説明

焼結品の製造方法

【課題】焼結品の製造方法において、焼結前の圧粉体の機械加工時の破損を防止し、かつ、焼結炉への負担も小さい焼結品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の焼結品の製造方法は、圧粉成形体1を金型で成形する成形工程(a)と、圧粉成形体1の表面に結合剤樹脂2を塗布する塗布工程(b)と、塗布した結合剤樹脂2を硬化させる硬化工程(c)と、結合剤樹脂2を塗布し硬化させた硬化処理成形体3をグリーン加工するグリーン加工工程(d)と、グリーン加工後の加工成形体6を焼結する焼結工程(e)とを含んでいる。結合剤樹脂2は、紫外線硬化樹脂を使用することで、容易に塗布することができ、紫外線照射によって短時間で硬化させることができるので、材料粉末と結合剤樹脂2との混合、予備焼成等の煩雑な工程が不要であり、焼結品の生産性を高めると共に製造コストを低減することができる。更に、紫外線硬化樹脂によって、圧粉成形体1の強度が高められているので、割れ、欠け等の破損を防止することできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結品は、材料粉末を金型に入れて圧力を加えることにより圧粉体を成形し、この圧粉体を材料粉末の融点よりも低い温度で焼結することにより製造する。
【0003】
通常、焼結品は、金型による成形によって最終的な仕上げ形状を得ることが望ましいが、横方向の穴やアンダーカット形状等の金型による成形が困難な形状については、機械加工によって形成する必要がある。しかしながら、焼結品は、硬度が高いため、焼結後に切削等の機械加工を行なうことは非常に困難である。そこで、焼結前の圧粉体に機械加工を行なう、いわゆる、グリーン加工が行なわれる。グリーン加工は、切削抵抗が小さく、短時間で加工を行なうことが可能である一方で、焼結前の圧粉体は、強度が低く、非常に脆いため、割れや欠けを生じ易く、機械加工には注意を要する。
【0004】
そこで、グリーン加工において、圧粉体の割れや欠けを防止するため、従来、次のような対策が講じられている。
(1)圧粉体の穴あけ加工において、バックアップ治具を用いて、ドリルの貫通時のコバ欠けを防止する。
(2)例えば、特許文献1に記載されているように、材料粉末に結合剤樹脂を混合して圧粉体を成形することにより、圧粉体の強度を高め、機械加工時の破損を防止する。
(3)例えば、特許文献2に記載されているように、圧粉体を低温で予備焼成して強度を高め、機械加工時の破損を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際特許公開第2008/136224号パンフレット
【特許文献2】特開2006−271435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の対策では、次のような問題がある。バックアップ治具を用いるものでは、設備に多大な費用がかかる上に、穴あけ加工にしか適用できない。
特許文献1に記載されたものでは、材料粉末と結合剤樹脂とを混合する工程が必要となり製造工程が煩雑になる。焼結時に焼結炉内に残留した結合剤樹脂の張付きが生じるため、炉内の清掃、メンテナンスが煩雑になり、焼結炉の劣化も問題になる。また、焼結時に結合剤樹脂が蒸散、消失することにより、焼結品が収縮して寸法精度が低下する。
特許文献2に記載されたものでは、予備焼成を行なう工程が必要であり、製造工程が煩雑になる。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑み、焼結前の圧粉体の機械加工時の破損を防止し、かつ、焼結炉への負担も小さい焼結品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る焼結品の製造方法は、材料粉末に圧力を加えて、圧粉成形体を成形する成形工程と、
前記圧粉成形体の表面に結合剤樹脂を塗布する塗布工程と、
前記圧粉成形体に塗布された前記結合剤樹脂を硬化させて硬化処理成形体を得る硬化工程と、
前記硬化処理成形体を機械加工して、加工成形体を得るグリーン加工工程と、
