説明

焼結磁石

【課題】本発明の目的は希土類磁石の希土類元素使用量を低減し、最大エネルギー積及び保磁力の増加を満足した焼結磁石を提供することにある。
【解決手段】NdFeB系結晶とFeCo系結晶が粒界を介して存在する焼結磁石において、前記FeCo系結晶内の中心部から外周部にかけてCoの濃度が減少し、前記FeCo系結晶内の中心部と外周部とでCo濃度に2原子%以上の差があり、前記NdFeB系結晶内の粒界近傍にCo及び重希土類元素が偏在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高飽和磁束密度を示すFeCo系結晶を含有し、重希土類元素が偏在する焼結磁石及に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはFeCo軟磁性相とNdFeBを複合化したナノコンポジット磁石に関する記載があるが、焼結磁石に関する記載はない。特許文献2には、フッ化物で被覆されたFeCo系強磁性粉に関する記載があるが、FeCo系結晶のCo組成に関する記載はない。特許文献3にはFeとCoを含有する磁性粉について、Co/Fe原子比に関する記載があるが、NdFeB系焼結磁石に関する記載がない。特許文献4にはCoを不均一にしたミクロ組織をもったフェライト磁石に関する記載があるがNdFeB系焼結磁石に関する記載がない。特許文献5には磁石中の特定の元素濃度が周期的に変化した希土類合金膜磁石に関する記載があるが、FeCo結晶に関する記載がない。特許文献6には、重希土類元素が結晶粒周縁で偏在した焼結磁石に関する記載があるが、FeCo結晶に関する記載がない。
【0003】
これらの従来技術によってNd2Fe14Bの理論最大エネルギー積である64MGOeを超えた例はなく、最大エネルギー積の増加と希土類元素使用量低減を両立可能な高密度磁石体を提供することは困難であった。また、NdFeB系磁石において、重希土類元素を偏在化する手法のみでは、希土類元素使用量の低減にはならない。また、軟磁性粉と混合焼結させた場合、保磁力が減少し磁石の耐熱性あるいは減磁耐力が著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−74062号公報
【特許文献2】特開2008−60183号公報
【特許文献3】特開2006−128535号公報
【特許文献4】特開2001−68319号公報
【特許文献5】特開2001−274016号公報
【特許文献6】特開2007−294917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Nd2Fe14B系焼結磁石に代表される希土類鉄ホウ素系などの希土類元素を使用した永久磁石は、種々の磁気回路に使用されている。高温あるいは大きな減磁界環境で使用される永久磁石には、重希土類元素の添加が必須である。重希土類元素を含めた希土類元素の使用量を削減することは、地球資源保護の観点から極めて重要な課題である。従来技術では、希土類元素の使用量を小さくすると、最大エネルギー積、保磁力のいずれかが低下し、応用することが困難であった。希土類元素使用量の低減、保磁力増加及び最大エネルギー積増加を満足させることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
NdFeB系結晶とFeCo系結晶が粒界を介して存在する焼結磁石において、前記FeCo系結晶内の中心部から外周部にかけてCoの濃度が減少し、前記FeCo系結晶内の中心部と外周部とでCo濃度に2原子%以上の差があり、前記NdFeB系結晶内の粒界近傍にCo及び重希土類元素が偏在する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、希土類永久磁石の希土類元素の使用量低減、保磁力増加及び最大エネルギー積増加を満足することが可能である。これにより磁石使用量を低減でき全ての磁石応用製品の小型軽量化に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る焼結磁石の組織(1)。
【図2】本発明に係る焼結磁石の組織(2)。
【図3】本発明に係る焼結磁石の組織(3)。
【図4】本発明に係るCo濃度差と冷却速度の関係。
【図5】本発明に係る保磁力と冷却速度の関係。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記課題を解決するために、FeCo系結晶とNdFeB系結晶の複合体を焼結させる。FeCo系結晶の飽和磁束密度は、NdFeB系結晶の飽和磁束密度よりも大きい。またFeCo系結晶は磁化反転し易いためNdFeB系結晶との磁気的な結合により反転を抑制する。磁気的な結合を得るために、FeCo系結晶と粒界を介して存在するNdFeB系結晶の結晶磁気異方性エネルギーを増加させ、かつ粒界近傍のFeCo結晶の結晶磁気異方性エネルギーを小さくする必要がある。
【0010】
本発明において、Nd2Fe14Bよりも高い飽和磁化を有するFeCo系結晶は1.5T以上2.8T未満の飽和磁束密度合金を有する。この飽和磁束密度の範囲であればその組成に制限はなく、希土類元素や半金属元素、種々の金属元素を含有して良い。飽和磁束密度がNd2Fe14Bよりも高いため、Nd2Fe14Bの結晶粒と磁気的に結合することにより残留磁束密度を増加させることが可能となる。FeCo系結晶とNd2Fe14B結晶は重希土類元素偏在相(粒界)を介して存在する。この重希土類偏在相にはフッ素や酸素、炭素が含まれている。
【0011】
また、焼結助材は、焼結温度において液相の量を十分にし、液相とFeCo系結晶の結晶粒やNd2Fe14Bの結晶粒との濡れ性を高め、焼結後の密度を高くするために使用する。フッ素含有相は希土類元素濃度が高い相と容易に反応するため液相の量が減少する。このため焼結後の密度が低下し、保磁力も低下する。このような密度及び保磁力減少を抑制するために焼結助材としてFe−70%Nd合金粉などを添加している。
【0012】
さらに、焼結時に成形磁場と垂直方向に磁場印加することにより、FeCo系結晶のみが磁化を有する温度範囲で磁場印加効果を実現でき、FeCo系結晶に磁気異方性を付加する。また、焼結後の急冷処理時に成形磁場と平行方向に磁場印加することにより、FeCo系結晶の結晶粒とNd2Fe14Bの結晶粒間の交換結合を高めることが可能であり、磁場印加は保磁力増加や角型性向上に寄与する。
【0013】
製造手法として重希土類元素を偏在化させるためにフッ化物溶液処理を使用する。フッ化物溶液処理に使用する溶液には100ppmオーダー以下の陰イオン成分が含有するため、希土類元素を多く含有する材料への処理において、被処理材料の表面の一部が腐食または酸化する。本発明では焼結磁石にNdFeB系とFeCo系結晶の少なくとも二種類の強磁性合金を使用し、フッ化物溶液処理を施す材料を耐食性の良いFeCo系結晶とし、フッ化物溶液処理による腐食や酸化を防止する。またFeCo系結晶は一般に保磁力が小さいので、粒界近傍に希土類元素、特に重希土類元素を偏在化させることが保磁力増加と希土類元素の使用量の低減に貢献する。
【0014】
上記観点から、目的を達成させるための手段を纏めると次のようになる。[1]FeCo系結晶内の中心部から外周部にかけてCoの濃度が減少し、特に粒界近傍で低い(結晶内の外周部とは、各結晶の表面から中心部の方向に1nm程度の領域を指す)。[2]FeCo系結晶内の中心部と外周部とでCo濃度に2原子%以上の差があり、[3]NdFeB系結晶内の粒界近傍にCo及び重希土類元素が偏在する。[4]FeCo系結晶の飽和磁束密度はNdFeB系結晶の飽和磁束密度よりも高い。
【0015】
