説明

焼結部品の熱処理方法、及び、焼結部品の熱処理装置

【課題】焼結における寸法収縮を低減させ、焼結後のサイジングによる寸法矯正力を減少させるにあたり、特別な治具を必要としないため焼結部品の熱処理方法及び熱処理装置のエネルギー効率に優れてかつ汎用性が高い、焼結部品の熱処理方法、及び、焼結部品の熱処理装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱処理方法は、ワークWを脱脂温度域に加熱して、ワークWに含まれる潤滑剤を燃焼させる脱脂工程と、その後ワークWを予熱温度域に加熱して、前記脱脂部で潤滑剤が燃焼されたワークWのA1変態域となる温度に予熱を行う予熱工程と、その後ワークWを焼結温度域に加熱して、前記予熱部で予熱されたワークWを焼結させる焼結工程と、その後ワークWを冷却する冷却工程とを備え、予熱工程における、A1変態点以前の前記ワークWの上昇温度と、A1変態点以後の前記ワークWの上昇温度とを、それぞれ70度以上90度以下の範囲に設定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結部品の熱処理方法、及び、焼結部品の熱処理装置に関し、より詳しくは、焼結処理において、ワークの寸法収縮を低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing)に用いられるハウジング(以下、「VVTハウジング」とする)のような凹凸のある薄肉の部品を製造する際に、例えば鉄粉(Fe)、銅粉(Cu)、および黒鉛粉(C)などからなる固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、固体粉末の粒子を互いに付着させて固める、焼結による処理が行われている。
【0003】
前記焼結によって部品を製造するときは、固体粉末を加圧して圧縮した後、焼結(焼き固め)して強度を向上させるのである。この焼結に際してはワークに寸法収縮(歪み)が生じることが課題として指摘されている。詳細には、焼結処理の一つの工程である予熱工程において、ワークの温度上昇が急激になることで変態応力が発生し、A1変態における歪みが大きくなることが寸法収縮の原因の一つとなっている。そして、上記のような寸法収縮が発生した場合は、焼結後に所謂サイジングによる寸法矯正が必要となる。
【0004】
しかし、前記サイジングは適用されるワークの形状が限られる上、前記焼結におけるワークの寸法収縮量が大きいほど強い矯正力が必要となり、コストの増加に繋がる。このため、焼結に際しての寸法収縮を低減させるための技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0005】
前記特許文献1については、ワークの孔部又は凹部の内径寸法に合わせたセラミックス治具を装入し、焼結時の収縮を強制的に抑制する技術が開示されている。
また、前記特許文献2については、ワークと支持板との摩擦による変形を防止するため、ワークに付随する湯道と湯口を活用し、支持板からワークを浮かせた状態で焼結を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−320711号公報
【特許文献2】特開平5−162108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記特許文献1に記載の技術によれば、セラミックス治具の寸法がワークの孔部又は凹部の内径寸法の−0.5%から−0.8%と規定されているため、ワークの寸法が少しでも変わると新たにセラミックス治具を設計する必要が生じる。即ち、ワークごとに合わせたセラミックス治具の設計が必要となり、多品種少量の生産現場においてはセラミックス治具の管理が煩雑になるため、管理スペース及び維持費によるコスト増に繋がるという問題があった。
【0008】
また、前記ワークは固体粉末の集合体であるため非常に脆く、前記セラミックス治具はワークより硬いため、セラミックス治具をワークに直接装入する際にワークの割れや欠けといった不良が発生する虞があった。
さらに、セラミックス治具もワークと同時に加熱処理されるため、加熱のためのエネルギーがワークとは別途必要となり、コスト増に繋がっていた。
【0009】
一方、前記特許文献2に記載の技術においても、前記ワークは固体粉末の集合体であり、剛性がないため、ワークを浮かせることによってワークの外周部に新たな反りが発生し、別の変形要因となっていた。