前記加工成形体を焼結して焼結品を得る焼結工程と、を含んでいることを特徴とする。
【0009】
(発明の態様)
以下に、本発明において特許請求が可能と認識される発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の(1)及び(2)の内容が請求項1及び2にそれぞれ対応する。
【0010】
(1)材料粉末に圧力を加えて、圧粉成形体を成形する成形工程と、
前記圧粉成形体の表面に結合剤樹脂を塗布する塗布工程と、
前記圧粉成形体に塗布された前記結合剤樹脂を硬化させて硬化処理成形体を得る硬化工程と、
前記硬化処理成形体を機械加工して、加工成形体を得るグリーン加工工程と、
前記加工成形体を焼結して焼結品を得る焼結工程と、を含んでいることを特徴とする焼結品の製造方法。
圧粉成形体に塗布された結合剤樹脂が硬化することで、硬化処理成形体の強度が高くなり、表面の割れ、欠け等の破損を防止することができる。また、結合剤樹脂は、圧粉成形体の表面のみに塗布されているので、結合剤樹脂の量が少量であり、焼結時の、焼結体の寸法の収縮が小さく、焼結炉への残留も少ない。
【0011】
(2)(1)の焼結品の製造方法において、前記結合剤樹脂は、紫外線硬化樹脂であり、前記硬化工程は、前記圧粉成形体に塗布された前記結合剤樹脂に紫外線を照射することを特徴とする焼結品の製造方法。
紫外線硬化樹脂は、圧粉成形体に容易に塗布することができ、紫外線照射によって短時間で硬化させることができる。
【0012】
(3)(1)または(2)の焼結品の製造方法において、塗布工程は、結合剤樹脂を圧粉成形体の全体に塗布することを特徴とする焼結品の製造方法。
【0013】
(4)(1)または(2)の焼結品の製造方法において、塗布工程は、結合剤樹脂を圧粉成形体のグリーン加工を行なうための必要部位に塗布することを特徴とする焼結品の製造方法。
【0014】
(5)(1)乃至(4)のいずれかの焼結品の製造方法において、材料粉末は、焼結金属材料であることを特徴とする焼結品の製造方法。
【0015】
(6)(1)乃至(4)のいずれかの焼結品の製造方法において、材料粉末は、セラミックス材料であることを特徴とする焼結品の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る焼結品の製造方法によれば、焼結前の圧粉体の機械加工時の破損を防止し、かつ、焼結炉への負担を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る焼結品の製造方法の概略工程を示す図である。
【図2】図1に示す工程におけるフライス加工工程を示す概略図である。
【図3】図1に示す工程おける溝加工工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本発明の実施形態に係る焼結品の製造工程を図1に示す。図1に示すように、本実施形態に係る焼結品の製造方法は、圧粉成形体1を金型で成形する成形工程(a)と、圧粉成形体1の表面に結合剤樹脂2を塗布する塗布工程(b)と、塗布した結合剤樹脂2を硬化させる硬化工程(c)と、結合剤樹脂2を塗布し硬化させた硬化処理成形体3をグリーン加工するグリーン加工工程(d)と、グリーン加工後の加工成形体6を焼結する焼結工程(e)とを含んでいる。
【0020】
成形工程(a)では、焼結金属材料である材料粉末を金型に充填し圧力を加えて、材料粉末を固めて圧粉成形体1を成形する。
【0021】
塗布工程(b)では、成形工程(a)で成形された圧粉成形体1の表面に結合剤樹脂2を塗布する。このとき、結合剤樹脂2は、圧粉成形体1の全体、または、グリーン加工を行うための必要部位に塗布する。結合剤樹脂2は、焼結時に蒸散、焼失し、焼結炉内に残留しにくい可燃性の合成樹脂とし、本実施形態では、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化樹脂を使用している。結合剤樹脂2を圧粉成形体1の表面に塗布することにより、結合剤樹脂2は、圧粉成形体1の表面を覆い、あるいは、表層部に僅かに浸透する。
【0022】
