエンス製)を使用し、測定した。なお、本発明において「熱分解終了温度」とは、前記測定方法における「終了温度」なる用語の意味と同義の温度である。
前記焼成条件と同じ昇温条件で測定した結果、接着層に含有される有機物(以下、単に接着層という)の熱分解終了温度は350℃、導電性ペーストに含有される有機物の熱分解終了温度が425℃であった。
【0032】
(実施例2)
接着層ペーストとして酢酸セルロース樹脂「L−20」(ダイセル化学工業(株)製)を用いた他は、実施例1と同様の方法により実施例2の焼成用転写フィルムを作製した。
そして、実施例1と同様の方法により機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製し、実施例1と同様の焼成条件により機能性パターン付きガラス板を作製した。
前記焼成条件と同じ昇温条件で測定した結果、接着層の熱分解終了温度は390℃であった。
【0033】
(比較例1)
接着層ペーストとしてポリブチラール樹脂「BL−S」(積水化学工業(株)製)を用た他は、実施例1と同様の方法により比較例1の焼成用転写フィルムを作製した。
そして、実施例1と同様の方法により機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製し、実施例1と同様の焼成条件により機能性パターン付きガラス板を作製した。
前記焼成条件と同じ昇温条件で測定した結果、接着層の熱分解終了温度は435℃であった。
【0034】
(比較例2)
接着層ペーストとしてポリアセタール樹脂「KX−1」(積水化学工業(株)製)を用いた他は、実施例1と同様の方法により比較例2の焼成用転写フィルムを作製した。
そして、実施例1と同様の方法により機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製し、実施例1と同様の焼成条件により機能性パターン付きガラス板を作製した。
前記焼成条件と同じ昇温条件で測定した結果、接着層の熱分解終了温度は560℃であった。
【0035】
(評価)
表1に、実施例1、2と比較例1、2における焼成用転写フィルムの接着層と機能性パターンとに含有される各有機物の熱分解終了温度、および各機能性パターンに含有されるガラスフリットとAg粉体とからなる無機粉体の焼成体(以下、単に機能性パターンの焼成体という)の評価を示した。評価は、機能性パターンの焼成体に欠陥がなく良好なものを「○」で、欠陥があり不良なものを「×」で示した。
実施例1、2と比較例1、2における焼成用転写フィルムの機能性パターンを含む積層体は、接着層の材料が異なる以外は、同様の構成を有していた。
実施例1、2における各機能性パターンの焼成体の外観には、色目むら、浮き、クラック、剥がれなどがなく、良好な評価が得られた。これに対し比較例1、2における各機能性パターンの焼成体の外観には、色目むら、浮き、クラック、剥がれなどの破損が発生し、不良であった。
【0036】
【表1】

【0037】
(対比)
実施例1、2と比較例1、2との対比を行う。
実施例1と実施例2とでは、共に上層に位置する接着層の熱分解終了温度が下層に位置する機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低くなっており、これに対して、比較例1と比較例2とでは、共に上層に位置する接着層の熱分解終了温度が下層に位置する機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも高くなっていた。
これらの熱分解終了温度の関係により、実施例1と実施例2とでは、各層からの有機物の熱分解ガスの放出が上層から順に起こり、機能性パターンの焼成体に欠陥が発生しなかったものと考えられ、これに対して、比較例1と比較例2とでは、上層である接着層に遮られた機能性パターンに含有される有機物の熱分解ガスの圧力により、機能性パターンの焼成体に欠陥が発生したと考えられる。
これらの対比により、良好な機能性パターンの焼成体を得るには、上層に位置する接着層の熱分解終了温度を、下層に位置する機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低くする必要があることが分かった。
【0038】
(実施例3)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、2層の接着層(第1接着層と第2接着層)と2枚の剥離フィルム(第1剥離フィルムと第2剥離フィルム)を含む焼成用転写フィルムを作製した。
第1剥離フィルムとして実施例1と同様のPETフィルムを用意した。