なお、FeCo系結晶とNdFeB系結晶の粒界幅は10nm未満であること良く、特に0.1〜2nmであることが好ましい。これは粒界幅の増加による隣接結晶の磁気的結合の減少のためであり、粒界幅10nm以上では保磁力が減少する傾向を示す。粒界幅0.1nm未満では重希土類元素の偏在が困難であり保磁力が低下する。
【0016】
上記特徴を実現させるためには、1)FeCo系結晶を重希土類フッ化物溶液処理した後、NdFeB系結晶、及び焼結助剤と混合後磁場配向させる。2)磁場配向後、焼結熱処理時に磁場中急冷処理を適用し、FeCoとNdFeB系結晶の相後拡散を抑制し界面での磁気的結合を付加させる。
【実施例1】
【0017】
70%Fe30%Co合金をガスアトマイズ法により平均粒径1μmで作成し、TbF系アルコール溶液と混合し、TbF系膜を形成する。TbF系膜の平均膜厚さは10nmである。このTbFコート70%Fe30%Co合金粒を平均粒径1μmのNd2Fe14B系粉と溶媒中で大気に曝すことなく混合する。混合時に有機系分散剤を0.1%添加する。TbFコート70%Fe30%Co合金粒はNd2Fe14B系粉に対し20%であり、分散剤の使用により70%Fe30%Co合金粒の凝集を防止し、磁場中圧縮成形を施すことが可能である。TbF系膜の組成はTbF1-3であり、この組成に酸素や炭素を0.1から40%含有する。磁場中で圧縮した仮成形体には70%Fe30%Co合金粒がほぼ均一に分散されている。この仮成形体を1100℃に加熱し焼結後冷却時に磁場印加することにより、Nd2Fe14B結晶粒に隣接して70%Fe30%Co合金粒が分散した焼結体が得られる。焼結後の磁場印加は1100〜320℃の温度範囲において焼結前の磁場中圧縮成形時の磁場印加方向と同じ方向に2Tの磁場を印加する。この焼結体に磁場中時効処理を施し急冷する。このような磁場中冷却により最大エネルギー積が無磁場冷却と比較して5〜50%増加する。得られた焼結体の磁気特性は残留磁束密度1.7T,保磁力25kOe、最大エネルギー積70MGOeであった。
【0018】
このようなNd2Fe14Bの理論最大エネルギー積を超える性能を実現するためには以下の項目のいずれか1つ以上を満足する必要がある。1)強磁性の主相はNd2Fe14BとFeCo系結晶である。2)FeCo系結晶の粒界の一部はNdOF系酸フッ化物と接触している。3)FeCo系結晶の結晶粒界近傍でNd2Fe14B系化合物中のCo濃度の増加あるいはFeCo系結晶中のCo濃度の減少が認められる。4)FeCo系結晶内にTbを含有する結晶が認められる。5)粒界三重点の一部にfcc構造の希土類鉄化合物が成長しており、NdOF、CoFeO系化合物あるいはNd23系化合物が認められる。6)FeCo系結晶近傍のNd2Fe14B系化合物中のTb濃度が焼結体全体の平均Tb濃度よりも高い。7)磁場中冷却によりFeCo系結晶とNd2Fe14B系化合物結晶間の交換結合が増加し、減磁曲線の角型性が向上する。また、FeCo系結晶の形状が磁場方向に延びた形になるため、形状異方性が増加することにより減磁曲線の角型性が高くなる。磁場印加はNd2Fe14B系化合物のキュリー点よりも高い温度で効果が顕著であり、0.1T未満ではその効果が低下する。FeCo系結晶のキュリー点以下で磁場印加することにより、磁場方向にFeCo系結晶の結晶あるいは原子の再配列が進行し、磁場方向に平行方向でFeCo系結晶の磁化が高くなるような異方性を示す。このようなFeCo系結晶の異方性が焼結磁石の磁気特性に影響し、FeCoの磁気異方性が増加するほど磁石の最大エネルギー積が増加する傾向を示す。
【0019】
このような条件を満足することは、下記のような効果に対応している。
【0020】
1)FeCo系結晶はNd2Fe14Bの飽和磁化よりも大きいため、磁気的に両相が結合することで残留磁束密度が増加する。Coは0.1から95%含有していることが必要であり、FeやCo以外の金属元素や半金属元素を添加してもNd2Fe14Bの飽和磁化よりも大きい値であれば最大エネルギー積を増加可能である。FeCo系結晶の周囲に金属系あるいは酸化物または酸フッ化物系のフェリ磁性相が平均1から100nmの厚さで形成されることにより保磁力が1〜5kOe増加する。
【0021】
2)酸フッ化物はFeCo系結晶が焼結時の液相と反応することを抑制し、Nd2Fe14B系化合物との反応による高飽和磁化bcc相の消失を防止するとともに、Nd2Fe14B系化合物の結晶粒粗大化防止効果を兼ねている。焼結体のX線回折パターンには正方晶構造のNd2Fe14B系化合物以外にbcc(体心立方晶)構造が確認でき、制限視野電子線回折像にはフッ化物または酸フッ化物の回折パターンが粒界の一部に認められる。Nd2Fe14B系化合物の結晶は平均的にc軸方向がそろっており、c軸配向性が高いほど磁気特性は向上する。また高飽和磁化相の体心立方晶結晶はc軸配向を有する正方晶結晶の配向よりも配向性が低い。これは体心立方晶の結晶粒は、正方晶結晶の粒径よりも小さく、成形や焼結時に凝集し易く、かつ結晶磁気異方性が小さいため、その方位がそろいにくいためである。しかし、20kOe以上の磁場を焼結過程及び時効過程で印加することで、bcc結晶の<100>方向が正方晶結晶のc軸方向に磁界印加なしの場合よりも配向するようになる。
【0022】
3)FeCo系結晶とNd2Fe14B系化合物との界面では、両相間に拡散が認められCoはFeCo系結晶の粒界近傍からNd2Fe14B系化合物に拡散し、かつTbもNd2Fe14B系化合物に拡散する。FeCo系結晶とNd2Fe14B系化合物との界面近傍では、FeCo系結晶側にFeリッチ相が見られ、Nd2Fe14B系化合物側にはCoあるいはTb拡散相が認められる。(Nd,Tb)2(Fe,Co)14B及びFe80Co20が形成され、Co及びTbを含有するNd2Fe14B化合物はキュリー点が上昇し、c軸方向を容易磁化方向とする結晶磁気異方性エネルギーも増加する。Tb以外にDy,Ho,Pr,Smあるいは2種類以上の希土類元素を使用することで同様の効果が確認できる。
【0023】
4)立方晶あるいは面心立方晶構造の酸フッ化物が粒界三重点あるいは二結晶粒界に成長し、粒界面近傍の格子整合性を高めており、融点の高い酸フッ化物あるいは酸化物はFeCoとNd2Fe14B化合物との反応を抑制する。一部の粒界には非晶質相が形成される。
【0024】
5)溶液処理により形成されたTb含有フッ化物あるいは酸フッ化物は焼結熱処理でFeCo系結晶の反応を防止し、焼結中にTbはNd2Fe14B系化合物側にCoを伴って拡散する。Nd2Fe14B系化合物結晶の重希土類元素及びCoの偏在とFeCo系結晶の低Co濃度相の形成、酸フッ化物の形成と、重希土類元素及びCoが偏在したNd2Fe14B系化合物結晶と低Co相を含むFeCo系結晶の磁化が結合することにより、エネルギー積が増加する。上記低Co濃度相はFeCo系結晶の平均Co濃度よりも1〜50%低いCo濃度のbcc(体心立方晶)であり、平均Co濃度の結晶と格子整合性を保持している。尚不可避的に混入する炭素、窒素、酸素などが一部の結晶粒内あるいは粒界に偏在していても大きな問題はない。また、FeCo系結晶内にNd2Fe14B系化合物結晶を構成している元素あるいは添加されて粒界近傍に偏在している元素がbcc構造を保持している範囲で混入していても問題ない。
【0025】
FeCo系結晶の代わりにFe−希土類元素合金系、Fe−Co−希土類合金系、Fe−Co−Ni−希土類元素合金系やFe−M(Mは1種以上のFe以外の遷移元素や半金属元素)などの飽和磁束密度が主相と同等以上の合金系を使用できる。本実施例で使用しているTbF系膜に変わり、希土類フッ化物やアルカリ土類元素のフッ化物または希土類元素を含有する酸化物や窒化物、炭化物、ホウ化物、珪素化物、塩素化物、硫化物あるいはこれらの複合化合物が使用でき、焼結体の粒界にはこれらの化合物に主相の構成元素が少なくとも一種以上含有する化合物が高飽和磁束密度材料の結晶粒に接して形成させることで、残留磁束密度が増加できる。フッ化物は高飽和磁束密度相及び高保磁力相のいずれの相に対しても還元作用があり、磁化を増加させるため、最適な化合物である。Nd2Fe14B系化合物には複数の希土類元素を使用可能であり、保磁力を高めるためにCu,Al,Zr,Ti,Nb,Mn,V,Ga,Bi,Crなどの添加も可能である。