結合剤樹脂2の塗布は、スプレー塗布、ローラ塗布、はけ塗り等、いずれの方法でもよく、圧粉成形体1の塗布部位の形状、結合剤樹脂2の粘度、性状等に応じて適宜選択することができる。例えば、結合剤樹脂2を塗布する部位が内面や広い平面の場合、結合剤樹脂2の粘度が低い場合、また、機械で自動塗布を行う場合、スプレー塗布が適している。結合剤樹脂2の塗布部位が平面で、結合剤樹脂2の粘度が中程度の場合、ローラ塗布が適している。また、結合剤樹脂2の塗布部位が複雑形状であり、手塗りを行う場合や結合剤樹脂2の粘度が高い場合、はけ塗りが適している。
【0023】
硬化工程(c)では、塗布工程(b)で結合剤樹脂2が塗布された圧粉成形体1に紫外線照射器4を用いて紫外線を照射する。そして、塗布された結合剤樹脂2を硬化させて、圧粉成形体1の必要部位を硬化した結合剤樹脂2で被覆した硬化処理成形体3を得る。
【0024】
グリーン加工工程(d)では、硬化処理成形体3に、金型による成形が困難な横穴、アンダーカット等の形状に対して、ドリル5による穴あけ加工、フライスカッター7によるフライス加工(図2参照)、エンドミル8による溝加工(図3参照)等の必要な機械加工を行なって加工成形体6を得る。このとき、硬化処理成形体3は、必要な部位の表面、あるいは、表層部が硬化した結合剤樹脂2によって補強されて表面の強度が高められているので、機械加工時の割れ、欠け等の破損を防止することができる。図示の例では、割れ、欠け等が生じ易いドリル5の入口A及び出口Bの破損を防止することができる。
【0025】
焼結工程(e)では、グリーン加工後の加工成形体6を焼結炉内で焼結することにより焼結品を得る。加工成形体6の表面、または、表層部の結合剤樹脂2は、焼結時に、蒸散、焼失するので、焼結体及び焼結炉内に殆ど残留しない。このとき、結合剤樹脂2は、圧粉成形体1の表面のみに塗布されているので、従来の材料粉末に混合される結合剤樹脂2に比して、その量が非常に少量であるため、焼結体の寸法の収縮、結合剤樹脂2の焼結炉への残留が問題になることがない。
【0026】
結合剤樹脂2として紫外線硬化樹脂を使用することにより、圧粉成形体1に容易に塗布することができ、紫外線照射によって容易に短時間で硬化させることができるので、従来の材料粉末と結合剤樹脂2との混合、予備焼成等の煩雑な工程が不要であり、焼結品の生産性を高めると共に製造コストを低減することができる。また、紫外線硬化樹脂は、紫外線を照射しない限り硬化することがないので、塗布用の機械、器具等のメンテナンスが容易であり、長期の使用が可能である。さらに、紫外線硬化樹脂は、有害物質の蒸散等がなく、作業環境性に優れる。
【0027】
なお、結合剤樹脂2は、上記実施形態では、一例として紫外線硬化樹脂を使用しているが、このほか、エポキシ樹脂等の硬化剤との混合により硬化する二液硬化型樹脂、あるいは、溶剤の蒸散により硬化する溶剤型樹脂を使用することもできる。
【0028】
また、本発明は、材料粉末として焼結金属材料を用いる焼結に限らず、アルミナ等のセラミックス材料を用いる焼結にも同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1…圧粉成形体、2…結合剤樹脂、3…硬化処理成形体、6…加工成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料粉末に圧力を加えて、圧粉成形体を成形する成形工程と、
前記圧粉成形体の表面に結合剤樹脂を塗布する塗布工程と、
前記圧粉成形体に塗布された前記結合剤樹脂を硬化させて硬化処理成形体を得る硬化工程と、
前記硬化処理成形体を機械加工して、加工成形体を得るグリーン加工工程と、
前記加工成形体を焼結して焼結品を得る焼結工程と、を含んでいることを特徴とする焼結品の製造方法。
【請求項2】
前記結合剤樹脂は、紫外線硬化樹脂であり、前記硬化工程は、前記圧粉成形体に塗布された前記結合剤樹脂に紫外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の焼結品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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