説明

焼成鉛筆芯

【課題】曲げ強さを向上させ、更に出来るだけ濃い筆記濃度の鉛筆芯を提供すること。
【解決手段】焼成芯体が有する気孔中に、少なくとも焼成芯体が有する気孔中に、少なくとも溶剤可溶型フッ素樹脂を含浸させてなる鉛筆芯。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛を含有する焼成芯体が有する気孔中に含浸成分を含浸させてなる焼成鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に焼成鉛筆芯は、黒鉛等の体質材と、有機結合材や粘土などの無機結合材を主剤として使用し、必要に応じて使用される各種の着色材、気孔形成材、可塑剤、溶剤などと共にニーダー、ヘンシェルミキサー、3本ロールなどで均一分散させ、押し出し成形後、800℃〜1200℃で高温焼成して得られる。そして焼成することで、気孔形成材や、可塑剤が熱分解することで形成された芯体の気孔中に、必要に応じて種々物質を、種々目的で含浸させている。
【0003】
ところで鉛筆芯の筆記濃度の調整は、焼成温度を変えることによる結合材の焼結力の調整や、気孔形成材、可塑剤の添加量を変えることなどによる芯体中の気孔の量を調整することにより、芯体自体の強度を調節し摩耗性を変えることで行う。従って、曲げ強さと筆記濃度には逆相関関係、即ち、曲げ強さを向上させようとすると鉛筆芯が摩耗しづらくなり、その結果として筆記濃度が低下してしまい、逆に筆記濃度を濃くしようとすると、曲げ強さが低下してしまうという関係がある。この逆相関関係を改善させようと様々な発明が報告されている。このうち焼成された芯体の気孔中に、筆記濃度向上目的で種々の含浸成分を含浸する発明がある。含浸成分の一例としては、流動パラフィン、シリコーン油やスピンドル油(特許文献1参照)、α−オレフィンオリゴマー(特許文献2参照)、脂肪酸エステル(特許文献3参照)等の油状物が知られている。

【特許文献1】特開昭55−025368号公報
【特許文献2】特開昭63−135469号公報
【特許文献3】特開昭60−067578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油状物の含浸成分は芯体中の体質材(黒鉛、窒化ホウ素、タルク等)の表面に皮膜を形成し、濡れによる反射光の分散・吸収効果によって、主に黒鉛に起因する強い反射光を抑える効果が付与される。また筆記時に黒鉛の結晶層間が劈開することによる摩耗の促進により、含浸前の焼成芯体と比較して濃い筆記濃度が得られると考えられ、曲げ強さを落とすことなく筆記濃度を向上させる1つの方法である。しかしこれら含浸成分には芯体の曲げ強さを落とすことはないものの、向上させる働きは無かった。故に少しでも芯体の曲げ強さを向上させつつ、更に、筆記濃度の向上効果がある含浸成分を選定することが、鉛筆芯の品質向上のためには必要である。従って、曲げ強さを向上させ、更に出来るだけ濃い筆記濃度の鉛筆芯を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、焼成芯体が有する気孔中に、含浸成分を含浸させてなる鉛筆芯において、前記含浸成分が、少なくとも溶剤可溶型フッ素樹脂を含有する鉛筆芯を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
フッ素樹脂は分子中のC−F結合が強固であることに起因して他の物質と反応し難く、更に他の物質を付着させ難い非常に滑り性があることが特徴の樹脂である。一方、溶剤可溶型フッ素樹脂は分子中に多数存在するC−F結合のうち一部のF(フッ素原子)部分が溶剤に可溶な構造の分子に置き換わっており、溶剤に可溶な分子構造部は他の物質と反応しやすく、付着性も高い。このため、溶剤可溶型フッ素樹脂を溶剤で溶かし溶液化させてから焼成芯体に含浸させ、溶剤を除去(乾燥)すると、溶剤可溶型フッ素樹脂の溶剤可溶な分子構造部が芯体の気孔壁面に付着し,表面側には滑り性の高い強固なC−F結合部が配置された固体皮膜が形成される。この皮膜は芯体の補強材的役目を成し、曲げ強さを向上させると同時に、固体潤滑剤の働きも発揮し、芯体の摩耗を促進するために筆記濃度も向上すると思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
フッ素樹脂とは、分子中にフッ素原子を含むプラスチックの総称で、例えばアクリル樹脂にフッ素原子が入れば、含フッ素アクリル樹脂となり、フッ素樹脂の1つである。更にフッ素原子を含む樹脂と、フッ素樹脂を含まない樹脂の共重合体についても分子中にフッ素原子を含むのでフッ素樹脂の1つである。このようにフッ素樹脂には非常に広い範囲がある。その中で本発明に用いるフッ素樹脂は、前記フッ素樹脂のうち、何らかの溶剤に可溶な溶剤可溶型フッ素樹脂である。
溶剤可溶型フッ素樹脂は市販品としても販売されている。市販品の具体例としては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)、フルオロエチレン−ビニルエーテルコポリマー(商品名:ルミフロン、旭硝子(株)製)、ペルフルオロ(4−ビニルオキシ−1−ブテン)ポリマー(商品名:サイトップ、旭硝子(株)製)、水酸基含有フルオロオレフィンコポリマー(商品名:フルオネートFLUONATE、DIC(株)製)、パーフルオロアルキレートポリマー(商品名フロロサーフ5030(パーフルオロアルキレートポリマー溶液)、フロロテクノロジー(株)製)等が挙げられる。