【0026】
本実施例の典型的な組織を図1,図2,図3に示す。組織は、原料となる粉末の粒径、混合条件、仮成形条件、焼結条件、時効条件などにより異なるが、共通しているのは、以下の特徴である。[1]FeCo系結晶内の中心部から外周部にかけてCoの濃度が減少し、[2]FeCo系結晶内の中心部と外周部とでCo濃度に2原子%以上の差があり、[3]NdFeB系結晶内の粒界近傍にCo及び重希土類元素が偏在している。
【0027】
Co濃度差は2−30原子%であることが好ましい。1原子%未満の濃度差では保磁力が10k未満になり減磁し易くなる。また50原子%以上の濃度差は焼結プロセスで実現困難である。
【0028】
図1において、Nd2Fe14B結晶1とFeCo系結晶(FeCo系結晶のFeリッチ相5及びFeCo系結晶のCoリッチ相6)が粒界4を介して存在している。Nd2Fe14B結晶1とFeCo系結晶とが、粒界4を介さずに直接接触している部分もある。ここで、Nd2Fe14B結晶1とFeCo系結晶とが、粒界4を介在して存在するか否かは磁気特性に大きな影響を及ぼすものではない。粒界4の一部には、重希土類含有酸化物2,酸フッ化物3が存在している。
【0029】
Nd2Fe14B結晶1の内部の粒界近傍にCoの偏在が認められる。これはFeCo系結晶からNd2Fe14B結晶1へCoが拡散することにより生じるものである。
【0030】
Nd2Fe14B結晶1の内部の粒界近傍に重希土類元素の偏在が認められる。これは重希土類元素を含む膜(例えばTbF系膜)を有するFeCo系結晶からNd2Fe14B結晶1へ重希土類元素(例えばTb)が拡散することにより生じるものである。
【0031】
図2ではFeCo系結晶の大きさがNdFeB系結晶の大きさよりも大きい場合である。また図3ではFeCo系結晶が扁平状であり、特定の方向に配向している。FeCo結晶におけるFeリッチ相の幅は平均で10〜500nmである。FeCo結晶のCo濃度が5〜50%の場合、Feリッチ相の平均幅が10nm未満になるとFeCoとNdFeB結晶間の磁気結合が不十分になることから減磁曲線の角型性が著しく低下する。また500nmを超えると保磁力の低下が顕著になる。
【0032】
なお、FeCo系結晶内の中心部から外周部にかけてCoの濃度が減少することは、FeCo系結晶内の中心部と外周部で複数のポイントを決めて測定することが好ましいが、少なくとも1点ずつのCoの濃度を測定することでも確認は可能である。
【実施例2】
【0033】
70%Fe28%Co2%B(重量%)合金を急冷法により平均粒径100μmで作成し、TbF系アルコール溶液と混合し、TbF系膜を形成する。TbF系膜の平均膜厚さは15nmである。このTbFコート70%Fe28%Co2%B合金粒を平均粒径1μmのNd2Fe14B系粉と溶媒中で大気に曝すことなく混合する。混合時に有機系分散剤を1%添加する。TbFコート70%Fe28%Co2%B合金粒はNd2Fe14B系粉に対し30体積%であり、分散剤の使用により70%Fe28%Co2%B及びNd2Fe14B系粉の凝集を防止し、磁場中圧縮成形を施すことが可能である。10kOeの磁場中で2t/cm2の荷重で圧縮した仮成形体には70%Fe28%Co2%B合金粉がほぼ均一に分散されている。
【0034】
この仮成形体を1000℃に加熱し、昇温時及び焼結後冷却時に10kOeの磁場を印加することにより、Nd2Fe14B結晶粒に隣接して70%Fe28%Co2%B合金粒が分散した焼結体が得られる。焼結体の密度を7.4g/cm3以上として残留磁束密度1.6T以上の特性を得るためには、焼結助材として希土類元素を10〜90wt%含有する金属合金粒を添加する。希土類元素が10%未満では低融点相が形成できず、焼結性が改善されない。また90%以上では酸素濃度が増加し、酸フッ素化合物が形成され易く高飽和磁束密度の結晶粒と母相が反応しやすくなり保磁力が減少する。
【0035】
このため、焼結助材は10〜90wt%の希土類元素(RE)を含有するRE−Fe合金やRE−Cu合金、RE−Al,RE−Ga,RE−Ge,RE−Zn,RE−Fe−Cu,RE−Fe−B,RE−Fe−Co,RE−Fe−Co−B合金系が望ましい。この希土類元素には複数の種類の希土類元素が含まれても良い。焼結助材はフッ化物と反応しにくく、かつ融点が500℃から1000℃の範囲である材料が望ましい。フッ化物と容易に反応するとFeCo系結晶が主相であるNd2Fe14B結晶と反応し主相内の構造や組成が大きく変化し磁気特性が劣化する。焼結助材としてこれらの合金を焼結磁石に対して0.01〜10wt%添加することにより、焼結性が向上し密度7.4g/cm3以上が容易に実現できる。この焼結体に磁場中熱処理を施し急冷する。得られた焼結体の磁気特性は残留磁束密度1.6T,保磁力25kOe,最大エネルギー積62MGOeであった。
【0036】
磁場20kOe印加時の磁場中熱処理における冷却速度とCo濃度差の関係を図4に示す。冷却速度はFeCo系結晶のキュリー温度以上で焼結温度以下の温度範囲の速度であり、その最大値で示してある。冷却速度が大きくなるほど拡散が抑制され、Co濃度差が大きくなる傾向を示す。図5に保磁力と冷却速度との関係を示す。冷却速度が10℃/秒以上においてCo濃度差は2原子%以上であり、10kOe以上の保磁力が実現できる。
【0037】
表1に代表的なFeCo結晶とNd2Fe14B結晶の焼結体に関するCo濃度と最大エネルギー積を示す。Feリッチ相の幅(図3に示すwに相当する)は25〜60nmであり、最大エネルギー積は68〜75MGOeが実現できる。
【0038】
【表1】

【0039】
このようなNd2Fe14Bの理論最大エネルギー積と同等の性能を実現するためには以下の項目を満足する必要がある。1)強磁性の主相はNd2Fe14B系化合物とFeCo系合金である。2)FeCo合金の粒界の一部はNdOF系酸フッ化物と接触している。FeCo系合金の粒界の一部はNd2Fe14B系化合物の結晶と接触している。3)FeCo合金の結晶粒界近傍でNd2Fe14B系化合物中のCo濃度の増加あるいはFeCo系合金中のCo濃度の減少が認められる。4)FeCo系合金内にTbを含有する結晶が認められる。4)粒界三重点の一部にfcc構造の希土類鉄化合物あるいはbccやbct構造のFeCo系結晶が成長しており、NdOFあるいはNd23-X系化合物、FeCo系結晶相が認められる。5)FeCo系結晶近傍のNd2Fe14B系化合物中のTb濃度が焼結体全体の平均Tb濃度よりも高い。6)FeCo系合金はCoを含有し、かつFeとCo以外の半金属元素や遷移元素を含有するbccまたはbct構造の結晶であり、飽和磁束密度がNdFeB系結晶の飽和磁束密度よりも大きいことが必要である。
【0040】
このような条件を満足することは、下記のような効果に対応している。
【0041】
1)FeCo系合金はNd2Fe14Bの飽和磁化よりも大きいため、磁気的に両相が結合することで残留磁束密度が増加する。Coは鉄に対して0.01から95%含有していることが必要であり、FeやCo以外のCr,Mo,Nb,Al,Zr,Zn,Ga,W,Ti,V,Sn,Cu,Ag,Au,Pt,希土類元素などの金属元素あるいは炭素、窒素、ケイ素などの非金属元素を一種または複数添加してもNd2Fe14Bの飽和磁化よりも大きい値であれば最大エネルギー積を増加可能である。
【0042】