また、前記特許文献1に記載の技術と同様に、ワークを載置する治具も加熱処理されるため、加熱のためのエネルギーがワークとは別途必要となり、コスト増に繋がっていた。
【0010】
そこで本発明では、上記現状に鑑み、焼結における寸法収縮を低減させ、焼結後のサイジングによる寸法矯正における矯正力を減少させるにあたり、特別な治具を必要としないためエネルギー効率に優れてかつ汎用性が高い、焼結部品の熱処理方法、及び、焼結部品の熱処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0012】
即ち、請求項1においては、ワークを該ワークのA1変態域よりも低い温度にまで加熱して、前記ワークに含まれる潤滑剤を燃焼させる、脱脂工程と、前記脱脂工程の後に、前記ワークを該ワークのA1変態域の温度にまで加熱して、前記ワークの予熱を行う、予熱工程と、前記予熱工程の後に、前記ワークをさらに高い温度にまで加熱して焼結させる、焼結工程と、前記焼結工程の後に、前記ワークを冷却する、冷却工程と、を備える、焼結部品の熱処理方法であって、前記予熱工程における、A1変態点以前の前記ワークの上昇温度と、A1変態点以後の前記ワークの上昇温度とを、それぞれ70度以上90度以下の範囲に設定するものである。
【0013】
請求項2においては、前記予熱工程における、A1変態点近傍の前記ワークの昇温速度を、毎分5度以上7度以下とするものである。
【0014】
請求項3においては、前記予熱工程は、ワークの温度がA1変態点を越えた後に、所定の時間内における前記ワークの上昇温度が10度以下となるワーク保持工程を備え、前記所定の時間を2分間から4分間の時間に設定するものである。
【0015】
請求項4においては、脱脂部と、予熱部と、焼結部と、冷却部とを備えた熱処理装置で行う、焼結部品の熱処理方法であって、前記脱脂工程は、前記脱脂部で行い、前記予熱工程は、前記予熱部で行い、前記焼結工程は、前記焼結部で行い、前記予熱工程は、前記予熱部で行い、前記脱脂部と、予熱部と、焼結部と、冷却部との間における前記ワークの搬送をローラ駆動にて行うものである。
【0016】
請求項5においては、ワークを該ワークのA1変態域よりも低い温度にまで加熱して、前記ワークに含まれる潤滑剤を燃焼させる、脱脂部と、前記脱脂部で潤滑剤が燃焼されたワークを該ワークのA1変態域の温度にまで加熱して、前記ワークの予熱を行う、予熱部と、前記予熱部で予熱されたワークをさらに高い温度にまで加熱して焼結させる、焼結部と、前記焼結部で焼結されたワークを冷却する、冷却部と、を備える、焼結部品の熱処理装置であって、前記予熱部における、A1変態点以前の前記ワークの上昇温度と、A1変態点以後の前記ワークの上昇温度とが、それぞれ70度以上90度以下の範囲に設定されるものである。
【0017】
請求項6においては、前記予熱部におけるA1変態点近傍の前記ワークの昇温速度は、毎分5度以上7度以下とされるものである。
【0018】
請求項7においては、前記予熱部においては、ワークの温度がA1変態点を越えた後に、前記ワークが2分間から4分間の間保持され、その間におけるワークの上昇温度が10度以下とされるものである。
【0019】
請求項8においては、前記ワークは、前記脱脂部と、予熱部と、焼結部と、冷却部との間をローラ駆動にて搬送されるものである。
【0020】
請求項9においては、前記予熱部には、前記ワークが配置される部分のうち、前記ローラ駆動を行うローラの下方で前記ワークの進行方向の反対方向側に、下側ヒータを備えるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0022】
本発明により、焼結における寸法収縮を低減させ、焼結後のサイジングによる寸法矯正における矯正力を減少させるにあたり、特別な治具が不要となるため、焼結部品の熱処理方法及び熱処理装置のエネルギー効率を高めることができ、さらに汎用性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る熱処理装置の概要を示した図。
【図2】本発明に係る熱処理方法の対象となるワークを示した図。
【図3】本発明に係る熱処理方法におけるワークの温度分布曲線を示した図。
【図4】図3における予熱工程の部分を拡大した図。
【図5】第二実施形態に係る熱処理装置の予熱部を示した拡大図。
【図6】第二実施形態に係る、治具上の前後によるワークの温度の違いを示した図。
【図7】本発明における条件と従来における条件とにおける、外径楕円量の違いを示した図。