第2剥離フィルムとしてシリコーン系剥離層を設けたPETフィルム「A31」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ 20cm×30cm、厚さ 25μm)を用意した。
接着層ペーストとしてエチルセルロース樹脂「N−50」(Hercures製、熱分解終了温度384.0℃)、を用意した。
機能性パターンの塗布液として実施例1と同様の導電性ペーストを用意した。
第1接着層の塗布液として実施例1と同様の第1接着層ペーストを用意した。
第2接着層の塗布液としてアクリル系粘着剤「SK1451」(綜研化学工業(株)製、熱分解終了温度 450℃)を用意し、第2接着層ペーストとした。この第2接着ペーストは第1接着ペーストに比べて粘着性の高いものであった。
【0039】
前記第1剥離フィルムの剥離層上に、実施例1と同様の方法により第1接着層と機能性パターンとを形成した。そして、機能性パターンに含有される溶剤を十分に揮発させた。
そして、機能性パターンが形成れていない第1接着層上に、スクリーン印刷を用いて第2接着層ペーストを機能性パターンと略同じ厚さで印刷し、第2接着層を形成した。更に機能性パターンと第2接着層の上に第2剥離フィルムをその剥離層を向かい合わせにして貼り合わせた。
この貼り合わせたフィルムから機能性パターンを含む部分をサイズ 5cm×10cmに切り出し、実施例3の焼成用転写フィルムを作製した。
【0040】
(機能性パターン付き基体の作製)
以下の手順で、機能性パターン付き基体を作製した。
基体として実施例1と同様のガラス板を用意した。
前記焼成用転写フィルムから第2剥離フィルムを剥離し、ガラス板の表面に、前記焼成用転写フィルムをその機能性パターンを向かい合わせて貼り合わせ、焼成用転写フィルムを上側にして前記ガラス板を略水平な台の上に配置した。前記ガラス板に対して、ゴムローラーを用いて、5kg/cmの圧力で第1剥離フィルム上から加圧した後、第1剥離フィルムを剥離して、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。第2接着ペーストとして粘着性の高い材料を用いたので、ゴムローラーを加熱することなしで、機能性パターンを含む積層体をガラス板の表面に転写することができた。
そして、実施例1と同様の焼成条件により前記機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を焼成し、機能性パターン付きガラス板を作製した。
【0041】
(熱特性の測定)
前記焼成条件と同じ昇温条件で測定した結果、第1接着層の熱分解終了温度は384℃であり、第2接着層に含有される有機物(以下、単に第2接着層という)の熱分解温度は450℃であった。
【0042】
(評価)
表2に、実施例3における焼成用転写フィルムの機能性パターンを含む積層体の各層に含有される各有機物の熱分解終了温度、および機能性パターンの焼成体の評価を示した。
前記機能性パターンの焼成体の外観には、色目むら、浮き、クラック、剥がれなどがなく、良好な評価が得られた。
前記積層体は、実施例1における積層体の機能性パターンが形成されていない部分に第2接着層を形成した構造となっており、機能性パターンおよび第2接着層の上には、それぞれ第1接着層が形成されていた。
【0043】
【表2】

【0044】
(対比)
実施例1と実施例3との対比を行う。
まず、機能性パターンを含む積層体をガラス板の表面に転写するときの状態について対比する。
実施例1における焼成用転写フィルムの作製方法では、接着層の上に機能性パターンが形成されたので、機能性パターンと接着層との境目に機能性パターンの厚さの分だけ段差が生じる。このため機能性パターンの厚さが厚くなると、機能性パターンを含む積層体をガラス板の表面に転写するときに、ゴムローラーの加熱と加圧だけでは、空気が機能性パターンと接着層との境目に残留する可能性がある。これに対して、実施例3における焼成用転写フィルムの作製方法では、機能性パターンが形成されていない部分に第2接着層を形成することにより、機能性パターンと第2接着層との境目に段差が生じにくくできるので、機能性パターンを含む積層体をガラス板の表面に転写するときに、空気が機能性パターンと接着層との境目に残留する可能性が低くなる。
【0045】
次に、機能性パターンを含む積層体の各層に含有される有機物の熱分解終了温度について対比する。