2)酸フッ化物はFeCoB合金が焼結時の液相と反応することを抑制し、Nd2Fe14B系化合物との反応による高飽和磁化bcc相の消失を防止するとともに、Nd2Fe14B系化合物の結晶粒の粗大化を防止する効果を兼ねている。
【0043】
3)FeCoB合金とNd2Fe14B系化合物との界面では、両相間に拡散が認められCoはFeCoB合金の粒界近傍からNd2Fe14B系化合物に拡散し、かつTbもNd2Fe14B系化合物に拡散する。FeCoB合金とNd2Fe14B系化合物との界面近傍では、FeCoB合金側にFeリッチ相が見られ、Nd2Fe14B系化合物側にはCoあるいはTb拡散相が認められる。(Nd,Tb)2(Fe,Co)14B及びFe80Co182が形成され、Co及びTbを含有するNd2Fe14B化合物はキュリー点が5〜150℃上昇し、c軸方向を容易磁化方向とする結晶磁気異方性エネルギーの増加あるいは容易磁化方向が傾斜する。Tb以外にDy,Ho,Pr,Smを使用することで同様の効果が確認できる。Nd2Fe14B化合物の容易磁化方向であるc軸方向は焼結体内で一方向に配向しており、bcc相の配向度はNd2Fe14B化合物の配向度よりも小さい。これはbccの異方性(結晶方向による異方性エネルギー差)がNd2Fe14B化合物の異方性よりも小さく、液相焼結過程でその方向が変化し易いため結晶方向をNd2Fe14B化合物の方向と同様に揃えることは困難なためである。焼結あるいは時効過程において磁場を印加することでbcc相の配向度は向上でき、二粒子粒界相に成長するbcc相の配向度は改善され一部bccの<001>方向がNd2Fe14B化合物のc軸方向に平行となる関係が認められるが、粒界三重点近傍ではこのような方位関係が成立しにくい。bcc相がNd2Fe14B化合物に隣接あるいは粒界相を介して成長することで残留磁束密度が増加し、さらにbcc相とNd2Fe14B化合物の間に方位関係が認められることで残留磁束密度と減磁曲線の角型性が増加する。
【0044】
4)立方晶あるいは面心立方晶構造の酸フッ化物が粒界三重点あるいは二結晶粒界に成長し、粒界面近傍の格子整合性を高めており、融点の高い酸フッ化物あるいは酸化物はFeCoB合金とNd2Fe14B化合物との反応を抑制する。一部の粒界には非晶質相あるいは斜方晶,正方晶,菱面体晶,六方晶などが形成される。
【0045】
5)溶液処理により形成されたTb含有フッ化物あるいは酸フッ化物は焼結熱処理でFeCoB合金の反応を防止し、焼結中にTbはNd2Fe14B系化合物側にCoを伴って拡散する。Nd2Fe14B系化合物結晶の希土類元素及びCoの偏在とFeCoB合金系結晶の低Co濃度相の形成、酸フッ化物の形成と、希土類元素及びCoが偏在したNd2Fe14B系化合物結晶と低Co相を含むFeCoB系合金結晶の磁化が結合することにより、エネルギー積が増加する。上記低Co濃度相(Feリッチ相)はFeCoB合金の平均Co濃度よりも1〜20%低Co濃度のbcc(体心立方晶)を主とするFeCoB系合金相とホウ化物との混相であり、平均Co濃度(28%)の結晶と格子整合性を保持している。尚不可避的に混入する炭素、窒素、酸素などが一部の結晶粒内あるいは粒界に偏在するかこれらの化合物が析出していても大きな問題はない。また、FeCoB合金内にNd2Fe14B系化合物結晶を構成している元素あるいは不純物がbcc構造を保持している範囲でbcc相に混入していても問題ない。
【0046】
本実施例のようなFeCo系結晶とNd2Fe14B系化合物の粒界近傍におけるCo濃度の分布は、上記焼結過程以外にも熱間成形,衝撃波成形,プラズマ焼結,通電焼結,瞬間加熱成形,強磁場成形,圧延成形などの各種成形工程によっても実現できる。
【実施例3】
【0047】
Fe−10重量%Co合金を真空溶解後、窒素+5%水素雰囲気中で還元し、高周波溶解後急速冷却することで厚さ1〜20μm、平均粉末径100μmの箔体を得る。この箔体をDyF系粒子と鉱油との混合液に混合し、ビーズミルにより粉砕処理を施す。ビーズには0.1mm径のDyF粒子を使用した。FeCo系結晶粉の平均粉末径は5μmとし、10〜100nmの径のDyF系粒子をFeCo系結晶粉表面に付着させた。ビーズミル中に加熱して150℃で粉砕することで、DyF系粒子とFeCo系結晶粉との界面で相互拡散が生じ、FeCo系結晶粉表面に層状にDyF系粒子が形成される。DyF系粒子の表面被覆率は80〜99%である。さらにビーズミルの容器に(Nd,Pr)2(Fe,Co)14B粒子を混合し、DyF系膜でコートされたFeCo系結晶粉と(Nd,Pr)2(Fe,Co)14B粒子とをFeCo系結晶粉:(Nd,Pr)2(Fe,Co)14B粒子が1:1の比率で凝集させずに混合する。この混合スラリーを金型に挿入後磁場中成形することで(Nd,Pr)2(Fe,Co)14B粒子のc軸方向とFeCo系結晶粉の<001>をほぼ平行にする。この仮成形体を還元雰囲気炉に挿入し、電磁波を印加してフッ化物や酸フッ化物を発熱させることにより焼結する。焼結後に磁場中急冷熱処理及び磁場中時効熱処理することで高保磁力を実現させる。焼結体の磁気特性は、エネルギー積80MGOe,保磁力25kOe,キュリー点950Kであった。
【0048】
本実施例で作成した焼結磁石の磁気特性がNd2Fe14B焼結磁石の理論値(64MGOe)を超えることが可能となる要件は以下の通りである。1)Nd2Fe14B系化合物の飽和磁束密度(1.2〜1.6T)よりも高い残留磁束密度を示すFeCo系結晶がNd2Fe14B系化合物の結晶に隣接して成長していること。このFeCo系結晶はbcc構造を主とし、その飽和磁束密度は1.4〜2.5Tである。2)bcc構造を主とするFeCo系結晶あるいはfccやhcp構造のCo含有合金とNd2Fe14B系化合物が磁気的に結合しており、残留磁束密度が1.3〜2.4Tの範囲であること。3)bcc構造を主とするFeCo系結晶の結晶は焼結体内に分散あるいは凝集して形成され、bcc相の集合体の大きさは0.001〜200μmの範囲である。0.001μm未満ではNd2Fe14B系化合物の結晶と容易に磁気結合できない。また、200μmよりも大きいと減磁曲線の角型性が低下する。FeCo系結晶の凝集体には重希土類元素を含有する結晶が一部に成長する。本実施例のようにDyF系膜を形成した場合はDyリッチ相あるいはDyリッチ結晶粒がFeCo系結晶の凝集体内に認められる。これは焼結過程においてDyF膜の一部がFeCo系結晶の結晶粒内あるいは粒界に残留したものであり、FeCo系結晶内に不連続なDyリッチ結晶として各種分析により確認できる。したがって、DyF系膜や粒子を使用する場合と同様に希土類元素のフッ化物を使用することにより、FeCo系結晶の凝集体あるいはFeCo系結晶の結晶粒に囲まれた希土類リッチ結晶が認められる。この希土類リッチ結晶は焼結体において、FeCo系結晶の平均結晶粒径よりも小さくかつ高結晶磁気異方性を有する希土類鉄系化合物の結晶粒の平均結晶粒系よりも小さい。前記FeCo系結晶の結晶粒に囲まれた希土類リッチ結晶の大きさがFeCo系結晶の平均結晶粒径よりも大きくなると、高結晶磁気異方性結晶とFeCo系高飽和磁束密度結晶との間の交換結合が弱くなるとともに、希土類リッチ結晶の飽和磁束密度が小さいためにその結晶粒径が大きくなると残留磁束密度が低下する。4)FeCo系結晶内には、Nd2Fe14B系化合物と相互拡散した結果である合金元素の濃度の高い部分が粒界近傍に(粒界に沿うように)認められる。FeCo系結晶の場合、Co濃度がFeCo系結晶内と比較して、粒界近傍では平均組成に対する相対値で1〜50%減少する。Co濃度の低下が1%未満ではCoの拡散が進まずNd2Fe14B系化合物のキュリー点上昇効果は認められない。また50%を超えると結晶磁気異方性の方向に変化が認められ減磁し易くなる。したがってキュー点の5〜100℃上昇と保磁力(5kOe以上)増加は、Co濃度がFeCo系結晶の中心部と比較して、粒界近傍では平均組成に対する相対値で1〜50%減少することが不可欠である。このようなCo濃度の変化はTEM−EDXあるいはSIMSなどの分析により確認できる。