【図8】第三実施形態に係る熱処理装置の概要を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0025】
[焼結部品の熱処理装置10]
まず始めに、本発明に係る焼結部品の熱処理装置10の概要について、図1を用いて説明をする。
図1に示す如く、熱処理装置10は、ワークWを脱脂温度域の設定温度に加熱して、ワークWに含まれる潤滑剤を燃焼させる、脱脂部20と、その後ワークWを予熱温度域の設定温度に加熱して、前記脱脂部で潤滑剤が燃焼されたワークWのA1変態域の予熱を行う、予熱部30と、その後ワークWを焼結温度域の設定温度に加熱して、前記予熱部で予熱されたワークWを焼結させる、焼結部40と、その後ワークWを冷却する、冷却部50と、を順に直列に配置したものである。
【0026】
前記熱処理装置10の内部には、入口10aから出口10bに至るまでローラ11・11・・・が配設されている。つまり前記ワークWは、熱処理装置10を構成する、脱脂部20、予熱部30、焼結部40、及び、冷却部50の各部の間を前記ローラ11・11・・・によるローラ駆動にて搬送されるのである。換言すれば熱処理装置10はローラハース式であり、ワークWは治具であるボードBの上に複数個載置された状態で入口10aから搬入され、ローラ11・11・・・の上を前記各部の間を図1中矢印Aの方向に搬送される。そして、前記各部において脱脂工程、予熱工程、焼結工程、及び、冷却工程による処理が順になされ、その後出口10bより搬出されるのである。なお、前記ローラ11・11・・・には、黒鉛などの炭素系材料で構成された耐熱ローラが用いられている。
【0027】
また、熱処理装置10を構成する各部の間は、中間扉12・12・12が設けられている。つまり、それぞれの工程において中間扉12・12・12を閉じ、各部を密閉することで各部からの温度、雰囲気ガスが抜けるのを極力抑えるのであり、各部内の温度、雰囲気ガスの組成を維持するのである。なお、前記各部においては、熱処理装置10の内部を通過するワークWの温度を検知する、図示しない温度検知手段が配設されており、随時ワークWの温度を検知するものとする。
【0028】
前記脱脂部20は、前記入口10aに隣接して配設されており、内部上方に複数の加熱バーナ13・13・・・がほぼ水平方向に配設されている。各加熱バーナ13・13・・・にはブタンとプロパンとを主成分とする燃焼ガスが供給され、これにより各加熱バーナ13・13・・・の先端から、火炎がほぼ水平方向に吹き出されるのである。また、脱脂部20の室内には窒素と水蒸気とを主成分とする酸化性ガスが供給されている。
このように構成された脱脂部20において、前記加熱バーナ13・13・・・の先端から吹き出される火炎により、ワークWに含まれる潤滑剤が燃焼されるのである。
【0029】
前記予熱部30は、前記脱脂部20に隣接して配設されており、内部上方に複数の予熱ヒータ14・14・・・がほぼ水平方向に配設されている。この予熱ヒータ14・14・・・がワークWを加熱することにより、ワークWのA1変態域が予熱されるのである。
なお、脱脂部20と予熱部30との境界域には中間扉12が設けられており、該中間扉12で各部を密閉することで、各部の温度が低下したり、雰囲気ガスが混入したりすることを極力回避するように構成されている。
【0030】
前記焼結部40は、前記予熱部30に隣接して配設されており、内部上方に複数の焼結ヒータ15・15・・・がほぼ水平方向に配設されている。この焼結ヒータ15・15・・・がワークWを加熱することにより、ワークWが焼結されるのである。
また、予熱部30と焼結部40との境界域にも中間扉12が設けられており、該中間扉12で各部を密閉することで、各部の温度が低下したり、雰囲気ガスが混入したりすることを極力回避するように構成されている。
【0031】
前記冷却部50は、前記焼結部40に隣接して配設されており、その終端は出口10bとして開口されている。また前記冷却部50は、前半部分である徐冷部50aと、後半部分である強制冷却部50bとで構成されている。このような構成においてワークWは冷却部50の内部を、徐冷部50a・強制冷却部50bの順に通過することにより、冷却されるのである。
また、焼結部40と冷却部50との境界域にも中間扉12が設けられており、該中間扉12で各部を密閉することで、各部の温度が低下したり、雰囲気ガスが混入したりすることを極力回避するように構成されている。なお、予熱部30、焼結部40、徐冷部50aの各部には、水素と窒素とを主成分とする不活性ガスが供給されている。
【0032】
[ワークW]