【0008】
前記溶剤可溶型フッ素樹脂を焼成芯体中に含浸させる方法としては、特に限定されないが、一例としては、前記溶剤可溶型樹脂を溶剤で溶かし溶液化させたところに芯体を浸漬させ、溶液を十分に含浸させたのち、溶剤を完全に除去(乾燥)させることで芯体中に溶剤可溶型フッ素樹脂を析出させることで鉛筆芯とすれば良い。尚、芯体重量に対する溶剤
可溶型フッ素樹脂の含浸量については、特に限定されないが、0.5%から5%程度の量でも十分効果を発揮する。
【0009】
前記溶剤可溶型フッ素樹脂を溶解させる溶剤としては、フッ素系溶剤が一般的である。
一例を挙げるならば、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロポリエーテル、ハイドロフロロポリエーテル、パーフルオロカーボン、ハイドロクロロフロロカーボン等が挙げられるが、前記溶剤可溶型フッ素樹脂を溶解させることができる溶剤であれば特に限定されない。
【0010】
前記溶剤可溶型フッ素樹脂を焼成芯体の含浸成分とする際は、単独で用いても、従来公知の含浸成分である、例えば流動パラフィン、シリコーン油やスピンドル油、スクワラン、α−オレフィンオリゴマー、脂肪酸エステル、高級アルコール、ステアリン酸、ポリブテン、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非結晶ポリプロピレン、エチレン極性モノマー共重合体、ポリエチレン、ポリイソブチレン、非結晶ポリα−オレフィンなどを併用しても良い。併用する際は、焼成芯体に溶剤可溶型フッ素樹脂溶液を含浸後、溶剤を乾燥除去することで溶剤可溶型フッ素樹脂を芯体内に析出させたのち、加熱した従来公知の含浸成分中に芯体を浸漬する方法、または減圧、加圧して含浸する方法、有機溶剤で希釈させ、流動性を上げてから含浸する方法等を用いることができる。含浸後は適宜、遠心分離機などで焼成芯体表面の余分な含浸成分を除去して鉛筆芯とすれば良い。
【0011】
本発明に係る焼成鉛筆芯は、従来用いられている構成材料及び製造方法を限定なく用いることができる。
鉛筆芯は、黒鉛と、粘土や各種合成樹脂などを結合材として使用し、各種の体質材や必要に応じて使用される着色材、気孔形成材、可塑剤、溶剤などと共にニーダー、ヘンシェルミキサー、3本ロールなどで均一分散させ、押し出し成形後、800℃〜1200℃で高温焼成して得られる。
具体的には、粘土やポリ塩化ビニル、ポリ塩素化ポリエチレン、フラン樹脂、ポリビニルアルコール、スチロール樹脂、アクリル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂などの合成樹脂を結合材として使用し、黒鉛、窒化硼素、タルク、雲母などの体質材、必要に応じて使用される有機顔料や無機顔料などの着色材、ポリアミド、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの気孔形成材、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)などの可塑剤、水、アルコール、ケトン、エステル、芳香族炭化水素などの溶剤と共にニーダー、ヘンシェルミキサー、3本ロールなどで均一分散させた後に成形、高温焼成して得られる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例に基き本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ポリ塩化ビニル 30重量部
黒鉛 50重量部
カーボンブラック 2重量部
ジオクチルフタレート 8重量部
ステアリン酸 2重量部
メチルエチルケトン 30重量部

上記材料を配合物として、ニーダー及び3本ロールにより十分に混練後、細線状に押し出し成形し、空気中で300℃まで加熱し、更に、不活性雰囲気で1100℃に加熱し、呼び直径0.5mmの焼成芯体を得た。これを、下記含浸成分1を室温にて10時間浸漬後、表面上の余分な含浸成分を除去後、室温で3時間乾燥後、更に100℃にて5時間乾燥して鉛筆芯を得た。尚、重量測定により、芯体中に残留した樹脂固形分は芯体重量の0.5%であることを確認した。
<含浸成分1>
テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)3重量部をフッ素系溶剤97重量部に溶解させた固形分3%の溶液。
【0013】
(実施例2)
実施例1の含浸成分を下記含浸成分2にしたこと以外実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。尚、重量測定により、芯体中に残留した樹脂固形分は芯体重量の0.9%であることを確認した。
<含浸成分2>
テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)5重量部をフッ素系溶剤95重量部に溶解させた固形分5%の溶液。
【0014】
(実施例3)
実施例1の含浸成分を下記含浸成分3にしたこと以外実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。尚、重量測定により、芯体中に残留した樹脂固形分は芯体重量の2.0%であることを確認した。
<含浸成分3>
テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)10重量部をフッ素系溶剤90重量部に溶解させた固形分10%の溶液。
【0015】
(実施例4)
実施例1の含浸成分を下記含浸成分4にしたこと以外実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。尚、重量測定により、芯体中に残留した樹脂固形分は芯体重量の5.0%であることを確認した。
<含浸成分4>
テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)30重量部をフッ素系溶剤70重量部に溶解させた固形分30%の溶液。
【0016】
(実施例5)
実施例1の含浸成分を下記含浸成分5にしたこと以外実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。尚、重量測定により、芯体中に残留した樹脂固形分は芯体重量の1.0%であることを確認した。
<含浸成分5>
フルオロエチレン−ビニルエーテルコポリマー(商品名:ルミフロン、旭硝子(株)製)5重量部をフッ素系溶剤95重量部に溶解させた固形分5%の溶液
【0017】
(実施例6)
実施例1の含浸成分を下記含浸成分6にしたこと以外実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。尚、重量測定により、芯体中に残留した樹脂固形分は芯体重量の1.1%であることを確認した。
<含浸成分6>
ペルフルオロ(4−ビニルオキシ−1−ブテン)ポリマー(商品名:サイトップ、旭硝子(株)製)5重量部をフッ素系溶剤95重量部に溶解させた固形分5%の溶液。
【0018】
(実施例7)
実施例1の含浸成分を下記含浸成分7にしたこと以外実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。尚、重量測定により、芯体中に残留した樹脂固形分は芯体重量の1.0%であることを確認した。
<含浸成分7>
水酸基含有フルオロオレフィンコポリマー(商品名:フルオネートFLUONATE、DIC(株)製)5重量部をフッ素系溶剤95重量部に溶解させた固形分5%の溶液
【0019】
(実施例8)
実施例1の含浸成分を下記含浸成分8にしたこと以外実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。尚、重量測定により、芯体中に残留した樹脂固形分は芯体重量の0.8%であることを確認した。
<含浸成分8>
パーフルオロアルキレートポリマー(商品名フロロサーフ5030(パーフルオロアルキレートポリマー溶液、固形分4%、フロロテクノロジー(株)製)
【0020】
(実施例9)
実施例8でパーフルオロアルキレートポリマーを含浸させて得た鉛筆芯を、更に下記含浸成分9を100℃に加熱したものに10時間浸漬後、表面上の余分な含浸成分を除去して鉛筆芯を得た。
<含浸成分9>
シンセラン30(α−オレフィンオリゴマー、日光ケミカルズ(株))
【0021】
(比較例1)
実施例1と同様にして得た焼成芯体(未含浸)を下記含浸成分10を100℃に加熱したものに10時間浸漬後、表面上の余分な含浸成分を除去して鉛筆芯を得た。
<含浸成分10>
ダフニーオイルCP 68N(流動パラフィン、出光興産(株)製)
【0022】
(比較例2)
比較例1の含浸成分を下記含浸成分11にしたこと以外比較例1と同様にして鉛筆芯を得た。
<含浸成分11>
スーパーオイルT10 (スピンドル油、日石三菱(株)製)
【0023】
(比較例3)
比較例1の含浸成分を下記含浸成分12にしたこと以外比較例1と同様にして鉛筆芯を得た。
<含浸成分12>
シンセラン30(α−オレフィンオリゴマー、日光ケミカルズ(株))
【0024】
上記各例により得られた鉛筆芯の曲げ強さ及び筆記濃度を測定した結果を(表1)に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(表1)に示すとおり、本発明において曲げ強さ、筆記濃度が向上した鉛筆芯を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成芯体が有する気孔中に、少なくとも溶剤可溶型フッ素樹脂を含浸させてなる鉛筆芯。
【請求項2】
前記溶剤可溶型フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー、フルオロエチレン−ビニルエーテルコポリマー、ペルフルオロ(4−ビニルオキシ−1−ブテン)ポリマー、水酸基含有フルオロオレフィンコポリマー、パーフルオロアルキレートポリマーから選ばれる1種または2種以上の鉛筆芯。