【0049】
FeCo系結晶内にはこのような合金元素の濃度の不均一性あるいは偏在が認められ、FeCo系結晶の構成元素でFe以外の元素の一部はNd2Fe14B系化合物の結晶に拡散する。Nd2Fe14B系化合物の結晶では、FeCo系結晶に含有するFe以外の元素の偏在ならびに重希土類元素の偏在が認められる。Co濃度上昇によりキュリー点が上昇し、Co及び重希土類元素濃度の増加によりキュリー点の上昇と結晶磁気異方性エネルギーの増加をもたらす。上記要件は、フッ化物の代わりに窒化物や炭化物、酸化物、ホウ化物あるいは塩素化物またはこれらの複合化合物を使用しても実現できるが、フッ化物の場合の磁気特性向上効果が最大である。
【実施例4】
【0050】
平均粒径50nmの99%Fe1%Co合金粒子をアトマイズ法により作成し、炭素膜を形成後大気に曝さずにMgF系アルコール溶液に沈殿させ、平均2nmの炭素含有MgF系薄膜をFeCo系結晶粒子表面に形成する。このMgFC系膜で被覆されたFeCo系結晶粒子を加熱し炭素をFeCo粒子に拡散させる。FeCo粒子表面の炭素拡散領域は高温でfcc(面心立方構造)が安定化し、粒子内部がbcc(体心立方構造)の混合相となる。
【0051】
fcc構造が安定となる900℃の温度から急冷することで、fcc相の一部がbct(体心正方構造)となりFeCo粒子にはfcc,bct及びbcc構造が形成され、これらの異なる結晶構造の間には結晶構造が異なるために導入される歪みが認められる。歪みは粒子の外周部近傍で大きく粒子内部では小さい傾向にあり、この粒子を磁場配向後圧縮成形し、無機材料で結着させるかあるいは900℃未満の低温度で成形あるいは焼結助剤を添加して焼結することで、歪みを残留させたままの成形体が得られる。粒子外周部の歪み量が平均で5%であれば、保磁力が10kOeとなる。この時最大エネルギー積は50MGOeになる。
【0052】
平均粒径が500nmを超えると歪が導入される体積率が減少し、保磁力は1kOe未満となる。また、平均粒径が10nm未満ではfccの体積率が増加して磁化が低下する。従って粒径の最適範囲は10〜100nmの範囲であり、成形過程によりFeCo粒子は高歪みを伴って接触している。FeCo粒子同士が隙間なく完全に接触した状態では保磁力が増加しにくいが、高歪みを伴って20から95%の範囲で接触しているか結晶粒が合体している場合の保磁力は10kOe以上となる。MgF系膜は炭素供給膜の役割と粒子の酸化防止、各相の結晶構造の安定化や歪み導入に必要な膜である。
【0053】
このように希土類元素を使用せずに最大エネルギー積50MGOeを実現するためには、1)Fe及びCo元素を含有する平均粒径10〜100nmの粒子が粒子外周部での歪み量5%以上を有し、これらの粒子の表面積の20〜95%が隣接する他の粒子と粒界面で接しており、粒子にはbcc構造などの立方晶系構造と異なる正方晶構造が認められ、格子歪みは粒子の外周部近傍で大きく、粒子内部で小さい傾向であること。歪みを導入するためにFe及びCo元素を含有する粒子に磁歪定数の絶対値が1×10-5以上の合金を形成して磁場印加により歪みを導入するか、−70〜700℃の温度範囲で格子変形を伴って変態する合金または化合物を形成し熱処理による格子変形を利用して歪みを付加することが可能であり、いずれの場合も粒子外周側から5〜20%の格子歪みまたは結晶構造を変える格子変形を導入することが可能であり、保磁力を歪みがない場合よりも5kOe以上増加させることが可能である。20%以上の格子歪みを導入することも可能であるが格子が不安定となり200℃以上の温度で使用可能な磁石とすることが困難である。高磁歪合金の例としてFe2TiO4などが有効であり、格子変形合金としてNiMnGa系合金が有効であり、粒界または粒内にCoを含有するホイスラー合金の形成による磁気変態あるいは規則不規則変態等の変態点を利用し、磁気的な結合による格子の変形を利用しても良い。2)微粒子やナノ粒子の酸化を抑制するためにフッ素化合物あるいは酸フッ素化合物または水素化物が使用され、成形体には酸フッ素化合物が確認できる。3)Fe及びCo元素を含有する平均粒径10〜100nmの粒子の粒界近傍にはフッ化物の構成元素の濃度が高い結晶粒が形成されている。フッ化物構成元素の濃度は周囲の平均濃度よりも1.1〜1000倍の濃度であり、焼結過程での拡散あるいは結晶粒の成長に伴う構成元素の濃縮化による。4)格子変形を伴った歪みは、結晶粒外周部の50%以上、すなわち結晶粒の結晶格子が整合関係にある最外周の結晶表面積の50%以上に歪みが導入されることが必要であり、20%未満では保磁力はほとんど変化せず、20〜50%の範囲では保磁力の増加は確認できるがその増加値は5kOe未満である。格子歪みが5〜20%の結晶が結晶粒内部と整合性あるいは部分整合性を保持しながら強磁性結晶粒の外周側に成長しており、その格子歪みを伴う結晶が結晶粒内部と類似組成の結晶粒外周側表面においてその表面積の50%以上であることが保磁力10kOe以上を実現でき、さらに格子歪みの方向を揃えて結晶粒の配列に異方性を付加することで保磁力及び残留磁束密度を増加でき、希土類元素を使用せずに50MGOeを実現できる。格子歪み部には炭素,窒素,酸素,フッ素,塩素,ホウ素などの原子が原子間位置に配置していても同等の磁気特性が確認できる。
【実施例5】
【0054】
70%Fe25%Co5%Tb合金を真空中で加熱蒸発させ、ナノ粒子を真空容器の内壁に付着させる。蒸発中にNHF4ガスを導入し、粉末の外周側にフッ素を含有するナノ粒子を作成し、真空容器から大気に曝すことなくNdFeB系粉末と混合し金型に挿入する。金型に挿入された二種類の磁粉は磁場が印加され圧縮成形により仮成形体を得る。仮成形体は加熱焼結することで密度7.3〜7.7g/cm3の成形体を得る。
【0055】
焼結時に磁場を印加することで磁場印加方向にFeCoTb合金の結晶粒が配向し、この方向に一致する方向が磁束密度を最大にできる。このような磁場中焼結が有効である理由は、FeCoTb合金のキュリー温度が焼結温度よりも高いためである。70%Fe25%Co5%Tb合金の粒子径が30nm、NdFeB系粉末の平均粉末径が1μmの時、900℃の温度で焼結でき、70%Fe25%Co5%Tb合金のキュリー点が930℃であるため、NdFeB系粉末のキュリー温度よりも高く焼結温度よりも低い温度範囲で磁場印加により70%Fe25%Co5%Tb合金の粉末の配向あるいはナノ粒子の配列、成長方向を磁場方向に揃えることが可能である。特に500℃から900℃の温度範囲において10kOeから200kOeの磁場を印加することにより、70%Fe25%Co5%Tb合金の粒子成長方向や粒子の整列方向、または粒粒の成長方位を磁場方向に沿って配向させることにより、焼結時の磁場方向で残留磁束密度が最大となる焼結磁石が得られる。
【0056】
保磁力はNdFeB系結晶粒の結晶磁気異方性エネルギーに依存する。Tbが添加されているためNHF4ガスとの反応により焼結前の粒子表面近傍にはTbを含有するフッ化物が成長し、フッ化物は焼結時にFeCoTb合金とNdFeB系結晶粒間の拡散を抑制する。焼結時にはTbやCoがNdFeB結晶粒に拡散し、NdFeB結晶粒の外周側においてTbあるいはCo濃度が高くなることにより結晶磁気異方性エネルギーが増加し、保磁力が増大する。
【0057】
FeCoTb合金の粒子とNdFeB系結晶粒の体積比が1:4の場合、残留磁束密度が1.5T、保磁力20kOeの磁気特性が確認でき、残留磁束密度は磁場印加なしの場合1.4Tに減少する。焼結時の磁場印加により磁気特性が向上するのは、フッ素含有相によりキュリー温度が焼結温度以上であるFeCo系粒子を拡散消失させることなくFeCoTb合金の粒子を保持できるためであり、磁場方向にほぼ平行にNdFeB系結晶よりも高い残留磁束密度を有するFeCo系結晶の結晶を揃えることが可能なことによる。