次に、本発明に係る熱処理方法の対象となるワークWについて、図2を用いて説明をする。
本明細書においては、図2に示す如く、ワークWにはVVTハウジングが用いられる。該ワークWであるVVTハウジングは有底の短円筒状部材であり、薄肉部Waと厚肉部Wbとを備える。また、図2に示す如く前記ワークWの外径寸法を外径Dとした場合において、該外径Dの最大値と最小値との差を外径楕円量としている。そして、焼結後のワークWの寸法収縮量を判断する際は、この外径楕円量の大小を基準にして行うのである。
また、ワークWは、例えば鉄粉(Fe)、銅粉(Cu)、および黒鉛粉(C)などからなる固体粉末の集合体を加圧圧縮して形成した圧粉体であり、この圧粉体に対して熱処理が行われる。
なお、本明細書においてはワークWとしてVVTハウジングを用いて説明するが、本発明は凹凸のある薄肉の部品をワークとして焼結する場合について全般的に適用することが可能であり、その対象は本明細書の記載内容に限定されるものではない。
【0033】
[焼結部品の熱処理方法]
次に、本発明に係る焼結部品の熱処理方法について、図3及び図4を用いて説明をする。
図3に示す如く、本発明に係る熱処理方法は、ワークWをワークWのA1変態域よりも低い温度領域となる脱脂温度域の設定温度に加熱して、ワークWに含まれる潤滑剤を燃焼させる、脱脂工程と、その後ワークWをワークWのA1変態域の温度領域となる予熱温度域の設定温度に加熱して、前記脱脂部で潤滑剤が燃焼されたワークWのA1変態域の予熱を行う、予熱工程と、その後ワークWをワークWのA1変態域の温度領域よりも高い温度領域となる焼結温度域の設定温度に加熱して、前記予熱部で予熱されたワークWを焼結させる、焼結工程と、その後ワークWを冷却する、冷却工程と、を備える。
【0034】
具体的には前記の如く、ワークWがボードBの上に複数個載置された状態で、前記脱脂部20、予熱部30、焼結部40、及び、冷却部50の順に搬送され、各部において脱脂工程、予熱工程、焼結工程、及び、冷却工程による処理がなされるのである。
【0035】
さらに、本発明に係る焼結部品の熱処理方法においては、前記予熱工程における、A1変態点以前の前記ワークWの上昇温度と、A1変態点以後の前記ワークWの上昇温度とを、それぞれ70度以上90度以下の範囲に設定している。
【0036】
具体的には、図3に示す如く、ワークWの鉄(Fe)成分がαFeからγFeへ変態する温度であるA1変態点α(約727度)を基準として、上下に設定温度幅dを70度以上90度以下で設定する。そして、前記A1変態点αよりも設定温度幅dだけ低い温度を脱脂部設定温度β、前記A1変態点αよりも設定温度幅dだけ高い温度を予熱部設定温度γとする。即ち、前記設定温度幅dを90度と設定した場合、前記脱脂部設定温度β、予熱部設定温度γはそれぞれ約637度、約817度となるのである。なお、前記設定温度幅dは70度以上90度以下に設定すれば本発明の効果を得ることが可能となり、その数値は限定されるものではない。
【0037】
そして、本発明に係る熱処理方法においては、前記脱脂部20による脱脂工程においてワークWの温度が脱脂部設定温度βに達すると、前記ローラ11・11・・・によるローラ駆動によって、ワークWをボードBの上に載置された状態で予熱部30に搬送し、予熱工程を開始するのである。さらに、前記予熱部30による予熱工程においてワークWの温度が予熱部設定温度γに達すると、前記ローラ11・11・・・によるローラ駆動によって、ワークWをボードBの上に載置された状態で焼結部40に搬送し、焼結工程を開始するのである。なお、各工程を行う際には、前記中間扉12で各部を密閉することにより、各部の温度が低下したり、雰囲気ガスが混入したりすることを防止するのである。
【0038】
上記の如く構成することにより、予熱工程におけるA1変態点近傍のワークWの温度上昇を穏やかにすることができる。即ち、ワークWをゆっくりとA1変態させることにより、急激な温度変化による変態応力を抑制し、焼結後のワークWの寸法収縮を低減させることが可能となるのである。
【0039】
つまり、外径Dの最大値と最小値との差である前記外径楕円量を小さくすることにより、焼結後のサイジングによる寸法矯正における矯正力を減少させることができるのである。さらに、焼結におけるワークWの寸法収縮を低減するために特別な治具を必要としないため、焼結部品の熱処理方法及び熱処理装置のエネルギー効率を高めることができ、汎用性を向上させることが可能となるのである。
【0040】