実施例1におけるガラス板の表面に転写された積層体では、機能性パターンのガラス板の表面に接触する部分以外の部分を接着層が覆っているので、機能性パターンの上側に限らず機能性パターンと接着層との境界部の全てにおいて、接着層の熱分解終了温度が機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低くなっていた。これに対して、実施例3におけるガラス板の表面に転写された積層体では、機能性パターンとその上に形成された第1接着層とからなる部分においては、実施例1と同様の熱分解終了温度の関係が成立しており、第2接着層とその上に形成された第1接着層とからなる部分においても、上層である第1接着層の熱分解終了温度の方が下層である第2接着層の熱分解終了温度よりも低くなっているが、機能性パターンとその側部に形成された第2接着層とからなる部分においては、第2接着層の熱分解終了温度が、機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも高くなっていた。このような違いがあるにもかかわらず、実施例3における機能性パターンの焼成体も実施例1における機能性パターンの焼成体と同様に良好なものであった。
【0046】
この対比により、機能性パターンを覆う接着層の熱分解終了温度が機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低いという条件を、接着層の全ての部分で満たす必要はなく、少なくとも機能性パターンよりも上側の部分で満たせばよいことが分かった。
なお、実施例3においては、焼成用転写フィルムの製造時に機能性パターンと第2接着層とが重なった場合にも、機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度が第2接着層の熱分解終了温度よりも低いので、上層の熱分解終了温度が下層の熱分解終了温度よりも低いという関係が成り立ち、良好な機能性パターンの焼成体が得られることが容易に理解される。
【0047】
(実施例4)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、2層の接着層(第1接着層と第2接着層)と2枚の剥離フィルム(第1剥離フィルムと第2剥離フィルム)を含む焼成用転写フィルムを作製した。
第1剥離フィルムとして実施例1と同様のPETフィルムを用意した。
第2剥離フィルムとして実施例3と同様のPETフィルムを用意した。
導電性ペーストの塗布に用いるマスク用フィルムとしてPETフィルム「T60」(東レ(株)製、フィルムサイズ 20cm×30cm、厚さ 25μm)を用意し、このフィルムの中央付近に2cm×5cmのパターン孔を設けた。
機能性パターンの塗布液として実施例1と同様の導電性ペーストを用意した。
2層の接着層の塗布液として実施例1と同様の接着層ペーストを用意し、第1接着層ペーストと第2接着層ペーストとした。
【0048】
前記第1剥離フィルムの剥離層側の全面に、前記第1接着層ペーストを厚さ 20μmとなるようにメイヤーバーを用いて塗布し、第1接着層を形成した。そして、第1接着層に含有される溶剤を十分に揮発させた。
前記第2剥離フィルムの剥離層側と前記パターン孔を設けたマスク用フィルムとを重ね合わせ、このマスク用フィルムの上から前記導電性ペーストをWET厚さ 50μmのアプリケーターを用いて塗布し、マスク用フィルムを取り除き、前記第2剥離フィルム上にサイズ 2cm×5cm、厚さ 15μmの機能性パターンを形成した。
機能性パターンに含有される溶剤が十分に揮発した後に、前記機能性パターンが形成された前記第2剥離フィルムの全面に、前記第2接着層ペーストを、厚さ 20μmとなるようにメイヤーバーを用いて塗布し、第2接着層を形成した。そして、第2接着層に含有される溶剤を十分に揮発させた。
【0049】
次に第1剥離フィルムの第1接着層と第2剥離フィルムの第2接着層を、間に空気が入らないように重ね合わせて複合体とし、この複合体を第2剥離フィルムが下になるように温度 100℃のホットプレート上に配置し、この複合体の全面を第1剥離フィルムの上から荷重 0.1kg/cm2で加圧しながら10分間保持した。加熱に用いた温度は、2つの接着層の材料を軟化させるのに十分な温度であったので、第1接着層と第2接着層とが癒着した。2つの接着層の材料は同一なので、癒着した接着層は、一つの接着層と見なすことができる。この複合体から機能性パターンを含む部分をサイズ 5cm×10cmに切り出して、実施例4の焼成用転写フィルムを作製した。
【0050】
(機能性パターン付き基体の作製)
以下の手順で、機能性パターン付き基体を作製した。
基体として実施例1と同様のガラス板を用意した。
前記焼成用転写フィルムから第2剥離フィルムを剥離した他は、実施例1と同様の方法により機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。