【0058】
焼結体においてフッ化物はFeCoTb合金と接触している界面の方がNdFeB系結晶粒との界面よりも多い。NdFeB系結晶粒の周囲に形成されたFeCoTb結晶は、フッ化物によってFeCoTb結晶間の磁気的な結合が弱まり、磁化反転の伝搬が抑制されるため保磁力が大きくなることから磁石の耐熱性が高められる。したがってFeCo系結晶の結晶に接するフッ化物がNdFeB系結晶に接するフッ化物の接触面積あるいはフッ化物の体積よりも多いことが高耐熱性の条件となる。フッ化物がNdFeB系結晶との界面にのみ形成された場合、FeCo結晶の磁化反転が隣接するFeCo結晶に伝搬し易くなり保磁力が減少する。FeCo系結晶の結晶方位とNdFeB系合金の結晶方位には局所的に方位関係が認められるが、方位関係が認められなくても残留磁束密度の上昇効果は確認できる。
【0059】
焼結体にはNdFeB系結晶,FeCo系結晶,酸フッ化物及びフッ化物が認められるが、酸フッ化物及びフッ化物の体積率は0.01〜1%であり、10%を超えるとエネルギー積が減少する。上記以外の構成相として、ホウ化物,炭化物,酸化物,希土類元素を40wt%以上含有する希土類リッチ相の成長も認められる。さらに粒界近傍にはCuやZrなどの金属元素の偏在が認められる。また粒界にCu−Nd合金,Al−Nd合金などの主相の構成元素を含有する合金相の形成により焼結性を向上させることが可能である。
【0060】
NdFeB系結晶及びFeCo系結晶以外の構成相において、フッ素含有相の体積率はフッ素未含有相の体積率よりも小さい。フッ素含有相の体積率がフッ素未含有相でNdFeB系結晶及びFeCo系結晶以外の体積率よりも大きい場合、焼結性が低下するために密度が減少し、最大エネルギー積も増加しにくく、保磁力が低下する。
【0061】
本実施例のようなフッ化物や酸フッ化物を伴ったFeCo系結晶の高磁束密度特性を利用することで、NdFeB系以外のSmCo系,SmFeCo系,MnAl系などのホイスラー合金系,フェライト系,アルニコ系などとの複合化が可能でありこのような合金系についても最大エネルギー積増大効果が確認できる。
【0062】
本実施例の焼結工程以外にも温間成形,熱間成形,加熱押し出し成形,衝撃波成形,冷間加工成形,引張成形,通電成形,ボールミル,ビーズミル,攪拌摩擦を利用した成形,電磁波加熱成形,射出成形,圧縮成形,静水圧成形,急冷圧延成形など各種成形加工工程を採用できる。
【実施例6】
【0063】
90%Fe10%Coの組成からなる平均粒子径2nmの粒子をアルコール溶媒に混合し、TbF系ゾルを混合させる。この混合スラリーに分散剤を混合し、低粘度スラリーを作成した。この低粘度スラリーをNdFeB系粉末から構成される仮成形体に含浸させ、溶媒を除去し、加熱焼結させる。平均粒子径が100nm以上ではスラリーを仮成形体の隙間に含浸させることは困難であるが、平均粒子径が10nm以下になると仮成形体の隙間に含浸させることが可能となり、NdFeB系合金粉末及び粉末のクラックの表面にTbF系膜を介してナノ粒子を付着させることができる。
【0064】
焼結時に10kOe以上の磁界を印加することによりこのFeCo系ナノ粒子を磁界方向に配向させることが可能である。磁場によるナノ粒子の配向を助長するために、液相が形成される前の低温側の温度で10kから20kOeの交流磁場を印加してナノ粒子が隙間で動けるようにすると共に、液相が形成した後に直流磁場を印加してナノ粒子が液相中で凝集せずに磁場方向に沿って配列するようにする。
【0065】
TbF系膜の形成は、FeCo系ナノ粒子が容易にNdFeB系合金粉末と焼結前に拡散反応することを抑制し、焼結後はTbがNdFeB系合金に拡散し、NdFeB系合金の粒界近傍に偏在する。またCo原子の一部がNdFeB系合金に拡散することにより、NdFeB系合金のキュリー温度を上昇させる。焼結後、時効処理中も磁場印加によりFeCo系ナノ粒子近傍の結晶粒界での原子再配列を助長することにより、FeCo系ナノ粒子やFeCo系ナノ粒子の集合体あるいはFeCo系粒子が合体成長したFeCo結晶とNdFeB系合金結晶との磁気的な結合を強めることが可能であり、保磁力が磁場印加なしの場合と比較して2〜5kOe増加する。
【0066】
本実施例の焼結磁石は90%Fe10%Co粒子の体積を10%になるまで繰り返し含浸させた場合、最大エネルギー積が60MGOe、保磁力30kOeの磁気特性が得られ、回転機やMRI,VCMなど種々の磁気回路に使用できる。本実施例と同等の性能を有する焼結磁石は、Fe及びCoを含有する希土類フッ化物溶液を含浸させる手法、希土類フッ化物ナノ粒子とFe及びCo含有溶液の含浸、焼結の代わりに含浸後の熱間成形を採用するとことによっても達成でき、焼結後の各種粒界拡散法や表面保護膜の形成も可能である。
【0067】
本実施例においてFeCo系結晶の結晶粒はNdFeB系合金の結晶粒間に平均的に分散している。一部のFeCo系結晶の結晶粒は凝集しているが、焼結体の表面から反対側の面に連続して繋がらないようにする。FeCo系結晶の結晶粒がNdFeB系合金の結晶粒に分散して形成されることにより、FeCo結晶粒とNdFeB系合金の結晶粒間の静磁結合や交換結合を確保し、NdFeB系合金の結晶粒間の磁壁の連続性を切断する。NdFeB系合金の結晶粒が全てFeCo系結晶の結晶粒で覆われると、NdFeB系合金結晶が磁石特性への寄与が小さくなるため、完全にFeCo系結晶粒で覆われたNdFeB系合金結晶は形成しないように、FeCo系結晶粒を分散させることが重要である。
【実施例7】
【0068】
66%Fe34%Coナノ粒子を溶液から形成し、粒径3nmのナノ粒子を作成後酸素導入によりナノ粒子表面に酸素を吸着させ、表面の一部がCoFe24の成長が認められるまで加熱する。ナノ粒子の中心部で立方晶が形成され、中心部と外周部の酸化物間には磁気的な結合が働く。
【0069】
CoFe24の表面被覆率が10%未満では保磁力が1kOe未満であるが10〜30%で保磁力が1〜10kOeとなり、30〜50%で10〜20kOeとなり、50%以上では約20kOeとなる。Bccあるいはbct構造のFeCo系結晶相がナノ粒子中心部に成長するが、このFeCo系結晶相の体積率が増加するほど残留磁束密度が増加する。CoFe24で表面被覆したFeCo系ナノ粒子を溶媒と混合し金型挿入後、磁場印加条件下で圧縮成形後、加熱焼結することで焼結磁石が作成できる。
【0070】
酸化後のナノ粒子にMgF系溶液を塗布し、MgFx(Xは正数)を形成することで過剰な酸素を除去しナノ粒子表面にCoFe24を1nm未満の厚さで構造を安定化させることができ、MnFmあるいはMn(OF)m(Mは金属元素、Fはフッ素、Oは酸素n,mは正数)を0.1から10nm形成することによりナノ粒子の耐熱性を100℃から300℃に向上でき、保磁力20kOe、成形後の残留磁束密度0.7〜1.7Tを実現できる。粒径は磁気特性を確保するための重要な因子の一つであり、100nmを超えると保磁力を10kOe以上とすることは困難となるため、100nm未満とする必要がある。粒子の径は一定にすることが困難であり、粒径分布をもつため平均粒径を50nm以下とし100nm以上の粒子が混入しないようにすることが重要である。また平均粒径が2nm未満では粒子内部のFeCo系結晶の体積が粒子最表面あるいは外周部酸フッ化物よりも少なくなり、熱的にも不安定となるため2〜50nmとすることが望ましい。
【0071】