また、本発明に係る熱処理方法においては、図4に示す如く、前記予熱工程におけるA1変態点近傍の昇温速度が、毎分5度以上7度以下となるように、予熱ヒータ14・14・・・による加熱温度を設定している。
このように構成することにより、予熱工程におけるA1変態域のワークWの温度上昇をより穏やかにすることができ、焼結後のワークWの寸法収縮をより低減させることが可能となるのである。
【0041】
また、本発明に係る熱処理方法においては、前記予熱工程において、ワークWの温度がA1変態点を越えた後で、ワークWの上昇温度△tが10度以下となるワーク保持工程を、2分間から4分間備えている。
【0042】
具体的には図4に示す如く、ワークWの温度がA1変態点を越えた後、変態が開始してから変態が完了するまでの変態時間TmのうちワークWの発熱が収まったタイミングで、前記ローラ11・11・・・によるローラ駆動を停止させるのである。つまり、ワークWを所定の時間だけボードBの上に載置された状態にして保持し、このワーク保持時間Thを2分間から4分間の間で確保するのである。そして、このワーク保持時間ThのワークWの上昇温度△tが10度以下となるように、予熱ヒータ14・14・・・による予熱温度を設定するのである。
【0043】
本発明においては先述の如く、前記各部の間における前記ワークWの搬送をローラ駆動にて行う構成としていることにより、変態開始後において、ワーク保持時間Thの間ワークWを停止させることができるのである。即ち、最も変態しやすい場所にワークWを配置することが可能となり、また、雰囲気温度を安定させ、変態完了までに急激な温度変化が起きることを防ぐことができるのである。つまり、急激な温度変化による変態応力を抑制し、焼結後のワークWの寸法収縮をさらに低減させることが可能となるのである。
【0044】
さらに、上記の如くワーク保持時間Thの間で温度管理を行い、雰囲気温度を安定させることにより、ワークWの各部位における変態開始時間のずれによる影響を抑制することができる。詳しくは、VVTハウジングにおける薄肉部Waと厚肉部Wbのように、凹凸があり肉厚の異なる部品を焼結する場合は、薄肉部Waは厚肉部Wbよりも早く変態が開始する。このような場合であっても、前記ワーク保持時間Thを確保することにより、その間に各部位における変態が完了するため、薄肉部Waと厚肉部Wbの変態開始時間のズレによる変態応力の発生を防止することができるのである。
【0045】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態に係る焼結部品の熱処理装置及び熱処理方法について、図5及び図6を用いて説明をする。なお以下の実施形態において説明する焼結部品の熱処理装置において、既出の実施形態と共通する部分については、同符号を付してその説明を省略する。
【0046】
本実施形態に係る熱処理装置は図5に示す如く、前記実施形態に係る熱処理装置の構成に加え、前記予熱部30において、前記ワークWが配置される部分のうち、前記ローラ駆動を行うローラ11・11・・・の下方で前記ワークWの進行方向の反対方向側に、下側ヒータ16・16を備える。
【0047】
具体的には、予熱工程において前記予熱部30の内部では、ワークWは治具であるボードBの上に複数個載置された状態で配置される。本実施形態においては図5に示す如く、予熱部30にはワークWを3個ずつ載置したボードBがローラ11・11・・・上に2枚配置されている。そして、前記ワークWが配置されるボードBの下方のうち、前記ローラ11・11・・・の下方で前記ワークWの進行方向の反対方向側、即ち脱脂部20の側に、下側ヒータ16・16がほぼ水平方向に配設されているのである。
【0048】
本実施形態においては上記の如く構成することにより、ワークWのボードB上の載置位置による温度差を抑制するようにしている。
即ち、予熱部30の内部においては、進行方向側の予熱ヒータ14の方が、設定温度が高くなっており、換言すれば脱脂部20側よりも焼結部40側の方が、雰囲気温度が高くなっている。これによって、一つのボードB上に載置された複数のワークWにおいて、ボードB上における進行方向側に載置されたワークWの方が、進行方向と反対方向側に載置されたワークWに比べて加熱容量が大きくなり、温度が高くなるのである。このため、前記下側ヒータ16・16でボードBの進行方向と反対方向側に載置されたワークWを加熱することにより、ボードB上の載置位置に関わらず、ワークWの加熱容量が均一になるようにしているのである。
【0049】