そして、実施例1と同様の焼成条件により前記機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を焼成し、機能性パターン付きガラス板を作製した。
【0051】
(比較例3)
第1接着層ペーストおよび第2接着層ペーストとして比較例1と同じポリブチラール樹脂「BL−S」(積水化学工業(株)製、熱分解終了温度435℃)を用いた他は、実施例4と同様の方法により比較例3の焼成用転写フィルムを作製した。
実施例4と同様の方法により機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。
そして、実施例4と同様の焼成条件により機能性パターン付きガラス板を作製した。
【0052】
(評価)
表3に、実施例4と比較例3における焼成用転写フィルムの接着層と機能性パターンとに含有される各有機物の熱分解終了温度、および各機能性パターンの焼成体の評価を示した。
実施例4における機能性パターンの焼成体の外観には、色目むら、浮き、クラック、剥がれなどがなく、良好な評価が得られた。これに対し比較例3における機能性パターンの焼成体の外観には、色目むら、浮き、クラック、剥がれなどの破損が発生し、良好な評価が得られなかった。
【0053】
【表3】

【0054】
(対比)
実施例1、3と実施例4との対比を行う。
まず、各層に含有される溶剤の影響について対比する。
実施例1や実施例3における焼成用転写フィルムの製造方法では、(第1)接着層の上に機能性パターンを印刷したので、(第1)接着層に含有される溶剤を十分に揮発させた後に機能性パターンを印刷したとしても、(第1)接着層に含有される有機物と機能性パターンに含有される溶剤の組み合わせによっては、(第1)接着層が機能性パターンに含有される溶剤により溶解され、機能性パターンに歪みなどの影響を与える可能性がある。これに対して、実施例4における焼成用転写フィルムの製造方法では、第2剥離フィルム上にまず機能性パターンを形成し、この機能性パターンに含有される溶剤を十分に揮発させた後に、第2接着層を機能性パターンに形成したので、機能性パターンに含有される溶剤により第1接着層が溶解されることがなく、機能性パターンの歪みを最小とすることができたと考えられる。そして、第2剥離フィルム上に形成された溶剤が十分に揮発した機能性パターンおよび第2接着層と第1剥離フィルム上に形成され溶剤が十分に揮発した第1接着層とを重ね合わせて加熱と圧力により貼り合わせたとしても、機能性パターンと第1接着層との間で溶解は起きないと考えられる。
【0055】
次に、機能性パターンの平滑性について対比する。
実施例1や実施例3における焼成用転写フィルムの製造方法では、ガラス板の表面に接触する機能性パターンの形状やその表面の平滑性は、接着層や機能性パターンの塗布方法や印刷方法に依存したと考えられる。これに対して、実施例4における焼成用転写フィルムの製造方法では、第2剥離フィルムの上に直接機能性パターンが形成されたので、ガラス板の表面に接触する機能性パターンの表面は平であり、その平滑性は、第2剥離フィルムの平滑性に依存したと考えられるので、ガラスの表面との密着性に優れた機能性パターンの表面が形成できたと考えられる。
【0056】
これらの対比により、実施例4における焼成用転写フィルムの製造方法は、各層に含有される溶剤の影響を小さくすることが可能であり、ガラスの表面と密着性のよい機能性パターンを形成可能なことが分かった。
【0057】
(比較例4)
機能性パターンを含む積層体の積層順を実施例1における積層順の逆にした以外は、実施例1と同様の材料と機器を用いて比較例4の焼成用転写フィルムを作製した。
そして、実施例1と同様の方法により機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。前記転写された積層体は、機能性パターンとガラス板との間に接着層を有する構造となっていた。実施例1と同様の焼成条件により機能性パターン付きガラス板を作製した。
【0058】
(評価)
表4に、比較例4における焼成用転写フィルムの接着層と機能性パターンとに含有される各有機物の熱分解終了温度、および各機能性パターンの焼成体の評価を示した。
比較例4における機能性パターンの焼成体は、亀裂が入り破壊されており、不良であった。下層の接着層の熱分解終了温度が上層の機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低いので、接着層から発生する熱分解ガスの圧力で、機能性パターンが破壊されたと考えられる。