本実施例の磁石は、粒径2〜50nmの粒子のFeCo系結晶を使用した磁石であり、FeCo系結晶,Fe含有酸化物及び酸フッ化物並びに不可避化合物から構成された磁石であり、結晶粒または磁性粉末の中心部がFeCo系結晶、その外周部がFe含有酸化物、さらにその外側に酸フッ化物が成長し、FeCo系結晶の体積率が最も多く、次いでFe含有酸化物、酸フッ化物の順であり、Fe含有酸化物の表面あるいは粒界被覆率が30%以上であり、FeCo系結晶及びFe含有酸化物にはCoが添加されている。Co添加によりFe3C等の非磁性化合物やfcc−Feの成長を抑制でき、飽和磁束密度が10%の添加で0.2〜0.4T増加する。CoはFe含有酸化物あるいはFeCo系結晶の結晶粒において一部偏在化しており、Fe含有酸化物でその濃度が最大となるような熱処理を実施することで保磁力はさらに1〜5kOe増加する。
【0072】
上記FeCo系結晶には非磁性相を形成しない範囲で各種金属元素や半金属元素を添加しても良い。また、FeCo系結晶やFe含有酸化物と接触させて磁歪材料や300℃から900℃で結晶構造が変化(相転移)する材料を形成することで界面近傍に0.1%以上の格子歪みを導入することでさらに保磁力が5kOe程度増加する。尚、本実施例において、酸フッ化物を形成しない場合の磁性粉は保磁力が500Oe以下で飽和磁化が200emu/gよりも高い特性を示すことから、電磁波吸収材料として使用できる。
【実施例8】
【0073】
50%Fe50%Co合金及びNdF3を蒸発させ50%Fe50%CoとNdF3の混合相から構成された平均粒径10nmの粒子を形成し、電磁波を照射後急冷することによりNdF3が発熱し粒界近傍は500〜1000℃に達し100℃/秒で急冷されるため界面には格子歪み及び準安定相が成長する。上記界面とは界面及び界面から2nm以内の距離で界面に沿った部分を指す。準安定相とはbct構造のFeCoや格子歪みを1〜25%もつFeCo系結晶,Nd−F系化合物,Nd−O−F系化合物,Nd−Fe−Co−F系化合物,Nd−Fe−Co−O−F系化合物である。このような格子歪みを有する合金または化合物は、結晶の対称性が安定相と異なり、結晶磁気異方性が増加する。これらの磁粉を500℃未満の温度で磁場中成形することで格子歪みは残留し、最大エネルギー積が20〜60MGOeの磁石成形体が得られる。
【0074】
このような特性の磁石を得るための条件は以下の通りである。
【0075】
1)平均粒径が5〜100nmのFeCo系粒子を使用すること。平均粒径が5nm未満ではフッ化物と拡散反応するFeやCo原子の割合が増加し、最大エネルギー積が20MGOe未満となる。また、100nmを超えるとフッ化物との界面近傍に導入される格子歪みを有するFe、Co原子の割合が減少し、保磁力が減少するため最大エネルギー積が20MGOe未満に低下する。
【0076】
2)フッ化物との界面近傍に導入されるFeCo系結晶の格子歪みが1〜25%であること。上記界面近傍とは界面及び界面から3nm以内の距離で界面に沿った部分を指す。格子歪みが1%未満では結晶磁気異方性増加による保磁力増加効果は5kOe未満であり熱減磁により容易に磁化反転する。1〜25%で保磁力が10kOe以上増加し、20〜200℃で使用可能な磁石が得られる。25%を超える格子歪みは結晶の構造安定性が低下し、成形時に保磁力が低下することと信頼性が低下することから使用できない。格子歪みが導入されたFeCo系結晶はa軸が縮みc軸が伸びるか、a軸が変化せずc軸が伸びるか、a軸が伸びc軸がa軸よりも伸びるかのいずれかである。歪み場の中に種々の侵入元素が配置するか、FeやCo原子位置に他の金属元素が置換してもその濃度が20%以下であれば大きく磁気特性は劣化しない。このような格子歪みを有する結晶は、bct(体心正方晶)構造あるいはfct(面心正方晶)構造,菱面体晶,六方晶の少なくとも一種または複数の結晶構造のいずれかである。
【0077】
3)FeCo系結晶とフッ素含有化合物の界面の一部は整合界面を有し、FeCo系結晶とフッ素含有化合物間に結晶方位関係を有しており、FeCo系結晶の結晶粒中心には規則相が成長し、急冷効果で格子歪みが導入されたFeCo系結晶とフッ素含有化合物との界面近傍は不規則相が成長する。FeCo系結晶の規則相と不規則相は整合性を有している。
【0078】
4)正方晶構造のFeCo系結晶には複数の種類の元素が侵入している格子があり、FeとCo、及び複数の侵入型元素が規則的に配列した規則構造が確認できる。このような規則構造により結晶磁気異方性定数が増加し、保磁力が10kOe以上となる。
【0079】
5)一部のFeCo系結晶はFeやCoとは異なる金属元素(Mo,Ti,Nb,V,Zr,Mn,Niなど)でFeやCo原子位置が置換された合金となっており、一部の金属元素は短範囲規則構造を有している。
【実施例9】
【0080】
Alの多孔質金属には連続孔が形成されており、溶融したAlにガスをバブリングする手法などにより作成できる。この連続孔に、FeCo系結晶のナノ粒子表面にフッ化物をコートし、アルコール系溶媒に沈殿させたスラリーを注入する。注入を繰り返すことにより、連続孔はFeCo系結晶ナノ粒子でふさがり、磁場中で加熱成形することにより成形体が得られる。連続孔の密度や大きさをバブリング条件により制御し、FeCoナノ粒子体積が成形体に占める体積率を60%にすることにより、20〜50MGOeの異方性磁石が得られる。Alの多孔質体を作成する時に、Al中にフッ化物コートFeCoナノ粒子を混合して磁場中でバブリングを実施し、さらにフッ化物コートFeCoナノ粒子を含浸後加熱成形することによりFeCoナノ粒子の成形体に占める体積率を50〜80%にすることが可能であり、最大エネルギー積40〜60MGOeの磁石が得られる。Alの代わりにNd2Fe14B合金系,AlNiCo系,FeCrCo系,MnAl系,SmCo系またはフェリ磁性合金系や反強磁性合金系を使用でき、FeCo系結晶の代わりにFeCoM(MはFeやCo以外の金属あるいは半金属元素)が使用できる。
【実施例10】
【0081】
70%Fe30%Co合金の粒子を高周波プラズマ法により平均粒径30nmとなるように形成し、大気に曝すことなく、MgF系溶液中に挿入する。70%Fe30%Co合金の粒子表面に平均1nmのMgF系膜を形成後磁場中で温間成形する。成形体の密度は約80%であり、成形体表面から別の面に貫通する連続孔が存在するような密度でかつ磁場による異方性が付加された成形体を作成する。温間成形条件は、温度200℃,磁場10kOe,荷重10t/cm2である。この成形体の連続孔にSiO系溶液を含浸させ乾燥後、300〜600℃に加熱することでMgF系膜とSiO系膜の間に酸フッ化物が成長する。500〜700℃の温度範囲から急冷することで準安定相が室温まで保持され、酸フッ化物近傍に格子歪みが生じ、70%Fe30%Co合金の粒子表面にも0.1〜20%の格子歪が導入される。格子歪の導入量は、粒子径や粒子の組成、酸化物やフッ化物ならびに酸フッ化物の厚さと組成、結晶構造、界面近傍の方位関係や格子整合性などに依存する。導入された格子歪により70%Fe30%Co合金の粒子の保磁力が増加し、最大で25kOeに達する。この時の残留磁束密度は1.5Tである。このような磁気特性を満足させるためには、1)強磁性粒子がFeCo系結晶であること、2)粒子径が平均で100nm以下10nm以上であること、3)粒子表面にフッ化物,酸化物あるいは酸フッ化物が形成されていること、4)粒子表面の結晶格子が歪んでいることが必要である。これらの条件についてさらに説明する。FeCo系結晶は飽和磁束密度が1.7T以上であり最大で2.4Tとなることから純FeにCoを添加した組成を使用することで飽和磁束密度及び残留磁束密度を高くすることができ、特にCo1〜50%のFeCo系結晶では残留磁束密度を1.4〜1.8Tにすることが可能である。2)粒子径が100nmを超えると格子歪みの影響を受ける原子数が減少することと、格子歪みが少ない格子による磁化反転部が形成され易くなることから保磁力が25kOe以上とならない。