ボードB上の載置位置によるワークWの温度の違いを図6に示す。図6中のラインL1はボードB上において進行方向側に載置されたワークWの温度曲線を、ラインL2は同じく進行方向と反対方向側に載置されたワークWの温度曲線を示す。
【0050】
図6に示す如く、ボードBに載置された複数のワークWのうち、進行方向側に載置されたワークWの温度を示すラインL1は、進行方向と反対方向側に載置されたワークWの温度を示すラインL2に比較して高い温度を示しており、その差は矢印d1(約7度以内)によって表されている。
しかし、進行方向側に載置されたワークWが予熱ヒータ14のみによって加熱されるのに対し、進行方向の反対方向側に載置されたワークWは予熱ヒータ14だけでなく下側ヒータ16によっても加熱される。これにより、時間T1(約2分以内)の間にラインL1とラインL2に示される温度差は矢印d2(約2度以内)にまで低減されるのである。
【0051】
即ち本実施形態においては、上記の如く構成することにより、前記下側ヒータ16・16により、予熱部30の内部温度差の影響を抑制することができるのであり、ボードB上における載置位置に関わらず、ワークWの加熱容量を均一にして、ワークWのA1変態域の予熱を行う構成としているのである。
【0052】
次に、本願出願人が行った実験結果より、従来と本実施形態との条件における、外径Dの最大値と最小値との差である外径楕円量の違いを図7に示す。
本実施形態においても前記実施形態と同様に、予熱工程におけるA1変態点近傍のワークWの温度上昇を穏やかにすることができ、焼結後のワークWの寸法収縮を低減させることができる。即ち図7に示す如く、本実施形態の条件による外径楕円量を、従来の条件による外径楕円量と比較して約1/2程度に低減させることができるのである。
【0053】
また、図7に示す如く、従来の条件では外径楕円量がサイジングによってカジリが発生する領域を越えていたのに対し、本実施形態によれば外径楕円量をカジリが発生する領域以下に抑えることができ、さらにサイジング後の規格領域に近づけることができる。即ち、焼結後のワークWにおいて、寸法に起因する不良の発生を大幅に低減させ、生産性を向上させることができるのである。
【0054】
また、上記の如く外径楕円量を小さくすることにより、焼結後のサイジングによる寸法矯正における矯正力を減少させることができる。あるいは、寸法矯正のためにサイジングを行う場合であっても、その荷重を小さくすることができるため、サイジングの成形範囲が広がるのである。つまり、焼結部品の熱処理方法及び熱処理装置の汎用性が向上し、設備がコンパクト化するため設備コストを低減することができるのである。
【0055】
さらに、本実施形態によれば、別途治具を用いる構成ではなく、温度設定や時間設定の条件を変更することによって、ワークWの変形を制御する構成としている。このため、全て数値管理が可能となり、安定して変形量の少ない焼結処理を行うことが可能となるのである。
【0056】
加えて、焼結におけるワークWの寸法収縮を低減するために特別な治具を必要とせず、即ち治具に熱が吸収されることがないため、エネルギー効率を高めることができ、焼結部品の熱処理方法及び熱処理装置の汎用性を向上させることが可能となるのである。
【0057】
[第三実施形態]
次に、第三実施形態に係る焼結部品の熱処理装置及び熱処理方法について、図8を用いて説明をする。
本実施形態のおける焼結部品の熱処理装置110は小型炉により構成されており、前記実施形態の熱処理方法における各工程を一つの小型炉の内部で行うものである。
具体的には、前記熱処理装置110は、扉111、及び断熱材112a・112b・112cに取り囲まれて形成されており、その内部上方にはヒータ113・113が配設されている。そして、ワークWに焼結処理を行うときは、治具114の上面にワークWを載置した状態で前記熱処理装置110に挿入して各工程を開始するのである。
【0058】
つまり、前記熱処理装置110の内部で前記ヒータ113・113の加熱温度を制御することにより、ワークWを脱脂温度域の設定温度に加熱して、ワークWに含まれる潤滑剤を燃焼させる、脱脂工程と、その後ワークWを予熱温度域の設定温度に加熱して、前記脱脂部で潤滑剤が燃焼されたワークWのA1変態域の予熱を行う、予熱工程と、その後ワークWを焼結温度域の設定温度に加熱して、前記予熱部で予熱されたワークWを焼結させる、焼結工程と、その後ワークWを冷却する、冷却工程と、を行うのである。その際、前記予熱工程における、A1変態点以前の前記ワークWの上昇温度と、A1変態点以後の前記ワークWの上昇温度とが、それぞれ70度以上90度以下の範囲となり、かつ、A1変態点近傍の昇温速度が、毎分5度以上7度以下となるように設定しているのである。その他、熱処理方法における具体的方法は、前記第一実施形態と略同様であるため省略する。