【0059】
【表4】

【0060】
(対比)
実施例1と比較例4との対比を行う。
比較例4における機能性パターンを含む積層体は、実施例1における機能性パターンを含む積層体の各層の形成順が逆になったものであり、ガラス板の表面に転写された積層体は、熱分解終了温度の低い接着層の上に熱分解終了温度の高い機能性パターンが形成されていた。従って、上層である機能性パターンに遮られた接着層の熱分解ガスの圧力により、機能性パターンの焼成体に欠陥が発生したと考えられる。
【0061】
この対比により、良好な機能性パターンの焼成体を得るためには、ガラス板の表面に転写された積層体の各層が有する機能にかかわらず、上層の熱分解終了温度が下層の熱分解終了温度よりも低いという関係を満たす必要があることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施例の焼成用転写フィルムの構造を例示する拡大断面模型図。
【図2】本発明の一実施例の焼成用転写フィルムの構造を例示する平面模型図。
【図3】本発明の一実施例の焼成用転写フィルムの転写後の構造を例示する拡大断面模型図。
【図4】本発明の別の実施例の焼成用転写フィルムの構造を例示する拡大断面模型図。
【符号の説明】
【0063】
1 (第1)剥離フィルム
2 (第1)接着層
3 機能性パターン
4 基体
5 第2接着層
6 第2剥離フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することにより、機能性パターンの焼成体を形成するために用いる、焼成用転写フィルムにおいて、
前記焼成用転写フィルムは、剥離フィルムと、前記剥離フィルム上に形成された前記積層体とを含み、
前記積層体は、機能性パターンと、前記積層体を前記基体に転写する際に前記基体の表面に接着される少なくとも1層の接着層とを含み、
前記機能性パターンは、無機粉体と焼成により除去可能な有機物とを含有し、
前記接着層は、焼成により除去可能な有機物を含有し、
前記機能性パターンと前記剥離フィルムとの間に位置する前記接着層に含有される有機物の熱分解終了温度が、前記機能性パターンに含有される有機物の熱分解終了温度よりも低いことを特徴とする焼成用転写フィルム。
【請求項2】
前記接着層に含有される有機物のガラス転移温度または軟化温度のいずれか一方が50℃以上、150℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の焼成用転写フィルム。
【請求項3】
基体の表面に積層体を転写し焼成する機能性パターン付き基体の形成方法において、
請求項1または2に記載の焼成用転写フィルムを、前記接着層を介して前記基体の表面に貼着して、前記焼成用転写フィルムの前記剥離フィルムを剥離することにより、機能性パターンを含む積層体が転写された基体を形成し、
該基体を、前記接着層に含有される有機物の熱分解が終了した後に、前記機能性パターンに含有される有機物の熱分解が終了する焼成条件で焼成することを特徴とする機能性パターン付き基体の形成方法。
【請求項4】
基体の表面に積層体を転写し焼成する機能性パターン付き基体の形成方法において、
請求項1または2に記載の焼成用転写フィルムを、前記接着層に含有される有機物のガラス転移温度または軟化温度以上の温度まで加熱し、
前記加熱した焼成用転写フィルムを、前記機能性パターンが前記基体に接触するように前記基体の表面に貼着して、前記焼成用転写フィルムの前記剥離フィルムを剥離することにより、機能性パターンを含む積層体が転写された基体を形成し、
該基体を、前記接着層に含有される有機物の熱分解が終了した後に、前記機能性パターンに含有される有機物の熱分解が終了する焼成条件で焼成することを特徴とする機能性パターン付き基体の形成方法。
【請求項5】
前記焼成用転写フィルムを加熱する温度が、50℃以上、150℃以下であることを特徴とする請求項4記載の機能性パターン付き基体の形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−23255(P2009−23255A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189668(P2007−189668)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(591186888)株式会社トッパンTDKレーベル (46)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】