また粒子径が10nm未満では粒子表面に形成した酸化物やフッ化物などの体積比率が増加し残留磁束密度が減少する。3)FeCo系結晶の酸化防止および格子歪導入が可能な表面層はフッ化物や酸化物,酸フッ化物であり、これらの化合物は溶液処理により容易に形成され、凝集防止のための有機系分散剤を添加してその被覆率を70%以上にすることが可能であり、これらの化合物の一部はFeCo系結晶粒子と拡散して鉄やコバルトを界面近傍で含有する。また一部の表面層はFeCo系結晶粒子と整合関係をもった結晶方位関係を保持してFeCo系結晶に格子歪を導入させる。FeCo系結晶に種々の添加元素を使用した場合も同様に界面近傍に添加元素を含有する拡散層及び格子整合層が形成され、格子歪を導入できる。4)粒子表面近傍には格子歪みが導入され、平均で0.1〜20%の歪み量となることが、電子線回折やX線回折などの回折実験で検証できる。0.1%未満では保磁力が1kOe未満であり硬質磁性材料とはならない。0.1%で1kOeを超える保磁力となり、さらに格子歪を大きくすることで保磁力を増加させることが可能である。大きな格子歪を導入するためには、FeCo系結晶に侵入型元素である炭素や窒素あるいはフッ素原子を添加すること、FeCo系結晶にCrやBa,Nb,V,Zr,Ga,Bi,Mn,Ni,Ti,Mo,Ta,W,Al,Cuなどの元素を添加して組成変調を粒子内で形成すること、FeCo系結晶の内部あるいは表面近傍に結晶構造が変態する相を形成し熱処理時の相変態による歪導入によるFeCo系結晶への歪導入、最表面に形成する酸化物やフッ化物または酸フッ化物と拡散し易い元素をFeCo系結晶に添加し、加熱による拡散層の形成または添加元素の濃度分布による格子定数の分布に伴う格子歪の導入、などが利用できる。
【実施例11】
【0082】
Fe−10%Co合金をプラズマ法により蒸発させ、長軸と単軸の比が1.5以上100以下、単軸の平均径が20nmの粒子を磁場中で作成後、大気解放せずにTbF2.5組成のフッ化物がアルコールに溶解した溶液を塗布し乾燥加熱させる。この粒子を磁場印加可能な金型に挿入し長軸方向をそろえた後に100℃から850℃の範囲で1−20t/cm2の荷重で加圧することにより成形体を作成する。成形体に占めるFe−10%Co合金の体積率は80〜99%であり、残留磁束密度が1.8T,保磁力1〜20kOeの硬質磁性材料が作成できる。さらに保磁力を大きくするために、上記成形体を再加工してFeCo系結晶への格子歪み量を増加させるかあるいは種々の金属元素の添加による結晶格子の歪み増大ならびに第三相としてNd2Fe14BやSmCo5などの希土類元素を含有する化合物と混合後熱間成形することにより保磁力を10〜30kOeとすることが可能である。
【0083】
本実施例のような残留磁束密度1.5T以上の磁気特性を得るためには、1)FeCo系粒子の粒子が球形ではなく形状異方性を有しており、フッ化物または酸フッ化物で総表面積の50%以上は被覆されていること。50%以上が被覆されていない場合にはFeCo系粒子の酸化に伴い磁化が減少し、磁石特性が劣化する。また単軸方向の平均粒径が1nm未満では保磁力が確保できず、500nmを超えると磁化反転し易くなることから1〜200nmが望ましい。2)フッ化物または酸フッ化物の成形体に占める体積が0.01〜2体積%であること。フッ化物が0.01%未満では被覆率50%は確保できない。また体積率10%以上では非磁性フッ化物による成形体の磁化減少が顕著になる。このため最適な体積は0.01〜2体積%である。3)FeCo系粒子の最表面には格子歪みあるいは原子位置の変動が認められること。最表面の結晶格子には0.1〜20%の格子歪みが認められる。酸フッ化物とFeCo系粒子の結晶構造は立方晶系であり、立方晶系の結晶格子間に格子歪みが導入されている。この格子歪みの導入には加熱成形後に10℃/秒の冷却速度で400℃以上の温度範囲を急速冷却することが有効である。
【0084】
フッ化物被覆FeCo系粒子と混合して磁石特性を向上させるためには、Nd2Fe14B系合金粉あるいはSmCo5,Sm2Co17系などの希土類元素を含有する化合物や各種フェライト粉,各種反強磁性粉,各種フェリ磁性粉が適用でき、500℃以上で磁場中配向あるいは磁場中熱処理することによりFeCo系粒子の形状異方性を増大させ、かつ添加粉との磁気的な結合を増大させることができ、保磁力ならびに残留磁束密度、減磁曲線の角型性が向上する。さらに、Nd2Fe14B粒子とSmCo5あるいはSm2Co17系粒子とを混合、磁場配向後焼結することでNd2Fe14B粒子の表面近傍にSm及びCoが偏在し、Nd2Fe14B粒子の容易磁化方向が表面近傍で1〜90度傾斜することで磁化反転が抑制され、保磁力が1〜10kOe増加する。このように母相のNd2Fe14B結晶の界面近傍の容易磁化方向を1度以上、望ましくは10度以上偏在していない母相の容易磁化方向から傾斜させることが保磁力増加に有効である。容易磁化方向が母相粒子の中心部から粒界にかけて連続的に傾斜させるには、偏在元素の濃度分布や原子空孔濃度の制御が重要であり、SmやCoが粒界面から200nm以内で濃度勾配が認められるようなプロセス制御が必要である。粒界面から0.1nmから200nm以内の範囲の粒界面側で急俊な濃度勾配の方が保磁力増加とエネルギー積確保の点で望ましく、粒界面から200nmを超えた粒内にSmやCo偏在は磁気特性を劣化させる。
【符号の説明】
【0085】
1 Nd2Fe14B結晶
2 重希土類元素含有酸化物
3 酸フッ化物
4 粒界
5 FeCo系結晶のFeリッチ相
6 FeCo系結晶のCoリッチ相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NdFeB系結晶とFeCo系結晶が粒界を介して存在する焼結磁石において、
前記FeCo系結晶内の中心部から外周部にかけてCoの濃度が減少し、
前記FeCo系結晶内の中心部と外周部とでCo濃度に2原子%以上の差があり、
前記NdFeB系結晶内の粒界近傍にCo及び重希土類元素が偏在することを特徴とする焼結磁石。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結磁石において、
前記FeCo系結晶内の外周部とは、前記FeCo系結晶の表面から中心部の方向に1nmまでの範囲の領域であることを特徴とする焼結磁石。
【請求項3】
請求項1に記載の焼結磁石において、
前記FeCo系結晶の結晶構造の一部がbccまたはbct構造であることを特徴とする焼結磁石。
【請求項4】
請求項1に記載の焼結磁石において、
前記FeCo系結晶の飽和磁束密度はNdFeB系結晶の飽和磁束密度よりも高いことを特徴とする焼結磁石。
【請求項5】
請求項1に記載の焼結磁石において、
前記粒界の幅は0.1〜2nmであることを特徴とする焼結磁石。
【請求項6】
請求項1に記載の焼結磁石において、
前記粒界の一部に酸フッ化物が形成されていることを特徴とする焼結磁石。
【請求項7】
請求項1に記載の焼結磁石において、
前記粒界に重希土類元素が偏在することを特徴とする磁石。
【請求項8】
請求項1に記載の焼結磁石において、
前記NdFeB系結晶の配向度が前記FeCo系結晶の配向度よりも高いことを特徴とする焼結磁石。
【請求項9】
請求項1に記載の焼結磁石おいて、
焼結時の熱処理過程において磁場中で急冷速度10℃/秒以上で急冷することで製造されたことを特徴とする焼結磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−69738(P2013−69738A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205491(P2011−205491)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】