【0059】
上記の如く構成することにより、前記第一実施形態で記載した効果に加えて、設備スペースを大幅に低減することができる。即ち、各工程を行うための装置を工程ごとに形成する必要がなくなるため、設備装置を小さくすることができ、これにより小さい区画においても焼結処理を行うことが可能となるのである。
【符号の説明】
【0060】
10 熱処理装置
11 ローラ
12 中間扉
14 予熱ヒータ
16 下側ヒータ
20 脱脂部
30 予熱部
40 焼結部
50 冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを該ワークのA1変態域よりも低い温度にまで加熱して、前記ワークに含まれる潤滑剤を燃焼させる、脱脂工程と、
前記脱脂工程の後に、前記ワークを該ワークのA1変態域の温度にまで加熱して、前記ワークの予熱を行う、予熱工程と、
前記予熱工程の後に、前記ワークをさらに高い温度にまで加熱して焼結させる、焼結工程と、
前記焼結工程の後に、前記ワークを冷却する、冷却工程と、を備える、焼結部品の熱処理方法であって、
前記予熱工程における、A1変態点以前の前記ワークの上昇温度と、A1変態点以後の前記ワークの上昇温度とを、それぞれ70度以上90度以下の範囲に設定する、
ことを特徴とする、焼結部品の熱処理方法。
【請求項2】
前記予熱工程における、A1変態点近傍の前記ワークの昇温速度を、毎分5度以上7度以下とする、
ことを特徴とする、請求項1に記載の焼結部品の熱処理方法。
【請求項3】
前記予熱工程は、ワークの温度がA1変態点を越えた後に、所定の時間内における前記ワークの上昇温度が10度以下となるワーク保持工程を備え、前記所定の時間を2分間から4分間の時間に設定する、
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の焼結部品の熱処理方法。
【請求項4】
脱脂部と、予熱部と、焼結部と、冷却部とを備えた熱処理装置で行う、焼結部品の熱処理方法であって、
前記脱脂工程は、前記脱脂部で行い、前記予熱工程は、前記予熱部で行い、前記焼結工程は、前記焼結部で行い、前記予熱工程は、前記予熱部で行い、
前記脱脂部と、予熱部と、焼結部と、冷却部との間における前記ワークの搬送をローラ駆動にて行う、
ことを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の焼結部品の熱処理方法。
【請求項5】
ワークを該ワークのA1変態域よりも低い温度にまで加熱して、前記ワークに含まれる潤滑剤を燃焼させる、脱脂部と、
前記脱脂部で潤滑剤が燃焼されたワークを該ワークのA1変態域の温度にまで加熱して、前記ワークの予熱を行う、予熱部と、
前記予熱部で予熱されたワークをさらに高い温度にまで加熱して焼結させる、焼結部と、
前記焼結部で焼結されたワークを冷却する、冷却部と、を備える、焼結部品の熱処理装置であって、
前記予熱部における、A1変態点以前の前記ワークの上昇温度と、A1変態点以後の前記ワークの上昇温度とが、それぞれ70度以上90度以下の範囲に設定される、
ことを特徴とする、焼結部品の熱処理装置。
【請求項6】
前記予熱部におけるA1変態点近傍の前記ワークの昇温速度は、毎分5度以上7度以下とされる、
ことを特徴とする、請求項5に記載の焼結部品の熱処理装置。
【請求項7】
前記予熱部においては、ワークの温度がA1変態点を越えた後に、前記ワークが2分間から4分間の間保持され、その間におけるワークの上昇温度が10度以下とされる、
ことを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の焼結部品の熱処理装置。
【請求項8】
前記ワークは、前記脱脂部と、予熱部と、焼結部と、冷却部との間をローラ駆動にて搬送される、
ことを特徴とする、請求項5から請求項7の何れか1項に記載の焼結部品の熱処理装置。
【請求項9】
前記予熱部には、前記ワークが配置される部分のうち、前記ローラ駆動を行うローラの下方で前記ワークの進行方向の反対方向側に、下側ヒータを備える、
ことを特徴とする、請求項8に記載の焼結部品の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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